伝動ベルト、タイヤ等のゴム製品に引っ張り強さおよび寸法安定性を与えるために、ガラス繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維およびポリエステル繊維等の引っ張り強度の高い繊維を母材ゴムに補強材として埋設することは一般的に行われ、母材ゴムに埋設するゴム補強用繊維には、母材であるゴムとの界面が強固で剥離しないことが必要とされる。しかしながら、ガラス溶融窯のブッシングノズルより吐出させることで紡糸した径、数μmの多数本のガラス繊維フィラメントに、シランカップリング剤および樹脂等を含有する集束剤を散布し集束させたストランド、言い換えれば、ガラス繊維コードをそのまま母材ゴムに埋め込んでも、界面が剥離してしまい補強材としての用をなさない。そのため、伝動ベルトを製造する際に母材ゴムに埋設して使用するゴム補強用ガラス繊維において、母材ゴムと接着するための被覆材をストランドに塗布被覆し被覆層を設ける。
例えば、自動車用伝動ベルトは高温のエンジンル−ム内で使用されるため、前記被覆処理を行ったゴム補強用ガラス繊維を埋設し芯線とした伝動ベルトであっても、高温下において屈曲走行し続ける過酷な状況において、ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムとの初期の接着強さが持続されず、長時間の走行においては、ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムとの界面の剥離をきたすこともある。
自動車用伝動ベルトには、高温下のエンジンルーム内、水がかかり、エンジンオイル、潤滑油等の油が付着する過酷な環境下における長時間の屈曲走行後において、引っ張り強さを持続し伸びがなく寸法安定性に優れていることが要求される。特に、タイミングベルトは、エンジンのカムシャフトおよびクランクシャフトを連結し、バルブの開閉をピストンの上下動に連動させるもので歯付きベルトが使用され、過酷な条件下の長時間の屈曲走行において、破損は言うにおよばず、少しの伸びも許されない。
タイミングベルトの母材ゴムは、耐熱ゴムである水素化ニトリルゴムが用いられ、芯線には耐久性が有り、アラミド繊維に比べ安価なことからゴム補強用ガラス繊維が用いられ、さらなる耐久性の向上が望まれている。尚、水素化ニトリルゴムは水素添加ニトリルゴムとも呼ばれ、アクリロニトリルとブタジエンが共重合したニトリルゴムの主鎖中に残存する不飽和結合である−C=C−結合に水素添加し飽和させ、化学的に安定化させることで、耐熱性、耐化学薬品性、耐候性を向上させたものである。
伝動ベルトとし高温下長時間屈曲走行させてもゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムの初期の接着強さを持続する耐熱性に加え、伝動ベルトに水をかけつつ長時間走行させても、被覆層がストランドへの水の浸透を防ぐことで初期の接着強さを持続する耐水性を伝動ベルトに与えるゴム補強用ガラス繊維を芯線とした伝動ベルトの開発が待たれている。特に耐油性に優れた伝動ベルトの開発が待たれている。
伝動ベルトを製造する際に、母材ゴムに埋設して使用するゴム補強用ガラス繊維には、母材ゴムとの接着性を改善するための被覆材がストランドに塗布被覆されたもの、およびストランドに被覆材を塗布被覆した後、複数本のストランドを撚りさらなる被覆材が塗布被覆されたもの等がある。尚、ゴム補強用ガラス繊維に耐屈曲性を与え強度を増すために、ストランドを一定方向に撚り被覆材を塗布する工程、複数本のストランドを纏めて前記方向と同一方向あるいは逆方向に撚る工程、またはその後の被覆材の塗布乾燥工程において、フィラメントを引き揃えゴム補強用ガラス繊維を均一な太さにするために、ストランドまたはゴム補強用ガラス繊維にテンションを掛けて引っ張ることが行われている。
母材ゴムとして水素化ニトリルゴムとゴム補強用ガラス繊維の初期の接着強さを持続し界面の剥離をきたさず、高温下の屈曲走行においても長期信頼性のある伝動ベルトを提供するための被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維として、ストランドに1次被覆層を設け、該1次被覆層上に異なる組成の2次被覆液を塗布乾燥させて、さらなる2次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維が特許文献1〜4に開示されている。
従来、自動車のタイミングベルト等の耐熱性の伝動ベルトは、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレンからなるガラス繊維被覆用塗布液を用い、ストランドに塗布乾燥させたゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムとしての水素化ニトリルゴムに埋設し作製された。また、ゴム補強用ガラス繊維と水素化ニトリルゴムの接着性、引いては耐熱性を高めるために、該ゴム補強用ガラス繊維にさらなる2次被覆層を設け、耐熱ゴムとしての水素化ニトリルゴムに埋設し作製された。
例えば、特許文献1において、ゴム補強用ガラス繊維をハロゲン含有ポリマーとイソシアネート化合物を含む第2液で処理する方法が開示されている。
また、特許文献2には、繰返し屈曲応力を受けるような高温の条件下で使用していても、時間の経過とともに接着力が低下することなく、耐熱性も大きく、しかも製造コストも低く、水素化ニトリルゴムの補強用として好適なゴムの補強用繊維、特に歯元強度の大きい歯付ベルトを得るのに好適な、ゴム補強用繊維として、ガラス繊維よりなる芯線上にレゾルシン−ホルムアルデヒドの水溶性縮合物、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスおよびアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスを含む層を形成させたゴムの補強用繊維が開示されている。
また、本出願人の特許出願に係る特許文献3には、ガラス繊維コードにアクリル酸エステル系樹脂とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体とレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とを含有する1次被覆層を設け、その上層にクロロスルホン化ポリエチレンとビスアリルナジイミドを含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維が開示されている。
さらに、本出願人の特許出願に係る特許文献4には、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とゴムラテックスと含有する1次被覆層を設け、ビスアリルナジイミド化合物とゴムエラストマーと加硫剤と無機充填材とを含有する2次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維が開示されている。
また、伝動ベルトとした際の耐水性の向上を目的として、本出願人の特許出願に係る特許文献5には、ガラス繊維コードに被覆するための、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体とクロロスルホン化ポリエチレンとを水に分散させエマルジョンとしたガラス繊維被覆用塗布液が開示されている。
さらに、本出願人の特許出願に係る特許文献6〜10には、特許文献5に記載のガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布し1次被覆層とし、その上層にハロゲン含有ポリマーとビスアリルナジイミドを含有する2次被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維、該1次被覆層の上層にハロゲン含有ポリマーとマレイミド化合物を含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維、該1次被覆層の上層にハロゲン含有ポリマーと有機ジイソシアネート化合物およびメタクリル酸亜鉛を含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維、および該1次被覆層の上層にハロゲン含有ポリマーとトリアジン系化合物を含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維が開示されている。
さらに、本出願人の特許出願に係る特許文献11〜13には、ガラス繊維コードに被覆するための、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体を水に分散させたエマルジョンおよびクロロスルホン化ポリエチレンを水に分散させエマルジョンを含有するガラス繊維被覆用塗布液が開示されている。水に難溶なクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の溶解にアルコール化合物またはアミン化合物を用いる。
さらに、本出願人の特許出願に係る特許文献14〜17には、特許文献11〜13に記載のガラス繊維被覆用塗布液をストランドに塗布し1次被覆層とし、その上層にクロロスルホン化ポリエチレンとビスアリルナジイミドを含有する2次被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維、該1次被覆層の上層にクロロスルホン化ポリエチレンとマレイミド化合物を含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維、該1次被覆層の上層にクロロスルホン化ポリエチレンと、有機ジイソシアネート化合物およびメタクリル酸亜鉛を含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維、および該1次被覆層の上層にクロロスルホン化ポリエチレンとトリアジン系化合物を含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維が開示されている。
また、自動車用伝動ベルトには、エンジンの熱に対する耐熱性、雨天走行における耐水性に加え、エンジン内部のエンジンオイルがシリンダーヘッドのガスケットから滲みでそれが付着する等のことより、耐油性も必要である。
そこで、特許文献18には、極めて長い時間使用できるタイミングベルトを得ることが可能な、耐油性に優れたゴム製品の補強繊維として、レゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物、固形状アクリロニトリル−ブタジエン共重合体のラテックス、および液状アクリロニトリル−ブタジエン共重合体のラテックスを含有する処理剤による被膜がされたガラス繊維コードが開示されている。
また、特許文献19には、耐油性を改善するレゾルシン−ホルムアルデヒド水溶性縮合物およびソープフリーのアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスを含有する処理剤で被覆処理を施したゴム補強用ガラス繊維が開示されている。
また、特許文献20には、耐油性を改善するガラス繊維処理剤レゾルシン−ホルムアルデヒド水溶性縮合物およびブタジエン−アクリロニトリル共重合体ラテックスのみからなり、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体ラテックスは、その固形分質量を基準として、アクリロニトリルの含有率が31〜55質量%のものであるゴム補強用ガラス繊維処理剤が開示されている。
また、特許文献21には、優れた耐油性、タック性および耐屈曲疲労性を有し、過酸化物を加硫剤とする水素化ニトリルゴムを用いたタイミングベルト等のゴム製品の製造にも適した補強繊維として、第1の被覆層が、レゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物、固形状アクリロニトリル−ブタジエン共重合体のラテックス、および液状アクリロニトリル−ブタジエン共重合体のラテックスを含有し、その上層の第2の被覆層が、未硬化フェノール樹脂およびゴムを含有する補強繊維が開示されている。
さらに、本出願人の特許出願に係る特許文献22には、モノヒドロキシベンセンとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したモノヒドロキシベンセン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノールとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物と、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体を含有するガラス繊維被覆用塗布液が開示され、この塗布液を用いて被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維は、母材ゴムである水素化ニトリルゴムに埋設し伝動ベルトとした際に、高温、水、オイル存在下の過酷な屈曲走行下において寸法安定性に優れ、引っ張り強さが持続する強靭さが有する。
本発明は、複数本のガラス繊維フィラメントを集束させたストランドにモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)および水素化ニトリルゴム(C)を含有する1次被覆層を形成し、その上層にクロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)を含有する2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維である。
本発明において、ゴム補強用ガラス繊維は、例えば、Eガラス、Sガラス等を加熱し溶融させたガラス溶融窯のブッシングノズルから吐出した細線である多数本のガラス繊維フィラメントに、シラン系カップリング剤を含有する集束剤を散布塗布し集束させたストランドをガラス繊維被覆用塗布液中で屈曲走行させ、ガラス繊維被覆用塗布液を強制的に付着、言い換えれば塗布した後に乾燥させて被覆層を設けてなる。
本発明のゴム補強用ガラス繊維に1次被覆層を形成するためには、複数本、実質的には多数本のガラス繊維フィラメントにシランカップリング剤を含有する集束剤を散布塗布した後に集束させたストランドに、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)および水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンを混合させて調製したガラス繊維被覆用塗布液である1次被覆液を塗布し乾燥被覆する。
本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層には、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)および水素化ニトリルゴム(C)を必須の化合物として含有させる。伝動ベルトとした際に屈曲走行における寸法安定性、耐熱性、耐水性および耐油性をバランスよく合わせ持たせるために、さらにアクリロニトリル−ブタジエン系共重合体および/またはクロロスルホン化ポリエチレンを含有させてもかまわない。
次いで、本発明のゴム補強用ガラス繊維において、前記1次被覆層上にクロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)を、またはクロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)とメタクリル酸亜鉛(F)を含有する2次被覆層を設ける。2次被覆層を設けることで、ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムである水素化ニトリルゴムの接着性が増し、水素化ニトリルゴムにゴム補強用ガラス繊維を埋設させた伝動ベルトの屈曲走行における寸法安定性を向上させる。尚、本発明のゴム補強用ガラス繊維に2次被覆層を形成するには、1次被覆層上にクロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)を、またはクロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)とメタクリル酸亜鉛(F)を、有機溶剤、例えば、キシレンに分散させたガラス繊維被覆用塗布液である2次被覆液を塗布し、2次被覆層を設ける。該2次被覆層の形成は、1次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維を2次被覆液中に屈曲走行させて強制的に付着させた後、乾燥させる等の手段で行う。
始めに、本発明のゴム補強用ガラス繊維の2次被覆層に含有させる組成物について説明する。
本発明のゴム補強用ガラス繊維の2次被覆層の組成物として用いるクロロスルホン化ポリエチレン(D)は、質量百分率で表して、塩素含有量が20.0%以上、40.0%以下、スルホン基中の硫黄含有量が0.5%以上、2.0%以下のものが好適に用いられる。
このような、クロロスルホン化ポリエチレン(D)として、固形分約40質量%のラテックスとしての住友精化株式会社製、商品名、CSM−450が市販されており、本発明の1次被覆用および2次被覆用のガラス繊維被覆用塗布液に使用される。尚、前述の塩素含有量およびスルホン基中の硫黄含有量を外れたクロロスルホン化ポリエチレン(D)を用いた2次被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維は、母材である架橋された水素化ニトリルゴムとの接着性に劣る。
本発明のゴム補強用ガラス繊維の2次被覆層に使用される有機ジイソシアネート化合物(E)としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートおよび/またはメチレンビス(フェニルイソシアネート)が挙げられ、特に、ヘキサメチレンジイソシアネートが安価で入手し易く好適に使用される。
本発明のゴム補強用ガラス繊維の2次被覆層の質量を100%基準とする質料百分率で表して、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の含有が10.0%以上、70.0%以下とし、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の質量を100%基準とする質量百分率で表して、有機ジイソシアネート化合物(E)の含有がE/D=5.0%以上、50.0%以下となるように2次被覆液を調製し、残部、メタクリル酸亜鉛(F)、無機充填剤および加硫剤とすることが好ましい。
より好ましくは、2次被覆層の質量を100%基準とする質量百分率で表して、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の含有が10.0%以上、70.0%以下とし、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の質量を100%基準とする質量百分率で表して、有機ジイソシアネート化合物(E)の含有をE/D=5.0%以上、50.0%以下、メタクリル酸亜鉛(F)をF/D=0.001%以上、3.0%以下となるように2次被覆液を調製し、残部、無機充填剤および加硫剤とすることが好ましい。尚、無機充填剤としてはカーボン、酸化マグネシウム、加硫剤としてはニトロソ化合物、例えば、ニトロソベンゼン、好ましくはp−ニトロソベンゼンが挙げられる。
2次被覆層中のクロロスルホン化ポリエチレン(D)の含有が、10.0%より少ないと、前述の優れた耐熱性を得難い。70.0%を超えると、ゴム補強ガラス繊維と母材ゴムである水素化ニトリルゴムとの接着強さが弱くなり作製した伝動ベルトは、耐久性に劣る。好ましくは、25.0%以上、60.0%以下である。
また、2次被覆層中の有機ジイソシアネート化合物(E)の含有は、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の質量を基準とする質量百分率で表して、E/D=5.0%以上、50.0%以下である。有機ジイソシアネート化合物(E)の含有がE/D=5.0%より少ないと優れた耐熱性を得難い。E/D=50.0%を超えると、ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムである水素化ニトリルゴムとの接着強さが弱くなり作製した伝動ベルトは、耐久性に劣る。
また、2次被覆層中のメタクリル酸亜鉛(F)の含有は、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の質量を基準とする質量百分率で表して、F/D=0.001%以上、3.0%以下である。メタクリル酸亜鉛(F)の含有がF/D=0.001%より少ないと優れた耐熱性を得難い。F/D=3.0%を超えると、ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムである水素化ニトリルゴムとの接着強さが弱くなり作製した伝動ベルトは、耐久性に劣る。
次いで、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層に含有させる組成物について説明する。
本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆に使用するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)としては、モノヒドロキシベンゼンまたはクロロフェノールから選ばれたフェノール類に対するホルムアルデヒドのモル比が0.5以上、3.0以下で、アルカリの存在下で反応させたレゾール型のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはレゾール型のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)を使用することが、固形分の析出がなく、1次被覆液を安定させる効果があるので好ましい。ホルムアルデヒドのモル比が0.5未満では、ゴム補強用ガラス繊維と耐熱ゴムとの接着強さに劣り、3.0を越えると1次被覆液がゲル化し易い。本発明において、レゾール型のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはレゾール型のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)を用いることで、1次被覆液の液安定性が向上する。尚、前記アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等が挙げられる。
このような、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)として、例えば、工業用フェノール樹脂として市販されている群栄化学工業株式会社製、商品名、レジトップ、型番PL−4667が挙げられる。
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物は水溶性であり、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層を形成するための1次被覆液を調製する際は、これら縮合物の水溶液に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンと水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンを加える。
しかしながら、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物は水に難溶な縮合物であり、本発明のゴム補強用ガラス繊維に1次被覆層を形成するための1次被覆液を調製する際は、クロロフェノールとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて得られたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿を、可溶化剤としてのアルコール化合物またはアミン化合物を加え溶解させることでクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を得て、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョン、水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンを加える。よって、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物はアルカリ触媒下に縮合させたレゾール型のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物であることが好ましい。その際、クロロフェノールは、パラ型の反応性が高く、また塗布液とした際に縮合物が安定となるので、パラ型のクロロフェノールを用いることが好ましい。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿を溶解させるための可溶化剤の役割をするアルコール化合物としては、n−プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−メトキシメチルエトキシプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−ジエトキシエタンが挙げられ、特に2−メトキシエタノール、プロピレングリコールは、1次被覆液を塗布後乾燥してストランドに被覆層を形成する際に、気散し被覆層中に残らないこと、およびクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を安定化させる効果も高いことから、1次被覆液の調製に用いるに特に好ましいアルコール化合物である。
また、アルコール化合物の中には、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿を溶解させる目的で1次被覆液に使用する際、塗布液の濃度調整のために水を添加するとゲル化物が生成されるものもあるが、必要域における濃度調整において、2−メトキシエタノール、プロピレングリコールは、ともにその懸念はなく、加えて火気に対して安全性があり、毒性も低く沸点が低いことより作業者が吸引する懸念もなく環境安全性に優れ、市販価格も安く実用性が高い。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿が、これらアルコール化合物を加えることで溶解し、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液が安定し、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が析出しなくなるのは、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物のOH基とアルコール化合物のOH基とが3次元的に強い水素結合を形成することによると思える。且つ、アルコール化合物は、双極子モーメントと誘電率の値が高いので分散力など遠距離相互作用が強く働き、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物を水溶液中で安定化させる効果、さらに、配位結合的(電荷移動的)相互作用エネルギーが大きいので、溶媒−溶質間だけでなく溶媒−溶媒間で会合を起こして強い溶媒和が生じ、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が析出することなきように水溶液中で安定化させる効果があると思える。
クロロフェノールとホルムアルデヒドの混合水溶液に水酸化ナトリウムを縮合反応に必要な量のみを加え、余分に加えないで、30℃以上、95℃以下に加熱して、4時間以上、攪拌しつつ縮合反応させて得られたレゾール型のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿が生成した反応液に、アルコール化合物を加え、次いで攪拌することによって該沈殿を溶解させて、レゾール型のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液が得られる。
また、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿に溶解させるためには、アミン化合物も可溶化剤に使用される。可溶化剤として使用するには、塩基性度定数(Kb)が5×10−5以上、1×10−3以下であるアミン化合物を用いる。塩基性度定数(Kb)が5×10−5より小さいと、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿が溶解せず、溶解したとしても、1次被覆液を調製するため、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョン、水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンを混合すると、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿が析出する。塩基性度定数(Kb)が1×10−3より大きいとゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムである水素化ニトリルゴムの接着力が低下する。塩基性度定数(Kb)とは、アルカリが水素イオンを溶液から受け入れる度合いを測定し、塩基性度として表したものであり、化1の式の平衡定数である。
具体的なアミン化合物として、メチルアミン、エチルアミン、t−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、メタノ−ルアミン、ジメタノ−ルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノ−ルアミンが挙げられ、特に好ましくは、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジメタノ−ルアミン、ジエタノ−ルアミンであり、さらに、好ましくは、ジメチルアミン、ジエタノ−ルアミンである。ジメチルアミンは価格が安く、ジエタノールアミンはアミン特有の臭いがなく取り扱いが容易である。特に、ジエタノールアミンは、1次被覆液を塗布後乾燥してストランドに被覆層を形成する際に、気散し被覆層中に残らないこと、およびアルコール化合物でもあり、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を安定化させる効果も大きいことから、1次被覆液の調製に用いるに特に好ましい化合物である。
クロロフェノールとホルムアルデヒドの混合水溶液に水酸化ナトリウムを縮合反応に必要な量のみを加え、余分に加えないで、30℃以上、95℃以下に加熱して、4時間以上、攪拌しつつ縮合反応させて得られたレゾール型のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿が生成した反応液に、アミン化合物を加え、次いで攪拌することによって該沈殿を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液が得られた。
また、アルコール化合物またはアミン化合物を加えることにより、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿を溶解させる際の、アルコール化合物またはアミン化合物を加える量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の質量を100%基準とする質量百分率で表して、50%以上、500%以下である。言い換えれば、アルコール化合物またはアミン化合物を加える量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の質量に対して、質量比で表して、1/2以上、5以下である。アルコール化合物またはアミン化合物を加える量が50%より少ないと、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物を溶解させる効果がなく、500%より多く加える必要はない。アルコール化合物またはアミン化合物を加える量が500%より多くなると、1次被覆液におけるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物およびビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンおよびは水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンの含有割合が低下し、1次被覆液をストランドに塗布してなるゴム補強用ガラス繊維が柔軟でなくなる。また、液安定化のためにアミン化合物を加えるので、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物はレゾール型であることが好ましい。
また、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層に使用されビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)には、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエンの比が、質量比で10〜20:10〜20:80〜60の範囲で重合させてなるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)を用いることが好ましく、市販の日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテクス、JSR株式会社製、商品名、0650、および日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol、型番1218FS等が挙げられる。尚、前記質量比を外れたビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)を用いた1次被覆層を有するゴム補強用ガラス繊維は、母材ゴムである水素化ニトリルゴムとの接着強さに劣る。
また、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層において、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンおよび水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンに加え、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体のエマルジョンを用い、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体をゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層に含有させると、ゴムに埋設して伝動ベルトとした際に、例えば、母材ゴムが水素化ニトリルゴムであれば、ゴム補強用ガラス繊維と水素化ニトリルゴムの接着強さが増し、伝動ベルトが伸びることなく、屈曲走行時の寸法安定性が増す。好ましくは、アクリロニトリル−ブタジエン2元共重合体を用いるより、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体を用いると一層の寸法安定効果が増す。
このことは、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層に、アクリロニトリル−ブタジエン2元共重合体を用いるよりも、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体を用いる方が、共重合体中にビニルピリジン−ブタジエン−スチレン共重合体(B)と共通するスチレンに由来する単位を持つことで、ビニルピリジン−ブタジエン−スチレン共重合体(B)と相溶性よく混合することで、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層に柔軟性を与えることによる。このようにして、ゴム補強硝子繊維の1次被覆層にゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムを接着させる効果を有するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)に加え、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体およびビニルピリジン−ブタジエン−スチレン共重合体(B)を含有させることで、耐水性および耐油性を損なうことなく、より柔軟な1次被覆層を与えることが可能となった。
このようなアクリロニトリル−ブタジエン2元共重合体には、例えば、日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol L1560、Nipol L1562、Nipol SX1503等が挙げられる。また、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体には、例えば、日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol L1577K、Nipol L1571CL等が挙げられる。
また、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆の組成物の一つであるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)の一部を、他のゴムエラストマーに替えても良い。ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のみでは、ゴム補強用ガラス繊維の被覆に粘着性が生じ被覆層が転写し易くなり、工程が汚れたりして作業性が悪くなる。他のゴムエラストマーとしてカルボキシル基変性スチレン−ブタジエンゴム等も挙げられるが、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)との相性が良いスチレン−ブタジエン共重合体が特に好適に使用され、本発明のゴム補強用ガラス繊維の特徴である母材ゴムとの接着性、および母材ゴムとしての耐熱ゴムに埋設し伝動ベルトとした際の耐熱性を損なわない。
本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆において、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)の質量を100%基準とする質量百分率で表して、スチレン−ブタジエン共重合体を、5.0%以上、80.0%の範囲で、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)に替えて使用できる。5.0%未満では、ゴム補強用ガラス繊維の被覆に粘着性が生じ、被覆層が転写し易くなることを抑制する効果がない。好ましくは、25.0%以上である。80.0%を超えると、母材ゴムとの接着性、および伝動ベルトとした際の耐熱性が失われる。好ましくは、55.0%以下である。
このようなスチレン−ブタジエン共重合体として、例えば、日本エイアンドエル株式会社から、商品名、J−9049が市販されており、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層に使用される。
また、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層を形成するための1次被覆液は、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)および水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンを加え調製する。
ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムである水素化ニトリルゴムに、所望の接着強さを得るには、また、ゴム補強用ガラス繊維を母材ゴムである水素化ニトリルゴムに埋設してなる伝動ベルトに、屈曲走行における耐久性、所望の耐熱性、耐水性および耐油性を得るには、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と水素化ニトリルゴム(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)が1.0%以上、15.0%以下、即ち、A/(A+B+C)=1.0%以上、15.0%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が45.0%以上、82.0%以下、即ち、B/(A+B+C)=45.0%以上、82.0%以下、水素化ニトリルゴム(C)が3.0%以上、50.0%以下、即ち、C/(A+B+C)=3.0%以上、50.0%以下の範囲で含まれることが好ましい。
ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層中のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含有が1.0%より少ないと、ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムの接着強さが弱くなり、伝動ベルトにした際に好ましい耐水性、耐熱性が得難い。また、1次被覆層中のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含有が15.0%を超えると、1次被覆層を形成するための1次被覆液が凝集沈殿を起こし易く使用不能となる。よって、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層におけるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)の好適な含有範囲は、1次被覆層に含まれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と水素化ニトリルゴム(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、A/(A+B+C)=1.0%以上、15.0%以下である。
また、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)の含有が45.0%より少ないと、ゴム補強用ガラス繊維と、伝動ベルトとする際に埋め込む母材ゴムである水素化ニトリルゴムとの接着強さが弱くなり、伝動ベルトにした際に好ましい耐熱性が得難い。また、1次被覆層中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)の含有が82.0%を超えると、ストランドに被覆する際に、被覆に粘着性が生じ被覆層が転写し易くなり、工程が汚れる等の不具合が生じる。よって、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層におけるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)の好適な含有範囲は、1次被覆液に含まれるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と水素化ニトリルゴム(C)とを合わせた質量を100%基準として、B/(A+B+C)=45.0%以上、82.0%以下である。
また、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層の水素化ニトリルゴム(C)が、3.0%より少ないと、伝動ベルトにした際に所望の耐油性が得難く、水素化ニトリルゴム(C)が50.0%より多いと、ゴム補強用ガラス繊維の粘着性および柔軟性が低下し、伝動ベルトにした際の高温下の屈曲走行において、被覆層が疲労劣化する傾向がある。本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層において、好適な水素化ニトリルゴム(C)の含有範囲は、1次被覆層に含まれるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれたフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と水素化ニトリルゴム(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、A/(A+B+C)=3.0%以上、50.0%以下である。
本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層または2次被覆層には、老化防止剤、pH調整剤、安定剤等を含有させても良い。老化防止剤にはジフェニルアミン系化合物、pH調整剤にはアンモニアが挙げられる。
耐熱性のためには、本発明のゴム補強用ガラス繊維の2次被覆層にクロロスルホン化ポリエチレン(D)を用い、さらに、加硫剤としてのニトロソ化合物、例えば、p−ニトロソベンゼン、無機充填剤、例えばカーボンブラックまたは酸化マグネシウムを添加し、ゴム補強用ガラス繊維の2次被覆層とすることは、該ゴム補強用ガラス繊維をゴムに埋設して作製した伝動ベルトの耐熱性を高める一層の効果がある。2次被覆層に、2次被覆層中のクロロスルホン化ポリエチレン(D)の質量を100%基準とする質量百分率で表して、加硫剤を0.5%以上、20.0%以下、無機充填材を10.0%以上、70.0%以下の範囲で添加すると、作製した伝動ベルトは、いっそうの耐熱性を発揮する。加硫剤の含有が0.5%より少ない、また無機充填材の含有が10.0%より少ないと耐熱性を向上させる効果が発揮されず、加硫剤を、20.0%を超えて、また無機充填材を、70.0%を超えて加える必要はない。
前記1次被覆層および2次被覆層を設けてなる本発明のゴム補強用ガラス繊維は、種々の母材ゴム、特に水素化ニトリルゴム等の耐熱ゴムに埋設し伝動ベルトとすると、ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムの優れた接着性が得られ、本発明のゴム補強用ガラス繊維は伝動ベルトの補強材として有効に働く。さらに、本発明のゴム補強用ガラス繊維を埋設させてなる伝動ベルトは、高温多湿およびオイルが付着する環境下における長時間の屈曲走行において、被覆層がゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムとの初期の接着強さを持続することで、寸法安定性に優れ、優れた耐熱性、耐水性および耐油性を合わせ持たせる。
本発明のゴム補強用ガラス繊維に用いるガラス繊維フィラメントの材料には、アルミノホウケイ酸ガラスであるEガラス、または高強度ガラス繊維フィラメントとしてのSガラス等が好適に使用される。
Eガラスの組成は、例えば、質量%で表して、SiO2 53%、Al2O3 15%、CaO 21%、MgO 2%、B2O3 8%、Na2O+K2O 0.3%、残部0.7%であり、Sガラスの組成は、例えば、質量%で表して、SiO2 64%、Al2O3 25%、MgO 10%、Na2O+K2O 0.3%、残部0.7%である(影山 尚義著「硝子長繊維」影山技術士事務所 昭和51年8月1日発行、3頁の表1より引用)。
Sガラス繊維はEガラス繊維に比較して、引っ張り強さが35%程大きく、弾性係数が20%程高く、ガラスを使用した高強度ガラス繊維フィラメントを用いたゴム補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルトは、Eガラスを使用した通常のガラス繊維フィラメントを用いたゴム補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルトに比較して、引っ張り強さが10%〜20%大きい。
尚、本発明において、伝動ベルトとは、エンジン、その他機械を運転するために、エンジン、モーター等の駆動源の駆動力を伝えるベルトのことであり、かみ合い伝動で駆動力を伝える歯付きベルト、摩擦伝動で駆動力を伝えるVベルトが挙げられる。自動車用伝動ベルトとは自動車のエンジンルーム内で用いられる耐熱性、耐水性および耐油性の前記伝動ベルトのことである。タイミングベルトとは、前記自動車用伝動ベルトの中で、カムシャフトを有するエンジンにおいて、クランクシャフトの回転をタイミングギヤに伝えカムシャフトを駆動させ、バルブの開閉を設定されたタイミングで行うための、プーリーの歯とかみ合う歯を設けた歯付きベルトのことである。自動車用伝動ベルトには、エンジンの熱に対する耐熱性と雨天走行における耐水性、エンジンオイルにさらされるので耐油性が必要であり、長時間の屈曲走行後において、引っ張り強さを持続し寸法安定性に優れていること、即ち、耐熱性、耐水性、耐油性が要求される。
(実施例1)
ストランドにフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)としてのモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、水素化ニトリルゴム(C)を含有する1次被覆液を塗布被覆してなる1次被覆層上に、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)とメタクリル酸亜鉛(F)を含有する2次被覆層を形成したゴム補強用ガラス繊維を作製した。
(実施例2、3)
次いで、ストランドにフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)としてのクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、水素化ニトリルゴム(C)をを含有する1次被覆液を塗布被覆してなる1次被覆層上に、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)とメタクリル酸亜鉛(F)を含有する2次被覆層を形成したゴム補強用ガラス繊維を作製した。1次被覆層を得るための1次被覆液を調製する際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を得るのにアルコール化合物、アミン化合物を用いた各々のゴム補強用ガラス繊維を作製した。
アルコール化合物を可溶化剤として用いたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を用いた1次被覆液を塗布被覆してなる1次被覆層を形成したゴム補強用ガラス繊維を実施例2、アミン化合物を可溶化剤として用いたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を用いた1次被覆液を塗布被覆してなる1次被覆を形成したゴム補強用ガラス繊維を実施例3とする。
(比較例1)
次いで、従来のレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(D)を含有する1次被覆液を塗布被覆してなる1次被覆層上にクロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)とメタクリル酸亜鉛(F)を含有する2次被覆層を形成したゴム補強用ガラス繊維を作製した。
(比較例2)
次いで、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(D)を含有する1次被覆液を塗布被覆してなる1次被覆層上に、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)とメタクリル酸亜鉛(F)を含有する2次被覆層を形成したゴム補強用ガラス繊維を作製した。
(比較例3)
次いで、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とクロロスルホン化ポリエチレン(D)を含有する1次被覆液を塗布被覆してなる1次被覆層上に、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)とメタクリル酸亜鉛(F)を含有する2次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維を作製した。クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の溶解には、ジエタノールアミンを可溶化剤として用いた。
以上、実施例1〜3、比較例1〜2の1次被覆層の組成物について、表1に纏めた。尚、2次被覆層は、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)とメタクリル酸亜鉛(F)を含有する。比較例1〜3のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層は、本発明における必須の化合物である水素化ニトリルゴム(C)が含まれていない。
これら本発明の1次被覆液を塗布被覆したゴム補強用ガラス繊維(実施例1〜3)、本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維(比較例1〜3)の水素化ニトリルゴムに対する接着強さ評価試験を行い、評価結果を比較した。
また、これら、本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例1〜3)、または従来のゴム補強用ガラス繊維(比較例1〜3)を埋設させたMIT屈曲試験用の試験片を作製した。この試験片を用いて耐水性、耐熱性、耐油性を試験した。次いで、水素化ニトリルゴムに埋設し伝動ベルトを作製し、屈曲走行試験を行った。
尚、ガラス繊維フィラメントには、ガラス繊維に通常使われるEガラスを用いた。Eガラスの組成は、質量%で表して、SiO2 53%、Al2O3 15%、CaO 21%、MgO 2%、B2O3 8%、Na2O+K2O 0.3%、残部0.7%である。
以下、詳細に述べる。
実施例1
(1次被覆液の調製)
フェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)に属するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンと水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンとアンモニア水と水を添加し、1次被覆液を調製した。
最初に、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の合成について述べる。還流冷却器、温度計、攪拌機をつけた三つ口セパラブルフラスコに、モノヒドロキシベンゼン、100重量部、37.0質量%の濃度のホルムアルデヒド水溶液、157重量部(モル比で表せば、モノヒドロキシベンゼン:ホルムアルデヒド=1:1.8)、濃度、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液、5重量部を仕込み、80℃に加熱した状態で3時間攪拌した。攪拌を止め、冷却した後、1質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液、370重量部を加え、レゾール型のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物を重合した。
次いで、前述の手順で合成したモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液に、市販のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンと水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンを加え、アンモニア水と水を添加し、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層のための1次被覆液を調製した。
詳しくは、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物、42重量部と、ビニルピリジン、スチレン、ブタジエンを、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエン=15:15:70質量比となるように重合したビニルピリジン−スチレン−ブタジエン重合体(B)エマルジョンとしての日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス(固形分濃度、41.0質量%)463重量部と、水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョン276重量部と、PH調整剤としてアンモニア水(濃度、25.0質量%)22重量部とに、全体として1000重量部になるように水を添加して、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層のための1次被覆液を調製した。
1次被覆液中の各成分の含有割合は、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と水素化ニトリルゴム(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物が3.6%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が64.8%、水素化ニトリルゴム(C)が31.6%となる。
尚、1次被覆液中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)、水素化ニトリルゴム(C)の質量は、前記ピラテックスおよび水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンの固形分濃度から、固形分に換算して求めた。1次被覆液中の各成分の含有割合のままに、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層が形成される。
(2次被覆液の調製)
次いで、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と、有機ジイソシアネート化合物(E)としてのヘキサメチレンジイソシアネートとメタクリル酸亜鉛(F)に、p−ジニトロソベンゼンと、カーボンブラックを加え、キシレンに分散させた2次被覆液を調製した。
詳しくは、クロロスルホン化ポリエチレン(D)としての東ソー株式会社製、商品名、TS−430、100重量部と、加硫剤としてのp−ジニトロソベンゼン、40重量部とに、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の質量を基準とする質量百分率で表して、ヘキサメチレンジイソシアネートがE/D=5.0%、メタクリル酸亜鉛(F)がF/D=0.01%になるように加え、さらに、無機充填剤としてのカーボンブラック、30重量部を加え、キシレン、1315重量部に分散させて2次被覆液を調製した。即ち、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の質量に対して、ヘキサメチレンジイソシアネートを5.0質量%、メタクリル酸亜鉛を0.01質量%、無機充填材であるカーボンブラックを30.0質量%となるようにして2次被覆液を調製した。ストランドに塗布し乾燥させると、ほぼこのままの含有割合で2次被覆層となる。
(ゴム補強用ガラス繊維の作製)
径9μmのガラス繊維フィラメントを、アクリルシラン系カップリング剤および樹脂を含有する集束剤を用い200本集束したストランド3本を引き揃えた後、前述の手順で作製した1次被覆液を塗布し、その後、温度、280℃下で、22秒間乾燥させて1次被覆層を設け1本のゴム補強用ガラス繊維を作製した。
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の質量割合は、ゴム補強用ガラス繊維の全質量に対して19.0質量%であった。
前記、1次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維に、2.54cm当たり2.0回の下撚りを与え、さらに13本引き揃えて下撚りと逆方向に2.54cm当たり2.0回の上撚りをする作業を施した。その後、ストランドを前述の手順で作製した2次被覆液中に屈曲走行させ、2次被覆液を塗布した後、110℃で1分間の乾燥を行い、2次被覆層を設け、本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例1)を作製した。このようにして、下練りと上練りの方向を各々逆方向とした2種類のゴム補強用ガラス繊維を作製した。各々、S練り、Z練りと称する。
実施例2
(1次被覆液の調製)
アルコール化合物を用いたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液の調整について説明する。還流冷却器、温度計、攪拌機をつけた三つ口セパラブルフラスコに、クロロフェノール、138重量部、37質量%の濃度のホルムアルデヒド水溶液、80重量部(モル比で表せば、1対1)、濃度、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液、20重量部を仕込み、水で全体が1000重量部になるように希釈した後、80℃に加熱した状態で5時間攪拌した。この反応液中に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が沈殿物となって重合された。この反応液100重量部に対して、グリコール化合物に属する2−メトキシエタノールを加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿物を溶解させて、レゾール型のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を作製した。
この際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の質量を100%基準とする質量百分率で表して、2−メトキシエタノールを加えた量は200質量%であった。即ち、質量比で、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物に対して、2−メトキシエタノールを2倍になるように加えた。
尚、濃度、1.0質量%の水酸化ナトリウム水溶液の前記添加は、クロロフェノールとホルムアルデヒドを縮合反応させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物とするための触媒として縮合反応に必要な量以上には加えてはいない。クロロフェノールには、P−クロロフェノールを用いた。
次いで、前述の手順で合成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を用い、市販のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンと、水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンとにアンモニア水と水を添加し、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層のための1次被覆液を調製した。
詳しくは、2−メトキシエタノールを添加して溶解させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液、42重量部に、ビニルピリジン、スチレン、ブタジエンを、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエン=15:15:70の質量比となるように重合したビニルピリジン−スチレン−ブタジエン重合体(B)のエマルジョンとしての日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス(固形分濃度、41質量%)463重量部と、水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョン、276重量部と、PH調整剤としてアンモニア水(濃度、25質量%)22重量部に、全体として1000重量部になるように水を添加して、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層のための1次被覆液を調製した。
1次被覆液中の各成分の含有割合は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と水素化ニトリルゴム(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が3.6%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が64.8%、水素化ニトリルゴム(C)が=31.6%となる。尚、1次被覆液中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)、水素化ニトリルゴム(C)の質量は、前記ピラテックスおよび水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンの固形分濃度から、固形分に換算して求めた。尚、1次被覆液中の各成分の含有割合のままに、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層が形成される。
(2次被覆液の調製およびゴム補強用ガラス繊維の作製)
次いで、実施例1と同様にして、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と、p−ジニトロソベンゼンと、有機ジイソシアネート化合物(E)に属するヘキサメチレンジイソシアネートとメタクリル酸亜鉛(F)に、p−ジニトロソベンゼンと、カーボンブラックを加え、キシレンに分散させた2次被覆液を調製し、実施例1と同様の手順で2次被覆層を設け、本発明のゴム補強用ガラス繊維を作製した。
実施例3
(1次被覆液の調整)
アミン化合物を用いたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液の調整について説明する。還流冷却器、温度計、攪拌機をつけた三つ口セパラブルフラスコに、クロロフェノール、128重量部、37質量%の濃度のホルムアルデヒド水溶液、80重量部(モル比で表せば、1対1)、濃度、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液、20重量部を仕込み、水で全体が1000重量部になるように希釈した後、80℃に加熱した状態で5時間攪拌した。この反応溶液中に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が沈殿物となって重合された。この反応溶液100重量部に対して、ジメチルアミンを加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿物を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を作製した。尚、ジメチルアミンの塩基性度定数(Kb)は5.4×10−4である。この際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の質量を100%基準として、ジメチルアミンを加えた量は200質量%であった。即ち、質量比で、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物に対して、ジメチルアミンを2倍になるように加えた。
尚、1.0質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の前記添加は、クロロフェノールとホルムアルデヒドを縮合反応させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物とするための触媒として縮合反応に必要な量以上には加えてはいない。クロロフェノールには、P−クロロフェノールを用いた。
次いで、前述の手順で合成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を用い、市販のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンと、水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンとにアンモニア水と水を添加し、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層のための1次被覆液を調製した。
詳しくは、ジメチルアミンを添加して溶解させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液、42重量部に、ビニルピリジン、スチレン、ブタジエンを、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエン=15:15:70の質量比となるように重合したビニルピリジン−スチレン−ブタジエン重合体(B)のエマルジョンとしての日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス(固形分濃度、41質量%)463重量部と、水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョン、276重量部と、PH調整剤としてアンモニア水(濃度、25質量%)22重量部に、全体として1000重量部になるように水を添加して、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層のための1次被覆液を調製した。
1次被覆液中の各成分の含有割合は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と水素化ニトリルゴム(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が3.6%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が64.8%、水素化ニトリルゴム(C)が31.6%となる。尚、1次被覆液中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)、水素化ニトリルゴム(C)の質量は、前記ピラテックスおよび水素化ニトリルゴム(C)のエマルジョンの固形分濃度から、固形分に換算して求めた。尚、1次被覆液中の各成分の含有割合のままに、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層が形成される。
(2次被覆液の調製およびゴム補強用ガラス繊維の作製)
次いで、実施例1と同様にして、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と、p−ジニトロソベンゼンと、有機ジイソシアネート化合物(E)に属するヘキサメチレンジイソシアネートとメタクリル酸亜鉛(F)に、p−ジニトロソベンゼンと、カーボンブラックを加え、キシレンに分散させた2次被覆液を調製し、実施例1と同様の手順で2次被覆層を設け、本発明のゴム補強用ガラス繊維を作製した。
比較例1
(1次被覆液の調整)
従来のレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(D)とからなる1次被覆液を調製した。
レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物(レゾルシンとホルムアルデヒドとのモル比、1対1で反応させたもの、固形分、8.7質量%)を239重量部使用し、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の質量割合で含有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス、固形分、41.0質量%)の添加量を438重量部使用し、クロロスルホン化ポリエチレン(D)のエマルジョンとしての住友精化株式会社製、商品名、CSM450(固形分濃度、40.0質量%)276重量部と、PH調整剤としてアンモニア水(濃度、25.0質量%)22重量部とに、全体として1000重量部になるように水を添加し1次被覆液を調製した。
1次被覆液中の各成分の含有割合は、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(D)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物が7.2%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が61.2%、クロロスルホン化ポリエチレン(D)が31.6%、となる。尚、1次被覆液中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の質量は、前記ピラテックスおよびCSM450の固形分濃度から、固形分に換算して求めた。1次被覆液中の各成分の含有割合のままに、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層が形成される。
次いで、実施例1に示した手順で、実施例1と同様の2次被覆液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、前述の1次被覆液を塗布し1次被覆層を設けた複数本のストランドを撚り合わせ、さらなる2次被覆層を設けゴム補強用ガラス繊維(比較例1)を作製した。
比較例2
(1次被覆液の調整)
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(D)とからなる1次被覆液を調製した。
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物としてのレジトップ、型番PL−4667の添加量を83重量部、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の質量割合で含有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス、固形分、41.0質量%)の添加量を438重量部使用し、クロロスルホン化ポリエチレン(D)のエマルジョンとしての住友精化株式会社製、商品名、CSM450(固形分濃度、40.0質量%)276重量部と、PH調整剤としてアンモニア水(濃度、25.0質量%)22重量部とに、全体として1000重量部になるように水を添加し1次被覆液を調製した。
1次被覆液中の各成分の含有割合は、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(D)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物が7.2%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が61.2%、クロロスルホン化ポリエチレン(D)が31.6%となる。
尚、1次被覆液中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)、クロロスルホン化ポリエチレン(D)の質量は、前記ピラテックスおよびCSM450の固形分濃度から、固形分に換算して求めた。1次被覆液中の各成分の含有割合のままに、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層が形成される。
(2次被覆液の調製およびゴム補強用ガラス繊維の作製)
次いで、実施例1に示した手順で、実施例1と同様の2次被覆液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、前述の1次被覆液を塗布し1次被覆層を設けた複数本のストランドを撚り合わせ、2次被覆液を塗布被覆し、さらなる2次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維(比較例2)を作製した。
比較例3
(1次被覆液の調整)
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とクロロスルホン化ポリエチレン(D)とからなる1次被覆液を調製した。
還流冷却器、温度計、攪拌機をつけた三つ口セパラブルフラスコに、クロロフェノール(D)、128重量部、37質量%の濃度のホルムアルデヒド(E)水溶液、80重量部(モル比で表せば、E/D=1.0)、濃度、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液、20重量部を仕込み、水で全体が1000重量部になるように希釈した後、80℃に加熱した状態で5時間攪拌した。この反応溶液中に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿物となって重合された。この反応溶液100重量部に対して、ジエタノールアミンを加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿物を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を作製した。尚、ジエタノールアミンの塩基性度定数(Kb)は1.0×10−4.5である。この際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の質量を100%基準として、ジエタノールアミンを加えた量は200質量%であった。即ち、質量比で、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物に対して、ジエタノールアミンを2倍になるように加えた。
尚、濃度、1.0質量%の水酸化ナトリウム水溶液の前記添加は、クロロフェノールとホルムアルデヒドを縮合反応させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物とするための触媒として縮合反応に必要な量以上には加えてはいない。クロロフェノールには、P−クロロフェノールを用いた。
(2次被覆液の調製およびゴム補強用ガラス繊維の作製)
次いで、実施例1に示した手順で、実施例1と同様の2次被覆液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、前述の1次被覆液を塗布し1次被覆層を設けた複数本のストランドを撚り合わせ、2次被覆液を塗布被覆し、さらなる2次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維(比較例2)を作製した。
以上のようにして作製した実施例1〜3および比較例1〜3のゴム補強用ガラス繊維を用い、MIT屈曲試験を行い、耐水性、耐熱性、耐油性を評価した。次いで、水素化ニトリルゴムに埋設し伝動ベルトを作製し、屈曲走行試験を行い、耐久性を評価した。以下、詳細に説明する。
(各ゴム補強用ガラス繊維と水素化ニトリルゴムの接着強さの評価)
接着強さの評価を説明する前に、試験に使用した耐熱ゴムを説明する。
母材ゴムとしての水素化ニトリルゴム(日本ゼオン株式会社製、型番、2020)、100重量部に対して、カーボンブラック、40重量部と、亜鉛華、5重量部と、ステアリン酸、0.5重量部と、硫黄、0.4重量部と、加硫促進剤、2.5重量部と、老化防止剤、1.5重量部とを配合した。
試験片は水素化ニトリルゴムからなる3mm厚、25mm幅のゴムシート上に前記ゴム補強用ガラス繊維(実施例1〜3、比較例1〜3)を20本並べ、その上から布をかぶせ、温度、150℃下、196ニュートン/cm2の条件で端部を除き押圧し、35分間加硫させつつ成形して、接着強さ評価のための試験片を得た。この試験片の接着強さの測定を、端部において各々のゴムシートとゴム補強用ガラス繊維を個別にクランプにて挟み、剥離速度を50mm/minとし、ゴムシートからゴム補強用ガラス繊維を剥がす際の最大の抵抗値を測定し、接着強さとした。接着強さが大きいほど接着力に優れる。
(接着強さの評価結果)
接着強さの評価結果を表2に示す。表2において、ゴム補強用ガラス繊維と水素化ニトリルゴムが界面から剥離していない破壊状態をゴム破壊とし、界面から一部のみでも剥離している破壊状態を界面剥離とした。ゴム破壊の方が、界面剥離より接着強さに優れる。表2に、実施例1〜3、比較例1〜3における各ゴム補強用ガラス繊維の水素化ニトリルゴムに対する接着強さを示す。
表2に示すように、本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例1〜3)、本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維(比較例1〜3)ともに接着強さは同等(308〜325N)であり、剥離状態はゴム破壊であり、同様な結果であった。
(各ゴム補強用ガラス繊維のMIT屈曲試験による耐水性、耐熱性、耐油性の評価結果)
図1は、MIT屈曲試験の試験片の模式図である。
試験片1の大きさは、厚さ2mm、幅5mm、長さ250mmであり、水素化ニトリルゴム2の内部に実施例1〜3、比較例1〜3によるゴム補強用ガラス繊維3が埋設されている。
図2は、MIT屈曲試験の試験状況の模式図である。
クランプの曲げ角度は、120度であり、錘4を付けた状態で試験片1を1200回屈曲させる。
詳しくは、実施例1〜3および比較例1〜3で作製したゴム補強用ガラス繊維3を補強材として、母材ゴムに前記水素化ニトリルゴム2を用い、水素化ニトリルゴム2の中に2本のゴム補強用ガラス繊維3を埋設させた後、150℃に35分間加硫させつつ養生させて、MIT屈曲試験用の上記寸法の試験片1を作製した。この試験片1を用いて、耐水性、耐熱性および耐油性を評価した。
耐熱性については、試験片1を、加熱炉中で150℃に240時間加熱し室温に戻した後、試験片1の端部に3Kgの重りを付けて、210度の角度に1200回屈曲を繰り返し、その後、引っ張り強度を測定した。
また、耐水性については、水を入れたビーカーに試験片1を漬けて、ガスバーナーにかけて2時間煮沸した後に取り出し、水分をふき取った後、試験片1の端部に3Kgの重りを付けて、210度の角度に1200回屈曲を繰り返し、その後、引っ張り強度を測定した。
また、耐油性については、120℃に加熱した自動車用エンジンオイルに試験片1を100時間浸漬してから取り出し、エンジンオイルを拭き取った後、試験片1の端部に3Kgの重りを付けて、210度の角度に1200回屈曲を繰り返し、その後、引っ張り強度を測定した。
以上のように、耐熱性、耐水性、耐油性評価のため、それぞれ劣化のための促進をした後、210度の角度に1200回屈曲を繰り返し、MIT屈曲試験を行い、伝動ベルトにした際の耐熱性、耐水性、耐油性評価の指標とした。
MIT屈曲試験の結果を表3に示す。表3中の数値は引っ張り強さ保持率であり、以下の数1の式により求めた。
表3に実施例1〜3および比較例1〜3における各ゴム補強用ガラス繊維3を用いた試験片1のMIT屈曲試験による耐水性、耐熱性、耐油性の評価結果を示す。耐水性、耐熱性、耐油性の評価のために、MIT屈曲試験後の各試験片1の引っ張り強さ保持率を測定した。
表3に示すように、耐熱性は、実施例1〜3に示した本発明のゴム補強用ガラス繊維、比較例1〜3に示した本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維ともに引っ張り強さ保持率は36.5%〜42.8%の範囲内にあり、同等の測定結果であった。
また、耐水性は、実施例1〜3に示した本発明のゴム補強用ガラス繊維、比較例1〜3に示した本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維ともに引っ張り強さ保持率は86.8%〜92.1%の範囲内にあり、同等の測定結果であった。このことは、1次被覆層に含有させたモノヒドロキシベンセン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)が耐水性に優れるとともに、2次被覆層に含有させた有機ジイソシアネート化合物(E)が反応し架橋が促進し、ガラス繊維ストランドに水が浸透することを抑制した効果による。
比較して、耐油性は、実施例1〜3に示した本発明のゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強さ保持率は82.4%〜83.0%の範囲内にあり、比較例1〜3に示した本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強さ保持率は50.5%〜52.3%の範囲内にあり、本発明のゴム補強用ガラス繊維が優れていた。
また、1次被覆層の組成物して、モノヒドロキシベンセンとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したモノヒドロキシベンセン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノールとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と水素化ニトリルゴム(C)を用いた実施例1〜3のゴム補強用ガラス繊維において、フェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物を用いた実施例1のゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強さ保持率は84.3%であり、フェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)にクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物を用いた実施例2、3のゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強さ保持率は各々、86.8%、87.4%であった。
このように、耐油性は、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物 < クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の順となった。
(屈曲走行試験)
次いで、実施例1〜3および比較例1〜3で作製したゴム補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルトについて屈曲走行試験を実施した。
(屈曲走行試験による耐水性評価)
実施例1〜3および比較例1〜3で作製したゴム補強用ガラス繊維を補強材として、母材ゴムに前述の耐熱ゴムを用い、ゴム補強用ガラス繊維を、ループ状に巻いた後に耐熱ゴムのコンパウンドに埋設し帆布を貼り付けた型内に入れ、熱を加えて硬化させ、巾19mm、長さ876mmの歯付きベルトとしての伝動ベルトを各々作製し、耐水性を評価するための耐水走行疲労試験を実施した。耐水性は、注水下、伝動ベルトを、歯車、即ち、プーリーを用いて走行させ、一定時間経過の伸び、および一定時間経過の引っ張り強さ保持率、即ち、耐水走行疲労性能を評価する。
図3は、ゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設させて作製した伝動ベルトを切断した際の斜視図である。
図3に示すように、伝動ベルト5はプーリーに噛み合わせるための高さ3.2mmの突起部5Aを多数有し、突起部を除く背部5Bの厚みが2.0mmで、伝動ベルトの該背部5Bには、断面に見られるように上撚りと下撚りの撚り方向が異なるS撚り、6本、Z撚り、6本、合わせて12本の各ゴム補強用ガラス繊維6が、S撚りとZ撚りが交互になるようにループ上に巻かれた状態で埋設されている。
図4は、伝動ベルトの耐水走行疲労試験機の概略側面図である。
図4に示すように、各々の伝動ベルト5を図示しない駆動モーターと発電機を備えた耐水走行疲労試験機に装着し耐水性を測定する。
伝動ベルト5は図示しない駆動モーターにより回転駆動される駆動プーリー7の駆動力により、従動プーリー8および9を回転させつつ走行する。従動プーリー8には図示しない発電機に連結されており、発電機を駆動し1kwの電力を発生させる。アイドラー10は、耐水走行疲労試験における走行中に回転しつつ伝動ベルト5を張る役割を有し、伝動ベルト5を張るための荷重として50Nを伝動ベルト5に与える。従動プーリー8、9は、径、60mm、歯数、20Tであり、駆動プーリー7は、径120mmであり、歯数、40Tである。耐水走行疲労試験中の駆動プーリー7の1分間あたりの回転数は、3000rpm、従動プーリー8、9の1分間あたりの回転数は、6000rpmである。回転方向は、伝動ベルト5に平行な矢印で示す。
常温において、図4に示すように、1時間当たり6000mlの水11を、駆動プーリー7と従動プーリー8の間において、伝動ベルト1に均等に滴下させつつ、駆動プーリー7を3000rpmで回転させ、伝動ベルト1を従動プーリー8および9、アイドラー10を用いて走行させた。このようにして、伝動ベルト5を破断するまで走行させる耐水走行疲労試験を実施した。
耐水走行疲労試験前の伝動ベルト5の引っ張り強さ、および耐水走行疲労試験後の引っ張り強さを測定し、数1の式により試験前に対する試験後の伝動ベルト1の引っ張り強さ保持率を求め、実施例1〜3および比較例1〜3のゴム補強用ガラス6を用いて作製した伝動ベルト5の耐水性を比較評価した。
(引張り強さ測定)
引張り強さ測定に供する試験片の長さは257mmであり、1本の伝動ベルト5から3本切り取り得られる。これら試験片の端部各々をクランプ間距離145mmのクランプにてはさみ、引張り速度を50mm/分とし、伝動ベルト5が破壊されるまでの最大の抵抗値を引張り強さとした。1本の伝動ベルト5から3回、抵抗値を測定し、その平均値を伝動ベルト5の引張り強さとした。尚、試験前の引っ張り強さは、同様に作製した10本の伝動ベルト5から各3回、抵抗値を測定して、その平均値を初期値として用いた。
数1の式を用いて、耐水走行疲労試験後の引張り強さ保持率を算出した。
各々の伝動ベルトの耐水走行疲労試験におけるベルト破断までの走行時間および耐水走行疲労試験後の引張り強さ保持率を表4に示す。
表4に示すように、実施例1〜3に示すモノヒドロキシベンセンとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したモノヒドロキシベンセン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノールとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、水素化ニトリルゴム(D)を含有する1次被覆層およびさらなる2次被覆層を有し、2次被覆層の組成物がクロロスルホン化ポリエチレン(D)と、p−ジニトソロベンゼンと、有機ジイソシアネート化合物(E)に属するヘキサメチレンジイソシアネートとメタクリル酸亜鉛(F)を含有するゴム補強用ガラス繊維2次被覆液を用いた伝動ベルト6の走行試験後の引っ張り強さ保持率は、実施例1が45%、実施例2が44%、実施例3が48%であった。また、ベルト破断までの時間は、56〜61hrであった。
それに対して、比較例1〜3に示す本発明の範疇にない伝動ベルト5は、比較例1が44%、比較例2が42%、比較例3が40%であった。また、ベルト破断までの時間は、54〜55hrであった。
この耐水走行疲労試験の結果より、従来のゴム補強用ガラス繊維に比較して、実施例1〜3のモノヒドロキシベンセンとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したモノヒドロキシベンセン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノールとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、水素化ニトリルゴム(C)を組成物とした1次被覆液を塗布後乾燥させてなる1次被覆層を有し、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)に属するヘキサメチレンジイソシアネートとメタクリル酸亜鉛(F)を組成物としたさらなる2次被覆層を有した本発明のゴム補強用ガラス繊維6を用いた伝動ベルト5は、若干優れた耐水性を有することが判った。
このことは、1次被覆層に含有させたモノヒドロキシベンセン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物が耐水性に優れるとともに、2次被覆層に含有させた有機ジイソシアネート化合物(E)が反応し架橋が促進し、ガラス繊維ストランドに水が浸透することを抑制した効果による。
(耐熱性評価)
次いで、実施例1〜3および比較例1〜3で作製したゴム補強用ガラス繊維を補強材として、母材ゴムに前述の耐熱ゴムを用い、前述の耐水性評価試験と同様にして、巾19mm、長さ876mmの伝動ベルト5を各々作製し、耐熱性を評価するための耐熱耐屈曲走行疲労試験を実施した。耐熱性は、高温下、伝動ベルト5を、複数の歯車、即ち、プーリーを用いて、屈曲させつつ走行させ、一定時間経過の引っ張り強さ保持率、即ち、耐熱耐屈曲走行疲労性能で評価する。
図5は、伝動ベルトの耐熱耐屈曲走行疲労試験機の概略側面図である。
図5に示すように、各々の伝動ベルト5を図示しない駆動モーターを備えた耐熱耐屈曲走行疲労試験機に装着し耐熱性を測定する。伝動ベルト5は駆動モーターにより回転駆動される駆動プーリー12の駆動力により、3個の従動プーリー13、13´、13〃を回転させつつ走行する。アイドラー14は、耐熱耐屈曲走行疲労試験における走行中に伝動ベルト5を張るためのもので、伝動ベルト5を張る役割を有し、伝動ベルト5を張るための荷重として50Nを伝動ベルト1に与える。駆動プーリー12は、径、120mm、歯数、40Tであり、従動プーリー13、13´、13〃は、径60mmであり、歯数、20Tである。耐熱耐屈曲走行疲労試験中の駆動プーリー12の1分間あたりの回転数は、3000rpm、従動プーリー13、13´、13〃の1分間あたりの回転数は、6000rpmである。回転方向は、伝動ベルト5に平行な矢印で示す。
温度、130℃の環境下で、図5に示すように、駆動プーリー12を、3000rpmで回転させ、伝動ベルト5を従動プーリー13、13´、13〃、アイドラー14を用いて屈曲させつつ走行させた。このようにして、50時間、伝動ベルト5を走行させ耐熱耐屈曲走行疲労試験を実施した。耐熱耐屈曲走行疲労試験前の伝動ベルト5の引っ張り強さ、および耐熱耐屈曲走行疲労試験後の引っ張り強さを測定し、数1の式より試験前に対する試験後の伝動ベルト5の引っ張り強さ保持率を求め、実施例1〜6、比較例1〜4のゴム補強用ガラス繊維6を用いて作製した伝動ベルト5の耐熱耐屈曲走行疲労性能、即ち、耐熱性を比較評価した。
(伸び測定)
耐熱耐屈曲走行疲労試験後の長さを測定し、耐熱耐屈曲走行疲労試験前の伝動ベルト5の長さとの差を伸びとした。具体的には、300時間走行後の伝動ベルト5の長さを測定し、走行前の伝動ベルト5の長さとの差を伸びとした。各々の伝動ベルト5の伸びの測定結果を表5に示す。
表5に示すように、実施例1〜3に示すモノヒドロキシベンセンとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したモノヒドロキシベンセン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノールとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、水素化ニトリルゴム(C)を組成物とした1次被覆液をストランドに塗布後乾燥させた1次被覆層およびさらなる2次被覆層を有し、2次被覆層の組成物がクロロスルホン化ポリエチレン(D)と、p−ジニトソロベンゼンと、有機ジイソシアネート化合物(E)に属するヘキサメチレンジイソシアネートとメタクリル酸亜鉛(F)を含有するゴム補強用ガラス繊維2次被覆液を用いた伝動ベルト5の300時間走行試験後の伸び率は、実施例1が0.05mm、実施例2が0.07mm、実施例3が0.06mmであった。
それに対して、比較例1〜3に示す本発明の範疇にない伝動ベルト5は、比較例1が0.30mm、比較例2が0.35mm、比較例3が0.35mmであり、実施例1〜3の本発明のゴム補強用ガラス繊維6を用いて作製した伝動ベルト5は、比較例1〜3のゴム補強用ガラス繊維6を用いて作製した伝動ベルト5に比較して伸びが抑制されていた。
(引っ張り強さ保持率)
各々の伝動ベルトの耐熱耐屈曲走行疲労試験後の引っ張り強さ保持率を表6に示す。
表6に示すように、1次被覆層に、モノヒドロキシベンセンとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したモノヒドロキシベンセン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノールとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、水素化ニトリルゴム(D)を用い、2次被覆層に、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)とメタクリル酸亜鉛(F)を用いた実施例1〜3のゴム補強用ガラス繊維6を用い作製した伝動ベルト1の耐熱耐屈曲走行疲労試験後の引っ張り強さ保持率は、各々102%、98%、101%であった。
それに対して、本発明の範疇に属さない比較例1〜3のゴム補強用ガラス繊維6を用いた伝動ベルト5の、耐熱耐屈曲走行疲労試験後の引っ張り強さ保持率は、各々92%、91%、90%であった。比較例1〜3のゴム補強用ガラス繊維6を用いた伝動ベルト5に対して、実施例1〜3のゴム補強用ガラス繊維6を用いた伝動ベルト5は引っ張り強さ保持率が高く、優れた耐熱性を有する。
この耐熱耐屈曲走行疲労試験の結果より、モノヒドロキシベンセンとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したモノヒドロキシベンセン−ホルムアルデヒド縮合物またはクロロフェノールとホルムアルデヒドを水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物から選ばれるフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、水素化ニトリルゴム(D)を組成物とした1次被覆液を塗布後乾燥させてなる1次被覆層を有し、クロロスルホン化ポリエチレン(D)と有機ジイソシアネート化合物(E)に属するヘキサメチレンジイソシアネート、メタクリル酸亜鉛(F)を組成物とした、さらなる2次被覆層を有した実施例1〜3の本発明のゴム補強用ガラス繊維6を用いた伝動ベルト5は、優れた耐熱耐屈曲性を有することが判った。
実施例1〜3のゴム補強用ガラス繊維6は水素化ニトリルゴムとの優れた接着強さを有し、実施例1〜3のゴム補強用ガラス繊維6を用い作製した伝動ベルトは、優れた寸法安定性、耐熱性、耐水性、耐油性を有することより、高温多湿下で長時間使用するタイミングベルト等の自動車用伝動ベルトの芯線として使用するに好適である。