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JP2019099852A - NiTi系合金材料、NiTi系合金の製造方法、NiTi系合金材料からなる線材または管材、およびその製造方法 - Google Patents

NiTi系合金材料、NiTi系合金の製造方法、NiTi系合金材料からなる線材または管材、およびその製造方法 Download PDF

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史祥 山下
浩司 石川
Koji Ishikawa
浩司 石川
純男 喜瀬
Sumio Kise
純男 喜瀬
美里 藤井
Misato Fujii
美里 藤井
尚之 成島
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尚之 成島
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Kyosuke Ueda
恭介 上田
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Abstract

【課題】破断特性に優れたNiTi系合金材料、NiTi系合金の製造方法、NiTi系合金材料からなる線材または管材及びその製造方法を提供することを課題とする。【解決手段】炭素濃度及び酸素濃度がいずれも0.05質量%未満であり、かつ、該炭素濃度と該酸素濃度の比(炭素濃度/酸素濃度)が1.0以上であるNiTi系合金材料であって、前記合金材料中に含有する非金属介在物が、Ti4Ni2OXとTiCの混相又はTiC単相を有し、前記合金材料中に含有する最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率が、7.2×103μm2の観察視野の1%以下であるか、又は、前記合金材料中に含有する非金属介在物の最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の個数が、10個/7.2×103μm2以下であるNiTi系合金材料、NiTi系合金の製造方法及びNiTi系合金材料からなる線材又は管材。【選択図】なし

Description

本発明は、NiTi系合金材料、NiTi系合金の製造方法、NiTi系合金材料からなる線材または管材、およびその製造方法に関する。
さらに詳しくは、優れた形状記憶特性、超弾性および耐食性を有するNiTi系合金に関するものであり、繰返し変形をさせた場合の破断特性低下の原因となる非金属介在物の大きさと面積率や個数、さらには空隙欠陥の形成状態を制御した破断特性に優れたNiTi系合金材料、これを用いたNiTi系合金の製造方法、NiTi系合金材料からなる線材または管材、およびその製造方法に関する。
NiTi系合金は優れた形状記憶特性、超弾性および耐食性を有するが、その用途として第一に形状記憶合金アクチュエータ素子が挙げられる。形状記憶合金アクチュエータ素子は、例えば長さを記憶させた直線状ワイヤであり、室温で荷重負荷状態とさせ歪みを生じさせたまま通電させると、自己発熱によりA(昇温時の変態終了温度)以上の温度となるため、形状記憶効果により元の記憶長さに戻る二方向動作を繰り返すものである。このようにアクチュエータとしての動作構造が非常にシンプルであること、また小型化や軽量化が可能であることから内視鏡やモニターカメラのピント調節等に利用がなされている。ところで、近年スマートフォンに搭載させているカメラは従来の小型カメラに比べて高い使用頻度(耐繰返し変形)が求められている。一方、NiTi系形状記憶合金アクチュエータは小型化が可能であるが、繰返し変形させた場合の破断に至るまでの回数が不十分であるという問題点があった。
また、別の用途として近年、血管系疾患の治療で用いられているステントやカテーテルなどの医療器具が挙げられる。例えば、NiTi系合金製ステントは、神経血管、頸動脈、末梢、胆管などの治療に用いられ、治療部位により外径や長さは異なるが、基材であるNiTi系合金の管材や線材の肉厚や素線径は0.10〜0.30mmであり薄肉や細線である。さらにステントは、身体の動きに追従するため血管内留置部での柔軟性が必要であり、複雑なデザインが施されている。カテーテルやステントは、血管に挿入され使用されるため脈動による拡張および収縮により長期間曝され、繰り返し変形による疲労破壊が危惧される。
これらの理由から、NiTi系合金はさらなる繰返し変形における破断するまでの回数(以後破断特性)の向上が求められている。
疲労による破断は、製作工程に由来する加工傷や外傷などの表面欠陥を起点として至ることが知られている。このため、特にステントなどは成型後、電解研磨により表面欠陥の除去を施し製作されている。しかしながら、電解研磨を施してもNiTi系合金材料に内在あるいは、表面に露出した非金属介在物や非金属介在物周辺に形成される空隙欠陥は除去できない。このため、製品表面の傷を除去しても、非金属介在物や非金属介在物周辺に形成される空隙欠陥が疲労破壊の起点として顕在化し、高い破断特性が得られるには至らない。さらに上述のように、製品の小型化に伴い、基材が薄肉や細線化するにつれ、製品に占有する非金属介在物の体積が大きくなり破断の起点となる危険性が高まっている。
このため、NiTi系合金において、例えば、ASTM F 2063−12(Wrought Nickel−Titanium Shape Memory Alloys for Medical Device and Surgical Implants)では、非金属介在物の大きさが39μm以下、面積率2.8%以下(倍率400倍または500倍での視野)と規定がされている。
非金属介在物を低減する方法として、1)エレクトロスラグ再溶解(ESR)により、NiTi系合金中の金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物を分離する方法(特許文献1参照)、2)溶湯とルツボを接触させない溶解方法(特許文献2参照)、3)NiTi系合金の溶湯を一方向へ向かって凝固させる製造方法(一方向凝固法)(特許文献3参照)、および4)高周波溶解炉やアーク溶解炉で炭素、酸素の含有量比を規定し、非金属介在物相を制御する方法(特許文献4参照)などがある。
なお、特許文献5には、特定の成分範囲のNiTi系合金の製造方法が記載されている。
特表2012−526202号公報 特開平5−295470号公報 特開昭62−007839号公報 特開2016−27200号公報 米国特許出願公開第2013/0153095号明細書
しかしながら、特許文献1は、分離できる非金属介在物の大きさや個数などについて言及がされていない。さらに、再溶解をする前工程で高周波真空溶解(VIM)や真空アーク溶解(VAR)の溶解工程が必要であり、製造コストが高くなる。また、非金属介在物を低減する製造方法ではあるが、非金属介在物の破断特性への影響は言及しておらず、破断特性の低下の因子となる非金属介在物の大きさや面積率などを改良するものではない。さらに破断特性の低下のもう一つの要因と考えられる非金属介在物と空隙欠陥を持つ複合的な欠陥についても記載されていない。
特許文献2も特許文献1と同様に高周波真空溶解(VIM)や真空アーク溶解(VAR)とは異なり、商用レベルで生産される溶解炉ではなく、特殊溶解炉であり、生産規模およびコスト面で問題がある。さらに、特許文献2もまた、破断特性の低下の因子となる非金属介在物の大きさや面積率などを改良するものではない。
特許文献3では、NiTi系合金の溶湯を一方向へ向かって凝固させる一方向凝固法であり、酸素濃度を低下させることで、最終的に形成されるTiNiを減らし、かつTiCをも減らすことが提案されている。
一方向凝固法は、特殊鋳造法であり、商用で多用される高周波真空溶解(VIM)での金型鋳造方式とは異なり、極めて生産性が悪い。加えてTiNiやTiCを浮遊分離する効果を得るためには、凝固速度を極めて遅くする必要がある。さらに浮遊分離される非金属介在物の大きさや面積率の記述がされていない。また、一方向凝固法では破断特性の低下のもう一つの要因と考えられる非金属介在物と空隙欠陥を持つ複合的な欠陥については制御することができない。
特許文献4は発明者らが商用レベルで生産される高周波溶解炉やアーク溶解炉で炭素、酸素の含有量比を規定し、非金属介在物相を制御することで耐疲労特性に優れるNiTi系合金を提供できることを提案したものである。しかしながら、特許文献4では、具体的に示されているNiTi系合金は、Ti56質量%のNi合金であり、本発明の好ましい組成であるNi54.5〜57.0質量%のNiTi系合金材料ではない。さらに、特許文献4では製造中の冷却速度の制御が行なわれていない。そのため、非金属介在物がTiC単相の場合であっても、面積率やサイズの制御までには至らず疲労特性は満たしていても十分な破断特性は得られなかった。
しかも、特許文献4において開発された合金の疲労特性では近い将来に不十分な特性となる可能性が懸念され、さらなる特性の改善が求められている。このなかでも、繰返し変形における破断に至るまでの回数の向上は製品の安全を保証するために強く求められている。
特許文献5では、非金属介在物の種類は特定されておらず、着目もされていない。
しかも、冷却速度に着目して制御されておらず、破断特性の低下のもう一つの要因と考えられる非金属介在物と空隙欠陥を持つ複合的な欠陥についても制御ができない。
上記状況に鑑み、本発明は破断特性に優れたNiTi系合金材料、NiTi系合金の製造方法、NiTi系合金材料からなる線材または管材、およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、NiTi系合金中の炭素、酸素含有量および炭素濃度と酸素濃度の比を制御し、しかも、線材や管材の製品において破断特性に有害な非金属介在物の大きさや面積率もしくは個数、非金属介在物の周りに存在する欠陥部分の大きさを制御することが重要であることがわかった。このため、合金、線材または管材の製造方法を種々検討した。
このうち、溶湯の冷却速度を制御した状態で鋳塊を製作し、これに加えて、加工中の温度や焼鈍温度を制御しながら熱間および冷間加工を行うことで、線材や管材の製品において破断特性に有害な非金属介在物の大きさや面積率もしくは個数、非金属介在物の周りに存在する欠陥部分の大きさを制御することが可能となり、破断特性に優れるNiTi系合金が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づいてなされるに至ったものである。
本発明の上記課題は、以下の手段によって達成された。
(1)炭素濃度および酸素濃度がいずれも0.05質量%未満であり、かつ、該炭素濃度と該酸素濃度の比(炭素濃度/酸素濃度)が1.0以上であるNiTi系合金材料であって、
前記合金材料中に含有する非金属介在物が、TiNiとTiCの混相またはTiC単相を有し、
前記合金材料中に含有する最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率が、7.2×10μmの観察視野の1%以下であることを特徴とするNiTi系合金材料。
(2)炭素濃度および酸素濃度がいずれも0.05質量%未満であり、かつ、該炭素濃度と該酸素濃度の比(炭素濃度/酸素濃度)が1.0以上であるNiTi系合金材料であって、
前記合金材料中に含有する非金属介在物が、TiNiとTiCの混相またはTiC単相を有し、
前記合金材料中に含有する非金属介在物の最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の個数が、10個/7.2×10μm以下であることを特徴とするNiTi系合金材料。
(3)前記合金材料中に含有する非金属介在物の最大長さLと非金属介在物の周辺に形成される空隙欠陥の最大長さLの比(L/L)が、3.0以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のNiTi系合金材料。
(4)窒素濃度が、0.03質量%以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
(5)Niが54.5〜57.0質量%、ならびに、Cu、Ta、Zr、Nb、V、Mo、Cr、FeおよびCoからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上を合計で0.00〜0.05質量%を含有し、残部がTiと不可避的不純物からなることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
(6)Niが54.5〜57.0質量%であって、残部がTiと不可避的不純物からなることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
(7)歪み量3.5%を得る負荷と除荷を交互に繰り返す引張試験において破断するまでの破断回数が、120000回以上の特性を有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
(8)前記NiTi系合金材料がNiTi系形状記憶合金材料または超弾性合金材料であって、
引張試験において6%の歪みを負荷した後、除荷もしくは除荷した後に加熱をした際、残留歪みが、0.5%以下であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
(9)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料を用いたNiTi系合金の製造方法であって、
NiTi系合金の原料を溶解した後、鋳塊を冷却速度10℃/秒以上で冷却することを特徴とするNiTi系合金の製造方法。
(10)熱伝導率12W/(m・K)以上の鋳型を使用することを特徴とする(9)に記載のNiTi系合金の製造方法。
(11)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料からなることを特徴とする線材または管材。
(12)前記(11)に記載の線材または管材の製造方法であって、
NiTi系合金の原料を溶解した後、鋳塊を冷却速度10℃/秒以上で冷却し、1000℃以下で熱間加工し、加工による歪み回復のために800℃以下で熱処理することを特徴とする線材または管材の製造方法。
(13)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料がNiTi系形状記憶合金材料であって、アクチュエータに用いられるNiTi系形状記憶合金材料からなることを特徴とする線材。
(14)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料がNiTi系超弾性合金材料であって、ステントまたは人工心臓弁に用いられるNiTi系超弾性合金材料からなることを特徴とする管材。
(15)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料がNiTi系超弾性合金材料であって、ガイドワイヤに用いられるNiTi系超弾性合金材料からなることを特徴とする線材。
本発明により、破断特性に優れたNiTi系合金材料、NiTi系合金の製造方法、NiTi系合金材料からなる線材または管材、およびその製造方法を提供することが可能となった。
しかも、本発明のNiTi系合金を使用することにより、商業規模において一般的に用いられている製法で破断特性に優れるNiTi系合金材料およびこれを用いた線材または管材を提供することが可能となった。
電解抽出装置を示す模式図である。 非金属介在物を起点として破断した、NiTi系合金の破断面の倍率5000倍での走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図2の分図(a)は、非金属介在物の最大長さLが2.5μmを超えるものを示す破断面であり、図2の分図(b)は別の破断面において、非金属介在物の最大長さLが2.5μmを超えるものを示す。 本発明のNiTi系合金で規定する非金属介在物の最大長Lとその近傍に形成される空隙欠陥の最大長Lとの関係を説明する模式図である。このような複合的な欠陥をParticle/Void assemblyと呼び、以後P/VAと記述する。 非金属介在物の大きさを示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図4の分図(a)は、実施例3の4視野(倍率各2500倍)でのNiTi系合金の非金属介在物(最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率が1%以下)を示すものであり、図4の分図(b)は、比較例3の4視野(倍率各2500倍)でのNiTi系合金の非金属介在物(最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率が1%を超える)を示すものである。 本発明で示されるP/VAの形態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図5の分図(a)が実施例3の倍率5000倍でのNiTi系合金(L/L≦3.0)、図5の分図(b)が比較例3の倍率5000倍でのNiTi系合金(L/L>3.0)の場合を示す。 通電加熱疲労試験機の模式的な説明図である。図6の分図(a)は通電加熱時の状態、図6の分図(b)は放冷時の状態である。
<<NiTi系合金材料>>
本発明のNiTi系合金材料(またはNiTi系合金とも称す)は、炭素濃度および酸素濃度がいずれも0.05質量%未満であり、かつ、該炭素濃度と該酸素濃度の比(炭素濃度/酸素濃度)が1.0以上である。
しかも、上記合金材料中に含有する非金属介在物が、TiNiとTiCの混相またはTiC単相を有する。
本発明では、上記合金材料中に含有する最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率が、7.2×10μmの観察視野の1%以下であるか、または、上記合金材料中に含有する非金属介在物の最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の個数が、10個/7.2×10μm以下である。
以下、NiTi系合金材の組成から順に詳細に説明する。
<NiTi系合金材の組成>
本発明のNiTi系合金は、少なくともNi成分とTi成分を含む合金である。
Ni成分とTi成分の含有量はどのような比率でも構わないが、本発明では、特に、Ni成分は54.5〜57.0質量%が好ましい。Ni成分の含有量が54.5質量%より少ないと加工が不可能となり、57.0質量%より多いと形状記憶効果を示さない。
本発明のNiTi系合金は、形状記憶特性や超弾性特性に関わる添加元素として用いるCu、Ta、Zr、Nb、V、Mo、Cr、FeおよびCoからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上を合計で、0.00〜0.05質量%含んでもよい。0.05質量%以下の濃度であれば非金属介在物の面積率やP/VAの大きさに影響はない。
上記の形状記憶特性や超弾性特性に関わる添加元素として用いる元素の合計の添加量が、0.05質量%を超えると、TiNiやTiC以外の新たな析出物(添加元素ごとに異なる化合物)が確認され、目的の破断特性が得られない。
ここで、その他の微量な不純物(不可避的不純物)は不可避的元素であり、より具体的には不可避的金属元素である。
なお、本発明では、炭素濃度、酸素濃度、さらには窒素濃度を調整するが、このために添加する元素成分は、非金属元素であって、不可避的元素とはみなさない。
本発明では、形状記憶特性や超弾性特性に関わる添加元素を含まず、Niと残部がTiと不可避的不純物であることも好ましい態様である。
本発明では、非金属元素の炭素濃度および酸素濃度はいずれも0.05質量%未満であり、かつ、該炭素濃度と該酸素濃度の比(炭素濃度/酸素濃度)が1.0以上である。
一方、非金属介在物である窒化物TiNが生成した場合も破断特性へ影響することが明らかとなっている。このため、窒素濃度は0.03質量%以下が好ましく、0.025質量%以下がより好ましい。
炭素濃度は0を超え0.05質量%未満が好ましく、0.01〜0.049質量%がより好ましく、0.015〜0.040質量%がさらに好ましい。
酸素濃度は0を超え0.05質量%未満が好ましく、0を超え0.049質量%以下がより好ましく、0を超え0.030質量%以下がさらに好ましい。
炭素濃度と酸素濃度の比(炭素濃度/酸素濃度)の下限は、1以上が好ましく、1.5以上がさらに好ましい。上記比の上限は、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。上記比は、これらの上限値下限値を組み合わせた数値範囲の範囲内にあることが好ましい。
なお、酸素および窒素含有量は酸素窒素同時分析装置で、また、炭素含有量は炭素濃度分析装置により測定することができる。
<NiTi系合金材の非金属析出物の種類>
本発明のNiTi系合金に含まれる非金属介在物には、Ti酸化物あるいはTi炭化物、これらの混相でもよいが、より好ましくはTi炭化物を主相とすることが望ましい。
具体的には、Ti炭化物はTiC相でありTi酸化物はTiNi相であり、本発明では、NiTi系合金材料中に含有する非金属介在物は、TiNiとTiCの混相またはTiC単相を有する。
非金属介在物は、例えば、図1に示すような装置で、非金属介在物を残渣として分離し、X線回折法(XRD)で同定できる。
具体的には、図1に示す装置にて、線径φ160μmに加工した各合金の試料と対極にPtを用いた回路とし、10%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニウムクロライド−メチルアルコールを混合した電解液中で4Vの電圧を印加し、NiTi系合金を溶出させる。
その後、電解液を遠心分離器で遠心分離を行い、孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて吸引濾過し、非金属介在物を残渣として分離する。
さらにフィルター上の非金属介在物をX線回折法(XRD)で同定する。
なお、各試料の非金属介在物相の判定は、X線回折法(XRD)で判断されるレベルである。
<NiTi系合金材の非金属析出物の大きさと面積率もしくは個数>
本発明のNiTi系合金に含有する非金属介在物は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察において2500倍の条件で観察した場合、1)最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率が、7.2×10μmの観察視野の1.0%以下であるか、または、2)同じく、最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の個数が10個/7.2×10μm以下である。
非金属介在物は、例えば、試験中に破断した試料の破面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで確認できる。また、破断起点に存在した非金属介在物は、付随するエネルギー分散型X線分析装置(EDS)で成分分析できる。
非金属介在物を起点として破断した、代表的なNiTi系合金の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率5000倍)を図2に示す。図2の分図(a)、(b)ともに、最大長さLが、2.5μmを超える非金属介在物が観測される。
本発明者らの走査型電子顕微鏡(SEM)観察で、例えば、図5で示すように、一端には空隙欠陥、もう一端に非金属介在物が見られる形態が観察された。
さらに疲労試験中の試料を観察したところ、空隙と非金属介在物との界面からクラックの進展が見られることから、破壊は非金属介在物だけではなく、非金属介在物と周辺に形成される空隙欠陥が巨視的な欠陥となっていることがわかった。
この結果、NiTi系合金に含まれる非金属介在物が酸化物あるいは炭化物のどちらかであることだけが重要なのではなく、最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物、特にその面積率または個数が重要であることが明らかとなった。
ここで、二つの指標を示した理由について説明する。
本発明の非金属析出物の測定には、粒子解析ソフトのオックスフォード・インストゥルメンツ(株)製の自動粒子解析システム(品番:INCA Feature)を用いて自動測定を行った。この装置ではマッピングにより、最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の個数に加え、指定すれば面積率の計算が容易に可能となる。しかしながら、旧型の装置では面積率の測定が困難となることが予想されるため、本発明では上記の二つの判断指標を示した。
なお、本発明の測定には、上記の自動粒子解析システムを用いて2500倍率で4視野を観察し、この観察した4視野を合計した場合(7.2×10μm)における最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物について分析を行った。測定に用いた各試料はφ3.0mmを用いたが、これは広域的な非金属介在物を測定する目的であり、破断特性の評価に用いた試料線径φ160μmにおいても、非金属介在物相および大きさに相違はないことを事前に確認している。試料の作製方法は樹脂に線材長手方向を埋包した後、研磨紙で半裁するまで削り込み、その後、鏡面研磨した。この試料を上記の装置により粒子解析を行った。
本発明では、NiTi系合金材中に含有する最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率は、7.2×10μmの観察視野の0.3〜1%が好ましく、0.3〜0.9%がより好ましい。
ここで、最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率は、上記の自動粒子解析システムを用いて2500倍率で4視野を観察し、この観察した4視野を合計した面積、すなわち、7.2×10μmに対する面積率である。
一方、NiTi系合金材中に含有する非金属介在物の最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の個数は、0〜10個/7.2×10μmが好ましい。
また、本発明では、NiTi系合金材中に含有する最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率が、全体の1%以下であって、かつ、NiTi系合金材中に含有する非金属介在物の最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の個数が、10個/7.2×10μm以下である場合がなかでも好ましい。
また、本発明では、NiTi系合金材中に含有する非金属介在物の最大長さLと非金属介在物の周辺に形成される空隙欠陥の最大長さLの比(L/L)は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。下限は1.0以上が好ましい。
ここで、非金属介在物の周辺に形成される空隙欠陥は、図5の分図(a)および分図(b)のように観察され、これを模式的に示したのが図3である。なお、図5の分図(b)は、図3の模式図に近い形状をしている。
複合的な欠陥のP/VA(Particle/Void assembly)におけるL/Lの評価は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真で、2500倍で個数をカウントした後、5000倍にて確認しより正確な長さを測定することで求められる。
なお、本発明では、観察される非金属介在物のうち、L/Lが3.0以下であるP/VAは、観察視野において非金属介在物と非金属介在物を含む空隙欠陥全体の80%以上である場合に、L/Lが3.0以下である条件を満たしていると判断する。
例えば、図5は、P/VAの観察結果であり、図5の分図(a)ではL/L=1.5であって、L/L≦3.0を満たしているが、図5の分図(b)では、L/L=3.1であり、L/Lが3.0以下を満たしていない。
<NiTi系合金材の特性>
本発明のNiTi系合金材は、以下の特性(物性)を有する。
1)破断特性
本発明のNiTi系合金材は、歪み量3.5%を得る負荷と除荷を交互に繰り返す引張試験において破断するまでの破断回数が、120000回以上である。
破断特性は、線径φ160μmのNiTi系合金材を特定の定荷重下で、かつ3.5%の変位で変形(負荷と除荷)を繰り返すことで求められる。
より具体的には、図6に示すような通電加熱疲労試験機10で評価する。
図6に示すように、この通電加熱疲労試験機10は、形状記憶合金ワイヤ11の両端をそれぞれ圧着端子12により把持し、一方の圧着端子12を、圧着端子保持部13を介してSUS製摺動軸14に連結し、この摺動軸14をバイアスばね15で形状記憶合金ワイヤ11に張力を負荷する構造からなる。
なお、このような定荷重をかけている場合、3.5%の変位は通電加熱により元の形状に戻る。
形状記憶合金ワイヤ11はA(昇温時の変態終了温度)以上の温度に加熱されると、図6の分図(a)に示すようにバイアスばね15の張力に抗して元の記憶長さに戻り、M(マルテンサイト変態終了温度)以上の温度に冷却されると、図6の分図(b)に示すように強度が低下してバイアスばね15の張力に屈して歪みを生じる。
この伸び縮みの動作を繰り返し、試料が破断するまでの回数を測定する。なお、測定回数は200000回を上限とした。
ここで、加える荷重(定荷重)は、特に限定されるものでなく、例えば、100MPaでも同じ結果となるが、本発明の実施例では300MPaの定荷重下で行った。
なお、NiTi系超弾性合金の場合、その破断特性は、特別な測定装置を使用することなく、引張試験機のプログラムによって制御し測定できる。
試験条件は標点距離100mmで、歪み量3.5%を得る負荷と除荷を交互に繰り返す引張試験を、試験速度3.5%/分で行い、試料が破断するまでの回数を測定する。この場合も測定回数は200000回を上限とした。
ここで破断特性を評価する際の形状は、線材ではφ160μm、管材では外径φ0.7/内径φ0.55mmで、管材の肉厚は150μmであって、外径φ160μmに近似させて評価する。
これは、疲労試験において、管材では管材内面における傷などを線材のように研磨により除くことが困難で、これが疲労特性に影響し、非金属介在物による疲労特性を明瞭に評価することが困難であることから、線材評価を管材の評価として代用した。
2)残留歪み特性
本発明のNiTi系合金材は、引張試験において6%の歪みを負荷した後、除荷もしくは除荷した後に加熱をした際、残留歪みが、0.5%以下である。
繰返し変形前の引張試験において6%の歪みを負荷した後に除荷もしくは除荷後に加熱することで、残留歪みを測定することができる。この引張試験は、例えば、図6に示したような通電加熱疲労試験機10で評価することができる。
<<NiTi系合金の製造方法>>
以下に、従来技術での問題点を含め、本発明のNiTi系合金の製造方法を、NiTi系合金材の溶解鋳造方法、冷却速度の制御方法、NiTi系合金材の加工方法の順に説明する。
<従来技術の問題点>
従来技術、溶解鋳造工程後の鍛造や熱間圧延などの熱間加工、その後の冷間加工の途中での熱処理において、TiNiなどのTiC以外の非金属介在物の生成を抑制あるいは生成しないように温度や時間の制御することは、あまり考慮されていなかった。
このため、破断特性の改善にまでには至らなかった。
本発明者らは、調査を進めた結果、非金属介在物の種類の制御以上に、非金属介在物の大きさ、そして面積率もしくは個数、さらには空隙欠陥の制御が重要であり、その制御には従来の加工条件に加えて、さらに溶湯を鋳型に流して固める際の冷却速度を上げる必要があることがわかった。
本質的には冷却速度の制御が晶析出物の大きさに強く影響を及ぼしており、その後の加工工程における非金属介在物の大きさの制御にとっても重要であることがわかったのである。この結果、疲労特性を向上させることが可能となった。
<NiTi系合金材の溶解鋳造方法>
本発明のNiTi系合金材の主な溶解方法は高周波溶解またはアーク溶解であり、真空、Arなど不活性ガス中で行われる。また、高周波溶解およびアーク溶解以外の溶解方法、例えばEB(電子ビーム)溶解おいても可能である。
炭素、酸素、窒素を制御するためには、溶解する原料のグレード、純炭素の添加、Ti炭化物、Ti酸化物などの化合物を添加することで行う。このため、雰囲気ガスなどでは調整は困難である。
<冷却速度の定義とその制御方法>
ここで、本発明における冷却速度の測定方法について説明する。
本発明ではDAS(dendrite arm spacing)を冷却速度の代替指標として用いた。NiTi系合金の熱伝導率は室温で約12.1W/(m・K)と低い。このため、比較的冷却が速い鋳肌近傍の測定を行い、DASの測定値から以下の計算式で算出した。
International Journal of Cast Metals Reseach,2016,VOL29,NO.5,P303−316に記載の計算式を使用する。この計算式によりDASの測定で冷却速度の算出が可能となった。
なお、本発明において冷却速度の制御は鋳型の材質や冷却水の温度によるものである。
本発明で必要な冷却速度は10℃/秒以上、好ましくは15℃/秒以上、さらに好ましくは20℃/秒以上である。上限は特に限定されるものではないが、現実的には30℃/秒以下である。
また、上記の冷却速度を満たすために必要な鋳型の熱伝導率は12W/(m・K)以上である。
<線材または管材およびその製造方法>
本発明の線材または管材は、本発明のNiTi系合金材料からなり、NiTi系合金の原料を溶解した後、鋳塊を冷却速度10℃/秒以上で冷却し、1000℃以下で熱間加工し、加工による歪み回復のために800℃以下で熱処理する。
すなわち、NiTi系合金材(合金)を加工するための熱処理は、非金属介在物が粗大化しないように熱間加工では、1000℃以下、例えば900℃程度で短時間に行うことが好ましい。
また、線材や管材にするために、例えば、伸線、製管加工などの冷間加工を行う。その際、冷間加工による加工歪みを回復するための熱処理を適宜行う。この熱処理において非金属介在物の粗大化をさせないように熱処理温度は800℃以下で行うことが望ましい。
<NiTi系合金材の形状とサイズ>
本発明のNiTi系合金は、加工方向に対して伸長された形状体であり、線材、管材だけでなく、板、条など形状によらず同様の効果を有する。形状だけでなく、これらのサイズにも特に制限はないが、例えば線材であれば20μm〜3mmのサイズにすることができる。
<NiTi系合金材の用途>
本発明のNiTi系合金材(合金)は、NiTi系形状記憶合金材料やNiTi系超弾性合金材料として好適である。
本発明のNiTi系形状記憶合金材料の線材は、アクチュエータに好適に用いることができる。また、本発明のNiTi系超弾性合金材料の管材は、ステントまたは人工心臓弁に好適に用いることができる。さらに、本発明のNiTi系超弾性合金材料の線材は、ガイドワイヤに好適に用いることができる。
以下に、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜26、比較例1〜28)
NiTi系合金材料を以下のように調製し、以下の条件で合金〔サンプル(供試材)〕を作製した。
原料は電解NiおよびTi原料を用い、下記表1に示す組成を与えるNiTi系合金となるように秤量した。
このとき、炭素量は、アーク溶解の場合、原料中に含有する炭素と、炭化チタン粉末により、所定量になるように秤量した。また、高周波溶解の場合は、さらに加えて用いる坩堝からの溶解中に混入する量を見込み、所定量になるように秤量した。一方、酸素量は、アーク溶解および高周波溶解とも、酸素含有量が異なるチタン原料と溶解中に雰囲気から混入する量を見込み、所定量になるように秤量して製作した。これら炭素および酸素量を制御した原料を、非消耗電極式Arアーク溶解炉あるいは高周波真空溶解炉にて溶解し鋳塊を作製した。
ここで、鋳塊の冷却速度については後述の表2に示した条件で分布させている。
実施例1〜26、比較例19〜28では冷却速度が10℃/秒以上と速く、比較例1〜18では冷却速度が10℃/秒未満と遅い。
a.炭素、酸素および窒素分析
下記表1に示す各合金の鋳塊について、酸素および窒素含有量は酸素窒素同時分析装置により測定し、炭素含有量は炭素濃度分析装置により測定した。
得られた結果を、下記表1に示す。
なお、表中の「−」は、未使用であり、0質量%を意味する。
上記表1に示す鋳塊を、900℃の温度で鍛造を行い、φ9.3mmの棒材に加工した。
その後、伸線と加工による歪み回復のための熱処理を、800℃以下で繰り返して伸線し、φ160μmの線材を作製した。
このとき、伸線過程における線材表面傷を除去する目的で、表面研磨を適宜施した。
さらに、一部の棒材は、最終線径φ160μmにおいて、メタノール−3モル硫酸を混合した電解液中で15Vの電圧を印加し、20秒間の電解研磨を行うことで表面欠陥を除去した。
また、一部の合金では900℃の温度で鍛造および押し出しを行うことで製管とした。
さらに所定の径まで減面するために、伸線と加工による歪み回復のための熱処理を、800℃以下で繰り返して伸線し、外径φ0.7/内径φ0.55mmの管材を作製した。
b.非金属介在物の形態の確認
図1に示す装置で、線径φ160μmに加工した各合金の試料と対極にPtを用いた回路とし、10%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニウムクロライド−メチルアルコールを混合した電解液中で4Vの電圧を印加し、NiTi系合金を溶出させた。
その後、電解液を遠心分離器で遠心分離を行い、孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて吸引濾過し、非金属介在物を残渣として分離した。
さらにフィルター上の非金属介在物をX線回折法(XRD)で、非金属介在物相を同定した。
得られた結果を、上記表1の結果の一部および鋳塊の冷却速度とともに、下記表2に示す。
c.非金属介在物の評価
試験中に破断した試料の破面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。また、破断起点に存在した非金属介在物を付随するエネルギー分散型X線分析装置(EDS)で成分分析した。
その後、この非金属介在物の存在頻度(面積率や個数)を求めるために、走査型電子顕微鏡(SEM)に付随するエネルギー分散型X線分析装置(EDS)で個々の非金属介在物について成分分析により非金属介在物相の分別と形状測定を行い集計した。
なお、測定には、オックスフォード・インストゥルメンツ(株)製の自動粒子解析システム INCA Featureを用いて自動測定を行った。
このとき、2500倍率で、4視野(約7.2×10μm)において長さLが2.5μmを超える非金属介在物について分析を行った。
ここで、本測定に用いた各試料はφ160μmまで加工する前に取り出したφ3.0mmを用いた。
これは広域的な非金属介在物を測定する目的であり、特性評価に用いた試料線径φ160μmにおいても、非金属介在物相および大きさに相違はないことを事前に確認している。
試料の作製方法は、樹脂に線材長手方向を埋包した後、研磨紙で半裁するまで削り込んだ後、鏡面研磨した。この試料を上述装置により粒子解析を行った。
d.P/VAの評価
P/VAのL/Lの評価は、走査型電子顕微鏡(SEM)で、2500倍にて個数をカウントした後、5000倍にて確認し正確な長さを測定した。
e.破断特性の評価
NiTi系形状記憶合金の破断特性は図6に示す通電加熱疲労試験機10で評価した。
図6に示すように、この通電加熱疲労試験機10は、形状記憶合金ワイヤ11の両端をそれぞれ圧着端子12により把持し、一方の圧着端子12を、圧着端子保持部13を介してSUS製摺動軸14に連結し、この摺動軸14をバイアスばね15で形状記憶合金ワイヤ11に張力を負荷する構造からなる。
形状記憶合金ワイヤ11はA以上の温度に加熱されると、図6の分図(a)に示すようにバイアスばね15の張力に抗して元の記憶長さに戻り、M以上の温度に冷却されると、図6の分図(b)に示すように強度が低下してバイアスばね15の張力に屈して歪みを生じる。
この伸び縮みの動作を繰り返し、試料が破断するまでの回数を測定した。
ここで、300MPaの定荷重下で、かつ歪み量3.5%の変形を繰り返した。なお、測定回数は200000回を上限とした。
一方、NiTi系超弾性合金の破断特性は、特別な測定装置を使用することなく、引張試験機のプログラムによって制御し測定を行った。
試験条件は標点距離100mmで、歪み量3.5%を得る負荷と除荷を交互に繰り返す引張試験を、試験速度3.5%/分で行い、試料が破断するまでの回数を測定した。こちらも同様に測定回数は200000回を上限とした。
ここで破断特性を評価する際の形状は、線材ではφ160μm、管材では外径φ0.7/内径φ0.55mmで、管材の肉厚は150μmであって、外径φ160μmに近似させて評価した。
上記の方法で破断するまでの回数が120000回以上のものを可として「△」、130000回以上のものを良として「○」、140000回以上のものを優として「◎」と判断し、下記表3に示した。
得られた結果を、下記表3に示す。
上記表3から、実施例1〜26の合金はいずれも、含有する最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率は、7.2×10μmの観察視野の1%以下を満たしていたが、測定できた比較例1〜16、19〜28はいずれも、上記面積率は、1%を超えた。
しかも、実施例1〜26の合金はいずれも、含有する最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の個数は、10個/7.2×10μm以下であったが、測定できた比較例1〜16、19〜28はいずれも、上記個数は、10個/7.2×10μmを超えた。
破断特性は、実施例1〜26が、△〜◎のレベルであり、比較例1〜28はいずれも×であった。
このため、上記の破断面の観察と分析結果により、含有する非金属介在物の最大長さLが2.5μmを超える介在物の面積率が、全体の1%以下もしくは2500倍の観察視野において非金属介在物の個数が10個/7.2×10μm以下であることが必要であると判断される。
なお、図4に実施例3および比較例3における非金属介在物を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)で、2500倍で観察した写真を示す。
また、図5にP/VAの観察結果を示した。
図5の分図(a)に示す実施例3では、L/Lが1.5であって、L/L≦3.0を満たしているが、図5の分図(b)の比較例3ではL/Lが3.1であり、L/L≦3.0を満たしていない。なお、破断特性との対比で、○〜◎のレベルは、いずれもL/L≦2.5である。
f.6%引張試験後の残留歪みの評価
NiTi系形状記憶合金およびNiTi系超弾性合金のいずれの試験においても試験前に6%の歪みを負荷した場合、応力を除荷もしくは除荷後に加熱することで残留歪みを評価した。
残留歪みが、0.5%以下の場合を、「○」と判断した。
得られた結果を、破断特性とともに下記表4に示す。
上記表4から、本発明の実施例1〜26の合金は、いずれも残留歪みが、0.5%以下であることがわかった。
表3および4で示すように、本発明の実施例1〜26のNiTi系合金は、いずれも、加工中の温度や焼鈍温度を制御しながら熱間および冷間加工を行うことで、線材や管材の製品において破断特性に有害な非金属介在物の大きさや面積率もしくは個数、非金属介在物の周りに存在する欠陥部分の大きさを制御することが可能となり、残留歪みが少なく、しかも破断特性に優れることがわかる。
1 試料
2 対極(Pt製のメッシュまたはスプリング)
3 電解液
4 直流電源
5 氷水
6 攪拌機
7 撹拌子
10 通電加熱疲労試験機
11 形状記憶合金ワイヤ
12 圧着端子
13 圧着端子保持部
14 SUS製摺動軸
15 バイアスばね

Claims (15)

  1. 炭素濃度および酸素濃度がいずれも0.05質量%未満であり、かつ、該炭素濃度と該酸素濃度の比(炭素濃度/酸素濃度)が1.0以上であるNiTi系合金材料であって、
    前記合金材料中に含有する非金属介在物が、TiNiとTiCの混相またはTiC単相を有し、
    前記合金材料中に含有する最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の面積率が、7.2×10μmの観察視野の1%以下であることを特徴とするNiTi系合金材料。
  2. 炭素濃度および酸素濃度がいずれも0.05質量%未満であり、かつ、該炭素濃度と該酸素濃度の比(炭素濃度/酸素濃度)が1.0以上であるNiTi系合金材料であって、
    前記合金材料中に含有する非金属介在物が、TiNiとTiCの混相またはTiC単相を有し、
    前記合金材料中に含有する非金属介在物の最大長さLが2.5μmを超える非金属介在物の個数が、10個/7.2×10μm以下であることを特徴とするNiTi系合金材料。
  3. 前記合金材料中に含有する非金属介在物の最大長さLと非金属介在物の周辺に形成される空隙欠陥の最大長さLの比(L/L)が、3.0以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のNiTi系合金材料。
  4. 窒素濃度が、0.03質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
  5. Niが54.5〜57.0質量%、ならびに、Cu、Ta、Zr、Nb、V、Mo、Cr、FeおよびCoからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上を合計で0.00〜0.05質量%を含有し、残部がTiと不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
  6. Niが54.5〜57.0質量%であって、残部がTiと不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
  7. 歪み量3.5%を得る負荷と除荷を交互に繰り返す引張試験において破断するまでの破断回数が、120000回以上の特性を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
  8. 前記NiTi系合金材料がNiTi系形状記憶合金材料または超弾性合金材料であって、
    引張試験において6%の歪みを負荷した後、除荷もしくは除荷した後に加熱をした際、残留歪みが、0.5%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料を用いたNiTi系合金の製造方法であって、
    NiTi系合金の原料を溶解した後、鋳塊を冷却速度10℃/秒以上で冷却することを特徴とするNiTi系合金の製造方法。
  10. 熱伝導率12W/(m・K)以上の鋳型を使用することを特徴とする請求項9に記載のNiTi系合金の製造方法。
  11. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料からなることを特徴とする線材または管材。
  12. 請求項11に記載の線材または管材の製造方法であって、
    NiTi系合金の原料を溶解した後、鋳塊を冷却速度10℃/秒以上で冷却し、1000℃以下で熱間加工し、加工による歪み回復のために800℃以下で熱処理することを特徴とする線材または管材の製造方法。
  13. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料がNiTi系形状記憶合金材料であって、アクチュエータに用いられるNiTi系形状記憶合金材料からなることを特徴とする線材。
  14. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料がNiTi系超弾性合金材料であって、ステントまたは人工心臓弁に用いられるNiTi系超弾性合金材料からなることを特徴とする管材。
  15. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のNiTi系合金材料がNiTi系超弾性合金材料であって、ガイドワイヤに用いられるNiTi系超弾性合金材料からなることを特徴とする線材。
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