JP3557177B2 - ヘッドホン用立体音響装置および音声信号処理プログラム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ヘッドホンを用いて自然で広がり感のある音場再生を行なうためのヘッドホン用立体音響装置および音声信号処理プログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
通常のヘッドホンを用いて音楽再生を行なった場合、聴取者の頭部の中に音像が定位(頭内定位)するため、広がり感のある音場再生を行なえないという問題がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、広がり感のある音場再生が行なえるようになるヘッドホン用立体音響装置および音声信号処理プログラムを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
この発明による第1のヘッドホン用立体音響装置は、ステレオ信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置において、ステレオ入力信号を構成する2つの信号の相関性を減少させる無相関化処理部、反射音を付加するための反射音付加処理部、および音像定位位置を制御する音像定位処理部を備えていることを特徴とする。
【0005】
この発明による第1の音声信号処理プログラムは、ステレオ信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置に用いられる音声信号処理プログラムであって、ステレオ入力信号を構成する2つの信号の相関性を減少させる無相関化処理、反射音を付加するための反射音付加処理、および音像定位位置を制御する音像定位処理、をコンピュータに実行させるためのものであることを特徴とする。
【0006】
この発明による第2のヘッドホン用立体音響装置は、2チャンネル以上のフロント信号および2チャンネル以上のサラウンド信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置において、フロント入力信号およびサラウンド信号のそれぞれに対して、信号の相関性を減少させる無相関化処理部、反射音を付加するための反射音付加処理部、および音像定位位置を制御する音像定位処理部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
この発明による第2の音声信号処理プログラムは、2チャンネル以上のフロント信号および2チャンネル以上のサラウンド信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置に用いられる音声信号処理プログラムであって、コンピュータによって、フロント入力信号に対して、信号の相関性を減少させる無相関化処理、反射音を付加するための反射音付加処理および音像定位位置を制御する音像定位処理を実行させるためのプログラムと、コンピュータによって、サラウンド入力信号に対して、信号の相関性を減少させる無相関化処理、反射音を付加するための反射音付加処理および音像定位位置を制御する音像定位処理を実行させるためのプログラムとを備えていることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。
【0009】
〔1〕第1の実施の形態の説明
【0010】
図1は、モノラル信号またはステレオ信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置の構成を示している。
【0011】
モノラル信号Monoと、ステレオ信号(レフト入力信号Lin ,ライト入力信号Rin )を切り替えるための2つの切替スイッチ1、2、各切替スイッチ1、2から入力される信号に対して無相関化処理を行なう無相関化処理部3、無相関化処理部3の後段に設けられた反射音付加処理部4および反射音付加処理部4の後段に設けられた音像定位処理部5を備えている。
【0012】
ステレオ信号入力時またはモノラル信号入力時のいずれにおいても、ヘッドホン用立体音響装置からは、レフト出力信号Loutとライト出力信号Routとが出力される。
【0013】
以下、無相関化処理部3、反射音付加処理部4および音像定位処理部5それぞれについて説明する。
【0014】
〔2〕無相関化処理部3の説明
【0015】
無相関化処理部3は、2つの入力信号の相関性を減少させるものであり、従来においてはモノラル信号である1つの信号から2つの擬似ステレオ信号を生成する場合に用いられている。
【0016】
図1の無相関化処理部3は、帯域分割方式を採用したものであり、切替スイッチ1の後段に設けられたレフト信号用無相関化処理部3aと、切替スイッチ2の後段に設けられたライト信号用無相関化処理部3bとからなる。
【0017】
レフト信号用無相関化処理部3aでは、入力信号が遅延器DLa1 によって遅延されるとともに、遅延器DLa2 によって遅延される。遅延器DLa1 の遅延時間と遅延器DLa2 の遅延時間とは異なっている。
【0018】
入力信号および各遅延器DLa1 、DLa2 の出力信号それぞれに対して、乗算器MLa1 、MLa2 、MLa3 が設けられており、入力信号および各遅延器DLa1 、DLa2 の出力信号は、対応する乗算器MLa1 、MLa2 、MLa3 に入力されて係数が乗算される。これらの乗算器MLa1 、MLa2 、MLa3 の出力信号は、加算器ALaによって互いに加算され、レフト信号L1として出力される。
【0019】
ライト信号用無相関化処理部3bの構成も、レフト信号用無相関化処理部3aと同様であり、遅延器DRa1 、DRa2 、乗算器MRa1 、MRa2 、MRa3 および加算器ARaからなる。そして加算器ARaの加算結果がライト信号R1として出力される。
【0020】
レフト信号用無相関化処理部3aは第1のFIRデジタルフィルタで構成され、ライト信号用無相関化処理部3bは第2のFIRデジタルフィルタで構成されている。第1のFIRデジタルフィルタのフィルタ特性を図2(a)に、第2のFIRデジタルフィルタのフィルタ特性を図2(b)に示す。
【0021】
各FIRデジタルフィルタのフィルタ特性は、図2に示すように、周波数帯域が複数の帯域に分割され、通過帯域と阻止帯域とが交互に表れるような特性となっている。そして、第1のFIRデジタルフィルタと第2のFIRデジタルフィルタとの間では、入力信号がモノラル信号のように同じ信号であっても、それらのフィルタ出力L1、R1とが互いに無相関となるように、通過帯域と阻止帯域とが互いに逆となるような特性となっている。
【0022】
〔3〕反射音付加処理部4の説明
【0023】
人は、視聴する場所の天井や壁で発生する反射音や残響音により、音の広がり感を感じる。したがって、部屋の反射音や残響音が発生しないヘッドホンでは、広がり感がない。反射音付加処理部4は、ヘッドホンで音楽を視聴する場合でも、部屋の反射音や残響音を発生させて、音の広がり感を聴取者に与えるものである。
【0024】
反射音付加処理部4は、レフト信号用無相関化処理部3aの出力信号L1とライト信号用無相関化処理部3bの出力信号R1との差分を算出する加算器4aと、レフト信号用反射音付加部4bと、ライト信号用反射音付加部4cとからなる。
【0025】
レフト信号用反射音付加部4bでは、加算器4aの出力信号が、直列に接続された複数の遅延器DLb1 〜DLbn のそれぞれによって、所定時間ずつ遅延されていく。各遅延器DLb1 〜DLbn の出力信号それぞれに対して乗算器MLb1 〜MLbn が設けられており、各遅延器DLb1 〜DLbn の出力信号は対応する乗算器MLb1 〜MLbn に入力され係数が乗算される。これにより、複数種類の反射音が生成される。
【0026】
各乗算器MLb1 〜MLbn の出力信号は、加算器ALb1 〜ALbn によって、入力信号L1に加算され、レフト信号L2として出力される。これにより、複数種類の反射音が入力信号L1に付加される。
【0027】
ライト信号用反射音付加部4cの構成も、レフト信号用反射音付加部4bと同様であり、複数の遅延器DRb1 〜DRbn 、複数の乗算器MRb1 〜MRbn および複数のARb1 〜ARbn からなる。そして加算器ARbn の加算結果がライト信号R2として出力される。
【0028】
〔4〕音像定位処理部5の説明
【0029】
音像定位処理部5は、音像が定位する位置を制御するものである。図1の音像定位処理部5を説明する前に、従来の基本的な音像定位処理回路について説明する。
【0030】
図3は、従来の基本的な音像定位処理回路を示している。
【0031】
入力端子P1に入力されたレフト信号は、第1の音像定位フィルタ301および第2の音像定位フィルタ302に送られ、各フィルタ301、302のフィルタ係数に応じたフィルタ処理が行なわれる。
【0032】
入力端子P2に入力されたライト信号は、第3の音像定位フィルタ303および第4の音像定位フィルタ304に送られ、各フィルタ303、304のフィルタ係数に応じたフィルタ処理が行なわれる。第1の音像定位フィルタ301の特性と第4の音像定位フィルタ304の特性とは同じであり、第2の音像定位フィルタ302の特性と第3の音像定位フィルタ303の特性とは同じである。
【0033】
第1の音像定位フィルタ301の出力と第3の音像定位フィルタ303の出力とは、加算器311で加算された後、Loutとして出力される。第2の音像定位フィルタ302の出力と第4の音像定位フィルタ304の出力とは、加算器312で加算された後、Routとして出力される。
【0034】
各音像定位フィルタは以下に示す頭部伝達関数により求められる。各音像定位フィルタとしては、通常、数百タップのFIR( Finite Impulse Response)ディジタルフィルタが用いられる。
【0035】
頭部伝達関数を用いた音像定位フィルタの算出方法について説明する。図4に示すように、聴取者300の前方の左右に配置した実スピーカL、Rのそれぞれから、聴取者300の左右の各耳までの伝達経路別の伝達関数を、それぞれHLL、HLR、HRL、HRRとする。また、音を定位させたい仮想音源位置Pから聴取者300の左右の各耳までの伝達関数を、WL 、WR とする。これらの伝達関数はすべて周波数軸上での記述である。
【0036】
実スピーカL、Rから音声が出力されているにも係わらず、あたかも仮想音源位置から音声が出力されているように聴取者に聞こえるようにするためには、入力信号をX、実スピーカL、Rからの出力信号をLout、Routとすると、次の数式1が成立する必要がある。
【0037】
【数1】
【0038】
したがって、実スピーカL、Rから出力される信号Lout、Routは、次の数式2のように求められる。
【0039】
【数2】
【0040】
さらに、聴取者から見て左右対称に実スピーカL、Rが設置されていると仮定すると、左右対称の伝達関数が同一となるため、次の数式3、4が成立する。これらの同一の伝達関数をHTHR 、HCRS とおく。
【0041】
【数3】
【0042】
【数4】
【0043】
したがって、上記数式2は、次の数式5のように書き換えることができる。
【0044】
【数5】
【0045】
数式5におけるH1 、H2 を時間軸に変換したフィルタとして、数百タップのFIRディジタルフィルタを使用する。
【0046】
図3における第1の音像定位フィルタ301および第4の音像定位フィルタ304の周波数特性が数式5の中のH1 にあたり、第2の音像定位フィルタ302および第3の音像定位フィルタ303の周波数特性が数式5の中のH2 にあたる。
【0047】
図1の音像定位処理部5について説明する。図1の音像定位処理部5は、2つの遅延器DLc、DRc、2つの乗算器MLc、MRcおよび2つの加算器ALc、ARcとを備えている。
【0048】
レフト信号用反射音付加部4bから入力されたレフト信号L2は、加算器ALc に送られるとともに、遅延器DLcと乗算器MLcとからなる第1処理回路に送られる。
【0049】
ライト信号用反射音付加部4cから入力されたライト信号R2は、加算器ARc に送られるとともに、遅延器DRcと乗算器MRcとからなる第2処理回路に送られる。
【0050】
加算器ALcでは、レフト信号L2と第2処理回路の出力信号とが加算され、レフト出力信号Loutとして出力される。加算器ARcでは、ライト信号R2と第1処理回路の出力信号とが加算され、ライト出力信号Routとして出力される。
【0051】
図1の音像定位処理部5は、図3の従来の基本的な音像定位処理回路の第1の音像定位フィルタ301および第4の音像定位フィルタ304をフィルタ処理の一種であるスルー処理に置き換えるとともに、従来の基本的な音像定位処理回路の第2の音像定位フィルタ302および第3の音像定位フィルタ303を、それぞれ遅延器と乗算器とからなる処理回路に置き換えたものである。
【0052】
遅延器DLcと乗算器MLcとからなる第1処理回路のフィルタ特性および遅延器DRcと乗算器MRcとからなる第2処理回路のフィルタ特性を調整することにより、音像を頭外に定位させる。つまり、頭内に音像が定位しないようにする。
【0053】
〔2〕第2の実施の形態の説明
【0054】
図5は、3チャンネル以上のフロント信号および2チャンネルのサラウンド信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置の構成を示している。
【0055】
センター入力信号Centerは、乗算器MCによって係数が乗算される。フロントレフト入力信号Lin には、加算器AL1によって乗算器MCの出力信号が加算される。フロントライト入力信号Rin には、加算器AR1によって乗算器MCの出力信号が加算される。
【0056】
加算器AL1によって得られたフロントレフト信号および加算器AR1によって得られたフロントライト信号に対して、図1と同様な無相関化処理部103、反射音付加処理部104および音像定位処理部105が設けられている。
【0057】
また、サラウンドレフト入力信号Surround Linおよびサラウンドライト入力信号Surround Rinに対しても、図1と同様な無相関化処理部203、反射音付加処理部204および音像定位処理部205が設けられている。
【0058】
加算器AL2によって、音像定位処理部105から得られるフロントレフト信号に、音像定位処理部205から得られるサラウンドレフト信号が加算され、レフト出力信号Loutとして出力される。
【0059】
加算器AR2によって、音像定位処理部105から得られるフロントライト信号に、音像定位処理部205から得られるサラウンドライト信号が加算され、ライト出力信号Routとして出力される。
【0060】
【発明の効果】
この発明によれば、広がり感のある音場再生が行なえるようになるヘッドホン用立体音響装置および音声信号処理プログラムを提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】モノラル信号またはステレオ信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置の構成を示すブロック図である。
【図2】レフト信号用無相関化処理部3aを構成する第1のFIRデジタルフィルタのフィルタ特性と、ライト信号用無相関化処理部3bを構成する第2のFIRデジタルフィルタのフィルタ特性を示す模式図である。
【図3】従来の基本的な音像定位処理回路を示すブロック図である。
【図4】頭部伝達関数を用いた音像定位フィルタの算出方法を説明するための模式図である。
【図5】3チャンネル以上のフロント信号および2チャンネルのサラウンド信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置の構成を示している。
【符号の説明】
3、103、203 無相関化処理部
4、104、204 反射音付加処理部
5、105、205 音像定位処理部
Claims (4)
- ステレオ信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置において、
ステレオ入力信号を構成する2つの信号の相関性を減少させる無相関化処理部、
反射音を付加するための反射音付加処理部、および
音像定位位置を制御する音像定位処理部を備えているヘッドホン用立体音響装置。 - ステレオ信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置に用いられる音声信号処理プログラムであって、
ステレオ入力信号を構成する2つの信号の相関性を減少させる無相関化処理、
反射音を付加するための反射音付加処理、および
音像定位位置を制御する音像定位処理、
をコンピュータに実行させるための音声信号処理プログラム。 - 2チャンネル以上のフロント信号および2チャンネル以上のサラウンド信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置において、
フロント入力信号およびサラウンド信号のそれぞれに対して、信号の相関性を減少させる無相関化処理部、反射音を付加するための反射音付加処理部、および音像定位位置を制御する音像定位処理部が設けられていることを特徴とするヘッドホン用立体音響装置。 - 2チャンネル以上のフロント信号および2チャンネル以上のサラウンド信号が入力されるヘッドホン用立体音響装置に用いられる音声信号処理プログラムであって、
コンピュータによって、フロント入力信号に対して、信号の相関性を減少させる無相関化処理、反射音を付加するための反射音付加処理および音像定位位置を制御する音像定位処理を実行させるためのプログラムと、
コンピュータによって、サラウンド入力信号に対して、信号の相関性を減少させる無相関化処理、反射音を付加するための反射音付加処理および音像定位位置を制御する音像定位処理を実行させるためのプログラムと、
を備えている音声信号処理プログラム。
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