Nothing Special   »   [go: up one dir, main page]

腎細胞癌

腎臓に発生する悪性腫瘍の一つ

腎細胞癌(じんさいぼうがん、: Renal cell carcinoma)は、腎臓に発生する悪性腫瘍のひとつであり、尿細管上皮細胞ががん化したものである。

別名グラヴィッツ腫瘍(Grawitz's tumor)。

分類

編集
  • 淡明細胞型 (clear cell)
    最も一般的で、腎細胞癌の70%を占める。その名の通り光学顕微鏡で細胞質が明るい腫瘍細胞として見える。近位尿細管から生じる。染色体3pの欠損、VHL遺伝子の欠損がしばしば認められる。
  • 多房嚢胞性
  • 乳頭状 (papillary)腎癌の10~15%。遠位尿細管から生じる。
  • 嫌色素性 (chromophobe)腎癌の4%。集合管の間在細胞由来と考えられている。
  • 集合管癌集合管上皮細胞から生じる。
  • 腎髄質癌
  • Xp11.2/TFE3転座型腎細胞癌
  • 神経芽腫関連腎癌
  • 粘液管状紡錘細胞癌
  • 紡錘細胞癌本来は上記いずれかの組織型であったものが、あまりにも脱分化が進んで元々の組織型が判らなくなったものである。

疫学

編集

腎細胞癌は男性5.6/100,000人、女性4.1/100,000人の確率で見られる。20歳までに見られることは稀で、小児科腎腫瘍では2%を占めるのみである。40歳以降、特に60代から70代にかけて好発する。von Hippel-Lindau病などの遺伝病との関係も示唆されているが定かではない。

喫煙は本症の主要な危険因子であり,30%増大させる。その他に肥満(特に女性)、カドミウム、一部の解熱鎮痛薬の長期使用(アセトアミノフェンフェナセチン)なども本症の危険因子である。

症状

編集
  • 血尿
  • 側腹部腫瘤
  • 疼痛
  • 体重減少
  • 腹痛
  • 食欲不振
  • 低色素性貧血
  • 肝機能障害

合併症

編集

腫瘍随伴性症候群

本症は転移が多いことで有名な悪性腫瘍であり、特に肺転移、骨転移、肝転移を起こしやすい。なかでも肺転移が最も多い。[1]

検査

編集
血液検査
腹部CT
腹部MRI
腎エコー(超音波検査)

現在、腎癌のスクリーニング検査として効率的で、早期発見を可能とする特異的腫瘍マーカーは存在しない。腎癌のスクリーニングには腹部超音波検査が汎用されており、腎腫瘤病変が疑われた場合、確定診断にダイナミック造影CT検査が有用である。

治療

編集

外科治療

  • (根治的)腎摘除術
  • 腎部分切除術

【腎摘除術と腎部分切除術の選択】

 T1a(腫瘍径が4cm以下のもの)では両術式の制癌性は同等[2]で 、腎摘除術では腎機能低下など合併症のために全生存率が低下する[3]。これらをはじめとした複数の研究報告を踏まえ、以下の治療指針が原則になっている(腎癌診療ガイドライン2017年版 2019年改訂版)。

  • T1aにはできる限り腎部分切除術を行う。
  • T1b(腫瘍径が4cmを超えるが7cm以下のもの)に対しても、可能であれば腎部分切除術を選択する。
  • T2以上(腫瘍径が7cmを超えるもの)では腎摘除術を行う。

また、単腎であったり、両腎に腫瘍が存在していたりする場合は、腎機能温存のために部分切除術を考慮する必要がある。

【転移を有する患者における原発巣摘除の意義】

 CARMENA試験において、スニチニブ単独での全生存期間は腎摘除後にスニチニブを行った場合に劣らないことが示された[4]。SURTIME試験では、腎摘除後にスニチニブを投与する群とスニチニブ3サイクル実施後に腎摘除を行いスニチニブを継続する群が比較され、主要評価項目の無増悪生存期間では両群間に差はなかったが、副次評価項目の全生存期間はスニチニブ3サイクル実施後腎摘除群が優れていた[5]。ただし本試験は症例登録に難航し、途中で登録を打ち切ったことに注意が必要である。一方、免疫チェックポイント阻害薬を使用する場合の原発巣摘除の意義については、現時点ではエビデンスはない。腎癌診療ガイドラインでは、Poor risk患者やPerformance Status(PS)不良などの予後不良例では即時腎摘除術は慎重に判断すべきであり、PS良好や転移巣が小さいなどの予後良好例においては、十分な検討の上原発巣摘除を考慮すべきとされている。

【転移を有する患者における転移巣摘除の意義】

 後ろ向き研究では、転移巣切除による全生存期間の延長を示唆する結果が示されているが、バイアスに注意が必要である。不完全切除や脳転移、CRP高値、high grade腫瘍などが予後不良因子とされ[6]、このような患者に対しては、転移巣切除の意義は乏しい。腎癌診療ガイドラインでは、PS良好で、無病期間が長く、完全切除が可能な場合など、注意深く選択された患者において生存率の向上が期待されるとしている。


薬物療法

【転移性腎癌のリスク分類】 様々なリスク分類が存在するが、薬物療法を施行する上で重要なのは、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC)分類[7]とInternational Metastatic Renal Cell Carcinoma Database Consortium (IMDC)分類[8]である。MSKCC分類はサイトカイン療法を受けた転移性腎癌患者の予後因子を、IMDC分類はVEGF (Vascular Endothelial Growth Factor)標的療法を受けた転移性腎癌患者の予後因子をもとに考案された。現在は免疫チェックポイント阻害薬を中心とした一次治療体系になっているが(後述)、これらの臨床試験で用いられたIMDC分類を用いて評価し、リスクに応じて薬剤を選択することがガイドラインで推奨されている[9]

MSKCCおよびIMDCリスク分類(腎癌診療ガイドライン2017年版より一部改変)
初診時から治療開始まで1年以内 Karnofsky Performance Status <80% 補正カルシウム >ULN 血清ヘモグロビン <LLN LDH >1.5ULN 好中球数 >ULN 血小板数 >ULN
MSKCC分類 ○ (>10 mg/dL)
IMDC分類

ULN, upper limit of normal(正常上限); LLN, lower limit of normal(正常下限)

いずれの分類においても、当てはまる予後不良因子が0項目を低リスク、1または2項目を中リスク、3項目以上を高リスクと評価する。


日本において推奨されている薬物療法(腎癌診療ガイドライン2017年版 2020年改訂版[10]

進行腎癌に対する一次治療の選択基準(リスクはIMDC分類による)
分類 推奨治療薬 代替治療薬
淡明細胞型腎細胞癌(低リスク) ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用
アベルマブ+アキシチニブ併用
スニチニブ
パゾパニブ
ソラフェニブ
インターフェロン-α
低用量インターロイキン-2
淡明細胞型腎細胞癌(中リスク) イピリムマブ+ニボルマブ併用
ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用
アベルマブ+アキシチニブ併用
カボザンチニブ
スニチニブ
パゾパニブ
ソラフェニブ
インターフェロン-α
低用量インターロイキン-2
淡明細胞型腎細胞癌(高リスク) イピリムマブ+ニボルマブ併用
ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用
アベルマブ+アキシチニブ併用
カボザンチニブ
スニチニブ
テムスロリムス
非淡明細胞型腎細胞癌 スニチニブ
テムスロリムス


進行腎癌に対する二次治療の選択基準
分類 推奨治療薬 代替治療薬
チロシンキナーゼ阻害薬後 ニボルマブ
カボザンチニブ
アキシチニブ
エベロリムス
ソラフェニブ
サイトカイン療法後 アキシチニブ
ソラフェニブ
スニチニブ
パゾパニブ
mTOR阻害薬後 臨床試験等


進行腎癌に対する三次治療の選択基準
分類 推奨治療薬 代替治療薬
チロシンキナーゼ阻害薬2剤後 ニボルマブ
カボザンチニブ
エベロリムス
チロシンキナーゼ阻害薬/mTOR阻害薬後 ソラフェニブ
アキシチニブ
スニチニブ
パゾパニブ
その他 臨床試験等


海外(主に米国)において推奨されている薬物療法[11]

NCCNガイドラインにおける一次治療(リスクはIMDC分類による)
分類 推奨レジメン その他の推奨レジメン 特定の状況下で有用
淡明細胞型腎細胞癌(低リスク) アキシチニブ+ペムブロリズマブ
パゾパニブ
スニチニブ
イピリムマブ+ニボルマブ¶
カボザンチニブ(カテゴリー2B)
アキシチニブ+アベルマブ
アクティブサーベイランス
アキシチニブ(カテゴリー2B)
高用量インターロイキン-2¶
淡明細胞型腎細胞癌(中・高リスク) イピリムマブ+ニボルマブ(カテゴリー1)
アキシチニブ+ペムブロリズマブ(カテゴリー1)
カボザンチニブ
パゾパニブ
スニチニブ
アキシチニブ+アベルマブ
アキシチニブ(カテゴリー2B)
高用量インターロイキン-2¶
テムシロリムス
非淡明細胞型腎細胞癌 臨床試験
スニチニブ
カボザンチニブ
エベロリムス
アキシチニブ
ベバシズマブ¶またはバイオ後続品¶
エルロチニブ¶
レンバチニブ¶+エベロリムス
ニボルマブ
パゾパニブ
遺伝性平滑筋腫症-腎細胞癌症候群 (HL-RCC) を含む進行性乳頭状腎細胞癌の患者に対しベバシズマブ¶またはバイオ後続品¶+エルロチニブ¶
ベバシズマブ*またはバイオ後続品¶+エベロリムス
テムシロリムス

¶本邦未承認薬


NCCNガイドラインにおける二次治療
分類 推奨レジメン その他の推奨レジメン 特定の状況下で有用
淡明細胞型腎細胞癌 カボザンチニブ(カテゴリー1)
ニボルマブ(カテゴリー1)
イピリムマブ¶+ニボルマブ
アキシチニブ(カテゴリー1)
レンバチニブ¶+エベロリムス(カテゴリー1)
アキシチニブ+ペムブロリズマブ¶
エベロリムス
パゾパニブ
スニチニブ
アキシチニブ+アベルマブ¶(カテゴリー3)
ベバシズマブ¶またはバイオ後続品¶(カテゴリー2B)
ソラフェニブ(カテゴリー2B)
高用量インターロイキン-2¶(カテゴリー2B)
テムシロリムス(カテゴリー2B)

¶本邦未承認薬


参考文献

編集

脚注

編集

出典

編集
  1. ^ 日本泌尿器科学会, 腎癌診療ガイドライン2011年版
  2. ^ MacLennan S, Imamura M, Lapitan MC, et al; UCAN Systematic Review Reference Group; EAU Renal Cancer Guideline Panel. Systematic review of oncological outcomes following surgical management of localised renal cancer. Eur Urol. 2012;61:972-993.
  3. ^ Zini L, Perrotte P, Capitanio U, et al. Radical versus partial nephrectomy: effect on overall and noncancer mortality. Cancer. 2009;115:1465-1471.
  4. ^ Méjean A, Ravaud A, Thezenas S, et al. Sunitinib Alone or after Nephrectomy in Metastatic Renal-Cell Carcinoma. N Engl J Med. 2018;379:417-427.
  5. ^ Bex A, Mulders P, Jewett M, et al. Comparison of Immediate vs Deferred Cytoreductive Nephrectomy in Patients with Synchronous Metastatic Renal Cell Carcinoma Receiving Sunitinib: The SURTIME Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol. 2019;5:164-170.
  6. ^ Naito S, Kinoshita H, Kondo T, et al. Prognostic factors of patients with metastatic renal cell carcinoma with removed metastases: a multicenter study of 556 patients. Urology. 2013;82:846-851.
  7. ^ Motzer RJ, Bacik J, Murphy BA, et al. Interferon-Alfa as a comparative treatment for clinical trials of new therapies against advanced renal cell carcinoma. J Clin Oncol 2001;20:289-296.
  8. ^ Heng YCD, Xie W, Regan MM, et al. Prognostic factors for overall survival in patients with metastatic renal cell carcinoma treated with vascular endothelial growth factor–targeted agents: Results from a large, multicenter study. J Clin Oncol 2009;27:5794–5799.
  9. ^ 日本泌尿器学会編. 腎癌診療ガイドライン2017年版 2019年改訂版
  10. ^ 日本泌尿器学会編. 腎癌診療ガイドライン2017年版 2020年改訂版
  11. ^ NCCN Guidelines Kidney Version 2.2020

外部リンク

編集