GNUデバッガ
GNUデバッガ(単にGDBとも)は、GNUソフトウェア・システムで動く標準のデバッガである。これは、多くのUnix系システムで動作可能な移植性の高いデバッガであり、Ada、C言語、C++、Objective-C、Pascal、FORTRAN、FreeBASIC、Goといったプログラミング言語に対応している[2][3]。
開発元 | GNUプロジェクト |
---|---|
初版 | 1986年 |
最新版 |
12.1[1]
/ 2022年5月1日 |
リポジトリ | |
プログラミング 言語 | C |
対応OS | Unix-like, Windows |
種別 | デバッガ |
ライセンス | GPL |
公式サイト | gnu.org/software/gdb/ |
歴史
編集GDBは初め、GNU Emacs が「そこそこ安定化」した後、1986年 にGNU システムの一部として リチャード・ストールマン が書いた[4]。GDBは、GNU General Public License (GPL) の下でリリースしている フリーソフトウェア である。これは、BSDに付属していたdbxデバッガをモデルにしている[4]。
1990年から1993年まではジョン・ギルモアが保守をしていた[5]。現在はFree Software Foundationによって任命されたGDB運営委員会によって保守されている[6]。
技術詳細
編集機能
編集GDBは、プログラムの実行の変更や追跡といった充実した機能を提供する。プログラム内部の 変数 の値を修正したり、監視したりすることや、プログラムの通常の動作とは別に 関数 を呼び出すことができる。
2003年 現在、GDBのターゲット・プロセッサは、以下のとおりである。
- Alpha
- ARM
- AVR
- Altera Nios/Nios II
- H8/300
- System/370 / System 390
- x86 / x64
- IA-64「Itanium」
- Motorola 68000
- MIPS
- PA-RISC
- PowerPC
- SuperH
- SPARC
- VAX
標準リリースでサポートされている、さほど有名でないターゲット・プロセッサには、以下がある。
- AMD 29000
- ARC
- CRIS
- D10V / D30V
- FR-30 / FR-V
- Intel i960
- M32R
- 68HC11
- Motorola 88000
- MCORE
- MN10200 / MN10300
- NS32K
- Stormy16
- V850
- Z8000
新しいリリースでは、これらの一部をサポートしていない可能性がある。GDBには、M32RやV850といった、日本製のCPUをターゲットにしたコンパイル済みのシミュレータがある[7]。
GDBはまだ活発に開発されている。バージョン7.0の新機能には、Pythonスクリプトのサポートが含まれ[8]、バージョン7.8ではGNU Guileスクリプトもサポートされている[9]。バージョン7.0からは「リバーシブルデバッグ」がサポートされている。これは、クラッシュしたプログラムを巻き戻して何が起こったのかを確認するように、デバッグセッションを後退させることができる[10]。
遠隔デバッグ
編集GDBには「遠隔」モードがあり、しばしば組込みシステムのデバッグで使われる。遠隔操作では、GDBとデバッグ対象のプログラムは別のマシンで動作する。GDBは、GDBプロトコルをシリアルやTCP/IP経由で理解する遠隔「スタブ」と通信することができる[11]。スタブプログラムは、通信プロトコルのターゲット側を実装したGDB付属の適切なスタブファイルにリンクすることで作成できる[12]。または、gdbserverを使用して、プログラムを変更せずにリモートでデバッグすることもできる。
GDBを使い、動いているLinuxカーネルをソース・レベルでデバッグするKGDBでも、同じモードを使っている。KGDBを使い、カーネル開発者は、アプリケーション・プログラムのようにカーネルをデバッグできる。カーネル・コードにブレークポイントを設定でき、ステップ動作ができ、変数を参照できる。ハードウェアのデバッグ・レジスタ (debugging register) が使えるアーキテクチャでは、ウォッチポイントが設定できる。ウォッチポイントとは、特定のメモリー・アドレスを実行したり、アクセスしたときのブレークポイントをかけるものである。KGDBには、シリアルケーブルやイーサネットを使ってデバッグ対象マシンに繋がったマシンが必要となる。FreeBSDでは、FireWire DMAを使ったデバッグもできる[13]。
グラフィカルユーザーインタフェース
編集このデバッガは、グラフィカルユーザインタフェース (GUI) は含まれておらず、デフォルトはコマンドラインユーザインタフェース (CUI) である。UltraGDB、Xxgdb、Data Display Debugger (DDD)、Nemiver、KDbg、Xcode デバッガ、GDBtk/Insight、HP Wildebeest Debugger GUI (WDB GUI) など、いくつかのフロントエンドが構築されている。Codelite、Code::Blocks、Dev-C++、Geany、GNAT Programming Studio (GPS)、KDevelop、Qt Creator、Lazarus、MonoDevelop、Eclipse、NetBeans、Visual Studioなどの統合開発環境は、GDBとインターフェースをとることができる。GNU Emacsには「GUDモード」があり、VIM用のツールが存在する(例: clewn)。これらのツールはIDEにあるデバッガと同様の機能を提供する。
他にも、メモリリーク検出器など、GDBと連動するように設計されたデバッグツールもある。
コマンド例
編集gdb program
|
"program" をデバッグ (シェル上で操作) |
---|---|
run -v
|
ロードされたprogramをパラメータを指定して実行 |
bt
|
バックトレース (programがクラッシュした場合) |
info registers
|
すべてのレジスタをダンプ |
disas $pc-32, $pc+32
|
逆アセンブル(等価なコマンドは x/64i $pc-32[14] ) |
セッション例
編集C言語で書かれた以下のソースコードを考える。
#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
#include <string.h>
size_t foo_len( const char *s )
{
return strlen( s );
}
int main( int argc, char *argv[] )
{
const char *a = NULL;
printf( "size of a = %lu\n", foo_len(a) );
exit( 0 );
}
Linux上のGCCコンパイラを使用する場合、生成されたバイナリに適切なデバッグ情報を含めるために-g
フラグを使用して上記のコードをコンパイルしなければならない。これにより、GDBを使用してバイナリを検査できる。上記のコードを含むファイルが example.c
という名前であると仮定すると、コンパイルのためのコマンドは次の様になる。
$ gcc example.c -Og -g -o example
そして、バイナリを実行できるようになった。
$ ./example
Segmentation fault
サンプルコードを実行するとセグメンテーションフォールトが発生するので、GDBを使用して問題を検査することができる。
$ gdb ./example
GNU gdb (GDB) Fedora (7.3.50.20110722-13.fc16)
Copyright (C) 2011 Free Software Foundation, Inc.
License GPLv3+: GNU GPL version 3 or later <https://gnu.org/licenses/gpl.html>
This is free software: you are free to change and redistribute it.
There is NO WARRANTY, to the extent permitted by law. Type "show copying"
and "show warranty" for details.
This GDB was configured as "x86_64-redhat-linux-gnu".
For bug reporting instructions, please see:
<https://www.gnu.org/software/gdb/bugs/>...
Reading symbols from /path/example...done.
(gdb) run
Starting program: /path/example
Program received signal SIGSEGV, Segmentation fault.
0x0000000000400527 in foo_len (s=0x0) at example.c:8
8 return strlen (s);
(gdb) print s
$1 = 0x0
この問題は8行目にあり、strlen
関数を呼び出す際に発生する (引数 s
が NULL
であるため)。strlen の実装 (インライン関数かどうか) に応じて出力が異なる場合がある。
コマンド bt
でプログラムのスタック・トレースをとると、main
関数からソースコードの階層を降りてstrlen
関数が呼び出されている流れを確かめられる。
GNU gdb (GDB) 7.3.1
Copyright (C) 2011 Free Software Foundation, Inc.
License GPLv3+: GNU GPL version 3 or later <https://gnu.org/licenses/gpl.html>
This is free software: you are free to change and redistribute it.
There is NO WARRANTY, to the extent permitted by law. Type "show copying"
and "show warranty" for details.
This GDB was configured as "i686-pc-linux-gnu".
For bug reporting instructions, please see:
<https://www.gnu.org/software/gdb/bugs/>...
Reading symbols from /tmp/gdb/example...done.
(gdb) run
Starting program: /tmp/gdb/example
Program received signal SIGSEGV, Segmentation fault.
0xb7ee94f3 in strlen () from /lib/i686/cmov/libc.so.6
(gdb) bt
#0 0xb7ee94f3 in strlen () from /lib/i686/cmov/libc.so.6
#1 0x08048435 in foo_len (s=0x0) at example.c:8
#2 0x0804845a in main (argc=<optimized out>, argv=<optimized out>) at example.c:16
この問題を修正するには、変数 a
(main
関数内) に有効な文字列を含まなければならない。コードの修正版は次の通りである。
#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
#include <string.h>
size_t foo_len( const char *s )
{
return strlen(s);
}
int main( int argc, char *argv[] )
{
const char *a = "This is a test string";
printf( "size of a = %lu\n", foo_len(a) );
exit( 0 );
}
GDB内で実行ファイルを再コンパイルして実行すると、正しい結果が得られるようになった。
GNU gdb (GDB) Fedora (7.3.50.20110722-13.fc16) Copyright (C) 2011 Free Software Foundation, Inc. License GPLv3+: GNU GPL version 3 or later <https://gnu.org/licenses/gpl.html> This is free software: you are free to change and redistribute it. There is NO WARRANTY, to the extent permitted by law. Type "show copying" and "show warranty" for details. This GDB was configured as "x86_64-redhat-linux-gnu". For bug reporting instructions, please see: <https://www.gnu.org/software/gdb/bugs/>... Reading symbols from /path/example...done. (gdb) run Starting program: /path/example size of a = 21 [Inferior 1 (process 14290) exited normally]
GDBは printf
の出力を画面に表示し、プログラムが正常に終了したことをユーザに知らせる。
脚注
編集- ^ Brobecker, Joel (2022年5月1日). “GDB 12.1 released!”. 2022年5月17日閲覧。
- ^ “GDB Documentation - Supported Languages”. 2011年11月28日閲覧。
- ^ “GDB Documentation - Summary”. 2011年11月28日閲覧。
- ^ a b “Richard Stallman lecture at the Royal Institute of Technology, Sweden (1986-10-30)”. 2006年9月21日閲覧。 “Then after GNU Emacs was reasonably stable, which took all in all about a year and a half, I started getting back to other parts of the system. I developed a debugger which I called GDB which is a symbolic debugger for C code, which recently entered distribution. Now this debugger is to a large extent in the spirit of DBX, which is a debugger that comes with Berkeley Unix.”
- ^ “John Gilmore (activist)”. hyperleap.com. 2020年10月19日閲覧。
- ^ “GDB Steering Committee”. 2008年5月11日閲覧。
- ^ “GDB Documentation - Summary - Contributors”. 2011年12月1日閲覧。
- ^ “GDB 7.0 Release Notes”. 2011年11月28日閲覧。
- ^ Joel Brobecker (2014年7月29日). “GDB 7.8 released!”. 2014年7月30日閲覧。
- ^ “Reverse Debugging with GDB”. 2014年1月20日閲覧。
- ^ “Howto: GDB Remote Serial Protocol: Writing a RSP Server”. 2020年10月19日閲覧。
- ^ “Implementing a remote stub”. 2020年10月19日閲覧。
- ^ “Kernel debugging with Dcons”. 2020年10月19日閲覧。
- ^ “10.6 Examining Memory”. 2020年12月30日閲覧。
関連項目
編集- LLDB
- Binary File Descriptor library (libbfd)
- dbx
- DDD - GDBなどのデバッガのためのGUIグラフィカルユーザーインタフェース
- gdbserver
外部リンク
編集- GDB公式Webサイト
- KGDB: Linux Kernel Source Level Debugger
- Debugging with GDB - htmlと400ページ以上のPDF
- A Visual Studio plugin for debugging with GDB
- Comparison of GDB front-ends, 2013
ドキュメント
編集- Richard M. Stallman, Roland Pesch, Stan Shebs, et al., Debugging with GDB (Free Software Foundation, 2002) ISBN 1-882114-88-4
- GDB Internals
チュートリアル
編集- RMS's gdb Tutorial (Ryan Michael Schmidt, not Richard Matthew Stallman)