マチルダII歩兵戦車

1934年、イギリス軍では歩兵支援を目的とする装甲の厚い「歩兵戦車」の開発を決定し、翌年10月にはヴィッカースにより「マチルダ」ことA11（後のマチルダI）の設計草案が提示された。しかし低コストで早期に開発することが要求されたものであり、あまりに小型で性能が不十分と判断され、1936年9月には、より大型の歩兵戦車A12の仕様要求が出されている。これは「マチルダ・シニア」の通称で開発され、1938年4月には試験に入り、6月には140輌、8月に40輌の生産発注がなされた。歩兵戦車として十分な装甲（最大装甲厚75mm、総重量26t）を持つことが優先され、搭載された武装は2ポンド砲及び同軸機銃と比較的小さめであり、速度も最大24km/hと鈍足である。また、榴弾を撃てない2ポンド砲の代わりに3インチ榴弾砲を搭載したCS（クロース・サポート＝近接支援）型も生産されている。

1939年、配備開始。同軸機銃を7.92mmBESA機銃に換装したMk.II、ディーゼルエンジンを改良したMk.IIIなどMk.Vまで改良が重ねられた。

第二次世界大戦勃発時は量産に至らず、本格的運用は西方電撃戦でのアラスの戦いからであった。その分厚い装甲は、ドイツのIII号戦車や短砲身型のIV号戦車、チェコ製の35(t)戦車および38(t)戦車の主砲や対戦車砲の徹甲弾を全て跳ね返し、一時ドイツ軍を危機に陥れた。

 

北アフリカで戦争が始まると、アメリカからの供与戦車と共にイギリス機甲部隊の主力として1941年のバトルアクス作戦やクルセーダー作戦などで活躍した。本車の分厚い装甲は敵弾を全て跳ね返し、その姿から「戦場の女王」（周りにいる歩兵を蟻、マチルダを女王蟻に見立てての表現）と称された。しかしバトルアクス作戦中初期のハルファヤ峠をめぐる戦いでは同地に展開していた88mm高射砲の水平射撃により十数両が撃破されている。これは陽炎のために高射砲が発見しづらかったのと、砲兵のような軟目標に効果的な榴弾を撃てず、同軸機銃による射撃も効果的でなかったからである。この致命的な欠陥についてドイツ軍のロンメル元帥は、「Mk.IIは『歩兵戦車』と呼ばれているのに、敵歩兵に撃つべき榴弾が用意されていないのは何故だろうか。実に興味深いものだ」との回想を残している。

その後も本車は質的に劣る枢軸軍戦車を相手に活躍したが、1942年に入ると長砲身75mm砲を搭載したIV号戦車F2型が出現し、防御面での優位性が失われた。更に6ポンド砲を搭載した新型のチャーチル歩兵戦車やアメリカから供与されたM3中戦車やM4中戦車の配備が本格化したためにエル・アラメインの戦いの後に一線を退いた。低速で発展性に乏しい本車は、より大型の戦車砲を搭載することができず、より装甲を増したドイツ戦車に対応できなかったのである。ただし本車は戦前に開発されたイギリス戦車の中で大戦を通して稼動し続けた唯一の戦車であり、その点は評価できる。

本車はソ連に対しレンドリース法による輸送が行われたが、足回りが寒冷地向けではない（スカートが誘導輪を支える構造材を兼ねていた為取り外すことが出来ず、泥が詰まりやすく不評だった）など、同じくソ連に送られたバレンタイン歩兵戦車に比べ評判は良くない。

なお太平洋戦争においても東部ニューギニア戦線で1943年（昭和18年）9～12月にかけて行われたフィンシュハーフェンの戦いでオーストラリア第9師団が本車を使用し、同地を守っていた帝国陸軍第20師団と戦闘を行っている。ここでも本車はその撃たれ強さを遺憾なく発揮し、また3インチ榴弾砲を持つCS型が有効に用いられた。この戦いの結果、第20師団は人員の45％に損害を出し、敗走している。

 

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