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JP2012021212A - 電子供給体 - Google Patents

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JP2012021212A JP2010161879A JP2010161879A JP2012021212A JP 2012021212 A JP2012021212 A JP 2012021212A JP 2010161879 A JP2010161879 A JP 2010161879A JP 2010161879 A JP2010161879 A JP 2010161879A JP 2012021212 A JP2012021212 A JP 2012021212A
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康登 石川
Shiro Yamamoto
史郎 山本
Hirokazu Iizuka
宏和 飯塚
Jun Suzuki
潤 鈴木
Tsutomu Nakamura
中村  勉
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Abstract

【課題】電解液の漏れがなく、取り扱い性に優れ、安価な材料を用いて、製造も容易で、ITO等の透明導電膜が好ましくない場合であっても、十分な電子を供給可能な電子供給体を提供する。
【解決手段】固体化されたシート状の第1の電解質層13と、繊維基材および/またはフィルムからなる基材に炭素を主成分とする導電物質を塗布および/または含浸した導電性基材からなる導電層11と、電磁波により電子を生成する半導体層12と、電磁波を透過可能な固体化されたシート状の第2の電解質層14とをこの順序で有し、第2の電解質層14が、第1の電解質層13との間で接触または接近により電荷移動可能に形成された電子供給体10。
【選択図】図1

Description

本発明は、色素増感太陽電池、コンクリート中の鉄筋等の防食構造や光センサなどに利用可能な電子供給体に関する。
例えば、色素増感太陽電池(DSC)は、ヨウ素溶液に代表される電気化学的なセル構造を持つ太陽電池である。DSCは、透明なガラス板等に透明導電膜を積層した透明導電基板に色素を吸着させて形成したチタニア層等の半導体層からなる作用極と透明または不透明な導電性基板からなる対極の間にヨウ素溶液等の電解質溶液(電解液)を配置した簡易な構造を有する。
したがって、DSCは、材料が安価であり、作製に大掛かりな設備を必要としないとされ、低コストの太陽電池として期待されている。
ところが、DSCは、電解液を用いるので、電解液の漏れや短絡の問題がある。また、シリコン系の太陽電池に比べて光電変換効率が低く、さらなる向上が検討されている。
例えば、光電変換効率を少しでも上げるため、光入射側に作用極を設ける場合、作用極に用いられるITOやFTOの透明導電膜は抵抗値が高いので、これらに代えて、金属からなる導電層を用いることが検討されている。
特許文献1には、白金等の金属線からなる網状導電性体を芯部として備え、全体が多孔質酸化物半導体層で覆われた網状構造電極が提案されている。
また、特許文献2には、エキスパンドメタル等の金属網の片面に半導体微粒子層を積層した光電変換素子が提案されている。
また、近年、橋梁等のコンクリート中の鉄筋が錆びて、コンクリートが剥落することが問題となっている。この対策として、コンクリート表面に設置した電極から、コンクリート中の鉄筋等の鋼材に電流を流すことによって、鉄筋の電位を腐食しない電位まで低下させ、腐食の進行を抑制する電気防食が知られている。
従来、電気防食に用いられる電子供給体としては、一つは、商用電源などの外部電源があり、もう一つは、被防食体より酸化還元電位が卑である亜鉛、マグネシウム、アルミニウム等の卑金属やこれらの合金からなる流電陽極(犠牲陽極)がある。
しかし、外部電源は、チタンメッシュなどの補助電極の設置に手数がかかること、商用電源の確保が困難な場合があること、電源の維持管理が必要であること等の問題がある。また、流電陽極は、経時に伴い消耗するという問題がある。
この様な問題に対して、近年、チタン酸化物皮膜を電子供給体として利用した電気防食が提案されている。
例えば、特許文献3においては、金属板やプラスチックフィルムなどの支持体上に設けたチタン酸化物皮膜に光があたるときに生ずる電子を、導電線を通して防食対象金属に注入することにより、これを防食できるとされている。
そして、特許文献4においては、チタン酸化物被膜に光があたるときに生ずる電子を、導電性皮膜で集電して防食対象金属に注入することにより、これを防食できるとされている。
また、紫外光など特定波長域の光を測定するために、酸化チタンを用いた光センサも知られている。
例えば、特許文献5には、透明導電ガラスの導電面に酸化チタンを塗布して2光子吸収色素を吸着させた作用極と白金を蒸着した導電性ガラスからなる対極との間に電解質溶液を封入した光センサが提案されている。
そして、特許文献6には、陽極酸化処理したアルミ板の多孔質酸化アルミ皮膜に酸化チタンを蓄積させ、酸化チタン層を透明導電ガラスに設けた透明電極に接触させて、透明導電ガラスの透明電極に接触した作用極と、酸化アルミ皮膜からなる電荷移送層と、アルミ板とからなる光センサが提案されている。また、特許文献6には、透明導電ガラスの導電面側に酸化チタンを塗布した作用極と導電性ガラスからなる対極との間に電解質溶液を封入した構造の光センサが従来技術として記載されている。
特開2001−283944号公報 特開2007−73505号公報 特開2001−234370号公報 特開2001−262379号公報 特開2001−210857号公報 特開平11−220158号公報
しかしながら、導電層として金属網を用いる特許文献1や2のDSCの提案においては、電解質を溶液の状態で用いるので、表側の光が照射される酸化チタンに電解質を接触させることができるが、電解質を固体化すると金属網を回りこむことができないので、表側の光が照射される酸化チタンに接触させることはできない。そのため、電解質を溶液の状態で用いることを前提とせざるを得ない。
ところで、特許文献1や2の提案においては、液体電解質を高分子物質中に含有させたり、低分子ゲル化剤でゲル化されたりしてもよいとされている。しかし、電解液を金属網の表側に回り込ませて光が照射される酸化チタンに接触させる具体的な構成については一切開示がない。また、液体電解質を高分子物質中に含有さたり、低分子ゲル化剤でゲル化させるための方法についても詳細な開示がない。
電解質溶液を用いる場合は、電解質溶液の漏れの問題がある。また、導電層と対極とが短絡しやすく、特許文献1や2の提案においては、短絡防止用の絶縁層の設置が推奨されている。そして、絶縁層を設けない場合は、スペーサを設ける必要がある。
また、金属網や金属層の製造方法が煩雑であり、電解質溶液に対する耐食性が良好な金属は、高価なものが多く、製造コストが高くなるおそれがある。
特許文献1においては、金属網を酸化チタン層に完全に埋設して設ける態様が図示される。この態様は、固体化した電解質を用いた場合であっても、金属網裏側の酸化チタンが電解質に接触するので、光電変換は可能と推定される。しかし、光の当たらない酸化チタンは実質的に絶縁体であるから、電解質が大量に酸化チタン層にしみ込まない限り、表側の光が照射される酸化チタンは、有効に生かされない。したがって、金属網裏側の酸化チタンが無駄になるのみならず、特許文献2の実施例1と比較例2によって示されるように、金属網裏側の酸化チタンがイオンの透過を妨げ、むしろ、光電変換効率が低下する場合がある。
それ故、特許文献1の提案は、裏側の酸化チタン層に反射光を照射するために、複数枚の網状構造電極を用いる。そして、複数枚の網状構造電極に電解質を接触させるためには、電解質を溶液の状態で用いる必要があり、電解質を固体化することは不可能である。
また、電気防食の電子供給体における特許文献3や4の方法や装置は、導電線や導電性皮膜を用いるので、コンクリートに埋設された鉄筋などの金属に電子を注入することは可能に見える。
しかし、特許文献3や4に示される防食回路は、チタン酸化物被膜−導電線−被防食体という回路構成である。この回路は通常の外部電源方式の防食回路のように補助陽極により閉じられた回路ではない。このような片側のみの回路構成では、チタン酸化物が電子を放出する際に生じる正電荷をイオン導電性で被防食体に輸送し、被防食体の電子によって還元する、外部電源方式における補助陽極のような手段がないから、チタン酸化物被膜で生成した電子による電流を得られないので、被防食体の電位を卑にすることはできない。
また、光センサにおける特許文献5、6の発明や特許文献6の従来技術は、DSCの作動原理を応用するものであり、DSCと同様な問題を有する。特に特許文献6の従来技術は、電解質溶液にまつわる上記の問題点を有する。この様な問題に対して、光センサにおいては、固体の電荷移動層を用いることもできる。しかし、透明なガラス板等に透明導電膜を積層した透明導電基板も用いるので、高い光電変換効率は期待できない。したがって、高い感度が必要な場合に問題となることがある。なお、電解質の代わりに芳香族アミン類などの有機正孔輸送層、ポリアニリンなどの導電性高分子層やp型無機化合物半導体等の電荷移動層を用いた場合は、半導体層との接触が悪くなるので、さらに光電変換効率が低下する。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電解液の漏れがなく、取り扱い性に優れ、安価な材料を用いて、製造も容易で、ITO等の透明導電膜が好ましくない場合であっても、十分な電子を供給可能な電子供給体を提供することを課題とする。
本発明の発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、作用極として電磁波により半導体から放出された電子を集電するに際して、繊維基材やフィルムに炭素を主成分とする導電物質を塗布および/または含浸した導電性基材からなる導電層を用いて集電し、対極に電子を供給するとともに、イオン導電性による電荷の移動として半導体層から電荷を輸送するために固体化した電解質層を備えることを着想したのである。そして、これにより電解液の漏れがなく、対極との短絡もなく、取り扱い性に優れ、安価な材料を用いて、製造も容易で、ITO等の透明導電膜が好ましくない場合であっても、十分な電子を供給可能な電子供給体を提供できるとの知見を得て、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、固体化されたシート状の第1の電解質層と、繊維基材および/またはフィルムからなる基材に炭素を主成分とする導電物質を塗布および/または含浸した導電性基材からなる導電層と、電磁波により電子を生成する半導体層と、電磁波を透過可能な固体化されたシート状の第2の電解質層とをこの順序で有し、前記第2の電解質層が、前記第1の電解質層との間で接触または接近により電荷移動可能に形成されたことを特徴とする電子供給体を提供する。
本発明においては、前記導電層が織布または不織布からなる繊維基材であり、繊維の隙間のイオン透過性により、第1の電解質層と第2の電解質層との間で電荷移動可能とされることが好ましい。
また、前記導電層にイオンが透過可能な複数の孔が形成されて、第1の電解質層と第2の電解質層との間で電荷移動可能とされることが好ましい。
第1および第2の電解質層の両方が親水性の樹脂マトリックス内に少なくとも水を保持している含水ゲルに電解質塩を含ませた導電性ハイドロゲルであることが好ましい。
また、第1の電解質層および第2の電解質層の周縁部の少なくとも一部が前記導電層および前記半導体層の周囲から延出され、それぞれの周縁部同士が接触して、これらの電解質層同士の間で電解質が移動可能な接触部が形成されていることが好ましい。
前記導電層には、第1の電解質層と第2の電解質層との間で電荷移動可能とされていることが好ましい。
さらに前記半導体層または第2の電解質層の上に、電磁波を透過可能な保護層が配置されていることが好ましい。
また、前記保護層または前記保護層と第2の電解質層の両方が、少なくとも340nm〜500nmの波長を有する電磁波を透過可能であることが好ましい。
また、前記半導体層が、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化スズから選ばれる一種または二種以上の金属酸化物を含有する層であることが好ましい。
前記電子供給体が電気防食構造、色素増感太陽電池または光センサに用いられるものであることが好ましい。
請求項1の発明によれば、作用極として電磁波により半導体層で生成された電子を集電するに際して、基材に炭素を主成分とする導電物質を塗布および/または含浸した導電性基材からなる導電層を用いたので、白金や金等の貴金属を導電物質に用いる場合に比べると安価であり、亜鉛等の卑金属を導電物質に用いる場合に比べると化学的安定性に優れ、回路に組み込んだ際の電流の発生に伴う経時的な腐食に対する耐久性が高い。また、これらの材料は、汎用の塗工装置で塗布および/または含浸することができるので、製造も容易である。したがって、安価な材料でありながら、導電性に優れ、電解質溶液に対する耐食性が高い。
また、第1の電解質層と第2の電解質層とを備えることで、半導体が電子を放出する際に生じる正電荷をイオン導電性で回路の対極や防食構造の被防食体に効率よく輸送することができる。これにより電子が供給された対極や被防食体で還元されるので、確実に電流を得ることができる。
そして、いずれの電解質層も固体化されているので、電解液の漏れがなく、例えば、色素増感太陽電池や光センサの対極や被防食体に直接積層することができ、対極との短絡もない。
したがって、取り扱い性に優れ、製造も容易で、ITO等の透明導電膜を用いない構成とすることもできるので、光電変換効率、コストおよび耐久性に優れた電子供給体を提供することができる。
請求項2の発明によれば、導電層の厚みおよび繊維同士の微小な隙間を容易に調整することができるので、導電層のイオン透過性を容易に制御することができる。
また、単位体積あたりの表面積の大きな導電層を構成することができるので、導電性を容易に制御することができる。
請求項3の発明によれば、導電層に設けられた孔により第1の電解質層と第2の電解質層との間で電荷の移動が可能となるので、半導体層と大きな面積で接触する第2の電解質層により半導体層から効率よく電荷を輸送させることができる。
請求項4の発明によれば、導電性ハイドロゲルは、容易に柔軟性と接着性を付与することができるので、第1および第2の電解質層を導電層や半導体層に密着性よく接着させることができる。また、電子供給体を必要とする回路の対極や電子供給体を防食構造に用いた場合にコンクリート層等に密着性よく接着させることができる。
請求項5の発明によれば、電解質層の周縁部同士の接触部を介して電荷が第1の電解質層と第2の電解質層との間で移動可能になり、半導体層と接触面積の大きい第2の電解質層を介して電荷を半導体層から効率よく移動させることができる。
請求項6の発明によれば、半導体層や第2の電解質層が風雨などに曝されて、破損したり、汚れが付着したりすることを抑制して、電子供給体の性能をより長期間にわたり維持することができる。また、第2の電解質層が導電性のハイドロゲルである場合に、ハイドロゲルの乾燥や膨潤を防止することができる。
請求項7の発明によれば、半導体層を形成する半導体として、酸化チタンまたは増感処理した酸化チタンを用いた場合に、太陽光線などに含まれる短波長の光線を有効に利用することができる。
請求項8の発明によれば、電磁波の入射が弱くても電子を大量に放出して回路に供給することができる。
本発明の電子供給体の第1形態例を模式的に示す断面図である。 本発明の電子供給体の第2形態例を模式的に示す断面図である。 本発明の電子供給体の第3形態例を模式的に示す断面図である。 電子供給体の比較例1としての第4形態例を模式的に示す断面図である。 本発明の電子供給体を電気防食の作用極として用いた防食構造の一例を模式的に示す断面図である。 本発明の電子供給体を電気防食の作用極として用いた防食構造の別の一例を模式的に示す断面図である。 (a)及び(b)は、孔の一例を模式的に示す断面図である。 (a)及び(b)は、孔の一例を模式的に示す平面図である。 電子供給体の実施例1〜3および比較例1におけるI−V曲線を示すグラフである。 電子供給体の比較例2の構成を模式的に示す断面図である。 電子供給体の比較例3の構成を模式的に示す断面図である。 本発明の実施例4〜7の電子供給体を用いた防食構造の試験方法を示す模式的断面図である。 本発明の電子供給体の実施例4を用いた防食構造の鉄筋電位の試験結果の一例を示すグラフである。 本発明の電子供給体の実施例5を用いた防食構造の鉄筋電位の試験結果の一例を示すグラフである。 本発明の電子供給体の実施例6を用いた防食構造の鉄筋電位の試験結果の一例を示すグラフである。 本発明の電子供給体の実施例7を用いた防食構造の鉄筋電位の試験結果の一例を示すグラフである。 本発明の電子供給体の実施例4を用いた防食構造の発生電流密度の試験結果の一例を示すグラフである。 本発明の電子供給体の実施例5を用いた防食構造の発生電流密度の試験結果の一例を示すグラフである。 本発明の電子供給体の実施例6を用いた防食構造の発生電流密度の試験結果の一例を示すグラフである。 本発明の電子供給体の実施例7を用いた防食構造の発生電流密度の試験結果の一例を示すグラフである。
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に本発明の電子供給体の第1形態例としての電子供給体10を、図5にこの電子供給体10を電気防食の作用極として用いた防食構造20の一例をそれぞれ模式的に示す。詳しくは後述するが、本発明の電子供給体は、電子の放出に伴い生成した半導体層12の正の電荷を、対極となる被防食体22にイオン導電性で移送して、電子供給体10から供給された被防食体22の電子で還元するための電荷移動手段を、電子供給体自身に形成したものである。
なお、イオン導電性とは、イオンにより通電することであり、イオンが拡散等で移動して電荷が輸送される場合と、電位勾配等で電荷がイオン間を移動する場合とを含む。
本形態例の電子供給体10は、電子を集電する導電層11を有する。この導電層11の一面には、電磁波により電子を放出する半導体層12が形成されている。導電層11は、半導体層12と密着しているため、半導体層12で発生させた電子を導電層11に効率よく受け渡すことが可能である。半導体層12と導電層11の密着は、半導体層12の全面が導電層11に密着していることが好ましいので、導電層11は、半導体層12と同じか広いことが好ましい。また、詳細は後述するが、導電層11の半導体層が密着していない部分は、電子の取り出し電極として利用できる。
また、導電層11の他面には、固体中に電解質を有する第1の電解質層13が層状に形成されている。
第1の電解質層13は、電子を放出した半導体から第2の電解質層14が受け取る正の電荷を、コンクリート層等の表面層21のイオン導電性により被防食体22に輸送する。そして、輸送された正の電荷は、電子供給体10から被防食体22に供給された電子により還元される。つまり、第1の電解質層13は、表面層21を介して正の電荷を被防食体22に輸送する補助陽極の役目を担う。
また、被防食体22の表面層21に電子供給体10を固定する役目も担う。
したがって、第1の電解質層13は、導電層11と同程度もしくはそれより広いことが好ましく、粘着性または接着性(以下、「粘着」と「接着」を区別することなく「接着」と呼ぶことがある。)を有し、凹凸への追従性に優れた導電性ハイドロゲルからなることが好ましい。電子供給体10を固定する観点からは、第1の電解質層13は、凹凸への追従性に優れた導電性ハイドロゲルからなることが好ましい。
さらに半導体層12の上には、固体中に電解質を有する第2の電解質層14が層状に形成されている。第2の電解質層14は、電子を放出した半導体の正の電荷を受け取る役目を担う。第2の電解質層14は、半導体層12への電磁波の入射を妨げることがないように、電磁波を透過可能とされている。半導体層12を形成する半導体として、酸化チタンまたは増感処理した酸化チタンを用いた場合に、短波長の光線を有効に利用するために、第2の電解質層14は、少なくとも340nm〜500nmの波長域の電磁波を透過可能なことが好ましい。
第2の電解質層14は、半導体層12と同程度もしくはそれより広いことが好ましく、凹凸への追従性に優れた導電性ハイドロゲルからなることが好ましい。
本形態例の電子供給体10は、例えば図5に示す防食構造20のように、導電層11を被防食体22に回路配線23を介して接続するとともに、第1の電解質層13を表面層21に貼着し、イオン導電性で電気的に接続して防食回路を形成する。
この防食回路は、半導体層12で生成した電子を導電層11で集電して被防食体22に供給する。一方、この防食回路は、電子の放出に伴い半導体層12に生じた正の電荷を、第1の電解質層13と第2の電解質層14のイオン導電性およびコンクリート層21のイオン導電性で被防食体22に移動して、被防食体22の電子により還元する。
つまり、図5の防食構造20は、半導体層12−導電層11−回路配線23−被防食体22という電子による電荷の移動経路と、半導体層12−第2の電解質層14−第1の電解質層13−コンクリート層21−被防食体22というイオン導電性による電荷の移動経路とからなる。
そして、被防食体22で電子によって還元されるので、電気的に接続した閉鎖回路となる。これにより、半導体層12の電子生成量が小さい場合であっても、被防食体22に電流を流して電位を卑にすることができる。
本形態例の電子供給体10は、電磁波が入射する場所に設置される。その様な場所としては、日光等が直射する場所でも良いが、本発明においては、少ない電子の発生でも高い防食効果が得られるので、構造物の日の当たらない壁面や橋梁の下面などの日陰にも設置することができる。特に高架道路や橋梁の下面は、直接雨があたらないので、電解質層13,14が膨潤したり、電解質が溶出したりすることがないので好ましい。
なお、電子供給体10を水中や間歇的に被水する場所などに設置する場合には、図6に示すように電子供給体10の受光面に保護層17を設け、周辺端部をフッ素系、エポキシ系やアクリル系等の耐候性に優れる不透水性の樹脂層で覆って半導体層12や電解質層13,14に水が浸入しないように防水処理を施しておくことが好ましい。この様に防水処理を施しておくことにより、海水に触れる金属において最も腐食が激しいといわれる海水と空気の境界付近に電子供給体10を貼着しておくことで防食が可能となる。また、同様な環境にあるコンクリート製の構造物中の鉄筋等についても同様に防食が可能となる。
回路配線23を構成する導体は、通常の銅やアルミニウム等の金属導体を用いることができる。回路配線23は、保護および絶縁のために、金属導体に合成樹脂やエナメル等で被覆することが好ましい。回路配線23は、予め電子供給体10に固着されていても良いし、施工現場で電子供給体10に固着しても良い。施工現場で固着する方法は、施工現場の状況に合わせやすいので好ましい。
また、電子供給体10は、比較的薄いフィルム、シート、板等の形状なので、複数を保管したり、輸送したりする場合には、枚葉で重畳されても良いし、長尺の状態でロールに巻き取られていても良い。
以下、本形態例の電子供給体10を構成する主要部材について詳しく説明する。
≪導電層11≫
導電層11は、電磁波により半導体層12で生成された電子を集電する導電性の層である。導電層11は、導電性であれば、金属箔、導電性高分子層、炭素や金属または金属酸化物等の導電性物質の薄膜を塗布や蒸着等により積層したフィルムなどのイオン不透過性の層、織布、不織布、編布、紙などの繊維基材を薄膜に成形したイオン透過性の導電性繊維基材層のいずれも使用可能である。
これらのうち、金属箔は、導電性に優れるので好ましいが、電解質溶液(電解液)で腐食する場合があるので、金、白金やチタンを用いる必要があり、コスト的に不利である。また、導電性高分子層は、高い導電性を得ることが難しいという欠点がある。したがって、導電層11は、ペースト状の導電性物質を基材に塗布および/または含浸した層とすると、導電性およびコスト的に有利なので好ましい。
ここで、塗布とは導電物質を主に基材の表面に付着させることであり、含浸とは導電物質を基材の表面に付着させ、かつ内部に浸透させることであるが、本明細書においては、特に厳密に区別して解釈する必要はない。要は、基材に導電物質が少なくともその表面に実用上十分な程度に剥離しにくく付着していれば良いのであり、必ずしも導電物質が基材内部にまで浸透していなくても良い。しかしながら、繊維基材の場合は、導電層11の導電性が高くなるので、導電物質が基材の内部にも浸透していることが好ましい。以下、含浸することを含めて「塗布」と表現する場合がある。
導電物質の塗布に用いる基材が繊維基材であると、導電物質を塗布するに際し、繊維間に微小な隙間が形成されるように塗布して導電層11をイオン透過性の導電性繊維基材とすることができる。これにより、電子の生成に伴い半導体層で生じる正の電荷を受け取る第2の電解質層14と第1の電解質層13とがイオン導電性で導通するので、半導体層12から効率よく正の電荷を移動させることができる。
導電層11を導電性繊維基材とすると、繊維基材表面の凹凸により半導体層12や第1の電解質層13との接触面積が大きくなるので好ましい。そして、第1の電解質層13に粘着性を有し、柔軟で凹凸への追従性に優れた導電性ハイドロゲルからなる電解質層を用いる場合に、導電性ハイドロゲルの一部が繊維基材の隙間に浸入し、密着性が増大して、正の電荷を被防食体22へ効率よく移動させることができる。
また、導電性繊維基材は、単位体積あたりの表面積を大きくして導電性を高くすることができるので、導電性とイオン透過性の制御が容易である。
導電性繊維基材を構成する繊維基材としては、ガラス繊維、動物性繊維、植物性繊維、ポリエステル(PET)やポリアミドなどの合成繊維等の導電性を有しない繊維を織布、不織布、編布、紙などの薄膜に加工した繊維基材に導電性を付与したものでもよく、銅やニッケル等の金属繊維や炭素繊維等の導電性繊維を織布、不織布、編布、紙などの薄膜に加工した繊維基材でもよい。
金属繊維からなる繊維基材は、導電性に優れるが、電解質溶液や電流の発生に伴い経時的に腐食する場合がある。このような場合は、導体からなる繊維基材であっても、例えば炭素系などの耐食性に優れる導電物質を塗布することが好ましい。この場合は、繊維基材全体が導電性となるので高い導電性が期待できる。
これらの繊維基材のうち、織布は、導電物質を平滑に塗布することができるので、導電層11の上に半導体層12を形成することが容易となり好ましい。この観点からは、平滑性に優れるPETやポリアミドなどからなるタフタが好ましい。
また、不織布は、導電層11の厚みおよび繊維の微小な隙間を容易に調整することができ、イオン透過性と導電性とを容易に制御することができるので好ましい。
不織布の製造方法としては、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等で製造されたフリースを、サーマルボンド法やスパンレース法等の公知の方法により、結合させる方法を挙げることができる。
導電性繊維基材からなる導電層11の厚さは、導電性が確保される限り制限はないが、通常は、20μm〜200μm程度とすることが好ましい。この範囲より薄いと導電性や物理的強度が不足する場合がある。また、厚いとイオン透過性が低下する場合がある。
導電層11は、フィルムに導電物質を塗布および/または含浸した導電性基材からなるものであってもよい。
導電物質の塗布に用いる基材がフィルムであると、導電物質を塗布するに際し均一に精度よく塗布できるので好ましい。また、導電物質がフィルムの裏側に透過しないので、汎用の簡易な塗工装置で塗布することができる。しかし、基材がフィルムであると、導電物質を厚く塗布することが難しい場合がある。そのような場合は、フィルムの両面に導電性物質を塗布してもよい。この場合、フィルムを多孔性としたり、表裏を導電テープで接続したりして、表裏の導電物質層を導通させることが好ましい。また、繊維基材を導電物質層中に埋設したり、導電物質に短繊維を配合したりして、導電物質層を補強してもよい。
導電層11に用いられるフィルムの厚さは、物理的強度が確保される限り制限はないが、通常は、10μm〜100μm程度とすることができる。
導電層11に用いられるフィルムとしては、特に制限はなく、金属箔であってもよいが、耐食性に優れるので、合成樹脂からなるフィルムが好ましい。フィルムを形成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂:アクリル系樹脂;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂、テトラアセチルセルロース(TAC);ポリエステルスルフォン(PES);ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリカーボネート(PC);ポリアリレート(PAr);ポリスルフォン(PSF);ポリエーテルイミド(PEI);ポリアセタール;ポリイミド系ポリマー;ポリエーテルサルフォンなどを挙げることができる。
基材に塗布する導電物質は、ニッケル、亜鉛や銅等の金属粉なども使用可能であるが、安価でかつ電解質溶液に対する耐久性(耐食性)に優れることから、炭素を主成分とする炭素系材料が好ましい。炭素系材料のうち、導電性カーボンを主成分とするものがより好ましい。なお、「主成分とする」とは、構成比が50%以上であることを意味し、100%であってもよい。
導電性カーボンとしては、例えば、グラファイト;ケッチェンブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等の各種のカーボンブラック;カーボンナノチューブ等を用いることができる。これらのうち、導電性が高いことから、グラファイト、ケッチェンブラックおよびカーボンナノチューブが好ましく、安価で高い導電性を有するグラファイトが特に好ましい。
導電物質として、炭素系材料を用いることにより、白金や金等の貴金属を導電物質に用いる場合に比べると安価であり、ニッケルや亜鉛等の卑金属を導電物質に用いる場合に比べると化学的安定性に優れ、電解質溶液や電流の発生に伴う経時的な腐食に対する耐久性を高くすることができる。
導電物質を繊維基材やフィルムに塗布する方法としては、例えば、導電物質の粉末や短繊維等を有機溶媒等に分散させてペースト状にし、得られた導電ペーストを、例えば、グラビアコート、バーコート、スクリーンコート等のコート方法等により、塗布した後に乾燥させる方法が挙げられる。導電ペーストには、導電物質の分散性向上のため、分散剤等の添加物を配合しても良い。
導電層11の導電性を高めるために導電物質の塗布量を大きくすると、繊維基材の微小な隙間が導電物質により目詰まりすることがある。あるいは、フィルム基材に導電物質を塗布して、かつイオン透過性を付与したい場合がある。その様な場合には、図7および図8に示すような複数の孔18を設けて、イオン透過性を確保することが好ましい。孔18が形成されているとイオンを水平方向に拡散させる第2の電解質層14の機能が有効に発揮され、第1の電解質層13への電荷移動が円滑となる。
図7(a)は、孔18が導電層11を貫通して半導体層12の裏面に接触している例を示し、図7(b)は、孔18が導電層11と半導体層12との両方を貫通している例を示す。
図7(a)の場合は、半導体層12に孔18が形成されておらず、孔18の天面に半導体層12との接触部18aが形成されるので、第2の電解質層14から第1の電解質層13への電荷の移動は、半導体層12のイオン透過性に依存する。また、この場合、第1の電解質層13と半導体層12との間でも電荷の移動が円滑となる。この態様は、導電層11に穿孔を施した後、半導体層12を形成する場合に好ましい。また、第1の電解質層13が直接半導体層12に接触するので、第2の電解質層14が存在しない場合(図4参照)にも好ましい。
図7(b)の場合は、孔18の内部で第1の電解質層13と第2の電解質層14との接触部18bが形成され、半導体層12に孔18が形成されているので、第1の電解質層13と第2の電解質層14が直接接触して電荷移動可能となる。この場合も、第1の電解質層13と半導体層12との間でも電荷が直接移動可能である。この態様は、半導体層12を形成した後、導電層11に穿孔を施す場合に好ましい。
孔18の内径は、イオンの透過が可能であれば小さくても良いが、孔18の内部に電解質層13,14の一部が入り込み、これらが直接接触することが好ましいので、例えば0.3〜10mm程度の大きさとし、また、導電層11の厚みが大きい場合には、孔18の径も相対的に大きくすることが好ましい。
なお、電解質層13,14が電解液(電解質溶液)を含有する導電性ハイドロゲルである場合には、導電性ハイドロゲルからしみ出た電解液が孔18内に満たされれば電荷の移動が可能になるので、必ずしも第1の電解質層13は、孔18において半導体層12や第2の電解質層14と直接接触する必要はない。
図8は、孔18が形成された導電層11の平面図を示し、図8(a)は孔18が導電層11の辺に垂直または平行に並んでいる例、図8(b)は孔18が導電層11の辺に斜交して並んでいる例である。孔18の配列は不規則でも構わないが、近接する孔18が三角形、正方形、長方形、菱形、六角形などの多角形を構成して、規則的配列を成している場合には、孔18を通じて電荷がより均等に移動するので好ましい。
孔18の形成には、パンチ打ち抜き、レーザー光線、熱針や冷針を用いた穿孔など公知の方法を採用することができる。パンチやレーザー光線による打ち抜き穿孔は、熱針や冷針を用いた穿孔に比べて比較的径の大きな孔が得られ、第1の電解質層13が半導体層12や第2の電解質層14と直接接触しやすくなる。冷針を用いた穿孔は、孔18の周囲が不規則に裂開された状態となり、明確な開孔となりにくいが、導電性ハイドロゲルを用いた場合は、裂開した隙間からイオンの透過が可能である。レーザー光線や熱針を用いた溶融穿孔は、孔18の周縁が溶融固化して明確な開孔となり、高い密度で孔18を設けても比較的導電層11の強度低下が小さい。
孔18の形状は、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、正方形、長方形、多角形、不定形、その他任意の形状とすることができる。
孔18は、必ずしも周縁の全周が導電層11で囲まれた独立孔である必要はなく、周縁の一部が開放された切り欠き部や単なる溝であっても良い。溝の形状を採用する場合は、導電層11で集電した電子を、銅やアルミニウム等の導体で集電する際に、溝で分断された導電層11を接続することが好ましい。
この様な孔18の形成は、導電層11として金属箔、導電性高分子層や導電性物質の薄膜層を積層したフィルムを用いた場合において、イオン透過性を付与する場合にも好ましく適用できる。
≪半導体層12≫
半導体層12は、電磁波を受けて電子を放出する層である。
半導体層12を形成する半導体の材料としては、電磁波を受けて電子を放出させることができれば、特に制限はなく、例えば、シリコン、ゲルマニウムのような単体半導体や金属の酸化物及び金属カルコゲニド(例えば硫化物、セレン化物など)に代表されるいわゆる化合物半導体又はチタン酸ストロンチウムなどのペロブスカイト構造を有する化合物などを使用することができる。
これら酸化物およびカルコゲニドの金属としては、例えばチタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ又はタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン又はビスマスの硫化物、カドミウム又は鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物などが挙げられる。
また、化合物半導体の例としては、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウムなどのリン化物、ガリウムヒ素、銅−インジウムのセレン化物、銅−インジウム−硫化物などが挙げられる。半導体には、電荷の移動に関わるキャリアが電子であるn型とキャリアが正孔であるp型が存在するが、本発明においてはn型を用いることが好ましい。
このようなn型の無機半導体としては、TiO、TiSrO、ZnO、Nb、SnO、WO、Si、CdS、CdSe、V、ZnS、ZnSe、SnSe、KTa、FeS、PbS、InP、GaAs、CuInS、CuInSeなどがある。これらの半導体のうち、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)が好ましい。
これらの半導体のうち、酸化チタンは、電磁波を受けて電子を放出する能力に優れるので、さらに好ましい。酸化チタンのうち、アナターゼ型酸化チタンまたはブルッカイト型酸化チタンは電磁波を受けて電子を放出する能力が優れるので好ましく、アナターゼ型酸化チタンは汎用性にも優れるので特に好ましい。これらの半導体は、単独で用いてもよいし、必要に応じ2種以上を混合して用いてもよい。なお、アナターゼ型酸化チタンやブルッカイト型酸化チタンは、天然鉱物としてのアナターゼやブルッカイトに限らず、人工的に合成されたものであっても良い。
半導体層12は、第1の電解質層13や第2の電解質層14の電解質溶液と接触するので、半導体微粒子からなる多孔質膜であると接触面積が大きくなり好ましい。半導体微粒子の粒径は、投影面積を円に換算したときの直径から求めた一次粒子の平均粒径が5〜200nmであるものが好ましい。
半導体層12の形成方法は、半導体微粒子の分散液またはコロイド溶液を導電層11上に塗布する塗工法、チタンアルコキシドを用いるゾル−ゲル法、チタン塩化物を加水分解する方法等の公知の方法を採用することができる。これらのうち、生産効率の観点から、塗工法が好ましい。塗工法としては、例えば、グラビアコート、バーコート、スクリーンコート等のコート方法を挙げることができる。
半導体層12は、半導体を増感するために、増感色素などの増感剤を用いることができる。増感色素としては、例えば有機金属錯体色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、メチン系色素等を挙げることができる。これらの色素は、波長域の拡大、特定波長域への制御などの目的で用いられる。これらの色素は、単独で用いてもよいし、必要に応じ2種以上を混合して用いてもよい。
≪電解質層13,14≫
電解質層13,14は、イオン導電性のための電解質塩を有するシート状に固体化された電荷移動層である。電解質層13,14中には正負のイオンが含まれ、これらのイオンが移動したり、これらのイオン間を電荷が移動したりすることにより、回路が電気的に接続される。したがって、逆電流の発生を防止ないし抑制することができる。電解質層13,14は、異なる電解質塩を有していてもよいが、同一の電解質塩を有すると、イオンの移動が円滑となるので好ましい。
電解質層13,14に用いることのできる主な電解質の種類としては、電解液を樹脂マトリクッスに保持させたゲル電解質、溶融塩電解質、ジルコニア等を用いた固体電解質等を挙げることができる。電解質層13,14は、異なる種類の電解質層であってもよいが、同一の電解質層であると、電荷の移動が円滑となるので好ましい。
これらのうち、ゲル電解質は、柔軟性に富むので好ましい。ゲル電解質は、ポリマー添加、オイルゲル化剤添加、多官能モノマー類を含む重合、ポリマーの架橋反応等により電解質をゲル化(固体化)させたものである。
ゲル電解質のうち親水性の樹脂マトリックス内に水と電解質塩を保持させた導電性の含水ゲル(導電性ハイドロゲル)であると、電荷の移動速度が速く、柔軟性と粘着性とを容易に付与することができるのでより好ましい。
第1の電解質層13は、被防食体22の表面に存在するイオン透過性の表面層21に電子供給体10を接着させるとともに、第2の電解質層14を介して半導体層12から被防食体22に電荷を移送する層である。第1の電解質層13が柔軟な粘着剤層となる導電性ハイドロゲルであると、電子供給体10を被防食体22の表面層、例えばコンクリート層21に貼着する場合に、コンクリート層21の微小な凹凸に電解質層の一部が入り込んで、高い接着強度と広い接触面積で電解質層が接触して接着させることができるので好ましい。第1の電解質層13は、透明であっても不透明であってもよい。
また、第1の電解質層13に用いる導電性ハイドロゲルは、樹脂マトリックスを有するので、電子供給体10を被防食体となる金属の表面に直接接着させても、導電層11が金属に接触しないので、短絡することがない。短絡防止の観点からは、第1の電解質層13に用いる導電性ハイドロゲルの厚さを100μm〜1000μmとすることが好ましい。さらに、導電性ハイドロゲル中に織布や不織布などの補強材を入れてもよい。
そして、導電性ハイドロゲルは、保水性を有しているので、コンクリート層21の乾燥度合いが高くなってコンクリート層21中の電荷が移動しにくくなることを防止する機能も有する。
第2の電解質層14は、半導体層12に積層され、半導体層12から電荷をイオン導電性で移動させる層である。第2の電解質層14が柔軟な粘着剤層となる導電性ハイドロゲルであると、半導体層12に積層する場合に、半導体層12の微小な凹凸に第2の電解質層14の一部が入り込んで、高い接着強度と広い接触面積で第2の電解質層14が接触して接着させることができるので好ましい。また、第2の電解質層14の半導体層12に積層される面の反対面に後述する保護層17を接着させることができるので好ましい。
第1の電解質層13および第2の電解質層14は、図7および8に示す孔18により、第2の電解質層14が第1の電解質層13との間で接触または接近により電荷が移動可能に形成される。
また、導電層11および半導体層12の周囲の少なくとも一部において、その周囲から外側に延出された周縁部13a,14a同士が接触した接触部15を有し、第2の電解質層14が第1の電解質層13との間で接触により電荷が移動可能に形成される。
接触部15は、導電層11の周囲の全周に設けることもできるが、導電層11の周囲の1辺、対向する2辺、隣接する2辺など、一部に設けられても良い。
第2の電解質層14が第1の電解質層13との間で電荷が移動可能に形成されていると、イオンを水平方向に拡散させる第2の電解質層14の機能が有効に発揮され、第1の電解質層13への電荷移動が円滑となる。そして、第1の電解質層13と第2の電解質層14がともに導電性ハイドロゲルからなると両者が強固に密着して、電荷が半導体層12から効率よく輸送される。
そして、図7および8に示す孔18と接触部15は、併用されてもよいが、接触部15が設けられていると、電子供給体10の製造が煩雑となる場合があるので、その場合は、接触部15を設けず、孔18や導電性繊維基材の隙間のみを電荷の移動通路とすることができる。
第2の電解質層14に用いる導電性ハイドロゲルは、酸化チタン等の半導体層12に少なくとも340nm〜500nmの波長の電磁波を受けさせる必要があるので、この波長域の電磁波に対して、高い全光線透過率を有することが好ましい。なお、本明細書において、透明とは、340nm〜500nmの波長を有する電磁波の透過率が高いことを意味する。
第2の電解質層14に用いる導電性ハイドロゲルの厚さは、特に制限されないが、100μm〜1000μmとすることが好ましい。厚すぎると電磁波の透過率が低下することがある。薄すぎるとイオンの水平方向への移動距離が長い場合に、電荷の移動速度が下がることがある。
電磁波の透過率を著しく低下させない範囲で、導電性ハイドロゲル中に織布や不織布などの補強材を入れてもよい。
第2の電解質層14に用いる導電性ハイドロゲルは、酸化チタン等の半導体層12に少なくとも340nm〜500nmの波長の電磁波を受けさせる必要があるので、この波長域の電磁波に対して、高い全光線透過率を有することが好ましい。なお、本明細書において、透明とは、340nm〜500nmの波長を有する電磁波の透過率が高いことを意味する。
第2の電解質層14に用いる導電性ハイドロゲルの厚さは、特に制限されないが、100μm〜1000μmとすることが好ましい。厚すぎると電磁波の透過率が低下することがある。薄すぎるとイオンの水平方向への移動距離が長い場合に、電荷の移動速度が下がることがある。
電磁波の透過率を著しく低下させない範囲で、導電性ハイドロゲル中に織布や不織布などの補強材を入れてもよい。
電解質層13,14に用いる導電性ハイドロゲルの含水率は、通常、5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%程度に設定することができる。含水率が低いと、導電性ハイドロゲルの柔軟性が低下することがある。また、イオン導電性が低下し、電荷を移動させる能力に劣る場合がある。導電性ハイドロゲルの含水率が高いと、導電性ハイドロゲルの保持可能な水分量を超えた水分が離脱や乾燥してゲルが収縮したり、イオン導電性等の物性の変化が大きくなったりすることがある。また、柔軟すぎて保形性に劣る場合がある。
電解質層13,14に用いる導電性ハイドロゲルの抵抗率(比抵抗)は、電子供給体10の耐用年数や設置場所の環境に応じて設定されるが、40〜560Ω・cmが好ましく、40〜350Ω・cmがより好ましい。
電解質層13,14に用いる導電性ハイドロゲルは、寒天、カラヤガム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸またはその塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースまたはその塩などを主成分とする含水ゲルや、親水性ポリウレタンなどからなる含水ゲル等の親水性の樹脂マトリックス中に水および電解質塩を安定に保持させたものである。
これらの親水性の樹脂マトリックスのうち、品質の安定性や粘着性、導電性、保形性などを考慮すると、アクリル酸やその塩等の重合性単量体を重合した樹脂マトリックスが好ましく用いられる。
親水性の樹脂マトリックスは、単独で用いてもよいし、必要に応じ2種以上を混合して用いてもよい。
上記重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)グリセリン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸等の(メタ)アクリルアミド誘導体及びその塩;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド誘導体;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸等のスルホン酸系単量体及びその塩等を挙げることができる。
特にアクリル酸やその塩等の重合性単量体を重合した樹脂マトリックスは、340nm〜500nmの波長の電磁波の透過率が高く、耐候性に優れるので好ましく用いられる。
電解質層13,14に用いる導電性ハイドロゲルの樹脂マトリックスは、凝集力を高めるために、架橋剤にて架橋処理を施したり、重合性単量体と架橋性単量体とを重合して架橋させたりしておくことが好ましい。このようにポリマー分子鎖が三次元的に架橋された樹脂マトリックスは、水や後述する湿潤剤を保持する能力に優れるので好ましい。
架橋性単量体としては、特に制限されず、例えば、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の多官能(メタ)アクリルアミド系単量体;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体;テトラアリロキシエタン;ジアリルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。これらのうち、多官能(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましく、N,N−メチレンビスアクリルアミドがより好ましい。なお、上記架橋性単量体は単独で用いられてもよいし、二種以上が併用されてもよい。
架橋性単量体の含有量としては、樹脂マトリックス100重量部に対して0.005〜3重量部が好ましい。導電性ハイドロゲル中の架橋性単量体の含有量が少ないと、保形性に優れる導電性ハイドロゲルが得られないことがある。架橋性単量体の含有量が多いと、主鎖間を結ぶ網目架橋点が増大し、見かけ上保形性の高い導電性ハイドロゲルが得られるが、導電性ハイドロゲルが脆くなり、引張り力や圧縮力による導電性ハイドロゲルの切断や破壊が生じ易くなることがある。また、架橋点の増加によりポリマー主鎖が疎水化し、網目構造中に封じ込めた水を安定して保持することが困難になり、ブリードが起こり易くなることがある。
電解質層13,14に用いる導電性ハイドロゲルに、湿潤剤を含ませると、導電性ハイドロゲルの含水率の低下を抑制することができる。粘着性や保形性の点からは湿潤剤を5〜70重量%、好ましくは20〜50重量%程度の範囲に調整することが好ましい。導電性ハイドロゲル中の湿潤剤の含有量が少ないと、導電性ハイドロゲルの保湿力が乏しくなり、水分が蒸散しやすくなって導電性ハイドロゲルの経時安定性に欠けたり、柔軟性に乏しくなって粘着性が低下したりすることがある。湿潤剤の含有量が多いと、導電性ハイドロゲルの製造時に粘度が高くなり過ぎて取り扱い性が低下し、導電性ハイドロゲルの成形時に気泡が混入することがある。
湿潤剤としては、特に制限されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類;これら多価アルコールの一種又は二種以上を単量体として重合されたポリオール類;ブドウ糖、果糖、ショ糖、乳糖等の糖類等を挙げることができる。湿潤剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。また、多価アルコール類の分子内あるいは分子の末端にエステル結合、アルデヒド基、カルボキシル基等の官能基を有していてもよい。これらのうち、多価アルコール類は、水分を保持する作用に加え、導電性ハイドロゲルに弾力性も付与するので好ましい。多価アルコール類のうち、長期保水性の面でグリセリンが特に適している。多価アルコール類は、これらの中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。導電性ハイドロゲルの弾力性を上げる必要がある場合には、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク等の公知の充填剤を添加すると効果が得られる。
電解質層13,14に用いる導電性ハイドロゲルには、必要に応じて、防腐剤、防黴剤、防錆剤、酸化防止剤、安定剤、界面活性剤、着色剤等を適宜添加しても良い。
電解質層13,14に用いる導電性ハイドロゲルに含まれる電解質塩としては、電荷輸送層として慣用されている電解質塩の中から任意に選ぶことができる。このような塩としては、導電性ハイドロゲルにイオン導電性を付与することができれば、特に制限されず、例えば、NaClなどのハロゲン化ナトリウム、KClなどのハロゲン化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属塩、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化カルシウム等のハロゲン化アルカリ土類金属塩、LiClなどのその他の金属ハロゲン化物;KSO、NaSOのような各種金属の硫酸塩、硝酸塩、燐酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、アンモニウム塩、LiPF、LiBFなどのフッ素含有電解質塩、各種錯塩等の無機塩類;酢酸、安息香酸、乳酸、酒石酸等の一価有機カルボン酸塩;フタル酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸等の多価カルボン酸の一価または二価以上の塩;スルホン酸、アミノ酸等の有機酸の金属塩;有機アンモニウム塩;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリt−ブチルアクリルアミドスルホン酸、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等の高分子電解質の塩等が挙げられる。なお、ハイドロゲルの作製時には不溶性或いは分散状態であっても、時間経過とともにハイドロゲル中に溶解するものも使用することができ、このようなものとしては、珪酸塩、アルミン酸塩、金属酸化物、金属水酸化物等が挙げられる。
導電性ハイドロゲル中の電解質塩の含有率は、1〜20重量%であることが好ましい。この範囲より高いと、電解質塩の水に対する完全な溶解が困難となって導電性ハイドロゲル内に結晶として析出したり、他の成分の溶解を阻害したりする場合がある。この範囲より低いと、イオン導電性に劣る場合がある。
電解質層13,14に用いる導電性ハイドロゲルは、電解質塩を含んでいれば、イオン導電性となり、電荷の移動が可能であるが、酸化還元剤も含むと、電荷の移動がより円滑となる。その様な酸化還元剤としては、キノン−ヒドロキノン混合物などの有機系のものや、S/S2−、I/Iのような無機系のものを挙げることができる。また、LiI、NaI、KI、CsI、CaIのような金属ヨウ化物や、テトラアルキルアンモニウムヨージド、ピリジニウムヨージド、イミダゾリンヨージドのような第四級アンモニウム化合物などのヨウ素化合物も好適に用いられる。
電解質層13,14に用いる導電性ハイドロゲルの製造方法としては、例えば、重合性単量体、架橋性単量体、湿潤剤、重合開始剤および電解質塩を加えたものを水中に溶解または分散させて架橋、重合させる方法、重合性単量体、架橋性単量体、湿潤剤および重合開始剤を水中に溶解または分散させて架橋、重合させて得られた高分子マトリックス中に電解質塩を含浸させる方法、重合性単量体のみを水中に分散させて湿潤剤の存在下で重合させた直鎖状高分子に電解質塩を溶解または分散させた分散液に架橋剤を添加して直鎖状高分子と架橋剤とを架橋反応させて樹脂マトリックスを生成する方法等が挙げられる。
電解質層13,14の形成方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、グラビアコート、バーコート、スクリーンコート等のコート方法で導電層11や半導体層12の上に塗布する方法を挙げることができる。
電解質層13,14として導電性ハイドロゲルを用いる場合は、導電性ハイドロゲルが粘着性を有するので、予め成形された導電性ハイドロゲルのシートを導電層11や半導体層12に貼着しても良い。この方法は、電解質層13,14としてロール巻回体の導電性ハイドロゲルのシートを用いることができるので、電子供給体10をロールtoロールで大量生産する場合に好ましい。
電解質層13,14が枚葉である場合は、重合性単量体、架橋性単量体、湿潤剤、重合開始剤および電解質塩を加えたものを水中に溶解または分散させたものを導電層11や半導体層12の上に塗布してゾル状の電解質層を形成し、その後ラジカル重合することによってゲル化させてもよい。
電子供給体10をロールtoロールで大量生産するに際し電解質層13,14を一体化してロールに巻き取る場合、あるいは枚葉に裁断して重ねる場合は、各電解質層13,14の自由面(外側に露出する面)に剥離紙を積層しておくことが好ましい。
≪被防食体22≫
被防食体22としては、鋼材などの鉄を含むもの(ステンレスなど)のほか、ニッケル、チタン、銅や亜鉛を含むものなども防食が可能である。また、コンクリート層や塗料の塗膜に覆われることのない剥き出しの金属の表面に直接または表面に存在する錆等のイオン透過性の酸化物皮膜からなる表面層に電子供給体10を貼着して、これらに対しても防食できる。
被防食体22がコンクリート層21中に埋設されている場合、コンクリート層21中の極めて小さい空隙中には水や水を含んだゲル状の物質があるといわれ、この中に含まれるイオンとしては、OH、Na、Ca2+、Kなどが主なものと言われている。つまり、コンクリート層21は、電気抵抗が著しく大きい固体の電解質層であり、これらのイオンによるイオン導電性の層として機能することができる。そして、コンクリート層21中の水分は、乾燥により空気中へ水分を放出したり、あるいは雨水や気温の日較差により空気中の水分を吸収したりするので、コンクリート層21が絶乾状態になることはない。
また、本発明の防食構造が適用可能な被防食体は、表面に塗料の塗膜が形成された被防食体にも適用が可能である。塗料の塗膜は、一見、絶縁層に見えるが、電気防食を必要とする塗膜の表面には、腐食の原因となるクラックや微細な孔が多数存在する。これらのクラックや孔は、被防食体にまで貫通している。このクラックや孔の部分は、水分や空気を遮断することができないので、水分が存在している。したがって、イオンがこの部分を移動でき、イオン導電性となるので、本発明を利用して防食が可能である。そして、この防食は、このクラックや微細な孔の部分に対して行えばよいので、極めて狭い面積を防食することになる。したがって、電子供給体10からの電子の供給量が小さくても、極めて有効な防食が可能となる。
しかも、電解質層13,14として導電性ハイドロゲルを用いた場合は、導電性ハイドロゲルの一部が表面のクラックや微細な孔に侵入して、被防食体に接する、もしくは極めて近くに位置することになるので、より確実に防食できる。
≪保護層17≫
本形態例の電子供給体10は、図6に示すように、第2の電解質層14の上に、電磁波を透過可能な保護層17が配置されている。保護層17は、フィルム、シート、板等の平らな部材であることが好ましく、少なくとも第2の電解質層14の全面を覆うように形成されることが好ましい。
保護層17は、表面に位置して水や空気を遮断して、第2の電解質層14が汚れたり、劣化したり、破損したりすることを防止する。また、さらに内側に存在する導電層11、半導体層12や第1の電解質層13も水と接触しなくなるので、これらの劣化や変質も防止する。
保護層17は、第2の電解質層14の上に予め積層しておくことが好ましいが、電子供給体10の防水処理時に積層してもよい。
保護層17を形成する材料は、電磁波が透過可能で不透水性を有するものであれば特に制限はないが、本発明においては、酸化チタン等の半導体層12に少なくとも340nm〜500nmの波長域の電磁波を受けさせて電子を生成させることができるものであれば、自然光を有効利用することができるので好ましい。したがって、保護層17は、透明であることが好ましい。ここで言う透明とは、340nm〜500nmの波長を有する可視光の全光線透過率が高いことを意味するが、0でない限り、下限は特に制限されず、電子供給体10が設置される対象物や環境に応じて、適宜、選択することができる。
保護層17の好ましい全光線透過率としては、波長340nm〜420nmにおいて50%以上、波長340nm〜500nmにおいて70%以上である。そして、全光線透過率が高ければ、ヘイズ(曇り度)が高くても問題はなく、曇りガラス状であってもよい。むしろ、下を車が通る高架橋や高速道路の下面に電子供給体10を設置する場合は、夜間にヘッドライトが反射しないように電子供給体10の表面(自由面)に曇りガラス状の凹凸が形成されていることが交通事故防止の面から好ましい。この様な透明な材料としては、ガラス板やプラスチックフィルムを挙げることができる。中でもプラスチックフィルムは、ガラス板に比べて、軽くて、ロール状に巻き取ることができ、耐衝撃性に優れるので好ましい。
保護層17として用いられるプラスチックフィルムを形成する樹脂としては、不透水性のフィルムに成形できるものであれば、特に制限はないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂のフィルムが汚染防止性や耐候性に優れるので好適である。特にフッ素系樹脂は、厚さ25μmのフィルムに成形しても、300nm〜500nmの紫外線領域〜可視光領域における90%以上の全光線透過率が得られるので、半導体層12として酸化チタンを用いる場合に好ましい。その他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアセタール、透明ポリイミド系ポリマー、ポリエーテルサルフォンなどを挙げることもできる。
保護層17は、半導体層12に受光させる電磁波の透過を妨げないものが好ましく、半導体の種類や増感色素等を適宜選択することにより、カルボニル基や芳香族基などの紫外線吸収性官能基を有するプラスチックフィルム、紫外線吸収性官能基を有しないプラスチックフィルムのいずれも使用可能である。保護層17として、紫外線吸収性官能基を有するフィルムを用いる場合は、紫外線で劣化しやすいので、その片面または両面に上述したようなフッ素樹脂やアクリル樹脂等のコーティングや塗膜を形成して耐候性を向上させることが好ましい。
保護層17に用いられるプラスチックフィルムの厚さとしては、特に制限はないが、不透水性で物理的強度が満たされる限り、透明性やコスト面から薄いことが好ましく、50〜500μm、好ましくは50〜200μmの範囲が選ばれる。このようなプラスチックフィルムは、物理的強度を向上させるために延伸されていてもよいし、同種または異種が複数層積層されていてもよい。
≪電子供給体の他の構成例≫
図2に示す電子供給体10Aは、図1に示す電子供給体10において、導電層11の他面に絶縁層16を介して第1の電解質層13が形成された構成である。この電子供給体10Aにおいては、第1の電解質層13は、導電層11や半導体層12と接触しないが、周縁部13a,14aの接触部15により接続された第2の電解質層14を介して、半導体層12と第1の電解質層13との間で電荷が移動可能である。絶縁層16は、プラスチックフィルムやガラスシート等を用いることができる。なお、絶縁層16は、透明でなくてもよいので、ニッケルやチタン等の金属層を用いて導電層11の導電性を向上させることもできる。
電子供給体10Aをこのように構成することにより、導電層11や半導体層12を形成する際の支持体とすることができ、例えば、絶縁層16をフィルム基材としてペースト状の導電物質を直接または繊維基材を埋め込むように塗布して導電層11を形成することができるので、導電物質の裏側への透過がなく、導電層11の形成が容易となる。
図3に示す電子供給体10Bは、図1に示す電子供給体10において、電解質層13,14が導電層11の面内に収まり、周縁部13a,14aの接触部15を有しない構成である。電解質層13,14と導電層11の大きさは、ほぼ同じであってもよいが、導電層11の一部が電解質層13,14から露出すると、そこを電子の排流点とすることができるので好ましい。導電層11を形成する際に、イオン透過性を確保するために、繊維同士の隙間や導電層11を貫通する孔18を形成することが好ましい。
なお、保護層17を設ける場合には、第2の電解質層14の上に形成され、好ましくは、第2の電解質層14と半導体層12の全面を覆うように形成される。
図4に示す電子供給体10Cは、図3に示す電子供給体10Bにおいて、第2の電解質層14が形成されない構成である。
また、第2の電解質層14が存在しないので、第1の電解質層13が電子を放出した半導体の正の電荷を直接受け取る役目を担う。したがって、この場合は、イオンの透過のために、導電層11に繊維同士の隙間や貫通孔18を形成する必要がある。
なお、保護層17を設ける場合には、接着剤等を用いて、半導体層12の全面を覆うように形成されることが好ましい。
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
以下の要領で、電子供給体の実施例1〜3として図1〜3に示す電子供給体10を作製し、電子供給体の比較例1〜3として図4、10および11に示す電子供給体10を作製した。そして、本発明の電子供給体の実施例4〜7を用いた防食構造として図6に示す防食構造20を作製し、電子供給体10のI−V特性を測定した。
≪電子供給体の実施例1≫
以下の要領により、図1の電子供給体10の試験体を作成した。
<導電層11>
目付が30g/mのガラス不織布の表面からグラファイトを分散させた導電性のカーボンペーストを塗布して乾燥後、裏面からもカーボンペーストを塗布して乾燥し、幅が約30mmで、長さが50mmの導電層11を作成した。カーボンペーストの付着量は、乾燥重量で約60g/mであった。導電層11の厚みについては、表面が平滑でないため正確には測定できないが、おおよそ、100μm〜110μmであった。
<半導体層12>
導電層11の片面に長さ方向の上下両端部に導電層11が10mmの帯状で露出するように30mm平方の広さにアナターゼ型酸化チタンを分散させた酸化チタンペースト(昭和電工製C−ペースト)を塗布・乾燥して厚さ約10μm(乾燥重量で15g/m)のTiOからなる半導体層12を形成した。
<電解質層13、14>
導電層11と半導体層12の両方の面に、厚さ約0.6mm、幅約60mm、長さ約30mmの長方形の、イオン導電性が付与された粘着性の導電性ハイドロゲルのシート(積水化成品工業製「テクノゲルCR−S」)からなる第1の電解質層13および第2の電解質層14を、幅方向の中心を合わせて重ねて密着した。
<接触部15>
導電層11が存在しない第1の電解質層13および第2の電解質層14の両側の幅15mmの周縁部13a,14aを密着させて接触部15とし、図1の電子供給体10の実施例1を作成した。
<その他>
導電層11の長さ10mmで露出した部分に、長手方向の全幅にわたって幅10mmの銅テープを導電性接着剤で貼り付け、電子の排流点の設置場所とした。
なお、本試験体においては、試験結果を考察しやすくするために、導電層11に孔18を設けなかった。
合成樹脂シートに銀層と塩化銀層と電解質塩を含むハイドロゲル層を積層し塩化銀層の一部を電極として延出させた市販の生体用電極パッドのハイドロゲル層を第1の電解質層13の全面に貼着して電極パッドの銀塩化銀電極を一方の電極とし、導電層11に貼られた銅テープを他方の電極として、屋内にて写真撮影用のレフランプで40mW/cmの光を半導体層12に照射した。
2つの電極間に電子負荷装置を接続し、負荷抵抗を変化させることによって電流電圧特性(I−V特性)を測定し、図9の「第1形態例」に示すI−V曲線を得た。
≪電子供給体の実施例2≫
導電層11と第1の電解質層13との間に、一辺の長さが約35mmの正方形のPETフィルムからなる絶縁層16を、導電層11の全面を覆うように挟み込んだこと以外は、電子供給体の実施例1と同様にして、実施例2として図2の電子供給体10Aを作成した。
電子供給体の実施例1と同様にして、図9の「第2形態例」に示すI−V曲線を得た。実施例2においては、導電層11のイオン透過性を完全に阻害しても電流が得られたことから、接触部15により第1の電解質層13と接触した第2の電解質層14を介して半導体層12から電荷が移動することが確認できた。
しかし、電子供給体の実施例1と比べると短絡電流密度(電圧0ボルト時の電流密度)が半分以下に低下していることから、導電層11の繊維基材の隙間によって付与されるイオン透過性が、電荷の移動に一定の効果があることが分かる。
≪電子供給体の実施例3≫
導電性ゲルシートを一辺の長さが約28mmの正方形とし、電解質層13,14の接触部15を設けなかったこと以外は、電子供給体の実施例1と同様にして、実施例3として図3の電子供給体10Bを作成した。
電子供給体の実施例1と同様にして、図9の「第3形態例」に示すI−V特曲線を得た。実施例3においては、接触部15を設けなくても電流が得られたことから、繊維同士の隙間による導電層11のイオン透過性により第1の電解質層13を介して半導体層12から電荷が移動することが確認できた。
しかし、電子供給体の実施例1および2と比べると短絡電流密度が大幅に低下していることから、導電層11に孔18も電解質層13,14の接触部15も設けていない本実施例においては、導電層11の繊維基材の隙間によって付与されるイオン透過性よりも接触部15の方が、電荷の移動により効果があることが分かる。
≪電子供給体の比較例1≫
第2の電解質層14を設けなかったこと以外は、電子供給体の実施例3と同様にして、比較例1として図4の電子供給体10Cを作成した。
電子供給体の実施例1と同様にして、図9の「第4形態例」に示すI−V曲線を得た。比較例1においては、第2の電解質層14を設けなくても電流が流れたことから、繊維同士の隙間による導電層11のイオン透過性により第1の電解質層13を介して半導体層12から電荷が移動することが確認できた。
そして、電子供給体の実施例1と比べると実施例3と同様に短絡電流密度が大幅に低下していることから、第2の電解質層14を設けていない比較例1においては、第2の電解質層14が、電荷の移動に一定の効果があることが分かる。しかし、第2の電解質層14を設けた電子供給体の実施例3と比べると短絡電流密度がわずかではあるがの低下していることから、導電層11のイオン透過性が十分でない場合は、第2の電解質層14の効果も十分に発揮されないことがあることが分かる。
≪電子供給体の比較例2≫
電子供給体の実施例2と同様にして導電層11と第1の電解質層13との間に絶縁層16を形成したこと以外は、電子供給体の比較例1と同様にして、比較例2として図10の電子供給体を作成した。
電子供給体の実施例1と同様にして、I−V特性を測定しようとしたが、短絡電流密度および開放電圧(電流0mA/cm時の電圧)のいずれも0となり、I−V曲線は得られなかった。比較例2においては、導電層11のイオン透過性が完全に阻害されており、接触部15も設けられていないので、半導体層12から電荷の移動がなく、電流が流れないことが分かった。
≪電子供給体の比較例3≫
電子供給体の実施例3と同様にして第2の電解質層14を形成したこと以外は、電子供給体の比較例2と同様にして、比較例3として図11の電子供給体を作成した。
電子供給体の実施例1と同様にして、I−V特性を測定しようとしたが、短絡電流密度および開放電圧のいずれも0となり、I−V曲線は得られなかった。比較例3においては、導電層11のイオン透過性が完全に遮断されており、接触部15も設けられていないので、第2の電解質層14が設けられていても、半導体層12から電荷の移動がなく、電流が流れないことが分かった。
≪電子供給体の実施例4〜7を用いた防食構造≫
以下の要領で、電子供給体の実施例4〜7を作製し、これらを用いて図6に準じた図12に符号20で示す防食構造を作製して被防食体22の電位および電流密度を測定した。
目付が25g/mのPET不織布と目付が30g/mのガラス不織布の2種類の不織布を用いたこと、および、導電層11の幅を100mmとし、長さを約120mmとしたこと以外は、電子供給体の実施例1と同様にして、2種類の繊維基材を用いた導電層11の2枚ずつ、合計4枚のそれぞれの片面にTiOからなる100mm平方の半導体層12を形成してなる導電層/半導体層積層体を作製した。
得られた4枚の導電層/半導体層積層体に図8(b)のパターンで直径3mmの円形の孔18が導電層11の辺に斜交して並ぶように複数設けた。孔18の間隔は、辺に斜交して並んでいる孔の中心の距離が12mmとなるように配置した。孔18は、図7(b)に示すように導電層11と半導体層12の両方を貫通させた。
幅120mm、長さ約100mmの導電性ハイドロゲルからなる第1の電解質層13および第2の電解質層14を用いて、電子供給体の実施例1と同様にして、導電層/半導体層積層体の両面に10mm幅の接触部15を設けて積層し、2種類の繊維基材を用いた4枚の図1の電子供給体の実施例4〜7を作製した。
得られた4枚の電子供給体の実施例4〜7の上に、アクリル/フッ素またはETFEからなる保護層17を、第2の電解質層14の上に半導体層12の全面を覆うように積層して、以下の4種類の保護層付電子供給体の実施例4〜7を作製した。
No.1:導電層11の繊維基材がPET不織布、保護層17がアクリル/フッ素。
No.2:導電層11の繊維基材がPET不織布、保護層17がETFE。
No.3:導電層11の繊維基材がガラス不織布、保護層17がアクリル/フッ素。
No.4:導電層11の繊維基材がガラス不織布、保護層17がETFE。
ここで、耐候性フィルムの「アクリル/フッ素」とは、「フッ素樹脂を共押出した紫外線吸収剤入りアクリル樹脂フィルム(三菱レーヨン製。商品名:アクリプレン)50μm」であり、「ETFE」とは、「エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム(旭硝子製。商品名:アフレックス)25μm」である。
被防食体22として鉄筋(長さ25cm、φ6mm)を用い、一辺30cmの正方形で厚さ6cmのコンクリート層の中心層となるように縦横6本ずつの鉄筋を等間隔に格子状に配置し、鉄筋に電子を供給するための導線と鉄筋の電位を測定するための導線(不図示)とを引き出してモルタル中に埋設した。作製した鉄筋入りコンクリート基板の表面にダイアモンドカップによるケレン(素地調整)を行いコンクリート層からなる表面層21とした。
モルタルの仕様は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載のあるモルタルの配合により、質量比でセメント1、標準砂3、水0.5とした。この場合、水セメント比は0.50である。なお、セメントは普通ポルトランドセメントを使用した。
得られた4種類の保護層付電子供給体の実施例4〜7の導電層11、半導体層12と電解質層13、14が重なる10cm四方の正方形の辺がコンクリート層21の辺と平行になるように第1の電解質層13を用いてコンクリート層21の素地調整面の中央に貼着した。導電層11の銅テープに電子の排流点を設け、導線23をハンダにて取り付けた。そして、被防食体22から引き出された電子供給用導線に導線23を接続して図12に符号20で示す防食構造を構成して、電子供給体の実施例4〜7を用いた防食構造とした。
≪電位および電流密度の測定≫
電子供給体の実施例4〜7を用いた防食構造を屋外に設置するに際して、第1および第2の電解質層13、14の端面からの乾燥や膨潤を防ぐために、アクリル/フッ素の耐候性フィルムをリボン状に切断してエポキシ樹脂の接着剤を用いて保護層17の4辺を覆って防水処理を施した。
電子供給体10の受光時における被防食体22への電子の移動を確認するため、電子供給体の実施例4〜7を用いた防食構造の導線23の中間に無抵抗電流計(東方技研社製AM−02)24を設けた。また、鉄筋22の電位を測定するため、照合電極25として二酸化マンガン電極をコンクリート層21の裏面(ケレンしない面)に埋設してモルタルで固定し、導線27を用いてエレクトロメータ26に接続した。そして、鉄筋22に取り付けられた鉄筋電位測定用導線に導線28を用いてエレクトロメータ26を接続し、図12に示す測定装置が接続された電子供給体の実施例4〜7を用いた防食構造の供試体とした。なお、電気的接続のための導線23,27,28は、樹脂が被覆された銅線を用いた。
無抵抗電流計24は、図12に示すように、電流が電子供給体10→導線23→鉄筋22の方向に流れたときに正の電流値を示すように接続したため、電子が電子供給体10→導線23→鉄筋22の方向に移動する場合は、逆に鉄筋22→導線23→電子供給体10の方向に流れる電流を観測するので、負の電流値を示すことになる。
電子供給体の実施例4〜7を用いた防食構造の被防食体22の電位を測定するため、屋外にて直射日光が当たらないように、電子供給体10が下面となるように倒置して10cm立方の載置台4個で4辺の中央を支持した。小型データロガーを用いて1時間に1回の頻度で鉄筋22の電位を測定し、データを収集した。この鉄筋電位の試験結果を図13〜16に、発生電流密度の試験結果を図17〜20に示す。なお、発生電流密度は、無抵抗電流計24で測定した電流発生量が1μAであれば、コンクリート層21の断面積が100cmであるから、発生電流密度は、0.1mA/m(1μA/100cm)と換算される。
下方のピークは、昼間に該当し、上方のピークは夜間に該当する。実験開始は、19:30からであったが、図は便宜上、ここを1日の起点として表示した。午前0時を1日の起点とする場合は、4時間半分だけピークが左にずれて表わされることになる。
電子供給体の実施例4〜7を用いた防食構造においては、電子供給体の実施例4〜7から電子が鉄筋22に供給され、電解質層13,14のイオン導電性により輸送された正の電荷が鉄筋22の電子で還元されることで、電流が流れて鉄筋の電位がその自然電位よりも低下することを確認することができた。ただし、電子供給体の実施例3を用いた防食構造は、鉄筋電位の低下および電流の発生が見られるものの、やや鈍かった。この現象は、サンプル作成過程における何らかの異常に起因すると推定される。
電子供給体の実施例1、2および4を用いた防食構造の鉄筋の電位は、通常電気防食可能な電位とされている鉄筋自然電位の−100mV以下まで低下することから、本発明の電子供給体は電気防食に十分な能力を有することが分かる。
そして、図17〜20によれば、3mA/m(30μA/100cm)以上の電流密度が得られれば、鉄筋電位は、自然電位の−100mV以下まで低下させることができることが分かった。なお、理由は定かではないが、電子供給体の実施例1、2および4を用いた防食構造の鉄筋は、明け方に僅かに光があたると急激に電位が下がり、夜間には発生電流密度が0になって電子の供給が停止すると、途中まで急激に上昇する。その後上昇が穏やかになり、鉄筋自然電位に戻ることはない。また、図17〜20より、発生電流密度が正の値を示していない。したがって、夜間鉄筋に腐食電流が流れることがないことが分かる。
また、図14および図16によれば、保護層にETFEを用いた防食構造の実施例2および4において、昼間の鉄筋の電位は、自然電位の−100mV以下まで低下している時間が1日の半分以上あることから、電気防食効果に優れ、好ましいことがわかる。これは、アクリル/フッ素耐候性フィルムは紫外線吸収があり、ETFEは紫外線吸収がないためと考えられる。
以上、本発明の電子供給体を電気防食の作用極に用いる場合について説明したが、対極として白金や炭素等で活性を付与した電極を第1の電解質層に直接積層することで、色素増感太陽電池の作用極として用いることもできる。
実際に、上記電子供給体の実施例4〜7を用いた防食構造による被防食体の電位および電流密度の測定に使用した保護層付電子供給体の実施例5(No.2:導電層11の繊維基材がPET不織布、保護層17がETFE。)と同じサンプルを作製し、電子供給体の実施例1で用いた生体用電極パッドの大きなものを用いて、そのサンプルの第1の電解質層13の全面に電極パッドのハイドロゲル層を貼着して電極パッドの銀塩化銀電極を一方の電極とし、導電層11に貼られた銅テープを他方の電極として太陽電池を作製してみた。
この太陽電池に無抵抗電流計(東方技研社製AM−02)を介して閉鎖回路を形成して、屋内にてソーラーシュミレータで2600Lxの可視光線(波長域300〜400nmの積分値が0.027mW/cm)を半導体層12に照射してみたところ、526μAの電流を確認することができた。
性能の高い色素増感太陽電池とする場合は、半導体層を増感処理したり、金属箔や金属繊維基材に炭素を主成分とする導電物質を塗布した導電層を用いたりすることが好ましい。
また、対極として白金や炭素等で活性を付与した電極を第1の電解質層に直接積層することで、光センサ等の作用極として用いることもできる。この場合も電子供給体に高い光電変換率が求められるので、半導体層を増感処理したり、金属箔や金属繊維基材に炭素を主成分とする導電物質を塗布した導電層を用いたりすることが好ましい。
以上、本発明を好適な実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
例えば、導電層11および半導体層12の両面に電解質層13,14を配置するに際し、1枚の導電性ハイドロゲルシートを2つ折りにして、折り返し部の片側を第1の電解質層13とし、もう片側を第2の電解質層14として用いることもできる。この場合、折り返し部が電解質層13,14同士の接触部15となる。また、接触部15を設けるに際し、周縁部13a,14aの一方が周囲から外側に延出されて他方の周縁部に覆い被さるように折り畳まれていてもよい。
10,10A,10B,10C…電子供給体、11…導電層、12…半導体層、13…第1の電解質層、13a…周縁部、14…第2の電解質層、14a…周縁部、15…接触部、16…絶縁層、17…保護層、18…孔、20…防食構造、21…コンクリート層(コンクリート板)、22…被防食体(鉄筋)、23…回路配線。

Claims (9)

  1. 固体化されたシート状の第1の電解質層と、基材に炭素を主成分とする導電物質を塗布および/または含浸した導電性基材からなる導電層と、電磁波により電子を生成する半導体層と、電磁波を透過可能な固体化されたシート状の第2の電解質層とをこの順序で有し、前記第2の電解質層が、前記第1の電解質層との間で接触または接近により電荷移動可能に形成されたことを特徴とする電子供給体。
  2. 前記導電層が織布または不織布からなる繊維基材であり、繊維の隙間のイオン透過性により、第2の電解質層が第1の電解質層との間で電荷移動可能とされた請求項1に記載の電子供給体。
  3. 前記導電層にイオンが透過可能な複数の孔が形成されて、第1の電解質層と第2の電解質層との間で電荷移動可能とされた請求項1または2に記載の電子供給体。
  4. 第1および第2の電解質層の両方が親水性の樹脂マトリックス内に少なくとも水を保持している含水ゲルに電解質塩を含ませた導電性ハイドロゲルである請求項1ないし3のいずれかに記載の電子供給体。
  5. 第1の電解質層および第2の電解質層の周縁部の少なくとも一部が前記導電層および前記半導体層の周囲から延出され、それぞれの周縁部同士が接触して、これらの電解質層同士の間で電荷移動可能とされた請求項1ないし4のいずれかに記載の電子供給体。
  6. さらに前記半導体層または第2の電解質層の上に、電磁波を透過可能な保護層が配置されている請求項1ないし5のいずれかに記載の電子供給体。
  7. 前記保護層または前記保護層と第2の電解質層の両方が、少なくとも340nm〜500nmの波長を有する電磁波を透過可能である請求項1ないし6のいずれかに記載の電子供給体。
  8. 前記半導体層が、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化スズから選ばれる一種または二種以上の金属酸化物を含有する層である請求項1ないし7のいずれかに記載の電子供給体。
  9. 前記電子供給体が電気防食構造、色素増感太陽電池または光センサに用いられるものである請求項1ないし8のいずれかに記載の電子供給体。
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