JP2004210713A - 医療用胎盤由来細胞製剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】胎盤組織より再生医療に利用可能であって、骨髄組織よりも容易に入手できる間葉系幹細胞(MSC)を細胞製剤として提供する。
【解決手段】胎盤細胞を培養してマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の高発現しているMSCを採取し、生理食塩水に懸濁して細胞製剤とする。胎盤組織からMMP)を高発現するMSCは、MMP低発現MSC、または、これまでに知られてきた骨髄由来MSCよりも分化能が優れていることから、心筋を含む筋肉組織、軟骨を含む骨組織、脂肪組織、または肝臓、膵臓、腎臓などの臓器あるいは神経組織の欠損を処置または修復するための再生に有効に利用される。
【選択図】選択図なし
【解決手段】胎盤細胞を培養してマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の高発現しているMSCを採取し、生理食塩水に懸濁して細胞製剤とする。胎盤組織からMMP)を高発現するMSCは、MMP低発現MSC、または、これまでに知られてきた骨髄由来MSCよりも分化能が優れていることから、心筋を含む筋肉組織、軟骨を含む骨組織、脂肪組織、または肝臓、膵臓、腎臓などの臓器あるいは神経組織の欠損を処置または修復するための再生に有効に利用される。
【選択図】選択図なし
Description
【0001】
【発明の属する従来の技術分野】
本発明は、胎盤および臍帯組織由来の間葉系幹細胞を含む細胞製剤およびそれを用いた再生医療に関する。
【0002】
【従来の技術】
人工透析に代表される人工臓器を用いた医療は、現在、臨床に大きく貢献しているものの、効果が一時的であり、また侵襲が大きく補助できる機能が単一であるという大きな欠点がある。一方、親族および脳死患者から摘出された臓器による移植医療も、ドナー不足に加えて移植後の拒絶反応、免疫抑制剤の副作用による感染症や発癌などの問題もあり、理想的な治療とは言いがたい。このように、現在の臓器不全に対する医療の二本柱が、それぞれに限界に達してきているのではないかと考えられている。このような状況の中で、自己の組織あるいは他人の細胞や組織を利用して、欠損あるいは荒廃した組織や臓器を復元するという新しい治療、すなわち再生医療の臨床への試み、およびそれに向けた基礎研究が行われ始めている。これは細胞や組織を利用することによって、人為的に自己の組織や臓器を再び健全なものにしようとする試みである。
【0003】
近年、ヒト胚性幹細胞(ES)が生体外で培養、増殖できたことが報告され、将来の再生医療への応用が期待されている(非特許文献1)。しかし、ESを再生医療の細胞ソースとして用いることは多くの国で倫理的な問題を引き起こし、また供給量も限られているという欠点がある。さらに、これらの細胞の持つ幅広い分化誘導能は、移植後の腫瘍化の危険性もある。このESに対して、成人の生体内にも、骨、軟骨、脂肪、筋肉、肝臓、神経組織を構成する細胞に分化する能力を有する、間葉系幹細胞 (MSC)が存在することが知られている。MSCは生体外で培養が可能であり、さらに任意の刺激を与えることで上記の細胞へ分化することができる。MSCの細胞表面マーカーとしてはCD34‐, CD45‐, CD105 (SH2)+, CD73 (SH3)+であることが報告されている(非特許文献2)。また、Kocらは、乳がん患者に対する自家造血幹細胞移植において、自家骨髄由来MSCを同時移植したパイロット試験により、移植後の血液学的回復を向上したことから、骨髄MSCが造血幹細胞の骨髄への生着を促進する可能性があることを報告している(非特許文献3)。
【0004】
再生医療に利用する細胞ソースを選択する際、重要になる条件は、第一に採取した細胞が再生されうる組織へ正常に分化することであり、第二に倫理的な問題もなく、容易に利用できて、提供者への負担が極力少ない、もしくは無いことが産業上有用となりうる。
MSCは、上述のように既に臨床応用されるレベルにあり、また成人骨髄内に多く存在することから骨髄針により容易に採取できる。さらに、倫理的問題も無く、患者自身の骨髄細胞を利用できる点で有用視されている。
【0005】
最近の報告では、胎盤組織にも同様に間葉系細胞が存在することを報告されており(非特許文献4,5)、その臨床上の有用性が期待されている。現在、臍帯血採取後の胎盤は医療廃棄物として扱われており、MSCのソースを胎盤とした場合、採取にあたっては、ドナーつまり分娩後の母親、および社会的に全く負担がない点で優れている。またバンクに登録された臍帯血は、主要組織適合抗原 (MHC)や感染性などの詳細が把握されており、臍帯血採取後の胎盤を再生医療の細胞ソースとして用いた場合、臍帯血と共に再生医療にとって高い利用価値があるものと考えられる。しかしながら、現在のところ胎盤由来のMSCに関しては、骨髄由来のMSCに比べて、多分化能や細胞表面抗原などの細胞特性に関してまだ不明な点が多く、臨床応用へ向けた研究成果が待たれている。
【0006】
また、胎盤由来のMSCが実際臨床で利用される場合には、それを供給できるバンクシステムの存在が不可欠となる。しかしこの点においては、現在のところ胎盤組織より採取された臍帯血の公的バンクが存在しており、胎盤由来細胞においても、それに付随するバンクとして供給体制を取れる可能性がある。臍帯血には骨髄などに代わりうる有力な造血幹細胞が存在しており、世界では既に2000以上の臍帯血移植が行われている。現在、臍帯血バンクでは、臍帯血に対する質的管理能力も向上していることから、胎盤に対しても質的管理されたバンクの整備が充分可能であると期待される。
【0007】
【非特許文献1】
Thomason, J.A. et al.; Science, 282, 1145−7, 1998
【非特許文献2】
Pittenger, M.F. et al.; Science, 284, 143−7, 1999
【非特許文献3】
Koc, O.N. et al.; J. Clin. Oncol., 18, 307−16, 2000
【非特許文献4】
渡邊ら;日本再生医療学会雑誌, 1,133, 2002
【非特許文献5】
伊倉ら;日本再生医療学会雑誌, 1,133, 2002
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、MSCの供給源として着目した胎盤組織、臍帯組織より、望ましいMSCを得ること、並びに再生医療に利用可能であって、骨髄組織よりも容易に入手できるMSCを細胞製剤として提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者の一人である高橋は、これまでに胎盤組織のMSCに関して、その細胞生物学的性状として、骨芽細胞、神経細胞への分化能に優れていることを見出し、障害組織の再生医療に用いることができることを示した(特願2002−295721)。本発明者らは、さらに胎盤由来のMSCを規定できうるようなマーカーとなる分子を同定することができれば、胎盤組織から望ましいMSCを得る事ができ、上記課題を解決できると考えた。
【0010】
本発明者らは、胎盤由来MSCに特有なマーカーとなる分子を同定するために、特に多分化能の高い胎盤由来MSCを特定して、そのMSCから抽出したmRNAを用いて、DNAマイクロアレイを用いた解析法により新しいマーカーとなる分子を探索した。そして、鋭利努力した結果、次のようなことを見出した。
【0011】
これまで胎盤組織からのMSCの採取には、細切した組織を用いたoutgrowth法、またはトリプシンなどの消化酵素を用いる方法を用いるが、いずれの方法においても多分化能に優れた細胞を得ることは難しいものであった。本発明者らによると、鋭利努力して得られた多分化能の高い胎盤由来MSCには、MMPの発現、特にMMP−1とMMP−3の発現が高いことが判った。このことからMMP−1とMMP−3を発現している胎盤MSCこそが、分化能に優れた細胞として規定できうることを発見した。また、当該分子をモニタリングすることによる胎盤MSCの存在比率の解析、または当該分子に対する抗体を用いた特異的な胎盤MSCのソーティングなどが可能であることも見出した。
【0012】
これまでに見出されてきた胎盤MSCには、当該MMP分子を高発現する細胞群と、比較的発現の低い細胞群が存在するが、本発明における当該MMPを高発現する胎盤由来MSCは、当該MMPの発現が低い胎盤由来MSC、あるいは公知の骨髄由来MSCに比べて、心筋を含む筋肉組織、軟骨を含む骨組織、脂肪組織、または肝臓、膵臓、腎臓などの臓器あるいは神経組織を構成する細胞への分化能が優れていることも見出した。
【0013】
この発見により当該MMPで規定された胎盤MSCを供給源とすることにより、再生医療に大きく寄与できることが期待でき、また臍帯血と同様に再生医療に利用できる細胞の供給源となりうることを発見した。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)ヒト胎盤組織または臍帯組織から単離した細胞から構成される、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP) を高発現することを特徴とする間葉系幹細胞を含む細胞製剤。
(2)MMPがMMP−1である前記(1)に記載の細胞製剤。
(3)MMPがMMP−3である前記(1)に記載の細胞製剤。
(4)MMPが膜結合型のMMPである前記(1)に記載の細胞製剤。
(5)MMPに対する抗体を用いてMMPを発現する間葉系幹細胞を濃縮した前記(4)に記載の細胞製剤。
(6)MMPに対する抗体を用いて前記(4)に記載の細胞製剤で、MMPを発現する間葉系幹細胞を濃縮する方法。
(7)前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の細胞製剤をヒトへ移植することを特徴とする組織、臓器の再生方法。
に関する。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明によるヒト胎盤とは、出産後の母体から得ることができる胎盤組織を示す。胎盤は分娩後容易に摘出することができるが、臍帯血バンクで臍帯血分離採取後、インフォームドコンセントを得て入手したヒト胎盤を用いるのが好ましい。より好ましくは、MHCや感染性ウイルス等の検査結果等の詳細を把握した上記胎盤を用いる。
【0016】
本発明の胎盤MSCは、当該分野の既存技術により胎盤より分離できる。すなわち、ヒト胎盤を機械的細切処理後の組織を、outgrowthを利用したエクスプラント法、トリプシンなどの消化酵素やEDTAなどのキレート剤による処理法、あるいは酵素、キレート剤処理後にFACS、磁気ビーズ等を用いた細胞選別(ソーティング)による分離する方法からなる群から選ばれる1つ以上の方法により、胎盤MSCを分離できる。分離した胎盤由来MSCは、当該技術分野で公知の培地を用いて培養することができる。具体的には、10%FBS を含むDulbecco’s Modified Eagle’sMedium (DMEM, low glucose, Sigma)に懸濁して培養することで、未分化な状態を維持して増殖できる。本発明者らは、このようにして複数の胎盤組織より多数のロットの胎盤由来MSCを分離した。
【0017】
本発明に係る胎盤由来MSCが持つ多分化能も、本発明者らによって確認されている。すなわち、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、および神経細胞への分化能に関して、以下のような実験を行い確認した。脂肪細胞への分化誘導は、胎盤由来MSCをデキサメサゾン、インドメタシン、インシュリン、および3−イソブチル−1−メチル−キサンチンを含む培地で1−3日間培養した後、脂肪の蓄積をオイルレッド“0”染色にて確認した。軟骨芽細胞への分化誘導は、胎盤由来MSCをデキサメサゾン、ピルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸2リン酸塩、プロリン、インシュリン、トランスフェリン、亜セレン酸、リノール酸、腫瘍増殖因子(TGF)−b、および牛血清アルブミンを含む無血清培地で14−28日間培養した後、グルコサミノグリカンの産生をSafranin O染色で確認した。
【0018】
骨芽細胞への分化誘導は、胎盤由来MSCをデキサメサゾン、アスコルビン酸2リン酸塩、およびβ−グリセロフォスフェートを含む培地で2−3週間培養した後、カルシウム沈着、分泌量をそれぞれコッサ染色およびWako試薬による定量で確認した。また、神経細胞への分化誘導は、胎盤由来MSCをポリリジン固定化培養器中で、Butylated hydroxvanisole、3−イソブチル−1−メチル−キサンチン、デブチルサイクリックAMP、およびDMSOを含む培地で24時間培養し、細胞をパラホルムアルデヒドで固定後、抗神経特異的エノラーゼ(NSE)抗体で免疫染色して確認した。
【0019】
本発明者らは、数多く採取した胎盤由来MSCについて、上記に示したような細胞への分化誘導能に関して、市販の骨髄由来MSC(旭テクノグラス)を対照として比較を行ったところ、いずれの細胞への分化能においても、骨髄由来MSCよりも胎盤由来MSC、特にPL30ロットの分化能が優れていることが判った。
【0020】
このようにして、本発明者らは、多分化能のより高い胎盤由来MSC (lot PL30)を見出すことができた。すなわち、脂肪細胞への分化では骨髄MSCよりも胎盤MSC(lot PL30)の方が、誘導後の細胞のオイルレッド“0”染色細胞数が多いことから脂肪蓄積細胞がより多く誘導されており、軟骨芽細胞への分化においても、骨髄MSCよりも胎盤MSC(lot PL30)の方が、誘導後の細胞のSafranin O染色率が高く、グルコサミノグリカン産生がより高いことを確認した。さらに、骨芽細胞への分化でも、胎盤MSC(lot PL30)が誘導後の細胞のコッサ染色率およびWako試薬によるカルシウム分泌量が骨髄由来MSCよりも多く、神経細胞への分化においても、誘導後の細胞のNSEの染色率が骨髄より高いことを確認した。また、上記の胎盤MSC(lot PL30)は、DNAマイクロアレイ解析の結果、本発明に係るMMPの発現、特にMMP−1とMMP−3の発現が、市販の骨髄MSCよりも高いことを明らかにした。
【0021】
本発明に係るDNAマイクロアレイとは、ガラスまたはナイロン等の基板の上に数百〜数千、および数万個の遺伝子DNAを高密度に配列したデバイスである。また、本発明によるDNAマイクロアレイを用いた解析法とは、cDNAやゲノムDNAとのハイブリダイゼーションによって、遺伝子発現プロファイルや遺伝子多型をゲノムスケールで解析する事を可能にした手法である。この手法により、分化の過程における遺伝子発現の変動や、病態によって発現変動する遺伝子群の同定、あるいはシグナル伝達、転写制御に関与する新しい遺伝子の発見や、異なる組織、細胞間の遺伝子発現プロファイルの解析などが可能になってきた。また、遺伝子多型マーカーとなるSNPを多数解析することも可能になってきた。
【0022】
本発明に係るMMPとは、コラーゲン、ゼラチン、ラミニンといった細胞外マトリクスの構成蛋白質を分解する金属プロテアーゼとして知られており、さらにMMPには、MMP−1, 2, 3, 7から23まの20個の分子が既にクローニングされている。そのうちMMP−18, −21はアフリカツメガエルのみ、MMP−22はニワトリのみ発現している分子ということがわかっている。MMPは細胞外に分泌される可溶性タイプ、または膜に結合している膜結合型タイプがあり、さらに構造上の特徴から8タイプ(可溶性蛋白質7タイプ、膜結合型1タイプ)に細分類されている。MMPはいずれのタイプにおいても、プロペプチドが付いた不活性な潜在型酵素として存在している。プロペプチド配列にはMMP間で保存性の高い配列(PRCGV/NPD配列)中のシステイン残基が、活性中心の亜鉛に結合して不活性を維持している“システインスイッチ”が考えられている。MMPは、主に線維芽細胞や炎症細胞などの正常細胞やがん細胞に発現している。特にがん細胞では多くのMMP(MMP−1, 2, 3, 7, 9, 11など)が過剰発現していることが知られており、周辺組織への浸潤および転移に関わっていると考えられている。MMPに関しては、例えば実験医学別冊「メディカル用語ライブラリー/癌−分子メカニズムから病態・診断・治療まで−(羊土社)垣添忠生、関谷剛男編集」に詳しい記載がある。
【0023】
本発明において高発現とは、実施例で示した条件で検出される条件並びに表1、表2、および表3に示したように、コントロールに対しておおよそ2倍以上の蛍光強度を示すものとして規定しているが、より好ましくは、胎盤由来MSC (lotPL30)に発現する遺伝子の蛍光強度が、コントロールである市販の骨髄由来MSCとの比較解析においては9倍以上、胎盤全組織との比較解析においては2.5倍以上、胎児肺由来線維芽細胞 (MRC−5)との比較解析においては10倍以上の蛍光強度を認めるものを高発現として規定する。
【0024】
本発明において、胎盤由来MSCに高発現するMMPが膜結合型タイプであれば、該分子に対する抗体を用いて分離、濃縮することができる。すなわち、膜結合型MMP高発現胎盤由来MSCの分離、濃縮は、細胞表面のMMP分子を認識する抗体と反応性を有する陽性細胞を結合させて回収することが基本原理である。これまでに抗体を用いて分離、濃縮した細胞の医療への利用としては、CD34分子陽性造血幹/前駆細胞が知られている。
【0025】
すなわち、CD34陽性細胞を回収する方法は、一般的には蛍光標識した抗CD34抗体を分離したい細胞群と反応させ、その後FACSを用いてソーティングする方法がある。また別の方法として抗CD34抗体を磁気ビーズで標識し、分離したい細胞群と反応させ、その後磁石でCD34陽性細胞を回収する方法である。いずれの方法であっても、質的に大差のないCD34陽性細胞を得ることが可能である。臨床的には磁気標識した抗体と磁石を利用した機器が開発され、日本においても医薬審議会で稀少疾患治療器具として認定されている。
【0026】
本発明における抗MMP抗体を用いた胎盤由来MSCの分離、回収方法も、上記のCD34陽性細胞の回収方法に準ずるものと位置付けることができる。このように胎盤由来MSCに高発現するMMPが膜結合型タイプであった場合、上記に記した手法により、分離濃縮した当該MMP分子を高発現する胎盤MSCは、さらに強い分化能に優れた細胞として回収することが可能である。
【0027】
また、本発明によるMMPが膜結合型ではない分子であったとしても、現在ではFACSによる細胞内サイトカイン類の測定方法が可能であるため、該方法により胎盤由来MSCの細胞内のMMPを測定することで、MSCの存在率等を解析、検査等のモニタリングが可能である。また、細胞からmRNAを抽出して、PCR法によりMMPを定量して解析、検査等のモニタリングを行うことも可能である。
【0028】
本発明においては、胎盤由来MSC (lot PL30) に高発現している分子として、MMP以外にも実施例の結果の表1〜3に列挙した分子を示すことができる。すなわち、市販の骨髄MSC、胎盤全組織、MRC−5との比較において、いずれにおいても胎盤由来MSC (lot PL30)に高発現する共通の分子として、IL−8、インテグリンα1を挙げることができる。一方、個別の比較においては、対骨髄MSCではGRO1、MCP−1が高発現を示しており、対胎盤組織においては、MCP−1、インテグリンαV(CD51)、ALCAM (Activated Leukocyte Cell Adhesion Molecule)が高発現を示した。また、対胎児肺由来線維芽細胞(MRC−5)では、GRO−1、インテグリンβ3 (CD61)、TIMP−3 (Tissue Inhibitor of Metalloproteinase−3)、PDGF レセプター betapolypeptide、Transferrin レセプター、Leptin レセプター、IL−6、Cadherin 2 (N−cadherin)、MHC class I A、Neuropilin 2、TGFβ2が高発現であることを示している。
【0029】
それぞれの解析で共通して高発現しているIL−8は、ケモカインファミリーの一つであり、癌を含むあらゆる疾患の病巣部位において、特に浸潤している白血球やT細胞に多く発現している炎症性メディエーターとして知られる。ケモカインには、その他にも高発現分子としてリストアップされているGRO−1やMCP−1があり、また他にもRANTES、MIP−1αなどが知られている。もう一つ共通した高発現分子であるインテグリンα1は、接着因子の一つであり、炎症時に白血球の組織浸潤に関与することで知られている。インテグリンには、他にリストアップされているようなインテグリンαV (CD51)、インテグリンβ3 (CD61)がある。ALCAMやCadherin 2は、インテグリン分子以外の接着因子であり、それぞれ活性化白血球や神経細胞などの組織部位特異的な接着分子として知られている。
【0030】
その他に、MRC−5に対して高発現する分子として挙げた、TIMP−3 (Tissue Inhibitor of Metalloproteinase−3)は、MMPの阻害活性を持つTIMPファミリー分子の一つであり、現在TIMP−1〜4の4種類のタイプが発見されている。PDGF レセプター beta polypeptideは、PDGF−BB(B鎖ホモダイマー)分子のレセプターであり、神経系および血管系内皮細胞の成長、分化を促す活性を持ち、神経膠細胞、血管内皮細胞等に発現していることが知られている。PDGFレセプターには、他にもa polypeptideタイプおよびa,b heteropeptideレセプターが存在する。Transferrin レセプターは、鉄代謝に関与するTransferrin分子に対するレセプターであり、Transferrinレセプター1、2の2種類のタイプがある。Leptin レセプターは、近年、脂肪細胞より分泌し、脂質代謝、体重コントロールに重要な働きをするホルモンとして発見されたleptin分子のレセプターである。IL−6とTGFβ2は、それぞれインターロイキン類、TGFβスーパーファミリーに属するサイトカインであり、免疫や造血などの組織における細胞の分化、増殖、活性に関与する蛋白質として知られている。MHC class I Aは、主要組織適合抗原(MHC)の一つである。MHCは、外来または非自己組織の拒絶、またはそれらの抗原を、自己の免疫細胞に対して提示する機能に関与しており、class Iとclass IIの2つのタイプが存在している。それぞれのタイプの分子はさらに、class IだとA、B、Cに、class IIではDなどに細分類されている。class Iはほぼ全ての有核細胞に発現しており、class IIは主にマクロファージ、B細胞、または樹状細胞などの抗原提示細胞に発現している。Neuropilin 2は、血管内皮成長因子であるVEGFに分子構造が似ており、神経組織が成長する際の軸索の伸展や血管内皮の分化、増殖に関与する分子として知られている。Neuropilinには、Neuropilin1、2の2つのタイプが存在する。これらの分子に関しては、例えば、実験医学別冊「メディカル用語ライブラリー(羊土社)」シリーズに詳しい記載がある。
本発明に係る、MMP以外の上記分子においても、MMP同様に、胎盤由来MSCの解析および検査等のモニタリングの指標になる分子として用いることが可能である。
【0031】
本発明の医療用胎盤由来細胞製剤は、MMP−1およびMMP−3が高発現するものとして選別されたロットの胎盤由来MSC、または/および、当該MMPに対する抗体を用いて濃縮した胎盤由来MSCを、生理食塩水中に懸濁して製造することができる。すなわち、エクスプラント法にて採取した細胞は、その一部を抗体によるFACS解析にてMMP−1およびMMP−3の発現率、または、場合によっては、MMP以外の上記記載の高発現分子の発現率を検査し、当該分子が高発現な細胞ロットを選別することが必要である。または/および、エクスプラント法を用いた胎盤組織の培養により回収した細胞、または、胎盤組織をトリプシン等による酵素処理して得た細胞を、MMP−1およびMMP−3に対する抗体を用いてFACSや磁気ビーズによる濃縮法にて回収することが必要である。それぞれの胎盤由来MSCを生理食塩水中に懸濁して製造することができる。抗体による濃縮には、上記に記載したようなMMP分子以外に挙げた高発現分子に対する抗体を用いることもできる。また、培地はコンタミネーションを防ぐ目的から、抗生物質が含まれている場合が多いが、抗生物質でアレルギー症状が出る可能性を考えると、抗生物質を含まないものを用いることが望ましい。細胞回収に用いる試薬類は、臨床グレードで製造、品質管理を行ったもの、すなわち、GMPに準拠した製造、品質管理されているものが望ましい。さらに該細胞製剤は全て液体窒素中にて凍結保存しておき、組織再生治療を行う際に解凍して、凍結保存剤の洗浄除去、細胞生存率、ウイルスチェック等の検査を経て調整した後に使用することができる。該細胞製剤の製造、および治療時の細胞調製は、無菌性、無塵環境保持などのモニタリングによる管理が行われている細胞処理施設内で行い、その施設内で使用する培養器、安全キャビネットなどの機器類も上記管理が行われているものを使用することが望ましい。また、製造作業は、一定の期間、無菌操作、試運転についての教育訓練を受けた製造作業者が細胞製剤の製造を行うのが適当である。加工が加わった細胞製品には、感染の危険性のある病原体(HIV、HCV、HBV、HTLV、他)のスクリーニングを段階的に義務づけることが望ましい。より好ましくは、各工程の無菌性のチェックや最終製品のエンドトキシン、グラム染色、マイコプラズマ等の無菌性チェック等を行う。これら製造プロセスの管理環境において、全てのチェック項目をクリアした細胞製剤を治療に用いることができる。
【0032】
本発明は、上述の胎盤MSCから分化誘導された細胞も再生医療に提供しうる。前記細胞としては、特に限定されないが、例えば、脂肪細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、神経系細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、血液細胞、脳細胞、神経細胞などが挙げられる。より好ましくは、脂肪細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、神経系細胞へ分化誘導した細胞が望ましい。胎盤MSCから、上記細胞に分化誘導する方法としては、特に限定はしないが公知の方法を用いてよい。すなわち公知の細胞分化誘導因子を用いて処理する方法が挙げられる。例えば骨形成因子、神経栄養因子、TGF−βまたはアクチビンなどのTGFβスーパーファミリーに属する因子、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)または酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)などのFGFスーパーファミリーに属する因子、白血病抑制因子(LIF)またはシリアリー・ニュートロフィック・ファクター(CNTF)に属する因子、インターロイキン―1(IL−1、以下同様に略記する), IL−2, IL−3, IL−5, IL−6, IL−7, IL−11, 腫瘍壊死因子(TNF)−α, インターフェロン―γ(INF−γ)など骨芽細胞や神経細胞などの特定の組織において、生体機能を維持する細胞が未分化な前駆細胞から分化する過程に特徴的な形質を誘導する因子が挙げられる。
【0033】
本発明により胎盤由来MSCより分化誘導された細胞は、障害をうけた組織や臓器の治癒、緩和、または更なる悪化の予防のための細胞医薬として利用することができる。もちろん分化誘導は行わず、かつ培養による増幅も行わずに、本発明に関わる胎盤MSCを用いることも可能である。より具体的には、本発明にかかる胎盤由来MSCまたは、前記細胞から分化誘導された所望の組織、臓器を構成する細胞を、障害を受けた組織、臓器に移植することにより、前記組織、臓器を再生させることができる。このように再生されうる組織、臓器としては、特に限定されないが、例えば、血管、角膜、半月板、脳組織、皮膚、皮下組織、上皮組織、骨組織もしくは、筋肉など組織;または眼、肺、腎臓、心臓、肝臓、膵臓、脾臓、小腸を含む消化管、膀胱、卵巣などの臓器が挙げられる。
【0034】
生体内における組織再生、すなわち細胞の自己再生の場においては、生態学的適所(ニッチェ)となる細胞あるいは細胞の分泌する細胞外マトリクスや絨組織などの必要性が考えられてきている。例えば、骨髄移植は古くから行われている治療法であり、良い臨床成績をあげている。これは骨髄細胞中の血液幹細胞が増殖分化できる場となる骨髄組織つまりニッチェが、体内に既に存在しているからこそ成功していると考えられている。また、最近では神経幹細胞からの神経発生には血管内皮細胞の存在が必要であり、神経前駆細胞側あるいは血管内皮細胞側からの何らかのシグナルが重要との報告があった(Theo D. Palmer, et al. J.Compara.Neur. 2000)。このようなことから、生体内に広く存在する幹細胞に対して、十分な再生の場を与えることができれば、自己組織の再生を促すことができる可能性がある。このことから現在、いろいろな組織再生の方法が研究開発されているが、再生のための足場、細胞増殖因子、および幹細胞の3者を組み合わせて利用する方法も考えられている。本発明における胎盤由来MSCを含む細胞医薬においても、活性成分である上記発明に関わる胎盤由来MSCまたは、当該細胞から分化誘導させた細胞そのものであってもよいが、患者に投与する際には、必要に応じて細胞の分化、維持を支持しうる担体または足場となる材料を利用することもできる。
【0035】
本発明に係る胎盤由来MSCには造血支持活性を有することも発見した。すなわち本発明者らはNOD−scidマウスを用いた動物実験により、臍帯血幹細胞との同時移植により、移植後の血球回復を促したことを明らかにした。さらに、この実験において、骨髄由来MSCを対照とした場合、胎盤由来MSCの方が、血球回復能が強いことも確認している。
【0036】
本発明にかかる胎盤由来MSCを含む細胞製剤の患者への投与経路は、特に限定されない。例えば静脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内、骨髄内、脳内への投与形態が例示できる。また、本発明の細胞製剤の患者への投与量は、治療すべき病態の種類、症状および疾患の重篤度、患者年齢、性別もしくは体重、投与法などにより異なるので、一概に言えないが、医師が前記状況を判断して決定することができる。
【0037】
本発明にかかる胎盤由来MSCは再生医療に有用な細胞製剤となりうるが、その場合、臍帯血バンクを通じて得られるMHCの情報を基にして、MHCを一致させた細胞を選び出して、移植を行えば、同種移植に伴う拒絶反応を可及的に抑えることができ、これまでの臓器移植で大きな問題となっていた激しい拒絶反応を軽減させることができる。すなわち本発明にかかる胎盤由来MSCは、MHCが明示されていることが望ましく、より好ましくは、当該MSCが臍帯血採取後の胎盤から単離されるものであり、かかる胎盤由来MSCのMHCに関する情報が、臍帯血バンクを通して得たものが望ましい。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を用いてより詳細に説明する。ただし、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
ヒト胎盤からの MSC の分離回収
東京臍帯血バンクにおいて、臍帯血採取後の胎盤を、インフォームドコンセントを得た後入手した。全て38週から40週までの正期産で、重量は420から630g(中央値552g)であった。搬送は氷冷にて行い、48時間以内に細胞採取を開始した。採取は胎盤切片からのoutgrowthを利用したエクスプラント法を用いて行った。すなわち、胎盤から臍帯と羊膜を除去した後、母体側からハサミで組織を採取した。さらにメスで1mm角に細切した後、カルシウムおよびマグネシウム不含リン酸緩衝液[PBS(−)]で血液を可及的に除いた。このようにして1個の胎盤より200から300gの胎盤切片が採取できた。これら組織切片を培養皿に張り付け、クリーンベンチ内で15−30分間放置した後、10%FBSを含むDMEM, low glucose, (Sigma)培地を加え10日から14日培養した後回収した。
上記方法により、数多くの胎盤由来MSCを採取した。胎盤由来MSCは、脂肪細胞分化誘導後のオイルレッド”0”染色率測定,軟骨芽細胞分化誘導後のsafranin0染色率とグルコサミノグルカン産生率の測定、骨芽細胞分化誘導後のコッサ染色率、カルシウム分泌量の測定、そして、神経細胞分化誘導後のNSEの染色率測定により、夫々の細胞への分化能を調べ、その中で特に優れていたlotとしてPL30を選別した。実施例2および3にはlotPL30についての実験操作および解析を記載し、その結果を表1〜3に示す。
【0039】
【実施例2】
胎盤由来 MSC からの mRNA 抽出
培養により増殖させた胎盤由来MSCからmRNAを抽出した。mRNA抽出は公知の方法を用いて行った。すなわち、胎盤由来MSC 1x107個の細胞ペレットにISOGEN(日本ジーン)1mlを加えて細胞を溶解し、クロロホルムを加えて遠心後、分離した水相(RNAを含む)を回収し、イソプロパノールによる洗浄、エタノール沈殿による操作を経てトータルRNAを回収した。更にトータルRNAをmRNA精製キット(アマシャムファルマシアバイオテク)を用いて精製して胎盤由来MSCのmRNAを得た。
【0040】
【実施例3】
DNA マイクロアレイ解析
胎盤由来MSCのmRNAからSuperScript II(GIBCO)とCy−3標識dUTPまたはCy−5標識dUTP(両者ともアマシャムファルマシアバイオテク)による逆転写と蛍光標識を同時に行い、蛍光標識cDNAを合成した。これをプローブとしてDNAマイクロアレイ(CytokineCHIP ver1.0, CancerCHIP ver2.0 , 宝酒造)に60℃において16時間ハイブリダイゼーションした。コントロールとして、市販の胎盤組織のmRNA(クロンテック)、市販の骨髄由来MSC (旭テクノグラス)より抽出したmRNA、胎児肺由来線維芽細胞 (MRC−5)より抽出したmRNAを夫々前記同様に蛍光標識cDNAを合成して前記DNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションした。
【0041】
ハイブリダイゼーションは同一のDNAマイクロアレイチップに対して、異なる蛍光色素を標識しておいた二種類の組織を同時に行った。例えば胎盤由来MSCと骨髄由来MSCとの比較を行う場合、胎盤MSCのcDNAにはCy−3という蛍光色素、骨髄MSCのcDNAにはCy−5という蛍光色素を夫々標識しておき、ハイブリダイゼーションを行った。その後マイクロアレイを洗浄後、乾燥させてスキャンニングを行い、アレイスポットの蛍光強度をハウスキーピング遺伝子であるβアクチン、G3PDH、チューブリンの三者のスポットでバランス補正して測定した。解析は、胎盤由来MSCと骨髄由来MSCとの比較(表1)、胎盤由来MSCと胎盤組織との比較(表2)、および胎盤由来MSCと胎児肺由来線維芽細胞との比較(表3)をそれぞれ別々独立して行った。そして上記の三つの対照組織に比べて、2倍以上の蛍光強度値を示すスポットを選び出した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
すなわち、表1は、胎盤由来MSCと骨髄由来MSCとの比較を示す。ハウスキーピング遺伝子であるβアクチン、チューブリン、G3PDHのスポットの蛍光強度について、骨髄由来MSCと胎盤由来MSCの両者間のバランスを取ったときに強い蛍光強度を示した遺伝子を夫々示し、胎盤MSCと骨髄MSCの蛍光強度比(胎/骨比)をとって順位付けした。表1には比が2以上のものを示した。
【0046】
表2は、胎盤由来MSCと胎盤全組織との比較を示す。ハウスキーピング遺伝子であるβアクチン、チューブリン、G3PDHのスポットの蛍光強度について、胎盤由来MSCと胎盤全組織の両者間のバランスを取ったときに強い蛍光強度を示した遺伝子を夫々示し、胎盤MSCと胎盤全組織の蛍光強度比(胎MSC/胎盤比)をとって順位付けした。表2には比が2以上のものを示した。
【0047】
表3は、胎盤由来MSCと胎児肺由来線維芽細胞株(MRC−5)との比較を示す。ハウスキーピング遺伝子であるβアクチン、チューブリン、G3PDHのスポットの蛍光強度について、胎盤由来MSCとMRC−5の両者間のバランスを取ったときに強い蛍光強度を示した遺伝子を夫々示し、胎盤MSCとMRC−5の蛍光強度比(胎MSC/胎線比)をとって順位付けした。表3には比が2以上のものを示した。
【0048】
以上の結果から、胎盤由来MSCには、胎盤組織、胎児皮膚線維芽細胞、あるいは骨髄由来MSCに比べて、MMP−1、MMP−3、インテグリンα1およびIL−8の4つの分子が2倍以上の蛍光強度比を示しており、これら分子が胎盤由来MSCで高発現していることが明らかとなった。
【0049】
【実施例4】
医療用胎盤由来細胞製剤の製造方法
東京臍帯血バンクにおいて、臍帯血摂取後の胎盤を、インフォームドコンセントを得た後入手した。全て38週から40週までの正期産で、重量は420から630g(中央値552g)であった。搬送は氷冷にて行い、48時間以内に細胞採取を開始した。採取は胎盤切片からのoutgrowthを利用したエクスプラント法を用いて行った。すなわち、胎盤から臍帯と羊膜を除去した後、母体側からハサミで組織を採取した。さらにメスで1〜5mm角に細切した後、カルシウムおよびマグネシウム不含リン酸緩衝液[PBS(−)]で血液を可及的に除いた。このようにして1個の胎盤より200から300gの胎盤切片が採取できた。これら組織切片を培養皿に張り付け、クリーンベンチ内で15−30分間放置した後、10%ヒトAB血清(HS:Intergen社)を含むDMEM、low glucose (Sigma)培地を加え10日から20日培養した後回収した。培地は、アレルギー症状が出る可能性があるので抗生物質を含まないものを用いた。また全ての試薬類は、GMPに準拠した製造、品質管理されてた臨床グレードのものを使用した。培地交換は必要に応じて行った。
上記方法で培養し、細胞回収時はPBS(−)で数回遠心分離機による洗浄を行って培地を除去し、細胞を胎盤1個体あたり約109個を回収した。次に採取細胞の一部を、抗体によるFACS解析にてMMP−1またはMMP−3の発現率を検査し、当該分子が高発現な細胞ロットを選別した。このように選別された細胞を生理食塩水に懸濁することにより、本発明の細胞製剤を得ることができた。この製剤は、臍帯血バンクに付随して厳密なロット管理を行った。細胞製剤は全て液体窒素中にて凍結保存しておき、組織再生治療を行う際に解凍して、凍結保存剤の洗浄除去、細胞生存率、ウイルスチェックなどの検査を経て調整した後に使用する。
【0050】
これら一連の細胞製剤の製造、および治療時の細胞調製は、無菌性、無塵環境保持などのモニタリングによる管理が行われている細胞処理施設内で行い、その施設内で使用する培養器、安全キャビネットなどの機器類も上記管理が行われているものを使用した。また、製造作業は、一定の期間、無菌操作、試運転についての教育訓練を受けた製造作業者が細胞製剤の製造を行った。加工が加わった細胞製品には、感染の危険性のある病原体(HIV、HCV、HBV、HTLV、他)のスクリーニングを段階的に義務づけた。各工程では、最終製品のエンドトキシン、グラム染色、マイコプラズマ等の無菌性チェックなどを行った。これら製造プロセスの管理環境において、全てのチェック項目をクリアした細胞製剤を治療に用いた。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、胎盤組織からMMPを高発現するMSCを含む細胞製剤を提供しうる。このMMPを高発現する胎盤由来MSCは、MMP低発現の胎盤由来MSC、または、従来知られてきた骨髄由来MSCよりも分化能で優れていることから、心筋を含む筋肉組織、軟骨を含む骨組織、脂肪組織、または肝臓、膵臓、腎臓などの臓器あるいは神経組織の欠損を処置または修復するための再生方法に有効である。
【発明の属する従来の技術分野】
本発明は、胎盤および臍帯組織由来の間葉系幹細胞を含む細胞製剤およびそれを用いた再生医療に関する。
【0002】
【従来の技術】
人工透析に代表される人工臓器を用いた医療は、現在、臨床に大きく貢献しているものの、効果が一時的であり、また侵襲が大きく補助できる機能が単一であるという大きな欠点がある。一方、親族および脳死患者から摘出された臓器による移植医療も、ドナー不足に加えて移植後の拒絶反応、免疫抑制剤の副作用による感染症や発癌などの問題もあり、理想的な治療とは言いがたい。このように、現在の臓器不全に対する医療の二本柱が、それぞれに限界に達してきているのではないかと考えられている。このような状況の中で、自己の組織あるいは他人の細胞や組織を利用して、欠損あるいは荒廃した組織や臓器を復元するという新しい治療、すなわち再生医療の臨床への試み、およびそれに向けた基礎研究が行われ始めている。これは細胞や組織を利用することによって、人為的に自己の組織や臓器を再び健全なものにしようとする試みである。
【0003】
近年、ヒト胚性幹細胞(ES)が生体外で培養、増殖できたことが報告され、将来の再生医療への応用が期待されている(非特許文献1)。しかし、ESを再生医療の細胞ソースとして用いることは多くの国で倫理的な問題を引き起こし、また供給量も限られているという欠点がある。さらに、これらの細胞の持つ幅広い分化誘導能は、移植後の腫瘍化の危険性もある。このESに対して、成人の生体内にも、骨、軟骨、脂肪、筋肉、肝臓、神経組織を構成する細胞に分化する能力を有する、間葉系幹細胞 (MSC)が存在することが知られている。MSCは生体外で培養が可能であり、さらに任意の刺激を与えることで上記の細胞へ分化することができる。MSCの細胞表面マーカーとしてはCD34‐, CD45‐, CD105 (SH2)+, CD73 (SH3)+であることが報告されている(非特許文献2)。また、Kocらは、乳がん患者に対する自家造血幹細胞移植において、自家骨髄由来MSCを同時移植したパイロット試験により、移植後の血液学的回復を向上したことから、骨髄MSCが造血幹細胞の骨髄への生着を促進する可能性があることを報告している(非特許文献3)。
【0004】
再生医療に利用する細胞ソースを選択する際、重要になる条件は、第一に採取した細胞が再生されうる組織へ正常に分化することであり、第二に倫理的な問題もなく、容易に利用できて、提供者への負担が極力少ない、もしくは無いことが産業上有用となりうる。
MSCは、上述のように既に臨床応用されるレベルにあり、また成人骨髄内に多く存在することから骨髄針により容易に採取できる。さらに、倫理的問題も無く、患者自身の骨髄細胞を利用できる点で有用視されている。
【0005】
最近の報告では、胎盤組織にも同様に間葉系細胞が存在することを報告されており(非特許文献4,5)、その臨床上の有用性が期待されている。現在、臍帯血採取後の胎盤は医療廃棄物として扱われており、MSCのソースを胎盤とした場合、採取にあたっては、ドナーつまり分娩後の母親、および社会的に全く負担がない点で優れている。またバンクに登録された臍帯血は、主要組織適合抗原 (MHC)や感染性などの詳細が把握されており、臍帯血採取後の胎盤を再生医療の細胞ソースとして用いた場合、臍帯血と共に再生医療にとって高い利用価値があるものと考えられる。しかしながら、現在のところ胎盤由来のMSCに関しては、骨髄由来のMSCに比べて、多分化能や細胞表面抗原などの細胞特性に関してまだ不明な点が多く、臨床応用へ向けた研究成果が待たれている。
【0006】
また、胎盤由来のMSCが実際臨床で利用される場合には、それを供給できるバンクシステムの存在が不可欠となる。しかしこの点においては、現在のところ胎盤組織より採取された臍帯血の公的バンクが存在しており、胎盤由来細胞においても、それに付随するバンクとして供給体制を取れる可能性がある。臍帯血には骨髄などに代わりうる有力な造血幹細胞が存在しており、世界では既に2000以上の臍帯血移植が行われている。現在、臍帯血バンクでは、臍帯血に対する質的管理能力も向上していることから、胎盤に対しても質的管理されたバンクの整備が充分可能であると期待される。
【0007】
【非特許文献1】
Thomason, J.A. et al.; Science, 282, 1145−7, 1998
【非特許文献2】
Pittenger, M.F. et al.; Science, 284, 143−7, 1999
【非特許文献3】
Koc, O.N. et al.; J. Clin. Oncol., 18, 307−16, 2000
【非特許文献4】
渡邊ら;日本再生医療学会雑誌, 1,133, 2002
【非特許文献5】
伊倉ら;日本再生医療学会雑誌, 1,133, 2002
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、MSCの供給源として着目した胎盤組織、臍帯組織より、望ましいMSCを得ること、並びに再生医療に利用可能であって、骨髄組織よりも容易に入手できるMSCを細胞製剤として提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者の一人である高橋は、これまでに胎盤組織のMSCに関して、その細胞生物学的性状として、骨芽細胞、神経細胞への分化能に優れていることを見出し、障害組織の再生医療に用いることができることを示した(特願2002−295721)。本発明者らは、さらに胎盤由来のMSCを規定できうるようなマーカーとなる分子を同定することができれば、胎盤組織から望ましいMSCを得る事ができ、上記課題を解決できると考えた。
【0010】
本発明者らは、胎盤由来MSCに特有なマーカーとなる分子を同定するために、特に多分化能の高い胎盤由来MSCを特定して、そのMSCから抽出したmRNAを用いて、DNAマイクロアレイを用いた解析法により新しいマーカーとなる分子を探索した。そして、鋭利努力した結果、次のようなことを見出した。
【0011】
これまで胎盤組織からのMSCの採取には、細切した組織を用いたoutgrowth法、またはトリプシンなどの消化酵素を用いる方法を用いるが、いずれの方法においても多分化能に優れた細胞を得ることは難しいものであった。本発明者らによると、鋭利努力して得られた多分化能の高い胎盤由来MSCには、MMPの発現、特にMMP−1とMMP−3の発現が高いことが判った。このことからMMP−1とMMP−3を発現している胎盤MSCこそが、分化能に優れた細胞として規定できうることを発見した。また、当該分子をモニタリングすることによる胎盤MSCの存在比率の解析、または当該分子に対する抗体を用いた特異的な胎盤MSCのソーティングなどが可能であることも見出した。
【0012】
これまでに見出されてきた胎盤MSCには、当該MMP分子を高発現する細胞群と、比較的発現の低い細胞群が存在するが、本発明における当該MMPを高発現する胎盤由来MSCは、当該MMPの発現が低い胎盤由来MSC、あるいは公知の骨髄由来MSCに比べて、心筋を含む筋肉組織、軟骨を含む骨組織、脂肪組織、または肝臓、膵臓、腎臓などの臓器あるいは神経組織を構成する細胞への分化能が優れていることも見出した。
【0013】
この発見により当該MMPで規定された胎盤MSCを供給源とすることにより、再生医療に大きく寄与できることが期待でき、また臍帯血と同様に再生医療に利用できる細胞の供給源となりうることを発見した。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)ヒト胎盤組織または臍帯組織から単離した細胞から構成される、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP) を高発現することを特徴とする間葉系幹細胞を含む細胞製剤。
(2)MMPがMMP−1である前記(1)に記載の細胞製剤。
(3)MMPがMMP−3である前記(1)に記載の細胞製剤。
(4)MMPが膜結合型のMMPである前記(1)に記載の細胞製剤。
(5)MMPに対する抗体を用いてMMPを発現する間葉系幹細胞を濃縮した前記(4)に記載の細胞製剤。
(6)MMPに対する抗体を用いて前記(4)に記載の細胞製剤で、MMPを発現する間葉系幹細胞を濃縮する方法。
(7)前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の細胞製剤をヒトへ移植することを特徴とする組織、臓器の再生方法。
に関する。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明によるヒト胎盤とは、出産後の母体から得ることができる胎盤組織を示す。胎盤は分娩後容易に摘出することができるが、臍帯血バンクで臍帯血分離採取後、インフォームドコンセントを得て入手したヒト胎盤を用いるのが好ましい。より好ましくは、MHCや感染性ウイルス等の検査結果等の詳細を把握した上記胎盤を用いる。
【0016】
本発明の胎盤MSCは、当該分野の既存技術により胎盤より分離できる。すなわち、ヒト胎盤を機械的細切処理後の組織を、outgrowthを利用したエクスプラント法、トリプシンなどの消化酵素やEDTAなどのキレート剤による処理法、あるいは酵素、キレート剤処理後にFACS、磁気ビーズ等を用いた細胞選別(ソーティング)による分離する方法からなる群から選ばれる1つ以上の方法により、胎盤MSCを分離できる。分離した胎盤由来MSCは、当該技術分野で公知の培地を用いて培養することができる。具体的には、10%FBS を含むDulbecco’s Modified Eagle’sMedium (DMEM, low glucose, Sigma)に懸濁して培養することで、未分化な状態を維持して増殖できる。本発明者らは、このようにして複数の胎盤組織より多数のロットの胎盤由来MSCを分離した。
【0017】
本発明に係る胎盤由来MSCが持つ多分化能も、本発明者らによって確認されている。すなわち、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、および神経細胞への分化能に関して、以下のような実験を行い確認した。脂肪細胞への分化誘導は、胎盤由来MSCをデキサメサゾン、インドメタシン、インシュリン、および3−イソブチル−1−メチル−キサンチンを含む培地で1−3日間培養した後、脂肪の蓄積をオイルレッド“0”染色にて確認した。軟骨芽細胞への分化誘導は、胎盤由来MSCをデキサメサゾン、ピルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸2リン酸塩、プロリン、インシュリン、トランスフェリン、亜セレン酸、リノール酸、腫瘍増殖因子(TGF)−b、および牛血清アルブミンを含む無血清培地で14−28日間培養した後、グルコサミノグリカンの産生をSafranin O染色で確認した。
【0018】
骨芽細胞への分化誘導は、胎盤由来MSCをデキサメサゾン、アスコルビン酸2リン酸塩、およびβ−グリセロフォスフェートを含む培地で2−3週間培養した後、カルシウム沈着、分泌量をそれぞれコッサ染色およびWako試薬による定量で確認した。また、神経細胞への分化誘導は、胎盤由来MSCをポリリジン固定化培養器中で、Butylated hydroxvanisole、3−イソブチル−1−メチル−キサンチン、デブチルサイクリックAMP、およびDMSOを含む培地で24時間培養し、細胞をパラホルムアルデヒドで固定後、抗神経特異的エノラーゼ(NSE)抗体で免疫染色して確認した。
【0019】
本発明者らは、数多く採取した胎盤由来MSCについて、上記に示したような細胞への分化誘導能に関して、市販の骨髄由来MSC(旭テクノグラス)を対照として比較を行ったところ、いずれの細胞への分化能においても、骨髄由来MSCよりも胎盤由来MSC、特にPL30ロットの分化能が優れていることが判った。
【0020】
このようにして、本発明者らは、多分化能のより高い胎盤由来MSC (lot PL30)を見出すことができた。すなわち、脂肪細胞への分化では骨髄MSCよりも胎盤MSC(lot PL30)の方が、誘導後の細胞のオイルレッド“0”染色細胞数が多いことから脂肪蓄積細胞がより多く誘導されており、軟骨芽細胞への分化においても、骨髄MSCよりも胎盤MSC(lot PL30)の方が、誘導後の細胞のSafranin O染色率が高く、グルコサミノグリカン産生がより高いことを確認した。さらに、骨芽細胞への分化でも、胎盤MSC(lot PL30)が誘導後の細胞のコッサ染色率およびWako試薬によるカルシウム分泌量が骨髄由来MSCよりも多く、神経細胞への分化においても、誘導後の細胞のNSEの染色率が骨髄より高いことを確認した。また、上記の胎盤MSC(lot PL30)は、DNAマイクロアレイ解析の結果、本発明に係るMMPの発現、特にMMP−1とMMP−3の発現が、市販の骨髄MSCよりも高いことを明らかにした。
【0021】
本発明に係るDNAマイクロアレイとは、ガラスまたはナイロン等の基板の上に数百〜数千、および数万個の遺伝子DNAを高密度に配列したデバイスである。また、本発明によるDNAマイクロアレイを用いた解析法とは、cDNAやゲノムDNAとのハイブリダイゼーションによって、遺伝子発現プロファイルや遺伝子多型をゲノムスケールで解析する事を可能にした手法である。この手法により、分化の過程における遺伝子発現の変動や、病態によって発現変動する遺伝子群の同定、あるいはシグナル伝達、転写制御に関与する新しい遺伝子の発見や、異なる組織、細胞間の遺伝子発現プロファイルの解析などが可能になってきた。また、遺伝子多型マーカーとなるSNPを多数解析することも可能になってきた。
【0022】
本発明に係るMMPとは、コラーゲン、ゼラチン、ラミニンといった細胞外マトリクスの構成蛋白質を分解する金属プロテアーゼとして知られており、さらにMMPには、MMP−1, 2, 3, 7から23まの20個の分子が既にクローニングされている。そのうちMMP−18, −21はアフリカツメガエルのみ、MMP−22はニワトリのみ発現している分子ということがわかっている。MMPは細胞外に分泌される可溶性タイプ、または膜に結合している膜結合型タイプがあり、さらに構造上の特徴から8タイプ(可溶性蛋白質7タイプ、膜結合型1タイプ)に細分類されている。MMPはいずれのタイプにおいても、プロペプチドが付いた不活性な潜在型酵素として存在している。プロペプチド配列にはMMP間で保存性の高い配列(PRCGV/NPD配列)中のシステイン残基が、活性中心の亜鉛に結合して不活性を維持している“システインスイッチ”が考えられている。MMPは、主に線維芽細胞や炎症細胞などの正常細胞やがん細胞に発現している。特にがん細胞では多くのMMP(MMP−1, 2, 3, 7, 9, 11など)が過剰発現していることが知られており、周辺組織への浸潤および転移に関わっていると考えられている。MMPに関しては、例えば実験医学別冊「メディカル用語ライブラリー/癌−分子メカニズムから病態・診断・治療まで−(羊土社)垣添忠生、関谷剛男編集」に詳しい記載がある。
【0023】
本発明において高発現とは、実施例で示した条件で検出される条件並びに表1、表2、および表3に示したように、コントロールに対しておおよそ2倍以上の蛍光強度を示すものとして規定しているが、より好ましくは、胎盤由来MSC (lotPL30)に発現する遺伝子の蛍光強度が、コントロールである市販の骨髄由来MSCとの比較解析においては9倍以上、胎盤全組織との比較解析においては2.5倍以上、胎児肺由来線維芽細胞 (MRC−5)との比較解析においては10倍以上の蛍光強度を認めるものを高発現として規定する。
【0024】
本発明において、胎盤由来MSCに高発現するMMPが膜結合型タイプであれば、該分子に対する抗体を用いて分離、濃縮することができる。すなわち、膜結合型MMP高発現胎盤由来MSCの分離、濃縮は、細胞表面のMMP分子を認識する抗体と反応性を有する陽性細胞を結合させて回収することが基本原理である。これまでに抗体を用いて分離、濃縮した細胞の医療への利用としては、CD34分子陽性造血幹/前駆細胞が知られている。
【0025】
すなわち、CD34陽性細胞を回収する方法は、一般的には蛍光標識した抗CD34抗体を分離したい細胞群と反応させ、その後FACSを用いてソーティングする方法がある。また別の方法として抗CD34抗体を磁気ビーズで標識し、分離したい細胞群と反応させ、その後磁石でCD34陽性細胞を回収する方法である。いずれの方法であっても、質的に大差のないCD34陽性細胞を得ることが可能である。臨床的には磁気標識した抗体と磁石を利用した機器が開発され、日本においても医薬審議会で稀少疾患治療器具として認定されている。
【0026】
本発明における抗MMP抗体を用いた胎盤由来MSCの分離、回収方法も、上記のCD34陽性細胞の回収方法に準ずるものと位置付けることができる。このように胎盤由来MSCに高発現するMMPが膜結合型タイプであった場合、上記に記した手法により、分離濃縮した当該MMP分子を高発現する胎盤MSCは、さらに強い分化能に優れた細胞として回収することが可能である。
【0027】
また、本発明によるMMPが膜結合型ではない分子であったとしても、現在ではFACSによる細胞内サイトカイン類の測定方法が可能であるため、該方法により胎盤由来MSCの細胞内のMMPを測定することで、MSCの存在率等を解析、検査等のモニタリングが可能である。また、細胞からmRNAを抽出して、PCR法によりMMPを定量して解析、検査等のモニタリングを行うことも可能である。
【0028】
本発明においては、胎盤由来MSC (lot PL30) に高発現している分子として、MMP以外にも実施例の結果の表1〜3に列挙した分子を示すことができる。すなわち、市販の骨髄MSC、胎盤全組織、MRC−5との比較において、いずれにおいても胎盤由来MSC (lot PL30)に高発現する共通の分子として、IL−8、インテグリンα1を挙げることができる。一方、個別の比較においては、対骨髄MSCではGRO1、MCP−1が高発現を示しており、対胎盤組織においては、MCP−1、インテグリンαV(CD51)、ALCAM (Activated Leukocyte Cell Adhesion Molecule)が高発現を示した。また、対胎児肺由来線維芽細胞(MRC−5)では、GRO−1、インテグリンβ3 (CD61)、TIMP−3 (Tissue Inhibitor of Metalloproteinase−3)、PDGF レセプター betapolypeptide、Transferrin レセプター、Leptin レセプター、IL−6、Cadherin 2 (N−cadherin)、MHC class I A、Neuropilin 2、TGFβ2が高発現であることを示している。
【0029】
それぞれの解析で共通して高発現しているIL−8は、ケモカインファミリーの一つであり、癌を含むあらゆる疾患の病巣部位において、特に浸潤している白血球やT細胞に多く発現している炎症性メディエーターとして知られる。ケモカインには、その他にも高発現分子としてリストアップされているGRO−1やMCP−1があり、また他にもRANTES、MIP−1αなどが知られている。もう一つ共通した高発現分子であるインテグリンα1は、接着因子の一つであり、炎症時に白血球の組織浸潤に関与することで知られている。インテグリンには、他にリストアップされているようなインテグリンαV (CD51)、インテグリンβ3 (CD61)がある。ALCAMやCadherin 2は、インテグリン分子以外の接着因子であり、それぞれ活性化白血球や神経細胞などの組織部位特異的な接着分子として知られている。
【0030】
その他に、MRC−5に対して高発現する分子として挙げた、TIMP−3 (Tissue Inhibitor of Metalloproteinase−3)は、MMPの阻害活性を持つTIMPファミリー分子の一つであり、現在TIMP−1〜4の4種類のタイプが発見されている。PDGF レセプター beta polypeptideは、PDGF−BB(B鎖ホモダイマー)分子のレセプターであり、神経系および血管系内皮細胞の成長、分化を促す活性を持ち、神経膠細胞、血管内皮細胞等に発現していることが知られている。PDGFレセプターには、他にもa polypeptideタイプおよびa,b heteropeptideレセプターが存在する。Transferrin レセプターは、鉄代謝に関与するTransferrin分子に対するレセプターであり、Transferrinレセプター1、2の2種類のタイプがある。Leptin レセプターは、近年、脂肪細胞より分泌し、脂質代謝、体重コントロールに重要な働きをするホルモンとして発見されたleptin分子のレセプターである。IL−6とTGFβ2は、それぞれインターロイキン類、TGFβスーパーファミリーに属するサイトカインであり、免疫や造血などの組織における細胞の分化、増殖、活性に関与する蛋白質として知られている。MHC class I Aは、主要組織適合抗原(MHC)の一つである。MHCは、外来または非自己組織の拒絶、またはそれらの抗原を、自己の免疫細胞に対して提示する機能に関与しており、class Iとclass IIの2つのタイプが存在している。それぞれのタイプの分子はさらに、class IだとA、B、Cに、class IIではDなどに細分類されている。class Iはほぼ全ての有核細胞に発現しており、class IIは主にマクロファージ、B細胞、または樹状細胞などの抗原提示細胞に発現している。Neuropilin 2は、血管内皮成長因子であるVEGFに分子構造が似ており、神経組織が成長する際の軸索の伸展や血管内皮の分化、増殖に関与する分子として知られている。Neuropilinには、Neuropilin1、2の2つのタイプが存在する。これらの分子に関しては、例えば、実験医学別冊「メディカル用語ライブラリー(羊土社)」シリーズに詳しい記載がある。
本発明に係る、MMP以外の上記分子においても、MMP同様に、胎盤由来MSCの解析および検査等のモニタリングの指標になる分子として用いることが可能である。
【0031】
本発明の医療用胎盤由来細胞製剤は、MMP−1およびMMP−3が高発現するものとして選別されたロットの胎盤由来MSC、または/および、当該MMPに対する抗体を用いて濃縮した胎盤由来MSCを、生理食塩水中に懸濁して製造することができる。すなわち、エクスプラント法にて採取した細胞は、その一部を抗体によるFACS解析にてMMP−1およびMMP−3の発現率、または、場合によっては、MMP以外の上記記載の高発現分子の発現率を検査し、当該分子が高発現な細胞ロットを選別することが必要である。または/および、エクスプラント法を用いた胎盤組織の培養により回収した細胞、または、胎盤組織をトリプシン等による酵素処理して得た細胞を、MMP−1およびMMP−3に対する抗体を用いてFACSや磁気ビーズによる濃縮法にて回収することが必要である。それぞれの胎盤由来MSCを生理食塩水中に懸濁して製造することができる。抗体による濃縮には、上記に記載したようなMMP分子以外に挙げた高発現分子に対する抗体を用いることもできる。また、培地はコンタミネーションを防ぐ目的から、抗生物質が含まれている場合が多いが、抗生物質でアレルギー症状が出る可能性を考えると、抗生物質を含まないものを用いることが望ましい。細胞回収に用いる試薬類は、臨床グレードで製造、品質管理を行ったもの、すなわち、GMPに準拠した製造、品質管理されているものが望ましい。さらに該細胞製剤は全て液体窒素中にて凍結保存しておき、組織再生治療を行う際に解凍して、凍結保存剤の洗浄除去、細胞生存率、ウイルスチェック等の検査を経て調整した後に使用することができる。該細胞製剤の製造、および治療時の細胞調製は、無菌性、無塵環境保持などのモニタリングによる管理が行われている細胞処理施設内で行い、その施設内で使用する培養器、安全キャビネットなどの機器類も上記管理が行われているものを使用することが望ましい。また、製造作業は、一定の期間、無菌操作、試運転についての教育訓練を受けた製造作業者が細胞製剤の製造を行うのが適当である。加工が加わった細胞製品には、感染の危険性のある病原体(HIV、HCV、HBV、HTLV、他)のスクリーニングを段階的に義務づけることが望ましい。より好ましくは、各工程の無菌性のチェックや最終製品のエンドトキシン、グラム染色、マイコプラズマ等の無菌性チェック等を行う。これら製造プロセスの管理環境において、全てのチェック項目をクリアした細胞製剤を治療に用いることができる。
【0032】
本発明は、上述の胎盤MSCから分化誘導された細胞も再生医療に提供しうる。前記細胞としては、特に限定されないが、例えば、脂肪細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、神経系細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、血液細胞、脳細胞、神経細胞などが挙げられる。より好ましくは、脂肪細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、神経系細胞へ分化誘導した細胞が望ましい。胎盤MSCから、上記細胞に分化誘導する方法としては、特に限定はしないが公知の方法を用いてよい。すなわち公知の細胞分化誘導因子を用いて処理する方法が挙げられる。例えば骨形成因子、神経栄養因子、TGF−βまたはアクチビンなどのTGFβスーパーファミリーに属する因子、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)または酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)などのFGFスーパーファミリーに属する因子、白血病抑制因子(LIF)またはシリアリー・ニュートロフィック・ファクター(CNTF)に属する因子、インターロイキン―1(IL−1、以下同様に略記する), IL−2, IL−3, IL−5, IL−6, IL−7, IL−11, 腫瘍壊死因子(TNF)−α, インターフェロン―γ(INF−γ)など骨芽細胞や神経細胞などの特定の組織において、生体機能を維持する細胞が未分化な前駆細胞から分化する過程に特徴的な形質を誘導する因子が挙げられる。
【0033】
本発明により胎盤由来MSCより分化誘導された細胞は、障害をうけた組織や臓器の治癒、緩和、または更なる悪化の予防のための細胞医薬として利用することができる。もちろん分化誘導は行わず、かつ培養による増幅も行わずに、本発明に関わる胎盤MSCを用いることも可能である。より具体的には、本発明にかかる胎盤由来MSCまたは、前記細胞から分化誘導された所望の組織、臓器を構成する細胞を、障害を受けた組織、臓器に移植することにより、前記組織、臓器を再生させることができる。このように再生されうる組織、臓器としては、特に限定されないが、例えば、血管、角膜、半月板、脳組織、皮膚、皮下組織、上皮組織、骨組織もしくは、筋肉など組織;または眼、肺、腎臓、心臓、肝臓、膵臓、脾臓、小腸を含む消化管、膀胱、卵巣などの臓器が挙げられる。
【0034】
生体内における組織再生、すなわち細胞の自己再生の場においては、生態学的適所(ニッチェ)となる細胞あるいは細胞の分泌する細胞外マトリクスや絨組織などの必要性が考えられてきている。例えば、骨髄移植は古くから行われている治療法であり、良い臨床成績をあげている。これは骨髄細胞中の血液幹細胞が増殖分化できる場となる骨髄組織つまりニッチェが、体内に既に存在しているからこそ成功していると考えられている。また、最近では神経幹細胞からの神経発生には血管内皮細胞の存在が必要であり、神経前駆細胞側あるいは血管内皮細胞側からの何らかのシグナルが重要との報告があった(Theo D. Palmer, et al. J.Compara.Neur. 2000)。このようなことから、生体内に広く存在する幹細胞に対して、十分な再生の場を与えることができれば、自己組織の再生を促すことができる可能性がある。このことから現在、いろいろな組織再生の方法が研究開発されているが、再生のための足場、細胞増殖因子、および幹細胞の3者を組み合わせて利用する方法も考えられている。本発明における胎盤由来MSCを含む細胞医薬においても、活性成分である上記発明に関わる胎盤由来MSCまたは、当該細胞から分化誘導させた細胞そのものであってもよいが、患者に投与する際には、必要に応じて細胞の分化、維持を支持しうる担体または足場となる材料を利用することもできる。
【0035】
本発明に係る胎盤由来MSCには造血支持活性を有することも発見した。すなわち本発明者らはNOD−scidマウスを用いた動物実験により、臍帯血幹細胞との同時移植により、移植後の血球回復を促したことを明らかにした。さらに、この実験において、骨髄由来MSCを対照とした場合、胎盤由来MSCの方が、血球回復能が強いことも確認している。
【0036】
本発明にかかる胎盤由来MSCを含む細胞製剤の患者への投与経路は、特に限定されない。例えば静脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内、骨髄内、脳内への投与形態が例示できる。また、本発明の細胞製剤の患者への投与量は、治療すべき病態の種類、症状および疾患の重篤度、患者年齢、性別もしくは体重、投与法などにより異なるので、一概に言えないが、医師が前記状況を判断して決定することができる。
【0037】
本発明にかかる胎盤由来MSCは再生医療に有用な細胞製剤となりうるが、その場合、臍帯血バンクを通じて得られるMHCの情報を基にして、MHCを一致させた細胞を選び出して、移植を行えば、同種移植に伴う拒絶反応を可及的に抑えることができ、これまでの臓器移植で大きな問題となっていた激しい拒絶反応を軽減させることができる。すなわち本発明にかかる胎盤由来MSCは、MHCが明示されていることが望ましく、より好ましくは、当該MSCが臍帯血採取後の胎盤から単離されるものであり、かかる胎盤由来MSCのMHCに関する情報が、臍帯血バンクを通して得たものが望ましい。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を用いてより詳細に説明する。ただし、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
ヒト胎盤からの MSC の分離回収
東京臍帯血バンクにおいて、臍帯血採取後の胎盤を、インフォームドコンセントを得た後入手した。全て38週から40週までの正期産で、重量は420から630g(中央値552g)であった。搬送は氷冷にて行い、48時間以内に細胞採取を開始した。採取は胎盤切片からのoutgrowthを利用したエクスプラント法を用いて行った。すなわち、胎盤から臍帯と羊膜を除去した後、母体側からハサミで組織を採取した。さらにメスで1mm角に細切した後、カルシウムおよびマグネシウム不含リン酸緩衝液[PBS(−)]で血液を可及的に除いた。このようにして1個の胎盤より200から300gの胎盤切片が採取できた。これら組織切片を培養皿に張り付け、クリーンベンチ内で15−30分間放置した後、10%FBSを含むDMEM, low glucose, (Sigma)培地を加え10日から14日培養した後回収した。
上記方法により、数多くの胎盤由来MSCを採取した。胎盤由来MSCは、脂肪細胞分化誘導後のオイルレッド”0”染色率測定,軟骨芽細胞分化誘導後のsafranin0染色率とグルコサミノグルカン産生率の測定、骨芽細胞分化誘導後のコッサ染色率、カルシウム分泌量の測定、そして、神経細胞分化誘導後のNSEの染色率測定により、夫々の細胞への分化能を調べ、その中で特に優れていたlotとしてPL30を選別した。実施例2および3にはlotPL30についての実験操作および解析を記載し、その結果を表1〜3に示す。
【0039】
【実施例2】
胎盤由来 MSC からの mRNA 抽出
培養により増殖させた胎盤由来MSCからmRNAを抽出した。mRNA抽出は公知の方法を用いて行った。すなわち、胎盤由来MSC 1x107個の細胞ペレットにISOGEN(日本ジーン)1mlを加えて細胞を溶解し、クロロホルムを加えて遠心後、分離した水相(RNAを含む)を回収し、イソプロパノールによる洗浄、エタノール沈殿による操作を経てトータルRNAを回収した。更にトータルRNAをmRNA精製キット(アマシャムファルマシアバイオテク)を用いて精製して胎盤由来MSCのmRNAを得た。
【0040】
【実施例3】
DNA マイクロアレイ解析
胎盤由来MSCのmRNAからSuperScript II(GIBCO)とCy−3標識dUTPまたはCy−5標識dUTP(両者ともアマシャムファルマシアバイオテク)による逆転写と蛍光標識を同時に行い、蛍光標識cDNAを合成した。これをプローブとしてDNAマイクロアレイ(CytokineCHIP ver1.0, CancerCHIP ver2.0 , 宝酒造)に60℃において16時間ハイブリダイゼーションした。コントロールとして、市販の胎盤組織のmRNA(クロンテック)、市販の骨髄由来MSC (旭テクノグラス)より抽出したmRNA、胎児肺由来線維芽細胞 (MRC−5)より抽出したmRNAを夫々前記同様に蛍光標識cDNAを合成して前記DNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションした。
【0041】
ハイブリダイゼーションは同一のDNAマイクロアレイチップに対して、異なる蛍光色素を標識しておいた二種類の組織を同時に行った。例えば胎盤由来MSCと骨髄由来MSCとの比較を行う場合、胎盤MSCのcDNAにはCy−3という蛍光色素、骨髄MSCのcDNAにはCy−5という蛍光色素を夫々標識しておき、ハイブリダイゼーションを行った。その後マイクロアレイを洗浄後、乾燥させてスキャンニングを行い、アレイスポットの蛍光強度をハウスキーピング遺伝子であるβアクチン、G3PDH、チューブリンの三者のスポットでバランス補正して測定した。解析は、胎盤由来MSCと骨髄由来MSCとの比較(表1)、胎盤由来MSCと胎盤組織との比較(表2)、および胎盤由来MSCと胎児肺由来線維芽細胞との比較(表3)をそれぞれ別々独立して行った。そして上記の三つの対照組織に比べて、2倍以上の蛍光強度値を示すスポットを選び出した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
すなわち、表1は、胎盤由来MSCと骨髄由来MSCとの比較を示す。ハウスキーピング遺伝子であるβアクチン、チューブリン、G3PDHのスポットの蛍光強度について、骨髄由来MSCと胎盤由来MSCの両者間のバランスを取ったときに強い蛍光強度を示した遺伝子を夫々示し、胎盤MSCと骨髄MSCの蛍光強度比(胎/骨比)をとって順位付けした。表1には比が2以上のものを示した。
【0046】
表2は、胎盤由来MSCと胎盤全組織との比較を示す。ハウスキーピング遺伝子であるβアクチン、チューブリン、G3PDHのスポットの蛍光強度について、胎盤由来MSCと胎盤全組織の両者間のバランスを取ったときに強い蛍光強度を示した遺伝子を夫々示し、胎盤MSCと胎盤全組織の蛍光強度比(胎MSC/胎盤比)をとって順位付けした。表2には比が2以上のものを示した。
【0047】
表3は、胎盤由来MSCと胎児肺由来線維芽細胞株(MRC−5)との比較を示す。ハウスキーピング遺伝子であるβアクチン、チューブリン、G3PDHのスポットの蛍光強度について、胎盤由来MSCとMRC−5の両者間のバランスを取ったときに強い蛍光強度を示した遺伝子を夫々示し、胎盤MSCとMRC−5の蛍光強度比(胎MSC/胎線比)をとって順位付けした。表3には比が2以上のものを示した。
【0048】
以上の結果から、胎盤由来MSCには、胎盤組織、胎児皮膚線維芽細胞、あるいは骨髄由来MSCに比べて、MMP−1、MMP−3、インテグリンα1およびIL−8の4つの分子が2倍以上の蛍光強度比を示しており、これら分子が胎盤由来MSCで高発現していることが明らかとなった。
【0049】
【実施例4】
医療用胎盤由来細胞製剤の製造方法
東京臍帯血バンクにおいて、臍帯血摂取後の胎盤を、インフォームドコンセントを得た後入手した。全て38週から40週までの正期産で、重量は420から630g(中央値552g)であった。搬送は氷冷にて行い、48時間以内に細胞採取を開始した。採取は胎盤切片からのoutgrowthを利用したエクスプラント法を用いて行った。すなわち、胎盤から臍帯と羊膜を除去した後、母体側からハサミで組織を採取した。さらにメスで1〜5mm角に細切した後、カルシウムおよびマグネシウム不含リン酸緩衝液[PBS(−)]で血液を可及的に除いた。このようにして1個の胎盤より200から300gの胎盤切片が採取できた。これら組織切片を培養皿に張り付け、クリーンベンチ内で15−30分間放置した後、10%ヒトAB血清(HS:Intergen社)を含むDMEM、low glucose (Sigma)培地を加え10日から20日培養した後回収した。培地は、アレルギー症状が出る可能性があるので抗生物質を含まないものを用いた。また全ての試薬類は、GMPに準拠した製造、品質管理されてた臨床グレードのものを使用した。培地交換は必要に応じて行った。
上記方法で培養し、細胞回収時はPBS(−)で数回遠心分離機による洗浄を行って培地を除去し、細胞を胎盤1個体あたり約109個を回収した。次に採取細胞の一部を、抗体によるFACS解析にてMMP−1またはMMP−3の発現率を検査し、当該分子が高発現な細胞ロットを選別した。このように選別された細胞を生理食塩水に懸濁することにより、本発明の細胞製剤を得ることができた。この製剤は、臍帯血バンクに付随して厳密なロット管理を行った。細胞製剤は全て液体窒素中にて凍結保存しておき、組織再生治療を行う際に解凍して、凍結保存剤の洗浄除去、細胞生存率、ウイルスチェックなどの検査を経て調整した後に使用する。
【0050】
これら一連の細胞製剤の製造、および治療時の細胞調製は、無菌性、無塵環境保持などのモニタリングによる管理が行われている細胞処理施設内で行い、その施設内で使用する培養器、安全キャビネットなどの機器類も上記管理が行われているものを使用した。また、製造作業は、一定の期間、無菌操作、試運転についての教育訓練を受けた製造作業者が細胞製剤の製造を行った。加工が加わった細胞製品には、感染の危険性のある病原体(HIV、HCV、HBV、HTLV、他)のスクリーニングを段階的に義務づけた。各工程では、最終製品のエンドトキシン、グラム染色、マイコプラズマ等の無菌性チェックなどを行った。これら製造プロセスの管理環境において、全てのチェック項目をクリアした細胞製剤を治療に用いた。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、胎盤組織からMMPを高発現するMSCを含む細胞製剤を提供しうる。このMMPを高発現する胎盤由来MSCは、MMP低発現の胎盤由来MSC、または、従来知られてきた骨髄由来MSCよりも分化能で優れていることから、心筋を含む筋肉組織、軟骨を含む骨組織、脂肪組織、または肝臓、膵臓、腎臓などの臓器あるいは神経組織の欠損を処置または修復するための再生方法に有効である。
Claims (7)
- ヒト胎盤組織または臍帯組織から単離した細胞から構成される、マトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) を高発現することを特徴とする間葉系幹細胞を含む細胞製剤。
- MMPがMMP−1である請求項1に記載の細胞製剤。
- MMPがMMP−3である請求項1に記載の細胞製剤。
- MMPが膜結合型のMMPである請求項1に記載の細胞製剤。
- MMPに対する抗体を用いてMMPを発現する間葉系幹細胞を濃縮した請求項4に記載の細胞製剤。
- MMPに対する抗体を用いて請求項4に記載の細胞製剤で、MMPを発現する間葉系幹細胞を濃縮する方法。
- 請求項1乃至5のいずれかに記載の細胞製剤をヒトへ移植することを特徴とする組織、臓器の再生方法。
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