JP3555592B2 - 冷凍サイクル装置およびそれに用いる弁装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、暖房時には圧縮機吐出ガス冷媒(ホットガス)を凝縮器側をバイパスして蒸発器に直接導入することにより、蒸発器をガス冷媒の放熱器として使用するホットガスヒータ機能を持った冷凍サイクル装置およびそれに用いる弁装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両用空調装置では冬期暖房時に温水(エンジン冷却水)を暖房用熱交換器に循環させ、この暖房用熱交換器にて温水を熱源として空調空気を加熱するようにしている。この場合、温水温度が低いときには車室内への吹出空気温度が低下して必要な暖房能力が得られない場合がある。
【0003】
そこで、特開平5−223357号公報においては、ホットガスバイパスにより暖房機能を発揮できる冷凍サイクル装置が提案されている。この従来装置では、図12に示すように圧縮機10の吐出側を凝縮器19等をバイパスして蒸発器28の入口側に直接接続するホットガスバイパス通路18を設けるとともに、このホットガスバイパス通路18に暖房用減圧装置17を設け、さらに、凝縮器19への冷媒通路およびホットガスバイパス通路18を開閉する冷房用電磁弁15と暖房用電磁弁15Aを設けている。
【0004】
車室内25の空調ユニット26内には、蒸発器28の下流側に温水式の暖房用ヒータコア29が配置されており、そして、冬期暖房時において、暖房用ヒータコア29に循環する温水温度が所定温度より低いとき(エンジン12の始動暖機時等)には、冷房用電磁弁15を閉じて暖房用電磁弁15Aを開くことにより、圧縮機10の高温吐出ガス冷媒(ホットガス)をホットガスバイパス通路18に流入させる。
【0005】
そして、このホットガスを暖房用減圧装置17にて減圧した後に蒸発器28に直接導入することにより、蒸発器28でガス冷媒から空調空気に放熱することにより、暖房機能を発揮できるようにしている。
【0006】
また、凝縮器19下流側にレシーバ(受液器)51を配置している。このレシーバ51は、冷房時に、凝縮器19を通過した冷媒(ガス冷媒を一部含む飽和冷媒)の気液を分離して、余剰の液冷媒を貯留するものである。また、ホットガスによる暖房時に圧縮機10の高温吐出ガス冷媒(ホットガス)をホットガスバイパス通路18を通して蒸発器28に直接導入するので、蒸発器28の出口と圧縮機10の吸入側との間に冷媒の気液を分離するアキュムレータ(低圧側気液分離器)31を設け、このアキュムレータ31で分離したガス冷媒を圧縮機10に吸入させている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術によると、冷房モードと暖房モードの冷媒流路を切り替えるために、2つの電磁弁15、15Aを用いており、更に、暖房モード時にホットガスバイパス通路18の冷媒が凝縮器19へ流入することを防止する逆止弁21を電磁弁15、15Aとは別途独立に構成、配置している。
【0008】
従って、冷房モードのみを実施する通常の車両用冷凍サイクル装置に対して、2つの電磁弁15、15Aおよび逆止弁21を追加設置する必要があり、部品点数の増加によるコストアップを招く。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、ホットガスヒータ機能を持った車両用冷凍サイクル装置の弁装置部の簡素化を図ることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、蒸発器(28)で低圧冷媒が蒸発して空気を冷却する冷房モードと、圧縮機(10)吐出側のガス冷媒を蒸発器(28)に直接導入して蒸発器(28)で放熱させる暖房モードとを切り替える冷凍サイクル装置に用いる弁装置において、圧縮機(10)吐出側と凝縮器(19)との間の冷媒通路を開閉する電磁弁(15)と、電磁弁(15)の閉弁時に発生する圧縮機(10)吐出側と凝縮器(19)との間の差圧により開弁して、圧縮機(10)吐出側のガス冷媒を蒸発器(28)に直接導入する差圧弁(16)と、差圧弁(16)の開弁時に、圧縮機(10)吐出側のガス冷媒が凝縮器(19)側へ流れることを防止する逆止弁(21)とを備え、電磁弁(15)と差圧弁(16)と逆止弁(21)とを共通のハウジング部材(140)により一体的に構成したことを特徴とする。
【0011】
これにより、電磁弁(15)と差圧弁(16)と逆止弁(21)の3種類の弁を一体部品として取り扱うことができるので、弁装置全体としての配置スペースおよび取付工数を低減できる。更に、従来、2個の電磁弁が必要であったものを1個の電磁弁(15)と1個の差圧弁(16)との組み合わせに置換することができ、差圧弁(16)は電磁弁(15)に比して大幅に小型軽量化、簡素化できるので、このことと、3種類の弁の一体化とが相俟って、弁装置全体を大幅に小型軽量、かつ低コストで製造できる。
【0012】
また、差圧弁(16)は電磁弁(15)の閉弁時に発生する圧縮機(10)吐出側と凝縮器(19)との間の差圧により開弁するから、差圧弁(16)と電磁弁(15)は相反的に開閉する関係にあり、両弁(15、16)が同時に閉弁することがないから、圧縮機(10)の作動時に冷凍サイクル回路が閉塞することがなく、冷媒回路の破損を防止(フェールセーフ)することできる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、請求項1において、ハウジング部材(140)に設けられ、圧縮機(10)吐出側に接続される第1通路(41)と、ハウジング部材(140)に設けられ、凝縮器(19)の入口側に接続される第2通路(42)と、ハウジング部材(140)に設けられ、蒸発器(28)の入口側に接続される第3通路(43)と、ハウジング部材(140)に設けられ、凝縮器(19)の出口側に冷房用減圧手段(20)を介して接続される第4通路(44)とを備え、第1通路(41)と第2通路(42)との間を電磁弁(15)により開閉するとともに、第1通路(41)と第3通路(43)との間を差圧弁(16)により開閉し、差圧弁(16)の開弁時に第1通路(41)から第3通路(43)へ流れる圧縮機(10)吐出側のガス冷媒を減圧する暖房用減圧手段(17、71)、および第4通路(44)を暖房用減圧手段(17、71)の下流側に連通させる連通路(74)をハウジング部材(140)内に設け、逆止弁(21)を連通路(74)に設けたことを特徴とする。
【0014】
これにより、ハウジング部材(140)の内部において、凝縮器(19)の出口側に接続される第4通路(44)を連通路(74)により暖房用減圧手段(17、71)の下流側に連通させることができる。すなわち、暖房用減圧手段(17、71)の下流側と凝縮器(19)の出口側に接続される連通路(74)との合流部をハウジング部材(140)の内部に設定できる。
【0015】
このため、ハウジング部材(140)の第3通路(43)と蒸発器(28)の入口側との間を1本の低圧側配管(22)で接続するだけでよい。
【0016】
因みに、図12の従来技術によると、エンジンルーム(24)内の圧縮機(10)付近に配置される暖房用電磁弁(15A)の出口部から車室内(25)の蒸発器(28)の入口部に至るホットガスバイパス通路(18)のための長い配管を既存の冷房用冷凍サイクルに対して追加する必要があり、車両への搭載性の悪化、コストアップの原因となっているが、請求項2によると、ホットガスバイパス通路(18)をハウジング部材(140)の内部に構成でき、ハウジング部材(140)の第3通路(43)と蒸発器(28)の入口側との間を1本の低圧側配管(22)で接続するだけでよいので、上記従来技術の不具合が発生せず、車両への搭載性向上、コスト低減の点で実用上極めて有利である。
【0017】
請求項3に記載の発明では、請求項2において、暖房用減圧手段は、差圧弁(16)の弁体(64)により開閉される固定絞り(71)により構成されることを特徴とする。
【0018】
これにより、暖房用減圧手段をハウジング部材(140)の内部に極めて簡単に構成できる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、請求項2または3において、連通路(74)を含む通路穴の穴開けにより生じる穴部を密封する閉塞栓(80)を逆止弁(21)の開弁方向の後方に備え、逆止弁(21)の開弁位置を所定位置に規定する位置規定部材(81、81a)を閉塞栓(80)に一体に形成することを特徴とする。
【0020】
これによると、閉塞栓(80)と一体の位置規定部材(81、81a)により逆止弁(21)の開弁位置を規定できる。そのため、逆止弁(21)側に開弁位置規定用の係止爪部を設ける必要がなく、逆止弁(21)の形状を簡素化して逆止弁(21)を低コストで製造できる。また、逆止弁(21)の形状の簡素化に伴って、連通路(74)の形状も簡素化でき、連通路(74)の穴開け加工のコストを低減できる。
【0021】
請求項5に記載の発明では、請求項4において、逆止弁(21)の開弁方向の後方側に、暖房用減圧手段(17、71)の下流側および連通路(74)の下流側を第3通路(43)に連通させる通路空間(73)が設けられ、暖房用減圧手段(17、71)で減圧された後の冷媒ガス流が通路空間(73)に噴出する際に、冷媒ガス流が位置規定部材(81、81a)に衝突するように、位置規定部材(81、81a)を通路空間(73)内に配置したことを特徴とする。
【0022】
これによると、位置規定部材(81、81a)が通路空間(73)内に位置することにより、暖房用減圧手段(17、71)の下流側の通路断面積が通路空間(73)にて急拡大することを抑制できる。これにより、減圧後の冷媒ガス流が通路空間(73)に噴出する際の速度上昇を抑制できる。
【0023】
しかも、噴出冷媒ガス流をその噴出直後に位置規定部材(81、81a)に衝突させ、噴出冷媒ガス流を破壊できる。この結果、暖房用減圧手段(17、71)での急激な減圧に伴う冷媒通過音を効果的に低減できる。
【0024】
請求項6に記載の発明のように、請求項5において、暖房用減圧手段(17、71)で減圧された後の冷媒ガス流が通路空間(73)に噴出する開口部(72)に対して、位置規定部材(81、81a)を対向配置するとともに、位置規定部材(81、81a)の開口部(72)に対する対向面積を開口部(72)の開口面積と同等以上にすれば、請求項5の作用効果を一層有効に発揮できる。
【0025】
請求項7に記載の発明のように、請求項4ないし6のいずれか1つにおいて、位置規定部材は具体的にはピン部材(81)で構成できる。このピン部材(81)は後述のように円柱状であっても、円筒状であってもよい。
【0026】
請求項8に記載の発明のように、請求項4ないし6のいずれか1つにおいて、位置規定部材は具体的には板部材(81a)で構成してもよい。
【0027】
請求項9に記載の発明では、請求項2または3において、暖房用減圧手段(17、71)の下流側および連通路(74)の下流側を第3通路(43)に連通させる通路空間(73)を有し、暖房用減圧手段(17、71)で減圧された後の冷媒ガス流が通路空間(73)に噴出する際に、冷媒ガス流が衝突する衝突部材(81、81a)を通路空間(73)内に配置したことを特徴とする。
【0028】
これによると、請求項5と同様の作用効果を発揮できる。すなわち、衝突部材(81、81a)が通路空間(73)内に位置することにより、暖房用減圧手段(17、71)の下流側の通路断面積が通路空間(73)にて急拡大することを抑制でき、減圧後の冷媒ガス流が通路空間(73)に噴出する際の速度上昇を抑制できる。
【0029】
しかも、噴出冷媒ガス流をその噴出直後に衝突部材(81、81a)に衝突させ、噴出冷媒ガス流を破壊できる。この結果、暖房用減圧手段(17、71)での急激な減圧に伴う冷媒通過音を効果的に低減できる。
【0030】
請求項10に記載の発明では、請求項1ないし9のいずれか1つにおいて、電磁弁(15)は、圧縮機(10)吐出側と凝縮器(19)との間の冷媒通路を開閉する主弁体(46)と、電磁コイル(47)の電磁力により駆動されて主弁体(46)に作用する圧力を変化させる副弁体(48)とを有するパイロット式電磁弁であることを特徴とする。
【0031】
これにより、電磁コイル(47)は受圧面積の小さい副弁体(48)を駆動するだけでよく、受圧面積の大きい主弁体(46)を直接駆動する必要がないので、冷凍サイクル高圧が作用する冷媒通路を開閉する電磁弁(15)であっても、その消費電力を小さくできる。
【0032】
請求項11に記載の発明では、請求項10において、電磁コイル(47)の非通電時に主弁体(46)が開弁し、電磁コイル(47)の通電時に主弁体(46)が閉弁するように構成されていることを特徴とする。
【0033】
これにより、電磁弁(15)の電気系統に万一故障が発生しても、電磁弁(15)の開弁状態を確保して、夏期冷房機能を保証できる。
【0034】
請求項12に記載の発明では、冷媒を圧縮し、吐出する圧縮機(10)と、圧縮機(10)の吐出ガス冷媒を凝縮する凝縮器(19)と、凝縮器(19)で凝縮した冷媒を減圧させる冷房用減圧手段(20)と、冷房用減圧手段(20)で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器(28)と、圧縮機(10)の吐出側ガス冷媒を、直接、蒸発器(28)の入口側に導入するホットガスバイパス通路(18)と、ホットガスバイパス通路(18)に設けられ、圧縮機(10)の吐出側ガス冷媒を減圧する暖房用減圧手段(17、71)と、圧縮機(10)の吐出側と凝縮器(19)の入口側との間を開閉する第1弁手段(15)と、ホットガスバイパス通路(18)を開閉する第2弁手段(16)とを備え、
第1弁手段(15)を閉弁するとともに、第2弁手段(16)を開弁することにより圧縮機(10)の吐出側ガス冷媒をホットガスバイパス通路(18)を通して直接、蒸発器(28)に導入し、ホットガスバイパスによる暖房モードを設定する冷凍サイクル装置において、
第1弁手段を電磁弁(15)により構成するとともに、第2弁手段を、電磁弁(15)の閉弁時に圧縮機(10)の吐出側と凝縮器(19)側との間の差圧により開弁する差圧弁(16)により構成し、更に、差圧弁(16)の開弁時に、圧縮機(10)の吐出側ガス冷媒がホットガスバイパス通路(18)を通して凝縮器(19)側へ流れることを防止する逆止弁(21)を有し、電磁弁(15)、差圧弁(16)、逆止弁(21)、ホットガスバイパス通路(18)、および暖房用減圧手段(17、71)を共通のハウジング部材(140)により一体的に構成したことを特徴とする。
【0035】
請求項12に記載の発明は請求項1の弁装置を包含する冷凍サイクル装置に係るものであって、請求項1と同様の作用効果を発揮できる。
【0036】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
【0038】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態による車両空調用冷凍サイクル装置を示すものであり、圧縮機10は、電磁クラッチ11を介して車両エンジン12により駆動される。圧縮機10の吐出配管13には弁装置14が設けられている。
【0039】
この弁装置14は、冷房用通路を開閉するパイロット式電磁弁(第1弁手段)15と、暖房用通路を開閉する差圧弁(第2弁手段)16と、暖房用減圧装置17と、逆止弁21とを共通のハウジング部材140により1つの部品として一体化したもので、その詳細は図2により後述する。弁装置14の内部にホットガスバイパス通路18が形成され、このホットガスバイパス通路18に暖房用差圧弁16と暖房用減圧装置17が設けられる。
【0040】
圧縮機10の吐出配管13は弁装置14の冷房用電磁弁15を介して凝縮器19の冷媒入口に接続される。そして、凝縮器19の冷媒出口には冷房用減圧装置20が接続されている。この冷房用減圧装置20は本例では固定絞りにて構成されており、固定絞りとして具体的には細径(例えば、φ1.2〜1.3mm程度)の管を所定長さとすることにより圧損を発生するキャピラリチューブを用いている。凝縮器19は電動冷却ファン19aにより送風される外気冷却風により冷却される。
【0041】
なお、弁装置14は、図示しない適宜の取付ブラケットを介して凝縮器19の適宜の部位(例えば、上部サイドプレート等)に取り付け固定することができ、これにより、凝縮器19と弁装置14を車両搭載前に予め一体化しておくことができる。
【0042】
逆止弁21は上記したホットガスバイパス通路18(暖房用減圧装置17)の出口側と冷房用減圧装置20の出口側との間に接続されて、暖房モード時にホットガスバイパス通路18から凝縮器19側へ冷媒が逆流するのを防止する逆流防止手段である。この逆止弁21の出口部にホットガスバイパス通路18の出口部が結合されている。
【0043】
ホットガスバイパス通路18は、弁装置14の内部において、暖房用差圧弁(第2弁手段)16の入口部から暖房用減圧装置17の出口部に至る極めて短い通路となる。
【0044】
そして、ホットガスバイパス通路18の出口部と逆止弁21の出口部とを合流させて、この合流部を1本の入口側低圧配管22に結合し、この1本の低圧配管22をダッシュボード23の穴を貫通して車室内25へ配管する。ここで、ダッシュボード23は車両のエンジンルーム24と車室内25とを仕切るものである。
【0045】
車室内25の前方部の計器盤(図示せず)下方部には空調ユニット26が配置され、この空調ユニット26内において、空調用電動送風機27の空気上流側に蒸発器28が配置され、この蒸発器28の下流側に温水式の暖房用ヒータコア29が配置されている。
【0046】
上記低圧配管22は蒸発器28の冷媒入口部に結合され、この蒸発器28の冷媒出口部には出口側低圧配管30が接続され、この出口側低圧配管30はダッシュボード23を貫通してエンジンルーム24側へ配管され、エンジンルーム24内のアキュームレータ31の入口に接続され、アキュームレータ31の出口は吸入配管32を通して圧縮機10の吸入口に接続される。
【0047】
アキュームレータ31は周知のごとく蒸発器28の出口側低圧配管30から流入する冷媒の気液を分離して液冷媒を貯留するものであって、ガス冷媒を圧縮機10に吸入させるとともに、潤滑オイルを圧縮機10に戻すために、アキュームレータタンク底部付近の液冷媒の一部を圧縮機10に吸入させるものである。
【0048】
なお、前記した空調ユニット26において、蒸発器28は空調用送風機27により送風される空気(車室内空気または外気)を冷房モード(あるいは除湿必要時)時には冷媒蒸発潜熱の吸熱により冷却し、また、冬期暖房モード時には、蒸発器28はホットガスバイパス通路18からの高温冷媒ガス(ホットガス)が流入して空気を加熱するので、放熱器としての役割を果たす。
【0049】
また、暖房用ヒータコア29には、車両エンジン12の温水(冷却水)がエンジン駆動の温水ポンプ(図示せず)により循環することにより、温水を熱源として蒸発器通過後の空気を加熱する。そして、暖房用ヒータコア29の下流側に設けられた吹出口(図示せず)から車室内25へ空調空気を吹き出すようになっている。
【0050】
また、冷房用電磁弁15は空調用電子制御装置33からの制御信号により通電が断続されて、開閉する。また、冷房用電磁弁15の他に、電磁クラッチ11、凝縮器用電動冷却ファン19a、空調用電動送風機27等の電気機器の作動も空調用電子制御装置33の制御信号により制御される。なお、空調用電子制御装置33には、周知のように車両環境条件を検出するセンサ群33aの検出信号、空調操作パネル33bの操作部材33cの操作信号等が入力される。
【0051】
次に、弁装置14の具体的構成を図2により説明する。弁装置14のハウジング部材140は、アルミニュウム等の金属材により直方体状等の形状に形成され、ハウジング部材140の一端側(図2の右側)に第1、第2通路41、42を開口し、他端側(図2の左側)に第3、第4通路43、44を開口している。
【0052】
第1通路41は圧縮機10の吐出側に接続され、第2通路42は凝縮器19の入口側に接続される。また、第3通路43は蒸発器28の入口側に接続され、第4通路44は冷房用減圧装置20を介して凝縮器19の出口側に接続される。なお、これらの第1〜第4通路41〜44は図1の対応部位にも黒丸の点にて図示してある。
【0053】
電磁弁15は、上記第1通路41(圧縮機10吐出側)と上記第2通路42(凝縮器19入口側)との間の冷媒通路45を開閉する主弁体46と、電磁コイル47の電磁力により駆動されて主弁体46を変位させる副弁体(パイロット弁)48とを有するパイロット式電磁弁として構成してある。
【0054】
主弁体46のうち、冷媒通路45の弁座部45aに対向する部位に弾性材からなるパッキン46aを配置し、主弁体46の閉弁時(図3)にはパッキン46aが弁座部45aに圧着することにより冷媒通路45を閉塞する。
【0055】
図2は主弁体46の開弁時を示しており、開弁時には電磁コイル47が非通電の状態にあるので、磁性体製のプランジャ(可動磁極部材)49と、磁性体製の固定磁極部材50との間に電磁吸引力が作用しない。そのため、プランジャ49が圧縮コイルばね51のばね力により図2の上方へ押し上げられる。
【0056】
プランジャ49の中心部にはニードル状の副弁体48が嵌合係止されているので、プランジャ49の上昇に連動してニードル状の副弁体48も上昇する。この結果、副弁体48が主弁体46の中心部に設けられた連通路52の弁座部52aを開口する。これにより、連通路52を通して冷媒通路45の冷媒圧力が主弁体46の背圧室53、54に作用するようになっている。
【0057】
ここで、背圧室53は主弁体46の小径部の上端面部と固定磁極部材50の壁面との間に形成され、背圧室54(図3参照)は主弁体46のフランジ部(大径部)46bの上端面部と固定磁極部材50の壁面との間に形成され、この両背圧室53、54の間は、主弁体46と固定磁極部材50との間の嵌合面の隙間を通して連通している。
【0058】
また、主弁体46のフランジ部46bの外周面に保持されたピストンリング56にはその円周方向の一部に切り欠き部(図示せず)が設けてあるので、ピストンリング56の切り欠き部を通して背圧室54は常に弁座部45aの上流側の第1通路41に連通している。しかし、ピストンリング56の切り欠き部の通路断面積は連通路52に比較して十分小さくしてあるので、背圧室54の圧力は上記のように連通路52、背圧室53を通して冷媒通路45の冷媒圧力となる。
【0059】
ここで、主弁体46と弁座部45aとの間で冷媒通路断面積が絞られているので、冷媒通路45の冷媒圧力は弁座部45a上流側の第1通路41の冷媒圧力より低くなっている。このため、背圧室53、54の圧力<第1通路41の冷媒圧力という圧力差が発生し、この圧力差と圧縮コイルばね55のばね力とにより主弁体46が図2のように押し上げられ、主弁体46の開弁状態を維持する。
【0060】
これに対して、図3はパイロット式電磁弁15の閉弁状態を示しており、電磁コイル47に通電すると、プランジャ49と固定磁極部材50との間に電磁吸引力が作用するので、圧縮コイルばね51のばね力に抗してプランジャ49が固定磁極部材50に吸引される。これにより、ニードル状の副弁体48もプランジャ49とともに下方へ移動して連通路52の弁座部52aを閉塞する。
【0061】
一方、背圧室54はピストンリング56の切り欠き部を通して常に弁座部45aの上流側の第1通路41に連通しているので、連通路52が閉塞されると、背圧室54、更には背圧室53の圧力が徐々に第1通路41の圧力まで上昇していく。
【0062】
これにより、背圧室53、54の圧力が冷媒通路45の冷媒圧力より高くなると、この圧力差により主弁体46が圧縮コイルばね55のばね力に抗して下方へ移動して、冷媒通路45の弁座部45aにパッキン46aが圧着し、弁座部45aを閉塞する。主弁体46が下方へ移動するとき、副弁体48も電磁コイル47の吸引力により下方へ移動して、連通路52の閉塞状態を維持する。
【0063】
以上のように、ニードル状の副弁体48により連通路52を開閉して、背圧室53、54の圧力が冷媒通路45の冷媒圧力となる低圧状態と背圧室53、54の圧力が第1通路41の冷媒圧力となる高圧状態とに切り替えることにより、主弁体46が冷媒通路45の弁座部45aを開閉することができる。従って、電磁コイル47は受圧面積の小さいニードル状の副弁体48を駆動するだけでよく、受圧面積の大きい主弁体46を駆動する必要がないので、電磁コイル47の電磁吸引力が小さくすむ。
【0064】
次に、差圧弁16について説明する。差圧弁16は、パイロット式電磁弁15の開弁時(図2)に閉弁し、パイロット式電磁弁15の閉弁時(図3)に開弁するようになっており、このため、次のように構成されている。
【0065】
差圧弁16はその上方側及び下方側に位置する第1室60、第2室61を有しており、上方側の第1室60は、連通穴62及び電磁弁15の主弁体46周囲の空間を介して第1通路41に連通し、圧縮機吐出側の冷媒圧力が導入される。また、下方側の第2室61は、連通穴63、冷媒通路45を介して第2通路42に連通し、凝縮器側の冷媒圧力が導入される。
【0066】
また、第1室60内には差圧弁16の円柱状の弁体64が上下方向に摺動可能に配置されている。弁体64の上面部(軸方向一端部)にパッキン65を固定し、下面部(軸方向他端部)には金属製の当接部材66を介してダイヤフラム67の中心部を気密的に固着している。第2室61の内側に円筒状の金属製固定部材68を圧入固定することにより、ダイヤフラム67の外縁部を第2室61の上端壁部に気密的に固着している。これにより、ダイヤフラム67は第1室60と第2室61との間を気密的に仕切る弾性仕切部材としての役割を果たすことができる。
【0067】
当接部材66の下面部と調整ねじ部材69との間に圧縮コイルばね70を配置し、この圧縮コイルばね70のばね力により弁体64を上方(閉弁方向)に付勢するようになっている。調整ねじ部材69はおねじ69aにより第2室61の壁面(ハウジング部材140)に対する取付位置が調整可能になっており、調整ねじ部材69の取付位置の調整により圧縮コイルばね70のばね力を調整して、差圧弁16の開弁圧を調整できる。なお、調整ねじ部材69はOリング69bにより第2室61の壁面に気密に固定される。
【0068】
弁体64の上面部のパッキン65に対向して絞り通路71が形成してあり、差圧弁16の閉弁時(図2)にはパッキン65が絞り通路71の弁座部71aに圧着することにより絞り通路71を閉塞する。ここで、絞り通路71は例えば、φ2mm程度の小径通路であり、その通路断面積を小さくすることにより暖房用減圧装置(固定絞り)17としての役割を果たす。
【0069】
ここで、差圧弁16の動作について説明すると、パイロット式電磁弁15において電磁コイル47が非通電で、主弁体46が開弁状態にある時(図2)は、圧縮機10吐出側の冷媒圧力が第1通路41、連通穴62を介して差圧弁16の第1室60に導入される。一方、差圧弁16の第2室61には、主弁体46下流側の冷媒通路45の圧力が連通穴63を介して導入される。
【0070】
このとき、冷媒通路45の圧力は弁座部45aでの絞りにより第1通路41の圧力より所定値だけ低くなっているが、この圧力差による弁体64の開弁方向の力よりも、圧縮コイルばね70のばね力による弁体64の閉弁方向の力が大きくなるように、圧縮コイルばね70のばね力が設定してある。このため、パイロット式電磁弁15の開弁時には、圧縮コイルばね70のばね力により差圧弁16の弁体64が絞り通路71の弁座部71aに圧着して閉弁状態(図2)を維持する。
【0071】
これに対し、パイロット式電磁弁15において電磁コイル47が通電され、主弁体46が閉弁状態にある時(図3)は、差圧弁16の第1室60には圧縮機10吐出側の冷媒圧力が第1通路41、連通穴62を介して導入されるが、主弁体46の閉弁により主弁体46下流側の冷媒通路45は冷凍サイクル高圧側から遮断されるので、冷媒通路45の圧力、すなわち、第2室61の圧力は圧縮機10吐出側の冷媒圧力より大幅に低い圧力まで低下する。
【0072】
その結果、差圧弁16の第1室60と第2室61との圧力差が圧縮コイルばね70のばね力により設定される設定圧(例えば、0.49MPa)以上となるので、差圧弁16の弁体64が上記圧力差により下方へ移動して絞り通路71を開口し、差圧弁16が開弁状態(図3)となる。
【0073】
次に、絞り通路71の出口側の構成を説明すると、絞り通路71の出口側は連通穴72を介して出口室73、第3通路43へと連通する。一方、第4通路44は連通路74を介して出口室73と連通するようになっている。そして、この連通路74に、絞り通路71を通過した冷媒が第4通路44側へ流れることを防止する逆止弁21が設けてある。
【0074】
この逆止弁21は樹脂等の材質で概略円柱状に成形された弁体75を有し、この弁体75の外周面にOリング(弾性シール材)76を配置し、保持している。図2は逆止弁21の開弁状態を示しており、連通路74の入口圧力(第4通路44側圧力)>連通路74の出口圧力(出口室73側圧力)という状態(順方向の圧力状態)が生じると、弁体75が図3の閉弁位置から上方へ移動してOリング76が連通路74の弁座部77から開離することにより、逆止弁21が開弁状態となる。
【0075】
弁体75には開弁リフト量を所定値に規制する係止爪部78が一体成形してあるので、この係止爪部78が連通路74のストッパー面79に係止されることにより、逆止弁21の開弁状態が所定位置に保持される。
【0076】
これに反し、連通路74の入口圧力(第4通路44側圧力)<連通路74の出口圧力(出口室73側圧力)という状態(逆方向の圧力状態)が生じると、弁体75が図2の開弁位置から下方へ移動してOリング76が連通路74の弁座部77に圧着するので、逆止弁21が閉弁状態となる。80は連通路74、出口室73を穴開け加工した際に生じる穴部を密封する閉塞栓である。
【0077】
なお、図2、3に示す弁装置14においては、連通穴62、第1室60、絞り通路71、および連通穴72を包含する通路構成により図1のホットガスバイパス通路18が構成されている。
【0078】
次に、上記構成において第1実施形態の作動を説明する。今、空調操作パネル33bの操作部材33cにより冷房モードが選択されると、電磁クラッチ11に通電されて電磁クラッチ11が接続状態となり、圧縮機10が車両エンジン12にて駆動される。また、冷房モードが選択されたときは空調用電子制御装置33の制御信号によりパイロット式電磁弁15の電磁コイル47が非通電の状態となる。
【0079】
これにより、電磁弁15では副弁体48が連通路52を開口し、主弁体46が冷媒通路45を図2のように開口し、電磁弁15が開弁状態となる。この結果、差圧弁21においては第1室60と第2室61との圧力差が小となり、圧縮コイルばね70のばね力により差圧弁21の弁体64が絞り通路71の弁座部71aに圧着して、差圧弁21が閉弁状態(図2)を維持する。
【0080】
すると、圧縮機10の吐出ガス冷媒は、弁装置14の第1通路41から開状態にある電磁弁15の冷媒通路45を通過して第2通路42から弁装置14の外部へ流出して凝縮器19に流入する。凝縮器19では、冷却ファン19aにより送風される外気にて冷媒が冷却されて凝縮する。
【0081】
そして、凝縮器通過後の凝縮冷媒は固定絞りにて構成された冷房用減圧装置20で減圧されて、低温低圧の気液2相状態となる。次に、この低圧冷媒は、第4通路44から再び弁装置14の内部に流入する。このとき、連通路74の逆止弁21に順方向の圧力が作用して逆止弁21が開弁する。従って、低圧冷媒は連通路74を通過して第3通路43から弁装置14の外部へ流出し、更に、低圧配管22を通過して蒸発器28内に流入する。
【0082】
ここで、低圧冷媒は送風機27の送風する空調空気から吸熱して蒸発する。蒸発器28で冷却された空調空気は車室内25へ吹き出して車室内25を冷房する。蒸発器28で蒸発したガス冷媒はアキュームレータ31内にてガス冷媒と液冷媒がその密度差により分離され、ガス冷媒が圧縮機10に吸入される。また、同時に、アキュームレータ31の内の下側に溜まった液冷媒(潤滑オイルを含む)が若干量圧縮機10に吸入される。
【0083】
一方、冬期にホットガスヒータの暖房モードが選択されると、空調用電子制御装置33の制御信号により電磁クラッチ11に通電されて圧縮機10が車両エンジン12にて駆動される。また、暖房モードが選択されたときは空調用電子制御装置33の制御信号によりパイロット式電磁弁15の電磁コイル47に通電される。
【0084】
これにより、電磁弁15では副弁体48が連通路52を閉塞し、主弁体46が冷媒通路45を図3のように閉塞し、電磁弁15が閉弁状態となる。この結果、差圧弁21においては第1室60の圧力>第2室61の圧力という圧力差が急激に増大し、この圧力差が設定圧以上になると、差圧弁21の弁体64が圧縮コイルばね70のばね力に抗して下方へ移動し、絞り通路71の弁座部71aから開離する。これにより、絞り通路71が開口し、差圧弁21が開弁状態(図3)となるので、ホットガスバイパス通路18が開通する。
【0085】
従って、圧縮機10の高温高圧の吐出ガス冷媒(過熱ガス冷媒)が弁装置14の第1通路41、連通穴62、及び第1室60を経て絞り通路71を通過する。この絞り通路71は暖房用減圧装置17をなす固定絞りであるため、圧縮機10の吐出ガス冷媒が絞り通路71にて所定の圧力まで減圧される。
【0086】
この後、減圧後のガス冷媒が連通穴72、出口室73を通過して第3通路43から弁装置14の外部へ流出し、更に、低圧配管22を通過して蒸発器28内に流入する。この蒸発器28で高温ガス冷媒が送風空気に放熱して、送風空気を加熱する。そして、蒸発器28で放熱したガス冷媒はアキュームレータ31を通過した後に圧縮機10に吸入され、再度圧縮される。
【0087】
そして、暖房モード時には出口室73の圧力>第4通路44の圧力という関係にあるため、逆止弁21は閉弁状態となり、高温ガス冷媒が凝縮器19側へ逆流して、凝縮器19内に冷媒が滞留すること(寝込み現象)を抑制する。
【0088】
(第2実施形態)
第2実施形態は上記第1実施形態における逆止弁21の形状を簡素化するとともに、暖房用減圧装置17を構成する絞り通路(固定絞り)71から噴出する冷媒の通過音を低減するものである。
【0089】
第1実施形態では、図4に示すように、逆止弁21の樹脂製の弁体75に、開弁リフト量を所定値に規制する係止爪部78を一体成形して、この係止爪部78を連通路74のストッパー面79に係止することにより、逆止弁21の開弁状態を所定位置に保持している。このため、逆止弁21の弁体75が係止爪部78を持つ複雑な形状となり、弁体75の成形コストを上昇させる。また、同時に、ハウジング部材140側においても、連通路74の穴形状を3段階の穴径74a、74b、74cを持つ複雑な形状にする必要があり、連通路74の穴形状の加工コストが上昇する。
【0090】
そこで、第2実施形態では、逆止弁21の開弁方向の後方(図2、3の上方)に、連通路74、出口室73の穴開け加工により生じる穴部を密封する閉塞栓80が位置していることに着目して、図5〜図8に示すように、逆止弁21の弁体75の開弁位置を所定位置に規定する位置規定部材をなすピン部材81を閉塞栓80に一体に成形し、これにより、逆止弁21の弁体形状を簡素化する。なお、図5は図2に対応する電磁弁開弁時の縦断面図であり、図6は図3に対応する電磁弁閉弁時の縦断面図である。
【0091】
図7は第2実施形態による閉塞栓80の拡大斜視図であり、閉塞栓80は、円柱状のピン部材81と雄ねじ部82と円板状の基板部83とを一体に成形したものである。このような閉塞栓80の形状は通常、樹脂成形にて一体成形するが、アルミニュウム等の金属を切削加工して成形してもよい。
【0092】
図6は逆止弁21の閉弁状態を示しており、閉塞栓80のピン部材81は出口室73の穴径中央部を同心状に貫通して、逆止弁21の弁体75に対して所定間隔Lを介して対向するように、ピン部材81の高さ(軸方向長さ)Hを設定している。
【0093】
また、閉塞栓80のピン部材81は、絞り通路71にて減圧され、連通穴72から出口室(通路空間)73に噴出する冷媒ガス流を衝突させる衝突部材としての役割を兼務するように構成してある。このため、ピン部材81を出口室73の穴径中央部に配置することにより、ピン部材81の径方向の中心部を円形連通穴72の中心上に位置させて、ピン部材81を連通穴72の開口に対して対向配置している。
【0094】
ここで、ピン部材81の径Dを、円形連通穴72の径と同等以上に設定してある。例えば、連通穴72の径は3mm程度であり、ピン部材81の径Dは3〜7mm程度である。これにより、ピン部材81の円形連通穴72の開口に対する対向面積を連通穴72の開口面積と同等以上にすることができる。因みに、ピン部材81が挿入される出口室73の穴径は10mm程度である。
【0095】
図5、図8は逆止弁21の開弁状態を示しており、逆止弁21の弁体75がピン部材81の先端部に当接することにより、弁体75の開弁位置を所定位置に規定することができる。このため、弁体75に第1実施形態のような係止爪部78を設ける必要がない。また、連通路74側にも係止爪部78を係止するストッパー面79を設ける必要がない。
【0096】
従って、第2実施形態によると、弁体75に係止爪部78の代わりに直線状に延びる単純なガイド部材78aを形成するだけでよく、径外方へ突き出す爪形状がないため、逆止弁21の弁体形状を簡素化でき、弁体75の成形コストを低減できる。
【0097】
同様に、連通路74側においても、図4と図8の比較から理解されるように、ストッパー面79の廃止により穴径を74aと74cの2段階に変化させるだけでよく、3段階に変化させる必要がないので、連通路74の穴形状を簡素化でき、連通路74の穴形状の加工コストを低減できる。
【0098】
更に、第2実施形態によると、次の理由により暖房モード時の冷媒通過音の低減効果も同時に発揮できる。
【0099】
暖房モード時に差圧弁21が開弁すると、暖房用減圧装置17を構成する絞り通路71にて高圧(例えば、1.96MPa程度)の冷媒ガスが低圧状態に急激に減圧され、この減圧後の冷媒ガス流は連通穴72を通過して出口室73に向かう。ここで、第1実施形態の場合には連通穴72に比べて出口室73の通路断面積が急拡大するので、減圧後の冷媒ガス流は連通穴72を通過して出口室73に噴出する。この出口室73への噴出ガス流は音速状態であり、一般にジェットコアと称される。この噴出ガス流の外周側には急激な速度勾配を持つ混合域が形成され、この急激な速度勾配が原因となって冷媒通過音が生じる。
【0100】
これに反し、第2実施形態においては、ピン部材81が出口室73内に位置することにより、出口室73の実質的な通路断面積を減少させる。そのため、連通穴72から出口室73へと通路断面積が急拡大することを抑制して、噴出ガス流の速度上昇を抑制する。また、噴出ガス流が発生しても、連通穴72の直後の部位に、連通穴72の開口面積に対して同等以上の対向面積を持つピン部材81が配置されているので、連通穴72から噴出するガス流をその噴出直後にピン部材81に衝突させて破壊できる。以上の結果、暖房用減圧装置17を構成する絞り通路71での急激な減圧に伴う冷媒通過音を効果的に低減できる。
【0101】
図9(a)は、暖房モード時における冷媒通過音の測定結果を示す実験データであり、この冷媒通過音は、図9(b)に示すように、車室内の前席相当の位置、すなわち、蒸発器28から800mmだけ乗員座席寄りの手前位置で、且つ、200mm上方の位置に、マイクロフォンを設定して測定したものである。
【0102】
暖房モード時(ホットガスヒータ運転時)のサイクル運転条件は圧縮機吐出圧=1.96MPaの定常運転である。そして、暖房用減圧装置17を構成する絞り通路71の穴径=2mm、連通穴72の径=3mm、出口室73の穴径=10mmという条件において、閉塞栓80のピン部材81の径寸法Dを変化させた場合の冷媒通過音を上記要領で測定したものである。
【0103】
本発明者の実験によれば、ピン部材81の設定は、高周波数域(6〜10KHz)の冷媒通過音に対して騒音低減の効果があり、6KHz未満の周波数域ではピン部材81の有無による騒音レベルに差のないことが判明したので、図9(a)では、高周波数域(6〜10KHz)の騒音低減効果を示している。なお、図9(a)においては、ピン部材81の径寸法D=0、すなわち、ピン部材81を設定しない場合を基準として、これに対する音圧レベルの低減量(dB差)を騒音低減効果として示している。
【0104】
具体的には、ピン部材81の径寸法D=3mmで2dBの騒音低減効果が得られ、D=6mmで5dBの騒音低減効果が得られた。
【0105】
なお、第2実施形態においてピン部材81は、図7に示す円柱状のものに限らず、図10に示す円筒状(中空状)の形状にしてもよい。更に、図11に示すように、ピン部材81の代わりに複数に分割した板状部材81aを設けてもよい。複数の板状部材81aは断面円弧状の板形状にて所定高さHに成形され、かつ、複数の板状部材81aはリング状に配置され、このリング状配置の径Dはピン部材81の径Dと同じ考え方で設定する。これにより、この複数の板状部材81aにピン部材81と同等の機能を持たせることができる。
【0106】
(他の実施形態)
なお、上記の第1、第2実施形態では、冷房用減圧装置20を弁装置14と別体で構成しているが、冷房用減圧装置20をオリフィス、ノズルのような通路長さの短い固定絞りで構成して、弁装置14のハウジング部材140の内部に一体的に冷房用減圧装置20を構成することもできる。すなわち、ハウジング部材140の第4通路44部分に冷房用減圧装置20を構成する固定絞りを配置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態を示す車両空調用冷凍サイクル装置の全体システム図である。
【図2】図1の弁装置の電磁弁開弁時の縦断面図である。
【図3】図1の弁装置の電磁弁閉弁時の縦断面図である。
【図4】図1の弁装置における逆止弁部分の拡大断面図である。
【図5】第2実施形態による弁装置の電磁弁開弁時の縦断面図である。
【図6】第2実施形態による弁装置の電磁弁閉弁時の縦断面図である。
【図7】第2実施形態による弁装置の閉塞栓の具体例を示す拡大斜視図である。
【図8】第2実施形態において閉塞栓のピン部材による逆止弁の開弁位置規定作用を示す要部拡大断面図である。
【図9】(a)は第2実施形態による冷媒通過音の低減効果を示す図表、(b)は冷媒通過音の測定要領の説明図である。
【図10】第2実施形態による弁装置の閉塞栓の他の具体例を示す拡大斜視図である。
【図11】(a)は第2実施形態による弁装置の閉塞栓の更に他の具体例を示す拡大斜視図、(b)は(a)の底面図である。
【図12】従来の車両空調用冷凍サイクル装置の全体システム図である。
【符号の説明】
10…圧縮機、15…電磁弁、16…差圧弁、
17…暖房用減圧装置、18…ホットガスバイパス通路、19…凝縮器、
20…冷房用減圧装置、21…逆止弁、28…蒸発器、80…閉塞栓
81…ピン部材、81a…板部材、140…ハウジング部材。
Claims (12)
- 蒸発器(28)で低圧冷媒が蒸発して空気を冷却する冷房モードと、圧縮機(10)吐出側のガス冷媒を前記蒸発器(28)に直接導入して前記蒸発器(28)で放熱させる暖房モードとを切り替える冷凍サイクル装置に用いる弁装置において、
前記圧縮機(10)吐出側と凝縮器(19)との間の冷媒通路を開閉する電磁弁(15)と、
前記電磁弁(15)の閉弁時に発生する前記圧縮機(10)吐出側と凝縮器(19)との間の差圧により開弁して、前記圧縮機(10)吐出側のガス冷媒を前記蒸発器(28)に直接導入する差圧弁(16)と、
前記差圧弁(16)の開弁時に、前記圧縮機(10)吐出側のガス冷媒が前記凝縮器(19)側へ流れることを防止する逆止弁(21)とを備え、
前記電磁弁(15)と前記差圧弁(16)と前記逆止弁(21)とを共通のハウジング部材(140)により一体的に構成したことを特徴とする冷凍サイクル装置に用いる弁装置。 - 前記ハウジング部材(140)に設けられ、前記圧縮機(10)吐出側に接続される第1通路(41)と、
前記ハウジング部材(140)に設けられ、前記凝縮器(19)の入口側に接続される第2通路(42)と、
前記ハウジング部材(140)に設けられ、前記蒸発器(28)の入口側に接続される第3通路(43)と、
前記ハウジング部材(140)に設けられ、前記凝縮器(19)の出口側に冷房用減圧手段(20)を介して接続される第4通路(44)とを備え、
前記第1通路(41)と前記第2通路(42)との間を前記電磁弁(15)により開閉するとともに、前記第1通路(41)と前記第3通路(43)との間を前記差圧弁(16)により開閉し、
前記差圧弁(16)の開弁時に前記第1通路(41)から前記第3通路(43)へ流れる前記圧縮機(10)吐出側のガス冷媒を減圧する暖房用減圧手段(17、71)、および前記第4通路(44)を前記暖房用減圧手段(17、71)の下流側に連通させる連通路(74)を前記ハウジング部材(140)内に設け、
前記逆止弁(21)を前記連通路(74)に設けたことを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。 - 前記暖房用減圧手段は、前記差圧弁(16)の弁体(64)により開閉される固定絞り(71)により構成されることを特徴とする請求項2に記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。
- 前記連通路(74)を含む通路穴の穴開けにより生じる穴部を密封する閉塞栓(80)を前記逆止弁(21)の開弁方向の後方に備え、
前記逆止弁(21)の開弁位置を所定位置に規定する位置規定部材(81、81a)を前記閉塞栓(80)に一体に形成することを特徴とする請求項2または3に記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。 - 前記逆止弁(21)の開弁方向の後方側に、前記暖房用減圧手段(17、71)の下流側および前記連通路(74)の下流側を前記第3通路(43)に連通させる通路空間(73)が設けられ、
前記暖房用減圧手段(17、71)で減圧された後の冷媒ガス流が前記通路空間(73)に噴出する際に、前記冷媒ガス流が前記位置規定部材(81、81a)に衝突するように、前記位置規定部材(81、81a)を前記通路空間(73)内に配置したことを特徴とする請求項4に記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。 - 前記暖房用減圧手段(17、71)で減圧された後の冷媒ガス流が前記通路空間(73)に噴出する開口部(72)に対して、前記位置規定部材(81、81a)を対向配置するとともに、
前記位置規定部材(81、81a)の前記開口部(72)に対する対向面積を前記開口部(72)の開口面積と同等以上にすることを特徴とする請求項5に記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。 - 前記位置規定部材はピン部材(81)であることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。
- 前記位置規定部材は板部材(81a)であることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。
- 前記暖房用減圧手段(17、71)の下流側および前記連通路(74)の下流側を前記第3通路(43)に連通させる通路空間(73)を有し、
前記暖房用減圧手段(17、71)で減圧された後の冷媒ガス流が前記通路空間(73)に噴出する際に、前記冷媒ガス流が衝突する衝突部材(81、81a)を前記通路空間(73)内に配置したことを特徴とする請求項2または3に記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。 - 前記電磁弁(15)は、前記圧縮機(10)吐出側と前記凝縮器(19)との間の冷媒通路を開閉する主弁体(46)と、電磁コイル(47)の電磁力により駆動されて前記主弁体(46)に作用する圧力を変化させる副弁体(48)とを有するパイロット式電磁弁であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。
- 前記電磁コイル(47)の非通電時に前記主弁体(46)が開弁し、前記電磁コイル(47)の通電時に前記主弁体(46)が閉弁するように構成されていることを特徴とする請求項10に記載の冷凍サイクル装置に用いる弁装置。
- 冷媒を圧縮し、吐出する圧縮機(10)と、
前記圧縮機(10)の吐出ガス冷媒を凝縮する凝縮器(19)と、
前記凝縮器(19)で凝縮した冷媒を減圧させる冷房用減圧手段(20)と、
前記冷房用減圧手段(20)で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器(28)と、
前記圧縮機(10)の吐出側ガス冷媒を、直接、前記蒸発器(28)の入口側に導入するホットガスバイパス通路(18)と、
前記ホットガスバイパス通路(18)に設けられ、前記圧縮機(10)の吐出側ガス冷媒を減圧する暖房用減圧手段(17、71)と、
前記圧縮機(10)の吐出側と前記凝縮器(19)の入口側との間を開閉する第1弁手段(15)と、
前記ホットガスバイパス通路(18)を開閉する第2弁手段(16)とを備え、
前記第1弁手段(15)を閉弁するとともに、前記第2弁手段(16)を開弁することにより前記圧縮機(10)の吐出側ガス冷媒を前記ホットガスバイパス通路(18)を通して直接、前記蒸発器(28)に導入し、ホットガスバイパスによる暖房モードを設定する冷凍サイクル装置において、
前記第1弁手段を電磁弁(15)により構成するとともに、前記第2弁手段を、前記電磁弁(15)の閉弁時に前記圧縮機(10)の吐出側と前記凝縮器(19)側との間の差圧により開弁する差圧弁(16)により構成し、
更に、前記差圧弁(16)の開弁時に、前記圧縮機(10)の吐出側ガス冷媒が前記ホットガスバイパス通路(18)を通して前記凝縮器(19)側へ流れることを防止する逆止弁(21)を有し、
前記電磁弁(15)、前記差圧弁(16)、前記逆止弁(21)、前記ホットガスバイパス通路(18)、および前記暖房用減圧手段(17、71)を共通のハウジング部材(140)により一体的に構成したことを特徴とする冷凍サイクル装置。
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