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羊を数える(ひつじをかぞえる、英語: counting sheep)のは、一部の西洋文化において、自分を眠らせる手段として用いられる精神的な運動(健康法)である。

放牧場の羊

ほとんどの表現によれば、実践する人はフェンスを飛び越える同じ白いの数を数えながら、無限に続く一連の羊を思い描く。この考え方は、おそらく、単純で、反復的で、リズミカルなもので心を満たすことが退屈を誘うというもので、いずれも人間の入眠を助けることで知られている。

この習慣はほとんど思い込みであり不眠症の解決法として使われることはほとんどないが、カートゥーンコミック・ストリップ、その他マスメディアでよく取り上げられるため、大衆文化において睡眠に対する概念に深く刻み込まれている。「羊を数える」(英語: counting sheep)という言葉は、英語では不眠症の慣用句となっており、羊という言葉そのものが睡眠、あるいは睡眠不足と結びついている。

有効性

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この方法の有効性は、必要とされる精神力に左右されるかもしれない。オックスフォード大学の研究者が行った実験では、(羊などの)家畜を視覚化の対象としていないが、「砂浜」を想像した被験者は、「単に考え事や心配事、懸念から気をそらす」ように言われた被験者よりも、より多くの精神的エネルギーを消費せざるを得ず、より早く眠りに落ちることがわかった[1][2]。睡眠は、精神的エネルギーを消費する複雑な活動によって達成される。

ただし、日本語圏で羊を数えるのは意味がなく逆効果だという説もある。英語では羊(sheep)と眠り(sleep)の発音が似ていることから、この2つをかけることで眠りを誘発させる効果があると考えられるが、日本語では発音が全く違うためこの効果は期待できない[3][4][5]

起源

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睡眠を得るための手段として羊を数えるという初期の言及は、1832年にハリエット・マーティノー英語版が著した『経済学例解』(: Illustrations of Political Economy)に見られる[6]

"It was a sight of monotony to behold one sheep after another follow the adventurous one, each in turn placing its fore-feet on the breach in the fence, bringing up its hind legs after it, looking around for an instant from the summit, and then making the plunge into the dry ditch, tufted with locks of wool. The process might have been more composing if the field might have been another man's property, or if the flock had been making its way out instead of in; but the recollection of the scene of transit served to send the landowner to sleep more than once, when occurring at the end of the train of anxious thoughts which had kept him awake."

1605年のミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』には、さらに古い記述が見られる。(ただし、セルバンテスは「羊」を「山羊」に置き換えている。)[7][8][9][10]

「漁師が渡す山羊の数を数えてくださいよ、一頭でも間違えると話はそこでおしまい、その先は続けられねえですから。」[7]

セルバンテスはおそらく、12世紀初頭のスペインの著作『知者の教え英語版』に登場する羊を数える話から、山羊を数える話を転用したのだろう。第12節の「王と語り部」(: The King and his Story-teller)では、羊の数を数えるというアイデアをユーモラスに使っている[11]。『知者の教え』は主にイスラム世界の文献資料を用いているが、羊の数を数えることは、おそらく12世紀初頭以前のイスラム世界では広く認識されていた習慣だったのだろう[要出典]

19世紀末の作家の何人かは、睡眠を助けるために羊の数を数えることに言及している[12][13][14]。1860年代から1870年代にかけては、セイバイン・ベアリング=グールドが1868年に著した『Through flood and flame』で「疲れた彼女はため息をつきながら壁に顔を向け、生け垣の隙間を通って行く羊の数を数えて、まぶたを閉じて眠ろうとした。」(: She turned her face to the wall with a weary sigh, and endeavoured, by counting sheep going through a hedge-gap, to trick sleep into closing her eyelids.)と出てくるように、一般的な用語となったようである[15]。アレキサンダー・ウィリアム・マクファーレン(: Macfarlane, Alexander William)は1891年に『Insomnia and Its Therapeutics』においてこの方法について著している[16]

大衆文化において

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アメリカ合衆国寝具メーカーであるサータ英語版が2000年に開始した「羊を数える」広告キャンペーンでは、羊のアニメキャラクターを使用している[17]。この広告とキャラクターはアードマン・アニメーションズが制作した。

Mr.ビーン』の第13話「おやすみなさい、ミスター・ビーン(Mr. ビーンの大失敗)」では、主人公がなかなか寝付けず、他の方法を試して失敗した後、彼は羊の群れの写真を取り出し、最初は指で、そして何度か数え損ねた後、電卓の助けを借りて数え始める。電卓のディスプレイに羊の数が(不正確ではあるが)表示されると、彼はようやく、そして即座に眠りに落ちる[18]

ひつじのショーン』のスポーツをテーマとした2012年のシリーズ「チャンピオンシープス」(: Shaun The Sheep Championsheeps)では、「羊を数える」という決まり文句は「障害物競走」というエピソードで描かれている。この短編エピソードでは、ショーンと仲間の羊たちが障害物競走に参加する。審判を務める犬のビッツァーも、観客である他の羊や農場の動物たちも、ショーンや他の羊たちがトラックを走り回り、ハードルを飛び越えるのを見て、みんな眠ってしまう[19]

フィリップ・K・ディックSF小説アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のタイトルはこの言葉が元になっている。

関連項目

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出典

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  1. ^ “Counting sheep keeps you up” (英語). newsround (英国放送協会). (2002年1月24日). http://news.bbc.co.uk/cbbcnews/hi/sci_tech/newsid_1780000/1780803.stm 2024年4月17日閲覧。 
  2. ^ Harvey, Allison G., and Suzanna Payne (2002). The management of unwanted pre-sleep thoughts in insomnia: distraction with imagery versus general distraction.. 40(3). Behaviour Research and Therapy. pp. 267-277 
  3. ^ 石原亜香利 (2015年9月19日). “羊は数えちゃダメ!睡眠学者が教えてくれる真実”. ねとらぼ. ITmedia. 2024年4月19日閲覧。
  4. ^ 西野精治 (2018年9月13日). “「羊を数えたら眠れる」という大いなる勘違い”. 東洋経済ONLINE. 東洋経済新報社. 2024年4月18日閲覧。
  5. ^ Aomi (2021年12月11日). “「ヒツジを数える理由」をチコちゃんが解説 科学的にも意味があった”. Sirabee. 博報堂DYホールディングス. 2024年4月19日閲覧。
  6. ^ Harriet Martineau (1832-1834). “chapter VI. TOO LATE.” (英語). Illustrations of political economy, in nine volumes. London: Charles Fox. pp. 103-104. https://www.google.co.jp/books/edition/Illustrations_of_Political_Economy_in_Ni/i05PAQAAMAAJ?hl=ja&gbpv=1&dq=%22Illustrations+of+Political+Economy%22+%22Harriet+Martineau%22+%22It+was+a+sight+of+monotony+to+behold+one+sheep+after+another+follow+the+adventurous+one,%22&pg=RA3-PA103&printsec=frontcover 2024年4月19日閲覧。 
  7. ^ a b ミゲル・デ・セルバンテス 著、岡田一 訳「第二十章 世のどんな有名な騎士も勇者ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャほど危なげなく成し遂げるのを見たことも聞いたこともない冒険について」『ドン・キホーテ 前篇』本田誠二(注釈者)、水声社〈セルバンテス全集②〉、2017年2月1日、187頁。ISBN 978-4-8010-0172-5 
  8. ^ セルバンテス 著、岩根圀和 訳「第二〇章 天下に名高い騎士が、比較的危険なめに遭わずになしとげた古今未曾有の大冒険。剛勇ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャの例。」『新訳 ドン・キホーテ【前編】』彩流社、2012年11月30日、229頁。ISBN 978-4-7791-1845-6。「おめえさま、漁師が山羊を何頭渡したかちゃんと覚えといてくだせえましよ。」 
  9. ^ セルバンテス 著、会田由 訳「第二十章 勇ましいドン・キホーテがやりとげたこの冒険にくらべれば、世のいかなる騎士でもこれほど危険もなくやりとげた試しはない、いまだかつて見たことも聞いたこともない冒険について。」『ドン・キホーテ』 1巻、晶文社、1985年2月25日、277頁。ISBN 978-4794914750。「旦那さま、この漁夫が連れて渡る山羊の数をかぞえてくださいましよ。」 
  10. ^ セルバンテス 著、永田寛定 訳「第二十 世に名高い騎士があやうい目をほとんど見ずにしおゝせた冒險、勇猛なドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャがなしとげたそれのように、見た人も聞いた人もない冒險の章」『ドン・キホーテ 正篇』 2巻、岩波書店、1949年8月15日、77頁。「旦那様、漁師が渡す山羊を勘定しとってくだせえよ。」 
  11. ^ ancient origin of counting sheep to fall asleep – purple motes” (英語) (2013年9月1日). 2024年4月18日閲覧。
  12. ^ Clippinger, John Albert (1876年12月19日). “The Pedagogue of Widow's Gulch: Or, The Adventures of a Pioneer School Teacher in a Secluded Vale in California, where Married Men Could Not Live, and where Widows Did Not Die” (英語). R. Young. 2024年4月18日閲覧。
  13. ^ Bowra, Harriette (1872年12月19日). “Una, Or, The Early Marriage: A Domestic Tale” (英語). Hodder and Stoughton. 2024年4月18日閲覧。
  14. ^ The Monthly Packet of Evening Readings for Members of the English Church” (英語). John and Charles Mozley (1877年12月19日). 2024年4月18日閲覧。
  15. ^ Gould, Sabine Baring (1868年12月19日). “Through flood and flame [by S.B. Gould.]” (英語). 2024年4月18日閲覧。
  16. ^ Macfarlane, Alexander William (1891年12月19日). “Insomnia and Its Therapeutics” (英語). William Wood. 2024年4月18日閲覧。
  17. ^ KEEP THE SHEEP IN SLEEP. COUNT SHEEP INSTEAD!” (英語). サータ英語版. 2024年4月18日閲覧。
  18. ^ Mr Bean (11 December 2017). Goodnight Mr. Bean | Episode 13 | Mr. Bean Official. YouTube (英語). 2024年4月18日閲覧
  19. ^ ひつじのショーン 公式チャンネル (3 September 2017). 障害物競争 | チャンピオンシープス ひつじのショーン [ Steeplechase ]. YouTube. 2024年4月18日閲覧
  • P. Martin (2004-07-01). Counting sheep: the science and pleasures of sleep and dreams. St. Martin's Griffin. ISBN 978-0312327439