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JP3559572B2 - 急性痛および慢性痛用鎮痛剤 - Google Patents

急性痛および慢性痛用鎮痛剤 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、スレオ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル) セリン(以下、スレオ−DOPSと略称する)を主成分とする急性痛および慢性痛(持続痛)に対して有効な鎮痛剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
鎮痛剤は、麻薬性鎮痛剤と非麻薬性鎮痛剤に大別されるが、後者の方が安全性および使いやすさの点で優れているため臨床上幅広く用いられている。
痛みは、臨床上、急性痛と慢性痛(持続痛)に分類される。急性痛は、創傷・炎症などの特定の原因により発生するもので、従来の鎮痛剤はいずれも急性痛を対象として開発され臨床に応用されたものである。一方、慢性痛は、急性痛の原因になった創傷などが治った後も、6ケ月以上何年間も痛みが持続するもので、従来の鎮痛剤は必ずしも有効ではなく、病態に応じて各種の薬剤(抗不安薬、抗けいれん薬など)が使用されているが、決め手になる薬剤はないというのが実情である(高木博司、急性痛および慢性痛の薬理、日本医師会雑誌104号、第1号、第 37−41頁、1990)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、従来の薬剤とは作用機序が異なり、かつ急性痛のみならず慢性痛にも有効な鎮痛剤を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、スレオ−DOPSを主成分とする薬剤が、急性痛および慢性痛(持続痛)に有効な鎮痛作用を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、スレオ−DOPSを有効成分として含有する鎮痛剤に関する。
また、本発明においては、脱炭酸酵素阻害剤を用いることも可能で、脱炭酸酵素阻害剤としては、ベンセラチド(Benserazide)またはカルビドーパ(Carbidopa)が好適例として挙げられる。
本発明で使用されるスレオ−DOPSは公知の化合物であり、例えば特公平1−49139号公報記載の方法により製造することができる。なお、L−スレオ−DOPSは、パーキンソン病におけるすくみ足に対する改善剤などとして、1989年以来臨床使用に供されている。
【0005】
本発明においてはL−スレオ−DOPSは薬学的に許容しうる酸付加塩の型でも用いることができる。すなわち塩酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸、フマール酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸等の有機酸が付加塩形成用酸としてあげられる。
本発明の活性化合物であるスレオ−DOPSおよびその薬学的に許容される酸付加塩は、個々の必要性に適応した投与量で経口的または非経口投与量を普通の投与形態、例えば錠剤、カプセル錠、シロップ剤、懸濁液等の型で経口的に投与することができ、あるいはまたその溶液、乳剤、懸濁液等の液剤の型にしたものを注射の型で非経口的に投与することもできる。
また、前記の適当な投与剤形は許容される通常の担体、賦形剤、結合剤、安定化剤などに活性化合物を配合することにより製造することもできる。また注射剤形で用いる場合には許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。
【0006】
本化合物の投与量、投与回数は、投与形態あるいは治療を要する疾病の病状の程度によって異なるが、例えば経口投与の場合は成人1日当り0.1〜3gを1回または数回に分けてすることができる。好ましい態様としては、成人1日量として100mgの経口投与よりはじめ、必要に応じ増量し、最適投与量を定め持続量とする。標準維持量としては1日量600mg、1日3回投与が好ましい。
本品の毒性は極めて弱く、マウスにおけるLD50値は経口投与で10g/kg以上、腹腔内投与で約10g/kgであり、本特許明細書に示した有効量においては問題とすべき害作用はないものと考えられる。
【0007】
【発明の効果】
本発明の鎮痛剤が奏功する痛み疾患としては、手術後の痛み、頭痛、偏頭痛、リュウマチの痛み、ヘルペス後神経痛、癌性の痛み、頚肩腕症候群、肩関節周囲炎、脊椎捻挫、変形性脊椎症などの痛みを挙げることができる。
すなわち、スレオ−DOPSを主成分とする本発明鎮痛剤には、後記試験例から以下に示す効果が確認された。
(1)急性痛に対する薬効
マウスの尾部に一定の熱刺激を与え、尾の回避反応がでるまでの時間を測定し、薬剤投与による該時間の延長度をもって鎮痛効果を判定した(テールフリック法(tail flick法))。本法により、スレオ−DOPSをマウスの皮下に注射すると、用量依存した鎮痛効果が認められた。
(2)慢性痛に対する薬効
マウスを用い、持続痛の動物モデルとされているカオリン誘発ライジング法およびホルマリン法で調べたところ、スレオ−DOPSの皮下投与および経口投与でいずれも用量依存性に鎮痛効果が認められた。
【0008】
(3)スレオ−DOPSの鎮痛効果の作用機序
スレオ−DOPSの鎮痛効果はモルヒネ拮抗薬ナロキソンでは拮抗されなかったので、非麻薬性の鎮痛作用である。また、スレオ−DOPSの鎮痛効果はアドレナリン遮断薬であるフェントラミンの脳内投与で抑さえられたので、脳のアドレナリン作動神経を介することが示された。スレオ−DOPSのこのような薬理学的性質は他の鎮痛剤のそれとはまったく異なるものである。
このような作用は、本発明の薬剤が従来の薬剤とは作用機序が異なり、かつ急性痛のみならず慢性痛にも有効な鎮痛剤であることを示唆するものである。
【0009】
【実施例】
以下、試験例によりこの発明の効果を明らかにする。
試験例1 L−スレオ−DOPSの抗侵害作用
a)テール フリック法(Tail flick法)
(方法)
Tail flick analgesia meter(MK−330,室町機械)を使用して行った。ビームの強さは2−2.5 秒のコントロールレイテンシー(latency)が得られるように調節し、カットオフ時間(cut−off time)は8秒に設定した。実験データは、レイテンシー(秒)で示した。
L−スレオ−DOPSは、0.2%ツイ ーン80(Tween 80)溶液に懸濁し、100−400mg/kgの用量で皮下投与した。その後、経時的にテールフリックレイテンシー(tail flick latency)を測定し抗侵害作用の有無を検討した。
(結果)
L−スレオ−DOPS 400mg/kg投与40分後よりレイテンシーの有意な延長が認められ、1時間後に最大となった。その後、レイテンシーは徐々に回復し、2時間後には有意な効果は認められなくなった(図1左)。L−スレオ−DOPS投与60分後のL−スレオ−DOPSの抗侵害作用は、100−400mg/kgの範囲で用量依存的であった(図1右)。
【0010】
b)カオリン誘発ライジング法(Kaolin誘発writhing法)
(方法)
本試験法は内因性ブラジキニン(bradykinin)を介する侵害試験法として藤吉ら(Fujiyoshi,T. et al.,Agents and Actions,27,332(1989))により考案されたものであるが、若干の改良を加えて行った。すなわち、0.2%ツイ ーン 80 溶液中に懸濁したカオリン(kaolin)(125mg/kg)を0.25ml/10gでマウス腹腔内に投与し、その直後より20分間に観察されるライジング(writhing)反応の総数を計測した。
L−スレオ−DOPS 100−400mg/kgをカオリン投与0.5、1および2時間前に皮下投与した。
(結果)
L−スレオ−DOPS 200mg/kg投与1時間後、カオリン誘発ライジング数は半減し、有意な抗侵害作用が認められた。L−スレオ−DOPS投与30分および2時間後にも減少傾向が認められたが、有意ではなかった(図2左)。L−スレオ−DOPS投与60分後の効果は、100−400mg/kgの範囲で用量依存的であった(図2右)。
【0011】
c)ホルマリン(Formalin)誘発侵害試験法
(方法)
ホルマリン(0.5%、25μl )をマウス後肢右足底内に投与し、直後より観察される処置足へのなめる行動(licking )および噛む行動(biting)に要する時間を5分毎に30分間測定した。結果は、第I相(ホルマリン投与後0−5分)と第II相(ホルマリン投与後10−30分)に分けて示した。
L−スレオ−DOPSについては 100−200mg/kgをホルマリン処置50分前に皮下投与した。
(結果)
L−スレオ−DOPS 100−200mg/kgの皮下投与は、第I相の侵害反応時間には影響しなかったが(図3左)、第II相の反応を用量依存的に抑制した(図3右)。なお、図には示していないが、L−スレオ−DOPSの用量を400mg/kgに増量してもそれ以上の効果は認められなかった。
尚、上記各々の試験で得られた結果は、すべて平均値±標準誤差で示し、群間の統計学的有意差はスチューデント(Student)のt−テスト(t−test)あるいはニューマン−キュールステスト(Newman−Keuls test)により判定し、P<0.05の時有意とした。
【0012】
試験例2 L−スレオ−DOPSの抗侵害作用のナロキソン(naloxone、モルヒネ拮抗薬)拮抗性
(方法)
上記試験例1のテールフリック法およびカオリン誘発ライジング法と同様の方法で試験を行った。但し、テールフリック法では、L−スレオ−DOPS 400mg/kg投与40分後にナロキソン 1mg/kgを皮下投与し、L−スレオ−DOPS投与60分後のレイテンシーを測定した。実験データは、レイテンシーの変化の程度(Δlatency)で示した。また、カオリン誘発ライジング法ではL−スレオ−DOPS 400mg/kg投与55分後にナロキソン 0.01mg/kgを皮下投与し、その5分後にカオリンを投与した。
尚、本試験で得られた結果は、すべて平均値±標準誤差で示し、群間の統計学的有意差はスチューデントのt−テストあるいはニューマン−キュールステストにより判定し、P<0.05の時有意とした。
(結果)
テールフリック法およびカオリン誘発ライジング法でのL−スレオ−DOPSの抗侵害作用は、モルヒネ拮抗薬ナロキソン(Nlx)ではほとんど影響を受けなかった(図4)。従って、L−スレオ−DOPSの作用は非麻薬性の鎮痛作用であることがわかる。
【0013】
試験例3 L−スレオ−DOPSの抗侵害作用におよぼすフェントラミン(phentolamine、α−アドレナリン受容体遮断薬)の効果
(方法)
L−スレオ−DOPS 400mg/kg投与40分後にフェントラミンを0.1−1μg/マウスの用量で側脳室内(i.c.v.)または脊髄クモ膜下腔内(i.th.)に投与し、テールフリック法でのL−スレオ−DOPS誘発抗侵害作用に対するフェントラミンの効果を調べた。
本試験で得られた結果は、すべて平均値±標準誤差で示し、群間の統計学的有意差はスチューデントのt−テストあるいはニューマン−キュールステストにより判定し、P<0.05の時有意とした。
(結果)
α−アドレナリン受容体遮断薬であるフェントラミン(PHT) 1μg/マウスの側脳室内投与はそれ自身ではレイテンシーに影響しなかったが、L−スレオ−DOPS 400mg/kgの皮下投与によるレイテンシーの延長をほぼ完全に阻止した(図5左)。また、フェントラミンのこの効果は用量を0.1μg/マウスに減量しても認められた。一方、フェントラミン 1μg/マウスの脊髄クモ膜下腔内投与によってもL−スレオ−DOPS(400mg/kg皮下投与)の抗侵害作用は部分的ではあるが有意に抑制された(図5右)。
試験例1〜3の結果より、L−スレオ−DOPSは全身投与により、非オピオイド性の抗侵害作用を発現することが明らかとなった。また、この効果の発現には脳内および脊髄内のノルアドレナリン神経系が関与する可能性が示唆された。
【0014】
試験例4 L−スレオ−DOPSの抗侵害作用におよぼすベンセラチド(Benserazide、末梢神経脱炭酸酵素阻害薬)の効果
(方法)
L−スレオ−DOPS 400mg/kg皮下投与の60分前にベンセラチドを1mg/kg皮下投与し、またはL−スレオ−DOPS 400mg/kg皮下投与の30分前にベンセラチドを25μg/マウス側脳室内に投与し、テールフリック法によってL−スレオ−DOPS投与60分後のL−スレオ−DOPS誘発抗侵害作用に対するベンセラチドの効果を調べた。
本試験で得られた結果は、すべて平均値±標準誤差で示し、群間の統計学的有意差はスチューデントのt−テストあるいはニューマン−キュールステスト により判定し、P<0.05の時有意とした。
(結果)
末梢神経脱炭酸酵素阻害薬であるベンセラチド(BSZ) の皮下投与ではL−スレオ−DOPSの抗侵害作用に対し有意な影響を与えなかったが(図6左)、ベンセラチドを側脳室内に投与した場合にはL−スレオ−DOPSの抗侵害効果を強く抑制した(図6右)。
以上の結果より、L−スレオ−DOPSは全身投与により中枢神経系(脳および脊髄)に入り、そこで脱炭酸酵素の働きにより脱炭酸化され、ノルアドレナリンに転換されて抗侵害作用を示すものと推論される。
【0015】
試験例5 L−スレオ−DOPSの経口投与時の抗侵害作用
(試験方法)
L−スレオ−DOPS 200,400,800mg/kgをマウスに経口投与し、テールフリック法で抗侵害作用を調べた。
得られた結果は、すべて平均値±標準誤差で示し、群間の統計学的有意差はスチューデントのt−テストあるいはニューマン−キュールステスト により判定し、P<0.05の時有意とした。
(試験結果)
L−スレオ−DOPSは200−800mg/kgの経口投与で用量依存性の抗侵害作用を示した(図7)。いずれも投与後40分後より有意な効果が認められ、60分後最大に達し、以後徐々に減弱した。この結果はL−スレオ−DOPSが経口投与でも有効なことを証明したものである。
【0016】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1の左図は、テールフリック法におけるL−スレオ−DOPS 400mg/kg皮下投与後のレイテンシーの時間経過を示し、○は溶媒投与群(n=8)、●はL−スレオ−DOPS投与群(n=5)を示す。図1の右図は、L−スレオ−DOPS投与1時間後におけるL−スレオ−DOPSの投与量とレイテンシー(秒)との関係を示し、Vは溶媒投与群を示す。P<0.05、**P<0.01(溶媒投与群と比較して)。
【図2】図2の左図は、カオリン誘発ライジング法におけるL−スレオ−DOPS200mg/kg皮下投与後のライジング反応の総数の時間経過を示し、○は溶媒投与群、●はL−スレオ−DOPS投与群を示す。図2の右図は、L−スレオ−DOPS投与1時間後におけるL−スレオ−DOPSの投与量とライジング反応の総数との関係を示し、Vは溶媒投与群を示す(n=4)。**P<0.01、 ***P<0.001(溶媒投与群と比較して)。
【0017】
【図3】図3の左図は、ホルマリン誘発侵害試験法における第I相(ホルマリン投与後0−5分)のなめる行動(licking)および噛む行動(biting)に要する時間(秒)とL−スレオ−DOPSの投与量との関係を示し、図3の右図は、ホルマリン誘発侵害試験法における第II相(ホルマリン投与後10−30分)のなめる行動(licking)および噛む行動(biting)に要する時間(秒)とL−スレオ−DOPSの投与量との関係を示す(n=9−11)。Vは溶媒投与群を示す。P<0.05(溶媒投与群と比較して)。
【図4】図4は、L−スレオ−DOPSの抗侵害作用に対するナロキソン(Nlx )の影響を示したものである。図4の左図は、テールフリック法でのL−スレオ−DOPS投与60分後のレイテンシーの変化の程度(△Latency (秒))を示す(n=11)。図4の右図は、カオリン誘発ライジング法でのL−スレオ−DOPS投与60分後のライジング反応の総数を示す(n=4または5)。Vは溶媒投与群を示し、N.S.は対照群と比較して有意差がないことを示す。
【0018】
【図5】図5は、テールフリック法でのL−スレオ−DOPSの抗侵害作用に対するフェントラミン(PHT )投与による影響を示したものであり、L−スレオ−DOPS投与60分後のレイテンシーの変化の程度(△Latency (秒))を示す。図5の左図はフェントラミン側脳室内投与による影響を示し、図5の右図は、フェントラミン脊髄クモ膜下腔内投与による影響を示す。Vは溶媒投与群を示し、N.S.は対照群と比較して有意差がないことを示す。
【図6】図6は、テールフリック法でのL−スレオ−DOPSの抗侵害作用に対するベンセラチド(BSZ )投与による影響を示したものであり、L−スレオ−DOPS投与60分後のレイテンシーの変化の程度(△Latency (秒))を示す。図6の左図は、ベンセラチド皮下投与による影響を示し、図6の右図は、ベンセラチド側脳室内投与による影響を示す。Vは溶媒投与群を示し、N.S.は対照群と比較して有意差がないことを示す。
【図7】図7は、テールフリック法でのL−スレオ−DOPSの経口投与時の投与量とL−スレオ−DOPS投与60分後のレイテンシーの変化の程度(△Latency (秒))との関係を示す(n=6)。P<0.05、**P<0.01(溶媒投与群と比較して)。

Claims (4)

  1. スレオ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル) セリンを有効成分として含有する鎮痛剤。
  2. 慢性痛(持続痛)に対して有効な請求項1記載の鎮痛剤。
  3. スレオ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル) セリンがL体である請求項1または2記載の鎮痛剤。
  4. 脱炭酸酵素阻害剤としてベンセラチド(Benserazide)および/またはカルビドーパ(Carbidopa)を配合した請求項1、2または3記載の鎮痛剤。
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