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JP2010135135A - 電気絶縁用塗料組成物および絶縁電線 - Google Patents

電気絶縁用塗料組成物および絶縁電線 Download PDF

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JP2010135135A
JP2010135135A JP2008308364A JP2008308364A JP2010135135A JP 2010135135 A JP2010135135 A JP 2010135135A JP 2008308364 A JP2008308364 A JP 2008308364A JP 2008308364 A JP2008308364 A JP 2008308364A JP 2010135135 A JP2010135135 A JP 2010135135A
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Abstract

【課題】得られる皮膜の可とう性及び電気絶縁特性などの諸特性を維持しながら、特に耐摩耗性、導体および他の絶縁塗膜に対する密着性、ならびに耐熱性に優れた、ポリアミドイミド樹脂を含有する電気絶縁用塗料組成物およびこれを塗布焼付けた絶縁電線を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリアミドイミド樹脂を含有する電気絶縁用塗料に、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物を配合して電気絶縁用塗料組成物とし、これを導体上に塗布焼付けして絶縁電線を得る。
【選択図】なし

Description

本発明は、特に耐摩耗性と塗膜密着性に優れたアミドイミド樹脂を含有する電気絶縁用塗料組成物およびこれを塗布焼付けた絶縁電線に関する。
従来から導体上に、ウレタン樹脂、エステル樹脂、エステルイミド樹脂、アミドイミド樹脂などからなる絶縁塗料を塗布焼付けした絶縁電線が、コイルなどの形状で各種の電気機器に組み込まれ広範に使用されているが、近年、電気機器の小型化、高出力化の流れの中で、絶縁電線に流れる電流が高電圧になり、発熱や放電等による絶縁塗膜の破壊が起きやすい状況になってきている。この防止のため絶縁塗膜の耐熱性向上の要求が高まり、アミドイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布焼付けした絶縁電線の使用割合が大きくなってきている。
ここにおいて、前記電気機器の小型化、高出力化の要求に加え、コストダウンを目的とした工程の合理化のため高速自動巻線機の使用により、小型のモーターコアのような小さなスペースに、より多くの電線を高速でしかも密に巻線するようになってきている。このような巻線加工の際には、ニードルなどにより電線の絶縁皮膜に引張や摩擦などの大きな応力や変形が加えられ、絶縁皮膜の損傷や導体からの剥離が生じやすくなりレアショートなどの不具合を発生する問題がある。そのため絶縁皮膜に対して、導体に対する優れた密着性や、巻線の際に皮膜が損傷しないように耐摩耗性を向上させて、巻線や組み立ての加工性をさらに改善することが強く望まれている。
この問題の改善策として、絶縁電線表面の摩擦係数を低下させ滑りやすくすることにより皮膜損傷を受け難くするという方法があり、絶縁電線上に固形パラフィンやワックス等の潤滑剤を塗布する方法が行われている。しかし、この方法は絶縁電線をモーターやトランスに巻線した後、含浸ワニスや注型レジンで処理する際、前記固形パラフィンなどが含浸ワニスなどとの親和性に劣るため、接着不良などが発生しやすいという問題がある。そのため、絶縁塗膜自体に潤滑性を付与して前記問題を解決しようという試みがなされ、例えば、アミドイミド樹脂等の電気絶縁用合成樹脂塗料に、部分ケン化エステルワックスと、特定分子量のポリエチレンと、芳香族アミンを配合する方法(特許文献1)あるいは導体上に第1塗料を塗布・焼付けした後、ポリアミドイミド塗料に、安定化イソシアネート等の架橋剤と、ポリエチレンワックス等の潤滑剤を配合した塗料を特定の厚さで上塗りし焼き付ける方法(特許文献2)が提案されているが、これらは摩擦係数が小さく潤滑性は良好であるが、耐摩耗性が不十分のため電線皮膜が傷つき易く、また塗膜の密着性も劣る欠点がある。
あるいはまた、導体上に、ポリアミドイミド系樹脂にトリアルキルアミン及び/又はアルコキシ化メラミン樹脂を配合したポリアミドイミド系樹脂を塗布焼付けした下層に、ポリイミド系樹脂塗料を塗布焼付けして中間層を形成し、その上に自己潤滑型ポリアミドイミド系樹脂塗布焼付けして3層以上の塗膜とする方法が提案されているが(特許文献3参照)、表面の潤滑性はワックス等の潤滑剤によっており、前記同様耐摩耗性が不十分であり、電線皮膜が傷つき易い欠点は依然として改善されていない。
特開平5−325642号公報 特開平9−45143号公報 特開平10−247422号公報
本発明は、上記問題に鑑み、得られる絶縁皮膜の電気絶縁特性や耐熱性などの特性を維持しながら、特に耐摩耗性と塗膜(皮膜)の密着性の両方に優れたポリアミドイミド樹脂を含有する電気絶縁用塗料組成物およびこれを塗布焼付けた絶縁電線を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、ポリアミドイミド樹脂を含有する電気絶縁用塗料に、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物を配合することにより、これを塗布焼付けて得られる絶縁皮膜が特に耐摩耗性、塗膜の密着性および耐熱性に優れることを見出して本発明を完成させた。
すなわち本発明は、
(1)ポリアミドイミド樹脂(A)と、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)とを含有することを特徴とする電気絶縁用塗料組成物である。
そして、本発明において
(2)前記ポリアミドイミド樹脂(A)が、有機ポリイソシアネート(a−1)とトリメリット酸あるいはその無水物を少なくとも有するポリカルボン酸化合物(a−2)との反応により得られる樹脂であることが好ましく、
また、
(3)前記トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)が、トリアジン環含有化合物とホルムアルデヒドとフェノールとの反応生成物(b)であることが好ましい。
また、本発明において
(4)さらに潤滑剤(C)を配合することが好ましい。
そして、
(5)前記潤滑剤(C)が、合成ワックスであることが好ましい。
そして、本発明の別の態様は、
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の電気絶縁用塗料組成物を、導体上に直接塗布焼付けして得られる絶縁電線であり、
また、
(7)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の電気絶縁用塗料組成物を、導体上に他の絶縁層を介して塗布焼付けして得られる絶縁電線である。
上述の構成をとることにより、本発明の電気絶縁用塗料は、これを塗布焼付けて得られる塗膜(皮膜)が、電気絶縁性や耐熱性などの特性を維持しながら、特に耐摩耗性ならびに導体および他の絶縁塗膜に対する密着性に優れ、さらに加えて潤滑性も良好なものとなり、各種金属基材からなる導体に対する絶縁皮膜や保護コートなどに有用であり、特に絶縁電線(エナメル線とも称す)の分野において、近年の過酷な巻線加工や、コイル挿入などの組み立て加工の際、外的摩擦や応力による皮膜の損傷や剥離が生ぜず加工性に優れているため有用である。
以下に本発明の内容を詳しく説明する。
先ず、ポリアミドイミド樹脂(A)について説明する。ポリアミドイミド樹脂(A)は、分子内にアミド基(−NHCO−)とイミド基(−CO−N−CO−)を複数有する樹脂であり、本発明の電気絶縁用塗料において、塗布焼付け後に耐熱性を有する皮膜を形成する機能を有する成分である。ポリアミドイミド樹脂(A)は、公知の方法で合成されるものが使用できるが、具体的には以下の、
1)有機ポリイソシアネート(a−1)とトリメリット酸あるいはその無水物を少なくとも有するポリカルボン酸化合物(a−2)とを脱炭酸反応させる方法、
2)ポリアミノ化合物と前記ポリカルボン酸化合物(a−2)とを脱水反応させる方法、
3)ポリアミノ化合物とトリメリット酸クロライドを脱塩酸反応させる方法、
4)最初ポリアミノ化合物と前記ポリカルボン酸化合物(a−2)とをイミド化反応し、残ったカルボン酸基に有機ポリイソシアネート(a−1)を脱炭酸反応させてアミド化する方法、
などの合成方法が挙げられるが、これらのうち合成が容易な点で1)に示す方法が好ましい。
1)に示す合成方法をさらに具体的に説明すると、コンデンサーのついたステンレス製等の反応容器を用い、有機ポリイソシアネート(a−1)とトリカルボン酸あるいはその無水物とを、必要に応じて他のポリカルボン酸類を併用して、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性有機溶剤を反応溶媒として、80〜200℃に加熱昇温しながら、副生する炭酸ガスを系外に除去しながら、アミド化とイミド化の反応をする。この際、反応途中でサンプリングし、粘度またはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による数平均分子量の測定などをしながら反応を制御するのが好ましい。これらが目標の数値に到達した時点で、直ちに冷却するか、あるいは貯蔵安定性が向上する点で好ましくはメタノール、エタノール、MEKオキシムなどを加えイソシアネート基をブロックした後冷却するなどして反応を停止し、ポリアミドイミド樹脂(A)からなる溶液を得る。
前記ポリアミドイミド樹脂(A)のGPCによるポリスチレン換算の数平均分子量は、1,000〜100,000が好ましく、さらに10,000〜50,000が好ましい。数平均分子量が1,000未満であると、塗膜にしたときの造膜性が悪くなり、100,000を超えると、得られる電気絶縁用塗料の粘度が高くなり、塗布焼付け時の作業性が悪化するため好ましくない。
前記有機ポリイソシアネート(a−1)としては、イソシアネート基が芳香族炭素と結合している芳香族系有機ポリイソシアネートや、イソシアネート基が脂肪族炭素と結合している脂肪族系ポリイソシアネートが挙げられ、芳香族系ポリイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジフェニルメタンジイソシアネート、あるいはこれらの混合物等のMDI類;2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートあるいはこれらの混合物等のTDI類;この他p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、3,3’−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが挙げられる。脂肪族系ポリイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族炭素と結合しているイソシアネート基および芳香環を有する芳香脂肪族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
また、これらジイソシアネートのカルボジイミド変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体あるいはポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)なども挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができるが、これらのうち、得られる絶縁塗料を塗布焼付けて形成される皮膜の可とう性と耐熱性が良好な点で、芳香族系ポリイソシアネートが好ましく、さらにMDI類が好ましい。特に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
前記トリメリット酸あるいはその無水物を少なくとも有するポリカルボン酸化合物(a−2)は、トリメリット酸あるいはその無水物と、必要に応じ併用することができる他のポリカルボン酸類が挙げられ、トリメリット酸あるいはその無水物の中では、ポリアミドイミド樹脂の合成が容易で、かつ得られる絶縁皮膜の可とう性と耐熱性が良好な点で、トリメリット酸無水物が好ましい。ポリカルボン酸化合物(a−2)におけるトリメリット酸あるいはその無水物の使用量は、耐熱性が良好な点で、全酸成分中の50モル%以上、さらに80モル%以上が好ましい。前記必要に応じて併用することができる他のポリカルボン酸類としては、フタル酸、テレフタル酸,イソフタル酸、アジピン酸等などが挙げられる。
前記2)に示す方法は、1)の方法において有機ポリイソシアネート(a−1)の代わりにポリアミノ化合物を用いて脱水反応を行う方法である。この方法で用いるポリアミノ化合物としては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。
次に、本発明における第2の成分である、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)について説明する。このトリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)は、前記ポリアミドイミド樹脂(A)に配合することにより得られる本発明の電気絶縁用塗料を導体表面に塗布焼付けて形成される皮膜に対し、耐熱性を向上させるとともに、特に耐摩耗性、ならびに導体および他の絶縁皮膜に対する密着性を優れたものにする効果を発揮する。
トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)は、分子内にトリアジン環を少なくとも1個およびヒドロキシフェニル基を少なくとも1個含有する化合物であり、トリアジン環含有化合物とホルムアルデヒドとフェノール類との反応生成物(b)が好適なものとして挙げられる。この反応生成物(b)は、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン等のトリアジン環含有化合物にホルムアルデヒドを反応させメチロール化したメチロール化トリアジン環含有化合物に直接に、あるいは好ましくはメタノール、エタノールなどを反応してアルキル化トリメチロールトリアジン環含有化合物に転換した後に、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール類を加え加熱し、脱水縮合反応または脱アルコール縮合反応した共縮合オリゴマーである。なお、この共縮合反応は一括仕込みで行ってもよい。この反応生成物(b)のGPCによるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、300〜800であること、また分子量分布(重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比=Mw/Mn)は1.3以下であることが、耐摩耗性付与効果と塗膜密着性付与効果に優れている点で好ましい。
同様な点で、前記反応生成物(b)として、トリアジン環含有化合物としてメラミンを、フェノール類としてフェノールを用いたホルムアルデヒドとの共縮合オリゴマーがさらに好ましく、そして下記一般式(1)、(2)、(3)および(4)に示す化合物の群から選択される2種以上の化合物が共縮合オリゴマー全体の80質量%以上を占める混合オリゴマーが、特に好ましいものとして挙げられる。
Figure 2010135135
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Figure 2010135135
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前記トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)の一般市販品としては、トリアジン環含有化合物とホルムアルデヒドとフェノールとの共縮合オリゴマーである群栄化学工業社製のPS−6313が挙げられる。
本発明の電気絶縁用塗料は、前記ポリアミドイミド樹脂(A)を合成したところに、あるいはポリアミドイミド樹脂(A)をステンレス製などの攪拌機付混合容器に仕込んだところに、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)と、さらに後述する潤滑剤(C)を使用する場合はこれを仕込み、混合溶解することにより得ることができる。この際、粘度調節を目的としてさらに有機溶剤を加えて希釈することもできる。
前記希釈に使用される有機溶剤としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;ベンジルアルコール、キシリルアルコール等の芳香脂肪族アルコール系溶剤;メタノール、エタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール系溶剤;ペンタン、ヘキサン、ソルベントナフサ等の脂肪族炭化水素系溶剤;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤の他、前記ポリアミドイミド樹脂(A)の合成において反応溶剤として用いたのと同様のジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶剤などが挙げられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の電気絶縁用塗料を、導体の表面に直接塗布焼付けて硬化ポリアミドイミド樹脂の絶縁皮膜を形成することにより、または他の絶縁層を介して塗布焼付けて硬化ポリアミドイミド樹脂の絶縁皮膜を形成することにより、絶縁電線を得ることができる。なお、本発明の電気絶縁用塗料の硬化塗膜の上に、さらに他の絶縁層を塗布硬化することもできる。
導体(電気導電体)としては、銅、ニッケルメッキ銅、アルミニウム、金、金メッキ銅などの金属で形成された線状または板状の成形体が挙げられ、特に本発明の効果を最大限に発揮できる点で、線状の電線が好ましいものとして挙げられる。電線の断面形状は、円形の丸電線、四角形または長方形の平角電線などが挙げられる。
他の絶縁層としては、ポリビニルホルマール系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエステルイミド系、ポリエステルアミドイミド系、ポリヒダントイン系、ポリアミドイミド系、ポリイミド系などの各種絶縁皮膜層が挙げられる。
本発明の電気絶縁用塗料による絶縁皮膜の形成には、従来公知のあらゆる方法を採用することができるが、具体的には例えば、導体上にフェルト絞り方式やダイス絞り方式などにより絶縁塗料を塗布した後、200〜550℃の温度の焼付け炉中に通し焼付ける作業を、連続して複数回繰返し、塗布焼き付けることにより、所望の厚さの皮膜を形成することができる。前記皮膜の厚さは特に限定されず、使用する銅線などの導体の太さや要求性能により適宜選択すればよいが、導体表面に直接塗布または中間層として塗布する場合は、3〜100μmが好ましく、さらに10〜50μmが好ましい。3μm未満では絶縁性能に乏しく、100μmを超えると塗膜が厚くなりすぎ可とう性に乏しいものとなる。
また、他の絶縁層を介して最上層として塗布する場合は、性能とコストのバランスの点で1〜10μmが好ましく、さらに1〜5μmが好ましい。
また、本発明において、前記ポリアミドイミド樹脂(A)と、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)とからなる電気絶縁用塗料に、得られる絶縁皮膜に耐摩耗性に加えて、さらに潤滑性を付与する目的で、さらに潤滑剤(C)を配合することができる。この潤滑剤(C)を配合して得られる電気絶縁塗料を導体の最上層に塗布焼付けて得られる絶縁電線は、自己潤滑性を示すことにより、自己潤滑絶縁電線と呼ばれ、巻き線作業工程やコイル挿入などの加工組立工程において、さらに皮膜が損傷を受け難くなるため好適に使用される。
前記潤滑剤(C)としては、具体的には、天然ワックス、合成ワックス、脂肪酸アマイドなどが挙げられる。天然ワックスとしては、カルナバックス、キャンデリラワックス、木ロウ等の植物系ワックス;蜜蝋、セラック蝋等の動物系ワックス、モンタンワックス等の鉱物系ワックスなどが挙げられる。合成ワックスとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、これらを酸化あるいは酸変性して分子中にカルボキシル基を導入したもの、これらに無水マレイン酸、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等のビニル系モノマーを共重合したものなどで分子量10,000以下のものが挙げられる。合成ワックスの一般市販品としては、三井化学社製ハイワックスシリーズの100P、200P、400P、110P、220P、320P、420P、4202E、4052E、220MP、320MP、405MP、1105A、2203A;ヤスハラケミカル社製ネオワックスシリーズのE、E−20、E−3、AE−3などが挙げられる。脂肪酸アマイドとしては、オレイン酸アマイド、Nオレイルステアリン酸アマイドなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができるが、これらのうち潤滑性を付与する効果が高い点で、合成ワックスが好ましく、さらに酸化あるいは酸変性したポリエチレンが好ましい。
潤滑剤(C)の使用量は、ポリアミドイミド樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜20質量部、さらには1〜10質量部が好ましい。0.1質量部未満では潤滑性が低下し、20質量部を超えると下層の絶縁皮膜に対する接着性が低下するため好ましくない。
以下、本発明について実施例等により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
合成例1 ポリアミドイミド樹脂溶液AI−1の合成
攪拌機、温度計、還流コンデンサーの付いた加熱・冷却装置付き反応容器に、N−メチル−2−ピロリドンを498g仕込み、攪拌しながら4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT、分子量250)を195gおよびトリメリット酸無水物(三菱ガス化学社製、分子量192)を146g仕込んだ後、炭酸ガスの発生が急激にならないように注意しながら加熱し、炭酸ガスを排出しながら100〜120℃で3時間反応した後、希釈溶媒としてジメチルホルムアミドを214g仕込み、溶解しながら40℃以下に冷却しポリアミドイミド樹脂溶液AI−1を合成した。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液AI−1は、30℃における粘度が5,000mPa・s、樹脂固形分濃度が30質量%、還元粘度が0.48、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が30,000の粘稠液体であった。
合成例2 ポリアミドイミド樹脂溶液AI−2の合成
合成例1において、100〜120℃で2時間反応した以外は同様にして、ポリアミドイミド樹脂溶液AI−2を合成した。得られたポリアミドイミド樹脂溶液AI−2は、30℃における粘度が1,800mPa・s、樹脂固形分濃度が30質量%、還元粘度が0.38、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が23,000の粘稠液体であった。
合成例3 ポリアミドイミド樹脂溶液AI−3の合成
合成例1において、100〜120℃で5時間反応した以外は同様にして、ポリアミドイミド樹脂溶液AI−3を合成した。得られたポリアミドイミド樹脂溶液AI−3は、30℃における粘度が8,000mPa・s、樹脂固形分濃度が30質量%、還元粘度が0.54、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が35,000の粘稠液体であった。
実施例1〜4
攪拌機付混合容器に、合成例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液AI−1を334gと、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(群栄化学工業社製、PS−6313)をそれぞれ1g、5g、10gおよび20g仕込み、室温で攪拌混合し溶解し、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料S−1、S−2、S−3およびS−4をそれぞれ製造した。なお、ポリアミドイミド樹脂溶液AI−1の334g中のポリアミドイミド樹脂の含有量は100gである。
実施例5および6
実施例2において、ポリアミドイミド樹脂溶液AI−2およびAI−3をそれぞれ334g使用した以外は同様にして、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料S−5およびS−6をそれぞれ製造した。
比較例1
実施例1において、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(群栄化学工業社製、PS−6313)を使用しない以外は同様にして、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料比較S−1を製造した。
比較例2〜5
実施例1において、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物の代わりに、トリアジン環を有しないノボラック型フェノール樹脂(日立化成工業社製、ヒタノール1140)をそれぞれ1g、5g、10gおよび20g使用した以外は同様にして、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料比較S−2,比較S−3、比較S−4および比較S−5をそれぞれ製造した。
比較例6〜9
実施例1において、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物の代わりに、トリアジン環を有しないレゾール型フェノール樹脂(昭和高分子社製、ショウノールCKM−937)をそれぞれ1g、5g、10gおよび20g使用した以外は同様にして、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料比較S−6,比較S−7、比較S−8および比較S−9をそれぞれ製造した。
実施例7〜10
実施例1〜4において、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物を仕込んだ後、さらに潤滑剤として酸変性型ポリエチレンワックス(三井化学社製、ハイワックス2203A)3gをそれぞれ仕込んだ以外は同様にして、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料S−7,S−8、S−9およびS−10をそれぞれ製造した。
比較例10
実施例7において、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物を使用しない以外は同様にしてポリアミドイミド樹脂絶縁塗料比較S−10を製造した。
比較例11〜14
実施例7〜10において、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物の代わりに、トリアジン環を有しないノボラック型フェノール樹脂(日立化成工業社製、ヒタノール1140)をそれぞれ使用した以外は同様にして、ポリアミドイミド絶縁塗料比較S−11,比較S−12、比較S−13および比較S−14をそれぞれ製造した。
比較例15〜18
実施例7〜10において、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物の代わりに、トリアジン環を有しないレゾール型フェノール樹脂(昭和高分子社製、ショウノールCKM−937)をそれぞれ使用した以外は同様にして、ポリアミドイミド絶縁塗料比較S−15,比較S−16、比較S−17および比較S−18をそれぞれ製造した。
実施例1〜6および比較例1〜9で得たポリアミドイミド樹脂絶縁塗料S−1〜S−6および比較S−1〜比較S−9を用いて、下記の絶縁電線試験片Aの作製方法により作製した試験片Aについて、下記の試験方法〔外観、耐摩耗性(往復摩耗、一方向摩耗)、耐軟化および密着性〕により試験をした結果を配合組成とともに表1、表2および表3に記す。
そして、実施例7〜10および比較例10〜18で得たポリアミドイミド樹脂絶縁塗料S−7〜S−10および比較S−10〜比較S−18を用いて、下記の絶縁電線試験片Bの作製方法により作製した試験片Bについて、下記の試験方法〔外観、耐摩耗性(往復摩耗、一方向摩耗)および潤滑性(静摩擦係数、動摩擦係数)〕により試験をした結果を配合組成とともに表4及び表5に記す。
表1の結果から、本発明のトリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物を使用した絶縁用塗料組成物は、往復摩耗が200回以上、一方向摩耗が1200g以上と耐摩耗性が極めて優れた値を示し、密着性においても150回以上、耐熱性を表す耐軟化においても420℃以上と優れた値を示していることが分かる。また、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物は添加量が増加すると一方向摩耗および耐軟化が向上することも分かる。
そして、表4及び表5の結果から、本発明のトリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物と酸変性型ポリエチレンワックスを組み合わせた絶縁用塗料組成物は、往復摩耗が400回以上、一方向摩耗が1900g以上と著しく向上していることが分かる。
(絶縁電線試験片Aの作製方法)・・・銅線上に1層塗布の場合
0.4mmφの銅線上に、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料をそれぞれダイス絞りで8回、塗布・焼付けを繰り返し、皮膜厚さ20μmの絶縁電線試験片を作製した。なお、焼付け条件は、2.4mの横形電熱炉を用い、炉温(入口/出口)475℃/520℃、焼付線速21m/minとした。
(絶縁電線試験片Bの作製方法)・・・銅線上に2層塗布の場合
0.37mmφの銅線上に、下塗り層として合成例1で得られたポリアミドイミド樹脂溶液AIを、ダイス絞りで6回、塗布・焼付けを繰り返し、皮膜厚さ15μmの絶縁層を1層形成した後、さらにこの上に実施例5〜8および比較例10〜13で得た潤滑性を付与したポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を、ダイス絞りで1回、塗布・焼付けし、皮膜厚さ2μmの上塗り層を1層形成して絶縁電線試験片を作製した。なお、焼付け条件は、下塗り、上塗りとも2.4mの横形電熱炉を用い、炉温(入口/出口)475℃/520℃、焼付線速21m/minとした。
(試験方法)
外観
JIS C 2351(2006年改正)「エナメル線用ワニス」の8.6焼付塗膜の外観により、電線試験片の外観を目視により観察し、塗膜の表面が滑らかで、一様の光沢及び色をもっているものを○と評価し、くすみまたは濁りの認められるものを×と評価した。
耐摩耗性
往復摩耗
旧JIS C 3003(1976)「エナメル線試験方法」の10.1耐摩耗により往復摩耗(回)を測定した。なお、加重は300gとした。

一方向摩耗
JIS C 3003(1999年改正)「エナメル線試験方法」の9.耐摩耗(丸線)により、一方向摩耗(g)を測定した。
耐軟化
JIS C 3003(1999年改正)「エナメル線試験方法」の11.耐軟化、11.2B法のb)交差法により、耐軟化(℃)を測定した。なお、おもりの質量は400gとした。
密着性
JIS C 3003(1999年)「エナメル線試験方法」の8.密着性、8.1丸線のb)ねじり法により密着性(回)を測定した。なお、試験片に加える錘の質量は400gとし、試験片の皮膜の除去は1辺のみとした。
潤滑性
JIS K 7125(1999年)「プラスチック−フィルムおよびシート−摩擦係数試験方法」に準じ、水平な台に絶縁電線試験片Bを2本はり、その上に絶縁電線試験片Bを底に2本貼った質量200gの平板状の滑り片を電線同士が垂直に接触するようにのせ、滑り片を移動速度10cm/minで水平方向に動かしたときの力を測定し計算式(5)により静摩擦係数および計算式(6)により動摩擦係数を求めた。
静摩擦係数=Fs/Fp (5)
動摩擦係数=Fd/Fp (6)
「式中、Fsは静摩擦力(N)であり、Fdは動摩擦力(N)であり、Fpは滑り片の質量によって生じる法線力(=1.96N)である。」
Figure 2010135135
Figure 2010135135
Figure 2010135135
Figure 2010135135
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Claims (7)

  1. ポリアミドイミド樹脂(A)と、トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)とを含有することを特徴とする電気絶縁用塗料組成物。
  2. 前記ポリアミドイミド樹脂(A)が、有機ポリイソシアネート(a−1)とトリメリット酸あるいはその無水物を少なくとも有するポリカルボン酸化合物(a−2)との反応により得られる樹脂である、請求項1に記載の電気絶縁用塗料組成物。
  3. 前記トリアジン環およびヒドロキシフェニル基含有化合物(B)が、メラミンとホルムアルデヒドとフェノールとの反応生成物(b)である、請求項1または2に記載の電気絶縁用塗料組成物。
  4. さらに潤滑剤(C)を配合する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気絶縁用塗料組成物。
  5. 前記潤滑剤(C)が、合成ワックスである、請求項4に記載の電気絶縁用塗料組成物。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気絶縁用塗料組成物を、導体上に直接塗布焼付けして得られる絶縁電線。
  7. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気絶縁用塗料組成物を、導体上に他の絶縁層を介して塗布焼付けして得られる絶縁電線。
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