以下に、本発明の好ましい形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図においては、各構成要素を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、構成要素毎に縮尺を異ならせてあるものであり、本発明は、これらの図に記載された構成要素の数量、構成要素の形状、構成要素の大きさの比率、及び各構成要素の相対的な位置関係のみに限定されるものではない。
図1に示す本実施形態の自動操舵システム100は、車両に搭載され、当該車両が備える操舵装置1の動作を制御する装置である。操舵装置1は、例えば電動アクチュエータを備え、電動アクチュエータの出力により車両の舵角を変更する電動パワーステアリング装置である。自動操舵システム100は、操舵装置1を制御することにより、車両の自動運転機能および運転支援機能における自動操舵を実行する。
自動操舵システム100は、操舵支援装置10、および操舵制御装置20を備える。また、車両は、操舵装置1、車外通信装置2、状態量検出装置3、報知部4および通信ネットワーク5を備える。
本実施形態では一例として、操舵支援装置10、操舵制御装置20、車外通信装置2および状態量検出装置3は、通信ネットワーク5に接続されており、当該通信ネットワーク5を介して互いにデータ通信を行う。
車外通信装置2は、無線通信装置を備え、車両の外部の通信装置との間で情報の送受信を行う。車外通信装置2は、通信エリア内に存在する他車両と直接的に通信を行う、いわゆる車車間通信を行う。また、車外通信装置2は、通信エリア内に存在する無線基地局との通信を行う、いわゆる路車間通信も行う形態であってもよい。車外通信装置2は、通信エリア内に存在する他車両の位置および速度の情報や、車両が走行中である道路における車線規制の情報等を受信する。なお、車両は、車外通信装置2を備えていなくてもよい。
車外通信装置2から出力される状態量の情報は、通信ネットワーク5を経由して操舵支援装置10に入力される。なお、車外通信装置2と操舵支援装置10との間の通信は、通信ネットワーク5を用いずに専用の通信ケーブルを用いて行われてもよい。
状態量検出装置3は、車両の状態量を検出する複数のセンサからなる。車両の状態量には、車両の速度である車速V、車両の前後方向の加速度α、車両のヨー方向の角速度であるヨーレートYawr、および操舵装置1の舵角が少なくとも含まれる。すなわち、状態量検出装置3は、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサおよび舵角センサを少なくとも含む。これらのセンサは公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。なお、車両の前後方向の加速度αは、車速Vから算出可能であるため、状態量検出装置3は、加速度センサを備えていなくともよい。
状態量検出装置3から出力される状態量の情報は、通信ネットワーク5を経由して操舵支援装置10および操舵制御装置20に入力される。なお、状態量検出装置3と操舵支援装置10および操舵制御装置20との間の通信は、通信ネットワーク5を用いずに専用の通信ケーブルを用いて行われてもよい。
報知部4は、例えば画像や文字を表示する表示装置、光を発する発光装置、音を発するスピーカ、振動を発するバイブレータ、またはこれらの組み合わせ等、を含み、自動操舵システム100から運転者に対して情報を出力する。
操舵支援装置10は、地図情報認識装置11、外部環境認識装置12、および自動操舵指示値演算部13を備える。
地図情報認識装置11は、衛星測位システム(GNSS)、慣性航法装置および路車間通信の少なくとも一つを用いて車両の現在位置(緯度、経度)を検出する測位装置11aと、地図情報を記憶する地図情報記憶部11bと、を備える。
地図情報認識装置11は、測位装置11aにより検出された車両の現在位置と、地図情報記憶部11bが記憶している地図情報と、に基づいて、車両前方の走行路の形状を認識する。
地図情報には、道路の曲率、縦断面勾配、他の道路との交差の様子等の道路の形状を示す情報が含まれる。また、地図情報には、道路が有する車線の属性を示す情報も含まれる。車線の属性とは、例えば、本線、前記本線に進入する進入路、前記本線から退出する退出路、等の情報である。また、車線の属性には、走行車線および追い越し車線の情報も含まれる。なお、道路の属性の情報は、後述する外部環境認識装置12によって判定される形態であってもよい。
外部環境認識装置12は、車両の外部環境を認識するカメラやセンサからの情報と車外通信装置2からの情報とに基づいて車両前方の道路の形状や、道路上および道路の周囲に存在する物体の位置を認識し、これらの情報を外部環境情報として出力する。
外部環境認識装置12は、例えば車両前方を視野内に収めるステレオカメラを備え、ステレオカメラによって撮像された画像に既知の画像処理等を施すことによって、車両前方の環境を認識する。外部環境認識装置12は、路面上に設けられた線状標示や路面上の他車両、歩行者等を認識する。線状標示とは、車線を示すために車線の左右の境界に沿って路面上に形成された線状や破線状の道路標示である。また、外部環境認識装置12は、カメラの他にレーダ装置を備え、車両の側方や後方を走行中の他車両の車両に対する相対位置と相対速度を検出する。
すなわち、外部環境情報には、車外通信装置2からの情報およびステレオカメラやレーダ装置により検出された情報の少なくとも一方に基づいて算出された、車両の周囲を走行する1つまたは複数の他車両の、車両に対する相対位置および相対速度の情報である近接車両情報が含まれる。外部環境認識装置12は、近接車両情報を後述する操舵制御装置20に出力する。
自動操舵指示値演算部13は、CPU、ROM、RAM、入出力装置等がバスに接続されたコンピュータより構成されている。自動操舵指示値演算部13は、地図情報認識装置11から出力される地図情報および外部環境認識装置12により認識される外部環境情報の少なくとも一方に基づいて、車両を走行させる走行路の形状である目標進路形状を算出する。
また、自動操舵指示値演算部13は、車両の自動操舵時において、地図情報認識装置11または外部環境認識装置12により認識される目標進路形状に対する状態量(ヨー角度偏差や横位置偏差等)と、状態量検出装置3により検出される状態量に基づいて、目標進路形状に沿って車両を走行させるために操舵装置1に出力する制御データである第1操舵指示値を算出する。第1操舵指示値は、車両が目標進路形状に沿って走行するように、操舵装置1が実行すべき操舵の目標値となる情報である。第1操舵指示値は、本実施形態では一例として、操舵装置1が変更すべき目標舵角の値である。なお、第1操舵指示値は、操舵装置1が備える電動アクチュエータが発生すべき操舵トルクの値等であってもよい。
自動操舵指示値演算部13から出力された第1操舵指示値は、後述する操舵制御装置20に入力される。
また、自動操舵指示値演算部13は、地図情報および外部環境情報の少なくとも一方に基づいて、現在から所定時間後であるA秒後までに車両を走行させる目標進路形状である将来進路形状の情報を算出する。所定の時間Aは、例えば5秒程度である。自動操舵指示値演算部13は、将来進路形状の情報を、後述する操舵制御装置20に出力する。なお、将来進路形状の算出は、後述する操舵制御装置20において行われてもよい。
車線形状算出部14は、外部環境情報および地図情報の少なくとも一方に基づいて、現在から所定時間であるA秒後までに車両が走行すると予測される距離内における、車両が走行中の自車線および当該自車線に隣接する1つまたは2つの隣接車線の形状および属性を示す車線形状情報を算出する。隣接車線には、分岐路や退出路も含まれる。すなわち、車線形状情報は、現在から5秒程度の間に走行する可能性のある全ての車線の形状および属性の情報である。なお、車線形状情報は、車両が走行中の道路の全ての車線の形状および属性の情報を含んでいてもよい。車線形状算出部14は、車線形状情報を、後述する操舵制御装置20に出力する。
操舵制御装置20は、CPU、ROM、RAM、入出力装置等がバスに接続されたコンピュータより構成されている。操舵制御装置20は、記憶部21、異常診断部23、将来進路形状切替部24、指示値演算部25および切替部26を備える。また、操舵制御装置20は、操舵装置1に電気的に接続されている。操舵制御装置20が備えるこれらの構成は、個々の機能を実行する別個のハードウェアとして実装されていてもよいし、所定のプログラムをCPUが実行することによって個々の機能が達成されるようにソフトウェア的に実装されていてもよい。
記憶部21は、最新の将来進路形状、車線形状情報、近接車両情報および状態量を記憶する。状態量とは、状態量検出装置3から出力された最新の状態量のデータのことである。記憶部21が記憶する車両の状態量には、車両の速度である車速V、車両の前後方向の加速度α、車両のヨー方向の角速度であるヨーレートYawr、および操舵装置1の舵角、が少なくとも含まれる。
記憶部21が記憶する将来進路形状、車線形状情報、近接車両情報および状態量は、所定の周期で常に更新される。よって、記憶部21が記憶する将来進路形状、車線形状情報、近接車両情報および状態量は、常に最新の値となる。なお、将来進路形状、車線形状情報、近接車両情報および状態量のそれぞれの更新周期は同一であってもよいし異なっていてもよい。
異常診断部23は、自動操舵時において、通信ネットワーク5が故障している通信ネットワーク異常状態の発生の検出と、自動操舵時において、操舵支援装置10が故障している操舵指示異常状態の発生の検出と、を行う。
ネットワーク異常状態は、通信ネットワーク5を介したデータ通信が不可能な状態である。操舵指示異常状態は、操舵支援装置10から自らの動作に障害が発生していることを示す情報が出力されている状態か、もしくは通信ネットワーク5は正常に動作しているにもかかわらず操舵支援装置10とのデータ通信ができない状態である。
すなわち、ネットワーク異常状態である場合には、操舵制御装置20は、操舵支援装置10から出力される第1操舵指示値、将来進路形状および車線形状情報の受信と、状態量検出装置3から出力される状態量の情報の受信が不可能となる。また、操舵指示異常状態である場合には、操舵制御装置20は、操舵支援装置10から出力される第1操舵指示値、将来進路形状および車線形状情報の受信の情報の受信が不可能であるが、状態量検出装置3から出力される状態量の情報の受信が可能である。
将来進路形状切替部24は、自動操舵時において、車両が自車線から隣接車線への車線変更動作中にネットワーク異常状態または操舵指示異常状態の障害が発生した場合に、記憶部21に記憶されている車線形状情報に基づいて車線変更動作を継続するか否かを判定する。そして、将来進路形状切替部24は、車線変更動作を継続しないと判定した場合には自車線の車線形状情報に基づいて記憶部21に記憶されている将来進路形状を書き換える。
自車線から隣接車線への車線変更動作中とは、車両が車線変更を開始した時点から、車両の全ての車輪が隣接車線内に入るまでの期間である。この車線変更動作中において、ネットワーク異常状態または操舵指示異常状態の障害が発生していない場合には、記憶部21に記憶されている将来進路形状は、操舵支援装置10によって算出されたものであり、隣接車線内に向かう形状になっている。
そして、車線変更動作中において、ネットワーク異常状態または操舵指示異常状態の障害が発生した場合には、将来進路形状切替部24は、車両が自車線内を走行するように、記憶部21に記憶されている将来進路形状を書き換える。
また、本実施形態の将来進路形状切替部24は、記憶部21に記憶されている車線形状情報に加えて、記憶部21に記憶されている近接車両情報に基づいて車線変更動作を継続するか否かを判定する。
図2に、将来進路形状切替部24が実行する車線変更継続判定処理のフローチャートを示す。車線変更継続判定処理では、まずステップS500において、車両が車線変更動作中であるか否かを判定する。
ステップS500において、車両が車線変更動作中ではないと判定した場合には、将来進路形状切替部24は車線変更継続判定処理を終了する。一方、ステップS500において、車両が車線変更動作中であると判定した場合には、将来進路形状切替部24はステップS510に移行する。
ステップS510において、将来進路形状切替部24は、記憶部21に記憶されている車線形状情報に基づいて、車両の前方で自車線が消滅するか否かを判定する。車両の前方とは、車線形状情報の範囲内のことであり、すなわち現在から所定時間であるA秒後までに車両が走行すると予測される距離内のことである。
自車線の消滅は、車両が走行している道路の車線数が減少する場合や、自車線が本線に進入する進入路である場合に起こる。前述のように、車線形状情報には、自車線および隣接車線の形状および属性が含まれていることから、将来進路形状切替部24は、車線形状情報に基づいて自車線の消滅の有無を判定できる。
ステップS510において車両の前方で自車線が消滅すると判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS580に移行する。ステップS580では、将来進路形状切替部24は、車線変更動作を継続すると判定し、車線変更継続判定処理を終了する。ステップS580が実行された場合、記憶部21に記憶されている将来進路形状は、操舵支援装置10によって算出されたものであり、隣接車線内に向かう形状になっている。
一方、ステップS510において車両の前方で自車線が消滅しないと判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS520に移行する。
ステップS520では、将来進路形状切替部24は、記憶部21に記憶されている車線形状情報に基づいて、車線変更先となる隣接車線が退出路または分岐路であるか否かを判定する。
ステップS520において車線変更先となる隣接車線が退出路または分岐路であると判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS580に移行する。前述のように、ステップS580では、将来進路形状切替部24は、車線変更動作を継続すると判定し、車線変更継続判定処理を終了する。
一方、ステップS520において車線変更先となる隣接車線が退出路または分岐路ではないと判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS530に移行する。
ステップS530では、将来進路形状切替部24は、記憶部21に記憶されている車線形状情報に基づいて、実行中の車線変更動作は追い越し車線から走行車線への車線変更であるか否かを判定する。
ステップS530において、実行中の車線変更動作は追い越し車線から走行車線への車線変更であると判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS580に移行する。前述のように、ステップS580では、将来進路形状切替部24は、車線変更動作を継続すると判定し、車線変更継続判定処理を終了する。
一方、ステップS530において、実行中の車線変更動作は追い越し車線から走行車線への車線変更ではないと判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS540に移行する。
ステップS540では、将来進路形状切替部24は、記憶部21に記憶されている車線形状情報に基づいて、実行中の車線変更動作は走行車線からから追い越し車線への車線変更であるか否かを判定する。
ステップS540において、実行中の車線変更動作は追い越し車線から走行車線への車線変更であると判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS600に移行する。ステップS600では、将来進路形状切替部24は、車線変更動作を中断すると判定する。そして、ステップS610において、将来進路形状切替部24は、記憶部21に記憶されている将来進路形状を、車両が自車線に戻るように車線形状情報に基づいて書き換え、車線変更継続判定処理を終了する。
一方、ステップS540において、実行中の車線変更動作は走行車線から追い越し車線への車線変更ではないと判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS550に移行する。
ステップS550では、将来進路形状切替部24は、記憶部21に記憶されている近接車両情報に基づいて、車線変更先となる隣接車線に他車両が存在しているか否かを判定する。
ステップS550において、車線変更先となる隣接車線に他車両が存在していないと判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS580に移行する。前述のように、ステップS580では、将来進路形状切替部24は、車線変更動作を継続すると判定し、車線変更継続判定処理を終了する。
一方、ステップS550において、車線変更先となる隣接車線に他車両が存在していると判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS560に移行する。
ステップS560では、将来進路形状切替部24は、記憶部21に記憶されている近接車両情報、および記憶部21に記憶されている車両の車速Vおよび加速度αの値に基づき、車線変更先となる隣接車線を走行中の他車両との衝突予測時間TTCを算出する。衝突予測時間TTCは、車両が記憶部21に記憶されている車両の車速Vおよび加速度αを維持して隣接車線に移り、かつ当該隣接車線を走行している他車両が記憶部21に記憶されている速度を維持した場合において、両者が接触するまでに要する時間である。
次に、ステップS570において、将来進路形状切替部24は、全ての他車両に対する衝突予測時間TTCが所定の閾値ds以上であるか否かを判定する。
ステップS570において全ての他車両に対する衝突予測時間TTCが所定の閾値ds以上であると判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS580に移行する。前述のように、ステップS580では、将来進路形状切替部24は、車線変更動作を継続すると判定し、車線変更継続判定処理を終了する。
一方、ステップS570において衝突予測時間TTCが所定の閾値ds未満の他車両が存在すると判定した場合には、将来進路形状切替部24は、ステップS600に移行する。ステップS600では、将来進路形状切替部24は、車線変更動作を中断すると判定する。そして、ステップS610において、将来進路形状切替部24は、記憶部21に記憶されている将来進路形状を、車両が自車線に戻るように車線形状情報に基づいて書き換え、車線変更継続判定処理を終了する。
指示値演算部25は、車両の自動操舵時において、異常診断部23によりネットワーク異常状態または操舵指示異常状態であることが検出されている場合に、記憶部21に記憶されている将来進路形状に沿って車両を走行させるために操舵装置1に出力する指示値を算出する。
詳細には、指示値演算部25は、自動操舵時において、操舵指示異常状態である場合には、状態量検出装置3から入力される状態量および記憶部21に記憶されている将来進路形状に基づいて、将来進路形状に沿って車両を走行させるために操舵装置1に出力する第2操舵指示値を算出する。
また、指示値演算部25は、自動操舵時において、ネットワーク異常状態である場合には、記憶部21に記憶されている最新の状態量および将来進路形状に基づいて、将来進路形状に沿って前記車両を走行させるために操舵装置1に出力する第3操舵指示値を算出する。
切替部26は、自動操舵時において、ネットワーク異常状態または操舵指示異常状態ではない場合には、操舵支援装置10から出力される第1操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御し、操舵指示異常状態である場合には、指示値演算部25から出力される第2操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御し、ネットワーク異常状態である場合には、指示値演算部25から出力される第3操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御する。
すなわち、自動操舵システム100は、操舵支援装置10、状態量検出装置3および通信ネットワーク5の動作が正常である場合には、操舵支援装置10が算出する第1操舵指示値に基づいて車両の自動操舵を行う。
また、自動操舵システム100は、車両の自動操舵時において、操舵支援装置10に障害が発生し、通信ネットワーク5および状態量検出装置3の動作は正常である操舵指示異常状態となった場合には、操舵制御装置20が備える指示値演算部25が算出する第2操舵指示値に基づいて車両の自動操舵を行う。
また、自動操舵システム100は、車両の自動操舵時において、通信ネットワーク5に障害が発生した場合であるネットワーク異常状態では、操舵制御装置20が備える指示値演算部25が算出する第3操舵指示値に基づいて車両の自動操舵を行う。
次に、操舵制御装置20の自動操舵に関する動作について図3に示すフローチャートを参照して説明する。操舵制御装置20は、図3に示す処理を車両の走行時に実行する。
操舵制御装置20は、まずステップS100において、車両の運転者による、自動操舵を開始する指示操作が入力されるまで待機する。操舵制御装置20は、運転者による自動操舵を開始する指示操作が入力されたと判定した場合に、ステップS110以降の処理を開始する。
以下の説明では、時間を変数tで表し、現在時刻をt=0であるとする。また、車両の速度である車速を時間の経過とともに変化する変数V(t)とし、車両の前後方向の加速度を時間の経過とともに変化する変数α(t)とし、車両のヨー方向の角速度であるヨーレートを時間の経過とともに変化する変数Yawr(t)とする。また、目標進路形状に対する車両位置の車幅方向のずれ量である横位置偏差を、時間の経過とともに変化する変数ErrX(t)とし、目標進路形状に対する車両の向きのヨー方向のずれ量であるヨー角度偏差を、時間の経過とともに変化する変数ErrYaw(t)とする。
ステップS110では、操舵制御装置20は、記憶部21による、将来進路形状、車線形状情報、近接車両情報および状態量の記憶と当該記憶内容の更新を開始する。前述のように、将来進路形状は、現在から所定時間後であるA秒後まで車両を走行させるための目標進路形状である。また、車線形状情報は、現在から所定時間であるA秒後までに車両が走行すると予測される距離内における、車両が走行中の自車線および当該自車線に隣接する1つまたは2つの隣接車線の形状および属性を示す情報である。
また、近接車両情報は、車両の周囲を走行する1つまたは複数の他車両の、車両に対する相対位置および相対速度の情報である。また、状態量は、車両の速度である車速V(0)、車両の前後方向の加速度α(0)、車両のヨー方向の角速度であるヨーレートYawr(0)、および操舵装置1の舵角を少なくとも含む。
本実施形態では一例として、記憶部21は、状態量として、さらに目標進路形状に対する現在の車両のずれを表す横位置偏差ErrX(0)およびヨー角度偏差ErrYaw(0)を記憶する。位置偏差ErrX(0)およびヨー角度偏差ErrYaw(0)は、操舵支援装置10において算出される値であり、操舵制御装置20に入力される。記憶部21が記憶する情報は、車両が走行中であれば常に変化するため、正常状態である場合には常に更新され続ける。
次に、ステップS120において、操舵制御装置20は、操舵支援装置10が備える自動操舵指示値演算部13が算出する第1操舵指示値に基づき操舵装置1を制御する自動操舵を開始する。操舵支援装置10による自動操舵の制御は、公知の技術と同様であるため詳細な説明は省略する。概略的には、操舵支援装置10の自動操舵指示値演算部13は、地図情報認識装置11および外部認識装置12による最新の認識結果に基づいて目標進路形状を決定し、地図情報認識装置11および外部認識装置12により認識される目標進路形状に対する自車両のヨー角度偏差および横位置偏差等の情報と、車両の状態量と、に基づくフィードフォワード制御およびフィードバック制御により、第1操舵指示値を算出する。
第1操舵指示値に基づく自動操舵を開始した後は、操舵制御装置20は、正常状態であれば、運転者による自動操舵を終了する指示操作が入力されるまで自動操舵を継続する(ステップS150のYES)。
そして、操舵制御装置20は、自動操舵の実行中において、異常検出部23によりネットワーク異常状態であることが検出された場合(ステップS130のYES)には、ステップS200へ移行する。
ステップS200では、操舵制御装置20は、将来進路形状切替部24による車線変更継続判定処理を実行する。車線変更継続判定処理は、図2を参照して前述した通りである。
次に、ステップS210において、操舵制御装置20は、障害が発生し、自動操舵をA秒後に終了することを報知部4を介して運転者に知らせる。そしてステップS220では、操舵制御装置20は、指示値演算部25が算出する第3操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御する自動操舵を、ネットワーク異常状態の発生検出からA秒間だけ継続する。
指示値演算部25による、第3操舵指示値の算出方法の概要を図4に示す。以下では、時刻t=T1においてネットワーク異常状態が発生したものとし、時刻T1からの経過時間をδTとする。
ネットワーク異常状態は操舵指示装置10および状態量検出装置3の双方と操舵制御装置20との間の通信が途絶した状態であることから、ネットワーク異常状態の発生後は、記憶部21に記憶されている将来進路形状、横位置偏差ErrX(t)およびヨー角度偏差ErrYaw(t)の値と、車両の状態量が更新されなくなる。したがって、ネットワーク異常状態の発生後は、記憶部21には、時刻T1における将来進路形状と、時刻T1における横位置偏差ErrX(T1)およびヨー角度偏差ErrYaw(T1)と、時刻T1における状態量が記憶されている。時刻T1における状態量は、車速V(T1)、加速度α(T1)およびヨーレートYawr(0)である。図4における破線の矩形枠で囲んだ値は、記憶部21に記憶されている値である。
ネットワーク異常状態の発生時には、指示値演算部25は、ネットワーク異常状態の発生時(t=T1)に記憶部21に記憶した将来進路形状および車両の状態量と、ネットワーク異常状態の発生からの経過時間δtと、に基づいて、目標進路の曲率Ce(0)を推定する。具体的には、指示値演算部25は、ネットワーク異常状態の発生時の車速V(T1)および加速度α(T1)と、経過時間δtとに基づいて、車両の現在の車速Ve(0)を推定する。そして、現在から過去δt秒間の推定車速Ve(0)の積分値から走行距離を算出し、記憶している将来進路形状上における車両の現在位置を推定し、この現在位置と将来進路形状から目標進路の曲率Ce(0)を推定する。
そして、指示値演算部25は、目標ヨーレート算出部において、現在の推定車速Ve(0)と目標進路の推定曲率Ce(0)に基づき、車両のヨー角度を目標進路に沿ったヨー角度に変更させるために必要な目標ヨーレートを算出する。目標ヨーレートは、現在の推定車速Ve(0)と目標進路の推定曲率Ce(0)により算出される値である。
また、指示値演算部25は、ネットワーク異常状態の発生時(t=T1)において目標進路に対する現在の車両の車幅方向のずれである横位置偏差ErrX(T1)や目標進路に対する現在の車両のヨー方向の角度ずれであるヨー角度偏差ErrYaw(T1)が所定の値を超えていた場合には、車両を将来進路上に復帰させるために必要な修正ヨーレートを、修正ヨーレート算出部において、横位置偏差ErrX(T1)およびヨー角度偏差ErrYaw(T1)を用いて算出する。すなわち、修正ヨーレートは、例えば、路面のカントや横風等の外乱に起因する車両の目標進路からのずれを補償するためのものである。
そして、指示値演算部25は、目標ヨーレートおよび修正ヨーレートを加算し、この結果に基づいて、第1目標舵角算出部において第1目標舵角を算出する。なお、第1目標舵角の算出には、あらかじめ設定された車両の運動特性と実際の車両の運動特性とのずれを補正するための舵角補正ゲインが加味される。
そして、指示値演算部25は、第1目標舵角を第3操舵指示値として出力する。すなわち、ネットワーク異常状態の発生時において自動操舵に用いられる第3操舵指示値は、記憶部21に記憶された将来進路形状と車両の状態量の情報に基づき操舵装置1をフィードフォワード制御するための第1目標舵角の成分のみを含む。第3操舵指示値には、操舵装置1をフィードバック制御するための成分が含まれていない。
ネットワーク異常状態の発生時において記憶部21に記憶されている将来進路形状の情報は、所定の時間(A秒間)内のものであるため、ネットワーク異常状態の発生からA秒後に、指示値演算部25は第3操舵指示値の算出を終了する。
図3のフローチャートに戻り、操舵制御装置20は、自動操舵の実行中において、異常検出部23により操舵指示異常状態であることが検出された場合(ステップS140のYES)には、ステップS300へ移行する。
ステップS300では、操舵制御装置20は、将来進路形状切替部24による車線変更継続判定処理を実行する。車線変更継続判定処理は、図2を参照して前述した通りである。
次に、ステップS310において、操舵制御装置20は、障害が発生し、自動操舵をA秒後に終了することを報知部4を介して運転者に知らせる。そしてステップS320では、操舵制御装置20は、指示値演算部25が算出する第2操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御する自動操舵を、ネットワーク異常状態の発生検出からA秒間だけ継続する。
指示値演算部25による、第2操舵指示値の算出方法の概要を図5に示す。以下では、時刻t=T1において操舵指示異常状態が発生したものとし、時刻T1からの経過時間をδTとする。
操舵指示異常状態は操舵支援装置10と操舵制御装置20との間の通信が途絶した状態であることから、操舵指示異常状態の発生後は、記憶部21に記憶されている将来進路形状と、横位置偏差ErrX(t)およびヨー角度偏差ErrYaw(t)の値が更新されなくなる。したがって、操舵指示異常状態の発生後は、記憶部21には、時刻T1における将来進路形状と、時刻T1における横位置偏差ErrX(T1)およびヨー角度偏差ErrYaw(T1)が記憶されている。図5における破線の矩形枠で囲んだ値は、記憶部21に記憶されている値である。
操舵指示異常状態の発生時には、指示値演算部25は、操舵指示異常状態の発生時(t=T1)に記憶部21に記憶した将来進路形状と、操舵指示異常状態の発生からの経過時間δtと、現在の車速V(0)と、に基づいて、目標進路の曲率Ce(0)を推定する。具体的には、指示値演算部25は、現在から過去δt秒間の車速の積分値から走行距離を算出し、記憶している将来進路形状上における車両の現在位置を推定し、この現在位置と将来進路形状から目標進路の曲率Ce(0)を推定する。
そして、指示値演算部25は、目標ヨーレート算出部において、現在の車速V(0)と目標進路の推定曲率Ce(0)に基づき、車両のヨー角度を目標進路に沿ったヨー角度に変更させるために必要な目標ヨーレートを算出する。目標ヨーレートは、現在の車速V(0)と目標進路の推定曲率Ce(0)により算出される値である。
また、指示値演算部25は、操舵指示異常状態の発生時(t=T1)において目標進路に対する現在の車両の車幅方向のずれである横位置偏差ErrX(T1)や目標進路に対する現在の車両のヨー方向の角度ずれであるヨー角度偏差ErrYaw(T1)が所定の値を超えていた場合には、車両を将来進路上に復帰させるために必要な修正ヨーレートを、修正ヨーレート算出部において、横位置偏差ErrX(T1)およびヨー角度偏差ErrYaw(T1)を用いて算出する。すなわち、修正ヨーレートは、例えば、路面のカントや横風等の外乱に起因する車両の目標進路からのずれを補償するためのものである。
そして、指示値演算部25は、目標ヨーレートおよび修正ヨーレートを加算し、この結果に基づいて、第1目標舵角算出部において第1目標舵角を算出する。なお、第1目標舵角の算出には、あらかじめ設定された車両の運動特性と実際の車両の運動特性とのずれを補正するための舵角補正ゲインが加味される。
また、指示値演算部25は、目標ヨーレートおよび修正ヨーレートを加算した値と、現在の車両の状態量であるヨーレートYawr(0)とに基づき、第2目標舵角算出部において、車両のヨー角度を目標進路に沿ったヨー角度となるようにフィードバック制御する第2目標舵角を算出する。
指示値演算部25は、第1目標舵角および第2目標舵角を加算した値を第2操舵指示値として出力する。すなわち、操舵指示異常状態の発生時において自動操舵に用いられる第2操舵指示値は、記憶部21に記憶された将来進路形状と現在の車速V(0)に基づき操舵装置1をフィードフォワード制御するための第1目標舵角の成分と、現在の車両のヨーレートYawr(0)の値に基づき操舵装置1をフィードバック制御するための第2目標舵角の成分と、を含む。
操舵指示異常状態の発生時において記憶部21に記憶されている将来進路形状の情報は、所定の時間(A秒間)内のものであるため、操舵指示異常状態の発生からA秒後に、指示値演算部25は第2操舵指示値の算出を終了する。
以上に説明したように、本実施形態の操舵制御装置20は、自動操舵時において、現在から所定の時間後の将来までに車両が走行する道路の形状に応じた将来進路形状と、車両の車速等の状態量を記憶部21に記憶する。
そして、地図情報認識装置11および外部認識装置12を備える操舵支援装置10と、操舵装置1を制御する操舵制御装置20との間の通信が途絶する操舵指示異常状態が発生した場合には、操舵制御装置20は、記憶している将来進路形状と、状態量検出装置3によりリアルタイムで検出される車速およびヨーレートの情報に基づいて操舵装置1を制御し、所定の期間だけ自動操舵を継続する。この場合、車両の状態量の変化に応じて車両の位置の推定と、舵角のフィードバック制御の実行が可能であるため、自動操舵システム100は、記憶している将来進路形状に沿って所定の期間だけ正確に車両を走行させることができる。
また、本実施形態の操舵制御装置20は、操舵支援装置10および状態量検出装置3の双方と、操舵制御装置20との間の通信が途絶する通信ネットワーク異常状態が発生した場合においても、記憶している最新の将来進路形状および状態量に基づいて、操舵装置1を制御し、所定の期間だけ車両を将来進路形状に沿って走行させる自動操舵を継続することができる。
よって、本実施形態の自動操舵システム100によれば、通信ネットワーク5に障害が発生した後や操舵支援装置10に障害が発生した後にも、所定の時間(A秒間)中は車両を将来進路形状に沿って走行させる自動操舵を継続することができる。
そして、本実施形態の自動操舵システム100によれば、障害発生後の将来進路形状に沿った自動操舵の実行期間中に、運転者による手動運転に移行させることができるため、自動操舵が異常終了する場合における車両の挙動の乱れを防止することができる。
また、本実施形態の自動操舵システム100は、通信ネットワーク5に障害が発生した時点や操舵支援装置10に障害が発生した時点において、車両が車線変更動作中である場合には、図2を参照して説明したように、記憶部21に記憶されている車線形状情報および近接車両情報に基づいて、車線変更動作を継続するか否かを判定する。
そして、本実施形態の自動操舵システム100では、車線変更動作を継続しないと判定した場合には、ステップS610に示すように、記憶部21に記憶されている将来進路形状を、自車線に戻る形状のものに書き換える。この場合、障害の発生後の所定の期間(A秒間)中の自動操舵において、車両は車線変更動作を中断して自車線に戻るように走行する。また、本実施形態の自動操舵システム100では、車線変更動作を継続すると判定した場合には、障害の発生後の所定の期間(A秒間)中の自動操舵において、車両は車線変更動作を実行して隣接車線へ移るように走行する。
より具体的に説明すると、車線数の減少や、自車線が本線に進入する進入路である場合のように、自車線が消滅する場合には、自動操舵システム100は障害の発生後の自動操舵において車線変更動作を継続する(ステップS510のYES)。自車線が消滅する場合において車線変更動作を自動的に中断してしまうと、手動運転に移行した場合において、運転者が急な舵角変更操作を行わなければならなくなるが、本実施形態の自動操舵システム100ではこのような急な舵角変更操作を防止できる。
また、車線変更先となる隣接車線が退出路または分岐路である場合には、自動操舵システム100は障害の発生後の自動操舵において車線変更動作を継続する(ステップS520のYES)。車線変更先となる隣接車線が退出路または分岐路である場合において、車線変更動作を自動的に中断してしまうと、自動操舵による進行方向と運転者の意図する進行方向とが異なるものになってしまう。この場合、手動運転に移行した場合において、運転者が急な舵角変更操作を行わなければならなくなるが、本実施形態の自動操舵システム100ではこのような急な舵角変更操作を防止できる。
また、追い越し車線から走行車線への車線変更である場合には、自動操舵システム100は障害の発生後の自動操舵において車線変更動作を継続する(ステップS530のYES)。追い越し車線から走行車線への車線変更は一般的に減速動作を伴う。このため、追い越し車線から走行車線への車線変更を中断してしまうと、車両は追い越し車線において減速してしまう可能性があり、追い越し車線を後方において走行中である他車両に追突される可能性がある。本実施形態の自動操舵システム100では追い越し車線から走行車線への車線変更を中断しないため、このような追突の可能性を無くすことができる。
また、走行車線から追い越しへの車線変更である場合には、自動操舵システム100は障害の発生後の自動操舵において車線変更動作を中断して自車線に戻る(ステップS540のYES)。一般に、追い越し車線には、走行車線よりも高速な他車両が走行している。また、走行車線から追い越し車線への車線変更は一般的に加速動作を伴うが、障害の発生後の自動操舵では、この加速が行われない場合がある。このため、走行車線から追い越し車線への車線変更を実行してしまうと、追い越し車線を後方において走行中である他車両に追突される可能性がある。本実施形態の自動操舵システム100では走行車線から追い越し車線への車線変更を中断して走行車線に戻るため、このような追突の可能性を無くすことができる。
また、車線変更先の隣接車線に衝突予測時間TTCが所定の閾値ds未満である他車両が走行している場合には、自動操舵システム100は障害の発生後の自動操舵において車線変更動作を中断して自車線に戻る(ステップS570のNO)。このような本実施形態によれば、障害の発生後の自動操舵における他車両との衝突の可能性を無くすことができる。
以上に説明したように、本実施形態の自動操舵システム100によれば、障害発生時において車両が車線変更動作中である場合においても、安全に運転者による手動運転に移行することができるため、自動操舵が異常終了する場合における車両の挙動の乱れを防止することができる。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う自動操舵システムもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。