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JP2962110B2 - ボックス柱用低降伏比高張力鋼板の製造方法 - Google Patents

ボックス柱用低降伏比高張力鋼板の製造方法

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JP2962110B2
JP2962110B2 JP19520593A JP19520593A JP2962110B2 JP 2962110 B2 JP2962110 B2 JP 2962110B2 JP 19520593 A JP19520593 A JP 19520593A JP 19520593 A JP19520593 A JP 19520593A JP 2962110 B2 JP2962110 B2 JP 2962110B2
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聡 伊木
典巳 和田
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Nippon Kokan Ltd
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、大入熱溶接条件下で
施工し、そして、使用するのに好適なボックス柱用等の
建築用等鋼材であって、母材の強度および溶接部HAZ
靱性が優れ、且つ、母材の降伏比が低い高張力鋼板を製
造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、種々の産業分野において使用され
る鋼は、各々の分野において要求される、鋼材特性の目
標値を満足するように、その化学成分組成および製造方
法について検討が行われてきた。現在、建築分野を対象
とする鋼には、鋼材の塑性変形能に重点を置く限界状態
設計法において求められる特性としての低降伏比(降伏
比=降伏点/引張強さが80% 以下)であること、およ
び、建築用構造体であるボックス柱の製作における大入
熱溶接部のHAZ靱性が優れていることの両者が必要と
されている。前者の限界状態設計法とは、大地震の際に
そのエネルギ−を骨組み構成部材の塑性変形により散逸
させるものであり、建築用として使われる従来の焼入
れ、焼もどし処理(QT処理)により製造される570 N/
mm2 級鋼では、降伏比が 80%以上と高く、低降伏比化す
ることは困難であった。後者のボックス柱組み立てに使
用されるサブマ−ジア−ク溶接やエレクトロスラグ溶接
における溶接入熱は、鋼板の板厚にも依存するが、20〜
100 KJ/mm であり、従来の造船材を対象とした大入熱溶
接対策で採用される溶接入熱量をはるかに超えるもので
ある。
【0003】上述した状況下において、建築用鋼材とし
て低降伏比型の高張力鋼の開発がなされ、例えば、特開
平3-219012号公報には、引張強さが 60kgf/mm2(588 N/
mm2)以上で、且つ、降伏比が 80%以下の溶接割れ感受性
の低い、低降伏比高張力鋼の製造方法(以下、先行技術
1という)が開示されている。
【0004】大入熱で溶接した場合の溶接部のHAZ靱
性の改善に関して、例えば、住友金属技報vol.29,No4(1
977),p.396〜40に、鋼材の化学成分組成のうち、シリコ
ン(Si)含有量を少なくすることによって、HAZ靱
性を改善する技術(以下、先行技術2という)が開示さ
れている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述した先行技術1に
は、次のような問題がある。即ち、現在、実際の建築施
工で行われており、この発明が解決しようとする、大入
熱(20〜100 KJ/mm )で溶接した場合の溶接部のHAZ
靱性を改善する技術は開示されていない。先行技術1の
発明の目的は、その第2頁、上段右欄、下から第4〜1
行に記載されているように、溶接施工において、溶接前
に鋼材の余熱を必要としない良好な溶接性を有し、かつ
降伏比で 80%以下、引張強さで 60kgf/mm2(=588 N/mm
2)以上の低降伏比高張力鋼を製造することにあり、目的
および構成が本発明とは異なる。従って、先行技術1に
よって、大入熱(20〜100 KJ/mm )で溶接した場合の建
築ボックス柱用鋼材を得ることは困難であると考えられ
る。
【0006】先行技術2には、次のような問題がある。
即ち、鋼材中のシリコン(Si)含有量を低減させるこ
とによって、大入熱溶接部のHAZ靱性は改善される。
しかし、Current Advances in Materials and Processe
s (CAMP)-ISIJ Vol.4(1991),p.762-765 に示されている
ように、鋼材のシリコン含有量を低減させると鋼材の降
伏比が増大し、570 N/mm2 級鋼においては、降伏比が84
〜87% と高くなる。従って、先行技術2によっては、大
入熱(20〜100 KJ/mm )で溶接した場合の建築ボックス
柱用鋼材を得ることは困難である。
【0007】また、鋼材の溶接におけるHAZ部の靱性
改善は、低シリコン化によってなされることは知られて
いるが、それは溶接入熱が比較的大きい場合における改
善効果であって、、20KJ/mm 以上の大入熱溶接部におけ
る低シリコン化の効果は確認されていず、建築用として
満足すべき低降伏比を有する鋼の成分系を対象とした低
シリコン化の効果と、その適正なシリコン含有量につい
ての知見は見当たらない。
【0008】従って、この発明の目的は、上述した問題
を解決し、溶接体の母材における降伏比が 80%以下の 5
70N/mm2 級鋼であって、溶接入熱が20KJ/mm 以上の大入
熱溶接ボンド部の-5℃におけるシャルピ−衝撃試験にお
ける吸収エネルギ−が、47J以上である大入熱溶接部H
AZ靱性が優れた、ボックス柱用低降伏比高張力鋼板を
製造するための方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した
目的を達成し得る高張力鋼板の製造方法について鋭意研
究を重ねた結果、特定の範囲内に低減されたシリコンを
含有する特定の成分組成の鋼を熱間圧延し、直接焼入れ
または空冷後再加熱焼入れ処理を施し、さらに、2相焼
入れを効果的な温度範囲に限定して施し、その後焼もど
し処理を施せば、降伏比が80%以下、引張強さが570N
/mm2以上であって、溶接入熱が20KJ/mm以上の大
入熱溶接施工による溶接ボンド部の−5℃におけるシャ
ルピー吸収エネルギーが47J以上の鋼板を製造する
とができることを知見した。
【0010】この発明は、上記知見に基づいてなされた
もので、この発明の低降伏比高張力鋼板の製造方法の第
1実施態様は、下記を特徴とするものである。 炭素(C) :0.06 〜 0.20 wt.%、 シリコン(Si) :0.06 〜 0.15 wt.%、 マンガン(Mn) :0.50 〜 1.40 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜 0.020wt.%、 アルミニウム(Al):0.07 wt.%以下、 燐(P) :0.015 wt.%以下、および、 硫黄(S) :0.005 wt.%以下 を含有し 更に、 銅(Cu) :0.10 〜 0.40 wt.%、および、 ニッケル(Ni) :0.10 〜 0.50 wt.% からなる群から選んだ少なくとも1種を含有し、そし
て、残部が鉄(Fe)および不可避不純物からなる化学
成分組成を有する鋼塊または鋼片を調製し、前記鋼塊ま
たは鋼片を、熱間圧延した後直ちに急冷するか、もしく
は熱間圧延した後空冷しAc3点以上の温度に再加熱した
後急冷して、鋼板を調製し、次いで、前記急冷された鋼
板を、下記(1)式で算出される温度T( ℃)に加熱し
た後に急冷し、 (Ac1+Ac3)/2.1 ≦T<(Ac1+Ac3)/2.0---(1) 次いで、 前記加熱後急冷された鋼板を、500℃以上 650℃未満の
範囲内の温度で焼もどしを行ない、かくして、降伏比が
80%以下、引張強さが570N/mm2以上であって、溶接入
熱が20KJ/mm以上の大入熱溶接施工による溶接ボ
ンド部の−5℃におけるシャルピー吸収エネルギーが4
7J以上の鋼板を製造する。
【0011】この発明の製造方法の第2実施態様は、鋼
塊または鋼片の化学成分組成が、 炭素(C) :0.06 〜 0.20 wt.%、 シリコン(Si) :0.06 〜 0.15 wt.%、 マンガン(Mn) :0.50 〜 1.40 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜 0.020wt.%、 アルミニウム(Al):0.07 wt.%以下、 燐(P) :0.015 wt.%以下、および、 硫黄(S) :0.005 wt.%以下を含有し、 更に、 クロム(Cr) :0.10 〜 1.0
0 wt.%、 モリブデン(Mo) 0.10 〜 0.50 wt.%、および、 バナジウム(V) 0.02 〜 0.08 wt.% からなる群から選んだ少なくとも1種を含有し、残部が
鉄(Fe)および不可避不純物からなること、のみが第
1実施態様の方法と相違するものである。
【0012】この発明の製造方法の第3実施態様は、鋼
塊または鋼片の化学成分組成が、 炭素(C) :0.06 〜 0.20 wt.%、 シリコン(Si) :0.06 〜 0.15 wt.%、 マンガン(Mn) :0.50 〜 1.40 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜 0.020wt.%、 アルミニウム(Al):0.07 wt.%以下、 燐(P) :0.015 wt.%以下、および、 硫黄(S) :0.005 wt.%以下を含有し、 更に、 銅(Cu) :0.10 〜 0.4
0 wt.%、および、 ニッケル(Ni) :0.10 〜 0.50 wt.% からなる群から選んだ少なくとも1種、および、 クロム(Cr) :0.10 〜 1.00 wt.%、 モリブデン(Mo) :0.10 〜 0.50 wt.%、および、 バナジウム(V) :0.02 〜 0.08 wt.% からなる群から選んだ少なくとも1種を含み、残部が鉄
(Fe)および不可避不純物からなること、のみが第1
実施態様の方法と相違するものである。
【0013】
【作用】以下に、この発明の低降伏比高張力鋼の化学成
分組成を上述した範囲内に限定した理由について述べ
る。
【0014】(1)炭素(C) :炭素は、鋼材の強度を確
保するために、0.06wt.%以上含有されていることが必要
である。しかしながら、その含有量が0.20wt.%を超える
と溶接性が劣化する。従って、炭素含有量は、0.06〜0.
20wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0015】(2)シリコン(Si):本発明者等は、この
発明の鋼板の化学成分のうち、シリコンの含有量が鋼板
の降伏比および溶接部のHAZ靱性に及ぼす影響につい
て研究を行った。鋼板の降伏比に及ぼす影響について
は、後述するように、図2に実験結果を示して説明す
る。ここでは、溶接部のHAZ靱性に及ぼす影響につい
て述べる。前記研究の結果、大入熱溶接部のHAZ靱性
の劣化原因は、板状の初析フェライトの形成および島状
マルテンサイトの存在によるものであり、これらを抑制
し、HAZ靱性を向上させるためには、以下に述べる通
り、低シリコン化が極めて有効であることが明らかにな
った。
【0016】大入熱溶接部HAZ靱性に及ぼすシリコン
含有量の低減効果を定量的に明らかにするために、次の
化学成分組成の供試鋼を溶製後、本発明の実施態様によ
り、鋼板を製造し、下記の試験を行った。表1のシリコ
ン含有量が0.08、0.10、0,12% である3種類の基本成分
系の供試鋼A,B,Hと、そして、各供試鋼A,B,H
の各々について、シリコン含有量のみを増加させ、1.00
% 以下の範囲内で変化させた供試鋼とを準備し、それぞ
れについて溶接入熱を種々変化させ、溶接ボンド部の衝
撃特性について調査を行った。なお、A鋼系、B鋼系は
入熱40KJ/mm 、H 鋼系は入熱20、40、70KJ/mm で継手を
作製した。
【0017】
【表1】
【0018】図1に、各供試鋼のシリコン含有量と大入
熱溶接における溶接ボンド部のシャルピ−衝撃吸収エネ
エルギ−値( V-5)をプロットし、シリコン含有量と
吸収エネルギ−との関係を示した。その結果より、溶接
入熱20〜70KJ/mm の大入熱溶接ボンド部のシャルピ−衝
撃吸収エネエルギ−を、試験温度−5 ℃で47J以上とす
るためには、シリコン含有量は0.15% 以下でなければな
らないことが判明した。
【0019】一方、シリコンは、脱酸剤として有用な元
素であり、その効果が得られる下限は、0.06% である。
従って、シリコン含有量は、0.06〜0.15% の範囲内に限
定すべきである。
【0020】(3)マンガン(Mn) :マンガンは、鋼板
中に硫化鉄(FeS)が生成するのを抑制し、鋼板の強度お
よび靱性を高める作用を有している。しかしながら、マ
ンガン含有量が、0.50wt.%未満では、上述した作用に所
望の効果が得られず、一方、マンガン含有量が、1.40w
t.%を超えると、鋼板の焼入れ性が増加して溶接部に硬
化層が出現するために溶接部の割れ感受性が高くなる。
従って、マンガン含有量は、0.50〜1.40wt.%の範囲内に
限定すべきである。
【0021】(4)チタン(Ti):チタンは、連続鋳造ス
ラブの表面キズ発生を抑制し、析出強化による鋼板の母
材強度を増加させる作用を有している。しかしながら、
チタン含有量が、0.005wt.%未満では、上述した作用に
所望の効果が得られず、一方、チタン含有量が、0.020
wt.%を超えると、鋼板の靱性、および、大入熱溶接部の
HAZ靱性が劣化する。従って、チタン含有量は、0.00
5 〜0.020 wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0022】(5)アルミニウム(Al):アルミニウム
は、脱酸上不可避的な成分であるが、0.07% を超えると
熱間加工性が劣化する。従って、アルミニウム含有量
は、0.07wt.%以下に限定すべきである。
【0023】(6)燐(P) :燐は、鋼中に不可避的に混
入する不純物であるが、延性を劣化させ、および、溶接
割れの原因となるため、0.015 wt.%以下に限定すべきで
ある。
【0024】(7)硫黄(S) :硫黄は、鋼中に不可避的
に混入する不純物であるが、延性を劣化させ、および、
溶接割れの原因となるため、0.005 wt.%以下に限定すべ
きである。
【0025】(8)銅(Cu):銅は、鋼材の強度を上昇さ
せるために有効な元素であるが、0.10wt.%未満では十分
な効果が現れない。しかしながら、銅の含有量が0.40w
t.%を超えると、熱間加工性が劣化し、鋼板の表面に割
れが発生し易くなる。従って、銅の含有量は、0.10〜0.
40wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0026】(9)ニッケル(Ni):ニッケルは鋼材の強
度の上昇および靱性の向上のために有効な元素である
が、0.10wt.%未満では十分は効果が得られない。しかし
ながら、ニッケル含有量が0.50wt.%を超えると、コスト
上昇により工業生産上不利になる。従って、ニッケルの
含有量は、0.10〜0.50wt.%の範囲内に限定すべきであ
る。
【0027】(10)クロム(Cr):クロムは、鋼材の焼
入れ性向上に有効な元素である。しかしながら、クロム
の含有量が0.10wt.%未満では、十分な効果が現れず、一
方、1.00wt.%を超えると、溶接性が劣化する。従って、
クロムの含有量は、0.10〜1.00wt.%の範囲内に限定すべ
きである。
【0028】(11)モリブデン(Mo):モリブデンは鋼
材の焼入れ性を向上させるとともに、焼もどし軟化抵抗
を高め、そして、強度を上昇させるのに有効な元素であ
るが、その効果を得るためには0.10wt.%以上含有させる
ことが必要である。しかしながら、モリブデン含有量が
0.50wt.%を超えると、鋼材の溶接性を劣化させるととも
に、炭化物の析出が起こるために降伏比が上昇する。従
って、モリブデンの含有量は、0.10〜0.50wt.%の範囲内
に限定すべきである。
【0029】(12)バナジウム(V):バナジウムは、鋼
材の焼入れ性を向上させるとともに、焼もどし軟化抵抗
を高めるのに有効な元素であるが、その効果を得るため
には、0.02wt.%以上含有させることが必要である。しか
しながら、バナジウムの含有量が0.08wt.%を超えると、
鋼材の溶接性が劣化する。従って、バナジウム含有量
は、0.02〜0.08wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0030】上述した化学成分組成において、本発明方
法の鋼板は、炭素、シリコン、マンガン、アルミニウ
ム、燐および硫黄に加えて、銅およびニッケルのうち少
なくとも1種を含有しているか、クロム、モリブデンお
よびバナジウムのうち少なくとも1種を含有している
か、または、銅およびニッケルのうち少なくとも1種
と、クロム、モリブデンおよびバナジウムのうち少なく
とも1種とを含有していなければならない。
【0031】次に、この発明の低降伏比高張力鋼の製造
方法について述べる。この発明の方法においては、上述
した化学成分組成を有する鋼塊または鋼片を調製し、前
記鋼塊または鋼片を、熱間圧延した後引き続き急冷(以
下、直接焼入れという)するか、もしくは、熱間圧延終
了後空冷し、再びAc3 点以上の温度に加熱した後に急冷
(以下、再加熱焼入れという)する(以下、両者を総称
して、焼入れという)。次いで、下記(1)式、 (Ac1 +Ac3)/2.1 ≦T<(Ac1 +Ac3)/2.0 ───(1) で算出される範囲の温度T( ℃)(以下、中間焼入れ温
度という)に加熱した後に急冷(以下、中間焼入れとい
う)し、そして、 500℃以上 650℃未満の温度で焼もど
しを行なって鋼板を調製する。
【0032】上述した鋼塊または鋼片の熱間圧延後に焼
入れを行なう理由は、鋼板のミクロ組織をマルテンサイ
トおよび/またはベイナイトなどの高硬度ミクロ組織と
することによって、十分な強度を得るためである。しか
しながら、焼入れの温度が高すぎると、オ−ステナイト
結晶粒が粗大化して延性および靱性が劣化するので、焼
入れ温度は、950 ℃以下が望ましい。
【0033】中間焼入れは、降伏比を低下させるために
行なうものである。低強度のフェライトを生成させて低
降伏比とするために、2相域温度、即ち、Ac1 点以上Ac
3 点未満の温度から焼入れ処理を施す。即ち、フェライ
トおよびオ−ステナイトの状態から焼入れを行なうこと
により、低強度のフェライト域と高強度のマルテンサイ
トおよび/またはベイナイト域とし、降伏比の低減を図
る。この場合、フェライトとマルテンサイトおよび/ま
たはベイナイトとのミクロ組織分率が、降伏比に大きな
影響を及ぼす。そこで、降伏比を80% 以下とするための
好適な中間焼入れ温度を、前記2相域温度の範囲内にお
いて、下記の如く明らかにした。
【0034】表1に示した、この発明の範囲内の化学成
分組成の供試鋼A鋼、B鋼、H鋼およびU鋼の各々につ
いて、中間焼入れ温度を 730〜810 ℃の範囲内で6〜8
水準に変化させて、中間焼入れ焼もどし後、引張試験を
行った。その結果を図2に示す。同図中、ΔTa ,ΔT
b ,ΔTh ,ΔTu はそれぞれ、A鋼、B鋼、H鋼およ
びU鋼について計算した(Ac1 +Ac3)/2.1 〜(Ac1
Ac3)/2.0 の温度範囲を示す。同図より、降伏比80% 以
下とするためには、中間焼入れ温度を(Ac1 +Ac3)/2.
1 〜(Ac1 +Ac3)/2.0 とすればよいことが判明した。
Si量が0.06% 以下のU鋼は、降伏比が80% 以下とならな
かった。なお、焼もどし温度は以下に示す理由で600 ℃
で行なった。
【0035】中間焼入れ後の鋼材に、焼もどし処理を施
すのは、それ以前の熱処理によって生じた鋼材中の残留
応力を低減することによって、構造物の安全性を確保す
るためであり、焼もどし温度が 500℃未満ではその効果
が十分得られず、また、 650℃以上では鋼材が過剰に軟
化する。従って、焼もどし温度は、 500℃以上 650℃未
満の範囲に限定すべきである。
【0036】
【実施例】次に、この発明の実施例を、比較例と対比し
ながら説明する。表1に示した、この発明の範囲内の化
学成分組成を有する供試鋼(以下、本発明鋼という)A
〜O、および、この発明の範囲外の化学成分組成を有す
る供試鋼P〜U(以下、比較鋼という)を溶製した。
【0037】次に、各鋼塊を熱間圧延し、本発明鋼:A
〜C、L〜O、比較鋼:Pにおいては、圧延終了温度90
0 〜910 ℃から水焼入れ処理を施し、本発明鋼:D〜
K、比較鋼:Q〜Uにおいては、圧延終了温度890 〜91
0 ℃から室温まで空冷し、更に900 ℃まで再加熱した
後、水焼入れ処理を施した。本発明鋼および比較鋼の各
々のAc1 点を測定し、表1に併記した。次いで、各供試
鋼を、(Ac1 +Ac3)/2.1 以上(Ac1 +Ac3)/2.0 未満
の温度に加熱した後、水焼入れ処理(中間焼入れ)を施
し、その後580 〜620 ℃の温度で焼もどし処理を施し
て、鋼板を調製した。表2に、各供試鋼の板厚、焼入れ
条件、中間焼入れ条件および焼もどし温度等、鋼板の調
製条件を示す。
【0038】
【表2】
【0039】上述した方法で調製した、本発明鋼A〜O
および比較鋼P〜Uの各鋼板から引張試験片を調製し、
引張試験を行った。次に、各鋼板について、溶接入熱70
KJ/mm でエレクトロスラグ溶接をした継手を作製し、各
々のHAZの溶接ボンド部で-5℃におけるシャルピ−衝
撃試験を行った。上述した引張試験および衝撃試験から
得られた降伏点(YS)、引張強さ(TS)、降伏比
(YR)およびシャルピ−吸収エネルギ−( VE-5)の
値を、表2に併記した。
【0040】本発明の目的を達成するためには、20KJ/m
m 以上の大入熱による溶接ボンド部の−5℃におけるシ
ャルピ−吸収エネルギ−( V-5)で47J以上であっ
て、鋼板母材の引張強さ(TS)が570N/mm2 以上で
且つその降伏比(YR)が80%以下であることの3目
標値を満たす必要がある。表2から明らかなように、本
発明の第1実施態様の方法で調製した供試鋼(B,N,
O)、第2実施態様の方法で調製した供試鋼(F、G、
K、L、M)および第3実施態様の方法で調製した供試
鋼(A、C、D、E、H、I、J)はすべて、上記3目
標値を満たし、本発明の目的を達成している。
【0041】これに対して、比較鋼Tは、そのシリコン
含有量(0.45%)のみが、本発明の第1実施態様の方法に
おけるシリコン含有量の範囲(0.06 〜0.15%)を大きく超
えているために、 V-5は本発明鋼よりも大幅に低い値
を示し(13J)、本発明の目的を達成していない。比較
鋼Pは、チタンを実質的に含有しないこと、および、シ
リコン含有量(0.25wt.%) が、本発明の第3実施態様の
方法におけるシリコン含有量の範囲を超えているため
に、 V-5は本発明鋼よりも大幅に低い値を示し(19
J)、本発明の目的を達成していない。比較鋼Q、R
は、シリコン含有量(0.33、0.40wt.%) が、本発明の第
3実施態様の方法におけるそれの範囲を大幅に越えてい
るために、 V-5は本発明鋼よりも大幅に低い値を示し
( 23J、20J) 、本発明の目的を達成していない。
【0042】比較鋼Sは、シリコン含有量(0.29wt.%)
およびチタン含有量(0.030wt.%) が、本発明の第3実施
態様の方法における各々の範囲を越えているために、 V
E-5およびYRが目標値を満たさず( YR=82.4%、 V-5
=19 J)、本発明の目標を達成していない。比較鋼U
は、シリコン含有量(0.05wt.%) 以外は、本発明の第3
実施態様の方法を満たすが、シリコン含有量が本発明の
化学成分組成範囲よりも低いために、降伏比が80% を超
え(81.4 wt.%) 、本発明の目的を達成しない。上述した
ように、シリコン含有量の下限値を決定し、かつ、中間
焼入れ処理を上述した条件で施すことにより、初めて所
期の目標値を満足させ、発明の目的を達成したものであ
る。
【0043】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によれば、
引張強さ570 N/mm2 以上、降伏比80%以下、溶接入熱20K
J/mm 以上の大入熱溶接施工による溶接部のHAZ靱性
がボンド部で、-5℃シャルピ−衝撃試験の吸収エネルギ
−が47J以上の性質をすべて満足する優れた鋼材を製
造することができる。従って、限界状態設計法等による
地震対策建築物等を、ボックス柱角継手部の大電流大入
熱サブマ−ジア−ク溶接やダイヤフラム部の大電流大入
熱エレクトロスラグ溶接等の、高能率溶接施工によって
建築することが可能となる、工業上、有用な効果がもた
らされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】570 N/mm2 級鋼の、シリコン含有量と、溶接入
熱が20〜70KJ/mm で溶接した場合の溶接ボンド部のシャ
ルピ−衝撃吸収エネエルギ−値との関係を示すグラフで
ある。
【図2】570 N/mm2 級鋼の中間焼入れ温度と降伏比との
関係を示すグラフである。
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C21D 8/00 - 8/02 C22C 38/00 - 38/60

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭素(C) :0.06 〜 0.20
    wt.%、 シリコン(Si) :0.06 〜 0.15 wt.%、 マンガン(Mn) :0.50 〜 1.40 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜 0.020wt.%、 アルミニウム(Al):0.07 wt.%以下、 燐(P) :0.015 wt.%以下、 硫黄(S) :0.005 wt.%以下 を含有し、 更に、 銅(Cu) :0.10 〜 0.40 wt.%、 ニッケル(Ni) :0.10 〜 0.50 wt.% からなる群から選んだ少なくとも1種を含有し、そし
    て、残部が鉄(Fe)および不可避不純物からなる化学
    成分組成を有する鋼塊または鋼片を調製し、 前記鋼塊または鋼片を、熱間圧延した後直ちに急冷する
    か、もしくは熱間圧延した後空冷しAc3点以上の温度に
    再加熱した後急冷して、鋼板を調製し、 次いで、前記急冷された鋼板を、下記(1)式で算出さ
    れる温度T( ℃)に加熱した後に急冷し、 (Ac1+Ac3)/2.1 ≦T<(Ac1+Ac3)/2.0 ---(1) 次いで、 前記加熱後急冷された鋼板を、 500℃以上 650℃未満の
    範囲内の温度で焼もどしを行ない、 かくして、 降伏比が80%以下、引張強さが570N/mm2以上であっ
    て、溶接入熱が20KJ/mm以上の大入熱溶接施工に
    よる溶接ボンド部の−5℃におけるシャルピー吸収エネ
    ルギーを47J以上とすることを特徴とする、ボックス
    柱用低降伏比高張力鋼板の製造方法。
  2. 【請求項2】 シリコン(Si) :0.06 〜 0.15
    wt.%、 マンガン(Mn) :0.50 〜 1.40 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜 0.020wt.%、 アルミニウム(Al):0.07 wt.%以下、 燐(P) :0.015 wt.%以下、 硫黄(S) :0.005 wt.%以下 を含有し、 更に、 クロム(Cr) :0.10 〜 1.00 wt.%、 モリブデン(Mo) : 0.10 〜 0.50 wt.%、 バナジウム(V) :0.02 〜 0.08 wt.% からなる群から選んだ少なくとも1種を含有し、そし
    て、 残部が鉄(Fe)および不可避不純物からなる化学成分
    組成を有する鋼塊または鋼片を調製し、 前記鋼塊または鋼片を、熱間圧延した後直ちに急冷する
    か、もしくは熱間圧延した後空冷しAc3点以上の温度に
    再加熱した後急冷して、鋼板を調製し、 次いで、前記急冷された鋼板を、下記(1)式で算出さ
    れる温度T( ℃)に加熱した後に急冷し、 (Ac1+Ac3)/2.1 ≦T<(Ac1+Ac3)/2.0 ---(1) 次いで、 前記加熱後急冷された鋼板を、500℃以上 650℃未満の
    範囲内の温度で焼もどしを行ない、 かくして、 降伏比が80%以下、引張強さが570N/mm2以上であっ
    て、溶接入熱が20KJ/mm以上の大入熱溶接施工に
    よる溶接ボンド部の−5℃におけるシャルピー吸収エネ
    ルギーを47J以上とすることを特徴とする、ボックス
    柱用低降伏比高張力鋼板の製造方法。
  3. 【請求項3】 炭素(C) :0.06 〜 0.20
    wt.%、 シリコン(Si) :0.06 〜 0.15 wt.%、 マンガン(Mn) :0.50 〜 1.40 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜 0.020wt.%、 アルミニウム(Al):0.07 wt.%以下、 燐(P) :0.015 wt.%以下、 硫黄(S) :0.005 wt.%以下 を含有し、 更に、 銅(Cu) :0.10 〜 0.40 wt.%、 ニッケル(Ni) :0.10 〜 0.50 wt.% からなる群から選んだ少なくとも1種、および、 クロム(Cr) :0.10 〜 1.00 wt.%、 モリブデン(Mo) :0.10 〜 0.50 wt.%、 バナジウム(V) :0.02 〜 0.08 wt.% からなる群から選んだ少なくとも1種を含有し、そし
    て、 残部が鉄(Fe)および不可避不純物からなる、化学成
    分組成を有する鋼塊または鋼片を調製し、 前記鋼塊または鋼片を、熱間圧延した後直ちに急冷する
    か、もしくは熱間圧延した後空冷しAc3点以上の温度に
    再加熱した後急冷して、鋼板を調製し、 次いで、前記急冷された鋼板を、下記(1)式で算出さ
    れる温度T( ℃)に加熱した後に急冷し、 (Ac1+Ac3)/2.1 ≦T<(Ac1+Ac3)/2.0 ---(1) 次いで、前記加熱後急冷された鋼板を、500℃以上 650
    ℃未満の範囲内の温度で焼もどしを行ない、 かくして、 降伏比が80%以下、引張強さが570N/mm2以上であっ
    て、溶接入熱が20KJ/mm以上の大入熱溶接施工に
    よる溶接ボンド部の−5℃におけるシャルピー吸収エネ
    ルギーを47J以上とすることを特徴とする、ボックス
    柱用低降伏比高張力鋼板の製造方法。」
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