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JP2012062211A - ガラス母材の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】低消費エネルギーで添加物濃度を精密に制御できるガラス母材の製造方法であって、特に低損失な光ファイバを製作するのに適したガラス母材の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス母材の製造方法は、母材準備工程S1で表面粗さを設定したガラス母材を準備し、微粒子化工程S2により微粒子化した塩化カリウム4を堆積工程S3によりガラス母材表面に堆積し、酸化拡散熱処理S4により塩化カリウムは酸化されて酸化カリウムとなりガラス母材内部に拡散される。
【選択図】図5

Description

本発明は、ガラス母材の製造方法に関し、低消費エネルギーで添加物濃度を精密に制御でき、特に低損失な光ファイバを製作するのに適したガラス母材の製造方法に関する。
アルカリ金属酸化物、あるいはアルカリ土類金属酸化物が添加(ドープ)されたシリカガラスを用いて作製した光ファイバは、伝送損失が低下することがこれまで多くの先人により示されてきたが、これを工業的に大量生産する技術は未完成である。既存の光ファイバの製造方法においては気相での加水分解反応、もしくは酸素による熱酸化反応を用いるため、例えば四塩化ケイ素(SiCl)、四塩化ゲルマニウム(GeCl)など、ガス状の原料を使用する必要がある。
しかしながら、いわゆる硬いカチオンであるアルカリ金属イオン、あるいはアルカリ土類金属イオンは、非常に強いイオン結合を形成するため、それらの化合物(塩)は常温かつ常圧付近では固体となることがほとんどである。従って、ガスとなる化合物をほとんど形成しないため、光ファイバの製造には適用が困難だった。そのため、アルカリ金属酸化物、あるいはアルカリ土類金属酸化物がドープされた光ファイバを商用生産するためには、従来この分野で確立された方法とは異なる製造方法を開発しなければならない。
このような課題に対して、これまで様々な取り組みがなされてきた。例えばアルカリ金属化合物、あるいはアルカリ土類金属化合物が易水溶性であることを利用して、アルカリ金属化合物の水溶液を霧状にして原料ガス中に混合して酸水素火炎に導入し、他の原料と同時に加水分解してガラスを形成する方法が試された(例えば、特許文献1および2参照)。また、特許文献3には、プラズマ化学気相成長法と同時にアルカリ金属化合物を水溶液としてオーバークラッドに噴霧する技術が開示されている。
また、ある種のアルカリ金属塩と他の金属塩とを反応させて得られる複合塩は、元のアルカリ金属塩よりも蒸気圧が高くなることが知られており、この複合塩を原料として利用する試みもなされた(例えば、特許文献4参照)。
更に最近では、アルカリ金属ハロゲン化物、あるいはアルカリ土類金属ハロゲン化物を強加熱してアルカリ金属蒸気、あるいはアルカリ土類金属蒸気とし、光ファイバ前駆体ガラスをこれに曝してドープする方法が試された(例えば、特許文献5乃至7参照)。
ところで、上述のアルカリ金属化合物、あるいはアルカリ土類金属化合物の水溶液を用いる方法は、本来光ファイバの製造においては損失増加の原因となる水分の混入を避けるべきである、という観点とは逆行する製造方法である。
また、上述の蒸気圧の大きな複合塩を形成させて蒸気として導入する方法では、蒸気圧の上昇の程度が小さく効果は非常に限定的で、しかも本来光ファイバの機能に不必要な化学種を加えることになるため、伝送損失の上昇をもたらすことが懸念される。
更に、一方アルカリ金属化合物、あるいはアルカリ土類金属化合物を強加熱してアルカリ金属蒸気を得る方法は、その還元反応の反応機構が不明確であり、現実性に乏しい。
特公昭59−13453号公報 特公昭59−14412号公報 国際公開2009/034413号パンフレット 特許第1787027号公報 特表2007−516829号公報 特表2007−513862号公報 国際公開2006/068941号パンフレット
J. Schroeder, J. Non-Cryst., Solids, Vol.40, p.549 (1980)
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、添加物濃度を精密に制御できるガラス母材の製造方法を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、添加物濃度が精密に制御されたガラス母材を低消費エネルギー、特により低い処理温度で形成できるガラス母材の製造方法を提供することを第二の目的とする。
請求項1に記載のガラス母材の製造方法は、
アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物をガラス母材にドープするガラス母材の製造方法であって、
表面粗さの大きなガラス母材を準備する母材準備工程と、
アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物原料を微粒子化する微粒子化工程と、
前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子をガラス母材表面に付着させる付着工程と、
前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子を酸化するとともに、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物をガラス母材内で拡散させる酸化拡散熱処理工程と、
を有することを特徴とする。
請求項2に記載のガラス母材の製造方法は、請求項1に記載のガラス母材の製造方法において、前記堆積工程におけるガラス母材温度が、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が酸化されて酸化物となる温度以下室温以上に設定されることを特徴とする。
請求項3に記載のガラス母材の製造方法は、請求項1に記載のガラス母材の製造方法において、前記酸化拡散熱処理工程におけるガラス母材温度が、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が酸化されて酸化物となる温度以上前記ガラス母材が急激に変形する温度未満に設定されることを特徴とする。
請求項4に記載のガラス母材の製造方法は、請求項1に記載のガラス母材の製造方法において、前記母材準備工程において、気相からのシリカ微粒子の堆積処理によりスートを形成する表面粗さ設定工程を有することを特徴とする。
請求項5に記載のガラス母材の製造方法は、請求項1に記載のガラス母材の製造方法において、前記表面粗さ設定工程が酸によるウェット処理とされる表面粗さ設定工程を有することを特徴とする。
請求項6に記載のガラス母材の製造方法は、請求項1に記載のガラス母材の製造方法において、前記表面粗さ設定工程が機械的研削処理による表面粗さ設定工程を有することを特徴とする。
請求項7に記載のガラス母材の製造方法は、
ダミー管部内のアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を、第一熱源により所定温度で加熱して蒸気化させる一方で、前記ダミー管部の一端から、酸素を含む乾燥ガスを流入させることにより、前記ダミー管部内において、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の蒸気を、前記乾燥ガスの移動に伴って冷却して、凝結させ、微粒子化する工程と、
前記乾燥ガスの移動に伴って、前記ダミー管部の他端に接続されたガラス管部に搬送された前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子を堆積することで付着させる工程と、
トラバースさせる第二熱源により、前記ガラス管部を加熱し、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子を酸化するとともに、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を前記ガラス管部の内部に拡散させる工程と、
前記微粒子堆積前に前記ガラス管部の内壁にシリカ微粒子を堆積させて表面粗さを増大する工程と、
を含むことを特徴とするガラス母材の製造方法。
請求項8に記載のガラス母材の製造方法は、請求項7に記載のガラス母材の製造方法において、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の蒸気は、その融点以下に冷却されることを特徴とする。
請求項9に記載のガラス母材の製造方法は、請求項7に記載のガラス母材の製造方法において、前記微粒子の粒径は、100μm以下であることを特徴とする。
請求項10に記載のガラス母材の製造方法は、請求項7に記載のガラス母材の製造方法において、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物は、ハロゲン化物であることを特徴とする。
請求項11に記載のガラス母材の製造方法は、請求項10に記載のガラス母材の製造方法において、前記ハロゲン化物は、塩化物および臭化物のいずれかであることを特徴とする。
請求項12に記載のガラス母材の製造方法は、請求項11に記載のガラス母材の製造方法において、前記塩化物は、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムのいずれかであることを特徴とする。
請求項13に記載のガラス母材の製造方法は、請求項11に記載のガラス母材の製造方法において、前記臭化物は、臭化カリウムであることを特徴とする。
請求項14に記載のガラス母材の製造方法は、請求項7に記載のガラス母材の製造方法において、前記アルカリ金属化合物は、塩化カリウムであり、80℃乃至120℃で加熱した乾燥ガスを流入させ、前記所定温度は、前記塩化カリウムの融点より高く1100℃より低い温度に設定されることを特徴とする。
請求項1に記載のガラス母材の製造方法では、ガラス融点まで加熱せずにアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を微粒子のままガラス母材表面に付着することが可能なので、高温に加熱するのがガラス加工時のみとなり、工程の低温化を図ることが可能となる。同時に、ガラス母材表面粗さを設定することのみで、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を高濃度に拡散させてガラス内部にドープ可能とすることができ、精密に添加物濃度制御されたガラス母材を製造することができる。
請求項7に記載のガラス母材の製造方法では、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の被堆積ガラス母材として、内壁面が平滑なガラス管を用意し、その内面にシリカ微粒子をあらかじめ堆積することで比表面積を増加させ、引き続き、リザーバ部とダミー管部の他端の間に設けた冷却部において、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の蒸気をそれらの微粒子に変換し、乾燥ガスと共にエアロゾルとして通過させ、ガラス管部へ送り届ける。したがって、本発明によれば、添加物濃度が精密に制御された雰囲気下において、高純度のシリカガラスに高濃度の添加物を添加することができ、光ファイバ用母材に適用可能な高純度のガラス母材の製造方法が得られる。
本発明の一実施形態によるガラス母材製造装置の構成を示す図。 本発明の一実施形態によるガラス母材の製造方法を実行した場合の、放射温度計で測定した、複合ガラス管外表面の長手方向に沿った温度プロファイルを示す図。 第二酸水素バーナをトラバースさせて加熱するガラス管部の外表面温度を変化させた場合の各実施例の結果を示す図。 各種物質の融点および沸点を表として示す図。 本発明の一実施形態によるガラス母材製造方法を示すフローチャート。 第二酸水素バーナのトラバース回数を変化させた場合の各実施例の結果を示す図。 堆積したシリカ粒子の表面状態を示す模式的図。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるガラス母材製造装置の構成を示す図である。同図に示すように、ガラス母材製造装置は、実質的に遷移金属などの不純物を含有しない純粋合成シリカ(SiO)ガラス製のガラス管部1(長さは例えば、800mm)と、その両端に融着接続された第一および第二ダミー管部2、3(長さは例えば、500mm)とを備えている。なお、このようにガラス管部1と、第一および第二ダミー管部2、3とが一体となったものをこれ以降、「複合ガラス管」と称し、その両端部は、図示しない一般的な改良型化学気相成長(MCVD)ガラス形成用旋盤に取り付けられているものとする。なお、ガラス管部と、第一および第二ダミー管部は、接続部材を介して接続されていてもよく、当初から、一体として製造されたガラス管部の両端の部分を、便宜上、ダミー管部としてもよい。
また、原料ガスを流通させる第一ダミー管部2の一部であって、ガラス管部1との接合部から所定距離(例えば、300mm)上流側を加熱して縮管し、所定幅(例えば、10mm)の第一窪み部21を形成し、第一窪み部21から所定間間隔(例えば、50mm)あけて、同様に、所定幅の第二窪み部22が設けられている。その結果、第一窪み部21と第二窪み部22の間の第一ダミー管部2の内部がリザーバ部23として画定されることとなる。このリザーバ部23に、所定量(例えば、3グラム)の例えば塩化カリウム(KCl)4(融点776℃)を固体のまま載置する。なお、前述のガラス管部1との接合部から第一窪み部21までの第一ダミー管部2の区間が、冷却部24となっている。また、第一ダミー管部2の上記接合部と反対側の端部からは、管の内部に乾燥酸素を流入させることができるようになっている。
また、図示のガラス母材製造装置は、リザーバ部23を外部から加熱するための第一酸水素バーナ5と、ガラス管部1の全長に渡ってトラバースしながらガラス管部1の内部をその外部から加熱するための第二酸水素バーナ6とを備えている。
図2は、本発明の一実施形態によるガラス母材の製造方法を実行した場合の、放射温度計で測定した、複合ガラス管外表面の長手方向に沿った温度プロファイルを示す図、図5は、本発明の一実施形態によるガラス母材製造方法を示すフローチャートである。以下、図1、図2、図5を参照しながら、本発明の一実施形態によるガラス母材の製造方法を説明する。
本実施形態のガラス母材の製造方法は、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物をガラス母材にドープするガラス母材の製造方法であって、図5に示すように、表面粗さの大きなガラス母材を準備する母材準備工程S1、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物原料を微粒子化する微粒子化工程S2、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子をガラス母材表面に堆積させる堆積工程S3、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子が酸化したアルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属の酸化物をガラス母材内で拡散させる酸化拡散熱処理工程S4とを有する。
まず、母材準備工程S1として、所望の表面粗さを有するガラス母材を準備する。
あるいは、滑らかな内表面を有する複合ガラス管をその軸周りに一定速度で回転させながら、その内部に100℃程度に加熱したSiClとOを含む原料ガスを流通し、ガラス管1の部分を1450℃程度に加熱して気相で二酸化ケイ素(SiO)微粒子に酸化し、これをガラス管1の内面に堆積、積層処理することでスートを形成するスート形成工程S111による表面粗さ設定工程S11を有する。なお、このようなスート形成工程S111以外に、表面粗さ設定工程S11は、滑らかなガラス表面をフッ酸、あるいは、フッ硝酸、混酸などによるウェット処理するものとすることもできる。あるいはまた、表面粗さ設定工程S11は、滑らかなガラス表面をドリル、砥石、サンドブラストなどによる機械的な研削するものとすることもできる。
スート形成工程S111においては、後工程である堆積工程S3および酸化拡散熱処理工程S4において、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物をガラス内部に拡散可能なように、ガラス母材表面粗さを大きくし、ミクロで見た場合の表面積を大きくすることが必要である。
ガラス管には予め、SiClを含む原料ガスを流通し、ガラス管1の部分を所望の温度で熱源をトラバースしつつ加熱してSiOを堆積し、次いでSiClに加えてGeClを含む原料ガスを流通し、ガラス管1の部分を所望の温度で熱源をトラバースしつつ加熱して二酸化ゲルマニウム(GeO)が添加されたSiOを、先に堆積したSiOの内側に接して堆積すること、あるいは、複合管ガラス管内にSiClに加えて四フッ化ケイ素(SiF)を含む原料ガスを流通し、ガラス管1の部分を所望の温度で熱源をトラバースしつつ加熱してフッ素が添加されたSiOを堆積し、次いでSiClを含む原料ガスを流通し、ガラス管1の部分を所望の温度で熱源をトラバースしつつ加熱してSiOを、先に堆積したフッ素が添加されたSiOの内側に接して堆積することなど、所望の層を堆積することができる。
このような所望の層構造を持ったガラス管1に表面粗さ工程を施し、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物の添加を行ってもよい。すなわち上記に例示した所望の層構造を持ったガラス管の滑らかな内表面に、スート形成工程S111による表面粗さ設定工程S11を施しても良い。
あるいは、上記に例示した所望の層をスート形成工程S111に示した方法を繰り返すことによりすべてスート状に形成して、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物の添加を行っても良い。すなわち、上記の前者の例ではスート状に堆積したSiOの内側に接して、GeOが添加されたSiOをスート状に堆積させることで、表面粗さ設定工程S11としても良い。
さらにあるいは、上記に例示した所望の各々の層を形成するごとに表面粗さ工程を施し、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の添加を行っても良い。すなわち上記の前者の例では、第一層としてSiOを、スート形成工程S111に示した方法によりスート状に形成して、表面粗さ設定工程S11とし、以下で説明する微粒子化工程S2、堆積工程S3、酸化拡散熱処理工程S4の透明ガラス化工程S41によりアルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物が添加された滑らかな内表面を持つガラス管とし、第二層としてGeOが添加されたSiOを、同様の工程により形成し、さらに同じく添加しても良い。
さらにあるいは、上記に例示した所望の層の特定の層にのみ、表面粗さ設定工程S11を施し、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を添加しても良い。
次いで、微粒子化工程S2の準備として、複合ガラス管を回転させながら、第一ダミー管部2の前述の端部からその内部に、80℃〜120℃のある温度に加熱した乾燥酸素を所定の流速(例えば、1.65SLM(標準体積L/min))で流入させる一方、第一酸水素バーナ5を熱源として、リザーバ部23を略780℃で加熱し、塩化カリウム(KCl)4を溶融させる。塩化カリウム4を融解させたまま、加熱した乾燥酸素を所定の流速で更に10分以上流通させることで、塩化カリウム4を乾燥させる。次に、リザーバ部23を冷却し、実質的に塩化カリウムの蒸気が発生しないようにする。
次に、微粒子化工程S2の蒸気化工程S21として、80℃〜120℃のある温度に加熱した乾燥酸素を複合ガラス管内に所定の流速(例えば、1.65SLM)で流通させながら、再度、第一酸水素バーナ5により、リザーバ部23のガラス外表面を780℃〜950℃のある温度で加熱すると、リザーバ部23内の塩化カリウム4は溶融し、その一部は、加熱温度における蒸気圧に従って蒸気となる。融点以下の加熱では実質的に塩化カリウムの蒸気が発生しないため、融点以上までの加熱が必要である。なお、後述の実施例が示す通り、このときの加熱温度は、塩化カリウムの融点以上で、かつおよそ100℃程度高い温度範囲、すなわち780℃〜900℃が、より好適である。
このように発生した塩化カリウム4の蒸気は、微粒子化工程S2の冷却工程S22として、流通させているより低温の酸素により直ちに冷却されて凝結、微粒子状の固体となり、酸素ガスによりガラス管部1内にエアロゾルとして搬送される。図2の温度プロファイルは、リザーバ部23、冷却部24、およびガラス管部1の長さが、それぞれ、50mm、300mm、および800mmの場合を示しているが、同図に示すように、長さ300mm程度の冷却部24を設けていれば、100℃以下まで十分に冷却されることが分かる。但し、これは、十分な値であり、塩化カリウム4の融点以下まで冷却すれば、本発明の効果を得るに必要な粒子化現象は発生する。なお、このとき、室内光の散乱が観察されれば、およそ200nm以上の粒径の微粒子を含むことは明らかであるが、概ね100μm程度よりも大きな粗大粒子は、ガラス管部1まで到達せず、直ちに沈降してリザーバ部23の溶融塩化カリウム4に溶解するか、又は第一ダミー管部2の内壁に堆積する。
塩化カリウム4の微粒子の搬送が定常状態となった後、堆積工程S3として、熱源として第二酸水素バーナ6をガス流の上流側から下流側へ所定の速度(例えば、およそ100mm/min)でトラバースさせつつ、ガラス管部1の外表面を1000℃程度(900℃〜1100℃)のある温度に加熱する。ここで、塩化カリウムが酸化されて酸化カリウムにならない温度、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が酸化されて酸化物となる温度以下室温以上に設定されることが重要である。
なお、図2には、1050℃に加熱する場合のガラス管外表面の温度プロファイルを示している。
この段階において、塩化カリウム4の微粒子は、その粒径を維持したままガラス管部1の内壁に堆積されるものと考えられる。このとき、塩化カリウム4の微粒子は熱酸化されて酸化カリウム(KO)となっていないので、塩化カリウム4の微粒子が堆積・付着した状態で再度トラバースした第二酸水素バーナ6によってガラス管部1を加熱すると、加熱温度が塩化カリウム4の融点よりも低い場合は、塩化カリウム4の濃度がほとんど減少してしまうことはなく、一方、加熱温度が融点よりも高い場合は、塩化カリウム4の一部は蒸発するものの溶融した大部分は表面粗さを粗くすることで生じた空孔部分の深部に流れ込むことができる。また一部は、ガラス管の内部へと拡散すると思われる。
なお、第二酸水素バーナ6のトラバースによる加熱は、1回とは限らず、後述のように、所望の濃度まで酸化カリウムがシリカガラスに添加されるよう、複数回行ってもよい。上記加熱温度が塩化カリウム4の融点よりも高い場合は、塩化カリウム4の一部は蒸発するものの溶融した大部分は表面粗さを粗くすることで生じた空孔部分の深部に流れ込むことができるため表面濃度が下がり、トラバース加熱の回数を増やすことによって、添加濃度を増大することができると思われる。かかる第二酸水素バーナ6によるトラバース加熱の後、リザーバ部23の加熱をやめて冷却し、塩化カリウム蒸気の発生を停止し、堆積工程S3を終了する。
最後に、このようにして作製したガラス管部1を、酸化拡散熱処理工程S4として、酸素を含むガスを流通させながら従来の技法を用いて後工程を行う。すなわち、透明ガラス化工程S41としてスート状のSiOを透明ガラス化し、次いで変形・成形工程S42として縮管し、中実のガラス棒にコラプスする。この際の加熱により、ガラス管部1内表面に付着、あるいは、スートの空孔内部にある塩化カリウム微粒子4を熱酸化して酸化カリウム(KO)とするとともに、同時にこの酸化カリウムをガラス管部1の内部に拡散させる。したがって、酸化拡散熱処理工程S5におけるガラス母材温度が、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が酸化されて酸化物となる温度以上に設定されることが好ましい。また、ガラスの形状が急激に変化しない範囲で上限温度を設定すれば良く、例えばシリカガラスを用いる場合には2700℃程度以下とすればよい。
上記で説明した各工程の間に種々の判定工程を設けても良い。例えば、表面粗さ設定工程S11をスート形成工程S111により行う場合には、レーザー外形測定器によりスートの堆積厚さを計測して充分なスート厚みがあるかを判定することができ、不足の場合には再度表面粗さ設定工程S11を繰り返せば良い。また、堆積工程S3の後にスートの一部を採取して蛍光X線分析することにより、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物の含有濃度を計測して充分な濃度まで添加されているかを判定することができ、不足の場合には微粒子化工程S2から繰り返せばよい。あるいはまた、複数の層を持つガラス管を形成する場合には、透明ガラス化工程S41の後にレーザー外形測定器によりガラス厚さを計測して充分なガラス厚みがあるかを判定することができ、不足の場合には再度表面粗さ設定工程S11から繰り返せば良い。
以上のように、本発明のガラス母材の製造方法の一実施形態においては、第一酸水素バーナ5による加熱で発生した塩化カリウム4の高温の蒸気は、冷却部24の部分で、複合ガラス管内を流通させているより低温の酸素により直ちに冷却されて凝結し、微粒子状の固体となり、さらに酸素ガスによりガラス管部1内にエアロゾルとして搬送させている。
このとき、塩化カリウム4に対する加熱温度を調整することにより、塩化カリウム4の蒸気の蒸気圧、すなわち発生量を制御でき、また、キャリアガス、すなわち酸素ガスの温度と流量および流速を調整することにより、凝集速度を制御できることから、エアロゾル中の塩化カリウム微粒子の濃度、粒径などは容易に制御可能である。ゆえに、エアロゾル中の微粒子の粒径等が事実上制御できるのであれば、しかして、ガラス管部1の内部への酸化カリウムの添加(ドープ)濃度を精密に制御できる。またこの方法によれば、水や水素原子を含む化合物を用いないため、合成するガラス内の水酸(OH)基の生成を抑制できることとなる。さらに、強加熱によるカリウム金属蒸気の発生なしに酸化カリウムがドープされたシリカガラスを製造することが可能になり、より低消費エネルギーで光ファイバを製造することが可能となる。さらに、酸化拡散熱処理工程S4になるまで塩化カリウム4を酸化して酸化カリウムを作らなくてよく、酸化拡散熱処理工程S4で必須の加熱条件で同時に塩化カリウム4の酸化および酸化カリウムの拡散が進行するので、堆積工程S3においてさらに低温化を図ることが可能となる。また、堆積工程S3において堆積される塩化カリウム4の濃度を高めることができるため、短時間で必要な濃度までドープすることが可能であるので短時間化を図ることが可能となる。しかも、添加物の偏析、結晶化などを起こすことが少ないので、これら低温化短時間化を実現することができる。
よって、かかる製造方法により製造されたガラス母材を利用して光ファイバを作製すれば、低損失な光ファイバがより安価に作製できる。
なお、以上の実施形態においては、化合物(塩)として塩化カリウムを採用し、添加物は酸化カリウムとしたが、これに限られることはない。すなわち、化合物を形成する金属イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属イオンや、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオンが採用できる。また、化合物としては、ハロゲン化物(塩化物、臭化物、フッ化物、ヨウ化物)、硫化物、炭酸塩、炭酸水素塩などを採用できる。原料としていずれを採用するかの観点は、それらの融点、各温度における蒸気圧、蒸気の熱容量などの物質固有の物性により適宜選択される。エアロゾル中での微粒子の分散は、分子量よりもその微粒子が占める体積が決定的な影響を持つため、ここで挙げたような方法で生じる微粒子の粒径を精密に制御することがより重要である。
なお、化合物として、水酸化物、水素化物、有機酸の塩なども使用することが可能である。これらの化合物は分子内に水素を含んでおり、ガラス内のOH基生成の原因となる可能性があるため、必ずしも好適ではないが、追加の脱水工程を加えることで同様の効果が期待できる。
また、上述の実施形態においては、乾燥酸素を流入させたが、純粋な酸素である必要はなく、酸素を含む乾燥した気体であればよい。さらに、スート形成工程S111、および酸化拡散熱処理工程S4を除いては酸素を含む必要はなく、いわゆる不活性ガス、窒素ガス、アルゴンガス等を用いることができる。
また、上述の実施形態においては、一般的なMCVD法を採用して、二つの加熱手段として共に酸水素バーナを用いているが、加熱の手段として酸水素バーナによる火炎を用いる代わりに電気炉、プラズマ加熱などの加熱手段に変更しても、あるいはこれらを組み合わせて用いてもよい。
特にアルカリ金属化合物、又はアルカリ土類金属化合物の微粒子化が可能な加熱手段と、堆積時に必要な温度状態を維持する温度維持手段、および、拡散・酸加熱処理に必要な温度状態を実現可能な加熱手段であれば、どのようなものでも適応することが可能である。
このようにして作製したアルカリ金属酸化物、又はアルカリ土類金属酸化物添加シリカガラスは、前述のように、光ファイバにすることで低損失となることが期待される。このガラス母材を光ファイバとするためには、従来の一般的な方法、例えば、複合ガラス管内にSiClを含む原料ガスを流通し、ガラス管1の部分を所望の温度で熱源をトラバースしつつ加熱して二酸化ケイ素(SiO)を堆積させ、次いでSiClに加えてGeClを含む原料ガスを流通し、ガラス管1の部分を所望の温度で熱源をトラバースしつつ加熱して二酸化ゲルマニウム(GeO)が添加されたSiOを、先に堆積したSiOの内側に接して堆積して、あるいは、複合管ガラス管内にSiClに加えて四フッ化ケイ素(SiF)を含む原料ガスを流通し、ガラス管1の部分を所望の温度で熱源をトラバースしつつ加熱してフッ素が添加されたSiOを堆積させ、次いでSiClを含む原料ガスを流通し、ガラス管1の部分を所望の温度で熱源をトラバースしつつ加熱してSiOを、先に堆積したフッ素が添加されたSiOの内側に接して堆積して、後に光ファイバとしたときにそれぞれクラッドとコアの機能を発揮するに適切な比屈折率分布を有するガラス管1をあらかじめ用意し、所望の層構造を持ったガラス管1に表面粗さ工程を施しても良く、これに本願で開示した製造方法にてアルカリ金属化合物、又はアルカリ土類金属化合物を堆積・酸化拡散させてアルカリ金属酸化物、又はアルカリ土類金属酸化物を添加すればよい。
あるいは、上記に例示した所望の層をスート形成工程S111に示した方法を繰り返すことによりすべてスート状に形成して、表面粗さ設定工程S11としても良く、これに本願で開示した製造方法にて同じく添加すればよい。
さらにあるいは、上記に例示した所望の各々の層を一層ごとスート形成工程S111に示した方法によりスート状に形成して、表面粗さ設定工程S11とし、これに本願で開示した製造方法にて同じく添加するという一連の工程を繰り返せば良い。
さらにあるいは、上記に例示した所望の層の特定の層にのみ、表面粗さ設定工程S11を施し、これに本願で開示した製造方法にて同じく添加すれば良い。
このようにして作製した、適切な比屈折率分布を有するアルカリ金属酸化物、又はアルカリ土類金属酸化物添加シリカガラスは、従来の一般的な方法、例えば、外付け法、ロッドインシリンダ(RIC)法などを適用して、外形が所望のコア/クラッド比となるように、さらに外周部にガラスを付け加えることもできる。あるいは従来の一般的な方法、例えば、機械的な切削、研磨、フッ酸による溶解などを適用して、外形が所望のコア/クラッド比となるように、外周部のガラスを削り取ることもできる。次いで従来の方法により所望の太さに延伸し、さらに従来の方法により紡糸を行えばアルカリ金属酸化物、又はアルカリ土類金属酸化物が添加された光ファイバを製造することができる。これらの方法は当業者が自由に選択することができる。
なお、酸化拡散熱処理工程S4においては、2000℃程度にしてガラス内部での粒子状シリカであるスートの溶融とアルカリ金属化合物、又はアルカリ土類金属化合物の酸化、およびアルカリ金属酸化物、又はアルカリ土類金属酸化物の拡散を促進させることが好ましい。スート形成工程S111は、15〜30%程度のかさ密度とすることが好ましい。微粒子化工程S2においては、100nmオーダー以下の微粒子とすることが好ましい。また、ウェット処理された表面粗さ設定工程S11に続いて、塩化カリウム水溶液を加熱したガラス表面に塗布して微粒子として附着させ、微粒子化工程S2と堆積工程S3とを同時におこなうこともできる。さらに、ガラス管内面での堆積に限らず、アルカリ金属化合物、又はアルカリ土類金属化合物雰囲気内に載置したガラス母材表面にアルカリ金属化合物、又はアルカリ土類金属化合物を堆積した後、酸化拡散熱処理工程S4によって、酸化・拡散してアルカリ金属酸化物、又はアルカリ土類金属酸化物が添加されたシリカガラスを製造することもできる。
また、一般的なMCVD法でのガラス母材作製では、移動する酸水素バーナによる加熱で酸化物微粒子が形成され、その微粒子が加熱部分の下流側のガラス管内部に堆積したのち、移動してきたバーナによる加熱で焼結されて透明ガラス化する。これに対して、本発明のように上記の温度条件で作製すると、生成したガラス微粒子が焼結せずに多孔質体のスートとしてガラス内壁に堆積する。このようにして作製したスートの比表面積は、元のガラス管に比べて2から3桁程度大きくすることができる。さらにこのスートを適切な温度条件で加熱すると、透明ガラス化することができる。このような大比表面積のガラススートを被添加ガラス材とすることで、たとえ単位面積当たりのKCl堆積量が小さくても、高濃度のKO添加が可能になった。また、スート表面に堆積したKClがスートの多孔質内部にまで拡散することでKClの表面濃度が下がり、KOの添加がスートの径方向に対してより均一に行われるため、KClの偏析や結晶化を抑制することができた。
以下、各種の具体値によるいくつかの実験例を示す。
(実験例1)
ガラス管部1として、1ppm未満の水酸基を含有し、かつ鉄イオンが0.005ppm未満、アルミニウムイオンが0.05ppm未満であって、外径32mm、肉厚2.5mm、長さ800mmの純粋合成シリカガラス製の内表面、外表面がともに平滑な透明ガラス管(信越石英製、Suprasil-F300) を採用した。また、第一および第二ダミー管部2、3として、長さおよそ500mmで、ガラス管部1と同じ外径、肉厚の純粋合成シリカガラス製のダミー管を採用した。ガラス管部1と第一および第二ダミー管部2、3を一体化した複合ガラス管の両端部を、MCVDガラス形成用旋盤に取り付けた。
また、第一窪み部21は、ガラス管部1との接合部から略300mm上流側に、略10mm幅で設けられており、第二窪み部22は、第一窪み部21から略50mm上流側に、略10mm幅で設けた。また、リザーバ部23に置かれる塩化カリウム4は、トリケミカル製で、純度99.999%以上であり、量は、およそ3グラムとした。
以上の準備の後、旋盤により複合ガラス管をその軸周りに一定速度で回転させながら以下の操作を行った。
乾燥酸素の加熱温度は、100℃とし、その流速を1.65SLM(標準体積L/min)とした。また、第一酸水素バーナ5により塩化カリウム4を一旦蒸気化するための温度を、およそ800℃〜850℃(融点より100℃程度以下高い)とした。
KClを融解したままさらにおよそ100℃に加熱した乾燥酸素を1.65SLMの流速で10分以上流通させることでKClを乾燥した。
次いで、リザーバ部を冷却した後、通常のMCVD法よりも加熱温度が低い条件として、ガラス管部1の内壁に純粋シリカガラスのスートを形成した。すなわち、ダミー管の上流からおよそ100℃に加熱した乾燥四塩化ケイ素(SiCl)を含む乾燥酸素を導入し、酸水素バーナの火炎をトラバースしつつガラス管部1の外表面の温度をおよそ1450℃に加熱することで、ガラス管部1の内壁に粒径がおよそ数十から数百nmの微粒子状の純粋シリカガラスからなるスートを堆積した。
次に、およそ100℃に加熱した乾燥酸素を複合ガラス管内に1.65SLMで流通させながら、再度リザーバ部23のガラス外表面の温度をおよそ800〜900℃(融点より100℃程度以下高い)程度まで加熱し、KClの一部をその温度における蒸気圧に従って蒸気とした。発生したKCl蒸気は、流通させているより低温の酸素により直ちに冷却されて凝結し、微粒子状の固体となり、酸素ガスによりガラス管1内にエアロゾルとして搬送された。
このときの微粒子の粒径は、室内光の散乱が観察されたことから、およそ200nm以上の粒径の微粒子を含み、直ちに沈降するおおむね100μm程度よりも大きな粗大粒子は含まない。KCl微粒子の搬送が定常状態となった後、熱源として第二酸水素バーナ6をガス流の上流側から下流側へおよそ100mm/minの速度でトラバースさせつつガラス管部1の外表面を1000℃に加熱した。KClからKOへの気相酸化反応は1100℃以上になって初めて進行することを発明者らは見出したことから、本条件ではKCl微粒子は酸化されることなくスート表面に堆積しているものと思われる。トラバースを3回行った後、リザーバ部23の加熱をやめて冷却した。さらに熱源として酸水素バーナ6をガス流の上流側から下流側へおよそ100mm/minの速度でトラバースさせつつガラス管部1の外表面を1700℃以上に加熱して、スートを透明ガラス化した。
このようにして作製したガラス管部を、従来の技法を用いて縮管、中実のガラス棒にコラプスした。
次に、第二酸水素バーナ6のトラバース回数を重ねることで、任意の濃度まで酸化カリウムを添加することが可能と思われることから、以下の実験例を行った。
(実験例2)
ガラス管部1の加熱のトラバース回数を5回にして行った以外は、実験例1と同様に行った。
(実験例3)
ガラス管部1の加熱のトラバース回数を10回にして行った以外は、実験例1と同様に行った。
(実験例4)
実験例1に用いたガラス複合管1にリザーバ部を設けず、KClの添加も行わずに、その他の工程を経てガラス棒を作製した。
以上のように作製したガラス棒の比屈折率分布を、プリフォームアナライザにより測定した。実験例4で作製したガラス棒の中心部の純粋シリカの比屈折率に対する、実験例1から3で作製したガラス棒の中心部の比屈折率変化の割合を、トラバース回数の関数としてプロットしたところ図6(○印)を得た。
ところで、一般に、シリカガラスへの添加物濃度が低濃度の場合、その比屈折率変化は添加物濃度に比例することが知られている。KOの添加による屈折率変化の比例定数は、非特許文献1によると+1.8×10−3[Δ/mol%]と報告されており、これを用いて換算したKOの添加濃度を右軸に示してある。
当業者であれば、トラバース回数に応じてKOの添加濃度を制御できると容易に想像できるとおり、トラバース回数に対して比屈折率差が単調に増加する様子が認められたが、トラバース回数の増加に伴って頭打ちの傾向が見られた。このことはKClの添加量が堆積速度だけではなく、ガラス中への拡散速度にも影響されていることを示していると思われる。
また、リザーバ部23の加熱温度は、粒径に影響する一方で、無論、微粒子濃度にも影響するので、より高い温度、例えば900℃前後で行えば、トラバース回数の増加に応じて、図6の傾向より傾きが大きくなることが容易に予想でき、少ないトラバース回数で高い濃度のKOの添加が可能となる。逆により低い温度、例えば800℃前後で行えば、トラバース回数の増加に応じて、図6の傾向より傾きが小さくなることが容易に予想でき、より厳密にKOの添加濃度を制御することが可能となる。
シリカ微粒子からなるスート形成によるガラス管の表面積増大の効果を確認するため、スートを形成せずに平滑な透明ガラス管へのKOの添加を試みた。
(実験例5)
シリカスートの形成工程を行わなかった以外は実験例1と同様に、第二酸水素バーナ6をトラバースさせて、回転させつつ加熱するガラス管部1の外表面温度を1000℃とし、そのトラバース速度を、およそ100mm/minとし、トラバースを3回行って酸化カリウムを添加して作製したガラス管部1を、同様に縮管、コラプスを行い、中実のガラス棒とした。
(実験例6)
ガラス管部の加熱のトラバース回数を6回、および10回にして行った以外は、実験例5と同様に行った。
実験例6では、トラバース回数を重ねるたびにガラス管1の内壁に析出する結晶の数が増加し、縮管、コラプスの過程でガラス内に気泡が発生したため、正確な比屈折率の測定ができなかった。そのため、実験例5で作製したガラス棒のみ、先と同様に、実験例4で作製したガラス棒の中心部の純粋シリカの比屈折率に対する比屈折率変化の割合を、トラバース回数の関数として図6(△印)にプロットした。同じトラバース回数で比べると、被堆積ガラスとして平滑な透明ガラスではなくスートを形成したガラスにすると比屈折率変化は2から3倍程度まで増加している、すなわちKOが2から3倍程度の濃度まで添加されていることがわかる。
上記のスート形成工程の条件でシリカ微粒子を堆積して形成されているスートの比表面積は、平滑な透明ガラスの表面に比べて2から3桁程度も大きいが、比屈折率の変化量はそれほど大きくなく、添加されたKOの量も2から3倍程度と多くない。堆積したシリカ微粒子が理想的に球形で最密充填しており、最表面の一層のみが表面積の拡大に寄与しているとすると、図7に示した模式図のように、平面から半球が表面から突き出たような構造を持つ表面が仮定でき、このときの表面積は平面の面積の(1+π/4)倍にしかならない。
図7は、堆積したシリカ粒子の表面状態を模式的に示すものであり、(a)は表面図、(b)は厚さ方向の断面図である。図7において、最表面のシリカ粒子1層を実線で示し、最表面から2層目のシリカ粒子を点線で示し、最表面から3層目のシリカ粒子を一点鎖線で示している。
にもかかわらず、図6に示すように、2から3倍程度とより多くのKOが添加されていることから、KCl微粒子は気相を拡散して、堆積しているシリカ微粒子スートの深部にまでは到達していないものの、少なくとも表面から数層のシリカ微粒子の表面までは拡散していると思われる。また、ここでの加熱温度はKClの融点よりも高いため、溶融したKClがスートの多孔質の空孔内を流れて表面から数層にわたるシリカ微粒子の表面まで到達していることが考えられる。
実験例6ではKClの偏析、あるいは結晶化が進行して添加量を増加させることが困難だったのに対して、実験例2、3では、さらに高濃度のKOが添加されていることが示された。これは、透明ガラス化したシリカガラスの場合、堆積したKCl微粒子はガラスバルク中を拡散するしかなく、1000℃程度の低温ではその拡散が遅いため、トラバース回数を重ねて新たなKClが堆積するにつれて表面濃度が高まるため偏析したり、結晶化を引き起こしたりしているのに対して、シリカ微粒子から形成されているスートの場合には、堆積したKClがシリカガラスバルク中を拡散しているだけではなく、シリカ微粒子からなるスートの多孔質空孔内を通ってシリカ微粒子表面をより高速に拡散することでスートの表面から数層にわたるシリカ微粒子の表面まで達しており、最表面でのKCl濃度を低下させることで偏析や結晶化を抑制しているためだと思われる。もしガラス管の加熱温度が1000℃の条件でKClが気相酸化されて、融点が高くガラス化しやすいKOが生成していれば、実験例6においてKClの偏析、あるいは結晶化が認められることはなく、実験例1乃至3において溶融拡散してシリカスートの内部数層まで拡散することはないことから、KClが微粒子のままスート表面に堆積していることは明白である。
これらのことから、上記の堆積工程の条件では、KClが酸化されず微粒子のままスート表面に堆積していること、スートの多孔質構造の空孔の深部まではKCl微粒子が気相を拡散していないこと、スートを構成しているシリカ微粒子の表面近傍の数層にわたってKCl微粒子が堆積していること、KCl微粒子がシリカ微粒子表面を拡散してスート内部に到達していること、および後続の酸化拡散処理工程に至って始めてKClの酸化反応が進行していることが明らかとなった。
換言すれば、表面積を数倍ないしは十数倍程度まで増大することができれば、2から3倍程度多くのKOを添加することができ、それ以上の表面積の増大は大きな効果をもたらさないことが予想される。そのため、フッ酸などの酸によるウェット処理や、砥石やサンドブラストなどの機械的研削処理で表面粗さを増大させるような、それほど表面積を大きくできない処理方法でも同程度の効果が得られることが容易に想像できる。
微粒子状のKClの気相酸化反応が進行する温度条件が不明なため、以下の実験を行った。
(実験例7)
リザーバ部23の加熱温度をおよそ850℃〜900℃(融点より100℃程度高い)とし、第二酸水素バーナ6をトラバースさせて、回転させつつ加熱するガラス管部1の外表面温度を1000℃、1300℃、1500℃、1700℃、1850℃とし、トラバースを1回行った以外は、実験例5と同様に行った。
以上のように作製したガラス棒の比屈折率分布を、プリフォームアナライザにより測定した。実験例4で作製したガラス棒の中心部の純粋シリカの比屈折率に対する、実験例7で作製したガラス棒の中心部の比屈折率変化の割合を、ガラス管部1の加熱温度の関数としてプロットしたところ図3のグラフを得た。また図6と同様にして換算した酸化カリウムの添加濃度を右軸に示してある。
図3に示すように、温度の逆数に対して比屈折率変化の割合をプロットすると、ガラス管部1の加熱温度1300℃以上の範囲ではよい直線性を示す。また、加熱温度1000℃の場合、実験例1乃至3、および5で観測されたのと同様に比屈折率変化の割合の値は0(ゼロ)とはならなかった。図3に補助線で示したように、加熱温度1100℃以上の範囲では、加熱温度から、比屈折率、ひいてはKOのガラスへの添加濃度が線形に予測できることが分かり、この温度範囲においてはKCl微粒子が気相中でKOに酸化されガラスに堆積したものと思われる。また、加熱温度略1100℃以下では、KClのKOへの気相での酸化反応が進行していないと思われ、ガラス表面に未反応のまま堆積したKClの一部がガラス中に拡散して取り込まれることにより比屈折率変化が示現したと思われる。すなわち、加熱温度を略1100℃以下とすることでKClのKOへの酸化を伴わずにガラス表面に堆積することができることが判明した。
(実験例8)
ガラス管部1内に流通する乾燥酸素の温度を80℃にし、リザーバ部23の温度を780〜850℃程度(融点より100℃以下程度高い)で行った以外は、実験例1と同様に行った。
(実験例9)
ガラス管部1内に流通する乾燥酸素の温度を120℃にした以外は、実験例8と同様に行った。
リザーバ部23の温度を下げ、かつ加熱して発生させたKCl蒸気の冷却を行う乾燥酸素の温度を変化させて実験を行ったところ、複合ガラス管内を流通するガスに光の散乱はほとんど認められず、KClは、概ね100nm以下の粒径の微粒子として搬送されていると考えられる。また、KOが添加されたガラスの比屈折率変化は、図3に示したプロットのばらつきの範囲内で実施例1のトラバース回数3回の場合の結果と一致した。第一酸水素バーナ5による加熱で生成したKCl蒸気の温度に比べて十分に低い温度の乾燥酸素により冷却することで、粒径100nm以下のKCl微粒子が形成されているものと思われる。
(実験例10)
塩化カリウムに代えて臭化カリウム(KBr)を用いた以外は、実験例1と同様に行った。
(実験例11)
塩化カリウムに代えて塩化ナトリウム(NaCl)を用いた以外は、実験例1と同様に行った。
図4に示すように、KBrおよびNaClの融点は、KClとほぼ同程度であり、化学的性質も似ているため、実験例1と同じ条件で行い、作製したガラス棒の比屈折率分布を、プリフォームアナライザにより測定した。実験例4で作製したガラス棒の中心部の純粋シリカの比屈折率に対する比屈折率変化の割合は、それぞれ0.007±0.003,0.006±0.003%程度となり、非特許文献1に示されているKO、NaOの添加による屈折率変化の比例定数、+1.8×10−3、+1.5×10−3[Δ/mol%]を用いて算出されるKO、NaOの添加濃度は、それぞれ0.005±0.003[mol%],0.005±0.003[mol%]となり、いずれもKClを用いて作製した実験例1の結果と同程度であった。
上記の実験例においては、原料にKCl、NaCl、KBrを用いた場合の具体的な温度条件に基づいて記述したが、用いるアルカリ金属化合物、又はアルカリ土類金属化合物の融点、各温度における蒸気圧、蒸気の熱容量などの物質固有の物性によって適宜選択されるべきものである。エアロゾル中での微粒子の分散は、分子量よりもその微粒子が占める体積が決定的な影響を持つため、ここで挙げたような方法で生じる微粒子の粒径を精密に制御することがより重要である。
上述した実験例や実施形態では、純粋合成シリカからなるガラス管を用いてアルカリ金属酸化物を添加した棒状のガラスを製造するための製造方法について詳細に述べたが、ガラス管に代えて所望の比屈折率分布を持つガラス管を用いるならば、アルカリ金属酸化物を添加したコア母材が製造できるため、本発明は光ファイバ母材の製造方法に適用することが可能である。また、ガラス管に代えて所望の形状とされたガラス材を用いれば、種々のガラス製品、たとえばレンズや窓硝子、光学用フィルター、屈折率の面内分布が精密に設定される面内屈折率変動ガラス板や、透明電極や導電性ガラスを基板板ガラスに堆積するものなどの製造にも利用できることは言うまでもない。
本発明の製造方法は、特に低損失な光ファイバを製作するのに適したガラス母材の製造に適用できる。
1 ガラス管部、2 第一ダミー管部、21 第一窪み部、22 第二窪み部、23 リザーバ部、24 冷却部、3 第二ダミー管部、4 塩化カリウム、5 第一酸水素バーナ、6 第二酸水素バーナ。

Claims (14)

  1. アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物をガラス母材にドープするガラス母材の製造方法であって、
    表面粗さの大きなガラス母材を準備する母材準備工程と、
    アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物原料を微粒子化する微粒子化工程と、
    前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子をガラス母材表面に付着させる付着工程と、
    前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子を酸化するとともに、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物をガラス母材内で拡散させる酸化拡散熱処理工程と、
    を有することを特徴とするガラス母材の製造方法。
  2. 前記堆積工程におけるガラス母材温度が、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が酸化されて酸化物となる温度以下室温以上に設定されることを特徴とする請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
  3. 前記酸化拡散熱処理工程におけるガラス母材温度が、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が酸化されて酸化物となる温度以上前記ガラス母材が急激に変形する温度未満に設定されることを特徴とする請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
  4. 前記母材準備工程において、気相からのシリカ微粒子の堆積処理によりスートを形成する表面粗さ設定工程を有することを特徴とする請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
  5. 前記表面粗さ設定工程が酸によるウェット処理による表面粗さ設定工程を有することを特徴とする請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
  6. 前記表面粗さ設定工程が機械的研削処理による表面粗さ設定工程を有することを特徴とする請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
  7. ガラス母材の製造方法であって、
    ダミー管部内のアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を、第一熱源により所定温度で加熱して蒸気化させる一方で、前記ダミー管部の一端から、酸素を含む乾燥ガスを流入させることにより、前記ダミー管部内において、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の蒸気を、前記乾燥ガスの移動に伴って冷却して、凝結させ、微粒子化する工程と、
    前記乾燥ガスの移動に伴って、前記ダミー管部の他端に接続されたガラス管部に搬送された前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子を堆積することで付着させる工程と、
    トラバースさせる第二熱源により、前記ガラス管部を加熱し、前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の微粒子を酸化するとともに、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を前記ガラス管部の内部に拡散させる工程と、
    前記微粒子堆積前に前記ガラス管部の内壁にシリカ微粒子を堆積させて表面粗さを増大する工程と、
    を含むことを特徴とするガラス母材の製造方法。
  8. 前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の蒸気は、その融点以下に冷却されることを特徴とする請求項7に記載のガラス母材の製造方法。
  9. 前記微粒子の粒径は、100μm以下であることを特徴とする請求項7に記載のガラス母材の製造方法。
  10. 前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物は、ハロゲン化物であることを特徴とする請求項7に記載のガラス母材の製造方法。
  11. 前記ハロゲン化物は、塩化物および臭化物のいずれかであることを特徴とする請求項10に記載のガラス母材の製造方法。
  12. 前記塩化物は、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムのいずれかであることを特徴とする請求項11に記載のガラス母材の製造方法。
  13. 前記臭化物は、臭化カリウムであることを特徴とする請求項11に記載のガラス母材の製造方法。
  14. 前記アルカリ金属化合物は、塩化カリウムであり、80℃乃至120℃で加熱した乾燥ガスを流入させ、前記所定温度は、前記塩化カリウムの融点より高く、1100℃より低い温度に設定されることを特徴とする請求項7に記載のガラス母材の製造方法。
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