本発明の位相差フィルムは、少なくとも熱可塑性樹脂とβ−ジケトンとを有することを特徴とし、かかる構成によって、湿度に対するリターデーション値の変動が小さい位相差フィルムを提供するものである。この特徴は、請求項1から請求項10までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記β−ジケトンが、前記一般式(I)で表される構造を有する化合物であることが好ましく、前記一般式(II)で表される構造を有する化合物であることがより好ましい。中でも前記一般式(II)で表される構造を有する化合物の置換基R10が、水素原子、又は直鎖又は分岐鎖である1〜3個の炭素原子を含むアルキル基を表し、置換基R11〜R20が、ヒドロキシ基、メトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、アシル基、及びハロゲン原子のいずれかを表すことが、好ましい。
また、前記熱可塑性樹脂が、前記式(1)〜(3)を共に満たすセルロースエステルであることが、より高いリターデーション値を有する位相差フィルムを得ることができ、好ましい。
さらに、本発明においては、本発明に係るβ−ジケトンとともに、分子量が10000以下の化合物を前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲内で含有することが好ましく、これにより、さらに湿度に対する位相差変動への耐久性が向上する。前記分子量が10000以下である化合物は、糖エステル、ポリエステル及びアクリル系化合物から選択される化合物であることが好ましい。
本発明の位相差フィルムは、面内方向のリターデーション値Ro及び厚さ方向のリターデーション値Rtが、
条件1 30nm≦Ro≦150nmであって、かつ70nm≦Rt≦400nm、
又は、
条件2 0nm≦Ro≦10nmであって、かつ−20nm≦Rt≦20nm
の範囲内であると、VAモード型液晶表示装置、又はIPSモード型液晶表示装置に対して優れた視野角拡大効果を発現し、好ましい。
本発明の位相差フィルムは、環境の湿度変動の影響をさらに軽減することから、活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて偏光子に貼合して偏光板とすることが好ましく、当該偏光板は液晶表示装置に好適に具備される。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
<本発明の位相差フィルムの概要>
本発明の位相差フィルムは、少なくとも熱可塑性樹脂とβ−ジケトンとを有することを特徴とし、かかる構成により湿度に対するリターデーション値の変動が小さい位相差フィルムを提供することができる。
<β−ジケトン>
本発明に係るβ−ジケトンは、特に限定されるものではなく、β−ジケトン構造(1,3−ジケトン構造ともいう。)を有する化合物であればよいが、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
式中、R1、 R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、置換基としては特に限定されるものではないが、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、2−プロペニル基、3−ブテニル基、1−メチル−3−プロペニル基、3−ペンテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、4−ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等)、アルキニル基(例えば、プロパルギル基等)、複素環基(例えば、ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、チエニル基、ピロリル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基等)、アリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル基等)、ホスホノ基、アシル基(例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、シアノ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、複素環オキシ基、シロキシ基、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホン酸基、スルホン酸の塩、アミノカルボニルオキシ基、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ基、クロロフェニルアミノ基、トルイジノ基、アニシジノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、イミド基、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、フェノキシカルボニルアミノ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基等)、複素環チオ基、チオウレイド基、カルボキシ基、カルボン酸の塩、ヒドロキシ基、メルカプト基、ニトロ基等の各基が挙げられる。これらの置換基は同様の置換基によって更に置換されていてもよい。
なかでも、R1、 R2及びR3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜20)、アルケニル基(好ましくは炭素数3〜20)、アリール基(好ましくは炭素数6〜20)、ヘテロアリール基(好ましくは炭素数4〜20)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20)、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基又はアミノ基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、又はアルコキシ基がより好ましい。これらの置換基は、同様の置換基をさらに有していてもよい。
前記アリール基や複素環基はさらに置換基を有していてもよい。例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル基;トリフルオロメチル、ペンタフルオロメチル等のフルオロアルキル基;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基;ベンジル、フェネチル等のアリールオキシ基;ヒドロキシ基;アリル基;アセチル、プロピオニル等のアシル基;アセトキシ、プロピオニルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル等のアリールオキシカルボニル基;カルボキシ基;カルバモイル基;アミノ基;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、アセチルメチルアミノ等の置換アミノ基;メチルチオ、エチルチオ、フェニルチオ、ベンジルチオ等の置換チオ基;メルカプト基;エチルスルフォニル、フェニルスルフォニル等の置換スルフォニル基;シアノ基;フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード等のハロゲン基等が挙げられる。これらの置換基は、互いに結合して環を形成してもよい。
本発明に係るβ−ジケトンは、上述のように上記一般式(1)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。具体的には、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン(ブタノイルアセチルメタン)、3,5−ヘプタンジオン、2,4−オクタンジオン、2−メチルヘキサン−3,5−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2−メチルヘプタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2−ジメチルヘキサン−3,5−ジオン、2,2,6−トリメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、3−メチルペンタン−2,4−ジオン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸tert−ブチル、プロピオニル酢酸メチル、プロピオニル酢酸エチル、プロピオニル酢酸プロピル、プロピオニル酢酸イソプロピル、プロピオニル酢酸ブチル、プロピオニル酢酸tert−ブチル、ブチリル酢酸メチル、ブチリル酢酸エチル、ブチリル酢酸プロピル、ブチリル酢酸イソプロピル、ブチリル酢酸ブチル、ブチリル酢酸tert−ブチル、イソブチリル酢酸メチル、イソブチリル酢酸エチル、イソブチリル酢酸プロピル、イソブチリル酢酸イソプロピル、イソブチリル酢酸ブチル、イソブチリル酢酸tert−ブチル、3−オキソヘプタン酸メチル、3−オキソヘプタン酸エチル、3−オキソヘプタン酸プロピル、3−オキソヘプタン酸イソプロピル、3−オキソヘプタン酸ブチル、3−オキソヘプタン酸tert−ブチル、5−メチル−3−オキソヘキサン酸メチル、5−メチル−3−オキソヘキサン酸エチル、5−メチル−3−オキソヘキサン酸プロピル、5−メチル−3−オキソヘキサン酸イソプロピル、5−メチル−3−オキソヘキサン酸ブチル、5−メチル−3−オキソヘキサン酸tert−ブチル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸メチル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸エチル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸プロピル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸イソプロピル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸ブチル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸tert−ブチル、ベンゾイル酢酸メチル、ジベンゾインメタン、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸メチルエチル、マロン酸ジプロピル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジtert−ブチル、マロン酸メチルtert−ブチル等を挙げることができる。これらのうち、2,4−ペンタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、アセト酢酸メチル及びアセト酢酸エチル等が好適に用いられる。
さらに、本発明に係るβ−ジケトンが、アリール基や複素環基を有する化合物であるときに、位相差フィルムの湿度に対する位相差変動が特に小さくなる効果を発現し、好ましい。なかでも本発明に係るβ−ジケトンは、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
(式中、R
10〜R
20は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。隣り合った二つの置換基で環構造をとってもよい。)
上記置換基としては特に限定されるものではないが、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、2−プロペニル基、3−ブテニル基、1−メチル−3−プロペニル基、3−ペンテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、4−ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等)、アルキニル基(例えば、プロパルギル基等)、複素環基(例えば、ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、チエニル基、ピロリル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基等)、アリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル基等)、ホスホノ基、アシル基(例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、シアノ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、複素環オキシ基、シロキシ基、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホン酸基、スルホン酸の塩、アミノカルボニルオキシ基、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ基、クロロフェニルアミノ基、トルイジノ基、アニシジノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、イミド基、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、フェノキシカルボニルアミノ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基等)、複素環チオ基、チオウレイド基、カルボキシ基、カルボン酸の塩、ヒドロキシ基、メルカプト基、ニトロ基等の各基が挙げられる。これらの置換基は同様の置換基によって更に置換されていてもよい。隣り合った二つの置換基で環構造をとってもよい。
前記アリール基や複素環基はさらに置換基を有していてもよい。例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル基;トリフルオロメチル、ペンタフルオロメチル等のフルオロアルキル基;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基;ベンジル、フェネチル等のアリールオキシ基;ヒドロキシ基;アリル基;アセチル、プロピオニル等のアシル基;アセトキシ、プロピオニルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル等のアリールオキシカルボニル基;カルボキシ基;カルバモイル基;アミノ基;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、アセチルメチルアミノ等の置換アミノ基;メチルチオ、エチルチオ、フェニルチオ、ベンジルチオ等の置換チオ基;メルカプト基;エチルスルフォニル、フェニルスルフォニル等の置換スルフォニル基;シアノ基;フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード等のハロゲン基等が挙げられる。これらの置換基は、互いに結合して環を形成してもよい。
中でも置換基R10は、水素原子、又は、直鎖又は分岐鎖である1〜3個の炭素原子を含むアルキル基であることが好ましい。
また、置換基R11〜R20は、電子供与基であるヒドロキシ基、メトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基が好ましく、又は電子吸引基であるニトロ基、シアノ基、フェニル基、アシル基、ハロゲン原子のいずれかであることが好ましい。
一般式(I)及び一般式(II)で表される、アリール基を有するβ−ジケトンの具体例を以下に示すが、これに限定されるものではない。
また、本発明の位相差フィルムには、下記一般式(III)で表されるβ−ジケトンを用いることもできる。
式中、R21、R22及びR23は、同一又は異なっていてもよく、炭素原子1〜5の直鎖又は分岐上のアルキル基を示す。R21、R22及びR23の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のアルキル基を挙げることができる。
一般式(III)で表されるβ−ジケトンの具体例を以下に示すが、これに限定されるものではない。
また、本発明の位相差フィルムには、β−ジケトン構造を有する(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドを含有することもできる。
β−ジケトン構造を有する(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドとしては、β−ジケトン構造は連続した三つの炭素原子において両末端の炭素原子がカルボニル炭素となった構造であれば用いることができるが、連続した三つの炭素原子における中央の炭素原子は置換基を有さないメチレン基(−CH2−)であることが好ましい。
β−ジケトン構造を構成する連続した三つの炭素原子は、(メタ)アクリル酸誘導体を含む有機基に結合されていることが必要であり、β−ジケトン構造を構成する連続した三つの炭素原子の隣接する原子は酸素原子や窒素原子等のヘテロ原子であってもよく、結果的に1,3−ジケトンのカルボニル基が隣接する原子又は原子団とともにエステル結合、アミド結合等を形成しても良い。組成物硬化後の柔軟性や支持体への相互作用性の観点から、(B)化合物におけるβ−ジケトン構造は環構造に含まれていない構造、即ち、環構造中にβ−ジケトン構造を有するような態様で存在するものではない、ことが好ましい。
β−ジケトン構造を有する(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドの分子内に存在する(メタ)アクリル酸に起因する構造は一つであっても複数あってもよく、(メタ)アクリル酸に起因する構造は1〜6であることが好ましく、1〜2であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸に起因する構造を一つ有する単官能の(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドであることが特に好ましい態様の一つとして挙げられる。
β−ジケトン構造を有する(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドとしては、下記一般式(IV)で示される化合物が好ましいものとして挙げられる。
上記一般式(IV)中、R31は水素原子又はメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。また、Xは酸素原子又はNR36を表し、酸素原子であることが好ましい。ここで、R31水素原子又はアルキル基を表し、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
Z1は単結合又は2価の有機基を表す。Z1が2価の有機基を表す場合の有機基としては、水素を除いた原子数が1〜7の有機基であることが好ましく、より具体的には、例えば、炭素原子数1〜7程度のアルキレン基などが挙げられ、アルキレン基内の任意の単独メチレン基(−CH2−)若しくは複数の連続したメチレン基の群は、アリーレン基、アルケニン基などの不飽和結合を有する2価の有機機、カルボニル基、ヒドロキシメチレン基、アルコキシメチレン基、アミノメチレン基、ハロゲン化メチレン基などのヘテロ原子又はハロゲン原子を有する2価の有機基、又は、酸素原子、硫黄原子などによって置換されても良く、このような有機基のうち、炭素数1〜7のアルキレン基又はアルキレン基の一方の末端のメチレン基が酸素原子により置換された基が特に好ましい。この有機基は、β−ジケトン構造に隣接する原子、即ちXが酸素原子であって、該酸素原子を介してβ−ジケトン構造に結合している態様をとることが好ましい。
Z2は1価の有機基を表し、炭化水素基であることが好ましく、より具体的には、例えば、炭素数1〜12程度のアルキル基、アリール基などが挙げられる。なかでも、炭素数1〜8のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがとくに好ましい。
本発明にて好適に用いることのできる、β−ジケトン構造を有する(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドの具体例〔例示化合物(C−1)〜(C−9)を以下に示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。(C−1)〜(C−6)が好ましく、(C−1)又は(C−2)が特に好ましい。
これらのβ−ジケトンは、一種単独で又は二種以上を混合して使用することもできる。本発明においてβ−ジケトンは、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲内で用いることで、湿度に対するリターデーション値の変動に優れた耐久性を有する位相差フィルムが得られる。
<熱可塑性樹脂>
本発明の位相差フィルムに含有される熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではない。ここで、「熱可塑性樹脂」とは、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟らかくなり、目的の形に成形できる樹脂のことをいう。
熱可塑性樹脂としては、セルロースエステル系樹脂、セルロースエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等が挙げられる。特に好ましくは位相差発現性、光学特性、扱いやすさ、及び偏光板加工適性の観点からセルロースエステル系樹脂及びセルロースエーテル系樹脂であることが好ましい。
以下、セルロースエステル系樹脂について説明するが、セルロースエステル系樹脂を簡単にセルロースエステルと呼称して説明する。
〈セルロースエステル〉
本発明の位相差フィルムは、熱可塑性樹脂としてセルロースエステルを主成分として含有することが好ましい。主成分とは、当該位相差フィルム中のセルロースエステルの含有比率が、55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上であることをいう。
本発明に係るセルロースエステルは、炭素原子数が2〜4の範囲内であるアシル基を有することが好ましい。炭素原子数が2〜4の範囲内であるアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブタノイル基を挙げることができる。
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離のヒドロキシ基を有している。セルロースエステルは、これらのヒドロキシ基の一部又は全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル基総置換度は、グルコース単位一つあたり、2位、3位及び6位に位置するセルロースのヒドロキシ基の全てがアシル化している割合(100%のアシル化は置換度3)を意味する。
好ましいアシル基の例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらのなかでも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)である。
具体的なセルロースエステルとしては、セルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
本発明に係るセルロースエステルは、下記式(1)、(2)及び(3)をともに満たすセルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースアセテートプロピオネート、又はセルロースアセテートブチレートであることが好ましい。式中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基又はブチリル基の置換度、若しくはその混合物の置換度である。アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
式(1) 1.0≦X≦3.0
式(2) 0≦Y≦1.5
式(3) 2.0≦X+Y≦3.0
中でも本発明に係るセルロースアシレートは、セルロース(ジ、トリ)アセテート(Y=0)、及びセルロースアセテートプロピオネート(Y;プロピオニル基、Y>0)が好ましい。セルロース(ジ、トリ)アセテートとしては2.0≦X≦2.95であることが好ましい。セルロースアセテートプロピオネートは、1.0≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦1.5、2.2≦X+Y≦2.95であることが好ましい。
中でも好ましく用いられるセルロースアセテートは、2.0≦X<2.5のセルロースジアセテート(DAC)である。当該セルロースジアセテートの市販品としては、(株)ダイセル製のL20、L30、L40、L50、イーストマンケミカルジャパン(株)製のCa398−3、Ca398−6、Ca398−10、Ca398−30、Ca394−60S等が挙げられる。
上述のセルロース(ジ、トリ)アセテート若しくはセルロースアセテートプロピオネートを用いることで、リターデーションに優れ、機械強度、環境変動に優れた位相差フィルムが得られる。
所望の光学特性を得るために置換度の異なるセルロースアセテートを混合して用いてもよい。異なるセルロースアセテートの混合比は特に限定されず、10:90〜90:10(質量比)の範囲内でありうる。
セルロースエステルの重量平均分子量Mwは、位相差フィルムの延伸時の機械的強度を保持する観点から、80000〜300000の範囲内であることが好ましく、120000〜250000の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であると製膜時に延伸による位相差の制御が行いやすい。
セルロースエステルの数平均分子量(Mn)は30000〜150000の範囲が、得られた位相差フィルムの機械的強度が高く好ましい。さらに40000〜100000の数平均分子量のセルロースエステルが好ましく用いられる。
セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値は、1.4〜3.0の範囲であることが好ましい。
セルロースエステルの重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
測定条件は以下のとおりである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、あるいは単独で使用することができる。
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
本発明に係るセルロースエステルは、公知の方法により製造することができる。一般的には、原料のセルロースと所定の有機酸(酢酸、プロピオン酸など)と酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸など)、触媒(硫酸など)と混合して、セルロースをエステル化し、セルロースのトリエステルができるまで反応を進める。トリエステルにおいてはグルコース単位の三個のヒドロキシ基は、有機酸のアシル酸で置換されている。同時に二種類の有機酸を使用すると、混合エステル型のセルロースエステル、例えばセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートを作製することができる。次いで、セルロースのトリエステルを加水分解することで、所望のアシル置換度を有するセルロースエステルを合成する。その後、濾過、沈殿、水洗、脱水、乾燥などの工程を経て、セルロースエステルが出来上がる。
本発明に係るセルロースエステルは、20mlの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて撹拌したときのpHが6〜7の範囲であり、電気伝導度が1〜100μS/cmの範囲であることが好ましい。
本発明に係るセルロースエステルは、具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
〈セルロースエーテル系樹脂〉
セルロースエーテルも好適に使用することができる。例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なかでも、セルロースメチルエーテル、セルロースエチルエーテル、セルロースプロピルエーテル等のアルキル基置換度2.0〜2.80の範囲内のセルロースエーテル樹脂がより好ましい。
セルロースエーテル樹脂は単独で使用してもよく、セルロースエステル樹脂と併用してもかまわない。併用する場合、セルロースエーテル樹脂とセルロースエステル樹脂の含有量は、セルロースエーテル樹脂とセルロースエーテル樹脂の合計を100質量%とすると、特に制限はないがセルロースエステル樹脂80〜99質量%、セルロースエーテル1〜20質量%の範囲内であることが好ましく、さらにセルロースアシレート85〜97質量%、セルロースエーテル3〜15質量%の範囲内であることが好ましい。
使用するセルロースエーテル樹脂の分子量は特に制限はなく、例えば、エチルセルロースのようなセルロースエーテル樹脂の場合、数平均分子量30000〜150000(ポリスチレン換算)のものがフィルムの脆性もよく好適に使用される。
〈アクリル樹脂〉
また、本発明の位相差フィルムはリターデーション値を調整する観点から、熱可塑性樹脂として、アクリル樹脂とセルロースエステルとを含有することも好ましい。アクリル樹脂とセルロースエステルの含有質量比が、アクリル樹脂:セルロースエステル=95:5〜50:50であるフィルムとしてもよい。
アクリル樹脂には、メタクリル樹脂も含まれる。アクリル樹脂としては、特に制限されるものではないが、メチルメタクリレート単位50〜99質量%、及びこれと共重合可能な他の単量体単位1〜50質量%からなるものが好ましい。共重合可能な他の単量体としては、アルキル数の炭素数が2〜18のアルキルメタクリレート、アルキル数の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド、グルタル酸無水物等が挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上の単量体を併用して用いることができる。
これらのなかでも、共重合体の耐熱分解性や流動性の観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましく、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが特に好ましく用いられる。また、重量平均分子量(Mw)は80000〜500000であることが好ましく、更に好ましくは、110000〜500000の範囲内である。アクリル樹脂の重量平均分子量は、測定条件含めて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。
アクリル樹脂の製造方法としては、特に制限は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系及びアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系とすることもできる。重合温度については、懸濁又は乳化重合では30〜100℃、塊状又は溶液重合では80〜160℃で実施しうる。得られた共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いて重合を実施することもできる。また、市販品も使用することができる。例えば、デルペット60N、80N(旭化成ケミカルズ(株)製)、ダイヤナールBR52、BR80、BR83、BR85、BR88(三菱レイヨン(株)製)、KT75(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。アクリル樹脂は2種以上を併用することもできる。また、アクリル樹脂には、(メタ)アクリル系ゴムと芳香族ビニル化合物の共重合体に(メタ)アクリル系樹脂がグラフトされたグラフト共重合体を用いてもよい。前記グラフト共重合体は、(メタ)アクリル系ゴムと芳香族ビニル化合物の共重合体がコア(core)を構成し、その周辺に前記(メタ)アクリル系樹脂がシェル(shell)を構成するコア−シェルタイプのグラフト共重合体であることが好ましい。
位相差フィルムにおけるセルロースエステルとアクリル樹脂との総質量は、位相差フィルムの55質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは、70質量%以上である。
<β−ジケトンとともに用いられる添加剤>
本発明の位相差フィルムは、前記β−ジケトンに加えて、分子量が10000以下の化合物を添加剤として含有させることが、耐湿熱性の改善とセルロースエステルとの相溶性を両立する観点から好ましい。当該分子量が10000以下である化合物が重合体である場合は、重量平均分子量が10000以下であることが好ましい。好ましい分子量の範囲は100〜10000の範囲内であり、更に好ましくは、400〜8000の範囲内である。
特に本発明の効果を得るためには、当該分子量が10000以下の化合物を、セルロースエステル100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲内で含有することが好ましく、6〜20質量部の範囲内で含有させることがより好ましい。上記範囲内で含有させることにより、透湿性の効果的な制御とセルロースエステルとの相溶性を両立することができ、好ましい。
当該化合物のなかでも、下記糖エステル、ポリエステル、及びアクリル系化合物から選択される少なくとも1種の化合物であることが、透湿性の効果的な制御及びセルロースエステルとの相溶性を高度に両立できる観点から好ましい。
〈糖エステル〉
本発明においては、セルロースエステル以外の糖エステルを含有させることが好ましい。本発明に係る糖エステルしては、ピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基の全て若しくは一部をエステル化した糖エステルを使用することが好ましい。
特に、本発明の位相差フィルムは、下記一般式(FA)で表される総平均置換度が3.0〜6.0である糖エステルを用いることが好ましい。
(式中、R
1〜R
8は、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のアルキルカルボニル基、若しくは、置換又は無置換のアリールカルボニル基を表し、R
1〜R
8は相互に同じであっても、異なっていてもよい。)
本発明に係る一般式(FA)で表される化合物の平均置換度は3.0〜6.0であることによって、透湿性の制御とセルロースエステルとの相溶性を高度に両立することができる。
本発明において、一般式(FA)で表される化合物の置換度とは、一般式(FA)に含まれる八つのヒドロキシ基のうち、水素以外の置換基で置換されている数を表し、すなわち、一般式(FA)のR1〜R8のうち、水素以外の基を含む数を表す。したがって、R1〜R8が全て水素以外の置換基により置換された場合に、置換度は最大値の8.0となり、R1〜R8が全て水素原子である場合には、0.0となる。
一般式(FA)で表される構造を有する化合物は、ヒドロキシ基の数、OR基の数が固定された単一種の化合物を合成することは困難であり、式中のヒドロキシ基の数、OR基の異なる成分が数種類混合された化合物となることが知られているため、本発明における一般式(FA)の置換度としては、平均置換度を用いることが適当であり、常法により高速液体クロマトグラフィーによって置換度分布を示すチャートの面積比から平均置換度を測定することができる。
一般式(FA)において、R1〜R8は、置換又は無置換のアルキルカルボニル基、あるいは、置換又は無置換のアリールカルボニル基を表し、R1〜R8は、同じであっても、異なっていてもよい。
本発明に係る糖エステルの合成原料の糖の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストース挙げられる。
この他、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
本発明に係る糖エステルの合成時に用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし2種以上の混合であってもよい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環に1〜5個のアルキル基若しくはアルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
以下に、本発明に係る糖エステルの具体例を挙げるが、R1〜R8のうちいずれかを同じ置換基Rとした場合であって、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明に係る糖エステルは、前記糖に、アシル化剤(エステル化剤ともいう、例えば、アセチルクロライドの酸ハロゲン化物、無水酢酸等の無水物)を反応させることによって製造することが可能であり、置換度の分布は、アシル化剤の量、添加タイミング、エステル化反応時間の調節によってなされるが、置換度違いの糖エステルの混合、あるいは純粋に単離した置換度違いの化合物を混合することにより、目的の平均置換度、置換度4以下の成分を調整することができる。
撹拌装置、還流冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸135.6g(0.6モル)、ピリジン284.8g(3.6モル)を仕込み、撹拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。
次に、コルベン内を4×102Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。そして、次にトルエン1L、0.5質量%の炭酸ナトリウム水溶液300gを添加し、50℃で30分間撹拌後、静置して、トルエン層を分取した。最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×102Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4及びA−5等の混合物である糖エステル1を得た。
得られた混合物を高速液体クロマトグラフィー質量分析(HPLC−MS)で解析したところ、A−1が1.2質量%、A−2が13.2質量%、A−3が14.2質量%、A−4が35.4質量%、A−5等が40.0質量%であった。平均置換度は5.2であった。
同様に、無水安息香酸158.2g(0.70モル)、146.9g(0.65モル)、135.6g(0.60モル)、124.3g(0.55モル)と当モルのピリジンとを反応させて、表1記載のような成分の糖エステルを得た。
次いで、得られた混合物の一部を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製することで、それぞれ純度100%のA−1、A−2、A−3、A−4及びA−5等を得た。
なお、A−5等とは、置換度4以下の全ての成分、つまり置換度4、3、2、1の化合物の混合物であることを意味する。また、平均置換度は、A−5等を置換度4として計算した。
本発明においては、ここで作製した方法により所望の平均置換度に近い糖エステル及び単離したA−1〜A−5等を組み合わせ添加することにより、平均置換度を調整した。
<HPLC−MSの測定条件>
1)LC部
装置:日本分光(株)製カラムオーブン(JASCO CO−965)、ディテクター(JASCO UV−970−240nm)、ポンプ(JASCO PU−980)、デガッサー(JASCO DG−980−50)
カラム:Inertsil ODS−3 粒子径5μm 4.6×250mm(ジーエルサイエンス(株)製)
カラム温度:40℃
流速:1ml/min
移動相:THF(1%酢酸):H2O(50:50)
注入量:3μl
2)MS部
装置:LCQ DECA(Thermo Quest(株)製)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法
Spray Voltage:5kV
Capillary温度:180℃
Vaporizer温度:450℃
〈ポリエステル〉
本発明では上記糖エステルと同様に、下記一般式(FB)で表されるポリエステルを用いることが、透湿性の制御とセルロースエステルとの相溶性を高度に両立する観点から好ましい。
一般式(FB) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはヒドロキシ基又はカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基又は炭素数6〜12のアリールグリコール残基又は炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基又は炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(FB)中、Bで示されるヒドロキシ基又はカルボン酸残基と、Gで示されるアルキレングリコール残基又はオキシアルキレングリコール残基又はアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基又はアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のエステル系化合物と同様の反応により得られる。
一般式(FB)で表されるポリエステルのカルボン酸成分としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、脂肪族酸等があり、これらはそれぞれ1種又は2種以上の混合物として使用することができる。
一般式(FB)で表されるポリエステルの炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種又は2種以上の混合物として使用される。
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステル樹脂との相溶性に優れているため、特に好ましい。
また、上記一般式(FB)で表されるポリエステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
一般式(FB)で表されるポリエステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種又は2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリールジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等がある。
一般式(FB)で表されるポリエステルは、重量平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、ヒドロキシ基(水酸基)価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、ヒドロキシ基(水酸基)価は15mgKOH/g以下のものである。
以下に、本発明に用いることのできる一般式(FB)で表されるポリエステルの具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
〈アクリル系化合物〉
本発明では、アクリル系化合物を用いることも好ましい。アクリル系化合物には、メタクリル系化合物も含まれる。
アクリル系化合物としては、特に制限されるものではないが、メチルメタクリレート単位が50〜99質量%、及びこれと共重合可能な他の単量体単位の総量が1〜50質量%からなるものが好ましい。
共重合可能な他の単量体としては、アルキル基の炭素数が2〜18のアルキルメタクリレート、アルキル基の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート、アクリロイルモルホリンやN,N−ジメチルアクリルアミドなどのアミド基を有するビニルモノマー、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルや、アクリル酸、メタクリル酸等のα、β−不飽和酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα、β−不飽和ニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド、無水グルタール酸、等が挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上の単量体を併用して用いることができる。
また、本発明に用いられるアクリル系化合物としては、環構造を有してもよく、具体的には、ラクトン環構造、無水グルタール酸構造、グルタルイミド構造、N−置換マレイミド構造及び無水マレイン酸構造、ピラン環構造が挙げられる。
これらのなかでも、共重合体の耐熱分解性や流動性の観点から、アルキル基の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート、アクリロイルモルホリンやジメチルアクリルアミドなどのアミド基を有するビニルモノマー、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル、N−置換マレイミド構造、ピラン環構造等が好ましい。
アルキル基の炭素数が1〜18のアルキルアクリレートの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられ、好ましくは、メチルアクリレートが挙げられる。
アミド基を有するビニルモノマーの具体例としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルピロリジン、アクリロイルピペリジン、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、メタクリロイルピロリジン、メタクリロイルピペリジン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、ビニルピロリドン等が挙げられる。好ましくは、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、ビニルピロリドン、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられる。
エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルの具体例としては、例えば、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸シアノノルボルニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸メンチル、アクリル酸フェンチル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸ジメチルアダマンチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、アクリル酸シクロデシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸シアノノルボルニル、メタクリル酸フェニルノルボルニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル、メタクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。
好ましくは、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ジメチルアダマンチルなどが挙げられる。
N−置換マレイミドとしては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−i−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−ブロモフェニル)フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニルマレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリメチルフェニル)マレイミド、N−(4−ベンジルフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリブロモフェニル)マレイミド等が挙げられる。
好ましくは、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどが挙げられる。
これらのモノマーは市販のものをそのまま使用することができる。
アクリル系化合物は、透湿性の制御とセルロースエステルとの相溶性を両立する観点から、重量平均分子量(Mw)が10000以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、5000〜10000の範囲内である。
なお、本発明に係るアクリル系化合物の重量平均分子量(Mw)は、下記の測定条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた測定により算出する。
溶媒: テトラヒドロフラン
カラム: TSKgel SuperHM−M(東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
試料濃度: 0.1質量%
装置: HLC−8220(東ソー(株)製)
流量: 0.6ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500までの13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
アクリル系化合物の製造方法としては、特に制限は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系及びアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系とすることもできる。重合温度については、懸濁又は乳化重合では30〜100℃、塊状又は溶液重合では80〜160℃の範囲で実施しうる。得られた共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いて重合を実施することもできる。
〈可塑剤〉
本発明の位相差フィルムには、上記糖エステル、ポリエステル、及びアクリル系化合物以外に、分子量が10000以下の公知の可塑剤を用いることもできる。可塑剤として特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤などから選択される。本発明の位相差フィルムに好適な可塑剤は、多価アルコールエステル系可塑剤である。
透湿性を効果的に制御する観点から、多価アルコールエステル系可塑剤は、セルロースエステル100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲内で含有することが好ましく、6〜20質量部の範囲内で含有することが好ましい。
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールと、モノカルボン酸とのエステル(アルコールエステル)であり、好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。多価アルコールエステルは、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。
脂肪族多価アルコールの好ましい例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、キシリトール等が含まれる。なかでも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールなどが好ましい。
モノカルボン酸は、特に制限はなく、脂肪族モノカルボン酸、脂環式モノカルボン酸又は芳香族モノカルボン酸等でありうる。フィルムの透湿性を高め、かつ揮発しにくくするためには、脂環式モノカルボン酸又は芳香族モノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸は、一種類であってもよいし、二種以上の混合物であってもよい。また、脂肪族多価アルコールに含まれるOH基の全部をエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
脂肪族モノカルボン酸は、炭素数1〜32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸であることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸の炭素数はより好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜10である。脂肪族モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等が含まれる。なかでも、セルロースアセテートとの相溶性を高めるためには、酢酸、又は酢酸とその他のモノカルボン酸との混合物が好ましい。
脂環式モノカルボン酸の例には、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸などが含まれる。
芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸;安息香酸のベンゼン環にアルキル基又はアルコキシ基(例えばメトキシ基やエトキシ基)を1〜3個を導入したもの(例えばトルイル酸など);ベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸(例えばビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸など)が含まれ、好ましくは安息香酸である。
多価アルコールエステルの具体例は、特開2006−113239号公報段落〔0058〕〜〔0061〕記載の化合物が挙げられる。
多価カルボン酸エステルは、2価以上、好ましくは2〜20価の多価カルボン酸と、アルコールとのエステルである。多価カルボン酸は、2〜20価の脂肪族多価カルボン酸であるか、3〜20価の芳香族多価カルボン酸又は3〜20価の脂環式多価カルボン酸であることが好ましい。
多価カルボン酸の例には、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸又はその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などが含まれ、フィルムからの揮発を抑制するためには、オキシ多価カルボン酸が好ましい。
アルコールの例には、直鎖若しくは側鎖を有する脂肪族飽和アルコール、直鎖若しくは側鎖を有する脂肪族不飽和アルコール、脂環式アルコール又は芳香族アルコールなどが含まれる。脂肪族飽和アルコール又は脂肪族不飽和アルコールの炭素数は、好ましくは1〜32であり、より好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜10である。脂環式アルコールの例には、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどが含まれる。芳香族アルコールの例には、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどが含まれる。
多価カルボン酸エステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることがより好ましい。多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、ブリードアウトを抑制する観点では、大きい方が好ましく;透湿性やセルロースアセテートとの相溶性の観点では、小さい方が好ましい。
多価カルボン酸エステルの例には、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が含まれる。
多価カルボン酸エステルは、フタル酸エステルであってもよい。フタル酸エステルの例には、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が含まれる。
グリコレートの例には、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が含まれる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類の例には、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が含まれ、好ましくはエチルフタリルエチルグリコレートである。
エステル系可塑剤には、脂肪酸エステル、クエン酸エステルやリン酸エステルなどが含まれる。
脂肪酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、及びセバシン酸ジブチル等が含まれる。クエン酸エステルの例には、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、及びクエン酸アセチルトリブチル等が含まれる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、及びトリブチルホスフェート等が含まれ、好ましくはトリフェニルホスフェートである。
可塑剤の含有量は、セルロースエステルに対して好ましくは1〜20質量%の範囲であり、より好ましくは1.5〜15質量%の範囲である。可塑剤の含有量が上記範囲内であると、可塑性の付与効果が発現でき、位相差フィルムからの可塑剤の耐染みだし性にも優れる。
〈水素結合性化合物〉
本発明の位相差フィルムは、湿度の変化に対するリターデーション値Rtの変動を低減するために、水素結合性化合物を含有することも好ましい。
当該水素結合性化合物としては、一分子中に少なくとも複数のヒドロキシ基、アミノ基、チオール基、カルボン酸基、から選ばれる官能基を有することが好ましく、一分子内に複数の異なる官能基を有することがより好ましく、ヒドロキシ基とカルボン酸基を有することが特に好ましい。当該化合物は、母核として、1〜2個の芳香族環を含有することが好ましく、一分子中に含有する前記官能基の数を、化合物の分子量で割った値が、0.01以上であることが好ましい。
上記効果は、前記セルロースエステルと水分子とが相互作用(水素結合)する部位に上記化合物が結合(水素結合)し、水分子の脱着による電荷分布の変化を抑制するように作用するためと推定している。
具体的な化合物例としては、特開2011−227508号公報段落〔0029〕に記載の化合物が挙げられ、3−メチルサリチル酸を用いることが好ましい。
〈リターデーション調整剤〉
本発明の位相差フィルムはリターデーション値を調整するのに、位相差調整剤を用いることも好ましく、用いられる位相差調整剤の例としては、円盤状化合物や二つの芳香環を有する棒状化合物等が挙げられるが、これらに制限されない。
円盤状化合物としては、例えば、特開2006−113239号公報段落〔0143〕〜〔0179〕記載の1,3,5−トリアジン系化合物を好ましく用いることができる。
二つの芳香環を有する棒状化合物としては、例えば、特開2006−113239号公報段落〔0106〕〜〔0112〕に記載の化合物を好ましく用いることができる。
〈紫外線吸収剤〉
本発明の位相差フィルムは、紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等のチヌビン類があり、これらはいずれもBASFジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。
この他、1,3,5トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
本発明の位相差フィルムは紫外線吸収剤を二種以上含有することが好ましい。
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。
無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、位相差フィルムの乾燥膜厚が15〜50μmの場合は、位相差フィルムに対して0.5〜10質量%の範囲が好ましく、0.6〜4質量%の範囲が更に好ましい。
〈酸化防止剤〉
酸化防止剤は劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に液晶画像表示装置などがおかれた場合には、位相差フィルムの劣化が起こる場合がある。
酸化防止剤は、例えば、位相差フィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等により位相差フィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、前記位相差フィルム中に含有させるのが好ましい。
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。
特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%の範囲が好ましく、10〜1000ppmの範囲が更に好ましい。
〈微粒子(マット剤)〉
位相差フィルムは、表面の滑り性を高めるため、必要に応じて微粒子(マット剤)をさらに含有してもよい。
微粒子は、無機微粒子であっても有機微粒子であってもよい。無機微粒子の例には、二酸化ケイ素(シリカ)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムなどが含まれる。なかでも、二酸化ケイ素や酸化ジルコニウムが好ましく、得られるフィルムのヘイズの増大を少なくするためには、より好ましくは二酸化ケイ素である。
二酸化ケイ素の微粒子の例には、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600、NAX50(以上日本アエロジル(株)製)、シーホスターKE−P10、KE−P30、KE−P50、KE−P100(以上日本触媒(株)製)などが含まれる。なかでも、アエロジルR972V、NAX50、シーホスターKE−P30などが、得られるフィルムの濁度を低く保ちつつ、摩擦係数を低減させるため特に好ましい。
微粒子の一次粒子径は、5〜50nmの範囲であることが好ましく、7〜20nmの範囲であることがより好ましい。一次粒子径が大きい方が、得られるフィルムの滑り性を高める効果は大きいが、透明性が低下しやすい。そのため、微粒子は、粒子径0.05〜0.3μmの範囲の二次凝集体として含有されていてもよい。微粒子の一次粒子又はその二次凝集体の大きさは、透過型電子顕微鏡にて倍率50万〜200万倍で一次粒子又は二次凝集体を観察し、一次粒子又は二次凝集体100個の粒子径の平均値として求めることができる。
微粒子の含有量は、セルロースエステルに対して0.05〜1.0質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜0.8質量%の範囲であることがより好ましい。
<位相差フィルムの製造方法>
本発明の位相差フィルムの製造方法としては、通常のインフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルジョン法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から製膜方法は、溶液流延製膜法と溶融流延製膜法が選択でき、特に溶液流延法であることが、均一な表面を得るために好ましい。
〈溶液流延製膜法〉
以下、本発明の位相差フィルムを溶液流延法で製造する場合について説明するが、熱可塑性樹脂としてセルロースエステルを用いる場合を例にとって説明する。
本発明の位相差フィルムを溶液流延法で製造する場合において、ドープを形成するのに有用な有機溶媒は、セルロースエステル及びその他の化合物を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用することができる。
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ないときは非塩素系有機溶媒系でのセルロースエステル及びその他の化合物の溶解を促進する役割もある。
特に、メチレンクロライド、及び炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、セルロースエステル及びその他の化合物を、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらの内ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
以下、本発明の位相差フィルムの好ましい製膜方法について説明する。
1)溶解工程
セルロースエステルに対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該セルロースエステル、場合によって、本発明に係るβ−ジケトン、及び/又はその他の化合物を撹拌しながら溶解しドープを形成する工程、あるいは該セルロースエステル溶液に、場合によっては、本発明に係るβ−ジケトン、及び/又はその他の化合物溶液を混合して主溶解液であるドープを形成する工程である。
セルロースエステル及びβ−ジケトンやその他の化合物の溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、又は特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載されている高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
ドープ中のセルロースエステルの濃度は、計15〜45質量%の範囲であることが好ましい。溶解中又は後のドープに化合物を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
濾過は捕集粒子径0.5〜5μmで、かつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることが好ましい。
この方法では、粒子分散時に残存する凝集物や主ドープ添加時発生する凝集物を、捕集粒子径0.5〜5μmで、かつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることで凝集物だけ除去できる。主ドープでは粒子の濃度も添加液に比べ十分に薄いため、濾過時に凝集物同士がくっついて急激な濾圧上昇することもない。
図1は、本発明に好ましい溶液流延製膜方法のドープ調製工程、流延工程及び乾燥工程の一例を模式的に示した図である。
仕込釜41より濾過器44で大きな凝集物を除去し、ストック釜42へ送液する。その後、ストック釜42より主ドープ溶解釜1へ各種添加液を添加する。
その後主ドープは主濾過器3にて濾過され、これに紫外線吸収剤添加液が導管16よりインライン添加される。
多くの場合、主ドープには返材が10〜50質量%程度含まれることがある。
返材とは、位相差フィルムや光学フィルムを細かく粉砕した物で、位相差フィルムや光学フィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトした光学フィルム原反が使用される。
また、ドープ調製に用いられる樹脂の原料としては、あらかじめセルロースエステル及びその他の化合物などをペレット化したものも、好ましく用いることができる。
2)流延工程
ドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイ30に送液し、無限に移送する無端の金属支持体31、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、いずれも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
3)溶媒蒸発工程
ウェブ(流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜をウェブと呼ぶ)を流延用支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させる工程である。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/又は支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱方法が、乾燥効率が良く好ましい。また、それらを組み合わせる方法も好ましく用いられる。流延後の支持体上のウェブを40〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。40〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
面品質、透湿性、剥離性の観点から、30〜120秒以内で該ウェブを支持体から剥離することが好ましい。
4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。
金属支持体上の剥離位置における温度は好ましくは10〜40℃の範囲であり、さらに好ましくは11〜30℃の範囲である。
なお、剥離する時点での金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により50〜120質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるツレや縦スジが発生しやすいため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
ウェブの残留溶媒量は下記式で定義される。
残留溶媒量(%)=(ウェブの加熱処理前質量−ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、140℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
金属支持体とフィルムを剥離する際の剥離張力は、通常、196〜245N/mの範囲内であるが、剥離の際に皺が入りやすい場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましい。
本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃の範囲内とするのが好ましく、10〜40℃の範囲内がより好ましく、15〜30℃の範囲内とするのが最も好ましい。
5)乾燥及び延伸工程
剥離後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したローラーに交互に通して搬送する乾燥装置35、及び/又はクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター延伸装置34を用いて、ウェブを乾燥する。
乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。余り急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。高温による乾燥は残留溶媒が8質量%以下くらいから行うのがよい。全体を通し、乾燥はおおむね40〜250℃の範囲内で行われる。特に40〜200℃の範囲内で乾燥させることが好ましい。
テンター延伸装置を用いる場合は、テンターの左右把持手段によってフィルムの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御できる装置を用いることが好ましい。また、テンター工程において、平面性を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。
また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
なお、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することが、特に好ましい。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。延伸倍率は、流延方向と幅手方向を足し合わせて、フィルムの元幅に対して1.1〜9倍、好ましくは、1.2〜5倍の範囲内であることが好ましい。
この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
・流延方向に延伸→幅手方向に延伸→流延方向に延伸→流延方向に延伸
・幅手方向に延伸→幅手方向に延伸→流延方向に延伸→流延方向に延伸
また、同時二軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を、張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時二軸延伸の好ましい延伸倍率は幅手方向、長手方向ともに元幅に対して1.01〜2.0倍の範囲である。特に好ましくは、所望のリターデーション値に調整するために、幅手方向に元幅に対して1.01〜2.0倍の範囲で延伸することが好ましく、より好ましくは1.1〜1.5倍の範囲である。
テンターを行う場合のウェブの残留溶媒量は、テンター開始時に20〜100質量%の範囲であるのが好ましく、かつウェブの残留溶媒量が10質量%以下になるまでテンターを掛けながら乾燥を行うことが好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。
テンターを行う場合の乾燥温度は、30〜160℃の範囲が好ましく、50〜150℃の範囲がさらに好ましい。
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
6)巻取り工程
ウェブ中の残留溶媒量が2質量%以下となってから位相差フィルムとして巻取り機37により巻取る工程であり、残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。特に0.00〜0.10質量%の範囲で巻取ることが好ましい。
巻取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
本発明の位相差フィルムは、長尺フィルムであることが好ましく、具体的には、100m〜10000m程度のものを示し、通常、ロール状で提供される形態のものである。また、フィルムの幅は1〜4mであることが好ましく、1.4〜3mであることがより好ましい。また、本発明の位相差フィルムの厚さは、10〜80μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜40μmの範囲である。
〈溶融流延製膜法〉
本発明の位相差フィルムは、溶融流延製膜法により製膜することもできる。
溶融流延製膜法とは、樹脂及び可塑剤などの添加剤を含む組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性のセルロースアセテートを含む溶融物を流延する方法をいう。
加熱溶融する成形方法としては、詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの成形法の中では、機械的強度及び表面精度などの点から、溶融押出し法が好ましい。溶融押出し法に用いる複数の原材料は、通常あらかじめ混錬してペレット化しておくことが好ましい。
ペレット化は、公知の方法でよく、例えば、乾燥セルロースアセテートや可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出機に供給し、一軸や二軸の押出機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷又は空冷し、カッティングすることで行うことができる。
添加剤は、押出機に供給する前に混合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。
粒子や酸化防止剤等の少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておくことが好ましい。
押出機は、剪断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能で、なるべく低温で加工することが好ましい。例えば、二軸押出機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
以上のようにして得られたペレットを用い、フィルム製膜を行う。もちろんペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
上記ペレットを、一軸や二軸タイプの押出機を用いて押出す際の溶融温度は、200〜300℃の温度範囲とし、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過し、異物を除去した後、Tダイからフィルム状に流延し、冷却ローラーと弾性タッチローラーでフィルムをニップし、冷却ローラー上で固化させる。
供給ホッパーから押出機へ導入する際、真空下又は減圧下や不活性ガス雰囲気下にして、酸化分解等を防止する方法も好ましい。
押出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体の複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し、接触箇所を焼結し一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、濾過精度を調整できる。
可塑剤や粒子などの添加剤は、あらかじめ樹脂と混合しておいてもよいし、押出機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
冷却ローラーと弾性タッチローラーによりフィルムをニップする際、タッチローラー側のフィルム温度は、フィルムのTg〜(Tg+110)℃の温度範囲にすることが好ましい。このような目的で使用する弾性体表面を有するローラーは、公知のローラーが使用できる。
弾性タッチローラーは、挟圧回転体ともいう。弾性タッチローラーとしては、市販されているものを用いることもできる。
冷却ローラーからフィルムを剥離する際、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
また、上記のようにして得られたフィルムは、冷却ローラーに接する工程を通過した後、前記延伸操作により延伸することが好ましい。
延伸する方法は、公知のローラー延伸機やテンターなどを好ましく用いることができる。延伸温度は、通常、フィルムを構成する樹脂のTg〜(Tg+60)℃の温度範囲で行われることが好ましい。
巻き取る前に、製品となる幅に端部をスリットして裁ち落とし、巻き中の貼り付きや擦り傷防止のために、ナール加工(エンボッシング加工)を両端に施してもよい。ナール加工の方法は凸凹のパターンを側面に有する金属リングを加熱や加圧により加工することができる。なお、フィルム両端部のクリップの把持部分は、通常はフィルムが変形しており、製品として使用できないので切除される。熱による材料の劣化が起こっていない場合は、回収後に再利用される。
〈位相差フィルムの特性〉
(リターデーション値)
本発明の位相差フィルムは、温度23℃、相対湿度55%の環境下で、波長590nmで測定した下記式(i)で表される面内方向のリターデーション値Ro及び式(ii)で表される厚さ方向のリターデーション値Rtが、下記条件1又は条件2の範囲内であることが好ましい。
条件1 30nm≦Ro≦150nmであって、かつ70nm≦Rt≦400nm
条件2 0nm≦Ro≦10nmであって、かつ−20nm≦Rt≦20nm
式(i):Ro=(nx−ny)×d(nm)
式(ii):Rt={(nx+ny)/2−nz}×d(nm)
〔式(i)及び式(ii)において、nxは、フィルムの面内方向において屈折率が最大になる方向xにおける屈折率を表す。nyは、フィルムの面内方向において、前記方向xと直交する方向yにおける屈折率を表す。nzは、フィルムの厚さ方向zにおける屈折率を表す。dは、フィルムの厚さ(nm)を表す。〕
これらのリターデーション値は、自動複屈折計KOBRA−WPR(王子計測機器)を用いて測定することができる。
本発明の位相差フィルムが、条件1のリターデーション値の範囲を満たす場合は、垂直配向型液晶表示装置の視野角拡大に好適である。このような位相差フィルムは、例えばセルロースエステルの種類、可塑剤の種類を適宜選択し、前記ウェブを幅手方向に適切な延伸倍率で延伸することで付与することができる。
本発明の位相差フィルムが、条件2のリターデーション値の範囲を満たす場合は、IPSモード型液晶表示装置の視野角拡大に好適である。このような位相差フィルムは、例えば熱可塑性樹脂として、前記アクリル樹脂とセルロースエステルとの含有質量比が、アクリル樹脂:セルロースエステル=95:5〜50:50の範囲で混合した系を用いてウェブを作製し、当該ウェブを低倍率で延伸することで付与することができる。
(表面粗さ)
本発明の位相差フィルム表面の算術平均粗さRaとしては、おおむね1.3〜4.0nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.6〜3.5nmの範囲内である。
(寸法変化率)
本発明の位相差フィルムを、液晶表示装置に具備した場合、使用する環境雰囲気、例えば、高湿環境下での吸湿による寸法変化により、ムラやリターデーション値の変化、及びコントラストの低下や色むらといった問題を発生させないために、本発明の位相差フィルムの寸法変化率(%)は、0.5%未満であることが好ましく、更に、0.3%未満であることが好ましく、最も好ましくは0.1%未満である。かかる寸法変化率の範囲を達成するには、熱可塑性樹脂の種類、分子量、添加剤や可塑剤等の種類や配合量の調整、及び延伸条件の調整を行うことが有効である。
(破断伸度)
また、本発明の位相差フィルムは、JIS−K7127−1999に準拠した測定において、少なくとも一方向(TD方向又はMD方向)の破断伸度が、4%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上である。
破断伸度の上限は、特に限定されるものではないが、延伸を高延伸率で行うことにより破断伸度は低下する傾向にあり、破断伸度は30%以下であることが好ましく、さらには20%以下であることが好ましい。かかる範囲の破断伸度を達成するには、熱可塑性樹脂の種類、分子量、添加剤や可塑剤等の種類や配合量を調整することが有効である。
(全光線透過率)
本発明の位相差フィルムは、その全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。また、製膜時のフィルム接触部(冷却ローラー、カレンダーローラー、ドラム、ベルト、溶液製膜における塗布基材、搬送ローラーなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。
<偏光板>
〈偏光子〉
偏光板の主たる構成要素である偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
偏光子としては、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行った偏光子が用いられ得る。偏光子の膜厚は5〜30μmの範囲内が好ましく、特に5〜15μmの範囲内であることが好ましい。
また、特開2003−248123号公報、及び特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、ケン化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。なかでも、熱水切断温度が66〜73℃の範囲内であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能及び耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
〈保護フィルム〉
本発明の偏光板においては、本発明の位相差フィルムが配置されている面とは反対側の偏光子面に、後述する活性エネルギー線硬化性接着剤を介して保護フィルムが積層されていることが好ましい。
当該保護フィルムは、市販品として入手することができ、例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC5UX、KC4UX、KC8UCR3、KC4SR、KC4BR、KC4CR、KC4DR、KC4FR、KC4KR、KC8UY、KC6UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC2UA、KC4UA、KC6UAKC、2UAH、KC4UAH、KC6UAH、以上コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製)が好ましく用いられる。保護フィルムの厚さは、特に制限されないが、10〜200μm程度とすることができ、好ましくは10〜100μmの範囲であり、より好ましくは10〜70μmの範囲であり、特に好ましくは20〜40μmの範囲である。
本発明の位相差フィルムと前記偏光子との貼り合わせは、特に限定はなく、当該位相差フィルムを鹸化処理した後、完全鹸化型のポリビニルアルコール系接着剤を用いて行うことができるが、偏光板の熱湿度に対する耐久性を向上する観点から、活性エネルギー線硬化性接着剤などを用いて貼り合わせることが好ましい。
活性エネルギー線硬化性接着剤の好ましい例としては、特開2011−028234号公報に開示されているような、(α)カチオン重合性化合物、(β)光カチオン重合開始剤、(γ)380nmより長い波長の光に極大吸収を示す光増感剤、及び(δ)ナフタレン系光増感助剤の各成分を含有する活性エネルギー線硬化性接着剤組成物が挙げられる。ただし、これ以外の活性エネルギー線硬化性接着剤が用いられてもよい。
以下、活性エネルギー線硬化性接着剤を用いた偏光板の製造方法の一例を説明する。偏光板は、(1)位相差フィルムの偏光子を接着する面を易接着処理する前処理工程、(2)偏光子と位相差フィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、下記の活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程、(3)得られた接着剤層を介して偏光子と位相差フィルムとを貼り合せる貼合工程、及び4)接着剤層を介して偏光子と位相差フィルムとが貼り合わされた状態で接着剤層を硬化させる硬化工程、を含む製造方法によって製造することができる。(1)の前処理工程は、必要に応じて実施すればよい。
(前処理工程)
前処理工程では、位相差フィルムの、偏光子との接着面に易接着処理を行う。偏光子の両面にそれぞれ位相差フィルムを接着させる場合は、それぞれの位相差フィルムの、偏光子との接着面に易接着処理を行う。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
(接着剤塗布工程)
接着剤塗布工程では、偏光子と位相差フィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、上記活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布する。偏光子又は位相差フィルムの表面に直接活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布する場合、その塗布方法に特別な限定はない。例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子と位相差フィルムの間に、活性エネルギー線硬化性接着剤を流延させた後、ローラー等で加圧して均一に押し広げる方法も利用できる。
(貼合工程)
こうして活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布した後、貼合工程に供される。この貼合工程では、例えば、先の塗布工程で偏光子の表面に活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布した場合、そこに位相差フィルムが重ね合わされる。先の塗布工程で位相差フィルムの表面に活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布した場合は、そこに偏光子が重ね合わされる。また、偏光子と位相差フィルムの間に活性エネルギー線硬化性接着剤を流延させた場合は、その状態で偏光子と位相差フィルムとが重ね合わされる。偏光子の両面に位相差フィルムを接着する場合であって、両面とも活性エネルギー線硬化性接着剤を用いる場合は、偏光子の両面にそれぞれ、活性エネルギー線硬化性接着剤を介して位相差フィルムが重ね合わされる。そして通常は、この状態で両面(偏光子の片面に位相差フィルムを重ね合わせた場合は、偏光子側と位相差フィルム側、また偏光子の両面に位相差フィルムを重ね合わせた場合は、その両面の位相差フィルム側)からローラー等で挟んで加圧することになる。ローラーの材質は、金属やゴム等を用いることが可能である。両面に配置されるローラーは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
(硬化工程)
硬化工程では、未硬化の活性エネルギー線硬化性接着剤に活性エネルギー線を照射して、エポキシ化合物やオキセタン化合物を含む接着剤層を硬化させる。それにより、活性エネルギー線硬化性接着剤を介して重ね合わせた偏光子と位相差フィルムとを接着させる。偏光子の片面に位相差フィルムを貼合する場合、活性エネルギー線は、偏光子側又は位相差フィルム側のいずれから照射してもよい。また、偏光子の両面に位相差フィルムを貼合する場合、偏光子の両面にそれぞれ活性エネルギー線硬化性接着剤を介して位相差フィルムを重ね合わせた状態で、いずれか一方の位相差フィルム側から活性エネルギー線を照射し、両面の活性エネルギー線硬化性接着剤を同時に硬化させるのが有利である。
活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、X線、電子線等を用いることができ、取扱いが容易で硬化速度も十分であることから、一般的には、電子線又は紫外線が好ましく用いられる。
電子線の照射条件は、前記接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。例えば、電子線照射は、加速電圧が好ましくは5〜300kVの範囲内であり、さらに好ましくは10〜250kVの範囲内である。加速電圧が5kV未満の場合、電子線が接着剤まで届かず硬化不足となるおそれがあり、加速電圧が300kVを超えると、試料を通る浸透力が強すぎて電子線が跳ね返り、位相差フィルムや偏光子にダメージを与えるおそれがある。照射線量としては、5〜100kGyの範囲内、さらに好ましくは10〜75kGyの範囲内である。照射線量が5kGy未満の場合は、接着剤が硬化不足となり、100kGyを超えると、位相差フィルムや偏光子にダメージを与え、機械的強度の低下や黄変を生じ、所定の光学特性を得ることができない。
紫外線の照射条件は、前記接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。紫外線の照射量は積算光量で50〜1500mJ/cm2の範囲内であることが好ましく、100〜500mJ/cm2の範囲内であるのがさらに好ましい。
以上のようにして得られた偏光板において、接着剤層の厚さは、特に限定されないが、通常0.01〜10μmの範囲内であり、好ましくは0.5〜5μmの範囲内である。
<液晶表示装置>
本発明の位相差フィルムを具備した偏光板は、種々の液晶表示装置に用いることができる。
液晶表示装置の場合は、TN(Twisted Nematic)方式、STN(Super Twisted Nematic)方式、IPS(In−Plane Switching)方式、OCB(Optically Compensated Birefringence)方式、VA(Vertical Alignment)方式(MVA;Multi−domain Vertical AlignmentやPVA;Patterned Vertical Alignmentも含む)、HAN(Hybrid Aligned Nematic)方式等に好ましく用いることができる。コントラストを高めるためには、VA(MVA、PVA)方式又はIPS方式が好ましい。
本発明の偏光板が用いられた液晶表示装置は、透湿度の低い位相差フィルムが用いられていることから、含水による液晶表示装置の色ムラが発生しづらい。
液晶表示装置のパネルに使用されるガラスは0.3〜0.7mmの厚さの範囲が好ましく、さらに、0.3〜0.5mmの範囲が好ましい。本発明の偏光板は湿度による寸法変化が小さいため、特に、ガラスの厚さが小さいときに、好ましく用いられる。
偏光板の本発明の位相差フィルム側の表面と、液晶セルの少なくとも一方の表面との貼合は、公知の手法により行われ得る。場合によっては、接着層を介して貼合されてもよい。
特に、本発明の位相差フィルムは、好ましくはリターデーション値として前記条件1又は条件2を満たしていることから、視野角を拡大する光学補償フィルム(位相差フィルムともいう。)として、VA(MVA,PVA)モード型の液晶表示装置又はIPSモード型液晶表示装置に好適に具備される。
これらの液晶表示装置に、本発明の位相差フィルムを含む偏光板を具備することで、30型以上の大画面の液晶表示装置であっても、視野角特性に優れ液晶表示装置のムラ等がない視認性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
<位相差フィルム1の作製>
〈微粒子分散液の調製〉
11.3質量部の微粒子(アエロジル R812 日本アエロジル(株)製)と、84質量部のエタノールとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散した。
〈微粒子添加液1の調製〉
溶解タンク中の十分撹拌されているメチレンクロライド(100質量部)に、5質量部の微粒子分散液を、ゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
(主ドープ1の調製)
下記組成の主ドープを調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルAを撹拌しながら投入し、これを加熱し、撹拌しながら完全に溶解した。
セルロースエステルA(セルロースジアセテート:アセチル基置換度2.3、数平均分子量(Mn)8万、表中DACと記載) 100質量部
β−ジケトン1(例示化合物A−17) 3質量部
微粒子添加液1 1質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 40質量部
更に上記添加剤成分を密閉容器に投入し、撹拌しながら溶解して、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ1を調製した。
(位相差フィルム1の製膜)
上記調製した主ドープ1を、ベルト流延装置を用い、温度22℃、1.5m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体上から剥離した。
次いで、剥離したドープ1のウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1.3m幅にスリットし、その後、110℃にてゾーン延伸で搬送方向(MD方向)に1.01倍、テンター延伸で幅手方向(TD方向)に元幅に対して1.3倍延伸しながら、135℃の乾燥温度で乾燥させた。この時、テンターによる延伸を開始したときの残留溶媒量は、8%であった。
テンターで延伸した後、130℃で5分間の緩和処理を施した後、120℃、140℃の乾燥ゾーンを多数のローラーで搬送させながら乾燥を終了させ、1.5m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm、高さ2.5μmのナーリング加工を施した後、コアに巻取り、本発明に係る位相差フィルム1を作製した。膜厚は40μm、巻長は4000mであった。
<位相差フィルム2の作製>
上記位相差フィルム1の作製において、主ドープ1を下記主ドープ2に変えた以外は同様にして、表2に記載の位相差フィルム2を作製した。
(主ドープ2の調製)
セルロースエステルA(セルロースジアセテート:アセチル基置換度2.3、数平均分子量(Mn)8万、表中DACと記載) 100質量部
β−ジケトン1(例示化合物A−17) 3質量部
可塑剤1:糖エステル(例示化合FA−7) 12質量部
微粒子添加液1 1質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 40質量部
<位相差フィルム3〜18の作製>
上記位相差フィルム2の作製において、β−ジケトンの種類と添加量、β−ジケトン以外の分子量が10000以下の化合物(表中、可塑剤と記載)の種類と添加量、及び添加剤の種類を表2記載のように変化させた以外は同様にして、位相差フィルム3〜18を作製した。
以下、実施例1に用いた化合物について、下記にまとめて示す。
β−ジケトン:β−ジケトンとしては下記化合物1〜7を使用
可塑剤1:糖エステル(例示化合物FA−7)
可塑剤2:下記ポリエステル(例示化合物FB−15)
〈ポリエステルの合成〉
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温した。15時間脱水縮合反応させ、反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、ポリエステルを得た。酸価0.10mg/g、分子量519であった。
可塑剤3:アクリル系化合物
〔アクリル系化合物の合成〕
撹拌機を備えた内容積40リットルのSUS製重合反応装置に、脱イオン水24リットルを入れ、分散安定助剤として硫酸ナトリウム36gを加え撹拌・溶解させた。また、別の撹拌機を備えた容器に、メタクリル酸メチル9600g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2400gの単量体混合物に、重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリル12g、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン24g、離型剤としてステアリルアルコール24gを加え撹拌・溶解させた。このようにして得られた重合開始剤、連鎖移動剤及び離形剤を溶解した単量体混合物を、上述した撹拌機を備えた内容積40リットルのSUS製重合反応装置(脱イオン水、分散安定剤及び分散安定助剤を収容する)に投入し、窒素置換しながら175rpmで15分間撹拌した。その後、80℃に加温して重合を開始させ、重合発熱ピーク終了後、115℃で10分間の熱処理を行い、重合を完結させた。得られたビーズ状重合体を濾過、水洗し、80℃で24hr乾燥し、メタクリル酸メチルと2−ヒドロキシエチルメタクリレートのアクリル系化合物を得た。GPCを用いて測定した重量平均分子量は8000であった。
可塑剤4:ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、分子量550
(重量平均分子量測定)
上記重量平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。
測定条件は以下のとおりである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500までの13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
(添加剤)
化合物a:水素結合性化合物 3−メチルサリチル酸、分子量150
化合物b:下記化合物 波長分散調整剤S
化合物c:紫外線吸収剤 Ti−928(BASFジャパン(株)製)
化合物d:下記化合物 リターデーション上昇剤R
化合物e:下記化合物 比較化合物P(特開2007−84692号公報記載化合物)
《位相差フィルムの評価》
上記作製した各位相差フィルムについて、下記の各特性値の測定及び評価を行った。
〔リターデーション値の測定〕
作製した位相差フィルムについて、温度23℃、相対湿度55%の環境下で、波長590nmで、自動複屈折計KOBRA−WPR(王子計測機器)を用いて下記式で表されるリターデーション値Ro、Rtを測定した。
具体的には、位相差フィルムを23℃、55%RHの環境下で、590nmの波長において10カ所で3次元の屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzの平均値を求めた後、下記式に従って面内方向のレターデーション値Ro、厚さ方向のレターデーション値Rtを算出した。
式(i):Ro=(nx−ny)×d
式(ii):Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
〔式(i)及び式(ii)において、nxは、フィルムの面内方向において屈折率が最大になる方向xにおける屈折率を表す。nyは、フィルムの面内方向において、前記方向xと直交する方向yにおける屈折率を表す。nzは、フィルムの厚さ方向zにおける屈折率を表す。dは、フィルムの厚さ(nm)を表す。〕
〔湿度変動によるリターデーション値の測定〕
位相差フィルムを23℃、20%RHにて5時間調湿した後、同環境で測定したRt値を測定しこれをRt20%とし、同じフィルムを続けて23℃、80%RHにて5時間調湿した後、同環境で測定したRt値を求めこれをRt80%とし、下記の式より変化量ΔRtを求めた。
ΔRt=|Rt20%(590)−Rt80%(590)|
更に調湿後の試料を再度23℃55%RHの環境にて測定を行い、この変動が可逆変動であることを確認した。
この値が小さい方が、湿度変動に対して安定であることを示す。
◎:ΔRtが0以上5未満
○:ΔRtが5以上10未満
△:ΔRtが10以上20未満
×:ΔRtが20以上
位相差フィルムの構成内容及び上記評価の結果を、下記表2に示す。
本発明の位相差フィルム1〜16は、比較例17及び18に対して、条件1のリターデーション値を満たす十分高いリターデーション値と、湿度変動による厚さ方向のリターデーション値の安定性を有していることが分かる。
また、β−ジケトン以外に、分子量が10000以下である化合物を添加した水準を添加しない水準と比較すると(例えば、位相差フィルム1と2の比較)、当該分子量が10000以下である化合物を添加することにより、更に湿度変動による厚さ方向のリターデーション値の安定性を向上することが分かる。
実施例2
<位相差フィルム19の作製>
実施例1の位相差フィルム2の作製において、下記の熱可塑性樹脂を用いて主ドープ3を調製して用いた以外は同様にして、表3に記載の位相差フィルム19を作製した。
(主ドープ3の調製)
セルロースエステルB(アセチル基置換度2.85である数平均分子量70000のセルローストリアセテート(表中TACと記載)) 100質量部
β−ジケトン2 3質量部
可塑剤1:糖エステル(例示化合FA−7) 12質量部
微粒子添加液1 1質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 40質量部
<位相差フィルム20〜26の作製>
位相差フィルム19の作製において、熱可塑性樹脂の種類を以下の樹脂に代え、β−ジケトンの添加有無を組み合わせた以外は同様にして、位相差フィルム20〜26を作製した。
〈熱可塑性樹脂の種類〉
セルロースエステルC:アセチル基置換度1.58、プロピオニル基置換度0.9、総アシル基置換度2.48、数平均分子量70000のセルロースアセテートプロピオネート(表中CAPと記載)
セルロースエーテル:数平均分子量70000のメチルセルロース(表中CEと記載)
ポリカーボネート:パンライト L−1225LM(帝人化成株式会社製)(表中PCと記載)
作製した位相差フィルム19〜26に実施例1で作製した位相差フィルム2を加えて、実施例1と同様な評価を実施し、表3に記載した。
表3の結果から、本発明の位相差フィルムは種々の熱可塑性樹脂を使用しても、β−ジケトンを含有することで、湿度変動による厚さ方向のリターデーション値の安定性が向上すること、またアシル基の置換度が低いセルロースジアセテートや、セルロースエーテルを使用すると、より湿度変動による厚さ方向のリターデーション値の安定性が向上することが分かる。
実施例3
《偏光板の作製》
〔偏光板1の作製〕
(偏光子の作製)
厚さ30μmのポリビニルアルコールフィルムを、35℃の水で膨潤させた。得られたフィルムを、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g及び水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、さらにヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5g及び水100gからなる45℃の水溶液に浸漬した。得られたフィルムを、延伸温度55℃、延伸倍率5倍の条件で一軸延伸した。この一軸延伸フィルムを、水洗した後、乾燥させて、厚さ10μmの偏光子を得た。
(活性エネルギー線硬化性接着剤液の調製:カチオン重合型、表中UVと記載)
下記の各成分を混合した後、脱泡して、活性エネルギー線硬化性接着剤液を調製した。なお、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートは、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、下記にはトリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートの固形分量を表示した。
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート 45質量部
エポリードGT−301(ダイセル化学社製の脂環式エポキシ樹脂) 40質量部
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル 15質量部
トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート 2.3質量部
9,10−ジブトキシアントラセン 0.1質量部
1,4−ジエトキシナフタレン 2.0質量部
(偏光板1の作製)
下記の方法に従って、偏光板1を作製した。
まず、保護フィルム1として、KC4UAフィルム(コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製)を準備し、上記調製した活性エネルギー線硬化性接着剤液を、マイクログラビアコーター(グラビアローラー:#300、回転速度140%/ライン速)を用いて、厚さ5μmになるように塗工して活性エネルギー線硬化性接着剤層aを形成した。
次いで、実施例1で作製した位相差フィルム1に、上記調製した活性エネルギー線硬化性接着剤液を、上記と同様に、厚さ5μmとなるように塗工して活性エネルギー線硬化性接着剤層bを形成した。
上記活性エネルギー線硬化性接着剤層a及びbの間に、上記作製したポリビニルアルコール−ヨウ素系の偏光子を配置し、ローラー機で貼合し、保護フィルム1/活性エネルギー線硬化性接着剤層/偏光子/活性エネルギー線硬化性接着剤層/位相差フィルム1が積層された積層物を得た。その際に、位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸が互いに直交になるようにローラー機で貼合した。
この積層物の両面側から、電子線を照射して、偏光板1を作製した。
ライン速度は20m/min、加速電圧は250kV、照射線量は20kGyとした。
〔偏光板2〜19の作製〕
偏光板1の作製において、位相差フィルム1を位相差フィルム2〜18に変更して偏光板2〜18を作製した。
更に上記位相差フィルム2とKC4UAフィルムの偏光子と接着する側を、アルカリケン化処理し、接着剤としてPVA水糊(表4中PVAと記載)を用いて偏光子と貼合して偏光板19を作製した。
《液晶表示装置の作製》
市販のVAモード型液晶表示装置(SONY製40型ディスプレイKLV−40J3000)を用い、液晶セルの両面に貼合されていた偏光板を剥離し、上記作製した偏光板1〜19を、液晶セルの両面に貼合して液晶表示装置1〜19を作製した。その際、位相差フィルム側を液晶セル側に貼合し、偏光板の吸収軸の向きはあらかじめ貼合されていた偏光板と同じ向きに調整した。
《偏光板及び液晶表示装置の評価》
上記作製した各偏光板及びそれを用いた各液晶表示装置について、下記の各評価を行った。
〔コーナームラ耐性の評価〕
各液晶表示装置を60℃、相対湿度90%の環境下で1500時間処理した後、25℃、相対湿度60%の環境下で20時間調湿後、バックライトを点灯させ、黒表示での光漏れを観察し、下記の基準に従って偏光板のコーナームラ耐性の評価を行った。
◎:周辺の光漏れは全く認められない
○:周辺の光漏れはほとんど気にならない
△:周辺の光漏れが認められる
×:周辺の光漏れが著しい
〔液晶表示装置の視野角変動の評価〕
25℃・50%RHの環境下に5時間置かれた液晶表示装置の視野角測定を行った。続いて、当該液晶表示装置を25℃・20%RHの環境下に5時間おき、液晶表示装置の視野角測定を行った。次に、当該液晶表示装置を23℃・80%RHの環境下に5時間おき、液晶表示装置の視野角を測定した。最後に当該液晶表示装置を、再度25℃・55%RHの環境下に5時間おき、液晶表示装置の視野角を測定し、前記測定の際の変化が可逆変動であることを確認した。これらの測定は、液晶表示装置を当該環境に5時間置いてから測定を行った。
なお、視野角測定は、液晶表示装置に白表示と黒表示の表示画面を点灯し、ELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて、コントラスト10:1を維持できる角度を視野角とした。
評価は◎及び○が、実用上問題ないレベルと判断した。
◎:視野角変動が認められない
○:視野角変動がやや認められる
×:視野角変動が認められる
上記評価の結果を、下記表4に示す。
表4より、本発明の位相差フィルム1〜16を用いた偏光板、液晶表示装置は、含水変動によるコーナームラ及び視野角変動に優れていることが明らかである。また、β−ジケトン以外に、分子量が10000以下である化合物を添加した水準を添加しない水準と比較すると(例えば、位相差フィルム1と2の比較)、当該分子量が10000以下である化合物を添加することにより、更に液晶表示装置の含水変動によるコーナームラ及び視野角変動が改善されることが分かる。
また、位相差フィルムと偏光子を貼合するに際し、PVA水糊を用いるよりも、活性エネルギー線硬化性接着剤を用いた方が、よりコーナームラ及び視野角変動が改善されることが分かる。
また、条件1のリターデーション値の範囲を満たす本発明の位相差フィルムを、偏光板として組み込んだVAモード型液晶表示装置は、斜め方向からの観察において光漏れがなく、優れた視野角特性を有していた。
実施例4
<位相差フィルム23の作製>
〈アクリル樹脂Aの合成〉
エチルヘキシルアクリレート(HEA)/メチルメタクリレート(MMA)=10/90のモル比で、特開2003−12859号公報記載の方法で、アクリル樹脂Aを合成した。
実施例1の位相差フィルム2の作製において、下記主ドープ4を調製して用いた以外は同様にして、表5に記載の位相差フィルム23を作製した。
(主ドープ4の調製)
セルロースエステルB(アセチル基置換度2.85である数平均分子量70000のセルローストリアセテート、表中TACと記載) 30質量部
アクリル樹脂A 70質量部
β−ジケトン1 3質量部
可塑剤2:エステル系化合物(例示化合物FB−15) 12質量部
微粒子添加液1 1質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 40質量部
上記調製した主ドープ4を、ベルト流延装置を用い、温度22℃、1.8m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体上から剥離した。
次いで、剥離した主ドープ4のウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1.6m幅にスリットし、その後、110℃にてゾーン延伸で搬送方向(MD方向)に1.01倍、テンター延伸で幅手方向(TD方向)に元幅に対して1.05倍延伸しながら、135℃の乾燥温度で乾燥させた。この時、テンターによる延伸を開始したときの残留溶媒量は、8%であった。
テンターで延伸した後、130℃で5分間の緩和処理を施した後、120℃、140℃の乾燥ゾーンを多数のローラーで搬送させながら乾燥を終了させ、1.5m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm、高さ2.5μmのナーリング加工を施した後、コアに巻取り、本発明に係る位相差フィルム23を作製した。膜厚は40μm、巻長は4000mであった。
<位相差フィルム24〜26の作製>
位相差フィルム23の作製において、β−ジケトンの種類、及び添加の有無を変化させた以外は同様にして、位相差フィルム24〜26を作製した。
作製した位相差フィルム23〜26を用いて、実施例3と同様にして、偏光板及び液晶表示装置を作製した。但し、液晶表示装置としては、IPSモード型の液晶セルを含む液晶表示装置「(株)東芝製レグザ 47ZG2」を用いて、予め貼合されていた表側(観察者側)の偏光板のみを剥がして、上記作製した偏光板23〜26をそれぞれ液晶セルのガラス面に貼合した。その際、位相差フィルム側を液晶セル側に貼合し、偏光板の貼合の向きは予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、液晶表示装置を各々作製した。
作製した偏光板及び液晶表示装置を用いて、実施例3と同様に、コーナームラ耐性及び液晶表示装置の視野角劣化の評価を行い、結果を表5に示した。
表5より、本発明のβ−ジケトンを含有する位相差フィルムが、条件2のリターデーション値を満たす位相差フィルムであると、IPSモード型液晶表示装置に組み込んだ場合でも、湿度に対する変動に優れた耐久性を有する液晶表示装置を提供できることが分かった。
また、条件2のリターデーション値の範囲を満たす本発明の位相差フィルムを、偏光板として組み込んだIPSモード型液晶表示装置は、斜め方向からの観察において光漏れがなく、優れた視野角特性を有していた。