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JP2019123668A - リチウムナトリウム複合酸化物、二次電池用正極活物質および二次電池 - Google Patents

リチウムナトリウム複合酸化物、二次電池用正極活物質および二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】高エネルギー密度(高容量および高電圧)を有し、かつ放電時の急激な電圧降下が抑制された二次電池用正極活物質として重要なリチウムナトリウム複合酸化物、当該リチウムナトリウム複合酸化物を主成分とする二次電池用正極活物質、および当該リチウムナトリウム複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池を提供する。【解決手段】本発明のリチウムナトリウム複合酸化物は、式(LixNawHv)NiyMn1−yO2−z(式中、0≦v<0.5、0<w<1.0、0<x<1.0、0<x+v+w<1.0、0.2≦y≦0.5、0≦z<0.13)で表され、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が4配位したスピネル構造を含む。【選択図】 図6

Description

本発明は、リチウムナトリウム複合酸化物、二次電池用正極活物質および二次電池に関する。
近年、携帯電話やノートパソコン等の多くの携帯型電子機器に二次電池が搭載されており、そのほとんどはリチウム二次電池である。また、リチウム二次電池をはじめとする二次電池は、今後、ハイブリッド車両や電力負荷平準化システム等の大型電池としての実用化も期待されており、その重要性はますます高まっている。
例えば、リチウム二次電池は、いずれもリチウムを可逆的に吸蔵・放出することが可能な材料を含有する正極および負極からなる電極と、非水系電解液を含むセパレータ又は固体電解質とを主要構成要素とする。
これらの構成要素のうち、電極用活物質として、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、リチウムチタン酸化物(LiTi12)等の酸化物系、金属リチウム、リチウム合金、スズ合金等の金属系、および黒鉛、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)等の炭素系材料の使用が検討されている。
これらの材料について、それぞれの活物質中のリチウム含有量における化学ポテンシャルの差によって電池の電圧が決定される。特に、活物質の組み合わせによって大きな電位差を形成できることが、エネルギー密度に優れる二次電池の特徴である。
今後、自動車用電源や高容量のバックアップ電源、緊急用電源等の用途を想定した場合には、より高容量かつ長寿命の二次電池が必要となることが予測される。そのため、種々の活物質を組み合わせることで、さらに高容量かつ長寿命の二次電池の開発が求められている。
新たな正極活物質用の材料として、例えば、リチウムニッケルマンガン酸化物であるLi2/3Ni1/3Mn2/3の結晶構造および電気化学特性がこれまでに調べられている。上記リチウムニッケルマンガン酸化物は、出発物質であるNa2/3Ni1/3Mn2/3のナトリウムをリチウムに交換するイオン交換によって合成される。出発物質であるNa2/3Ni1/3Mn2/3には、複数の積層構造が存在し、例えば、P3構造の出発物質を用いた場合、イオン交換体であるLi2/3Ni1/3Mn2/3は、O3構造となることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、O3構造のLi2/3Ni1/3Mn2/3に対して熱処理を行うことによって、結晶構造が変化し、電気化学特性が改善されることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
J.M.Paulsen et al.,J.Electrochem.Soc.,147,2478(2000) 千葉一毅 他、電気化学秋季大会 講演要旨集、1P23(2014)
非特許文献2には、出発原料であるP3構造のNa2/3Ni1/3Mn2/3のナトリウムをリチウムに交換することでO3構造のLi2/3Ni1/3Mn2/3を合成し、合成したO3構造のLi2/3Ni1/3Mn2/3に対して熱処理を行うことが記載されている。熱処理後のリチウム複合酸化物を正極活物質として用いた場合、従来よりも高容量化および高電圧化できる。これは、熱処理によってc軸長が減少し、結晶構造中のLi−O配位が変化するためと考えられている。しかし、非特許文献2に記載のリチウム複合酸化物では、放電時(リチウム挿入時)に電圧が急激に降下する領域が存在する。そのため、リチウム二次電池の実装を想定した場合、充電率(state of charge:SOC)の検知が困難となる。このように、従来のリチウムニッケルマンガン酸化物を用いた正極活物質には更なる改善の余地があると言える。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、高エネルギー密度(高容量および高電圧)を有し、かつ放電時の急激な電圧降下が抑制された二次電池用正極活物質として重要なリチウムナトリウム複合酸化物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該リチウムナトリウム複合酸化物を主成分とする二次電池用正極活物質、当該リチウムナトリウム複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池を提供することも目的とする。
本発明者らは、出発原料のナトリウムをリチウムに交換する際に、一部のナトリウムをリチウムに交換しないものを前駆体として合成し、その前駆体の熱処理を試みた。その結果、これまで知られていなかった結晶構造を有するリチウムナトリウム複合酸化物が得られることを見出した。また、この複合酸化物を正極活物質として用いた場合、二次電池を高容量化および高電圧化できることに加えて、放電時の電圧降下を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、式(LiNa)NiMn1−y2−zで表され、式中、0≦v<0.5、0<w<1.0、0<x<1.0、0<x+v+w<1.0、0.2≦y≦0.5、0≦z<0.13であり、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が4配位したスピネル構造を含むリチウムナトリウム複合酸化物に関する。正極活物質として使用する前(すなわち合成直後)のリチウムナトリウム複合酸化物は、上記式中、0.04<w<1.0、0.5<x+v+w<1.0であることが好ましい。
一実施形態において、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R3mまたはR−3mで表される結晶構造を有する。例えば、空間群R3mで表される結晶構造としては、ナトリウムの酸素配位が三角柱であるP3構造、空間群R−3mで表される結晶構造としては、ナトリウムの酸素配位が八面体であるO3構造等が挙げられる。
一実施形態において、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R−3mで表される結晶構造を有する。例えば、リチウムの酸素配位が八面体であるO3構造等が挙げられる。
一実施形態において、リチウムに酸素が4配位したスピネル構造は、空間群Fd−3mで表される結晶構造を有する。例えば、リチウムの酸素配位が四面体であるスピネル構造等が挙げられる。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物は、式(LiNa)NiMn1−yで表わされる前駆体を熱処理することによって好適に合成される。上記前駆体は、式中、0≦v<0.5、0.04<w<1.0、0<x<1.0、0.5<x+v+w<1.0、0.2≦y≦0.5であり、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造を含む。
前駆体の熱処理は、300℃以上800℃以下の温度範囲で行われることが好ましい。
上記前駆体は、式(Na)NiMn1−yで表される出発物質のナトリウムをリチウムに交換するイオン交換によって合成されることが好ましい。上記出発物質は、式中、0≦v<0.1、0.5<x+v<1.0、0.2≦y≦0.5であり、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造を含むナトリウム複合酸化物である。
上記イオン交換は、リチウム化合物を含む溶液と上記出発物質とを混合することにより行われてもよく、上記出発物質とリチウム化合物とを混合して加熱することにより行われてもよい。いずれの場合も、イオン交換に用いられるリチウム化合物が、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、水酸化リチウムおよびヨウ化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明はまた、上記リチウムナトリウム複合酸化物を主成分とするリチウムまたはナトリウム二次電池用正極活物質、および、当該正極活物質を正極が含有するリチウムまたはナトリウム二次電池に関する。
本発明によれば、新規のリチウムナトリウム複合酸化物を製造することが可能である。この化合物を二次電池の正極活物質として使用することによって、二次電池を高容量化および高電圧化できることに加えて、放電時の急激な電圧降下を抑制できる。そのため、放電時に電圧が急激に降下しない領域では、二次電池を実装した際のSOC検知を容易かつ低コストで行うことができる。さらに、本発明によれば、出発原料のナトリウムをリチウムに交換する際に、一部のナトリウムをリチウムに交換しないため、イオン交換に使用するリチウムの量を減らすことができ、二次電池を製造するコストを低減できる。
P3構造のNa2/3Ni1/3Mn2/3の結晶構造を示す模式図である。 O3構造のLi2/3Ni1/3Mn2/3の結晶構造を示す模式図である。 本発明のリチウム二次電池の一例を模式的に示す部分断面図である。 出発物質Na0.67Ni0.33Mn0.67、前駆体Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67、前駆体Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67および前駆体Li0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67の粉末X線回折図形である。 出発物質Na0.67Ni0.33Mn0.67、500℃熱処理Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67、500℃熱処理Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67および500℃熱処理Li0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67の粉末X線回折図形である。 実施例1、実施例2および比較例1における放電に伴う電圧変化を示す図である。 出発物質Na0.67Ni0.33Mn0.67、500℃熱処理Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67、500℃熱処理(酸素雰囲気下)Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67および500℃熱処理(空気雰囲気下)Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67の粉末X線回折図形である。 実施例1および実施例3における放電に伴う電圧変化を示す図である。 出発物質Na0.76Ni0.50Mn0.50、前駆体Li0.73Na0.038Ni0.50Mn0.50、前駆体Li0.61Na0.13Ni0.50Mn0.50および前駆体Li0.50Na0.19Ni0.50Mn0.50の粉末X線回折図形である。 出発物質Na0.76Ni0.50Mn0.50、500℃熱処理Li0.73Na0.038Ni0.50Mn0.50、500℃熱処理Li0.61Na0.13Ni0.50Mn0.50および500℃熱処理Li0.50Na0.19Ni0.50Mn0.50の粉末X線回折図形である。 実施例4〜6および比較例2における放電に伴う電圧変化を示す図である。 出発物質Na0.70Ni0.20Mn0.80、前駆体Li0.49Na0.010Ni0.20Mn0.80、前駆体Li0.64Na0.064Ni0.20Mn0.80および前駆体Li0.46Na0.24Ni0.20Mn0.80の粉末X線回折図形である。 出発物質Na0.70Ni0.20Mn0.80、500℃熱処理Li0.49Na0.010Ni0.20Mn0.80、500℃熱処理Li0.64Na0.064Ni0.20Mn0.80および500℃熱処理Li0.46Na0.24Ni0.20Mn0.80の粉末X線回折図形である。 実施例7、実施例8および比較例3における放電に伴う電圧変化を示す図である。
[リチウムナトリウム複合酸化物の製造方法]
本発明においては、下記前駆体を熱処理することによってリチウムナトリウム複合酸化物が合成される。
前駆体:式(LiNa)NiMn1−y(式中、0≦v<0.5、0.04<w<1.0、0<x<1.0、0.5<x+v+w<1.0、0.2≦y≦0.5)で表され、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造を含むリチウムナトリウム複合酸化物。
上記前駆体は、下記出発物質のナトリウムをリチウムに交換するイオン交換によって合成されることが好ましい。
出発物質:式(Na)NiMn1−y(式中、0≦v<0.1、0.5<x+v<1.0、0.2≦y≦0.5)で表され、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造を含むナトリウム複合酸化物。
出発物質であるナトリウム複合酸化物は、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造を含む。
一実施形態において、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R3mまたはR−3mで表される結晶構造を有する。例えば、空間群R3mで表されるP3構造、空間群R−3mで表されるO3構造等が挙げられる。
図1は、P3構造のNa2/3Ni1/3Mn2/3の結晶構造を示す模式図である。P3構造は、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造であり、空間群R3mで表される。P3構造においては、ナトリウムの酸素配位が三角柱であり(すなわち、ナトリウムが酸素三角柱の中心に存在し)、かつ、単位格子あたり遷移金属酸化物層が3層存在する。
O3構造は、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造であり、空間群R−3mで表される。O3構造においては、ナトリウムの酸素配位が八面体であり(すなわち、ナトリウムが酸素八面体の中心に存在し)、かつ、単位格子あたり遷移金属酸化物層が3層存在する。
出発物質であるナトリウム複合酸化物において、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R3mまたはR−3mで表される結晶構造に限定されない。また、空間群R3mまたはR−3mで表される結晶構造とそれ以外の空間群で表される結晶構造とが混在してもよい。出発物質であるナトリウム複合酸化物は、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造として、P3構造およびO3構造以外の構造を含んでもよい。さらに、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造として、複数種類の構造を含んでもよい。例えば、出発物質であるナトリウム複合酸化物は、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造として、P3構造およびO3構造の両方を含んでもよい。
出発物質であるナトリウム複合酸化物は、上記結晶構造を有し、かつ、式(Na)NiMn1−y(式中、0≦v<0.1、0.5<x+v<1.0、0.2≦y≦0.5)で表される化学組成を有する。0<v<0.1のときは、ナトリウムサイトの一部に水素が存在することを表している。
ナトリウム複合酸化物の結晶構造は、粉末X線回折法により同定できる。また、出発物質であるナトリウム複合酸化物には、副生相としてNiOが含まれていてもよい。
上記出発物質は、原料として、ナトリウム原料の少なくとも1種と、ニッケル原料の少なくとも1種と、マンガン原料の少なくとも1種とを、式NaNiMn1−y(式中、0.5<x<1.0、0.2≦y≦0.5)で表される化学組成となるように秤量・混合し、空気中等の酸素ガスが存在する雰囲気中で加熱することによって、製造できる。
ナトリウム原料としては、ナトリウム(金属ナトリウム)及びナトリウム化合物の少なくとも1種を用いる。ナトリウム化合物としては、ナトリウムを含有するものであれば特に制限されず、例えばCHCOONa、CHCOONa・3HO等の酢酸塩、NaNO等の硝酸塩、NaCO等の炭酸塩、NaOH等の水酸化物、NaO、Na等の酸化物等が挙げられる。これらの中では、酢酸塩が好ましく、CHCOONaがより好ましい。
ニッケル原料としては、ニッケル(金属ニッケル)及びニッケル化合物の少なくとも1種を用いる。ニッケル化合物としては、ニッケルを含有するものであれば特に制限されず、例えばNiO等の酸化物、NiOH、Ni(OH)、NiOOH等の水酸化物等が挙げられる。これらの中では、ニッケル水酸化物が好ましく、Ni(OH)がより好ましい。
マンガン原料としては、マンガン(金属マンガン)及びマンガン化合物の少なくとも1種を用いる。マンガン化合物としては、マンガンを含有するものであれば特に制限されず、例えばMnO、Mn、Mn、MnO等の酸化物、MnOH、MnOOH等の水酸化物等が挙げられる。これらの中では、マンガン酸化物等が好ましく、Mnがより好ましい。
あるいは、上記出発物質は、原料として、ナトリウム、ニッケル及びマンガンの中の2種類以上が含まれる化合物を用いて、式NaNiMn1−y(式中、0.5<x<1.0、0.2≦y≦0.5)で表される化学組成となるように秤量・混合し、空気中等の酸素ガスが存在する雰囲気中で加熱することによって、製造できる。このような原料としては、NaMnO等のナトリウムマンガン酸化物、NaNiO等のナトリウムニッケル酸化物、マンガンニッケル水酸化物等を用いることができる。
はじめに、これらの原料を含む混合物を調製する。各構成元素の混合割合は、式NaNiMn1−y(式中、0.5<x<1.0、0.2≦y≦0.5)で表される化学組成となるように混合することが好ましい。加熱時にナトリウムが揮発しやすいので、若干過剰の仕込み量としてもよい。また、混合方法は、これらを均一に混合できる限り特に限定されず、例えばミキサー等の公知の混合機を用いて、湿式又は乾式で混合すればよい。
次いで、混合物を焼成する。焼成温度は、原料によって適宜設定することができ、通常は、400℃〜900℃程度、好ましくは450℃〜800℃である。また、焼成雰囲気も特に限定されず、通常は酸化性雰囲気又は大気中で実施すればよい。
焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜変更できる。冷却方法も特に限定されず、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。冷却の際、ナトリウムが空気中の水分のプロトンと交換される場合がある。
焼成後は、必要に応じて焼成物を公知の方法で粉砕し、さらに上記の焼成工程を実施してもよい。すなわち、上記混合物の焼成、冷却及び粉砕を2回以上繰り返して実施してもよい。ただし、ナトリウムの揮発を抑えるためには、1回の焼成とすることが好ましい。なお、粉砕の程度は、焼成温度等に応じて適宜調節すればよい。
また、上記の方法により目的とする化学組成の出発物質を製造することが困難又は不可能である場合、目的とする化学組成よりもナトリウム過剰の仕込み量とした混合物を焼成した後、ヨウ素等を用いて焼成物を化学的に酸化させたり、焼成物を電極とするナトリウム電池を作製して電気化学的に酸化させたりすることにより、目的とする化学組成を有する出発物質を生成してもよい。この場合、焼成温度は、通常700〜900℃程度、好ましくは750〜850℃である。
上記により得られた出発物質に対してリチウムイオン交換反応(以下、単にイオン交換ともいう)を適用することにより、出発物質中のナトリウムがリチウムに交換された前駆体が得られる。前駆体においては、出発物質中のナトリウムの一部がリチウムに交換されていない。
前駆体は、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造を含む。
ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造としては、出発物質で説明した結晶構造が挙げられる。
ここで、P3構造を有するナトリウム複合酸化物中のナトリウムのほぼすべてがリチウムに交換された場合には、O3構造を有するリチウム複合酸化物が得られる(非特許文献1および2参照)。これに対し、P3構造を有するナトリウム複合酸化物において、一部のナトリウムがリチウムに交換されない場合、得られたリチウムナトリウム複合酸化物は、粉末X線回折において、P3構造のナトリウム複合酸化物およびO3構造のいずれのピークとも合致しないピークが存在する場合があることが判明した。この場合、前駆体は、P3構造のナトリウム複合酸化物およびO3構造のリチウム複合酸化物の単純な混合物ではなく、両者の中間的な結晶構造を有すると考えられる。中間構造の例としては、O3構造のLiCoOおよびP2構造のNa0.7CoOの中間構造であるOP4構造の[Li,Na]CoOが知られている(例えば、N.Yabuuchi et al.,Inorg.Chem.,52,9131(2013)等参照)。
O3構造を有するナトリウム複合酸化物中のナトリウムのほぼすべてがリチウムに交換された場合には、O3構造を有するリチウム複合酸化物が得られる。これに対し、O3構造を有するナトリウム複合酸化物において、一部のナトリウムがリチウムに交換されない場合には、O3構造のナトリウム複合酸化物およびO3構造のリチウム複合酸化物の中間構造が存在する場合があると考えられる。
したがって、本明細書において、「結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造を含む」とは、両者の中間構造も含む概念である。
一実施形態において、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R−3mで表される結晶構造を有する。例えば、O3構造等が挙げられる。
図2は、O3構造のLi2/3Ni1/3Mn2/3の結晶構造を示す模式図である。O3構造は、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造であり、空間群R−3mで表される。O3構造においては、リチウムの酸素配位が八面体であり(すなわち、リチウムが酸素八面体の中心に存在し)、かつ、単位格子あたり遷移金属酸化物層が3層存在する。
前駆体において、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R3mまたはR−3mで表される結晶構造に限定されず、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R−3mで表される結晶構造に限定されない。ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造においては、空間群R3mまたはR−3mで表される結晶構造とそれ以外の空間群で表される結晶構造とが混在してもよい。リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造においては、空間群R−3mで表される結晶構造と空間群R−3m以外の結晶構造とが混在してもよい。前駆体は、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造として、P3構造およびO3構造以外の構造を含んでもよく、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造として、O3構造以外の構造を含んでもよい。さらに、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造として、それぞれ複数種類の構造を含んでもよい。例えば、前駆体は、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造として、P3構造およびO3構造の両方を含んでもよい。
前駆体は、上記結晶構造を有し、かつ、式(LiNa)NiMn1−y(式中、0≦v<0.5、0.04<w<1.0、0<x<1.0、0.5<x+v+w<1.0、0.2≦y≦0.5)で表される化学組成を有する。
出発物質と同様、前駆体には、副生相としてNiOが含まれていてもよい。
前駆体には水素が含まれていてもよく、0≦v<0.5であり、0≦v<0.25が好ましく、0≦v<0.1がより好ましい。
前駆体に含まれるナトリウムの量は、0.04<w<1.0であり、0.04<w<0.3が好ましく、0.04<w<0.2がより好ましい。
前駆体に含まれるリチウムの量は、0<x<1.0であり、0.4<x<0.8が好ましい。
前駆体に含まれるリチウム、ナトリウムおよび水素の合計量は、0.5<x+v+w<1.0であり、0.6<x+v+w<0.8が好ましい。
前駆体に含まれるニッケルの量は、0.2≦y≦0.5であり、0.3<y<0.5が好ましい。
イオン交換の方法としては、(1)リチウム化合物を含む溶液中に粉砕した出発物質を加えることで、還流加熱等によるリチウムイオン交換反応を進行させる方法、(2)粉砕した出発物質をリチウム化合物と混合して加熱することで、リチウム溶融塩によるリチウムイオン交換反応を進行させる方法等が挙げられる。
イオン交換に用いられるリチウム化合物としては、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、水酸化リチウム、ヨウ化リチウム等の比較的低温で溶融する塩類が好ましく、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
溶液を用いたイオン交換において、溶媒としては、水、エタノール、メタノール、ブタノール、ヘキサノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸等の極性溶媒が好ましく、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中では、エタノール又はメタノールを用いることが好ましく、メタノールを用いることがより好ましい。
溶液を用いたイオン交換としては、リチウム化合物を溶解させた溶液中において、粉砕した出発物質の粉末を分散させながら、イオン交換処理を施す方法が好適である。混合比は、出発物質のモル量に対するリチウム化合物全体のモル量の割合として、出発物質:リチウム化合物全体=1:0.1〜1:3.0が好ましく、1:0.5〜1:3.0がより好ましい。
溶液を用いたイオン交換において、リチウムイオン交換処理の温度は、通常50〜300℃、好ましくは60〜200℃の範囲である。処理時間は、通常1〜60時間、好ましくは3〜24時間である。
リチウム溶融塩によるイオン交換において、混合比は、出発物質のモル量に対するリチウム化合物全体のモル量の割合として、出発物質:リチウム化合物全体=1:0.1〜1:3.0が好ましく、1:0.5〜1:3.0がより好ましい。
リチウム溶融塩によるイオン交換において、リチウムイオン交換処理の温度は、通常50〜500℃、好ましくは200〜450℃の範囲である。処理時間は、通常30分間〜60時間、好ましくは1〜24時間、より好ましくは1〜10時間である。
イオン交換処理後、得られた生成物をエタノール又はメタノール等でよく洗浄し、乾燥させることによって、目的とする前駆体が得られる。洗浄方法については、イオン交換水等の水で洗浄してもよい。ただし、この場合には、リチウムまたはナトリウムがプロトンと交換されてしまうため、容量低下の原因となる。また、熱処理時に脱水反応を引き起こし、酸素欠損の原因となる。乾燥方法については、特に制限されず、通常の方法が用いられる。
前駆体に含まれるナトリウム量が上記の範囲である限り、イオン交換処理を2回以上繰り返してもよい。この場合、同じ方法のイオン交換処理を行ってもよいし、異なる方法のイオン交換処理を行ってもよい。
上記により得られた前駆体に対して熱処理を行うことにより、目的とするリチウムナトリウム複合酸化物が得られる。
熱処理後のリチウムナトリウム複合酸化物は、前駆体と同様の化学組成を有している。ただし、前駆体を熱処理することで、リチウムナトリウム複合酸化物中に酸素欠損が導入される場合がある。一方、結晶構造については、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造に加えて、リチウムに酸素が4配位したスピネル構造が含まれている。これは、熱処理によって、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造を構成する遷移金属酸化物層がリチウム層に移動するためと考えられる。
ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造としては、出発物質で説明した結晶構造が挙げられ、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造としては、前駆体で説明した結晶構造が挙げられる。また、両者の中間構造も含まれる。
一実施形態において、リチウムに酸素が4配位したスピネル構造は、空間群Fd−3mで表される結晶構造を有する。例えば、リチウムの酸素配位が四面体である(すなわち、リチウムが酸素四面体の中心に存在する)スピネル構造が挙げられる。
熱処理後のリチウムナトリウム複合酸化物の結晶構造中に、リチウムに酸素が4配位したスピネル構造が存在することは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行うことで、ナトリウムが存在しない領域が存在することから間接的に確認できる。
熱処理温度は、300℃以上800℃以下が好ましく、300℃以上800℃未満がより好ましく、350℃以上750℃以下がさらに好ましく、400℃以上700℃以下が特に好ましい。
熱処理雰囲気は特に限定されず、大気中(空気雰囲気)、真空、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、不活性雰囲気等が挙げられる。これらの中では、空気雰囲気下又は酸化性雰囲気下で熱処理を行うことが好ましい。酸化性雰囲気下で熱処理を行う場合、実質的に酸素のみを含む酸素雰囲気下で熱処理を行ってもよい。
熱処理時間は、熱処理温度に応じて適宜設定することができ、通常は1〜6時間程度であり、好ましくは1〜5時間である。なお、熱処理時間とは、熱処理温度を保持する時間を意味する。
熱処理後の冷却方法としては、自然放冷(炉内放冷)、徐冷等が挙げられる。
必要に応じて、熱処理を2回以上繰り返して実施してもよい。その際、熱処理条件(温度、雰囲気、時間等)はすべて同じであってもよく、異なっていてもよい。
なお、前駆体におけるx+wの合計値及びyの値は、それぞれ出発物質におけるxの値及びyの値とほぼ同じ値となるが、多少の誤差は許容される。一方、前駆体におけるvの値は、出発物質におけるvの値と同じであってもよく、異なっていてもよい。また、熱処理後のリチウムナトリウム複合酸化物におけるw、x及びyの値は、前駆体におけるw、x及びyの値とほぼ同じ値となるが、多少の誤差は許容される。熱処理後のリチウムナトリウム複合酸化物におけるvの値は、前駆体におけるvの値よりも小さい。
[リチウムナトリウム複合酸化物]
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物は、式(LiNa)NiMn1−y2−z(式中、0≦v<0.5、0<w<1.0、0<x<1.0、0<x+v+w<1.0、0.2≦y≦0.5、0≦z<0.13)で表され、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が4配位したスピネル構造を含む。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物は、上述の製造方法により合成されたものである。したがって、その結晶構造は、[リチウムナトリウム複合酸化物の製造方法]において説明したとおりであるため、その詳細な説明は省略する。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物は、前駆体の熱処理により合成されるため、上述の製造方法で用いた前駆体と同様の化学組成を有する。ただし、リチウムナトリウム複合酸化物をリチウム二次電池用正極活物質として使用する場合、充放電により化学組成が変化する。例えば、充電時にはナトリウムおよびリチウムが脱離するためナトリウム量およびリチウム量が当初の組成よりも減少し、放電時にはリチウムが挿入されるためリチウム量が当初の組成よりも増加すると考えられる。そのため、リチウム二次電池の使用状態では、リチウムナトリウム複合酸化物におけるNaの含有比wは前駆体よりも小さくなり、0.04未満となる。また、Liの含有比xは0〜1の間で変化する(充電と放電の状態による)と考えられる。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物には、副生相としてNiOが含まれていてもよい。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物には、リチウムサイトまたはナトリウムサイトの一部に水素が存在してもよく、0≦v<0.5であり、0≦v<0.25が好ましく、0≦v<0.1がより好ましい。本発明のリチウムナトリウム複合酸化物に水素が存在する場合、結晶構造中に、水素に酸素が2配位した層状構造が含まれる。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物に含まれるナトリウムの量は、0<w<1.0である。合成後、電極として使用する前のリチウムナトリウム複合酸化物におけるナトリウムの量は、0.04<w<1.0が好ましく、0.04<w<0.3がより好ましく、0.04<w<0.2がさらに好ましい。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物に含まれるリチウムの量は、0<x<1.0であり、0.4<x<0.8が好ましい。なお、リチウムは、遷移金属酸化物層間のほか、遷移金属酸化物層内に存在してもよい。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物に含まれるリチウム、ナトリウムおよび水素の合計量は、0<x+v+w<1.0である。合成後、電極として使用する前のリチウムナトリウム複合酸化物におけるリチウム、ナトリウムおよび水素の合計量は、0.5<x+v+w<1.0が好ましく、0.6<x+v+w<0.8がより好ましい。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物に含まれるニッケルの量は、0.2≦y≦0.5であり、0.3<y<0.5が好ましい。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物には酸素欠損が存在してもよい。酸素欠損の量は、0≦z<0.13であり、0≦z<0.05が好ましく、z=0が最も好ましい。
一実施形態において、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R3mまたはR−3mで表される結晶構造を有する。例えば、上述したP3構造(空間群R3m)、O3構造(空間群R−3m)等が挙げられる。
一実施形態において、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R−3mで表される結晶構造を有する。例えば、上述したO3構造等が挙げられる。
一実施形態において、リチウムに酸素が4配位したスピネル構造は、空間群Fd−3mで表される結晶構造を有する。例えば、リチウムの酸素配位が四面体であるスピネル構造等が挙げられる。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物は、具体的には、結晶構造中に、ナトリウムの酸素配位が三角柱であるP3構造、リチウムの酸素配位が八面体であるO3構造およびリチウムの酸素配位が四面体であるスピネル構造を含むことが好ましい。ナトリウムの酸素配位が三角柱であるP3構造およびリチウムの酸素配位が八面体であるO3構造の中間構造が含まれていてもよい。また、ナトリウムの酸素配位が八面体であるO3構造が含まれていてもよい。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物は、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が4配位したスピネル構造を、それぞれ1種類の構造のみ含んでいてもよく、複数種類の構造を含んでいてもよい。
[リチウムまたはナトリウム二次電池用正極活物質]
本発明のリチウムまたはナトリウム二次電池用正極活物質(以下、二次電池用正極活物質ともいう)は、リチウム二次電池またはナトリウム二次電池の正極に用いられ、上記リチウムナトリウム複合酸化物を主成分とする。すなわち、本発明の二次電池用正極活物質は、式(LiNa)NiMn1−y2−z(式中、0≦v<0.5、0<w<1.0、0<x<1.0、0<x+v+w<1.0、0.2≦y≦0.5、0≦z<0.13)で表され、結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が4配位したスピネル構造を含むリチウムナトリウム複合酸化物を主成分として構成される。
本発明の二次電池用正極活物質において、リチウムナトリウム複合酸化物を「主成分とする」とは、当該リチウムナトリウム複合酸化物の含有量が51重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%、さらに好ましくは100重量%であることを意味する。本発明の機能を損なわない限りにおいて、二次電池用正極活物質には、主成分以外の成分が含まれていてもよい。
本発明のリチウムナトリウム複合酸化物は、[リチウムナトリウム複合酸化物]において説明したとおりであるので、その詳細な説明は省略する。
なお、本発明の二次電池用正極活物質は、本発明のリチウムナトリウム複合酸化物を主成分とする限り、本発明のリチウムナトリウム複合酸化物が1種のみ含まれていてもよく、本発明のリチウムナトリウム複合酸化物が2種以上含まれていてもよい。
本発明の二次電池用正極活物質は、本発明のリチウムナトリウム複合酸化物を用いて製造できる。本発明のリチウムナトリウム複合酸化物の製造方法は、[リチウムナトリウム複合酸化物の製造方法]において説明したとおりであるので、その詳細な説明は省略する。
上述のとおり、本発明のリチウムナトリウム複合酸化物を正極活物質として使用することによって、二次電池を高容量化および高電圧化できることに加えて、放電時の急激な電圧降下を抑制できる。そのため、放電時に電圧が急激に降下しない領域では、二次電池を実装した際のSOC検知を容易かつ低コストで行うことができる。さらに、正極活物質に含まれるリチウムの量を減らすことができるため、二次電池を製造するコストを低減できる。
[リチウムまたはナトリウム二次電池]
本発明のリチウムまたはナトリウム二次電池は、正極と、負極と、電解質と、必要に応じて他の電池要素とを含んで構成されるリチウム二次電池またはナトリウム二次電池であり、上記リチウムナトリウム複合酸化物を主成分とする正極活物質を正極に含有する。
本発明のリチウムまたはナトリウム二次電池は、上記リチウムナトリウム複合酸化物を主成分とする正極活物質を正極に含有する以外は、従来公知のリチウムまたはナトリウム二次電池の電池要素をそのまま採用できる。本発明のリチウムまたはナトリウム二次電池は、コイン型、ボタン型、円筒型、全固体型のいずれの構成であってもよい。
以下、本発明の二次電池の一例として、リチウム二次電池(コイン型リチウム二次電池)について説明する。以下で説明する各電池要素は、コイン型以外のリチウム二次電池、に対しても同様に適用できる。
図3は、本発明のリチウム二次電池の一例を模式的に示す部分断面図である。図3では、本発明のリチウム二次電池をコイン型リチウム二次電池とした一例を示している。このリチウム二次電池1は、負極端子2と、負極3と、電解液が含浸されたセパレータ4と、絶縁パッキング5と、正極6と、正極缶7とにより構成される。
図3に示すように、正極缶7は下側に配置され、負極端子2は上側に配置される。正極缶7と負極端子2とにより、リチウム二次電池1の外形が形成される。
正極缶7と負極端子2との間には、下側から順に正極6と負極3とが層状に設けられる。
正極6と負極3との間には、双方を互いに隔てる電解液が含浸されたセパレータ4が介在している。
正極缶7と負極端子2は、絶縁パッキング5で電気的に絶縁されている。
本発明のリチウム二次電池においては、上述したリチウム二次電池用正極活物質に対して、必要に応じて導電剤や結着剤等を配合して正極合材を調製し、これを集電体に圧着することにより正極を作製できる。集電体としては、好ましくはステンレスメッシュ、アルミ箔等を用いることができる。導電剤としては、好ましくはアセチレンブラック、ケッチェンブラック等を用いることができる。結着剤としては、好ましくはテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等を用いることができる。
正極合材における正極活物質、導電剤及び結着剤等の配合は特に限定されない。通常、導電剤が1〜30重量%程度(好ましくは5〜25重量%)、結着剤が0〜30重量%(好ましくは3〜10重量%)とし、残部が正極活物質となるように配合することが好ましい。
本発明のリチウム二次電池において、上記正極に対する対極としては、例えば金属リチウム、リチウム合金等の金属系材料、及び、黒鉛、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)等の炭素系材料等、負極として機能し、リチウムを吸蔵・放出可能な公知のものを採用できる。
また、セパレータや電池容器等も、公知の電池要素を採用できる。
さらに、電解質としても公知の電解液や固体電解質等を採用できる。例えば、電解液としては、過塩素酸リチウム、6フッ化リン酸リチウム等の電解質を、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の溶媒に溶解させたものを用いることができる。
また、全固体型リチウム二次電池についても、本発明のリチウムナトリウム複合酸化物を主成分とする正極活物質を用いる以外は、公知の全固体型リチウム二次電池と同様の構造とすればよい。
全固体型リチウム二次電池の場合、電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物等のポリマー系固体電解質の他、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質等を用いることができる。
全固体型リチウム二次電池の正極については、例えば、上記した正極活物質、導電剤及びバインダーに加えて固体電解質を含む正極合剤をアルミニウム、ニッケル、ステンレス等の正極集電体に担持させればよい。
上述の各電池要素は、ナトリウム二次電池に対しても同様に適用できる。
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(比較例1)
[出発物質1:Na0.67Ni0.33Mn0.67の合成]
純度98.5%以上の酢酸ナトリウム(CHCOONa)粉末と、純度99.9%以上の水酸化ニッケル(II)(Ni(OH))粉末と、純度99.9%以上の酸化マンガン(III)(Mn)とを、モル比Na:Ni:Mn=0.687:0.333:0.667となるように秤量した。これらを乳鉢にてエタノールに分散させ混合した。その後、ペレット化し、JIS規格金製るつぼに充填した。管状電気炉を用いて、酸素雰囲気中、650℃、10時間の条件で焼成した。
得られた試料について、ICP発光分光分析装置(島津製作所製、商品名ICPS−8000)により化学組成を分析したところ、Na:Ni:Mn=0.67:0.33:0.67であり、Na2/3Ni1/3Mn2/3の化学式で妥当であることが確認された。
さらに、粉末X線回折装置(ブルカー製、商品名D8 ADVANCE)により試料のX線回折パターンを測定したところ、菱面体晶系で空間群R3mの層状岩塩型構造であることが確認された。この粉末X線回折図形を図4に示す。図4中、横軸は2θ(°/CuKα)を表し、縦軸は任意単位のピーク強度を表しており、数値は各ピークの面指数を表している。
各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、P3構造を有する公知のNa2/3Ni1/3Mn2/3の値と良く一致していた(例えば、Z.Lu et al.,Chem.Mater.,12,3583(2000)参照)。
a=2.8865Å(誤差:0.0001Å以内)
c=16.781Å(誤差:0.001Å以内)
以上により、P3構造を有するNa0.67Ni0.33Mn0.67多結晶体を得た。
[前駆体Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.8%の脱水メタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、上記で合成された出発物質Na0.67Ni0.33Mn0.67多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.67Ni0.33Mn0.67:LiBr=1:4.0となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて110℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、メタノールでよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.64:0.027:0.33:0.67であった。
さらに、粉末X線回折測定により、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であることが確認された。この粉末X線回折図形を図4に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となった。
a=2.8645Å(誤差:0.0001Å以内)
c=14.251Å(誤差:0.001Å以内)
c/a=4.975
以上により、O3構造を有するLi0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67の作製]
上記により得られた前駆体Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67多結晶体を粉砕し、その粉砕物をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて空気雰囲気下、500℃で5時間保持することにより、熱処理を行った。その後、炉内放冷により室温に戻した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.64:0.027:0.33:0.67であった。
さらに、粉末X線回折測定により、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であることが確認された。この粉末X線回折図形を図5に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となった。
a=2.8838Å(誤差:0.0002Å以内)
c=14.225Å(誤差:0.002Å以内)
c/a=4.932
以上により、O3構造を有する500℃熱処理Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67を得た。
(実施例1)
[前駆体Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.8%の脱水メタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、比較例1で合成された出発物質Na0.67Ni0.33Mn0.67多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.67Ni0.33Mn0.67:LiBr=1:2.0となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて110℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、メタノールでよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.57:0.093:0.33:0.67であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図4に示す。O3構造のピークが確認されたほか、2θ(°/CuKα)=17°付近にO3構造およびP3構造のいずれでもないピークが確認された。上述したように、これは、O3構造およびP3構造の中間構造のピークと考えられる(他の中間構造の例としては、N.Yabuuchi et al.,Inorg.Chem.,52,9131(2013)等参照)。
以上により、O3構造およびP3構造の中間構造を有するLi0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67の作製]
上記により得られた前駆体Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67に対して、比較例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.57:0.093:0.33:0.67であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図5に示す。O3構造のピークが確認されたほか、2θ(°/CuKα)=17°付近にO3構造およびP3構造のいずれでもないピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造の中間構造を有する500℃熱処理Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67を得た。
(実施例2)
[前駆体Li0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.8%の脱水メタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、比較例1で合成された出発物質Na0.67Ni0.33Mn0.67多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.67Ni0.33Mn0.67:LiBr=1:0.5となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて110℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、メタノールでよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.41:0.25:0.33:0.67であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図4に示す。P3構造のピークが確認されたほか、2θ(°/CuKα)=17°付近にO3構造およびP3構造のいずれでもないピークが確認された。実施例1と同様、これは、O3構造およびP3構造の中間構造のピークと考えられる。
以上により、O3構造およびP3構造の中間構造を有するLi0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67の作製]
上記により得られた前駆体Li0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67に対して、比較例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.41:0.25:0.33:0.67であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図5に示す。P3構造およびO3構造のピークが確認されたほか、2θ(°/CuKα)=17°付近にO3構造およびP3構造のいずれでもないピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造の中間構造を有する500℃熱処理Li0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67を得た。
実施例1の500℃熱処理Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67、実施例2の500℃熱処理Li0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67および比較例1の500℃熱処理Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67を用いて、以下の方法でリチウム二次電池を作製し、電気化学特性を評価した。
[リチウム二次電池の作製]
実施例1の500℃熱処理Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67、実施例2の500℃熱処理Li0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67および比較例1の500℃熱処理Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67をそれぞれ活物質とし、導電剤としてアセチレンブラック、結着剤としてテトラフルオロエチレンを、重量比で5:5:1となるように混合し、Alメッシュに圧着させ電極を作成した。それぞれの電極に対して、リチウム金属を対極、6フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒(体積比1:2)に溶解させた1M溶液を電解液とする、図3に示す構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製した。電池の作製は、公知のセルの構成・組み立て方法に従って行った。以下の実施例でも同様である。
[充放電試験]
作製した各リチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度15mA/g、4.8V〜2.0Vのカットオフ電位で充放電試験(電気化学的リチウム挿入・脱離試験)を行い、充放電特性を評価した。充放電試験は充電(リチウム脱離)から開始した。以下の実施例でも同様である。
図6に、実施例1、実施例2および比較例1における放電に伴う電圧変化を示す。図6においては、容量が大きくなるに従ってセル電圧が低くなる、放電時(リチウム挿入時)の電圧変化を示している(以下の図も同様)。
図6に示すように、500℃熱処理Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67(実施例1)を用いたリチウム二次電池は、500℃熱処理Li0.64Na0.027Ni0.33Mn0.67(比較例1)を用いたリチウム二次電池と同様、高容量かつ高電圧であることがわかる。さらに、実施例1のリチウム二次電池では、比較例1のリチウム二次電池に比べて、容量が0〜160mAh/g(好ましくは80〜140mAh/g)の範囲における電圧降下が小さいことがわかる。
図6に示す結果から、リチウムナトリウム複合酸化物に対して熱処理を行うことで、リチウム二次電池を高容量かつ高電圧にすることができ、さらに、リチウムナトリウム複合酸化物に含まれるナトリウム量wを0.04より大きくすることで、放電時の急激な電圧降下を抑制できることが確認された。したがって、電圧降下が小さい範囲においては、リチウム二次電池を実装した際にSOCを容易に検知できると考えられる。
さらに、図6に示すように、500℃熱処理Li0.41Na0.25Ni0.33Mn0.67(実施例2)を用いたリチウム二次電池では、実施例1および比較例1のリチウム二次電池に比べて、初期放電容量は低いものの、容量が0〜120mAh/gの範囲における電圧降下は小さいことがわかる。この結果から、リチウムナトリウム複合酸化物に含まれるナトリウム量が多くなるほど、電圧降下を抑制できると考えられる。
(実施例3)
[酸素雰囲気下での熱処理]
実施例1で得られた前駆体Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67多結晶体を粉砕し、その粉砕物をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて酸素雰囲気下、500℃で5時間保持することにより、熱処理を行った。その後、炉内放冷により室温に戻した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.57:0.093:0.33:0.67であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図7に示す。実施例1の500℃熱処理Li0.57Na0.093Ni0.33Mn0.67と同様、O3構造のピークが確認されたほか、2θ(°/CuKα)=17°付近にO3構造およびP3構造のいずれでもないピークが確認された。
図8に、実施例1および実施例3における放電に伴う電圧変化を示す。
図8に示すように、酸素雰囲気下で熱処理を行った実施例3では、空気雰囲気下で熱処理を行った実施例1に比べて、初期放電容量が僅かに小さいものの、容量が0〜120mAh/gの範囲における電圧降下は小さいことがわかる。
図8に示す結果から、熱処理雰囲気がリチウム二次電池の電気化学特性に寄与することが示唆されている。酸素雰囲気下で熱処理を行うと、リチウムナトリウム複合酸化物中の酸素欠損が少なくなるため、酸素欠損の量がリチウム二次電池の電気化学特性に寄与すると考えられる。
(比較例2)
[出発物質2:Na0.76Ni0.50Mn0.50の合成]
純度98.5%以上の酢酸ナトリウム(CHCOONa)粉末と、純度99.9%以上の水酸化ニッケル(II)(Ni(OH))粉末と、純度99.9%以上の酸化マンガン(III)(Mn)とを、モル比Na:Ni:Mn=1.05:0.500:0.500となるように秤量した。これらを乳鉢にてエタノールに分散させ混合した。その後、ペレット化し、白金製ボートに充填した。管状電気炉を用いて、空気雰囲気中、800℃、20時間の条件で焼成した後、液体窒素を用いてクエンチ(急冷)を行った。
得られた試料について、粉末X線回折測定を行ったところ、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であることが確認された。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、O3構造を有する公知のNa1.0Ni0.5Mn0.5の値と良く一致していた(例えば、Xin Xia et al.,J.Electrochem.Soc.,159,A1048(2012)参照)。
a=2.9650Å(誤差:0.0003Å以内)
c=15.9031Å(誤差:0.004Å以内)
その後、得られた試料に対して化学的酸化処理を行った。具体的には、ヨウ素(I)0.50gをアセトニトリル20gに溶解させた0.10mol/kg溶液中に、得られた試料1.1gを投入し、25℃、4時間、500rpmにて撹拌した。
化学的酸化処理を行った試料について、化学組成を分析したところ、Na:Ni:Mn=0.76:0.50:0.50であった。
さらに、粉末X線回折測定により、菱面体晶系で空間群R3mの層状岩塩型構造であることが確認された。この粉末X線回折図形を図9に示す。
また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、P3構造を有する公知のNa0.7Ni0.5Mn0.5の値と良く一致していた(例えば、S.Komaba et al.,Inorg.Chem.,51,6211(2012)参照)。
a=2.8822Å(誤差:0.0002Å以内)
c=16.723Å(誤差:0.003Å以内)
以上により、P3構造を有するNa0.76Ni0.50Mn0.50多結晶体を得た。
[前駆体Li0.73Na0.038Ni0.50Mn0.50の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.5%の脱水エタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、上記で合成された出発物質Na0.76Ni0.50Mn0.50多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.76Ni0.50Mn0.50:LiBr=1:6.0となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて140℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、イオン交換水でよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.73:0.038:0.50:0.50であった。
さらに、粉末X線回折測定により、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であることが確認された。この粉末X線回折図形を図9に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となった。
a=2.8965Å(誤差:0.0001Å以内)
c=14.327Å(誤差:0.001Å以内)
c/a=4.946
以上により、O3構造を有するLi0.73Na0.038Ni0.50Mn0.50多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.73Na0.038Ni0.50Mn0.50の作製]
上記により得られた前駆体Li0.73Na0.038Ni0.50Mn0.50多結晶体に対して、比較例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.73:0.038:0.50:0.50であった。
さらに、粉末X線回折測定により、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であることが確認された。この粉末X線回折図形を図10に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となった。
a=2.8952Å(誤差:0.0001Å以内)
c=14.316Å(誤差:0.001Å以内)
c/a=4.945
以上により、O3構造を有する500℃熱処理Li0.73Na0.038Ni0.50Mn0.50を得た。
(実施例4)
[前駆体Li0.50Na0.19Ni0.50Mn0.50の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.8%の脱水メタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、比較例2で合成された出発物質Na0.76Ni0.50Mn0.50多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.76Ni0.50Mn0.50:LiBr=1:0.5となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて110℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、メタノールでよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.50:0.19:0.50:0.50であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図9に示す。O3構造およびP3構造のピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造を有するLi0.50Na0.19Ni0.50Mn0.50多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.50Na0.19Ni0.50Mn0.50の作製]
上記により得られた前駆体Li0.50Na0.19Ni0.50Mn0.50に対して、比較例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.50:0.19:0.50:0.50であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図10に示す。O3構造およびP3構造のピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造を有する500℃熱処理Li0.50Na0.19Ni0.50Mn0.50を得た。
(実施例5)
[前駆体Li0.61Na0.13Ni0.50Mn0.50の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.8%の脱水メタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、比較例2で合成された出発物質Na0.76Ni0.50Mn0.50多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.76Ni0.50Mn0.50:LiBr=1:2.0となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて110℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、メタノールでよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.61:0.13:0.50:0.50であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図9に示す。O3構造およびP3構造のピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造を有するLi0.61Na0.13Ni0.50Mn0.50多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.61Na0.13Ni0.50Mn0.50の作製]
上記により得られた前駆体Li0.61Na0.13Ni0.50Mn0.50に対して、比較例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.61:0.13:0.50:0.50であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図10に示す。O3構造およびP3構造のピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造を有する500℃熱処理Li0.61Na0.13Ni0.50Mn0.50を得た。
(実施例6)
[前駆体Li0.71Na0.064Ni0.50Mn0.50の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.8%の脱水メタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、比較例2で合成された出発物質Na0.76Ni0.50Mn0.50多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.76Ni0.50Mn0.50:LiBr=1:4.0となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて110℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、メタノールでよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.71:0.064:0.50:0.50であった。
さらに、粉末X線回折測定により、O3構造およびP3構造のピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造を有するLi0.71Na0.064Ni0.50Mn0.50多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.71Na0.064Ni0.50Mn0.50の作製]
上記により得られた前駆体Li0.71Na0.064Ni0.50Mn0.50に対して、比較例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.71:0.064:0.50:0.50であった。
以上により、O3構造およびP3構造を有する500℃熱処理Li0.71Na0.064Ni0.50Mn0.50を得た。
図11に、実施例4〜6および比較例2における放電に伴う電圧変化を示す。
図11に示すように、リチウムナトリウム複合酸化物に含まれるナトリウム量wが0.04より大きい実施例4〜6では、リチウムナトリウム複合酸化物に含まれるナトリウム量wが0.04より小さい比較例2に比べて、初期放電容量は低いものの、容量が20〜100mAh/g(好ましくは40〜80mAh/g)の範囲における電圧降下は小さいことがわかる。
図11に示す結果から、実施例1よりもニッケル量が多いリチウムナトリウム複合酸化物についても、リチウムナトリウム複合酸化物に含まれるナトリウム量wを0.04より大きくすることで、放電時の電圧降下を抑制できることが確認された。
(比較例3)
[出発物質3:Na0.70Ni0.20Mn0.80の合成]
純度98.5%以上の酢酸ナトリウム(CHCOONa)粉末と、純度99.9%以上の水酸化ニッケル(II)(Ni(OH))粉末と、純度99.9%以上の酸化マンガン(III)(Mn)とを、モル比Na:Ni:Mn=0.72:0.20:0.80となるように秤量した。これらを乳鉢にてエタノールに分散させ混合した。その後、ペレット化し、JIS規格金製るつぼに充填した。管状電気炉を用いて、酸素雰囲気中、650℃、10時間の条件で焼成した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Na:Ni:Mn=0.70:0.20:0.80であった。
さらに、粉末X線回折測定により、菱面体晶系で空間群R3mの層状岩塩型構造であることが確認された。この粉末X線回折図形を図12に示す。
また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、P3構造を有する公知のNa0.7Ni0.2Mn0.8の値と良く一致していた(例えば、M.Dolle et al.,Chem.Mater.,17,1036(2000)参照)。
a=2.8708Å(誤差:0.0001Å以内)
c=16.886Å(誤差:0.001Å以内)
以上により、P3構造を有するNa0.70Ni0.20Mn0.80多結晶体を得た。
[前駆体Li0.49Na0.010Ni0.20Mn0.80の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.5%の脱水エタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、上記で合成された出発物質Na0.70Ni0.20Mn0.80多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.70Ni0.20Mn0.80:LiBr=1:6.0となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて140℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、イオン交換水でよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.49:0.010:0.20:0.80であった。前駆体において、アルカリ金属の化学組成が合わないのは、イオン交換水で洗浄した際に、ナトリウム又はリチウムの一部が水素(プロトン)と交換されるためと考えられる。
さらに、粉末X線回折測定により、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であることが確認された。この粉末X線回折図形を図12に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となった。
a=2.8670Å(誤差:0.0001Å以内)
c=14.529Å(誤差:0.001Å以内)
c/a=5.068
以上により、O3構造を有するLi0.49Na0.010Ni0.20Mn0.80多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.49Na0.010Ni0.20Mn0.80の作製]
上記により得られた前駆体Li0.49Na0.010Ni0.20Mn0.80多結晶体に対して、比較例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.49:0.010:0.20:0.80であった。
さらに、粉末X線回折測定により、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であることが確認された。この粉末X線回折図形を図13に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となった。
a=2.8868Å(誤差:0.0002Å以内)
c=14.165Å(誤差:0.003Å以内)
c/a=4.907
以上により、O3構造を有する500℃熱処理Li0.49Na0.010Ni0.20Mn0.80を得た。
(実施例7)
[前駆体Li0.46Na0.24Ni0.20Mn0.80の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.8%の脱水メタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、比較例3で合成された出発物質Na0.70Ni0.20Mn0.80多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.70Ni0.20Mn0.80:LiBr=1:0.5となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて110℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、メタノールでよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Na:Li:Ni:Mn:=0.46:0.24:0.20:0.80であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図12に示す。O3構造およびP3構造のピークが確認されたほか、2θ(°/CuKα)=17°付近にO3構造およびP3構造のいずれでもないピークが確認された。実施例1と同様、これは、O3構造およびP3構造の中間構造のピークと考えられる。
以上により、O3構造およびP3構造の中間構造を有するLi0.46Na0.24Ni0.20Mn0.80多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.46Na0.24Ni0.20Mn0.80の作製]
上記により得られた前駆体Li0.46Na0.24Ni0.20Mn0.80に対して、比較例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.46:0.24:0.20:0.80であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図13に示す。O3構造およびP3構造のピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造を有する500℃熱処理Li0.46Na0.24Ni0.20Mn0.80を得た。
(実施例8)
[前駆体Li0.64Na0.064Ni0.20Mn0.80の合成]
純度99.9%以上の臭化リチウム(LiBr)粉末を純度99.8%の脱水メタノール15gに溶解させた溶液を準備し、この溶液へ、比較例3で合成された出発物質Na0.70Ni0.20Mn0.80多結晶体1.1gを投入した。このとき、モル比でNa0.70Ni0.20Mn0.80:LiBr=1:2.0となるように溶液を調製した。次いで、ジムロート冷却器を用いて110℃で5時間還流加熱することにより、リチウムイオン交換処理を実施した。その後、メタノールでよく洗浄し、自然乾燥した。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Na:Li:Ni:Mn:=0.64:0.064:0.20:0.80であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図12に示す。O3構造およびP3構造のピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造を有するLi0.64Na0.064Ni0.20Mn0.80多結晶体を得た。
[500℃熱処理Li0.64Na0.064Ni0.20Mn0.80の作製]
上記により得られた前駆体Li0.64Na0.064Ni0.20Mn0.80に対して、比較例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料について、化学組成を分析したところ、Li:Na:Ni:Mn:=0.64:0.064:0.20:0.80であった。
得られた試料の粉末X線回折図形を図13に示す。O3構造およびP3構造のピークが確認された。
以上により、O3構造およびP3構造を有する500℃熱処理Li0.64Na0.064Ni0.20Mn0.80を得た。
図14に、実施例7、実施例8および比較例3における放電に伴う電圧変化を示す。
図14に示すように、リチウムナトリウム複合酸化物に含まれるナトリウム量wが0.04より大きい実施例7および8では、リチウムナトリウム複合酸化物に含まれるナトリウム量wが0.04より小さい比較例3に比べて、容量が0〜200mAh/g(好ましくは50〜150mAh/g)の範囲における電圧降下が小さいことがわかる。
図14に示す結果から、実施例1よりもニッケル量が少ないリチウムナトリウム複合酸化物についても、リチウムナトリウム複合酸化物に含まれるナトリウム量wを0.04より大きくすることで、放電時の電圧降下を抑制できることが確認された。
1 リチウム二次電池
2 負極端子
3 負極
4 電解液が含浸されたセパレータ
5 絶縁パッキング
6 正極
7 正極缶

Claims (10)

  1. 式(LiNa)NiMn1−y2−zで表され、式中、0≦v<0.5、0<w<1.0、0<x<1.0、0<x+v+w<1.0、0.2≦y≦0.5、0≦z<0.13であり、
    結晶構造中に、ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造、リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造およびリチウムに酸素が4配位したスピネル構造を含む、リチウムナトリウム複合酸化物。
  2. 前記ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R3mで表される結晶構造を有する、請求項1に記載のリチウムナトリウム複合酸化物。
  3. 前記ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体は三角柱である、請求項2に記載のリチウムナトリウム複合酸化物。
  4. 前記ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R−3mで表される結晶構造を有する、請求項1に記載のリチウムナトリウム複合酸化物。
  5. 前記ナトリウムに酸素が6配位した配位多面体は八面体である、請求項4に記載のリチウムナトリウム複合酸化物。
  6. 前記リチウムに酸素が6配位した配位多面体の層状構造は、空間群R−3mで表される結晶構造を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムナトリウム複合酸化物。
  7. 前記リチウムに酸素が4配位したスピネル構造は、空間群Fd−3mで表される結晶構造を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムナトリウム複合酸化物。
  8. 前記式中、0.04<w<1.0、0.5<x+v+w<1.0である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムナトリウム複合酸化物。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムナトリウム複合酸化物を主成分とする、リチウムまたはナトリウム二次電池用正極活物質。
  10. 正極と、負極と、電解質と、を含んで構成されるリチウムまたはナトリウム二次電池であって、
    前記正極が、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムナトリウム複合酸化物を主成分とする正極活物質を含有する、リチウムまたはナトリウム二次電池。

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