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JP2021085665A - ガスセンサ及びクラック検出方法 - Google Patents

ガスセンサ及びクラック検出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】被測定ガスの酸素濃度が高い場合にクラックを検出可能なガスセンサ及びクラック検出方法を提供する。【解決手段】ガスセンサ100は、基準電極42と内側ポンプ電極22との間に流れる電流が限界電流となるような所定のポンプ電圧Vp3を基準電極42と内側ポンプ電極22との間に印加して、基準電極42の周囲から内側ポンプ電極22の周囲に酸素の汲み入れを行い、ポンプ電圧Vp3印加時に基準電極42と内側ポンプ電極22との間に流れるポンプ電流Ip3を取得し、取得したポンプ電流Ip3に基づいて、素子本体のクラックを検出する。【選択図】図6

Description

本発明は、ガスセンサ及びクラック検出方法に関する。
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおける酸素やNOxなどの特定ガス濃度を検出するガスセンサとして、安定化ジルコニアなどの固体電解質を用いたものが知られている。例えば、特許文献1には、被測定ガスが流通する排気チャンバに設けられた第1電極と、基準ガスが導入される大気ダクトに設けられた第2電極と、第1,2電極に挟まれた固体電解質層とを有するセンサ素子を備え、被測定ガス中の酸素濃度に応じてセンサ出力を生じさせるガスセンサが記載されている。また、特許文献1には、第2電極側から第1電極側に酸素を供給するように両電極間に所定電圧を印加し、酸素供給に伴い生じる両電極間の電流の変化速度を示す速度パラメータを算出し、その速度パラメータに基づいて固体電解質層のクラックを検出することが記載されている。特許文献1では、固体電解質層にクラックが生じると、大気チャンバに酸素濃度の低い被測定ガスが流入して第2電極周囲の酸素濃度が低くなり、第2電極側から第1電極側への電流が流れにくくなることを利用して、固体電解質層のクラックを検出している。
特開2014−235107号公報
しかしながら、特許文献1では、被測定ガスの酸素濃度が高い場合にはクラックを検出できないという問題があった。このため、被測定ガスの酸素濃度が高い場合にクラックを検出可能なガスセンサ及びクラック検出方法が望まれていた。
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、被測定ガスの酸素濃度が高い場合にクラックを検出可能なガスセンサ及びクラック検出方法を提供することを主目的とする。
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明のガスセンサは、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部に配設された被測定ガス側電極と、
前記素子本体の内部に配置された基準電極と、
前記被測定ガスの特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスを基準ガス入口から導入して前記基準電極に流通させるとともに前記基準ガスに対して拡散抵抗を付与する基準ガス導入部と、
前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる電流が限界電流となるような所定の検出用電圧を前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に印加して、前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲に酸素の汲み入れを行い、前記検出用電圧印加時に前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる検出用電流を取得し、取得した前記検出用電流に基づいて、前記素子本体のクラックを検出するクラック検出手段と、
を備えたものである。
このガスセンサでは、基準ガス導入部が基準ガスに対して拡散抵抗を付与するように形成されている。このため、基準電極と被測定ガス側電極との間に流れる電流が限界電流となるような所定の検出用電圧を両電極の間に印加して基準電極の周囲から被測定ガス側電極の周囲に酸素の汲み入れを行うと、基準ガス導入部に導入される酸素量に対応した検出用電流が流れる。このとき、例えば素子本体のうち被測定ガスに接触する被測定ガス側部分と基準ガスに接触する基準ガス側部分との間にクラックがあると、被測定ガス側部分の周囲の酸素がクラックを介して基準ガス導入部に導入される。このため、クラックがある場合には基準ガス導入部に導入される酸素量が増加し、クラックがない場合と比べて検出用電流が大きくなる。特に、被測定ガス側部分の周囲に存在する酸素が多いほどクラックの有無による検出用電流の差が大きくなるため、被測定ガスの酸素濃度が高いほど検出用電流に基づいてクラックを精度よく検出できる。したがって、本発明では、被測定ガスの酸素濃度が高い場合に、検出用電流に基づいて素子本体のクラックを検出できる。所定の検出用電圧は、同じ構造のガスセンサを用いて経験的に定めた値とすればよい。
本発明のガスセンサにおいて、前記クラック検出手段は、前記検出用電流が所定の検出用閾値を超える場合に、前記クラックが形成されていると判断してもよい。
本発明のガスセンサは、前記素子本体の内部に設けられたヒータ及び前記ヒータを覆うように配置され多孔質でガスの流通が可能なヒータ絶縁層を有するヒータ部と、前記基準ガス導入部のうち前記基準ガス入口より内側の部分と前記ヒータ部との間をガスの流通が可能な状態で連結する連結部と、を備えていてもよい。素子本体の内部にヒータを有するガスセンサでは、ヒータ昇温時などにヒータと被測定ガス流通部との間の部分の温度勾配が大きくなりやすくその部分に熱応力によるクラックが生じることがあるが、ヒータ絶縁層及び連結部を備えていれば、こうしたクラックを検出できる。例えば、素子本体のうちヒータ部と被測定ガス流通部との間の部分にクラックがある場合、被測定ガス流通部の酸素が、クラック、ヒータ絶縁層及び連結部を介して基準ガス導入部に導入され、クラックがない場合と比べて検出用電流が大きくなるため、検出用電流に基づいてクラックを検出できる。
本発明のガスセンサは、前記被測定ガス側電極を複数備え、前記クラック検出手段は、前記被測定ガス側電極の各々に対して個別に、前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる電流が限界電流となるような所定の検出用電圧を前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に印加して、前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲に酸素の汲み入れを行い、前記検出用電圧印加時に前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる検出用電流を取得し、前記被測定ガス側電極の各々に対して個別に取得した前記検出用電流に基づいて、前記クラックの位置を推定してもよい。基準電極の周囲から各被測定ガス側電極の周囲に酸素の汲み入れを行うと、被測定ガス側電極がクラックに近いほど被測定ガス側電極の周囲に汲み入れられた酸素がクラックに到達しやすく、クラックを介して基準ガス導入部に到達しやすい。このため、基準電極と被測定ガス側電極のうちクラックに近い電極との間に検出用電圧を印加した場合には、クラックがある場合の検出用電流が大きくなりやすい。このため、被測定ガス側電極の各々に対して個別に測定した検出用電流に基づいて、クラックの位置を推定できる。
本発明のクラック検出方法は、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部に配設された被測定ガス側電極と、
前記素子本体の内部に配置された基準電極と、
前記被測定ガスの特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスを基準ガス入口から導入して前記基準電極に流通させるとともに前記基準ガスに対して拡散抵抗を付与する基準ガス導入部と、
を備えたセンサ素子のクラック検出方法であって、
前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる電流が限界電流となるような所定の検出用電圧を前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に印加して、前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲に酸素の汲み入れを行い、前記検出用電圧印加時に前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる検出用電流を取得し、取得した前記検出用電流に基づいて、前記素子本体のクラックを検出する、
ものである。
このクラック検出方法では、上述したガスセンサと同様に、クラックがあると検出用電流が大きくなることを利用して、素子本体のクラックを検出できる。
ガスセンサ100の縦断面図。 センサ素子101の構成の一例を概略的に示した断面模式図。 制御装置95と各セルとの電気的な接続関係を示すブロック図。 クラック検出処理の一例を示すフローチャート。 ポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係の一例を示すV−I曲線。 クラック検出処理時の酸素の流れを示す説明図。 被測定ガスの酸素濃度とIp3の限界電流値との関係の一例を示すグラフ。 変形例のセンサ素子201の断面模式図。
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ100の縦断面図である。図2は、ガスセンサ100が備えるセンサ素子101の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。図3は、制御装置95と各セルとの電気的な接続関係を示すブロック図である。なお、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(図2の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(図2の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。
図1に示すように、ガスセンサ100は、センサ素子101と、センサ素子101の前端側を保護する保護カバー130と、センサ素子101と導通するコネクタ150を含むセンサ組立体140と、制御装置95(図3参照)とを備えている。このガスセンサ100は、図示するように例えば車両の排ガス管などの配管190に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2等の特定ガスの濃度を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。
保護カバー130は、センサ素子101の前端を覆う有底筒状の内側保護カバー131と、この内側保護カバー131を覆う有底筒状の外側保護カバー132とを備えている。内側保護カバー131及び外側保護カバー132には、被測定ガスを保護カバー130内に流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー131で囲まれた空間としてセンサ素子室133が形成されており、センサ素子101の前端はこのセンサ素子室133内に配置されている。
センサ組立体140は、センサ素子101を封入固定する素子封止体141と、素子封止体141に取り付けられたボルト147,外筒148と、センサ素子101の後端の表面(上下面)に形成された図示しないコネクタ電極(後述するヒータコネクタ電極71のみ図2に図示した)に接触してこれらと電気的に接続されたコネクタ150と、を備えている。
素子封止体141は、筒状の主体金具142と、主体金具142と同軸に溶接固定された筒状の内筒143と、主体金具142及び内筒143の内側の貫通孔内に封入されたセラミックスサポーター144a〜144c,圧粉体145a,145b,メタルリング146と、を備えている。センサ素子101は素子封止体141の中心軸上に位置しており、素子封止体141を前後方向に貫通している。内筒143には、圧粉体145bを内筒143の中心軸方向に押圧するための縮径部143aと、メタルリング146を介してセラミックスサポーター144a〜144c,圧粉体145a,145bを前方に押圧するための縮径部143bとが形成されている。縮径部143a,143bからの押圧力により、圧粉体145a,145bが主体金具142及び内筒143とセンサ素子101との間で圧縮されることで、圧粉体145a,145bが保護カバー130内のセンサ素子室133と外筒148内の空間149との間を封止すると共に、センサ素子101を固定している。
ボルト147は、主体金具142と同軸に固定されており、外周面に雄ネジ部が形成されている。ボルト147の雄ネジ部は、配管190に溶接され内周面に雌ネジ部が設けられた固定用部材191内に挿入されている。これにより、ガスセンサ100のうちセンサ素子101の前端や保護カバー130の部分が配管190内に突出した状態で、ガスセンサ100が配管190に固定されている。
外筒148は、内筒143,センサ素子101,コネクタ150の周囲を覆っており、コネクタ150に接続された複数のリード線155が後端から外部に引き出されている。このリード線155は、コネクタ150を介してセンサ素子101の各電極(後述)と導通している。外筒148とリード線155との隙間はゴム栓157によって封止されている。外筒148内の空間149は基準ガス(本実施形態では大気)で満たされている。センサ素子101の後端はこの空間149内に配置されている。
図2に示すように、センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された積層体を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
センサ素子101の一端(図2の左側)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。また、第4拡散律速部60は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。
第3基板層3の上面と第1固体電解質層4の下面との間には、大気導入層48が設けられている。大気導入層48は、例えばアルミナなどのセラミックスからなる多孔質体である。大気導入層48は、後端面が入口部48cとなっており、この入口部48cはセンサ素子101の後端面に露出している。入口部48cは、図1の空間149内に露出している(図1参照)。大気導入層48には、この入口部48cから、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスが導入される。基準ガスは、本実施形態では大気(図1の空間149内の雰囲気)とした。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。この大気導入層48は、入口部48cから導入された基準ガスに対して所定の拡散抵抗を付与しつつこれを基準電極42に導入する。
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、大気導入層48が設けられている。なお、基準電極42は、第3基板層3の上面に直に形成されており、第3基板層3の上面に接する部分以外が大気導入層48に覆われている。ただし、基準電極42は少なくとも一部が大気導入層48に覆われていればよい。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内,第2内部空所40内,第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。基準電極42は、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。
被測定ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間(図1のセンサ素子室133)に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが直に形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力(電圧V0)を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、電圧V0が目標値となるように可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
第2内部空所40は、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4の上面には、底部電極部51bが直に形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力(電圧V1)に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その電圧V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。第4拡散律速部60は、第3内部空所61に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
第3内部空所61は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所61において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に直に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、内側ポンプ電極22よりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力(電圧V2)に基づいて可変電源46が制御される。
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部60を通じて第3内部空所61内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力(電圧Vref)によりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
また、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とによって、電気化学的なポンプセル、すなわち、検出用第1ポンプセル85が構成されている。この検出用第1ポンプセル85は、基準電極42と内側ポンプ電極22との間に接続された可変電源86が印加するポンプ電圧Vp3によりポンプ電流Ip3が流れることで、酸素のポンピングを行う。これにより、検出用第1ポンプセル85は、基準電極42の周囲の空間(大気導入層48)から内側ポンプ電極22の周囲の空間(第1内部空所20)に酸素の汲み入れを行う。
また、補助ポンプ電極51と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とによって、電気化学的なポンプセル、すなわち、検出用第2ポンプセル87が構成されている。この検出用第2ポンプセル87は、基準電極42と補助ポンプ電極51との間に接続された可変電源88が印加するポンプ電圧Vp4によりポンプ電流Ip4が流れることで、酸素のポンピングを行う。これにより、検出用第2ポンプセル87は、基準電極42の周囲の空間(大気導入層48)から補助ポンプ電極51の周囲の空間(第2内部空所40)に酸素の汲み入れを行う。
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とによって、電気化学的なポンプセルセル、すなわち、検出用第3ポンプセル89が構成されている。この検出用第3ポンプセル89は、基準電極42と測定電極44との間に接続された可変電源90が印加するポンプ電圧Vp5によりポンプ電流Ip5が流れることで、酸素のポンピングを行う。これにより、検出用第3ポンプセル89は、基準電極42の周囲の空間(大気導入層48)から測定電極44の周囲の空間(第3内部空所61)に酸素の汲み入れを行う。
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75とを備えている。
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成された多孔質の絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
圧力放散孔75は、第3基板層3及び大気導入層48を貫通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。圧力放散孔75は、大気導入層48のうち基準ガスの入口(ここでは入口部48c)よりも内側の部分と、ヒータ部70と、の間をガスの流通が可能な状態で連結している。
なお、図2に示した可変電源24,46,52,86,88,90などは、実際にはセンサ素子101内に形成された図示しないリード線や図1のコネクタ150及びリード線155を介して、各電極と接続されている。
制御装置95は、上述した可変電源24,46,52,86,88,90と、制御部91と、を備えている。制御部91は、CPU92及び記憶部94などを備えたマイクロプロセッサである。記憶部94は、各種プログラムや各種データを記憶する装置である。制御部91は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80にて検出される電圧V0、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される電圧V1、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧V2、センサセル83にて検出される電圧Vref、主ポンプセル21にて検出されるポンプ電流Ip0、補助ポンプセル50にて検出されるポンプ電流Ip1及び測定用ポンプセル41にて検出されるポンプ電流Ip2、検出用第1ポンプセル85にて検出されるポンプ電流Ip3、検出用第2ポンプセル87にて検出されるポンプ電流Ip4、検出用第3ポンプセル89にて検出されるポンプ電流Ip5を入力する。また、制御部91は可変電源24,46,52,86,88,90へ制御信号を出力することで可変電源24,46,52,86,88,90が出力する電圧Vp0,Vp1,Vp2,Vp3,Vp4,Vp5を制御し、これにより、主ポンプセル21,測定用ポンプセル41,補助ポンプセル50,検出用第1ポンプセル85,検出用第2ポンプセル87,検出用第3ポンプセル89を制御する。記憶部94には、後述する目標値V0*,V1*,V2*なども記憶されている。制御部91のCPU92は、これらの目標値V0*,V1*,V2*を参照して、各セル21,41,50の制御を行い、後述するNOx濃度検出処理を行う。また、記憶部94には、後述する設定値Vsp3,Vsp4,Vsp5なども記憶されている。制御部91のCPU92は、これらの設定値Vsp3,Vsp4,Vsp5を参照して、各セル85,87,89の制御を行い、後述するクラック検出処理を行う。なお、制御部91は、NOx濃度検出処理を行う際には、各セル85,87,89を作動させない、つまり、電圧Vp3,Vp4,Vp5を出力しないように可変電源86,88,90を制御する。
次に、ガスセンサ100を用いて被測定ガス中のNOx濃度を検出するNOx濃度検出処理の一例について説明する。NOx濃度検出処理が開始されると、制御装置95の制御部91は、電圧V0が目標値(目標値V0*と称する)となるように(つまり第1内部空所20の酸素濃度が目標濃度となるように)可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御する。ポンプ電流Ip0は被測定ガスの酸素濃度ひいては被測定ガスの空燃費(A/F)に応じて変化する。
また、制御部91は、電圧V1が一定値(目標値V1*と称する)となるように(つまり第2内部空所40の酸素濃度がNOxの測定に実質的に影響がない所定の低酸素濃度となるように)可変電源52の電圧Vp1をフィードバック制御する。これとともに、制御部91は、電圧Vp1によって流れるポンプ電流Ip1が一定値(目標値Ip1*と称する)となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値V0*を設定(フィードバック制御)する。これにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となる。また、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧が、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御される。目標値V0*は、第1内部空所20の酸素濃度が0%よりは高く且つ低酸素濃度となるような値に設定される。
さらに、制御部91は、電圧V2が一定値(目標値V2*と称する)となるように(つまり第3内部空所61内の酸素濃度が所定の低濃度になるように)可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御する。これにより、被測定ガス中のNOxが第3内部空所61で還元されることにより発生した酸素が実質的にゼロとなるように、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。そして、制御部91は、特定ガス(ここではNOx)に由来して第3内部空所61で発生する酸素に応じた検出値としてポンプ電流Ip2を取得し、このポンプ電流Ip2に基づいて被測定ガス中のNOx濃度を算出する。このように、センサ素子101内に導入された被測定ガス中の特定ガスに由来する酸素の汲み出しを行い、汲み出す酸素量に基づいて(本実施形態ではポンプ電流Ip2に基づいて)特定ガス濃度を検出する方式を、限界電流方式と称する。
記憶部94には、ポンプ電流Ip2とNOx濃度との対応関係として、関係式(例えば一次関数の式)やマップなどが記憶されている。このような関係式又はマップは、予め実験により求めておくことができる。制御部91のCPU92は、取得したポンプ電流Ip2と記憶部94に記憶された対応関係とに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を検出する。
次に、ガスセンサ100におけるクラック検出処理の一例について、図4を用いて説明する。図4は、クラック検出処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、例えば一定時間毎などの所定のクラック検出タイミングで実行される。ここでは、上述したNOx濃度検出処理に引き続いてクラック検出処理を行う場合について説明する。
クラック検出処理が開始されると、制御部91は、まず、被測定ガスの酸素濃度情報を取得する(S100)。ここでは、制御部91は、酸素濃度情報として上述のNOx濃度検出処理で検出されたポンプ電流Ip0を入力する。記憶部94には、ポンプ電流Ip0と被測定ガスの酸素濃度との対応関係として関係式(例えば一次関数の式)やマップなどが記憶されているものとし、制御部91のCPU92は取得したポンプ電流Ip0と記憶部94に記憶された対応関係とに基づいて被測定ガスの酸素濃度を導出するものとしてもよい。被測定ガスの酸素濃度情報を取得すると、制御部91は、ポンプ電圧Vp0,Vp1,Vp2の印加を中止して(S110)、NOx濃度検出処理を一旦中断する。続いて、制御部91は、設定値Vsp3に設定されたポンプ電圧Vp3を印加するように検出用第1ポンプセル85の可変電源86を制御する(S120)。これにより、基準電極42の周囲から内側ポンプ電極22の周囲の空間(第1内部空所20)に酸素の汲み入れが行われ、ポンプ電流Ip3が流れる。そして、制御部91は、このときのポンプ電流Ip3を入力し(S130)、ポンプ電圧Vp3の印加を中止する(S140)。続いて、制御部91は、設定値Vsp4に設定されたポンプ電圧Vp4を印加するように検出用第2ポンプセル87の可変電源88を制御する(S150)。これにより、基準電極42の周囲から補助ポンプ電極51の周囲の空間(第2内部空所40)に酸素の汲み入れが行われ、ポンプ電流Ip4が流れる。そして、制御部91は、このときのポンプ電流Ip4を入力し(S160)、ポンプ電圧Vp4の印加を中止する(S170)。続いて、制御部91は、設定値Vsp5に設定されたポンプ電圧Vp5を印加するように検出用第3ポンプセル89の可変電源90を制御する(S180)。これにより、基準電極42の周囲から測定電極44の周囲の空間(第3内部空所61)に酸素の汲み入れが行われ、ポンプ電流Ip5が流れる。そして、制御部91は、このときのポンプ電流Ip5を入力し(S190)、ポンプ電圧Vp5の印加を中止する(S200)。こうしてポンプ電流Ip3〜Ip5を入力すると、制御部91は、記憶部94に記憶された検出用閾値Tp3〜Tp5に基づいて、ポンプ電流Ip3が検出用閾値Tp3以上であるか、ポンプ電流Ip4が検出用閾値Tp4以上であるか、ポンプ電流Ip5が検出用閾値Tp5以上であるか、の1以上を満たすか否かを判定する(S210)。制御部91は、S210において上述した1以上を満たすならば、センサ素子101にクラックがあると判定し、クラックの位置を推定する処理を行う(S220)。S220の詳細については後述する。その後、制御部91は、クラック検出信号とクラック位置を外部に出力し(S230)、本ルーチンを終了し、必要に応じてNOx濃度検出処理を再開する。一方、制御部91は、S210で上述した1以上を満たさないならば、そのまま本ルーチンを終了し、必要に応じてNOx濃度検出処理を再開する。
ポンプ電圧Vp3の設定値Vsp3及びポンプ電流Ip3の検出用閾値Tp3は、予め実験を行ってポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係を示すV−I曲線を取得し、得られたV−I曲線に基づいて設定することができる。設定値Vsp4,Vsp5及び検出用閾値Tp4,Tp5も同様である。ここではまず、V−I曲線を取得する実験の一例として、ポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係を示すV−I曲線を取得する実験について説明する。まず、クラック有りのセンサ素子101とクラック無しのセンサ素子101とを準備する。クラック有りのセンサ素子101は、例えば素子を急昇温することによりセンサ素子101の内部にクラックを形成してもよい。クラックは、例えば、後述する図6に示すように、第1内部空所20とヒータ部70との間に形成する。次に、各センサ素子101について、センサ素子101のガス導入口10側が所定の被測定ガス(ここではモデルガス)中に配置され、大気導入層48の入口部48c側が大気中に配置されるようにガスセンサ100を配置し、ヒータ72に通電してセンサ素子101を所定の駆動温度(例えば850℃)まで加熱する。可変電源24,52,46,86,88,90はいずれも電圧を印加しない状態とする。センサ素子101の温度が安定した後、基準電極42の周囲から内側ポンプ電極22の周囲への酸素の汲み入れが行われるように、可変電源86によって基準電極42と内側ポンプ電極22との間にポンプ電圧Vp3を印加する。ポンプ電圧Vp3は、徐々に(例えば2mV/sec)増加させながら印加する。そして、このときに流れるポンプ電流Ip3を測定し、ポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係を示すV−I曲線を得る。ポンプ電圧Vp4とポンプ電流Ip4との関係を示すV−I曲線や、ポンプ電圧Vp5とポンプ電流Ip5との関係を示すV−I曲線についても、ポンプ電圧を印加しポンプ電流を測定する電極を変更する以外は、ポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係を示すV−I曲線と同様に取得すればよい。
図5に、ポンプ電圧Vp3とポンプ電流Ip3との関係を示すV−I曲線の一例を示す。図5に示すように、ポンプ電圧Vp3が低いうちはポンプ電圧Vp3の増加に伴いポンプ電流Ip3が増加するが、ポンプ電圧Vp3が高くなるとポンプ電圧Vp3が増加してもポンプ電流Ip3が増加せずに飽和するようになる。このようにポンプ電圧が増加してもポンプ電流が増加せずに飽和する飽和値を限界電流値という。図5に示すように、クラック有りのセンサ素子101では、クラック無しのセンサ素子101よりもポンプ電流Ip3の限界電流値が高くなる。この理由は以下のように推察される。
ガスセンサ100において、クラック検出処理が開始され、ポンプ電圧Vp3が印加されると、図6に示すように、基準電極42の周囲の空間から内側ポンプ電極22の周囲の空間に酸素の汲み入れが行われる。ここで、センサ素子101にクラックが有ると、センサ素子室133(図1参照)から被測定ガス流通部に導入された被測定ガスに含まれる酸素及びポンプ電流Ip3によって内側ポンプ電極22の周囲の空間に汲み入れられた酸素のうちの少なくとも一方がクラックを介してヒータ絶縁層74に到達し、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75及び大気導入層48を通って基準電極42の周囲に到達するため、基準電極42の周囲の酸素量が増加する。このため、センサ素子101にクラックが有る場合には、クラックが無い場合よりも、ポンプ電流Ip3の限界電流値が大きくなる。このため、ガスセンサ100では、ポンプ電流Ip3に基づいてクラックを検出できる。ポンプ電流Ip4,Ip5も、Ip3と同様に、クラックがある場合にはクラックがない場合よりも限界電流値が大きくなる。したがって、ガスセンサ100では、ポンプ電流Ip4やポンプ電流Ip5に基づいてクラックを検出できる。
ポンプ電圧Vp3の設定値Vsp3は、ポンプ電流Ip3が限界電流となるようなポンプ電圧Vp3の電圧範囲(例えば図5の限界電流範囲)から選択すればよい。ポンプ電圧Vp4,Vp5の設定値Vsp4,Vsp5についても、ポンプ電圧Vp3の設定値Vsp3と同様に設定すればよい。なお、設定値Vsp3,Vsp4,Vsp5は全て同じ値としてもよいし、Vsp3,Vsp4,Vsp5のうちの1以上を異なる値としてもよい。また、ポンプ電流Ip3の検出用閾値Tp3は、設定値Vsp3に設定されたポンプ電圧Vp3を印加したときに、クラック無しの場合のポンプ電流Ip3よりも高くクラック有りの場合のポンプ電流Ip3よりも低い電流範囲から選択すればよく、クラック無しの場合のポンプ電流Ip3とクラック有りの場合のポンプ電流Ip3とを区別できるように定めればよい。例えば図5に示すように、クラック無しの場合のポンプ電流Ip3をNp3とし、クラック有りの場合のポンプ電流Ip3をCp3として、Np3とCp3との間の電流範囲から選択してもよい。なお、図5では、検出用閾値Tp3を定めるにあたり、クラック有りとクラック無しのセンサ素子101を1本ずつ準備した場合について説明したが、各々複数準備し、それぞれについてV−I曲線を取得し、Np3の最大値とCp3の最小値との間の電流範囲から検出用閾値Tp3を選択してもよい。ポンプ電流Ip4,Ip5の検出用閾値Tp4,Tp5についても、ポンプ電流Ip3の検出用閾値Tp3と同様に設定すればよい。
ところで、上述したように、ガスセンサ100では、被測定ガス流通部に存在する酸素、例えば被測定ガス流通部に導入された被測定ガスに含まれる酸素がクラックを介して基準電極42の周囲に到達する。このため、センサ素子101にクラックがある場合には、図7に破線で示すように、被測定ガスの酸素濃度が高くなるほどポンプ電流Ip3の限界電流値は大きくなる。一方で、センサ素子101にクラックがない場合には被測定ガス流通部に存在する酸素が基準電極42の周囲に到達することがない。このため、センサ素子101にクラックがない場合には、図7に実線で示すように、被測定ガスの酸素濃度に関わらずポンプ電流Ip3の限界電流値は略一定となる。このように、ガスセンサ100では、被測定ガスの酸素濃度が高いほど、クラックがある場合とクラックがない場合とのポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5の限界電流値の差が大きくなる。そこで、ここでは、検出用閾値Tp3は、被測定ガスの酸素濃度が高いほど高くなる傾向で変化させる。検出用閾値Tp3は、例えば図7に一点鎖線で示すように被測定ガスの酸素濃度との関係が一次関数となるように直線的に変化させてもよいし、段階的に変化させてもよい。検出用閾値Tp3は、図7に一点鎖線で示すように各酸素濃度においてCp3からTp3を引いた差とTp3からNp3を引いた差との比率が略一定となるように変化させてもよい。検出用閾値Tp3を被測定ガスの酸素濃度と対応付けて変化させるにあたり、記憶部94には、検出用閾値Tp3と被測定ガスの酸素濃度との対応関係を示す式又はマップを記憶させてもよい。その場合、制御部91は、S100で取得した被測定ガスの酸素濃度と、記憶部94に記憶された式又はマップとを用いて検出用閾値Tp3を導出すればよい。検出用閾値Tp4,Tp5についても同様である。
次に、S220のクラック位置の推定について説明する。ガスセンサ100では、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44のうち、クラックに近い電極では、汲み入れられた酸素がクラックに到達しやすく、クラックを介して基準電極42に到達しやすいため、ポンプ電流の限界電流値が大きくなりやすい。制御部91は、このことを利用して、クラックの位置を推定する。クラックの位置を推定する処理では、例えば、入力したポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5から各々の検出用閾値を引いた差が最も大きい電極の周囲にクラックが形成されていると推定してもよい。また例えば、入力したポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5のうち各々の検出用閾値以上のものが1つしかない場合には、入力したポンプ電流が検出用閾値以上となる電極の周囲にクラックが形成されていると推定してもよい。
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1基板層1,第2基板層2,第3基板層3,第1固体電解質層4,スペーサ層5及び第2固体電解質層6が本発明の素子本体に相当し、ガス導入口10,第1拡散律速部11,緩衝空間12,第2拡散律速部13,第1内部空所20,第3拡散律速部30,第2内部空所40,第4拡散律速部60及び第3内部空所61が被測定ガス流通部に相当し、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44のそれぞれが被測定ガス側電極に相当し、基準電極42が基準電極に相当し、大気導入層48が基準ガス導入部に相当し、入口部48cが基準ガス入口に相当し、ガスセンサ100がガスセンサに相当する。また、設定値Vsp3に設定されたポンプ電圧Vp3,設定値Vsp4に設定されたポンプ電圧Vp4,設定値Vsp5に設定されたポンプ電圧Vp5が検出用電圧に相当し、各検出用電圧を印加したときのポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5のそれぞれが検出用電流に相当し、制御部91がクラック検出手段に相当する。また、検出用閾値Tp3,Tp4,Tp5が検出用閾値に相当する。また、ヒータ72がヒータに相当し、ヒータ絶縁層74がヒータ絶縁層に相当し、ヒータ部70がヒータ部に相当し、圧力放散孔75が連結部に相当する。また、センサ素子101がセンサ素子に相当する。また、上述した実施形態では、ガスセンサ100の動作を説明することにより、本発明のクラック検出方法の一例も明らかにしている。
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100では、上述したとおり、設定値Vsp3に設定されたポンプ電圧Vp3を印加したときのポンプ電流Ip3,設定値Vsp4に設定されたポンプ電圧Vp4を印加したときのポンプ電流Ip4,設定値Vsp5に設定されたポンプ電圧Vp5を印加したときのポンプ電流Ip5、のうちのいずれか1以上に基づいて素子本体のクラックを検出できる。特に、ガスセンサ100では、上述したとおり、被測定ガスの酸素濃度が高いほどクラックがある場合とクラックがない場合とのポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5の限界電流値の差が大きくなるため、被測定ガスの酸素濃度が高いほどクラックを精度よく検出できる。なお、ガスセンサ100では、基準電極42の周囲から被測定ガス側電極(内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44)の周囲に酸素の汲み入れを行うため、被測定ガス自体に酸素が含まれていなくても、被測定ガス流通部には酸素が存在し、この酸素がクラックを介して基準電極42の周囲に到達する。このため、被測定ガス自体に酸素が含まれていない場合でもポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5に基づいて素子本体のクラックを検出できる。また、ガスセンサ100では、被測定ガスにNOxなどの酸化物が含まれていれば、それらが被測定ガス側電極(例えばNOxに対する還元能力を高めた材料で構成された測定電極44)で還元されて酸素を発生し、発生した酸素がクラックを介して基準電極42の周囲に到達する。このため、被測定ガス自体に酸素が含まれていない場合でもポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5に基づいて素子本体のクラックを検出できる。
また、ガスセンサ100では、ヒータ絶縁層74及び圧力放散孔75を備えているため、被測定ガス流通部とヒータ部70との間のクラックを検出できる。
さらに、ガスセンサ100では、ポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5を取得するため、このポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5に基づいてクラック位置を推定できる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
上述した実施形態では、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44を被測定ガス側電極として用いたが、これらのうちの1つ又は2つを被測定ガス側電極として用いなくてもよい。つまり、制御部91は、内側ポンプ電極22を含む検出用第1ポンプセル85を用いたS120〜S140の処理,補助ポンプ電極51を含む検出用第2ポンプセル87を用いたS150〜S170の処理,測定電極44を含む検出用第3ポンプセル89を用いたS180〜S200の処理のうちの1つ又は2つを行わなくてもよい。その場合、検出用第1ポンプセル85及びそれに接続された可変電源86,検出用第2ポンプセル87及びそれに接続された可変電源88,検出用第3ポンプセル89及びそれに接続された可変電源90のうちの1つ又は2つを省略してもよい。例えば、後述する図8のガスセンサ200のように、検出用第1ポンプセル85及びそれに接続された可変電源86を備え、検出用第2ポンプセル87及びそれに接続された可変電源88や、検出用第3ポンプセル89及びそれに接続された可変電源90を備えなくてもよい。また、制御部91は、上述した、S120〜S140の処理、S150〜S170の処理、S180〜S200の処理を、順序を入れ替えて行ってもよい。
また、上述した実施形態では、制御部91は、S120〜S200の処理を全て行った後にポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5のうちの1以上が検出用閾値以上か否かをまとめて判定したが、S120〜S140の処理,S150〜S170の処理,S180〜S200の処理を行うごとに、ポンプ電流が検出用閾値以上か否かを個別に判定してもよい。その場合、ポンプ電流が検出用閾値以上であればクラック検出信号を外部に出力して残りの処理を行わずに本ルーチンを終了し、ポンプ電流が検出用閾値未満であれば引き続き残りの処理を行ってもよい。このように、クラックの位置の推定は行わずにクラックの検出のみを行ってもよい。
上述した実施形態では、検出用閾値Tp3は、被測定ガスの酸素濃度が高いほど高くなる傾向で変化させたが、検出用閾値Tp3は、被測定ガスの酸素濃度にかかわらず一定の値としてもよい。上述の通り、センサ素子101にクラックがある場合には被測定ガスの酸素濃度が高くなるほどポンプ電流Ip3の限界電流値は大きくなる一方で、センサ素子101にクラックがない場合には被測定ガスの酸素濃度に関わらずポンプ電流Ip3の限界電流値は略一定となる。このため、被測定ガスの酸素濃度が低いときにクラック無しの場合のポンプ電流Ip3とクラック有りの場合のポンプ電流Ip3とを区別できるように検出用閾値Tp3を定めれば、被測定ガスの酸素濃度がそれよりも高い場合にもクラックを検出できる。検出用閾値Tp4,Tp5についても同様である。
上述した実施形態において、設定値Vsp3は、被測定ガスの酸素濃度に関わらず一定としてもよいし、被測定ガスの酸素濃度に応じて変化させてもよい。設定値Vsp3は、被測定ガスの酸素濃度が高いほど高くなる傾向で変化させてもよく、例えば被測定ガスの酸素濃度との関係が一次関数となるように直線的に変化させてもよいし、段階的に変化させてもよい。設定値Vsp3を被測定ガスの酸素濃度と対応付けて変化させるにあたり、記憶部94には、設定値Vsp3と被測定ガスの酸素濃度との対応関係を示す式又はマップを記憶させてもよい。その場合、制御部91は、S100で取得した被測定ガスの酸素濃度と、記憶部94に記憶された式又はマップとを用いて設定値Vsp3を導出すればよい。設定値Vsp4,Vsp5についても同様である。
上述した実施形態では、制御部91は、S100で被測定ガスの酸素濃度情報を取得したが、例えば、被測定ガスの酸素濃度が既知の場合や、被測定ガスの酸素濃度にかかわらず検出用閾値Tp3,Tp4,Tp5や設定値Vsp3,Vsp4,Vsp5を一定の値とする場合には、S100を省略してもよい。
上述した実施形態において、制御部91は、S100の後に、被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれているか否かを判定する処理を行ってもよい。この処理で被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれていたならば、制御部91はS110以降の処理を行う一方、被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれていないならば、制御部91はそのまま本ルーチンを終了して必要に応じてNOx濃度検出処理を再開してもよい。上述した通り、ガスセンサ100では、被測定ガスの酸素濃度が高いほどポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5に基づいてクラックを精度よく検出できる。したがって、被測定ガスの酸素濃度が高い場合にポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5に基づいてクラックを検出する処理を行うことで、素子本体のクラックを効率よく検出できる。被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれるか否かを判定する処理においては、求められるクラック検出精度に応じて、所定の高濃度領域を設定してもよい。例えば、酸素濃度が1%以上の領域や、3%以上の領域、5%以上の領域などを所定の高濃度領域としてもよい。被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれるか否かを判定する処理において、制御部91は、S100で入力したポンプ電流Ip0が所定の閾値以上である場合に被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれると判定してもよい。所定の閾値は、被測定ガスの酸素濃度が所定の高濃度領域に含まれるようなポンプ電流Ip0の下限値としてもよく、ポンプ電流Ip0と被測定ガスの酸素濃度との対応関係から予め導出され、記憶部94に記憶されていてもよい。
上述した実施形態において、制御部91は、S100の後に、被測定ガスの酸素濃度が所定の低濃度領域に含まれているか否かを判定する処理を行ってもよい。この処理で被測定ガスの酸素濃度が所定の低濃度領域に含まれていたならば、制御部91はS110以降の処理をそのまま行う一方、被測定ガスの酸素濃度が所定の低濃度領域に含まれていないならば、制御部91はS110以降の処理を行うにあたり、クラック位置を推定する処理(S220)を省略するとともにS230においてクラック位置の外部への出力を省略してクラックの検出のみを行ってもよい。上述した通り、S220では、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44のうちクラックに近い電極では汲み入れられた酸素がクラックに到達しやすいことを利用してクラックの位置を推定する。このため、被測定ガス流通部に存在する酸素のうち汲み入れられた酸素の割合が多いほど、つまり被測定ガスの酸素濃度が低いほど、クラックの位置を精度よく推定できる。したがって、被測定ガスの酸素濃度が低い場合にクラック位置を推定する処理を行うことで、素子本体のクラック位置を精度よく推定できる。被測定ガスの酸素濃度が所定の低濃度領域に含まれるか否かを判定する処理においては、求められるクラック位置の推定精度に応じて、所定の低濃度領域を設定してもよい。例えば、被測定ガス流通部に存在する酸素のうち汲み入れられた酸素の割合が十分に大きくなる領域として、酸素濃度が5%以下の領域や、3%以下の領域、1%以下の領域などを所定の低濃度領域としてもよい。また、所定の低濃度領域は、上述した高濃度領域よりも酸素濃度が低い領域としてもよい。被測定ガスの酸素濃度が所定の低濃度領域に含まれるか否かを判定する処理において、制御部91は、S100で入力したポンプ電流Ip0が所定の閾値以下である場合に被測定ガスの酸素濃度が所定の低濃度領域に含まれていると判定してもよい。所定の閾値は、被測定ガスの酸素濃度が所定の低濃度領域に含まれるようなポンプ電流Ip0の上限値としてもよく、ポンプ電流Ip0と被測定ガスの酸素濃度との対応関係から予め導出され、記憶部94に記憶されていてもよい。
上述した実施形態では、制御部91は、酸素濃度情報を取得するにあたり、NOx濃度検出処理で検出されたポンプ電流Ip0を入力したが、これに限定されない。例えば、制御部91は、酸素濃度情報を取得するにあたり、NOx濃度検出処理とは別に酸素濃度を検出する処理のみを行ってもよい。その場合、制御部91は、電圧V0が目標値V0*となるように可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御し、そのときのポンプ電流Ip0を入力してもよい。また、制御部91は、酸素濃度情報を取得するにあたり、他のガスセンサで測定した酸素濃度情報を取得してもよい。他のガスセンサで測定した酸素濃度情報を取得する場合、他のガスセンサは、自らと同種のガスセンサ(ここではNOxセンサ)でもよいし、異種のガスセンサでもよい。他のガスセンサは、例えば、限界電流検出型の酸素センサとしてもよいし、電位検出型の酸素センサ(ラムダセンサ)としてもよい。NOx濃度検出処理以外の方法で酸素濃度情報を取得する場合には、NOx濃度検出処理に引き続いてクラック検出処理を行う必要はない。
上述した実施形態では、第1内部空所20とヒータ部70との間のクラックの検出について説明したが、その他のクラックを検出することもできる。例えば、第1内部空所20以外の被測定ガス流通部(例えば緩衝空間12,第2内部空所40、第3内部空所61)とヒータ部70との間のクラックも検出できる。また例えば、被測定ガス流通部と大気導入層48との間のクラックも検出できる。このようなクラックがある場合でも、センサ素子室133(図1参照)から被測定ガス流通部に導入された被測定ガスに起因する酸素(例えば被測定ガス自体に含まれる酸素や被測定ガスに含まれる酸化物が還元されて発生した酸素)及び検出用電流によって被測定ガス流通部に汲み入れられた酸素のうちの少なくとも一方がクラックを介して基準電極42の周囲に到達し、基準電極42の周囲の酸素量が増加する。このため、ガスセンサ100では、ポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5に基づいてクラックを検出できる。また、被測定ガスに酸素が含まれる場合には、素子本体の外側のうちセンサ素子室133に配置される部分とヒータ部70や大気導入層48との間のクラックも検出できる。このようなクラックがある場合でも、被測定ガスに含まれる酸素がセンサ素子室133からクラックを介して基準電極42の周囲に到達し、基準電極42の周囲の酸素量が増加するため、ガスセンサ100では、ポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5に基づいてクラックを検出できる。
上述した実施形態では、大気導入層48は基準電極42からセンサ素子101の長手方向の後端面までに亘って配設されていたが、これに限られない。図8は、この場合の変形例のセンサ素子201の断面模式図である。図8に示すように、センサ素子201は、大気導入層248の上方に基準ガス導入空間43を有している。基準ガス導入空間43は、第3基板層3の上面とスペーサ層5の下面との間であって側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に配設された空間である。基準ガス導入空間43の後端は、センサ素子201の後端面に開口している。基準ガス導入空間43は、前後方向で圧力放散孔75よりも前方まで配設されており、圧力放散孔75は基準ガス導入空間43に開口している。大気導入層248は、大気導入層48とは異なり、センサ素子201の後端までは配設されていない。そのため、大気導入層248はセンサ素子201の後端面には露出していない。代わりに、大気導入層248の上面の一部が基準ガス導入空間43に露出している。この露出部分が大気導入層248の入口部48cとなっている。大気導入層248には、この基準ガス導入空間43を介して入口部48cから基準ガスが導入される。なお、センサ素子201において、大気導入層248の後端がセンサ素子201の後端まで配設されていてもよい。図8の態様では、大気導入層248と基準ガス導入空間43とが、基準ガス導入部に相当し、基準ガス導入空間43の後端側の開口が基準ガス入口に相当する。なお、図8の態様において、圧力放散孔75は基準ガス導入空間43に開口するのではなく、第1固体電解質層4に突き当たる位置に設けられていてもよい。こうすれば、クラック及びヒータ絶縁層74を介して圧力放散孔75に到達した酸素が、大気中に放出されにくく、基準電極42の周囲に到達しやすいため、ポンプ電流Ip3,Ip4,Ip5に基づいてクラックを精度よく検出できる。
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、上述した図8のセンサ素子201のように、第3内部空所61を備えないものとしてもよい。図8に示した変形例のセンサ素子201では、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。また、測定電極44は、第2内部空所40内の第1固体電解質層4の上面に配設されている。測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。第4拡散律速部45は、アルミナ(Al23)などのセラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、上述した実施形態の第4拡散律速部60と同様に、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担う。また、第4拡散律速部45は、測定電極44の保護膜としても機能する。補助ポンプ電極51の天井電極部51aは、測定電極44の直上まで形成されている。このような構成のセンサ素子201であっても、上述した実施形態と同様に、測定用ポンプセル41によりNOx濃度を検出できる。図8のセンサ素子201では、測定電極44の周囲が第3内部空所61と同様の役割を果たすことになる。
上述した実施形態において、外側ポンプ電極23を含むセンサ素子101の前側(センサ素子室133に露出する部分)の表面が、アルミナなどのセラミックスからなる多孔質保護層で被覆されていてもよい。
上述した実施形態では、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御され、このときのポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されるものとしたが、基準電極42と測定電極44との間の電圧に基づいて被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するものであれば、これに限られない。例えば、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とを組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準電極42の周囲の酸素の量との差に応じた電圧を電圧V2として検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることができる。
上述した実施形態では、基準ガスは大気としたが、被測定ガス中の特定ガスの濃度の検出の基準となるガスであれば、これに限られない。例えば、予め所定の酸素濃度(>被測定ガスの酸素濃度)に調整したガスが基準ガスとして空間149に満たされていてもよい。
上述した実施形態では、センサ素子101は被測定ガス中のNOx濃度を検出するものとしたが、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するものであれば、これに限られない。例えば、NOxに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものを第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、測定用ポンプセル41はこの酸素に応じた検出値(例えばポンプ電流Ip2)を取得して特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスを酸化物に変換(例えばアンモニアであればNOに変換)することで、変換後のガスが第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、測定用ポンプセル41はこの酸素に応じた検出値(例えばポンプ電流Ip2)を取得して特定ガス濃度を検出できる。例えば、第1内部空所20の内側ポンプ電極22が触媒として機能することにより、第1内部空所20においてアンモニアをNOに変換できる。
上述した実施形態では、センサ素子101の素子本体は複数の固体電解質層(層1〜6)を有する積層体としたが、これに限られない。センサ素子101の素子本体は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を少なくとも1つ含んでいればよい。例えば、図2において第2固体電解質層6以外の層1〜5は固体電解質層以外の材質からなる層(例えばアルミナからなる層)としてもよい。この場合、センサ素子101が有する各電極は第2固体電解質層6に配設されるようにすればよい。例えば、図2の測定電極44は第2固体電解質層6の下面に配設すればよい。また、大気導入層48を第1固体電解質層4と第3基板層3との間に設ける代わりに第2固体電解質層6とスペーサ層5との間に設け、基準電極42を第3内部空所61よりも後方且つ第2固体電解質層6の下面に設ければよい。
上述した実施形態では、内側ポンプ電極22は、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極としたが、これに限られない。内側ポンプ電極22は、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくともいずれか)と、触媒活性を有する貴金属の特定ガスに対する触媒活性を抑制させる触媒活性抑制能を有する貴金属(例えばAu)と、を含んでいればよい。補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、触媒活性を有する貴金属と、触媒活性抑制能を有する貴金属と、を含んでいればよい。外側ポンプ電極23,基準電極42,測定電極44は、それぞれ、上述した触媒活性を有する貴金属を含んでいればよい。各電極22,23,42,44,51は、それぞれ、貴金属と酸素イオン導電性を有する酸化物(例えばZrO2)とを含むサーメット であることが好ましいが、これらの電極の1以上がサーメットでなくてもよい。各電極22,23,42,44,51は、それぞれ、多孔質体であることが好ましいが、これらの電極の1以上が多孔質体でなくてもよい。
上述した実施形態では、ポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の電圧V0の制御に用いられたが、これに限られない。例えば、ポンプ電流Ip1が目標値Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいてポンプ電圧Vp0をフィードバック制御してもよい。すなわち、ポンプ電流Ip1に基づく電圧V0の制御を省略して、ポンプ電流Ip1に基づいて直接的にポンプ電圧Vp0を制御(ひいてはポンプ電流Ip0を制御)してもよい。
1 第1基板層、2 第2基板層、3 第3基板層、4 第1固体電解質層、5 スペーサ層、6 第2固体電解質層、10 ガス導入口、11 第1拡散律速部、12 緩衝空間、13 第2拡散律速部、20 第1内部空所、21 主ポンプセル、22 内側ポンプ電極、22a 天井電極部、22b 底部電極部、23 外側ポンプ電極、24 可変電源、30 第3拡散律速部、40 第2内部空所、41 測定用ポンプセル、42 基準電極、43 基準ガス導入空間、44 測定電極、45 第4拡散律速部、46 可変電源、48,248 大気導入層、48c 入口部、50 補助ポンプセル、51 補助ポンプ電極、51a 天井電極部、51b 底部電極部、52 可変電源、60 第4拡散律速部、61 第3内部空所、70 ヒータ部、71 ヒータコネクタ電極、72 ヒータ、73 スルーホール、74 ヒータ絶縁層、75 圧力放散孔、80 主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、81 補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、82 測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、83 センサセル、85 検出用第1ポンプセル、86 可変電源、87 検出用第2ポンプセル、88 可変電源、89 検出用第3ポンプセル、90 可変電源、91 制御部、92 CPU、94 記憶部、95 制御装置、100 ガスセンサ、101,201 センサ素子、130 保護カバー、131 内側保護カバー、132 外側保護カバー、133 センサ素子室、140 センサ組立体、141 素子封止体、142 主体金具、143 内筒、143a,143b 縮径部、144a〜144c サポーター、145a,145b 圧粉体、146 メタルリング、147 ボルト、148 外筒、149 空間、150 コネクタ、155 リード線、157 ゴム栓、190 配管、191 固定用部材。

Claims (5)

  1. 酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
    前記被測定ガス流通部に配設された被測定ガス側電極と、
    前記素子本体の内部に配置された基準電極と、
    前記被測定ガスの特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスを基準ガス入口から導入して前記基準電極に流通させるとともに前記基準ガスに対して拡散抵抗を付与する基準ガス導入部と、
    前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる電流が限界電流となるような所定の検出用電圧を前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に印加して、前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲に酸素の汲み入れを行い、前記検出用電圧印加時に前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる検出用電流を取得し、取得した前記検出用電流に基づいて、前記素子本体のクラックを検出するクラック検出手段と、
    を備えたガスセンサ。
  2. 前記クラック検出手段は、前記検出用電流が所定の検出用閾値を超える場合に、前記クラックが形成されていると判断する、請求項1に記載のガスセンサ。
  3. 請求項1又は2に記載のガスセンサであって、
    前記素子本体の内部に設けられたヒータ及び前記ヒータを覆うように配置され多孔質でガスの流通が可能なヒータ絶縁層を有するヒータ部と、
    前記基準ガス導入部のうち前記基準ガス入口より内側の部分と前記ヒータ部との間をガスの流通が可能な状態で連結する連結部と、
    を備えた、ガスセンサ。
  4. 前記被測定ガス側電極を複数備え、
    前記クラック検出手段は、前記被測定ガス側電極の各々に対して個別に、前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる電流が限界電流となるような所定の検出用電圧を前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に印加して、前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲に酸素の汲み入れを行い、前記検出用電圧印加時に前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる検出用電流を取得し、前記被測定ガス側電極の各々に対して個別に取得した前記検出用電流に基づいて、前記クラックの位置を推定する、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
  5. 酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
    前記被測定ガス流通部に配設された被測定ガス側電極と、
    前記素子本体の内部に配置された基準電極と、
    前記被測定ガスの特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスを基準ガス入口から導入して前記基準電極に流通させるとともに前記基準ガスに対して拡散抵抗を付与する基準ガス導入部と、
    を備えたセンサ素子のクラック検出方法であって、
    前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる電流が限界電流となるような所定の検出用電圧を前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に印加して、前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲に酸素の汲み入れを行い、前記検出用電圧印加時に前記基準電極と前記被測定ガス側電極との間に流れる検出用電流を取得し、取得した前記検出用電流に基づいて、前記素子本体のクラックを検出する、
    クラック検出方法。
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