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JP2020045530A - 低摩擦摺動部材 - Google Patents

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JP2020045530A
JP2020045530A JP2018175316A JP2018175316A JP2020045530A JP 2020045530 A JP2020045530 A JP 2020045530A JP 2018175316 A JP2018175316 A JP 2018175316A JP 2018175316 A JP2018175316 A JP 2018175316A JP 2020045530 A JP2020045530 A JP 2020045530A
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和幹 眞鍋
Kazumiki Manabe
和幹 眞鍋
圭二 林
Keiji Hayashi
圭二 林
亮 小池
Akira Koike
亮 小池
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Toyota Motor East Japan Inc
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Toyota Motor Corp
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Abstract

【課題】本発明は、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油存在下での摩擦特性が改善された摺動部材を提供することを目的とする。【解決手段】本発明は、基材の表面に窒化クロム化合物膜を有し、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油存在下で摺動する摺動部材であって、前記窒化クロム化合物膜は、X線回折における(200)面の回折ピーク位置が、CrNの(200)面の回折ピーク位置からシフトしている摺動部材、及びその製造方法に関する。【選択図】図3

Description

本発明は、潤滑油存在下で摺動する摺動部材に関する。
自動車では、エンジン、トランスミッション等の様々な機器に摺動部材が用いられており、そのような摺動部材の摺動特性を向上させるために様々な開発がなされている。摺動部材の摩擦係数を低減することは自動車の燃費の向上にも繋がるので、特に重要視されている。
摺動面間に作用する摩擦係数は、摺動面の表面状態と摺動面間の潤滑状態により異なる。このため摩擦係数の低減を図る場合、摺動面の材料及び摺動面間へ供給する潤滑油の改良が検討される。
摺動部材の摺動面に用いられる材料の一つとして、窒化クロム(CrN)膜がある。例えば、特許文献1には、CrN膜についてX線回折分析で測定される結晶面の(111)面、(200)面、(220)面、(222)面、(311)面及び(400)面に対応するピーク強度の合計を100%とした場合に(111)面のピーク強度が8〜40%であり、かつ(111)面における結晶子サイズが25nm以下である耐摩耗性CrN膜が開示されている。しかし、特許文献1では、CrN膜の耐摩耗性について検討されているが、摩擦係数は十分に小さいとはいえない。
また、潤滑油の改良としては、省燃費の観点から、近年、潤滑油はますます低粘度化され、また、潤滑油の添加剤としてモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等のモリブデン系添加剤が標準的に使用されるようになっている。ここで、潤滑油の低粘度化にともない、摺動面に形成される油膜厚さが小さくなり、表面接触機会の増加により境界摩擦が増加し、摩耗、スカッフ、焼付き等の問題が起こりやすくなるが、モリブデン系添加剤は、表面に低摩擦な潤滑被膜MoSを形成することにより、この問題を解決することができる。
特許文献2には、窒化クロム膜を有する摺動部材と、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油との組み合わせが開示されており、具体的には、相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、該対向する摺動面間に介在し得る潤滑油とを備えた摺動システムであって、前記摺動面の少なくとも一方は、窒化クロム膜で被覆された被覆面からなり、前記潤滑油は、Moの三核体からなる化学構造を有する油溶性モリブデン化合物を含み、前記窒化クロム膜は、膜全体を100原子%(単に「%」という。)として、Cr:40〜65%、N:35〜55%であると共に、X線回折で分析したときに得られる(200)面に対する(111)面の面積割合である相対面積が15〜60%であることを特徴とする摺動システムが開示されている。しかし、窒化クロム膜の摩擦係数についてはさらなる改善の余地があった。
特開2010−168603号公報 特開2016−84852号公報
前記のように、モリブデン系添加剤を用いた潤滑油は摩擦低減効果があり、このモリブデン系添加剤を含有する潤滑油の摩擦低減効果をより高めることができる摺動部材用材料が求められている。それ故、本発明は、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油存在下での摩擦特性が改善された摺動部材を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、窒化クロム化合物膜の結晶構造を特定の結晶構造にすることにより摩擦係数が大幅に低減することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基材の表面に窒化クロム化合物膜を有し、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油存在下で摺動する摺動部材であって、前記窒化クロム化合物膜は、X線回折における(200)面の回折ピーク位置が、CrNの(200)面の回折ピーク位置からシフトしている、摺動部材。
(2)前記窒化クロム化合物膜は、X線回折における(200)面の回折ピークの半値幅が0.5以上である、前記(1)に記載の摺動部材。
(3)物理蒸着法により、基材表面温度を180℃〜350℃として窒化クロム化合物膜を基材の表面に成膜することを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の摺動部材の製造方法。
本発明により、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油存在下での摩擦特性が改善された摺動部材を提供することが可能となる。
実施例における摩擦試験方法の概略を示す斜視図である。 実施例1〜4及び比較例2の各試料の窒化クロム化合物膜のX線回折プロファイルを示す図である。 実施例1〜4及び比較例1〜3の摩擦試験結果を示す図である。 実施例1〜4及び比較例2における、窒化クロム化合物膜の(200)面の回折ピークの半値幅と摩擦係数との関係を示す図である。 実施例における、MoDTCについての添加量と摩擦係数の関係を示す図である。 実施例における、MoDTPについての添加量と摩擦係数の関係を示す図である。 実施例における、Moトリマーについての添加量と摩擦係数の関係を示す図である。
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明は、基材の表面(摺動面)に窒化クロム化合物膜を有し、モリブデン(Mo)系添加剤を含有する潤滑油存在下で摺動する摺動部材に関する。本発明の摺動部材において、窒化クロム化合物膜は、X線回折における(200)面の回折ピーク位置が、CrNの(200)面の回折ピーク位置からシフトしていることを特徴とする。
摺動部材とは、相対移動する摺動面を有する機械部品を意味し、具体的には、動弁系を構成するカム、バルブリフタ(例えば、摺動面がカムとの接触面)、フォロワ、シム、バルブ、バルブガイド等、その他、シリンダライナー、ピストン(例えば、摺動面がピストンスカート)、ピストンリング、ピストンピン、クランクシャフト、歯車、ロータ、ロータハウジング、ポンプ等が挙げられる。本発明の摺動部材は、自動車等のエンジンユニットや駆動系ユニット(変速機等)に好適に利用される。
本発明の摺動部材は、基材の表面に窒化クロム化合物膜を有し、すなわち、摺動面が窒化クロム化合物膜である。本発明の摺動部材において、相対移動する摺動面の一方の摺動面が窒化クロム化合物膜であればよいが、好ましくは、両方の摺動面が窒化クロム化合物膜である。
摺動部材の基材は、各種装置の摺動部品であれば形状及び材質等に特に限定はなく、金属系基材(例えば鋼材)、セラミックス系基材、プラスチック系基材、ゴム系基材等のいずれであってもよい。
本発明の摺動部材は、窒化クロム化合物膜が特定の結晶構造を有することにより、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油との組み合わせにおいて摩擦低減効果が得られる。具体的には、本発明の窒化クロム化合物膜は、結晶性が低い状態であり、X線回折における(200)面の回折ピーク位置が、CrNの(200)面の回折ピーク位置からシフトしている。本発明において、CrNの(200)面の回折ピーク位置とは、CrN結晶の(200)面の回折ピーク位置をいう。
窒化クロム化合物膜は、好ましくは、X線回折における(200)面の回折ピークが、CrNの(200)面の回折ピークと比較してブロードになっている。好ましくは、窒化クロム化合物膜は、X線回折における(200)面の回折ピークの半値幅が0.5以上である。窒化クロム化合物膜の(200)面の回折ピークの半値幅が0.5以上であると、半値幅がこの範囲にない窒化クロム化合物膜と比較して摩擦係数が大幅に低減する。なお、一般的にピストンリング等で使用されている窒化クロム化合物膜の半値幅は0.2程度である。
本発明では、特定の結晶構造を有する窒化クロム化合物膜を基材の表面に有する摺動部材を、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油と組み合わせて用いることで、摩擦係数が大幅に低減する。
本発明の窒化クロム化合物膜による低摩擦化のメカニズムは、以下のように推定される。具体的には、モリブデン系添加剤が硫黄(S)を含有する場合、酸化力の強いCrによりモリブデン系添加剤が還元されて、摺動面上に二硫化モリブデン(MoS)被膜を形成することができる。MoSは、層状構造に基づく低剪断特性を摺動面間で発揮することで、摺動面同士の直接接触が回避され、摩擦係数を低減できる。本発明の窒化クロム化合物膜は、X線回折における(200)面の回折ピーク位置が、CrNの(200)面の回折ピーク位置からシフトしており、また、好ましくは、この回折ピークがブロード化しているところ、この回折ピークのシフト及びブロード化により結晶構造が変化したことによる以下のようなメカニズムが考えられる。まず、1つ目は、回折ピークのシフトに表れる結晶格子間距離の伸縮であり、格子間距離が伸縮することによって、摺動面に形成されるモリブデン系添加剤由来のMoSの格子間距離とマッチして、よりMoSが存在しやすい状態を摺動面表層に形成したと考えられる。2つ目も、回折ピークのシフトに表れる結晶格子間距離の伸縮に起因するものであり、その原因は他元素が結晶構造内に侵入したことに起因するものである。例えば、Cr元素がCrNの理想的な結晶構造中に侵入することによって格子間距離が増加すると、X線回折の回折ピークがシフトすると考えられ、この場合、表層におけるCrの存在確率が増加するため、モリブデン系添加剤との反応スポットが増加して、より多くのMoSが形成したと考えられる。3つ目は、回折ピークのシフトとブロード化の両者に表れる結晶の崩れであり、結晶の崩れによって、Crの未結合種(ダングリングボンド)が増加して、それにともない、表層におけるモリブデン系添加剤との反応スポットが増加して、より多くのMoSが形成したと考えられる。
本発明の窒化クロム化合物膜は、通常、摺動部材の基材(例えば鋼材)よりも硬く、かつ摺動相手側の摺動面へも移着しにくい。このため本発明の摺動部材は、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油の存在下で、高耐摩耗性も発揮され、優れた低摩擦特性が長期的に安定して発現される。
窒化クロム化合物膜は、好ましくは、膜全体を100原子%(以下、単に「%」という。)として、Cr:40%〜65%、N:35%〜55%である。窒化クロム化合物膜は、主にCrとNとからなるが、それ以外の元素として、低摩擦特性を阻害しないか、又は低摩擦特性を改善するドープ元素(例えばO等)を含有していてもよい。窒化クロム化合物膜がOを含有する場合、その含有量は、好ましくは、膜全体を100%として、O:2%〜15%である。窒化クロム化合物膜中のCrとNは、主にCrNとして存在しているが、一部がCrN等であってもよい。
窒化クロム化合物膜の膜厚は、通常1μm〜30μmである。
潤滑油に含有されるモリブデン系添加剤としては、例えば、モリブデン系摩擦調整剤及びモリブデン系酸化防止剤を用いることができる。
モリブデン系添加剤は、好ましくは、硫黄(S)を含有するものである。
モリブデン系添加剤としては、従来用いられる公知のものを用いることができ、例えばアデカサクラルーブ200、アデカサクラルーブ165、アデカサクラルーブ525、アデカサクラルーブ600、アデカサクラルーブ300、アデカサクラルーブ310G、アデカサクラルーブ700、アデカサクラルーブ710及びモリブデン(Mo)のトリマー(モリブデンの三核体)等が挙げられる。モリブデン系添加剤としては、窒化クロム化合物膜との相互作用、添加剤の還元性等の観点から、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)、モリブデン酸ジアルキルアミン塩(Mo−Amn)及びMoトリマーが好ましい。Moトリマーは、例えばMo又はMoからなり、Moからなると好ましい。Moトリマーは、そのような三核体からなる骨格(分子構造)を備える限り、末端に結合している官能基や分子量等は問わない。参考までに、実施例で用いたMoからなる硫化モリブデン化合物の一例を以下に示す。式中のRはヒドロカルビル基である。
Figure 2020045530
潤滑油中のモリブデン系添加剤の含有量は、潤滑油全体の質量に対してMo量に換算して好ましくは25ppm〜5000ppmであり、より好ましくは50ppm〜5000ppmである。モリブデン系添加剤の含有量が25ppm以上であると十分な摩擦低減効果が得られる。モリブデンジチオカーバメート及びモリブデンジチオホスフェートでは、潤滑油中の含有量は、潤滑油全体の質量に対してMo量に換算して好ましくは200ppm以上であり、より好ましくは400ppm以上である。Moトリマーでは、潤滑油中の含有量は、潤滑油全体の質量に対してMo量に換算して好ましくは25ppm以上であり、より好ましくは50ppm以上である。
潤滑油に用いられる基油(ベースオイル)としては、特に限定されずに、従来用いられる動物・植物油、鉱油、合成油等を用いることができる。基油は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上の混合物で用いてもよい。なお、基油の動粘度や粘度指数等は特に限定されず、摺動部材に通常用いられ得る範囲内に制御されていればよい。
潤滑油は、モリブデン系添加剤以外の添加物を含んでいてもよい。モリブデン系添加剤以外の添加物としては、例えば摩耗防止剤(例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、好ましくはセカンダリーアルキルタイプのZnDTP等)、防錆剤、金属不活性剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤(例えばZnDTP、好ましくはセカンダリーアルキルタイプのZnDTP等)、分散剤、清浄剤、極圧剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、増粘剤、金属清浄剤(例えば過塩基性カルシウムスルホネート等)、無灰分散剤(例えばポリブテニルコハク酸イミド等)、腐食防止剤等が挙げられる。添加物は、例えば、摩耗防止剤及び酸化防止剤として用いられるZnDTPのように、2つ以上の用途で用いることもできる。モリブデン系添加剤以外の添加物の含有量は、潤滑油全体に対して通常20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
本発明は、前記の特定の結晶構造を有する窒化クロム化合物膜を基材の表面に有する摺動部材の製造方法も含む。
本発明の摺動部材の製造方法は、物理蒸着(PVD)法により、基材表面温度を180℃〜350℃として窒化クロム化合物膜を基材の表面に成膜することを特徴とする。
物理蒸着法としては、例えばアークイオンプレーティング(AIP)法、スパッタリング(SP)法(ウンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法等)等が挙げられる。
AIP法は、例えば、反応ガス(プロセスガス中)で金属ターゲット(蒸発源)を陰極としてアーク放電を発生させ、金属ターゲットから発生した金属イオンと反応ガス粒子を反応させて、バイアス電圧を印可した被覆処理面にち密な被膜を形成する方法である。
本発明の場合、例えば、ターゲット金属をCr、反応ガスをNガスとするとよい。また、CrとN以外のドープ元素を含む窒化クロム化合物膜であれば、そのドープ元素を含むターゲット又は反応ガスを用いるとよい。また、ターゲットや反応ガスの成分を調整する他、反応ガスのガス圧力を調整して、窒化クロム化合物の組成、構造等を調整することができる。例えば、Nガスのガス圧力を調整することにより、CrNからなる単層膜を得ることもできるし、CrNとCrNからなる複合膜のように、結晶構造を制御することもできる。
SP法は、ターゲットを陰極側、被覆処理面を陽極側として電圧を印可して、グロー放電により発生した不活性ガス原子イオンをターゲット表面に衝突させて、飛び出したターゲットの粒子(原子・分子)を被覆処理面に堆積させて被膜を形成する方法である。本発明の場合、例えば、ターゲットを金属Cr、不活性ガスをArガスとして、スパッタリングを行い、放出されたCr原子イオンとNガスを反応させることにより、窒化クロム化合物膜を形成することができる。
窒化クロム化合物膜を基材の表面に成膜する際の基材表面温度は、180℃〜350℃である。基材表面温度がこの範囲であると、成膜時の基材表面の温度が十分に低いため、イオン化された高エネルギーの原子が蒸着した際に、急冷されてアモルファス化されやすくなり、本発明の低結晶性の窒化クロム化合物膜が形成される。好ましい実施形態において、窒化クロム化合物膜を基材の表面に成膜する際の基材表面温度は、AIP法の場合、250℃〜350℃であり、SP法の場合、180℃〜220℃である。
窒化クロム化合物膜を基材の表面に成膜する際のバイアス電圧は、好ましくは0V〜100Vである。バイアス電圧がこの範囲よりも高い場合、イオン化したCr/N原子が、ある一定方向の結晶面に倣って蒸着/成長していってしまうが、バイアス電圧をこの範囲として十分に低くすることで、結晶構造に柔軟性を持たせることができ、それによって低結晶性の窒化クロム化合物膜が形成される。好ましい実施形態において、窒化クロム化合物膜を基材の表面に成膜する際のバイアス電圧は、AIP法の場合、0V〜80Vであり、SP法の場合、80V〜100Vである。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
各種窒化クロム化合物膜を成膜したブロック形状試験片を準備し、それらの摩擦特性を、図1に示すブロックオンリング試験機を用いて評価した。
実施例1
ブロック形状試験片(図1中、評価材)を以下の通りにして製造した。具体的には、焼き入れ処理した鋼材(JIS SUS440C)からなるブロック形状(6.3mm×15.7mm×10.1mm)の基材を準備し、同基材の表面を鏡面仕上げ(Rz0.1um以下)した。次に、チャンバー内の真空度を2×10−3Pa以下に減圧し、チャンバー温度を180℃〜220℃(ヒーター温度)になるまで昇温し、鏡面仕上げした基材に80V〜100Vのバイアス電圧を印可し、アルゴンガス雰囲気でCrターゲットと本体の陽極間でアーク放電させ、金属Crイオンを発生させ、同時に、窒素ガスを導入しながら、窒素分圧を0.1Pa〜10Paに調整し、スパッタリング法にて窒化クロム化合物膜を基材に成膜した。
実施例2
基材への窒化クロム化合物膜の成膜を、AIP法にて、窒素ガス中で、金属Crからなるターゲットをアーク放電させて、基材表面温度250℃〜350℃で、バイアス電圧0V〜80Vで実施した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の試料を製造した。
実施例3
基材への窒化クロム化合物膜の成膜を、スパッタリング法にて、基材表面温度200℃〜220℃で、バイアス電圧80V〜100Vで実施した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の試料を製造した。
実施例4
基材への窒化クロム化合物膜の成膜を、スパッタリング法にて、基材表面温度200℃〜220℃で、バイアス電圧80V〜100Vで実施した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の試料を製造した。
比較例1
比較例1の試料として、前記の鏡面仕上げした鋼材基材を用いた。
比較例2
基材への窒化クロム化合物膜の成膜を、AIP法にて、窒素ガス中で、金属Crからなるターゲットをアーク放電させて、基材表面温度400℃〜500℃で、バイアス電圧0V〜100Vで実施した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の試料を製造した。
窒化クロム化合物膜構造の分析
実施例1〜4及び比較例2の各試料の窒化クロム化合物膜をX線回折(島津製作所社製:XRD−7000)により分析した。実施例1〜4及び比較例2の各試料の窒化クロム化合物膜のX線回折プロファイルを図2に示す。図2の各図において、CrN結晶のピークを一緒に示した。図2からわかるように、一般的にピストンリング等で使用されている、AIP法により高温で成膜した窒化クロム化合物膜(比較例2)のピーク位置は、CrN結晶のピーク位置に完全に一致しており、またピークもシャープであった。一方、実施例1〜4の窒化クロム化合物膜のピークは、CrN結晶のピークと一致しておらず、ピークがシフトしており、さらに、ピーク形状も比較例2と比べるとブロードになっていた。また、X線回折における(200)面の回折ピークの半値幅に着目すると、比較例2では、半値幅が0.5未満であるのに対し、実施例1〜4の試料では、半値幅は0.5以上であった。
摩擦試験
実施例1〜4及び比較例1〜2のブロック形状試験片を評価材として、図1に示すブロックオンリング試験機を用いて摩擦特性を評価した。また、比較例3では、実施例1の試料を用いて、モリブデン系添加剤を含有しない潤滑油にて試験を行った。
摩擦試験において、リング形状試験片として、FALEX社製のS−10標準試験片(Rz:1.2〜1.6um程度、外径:φ35mm、幅:8.8mm)(図1中、浸炭鋼)を用いた。
摩擦試験に用いる潤滑油として、下記の規格油とモデル油を用いた。
規格油:粘度グレード0W−16でILSAC GF−6規格に相当し、MoDTCを含有するエンジンオイル(トヨタ自動車株式会社製モーターオイルSN 0W−16)と同オイルをベースにMoDTCを抜いたオイルを用いた。
モデル油:炭化水素系ベースオイル(SK lubricants社製 YUBASE 8)に、セカンダリーアルキルタイプのジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)(ADEKA社製 1371)0.8質量%、塩基価が300mgKOH/gの過塩基性カルシウムスルホネート(ADEKA社製 6477C)2.0質量%及びポリブテニルコハク酸イミド(ADEKA社製 6412)6.0質量%を添加し、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)又は下記のMoトリマー(Mo三核体)を油全体の質量に対してMo量に換算して25ppm〜5000ppmとなるように添加し又はこれらを添加せずに、60℃にて30分間撹拌して作製した。
Figure 2020045530
摩擦試験の試験条件は、規格油又はモデル油を用いて、試験荷重294N、すべり速度0.3m/s、油温80℃で、30分間実施し、試験終了直前の摩擦係数をその材料の摩擦係数として抽出した。
摩擦試験を、実施例1〜4及び比較例1〜2の試料については、MoDTCを含有する規格油を用い、比較例3の試料については、MoDTCを含有しない規格油を用いて実施した。実施例1〜4及び比較例1〜3の摩擦試験結果を図3に示す。図3より、MoDTCを含有する潤滑油中において、比較例2の試料は、摩擦係数0.05程度と比較的低い値を示すが、実施例1〜4の試料はいずれも、比較例2と比較しても摩擦係数が大幅に低減し、摩擦係数は0.02程度であり、非常に低かった。一方で、低摩擦を発現した実施例1の試料をMoDTCを含有しない潤滑油中で摺動させた比較例3では、摩擦係数は大幅に増加した。したがって、特定の結晶構造を有する窒化クロム化合物膜と、潤滑油中のモリブデン系添加剤との相互作用によって、低摩擦が発現したことがわかる。
図4に、実施例1〜4及び比較例2の摩擦試験の結果を、窒化クロム化合物膜の(200)面の回折ピークの半値幅と摩擦係数との関係で示す。図4に示すように、(200)面の回折ピークの半値幅が0.5以上である実施例1〜4では、回折ピークの半値幅が0.5未満である比較例2と比較して摩擦係数が大幅に低減した。
Mo添加量の摩擦特性への影響について
モリブデン系添加剤の添加量が摩擦特性に与える影響を調べた。実施例1の試料を用い、モリブデン系添加剤としてMoDTC、MoDTP又はMoトリマーを種々の添加量で配合したモデル油を用いて、前記の試験条件にて摩擦試験を行った。
図5に、MoDTCについての添加量と摩擦係数の関係を示し、図6に、MoDTPについての添加量と摩擦係数の関係を示し、図7に、Moトリマーについての添加量と摩擦係数の関係を示す。図5、図6及び図7より、いずれのモリブデン系添加剤を用いた場合においても、添加量の増加に伴い、摩擦係数の低減が認められた。MoDTC及びMoDTPの場合、200ppm以上、好ましくは400ppm以上のMo添加量にて十分な摩擦低減効果が得られた。また、Moトリマーの場合、25ppm以上、好ましくは50ppm以上のMo添加量にて十分な摩擦低減効果が得られた。

Claims (3)

  1. 基材の表面に窒化クロム化合物膜を有し、モリブデン系添加剤を含有する潤滑油存在下で摺動する摺動部材であって、前記窒化クロム化合物膜は、X線回折における(200)面の回折ピーク位置が、CrNの(200)面の回折ピーク位置からシフトしている、摺動部材。
  2. 前記窒化クロム化合物膜は、X線回折における(200)面の回折ピークの半値幅が0.5以上である、請求項1に記載の摺動部材。
  3. 物理蒸着法により、基材表面温度を180℃〜350℃として窒化クロム化合物膜を基材の表面に成膜することを特徴とする、請求項1又は2に記載の摺動部材の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2024161511A1 (ja) * 2023-01-31 2024-08-08 株式会社リケン 摺動機構

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