モクレン目
モクレン目(モクレンもく、学名: Magnoliales)は被子植物の目の1つであり、モクレンやニクズク、バンレイシなどが含まれる。全て木本であり、精油を含み、葉が互生する。花はふつう大きく、3数性の花被片をもつものが多い(図1)。多くの場合、雄しべと雌しべが多数あり、らせん状についている(図1)。
モクレン目 | ||||||||||||
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分類 | ||||||||||||
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学名 | ||||||||||||
Magnoliales Juss. ex Bercht. & J.Presl (1820) | ||||||||||||
科 | ||||||||||||
6科135属3,200種ほどが知られる。モクレン科など古くから"原始的"と考えられていた被子植物が含まれる。系統的にも被子植物の大系統群である単子葉類や真正双子葉類には含まれず、クスノキ目、カネラ目、コショウ目に近縁であると考えられている。
特徴
編集全て木本であり、低木から高木、多くは常緑性だが、落葉性の種もいる[1][2][3][4][5][6](下図2a–d)。ふつう精油やアルカロイド、フラボノールを含む[1][2][3][4][5][6]。節は3から多葉隙性(ニクズク科は単葉隙性)[1][2][3][4][5][6]。師管の色素体はP-type(ニクズク科、モクレン科はS-type)[1][2][3][4][5][6]。
葉序は基本的に2列互生であるが(下図2e, f)、螺生することもある(特にモクレン科; 下図2g)[1][2][3][4][5][6]。葉は単葉、葉脈は羽状、葉柄をもつ[1][2][3][4][5][6](下図2e–g)。ほとんどの種で葉縁は全縁であるが、ユリノキ属(モクレン科)では大きな陥入がある[1][2][3][4][5][6]。ふつう托葉を欠くが、モクレン科では早落性の托葉が芽を包んでいる[1][2][3][4][5][6]。
花は比較的大きなものが多く、放射相称、ふつう両性で雌性先熟、ときに単性[1][2][3][4][5][6]。花被片はふつう3数性であり、3枚ずつ1輪から多輪についている[1][2][3][4][5][6](下図2h–k)。ふつう離生するが、ニクズク科では3枚1輪の花被片が合生している[1][2][3][4][5][6](下図2h)。花被片は内外で分化していない(萼片と花弁の分化がない)もの(下図2i)から、最外輪が萼片となっているもの(下図2j)、萼片・外花弁・内花弁の分化があるもの(下図2k)などがある[1][2][3][4][5][6]。雄しべはふつう多数、らせん状についているが、ニクズク科では単体雄しべを形成する[1][2][3][4][5][6](下図2j, m)。ふつう花糸は太く、まれに葉状、葯隔が発達していることが多い[1][2][3][4][5][6]。ときに外側または内側の雄しべが仮雄しべであり、花弁状となることがある[1][2][3][4][5][6](ヒマンタンドラ科、エウポマティア科)(下図2l)。葯は外向、ときに側向や内向[1][2][3][4][5][6]。小胞子形成は同時型、タペート組織は分泌型[1][2][3][5][6]。花粉は単溝粒から無孔粒、2細胞性[1][2][3][4][5][6]。心皮はふつう二つ折り型だがエウポマティア科では嚢状、ふつう多数(ニクズク科とデゲネリア科では1個)、離生心皮(雌しべは多数)、らせん状についている[1][2][3][4][5][6](下図2i, m)。基本的に子房上位であるが、エウポマティア科では子房周囲から半下位[1][2][3][4][5][6]。胚珠は倒生胚珠、2珠皮性、厚層珠心をもつ[1][2][3][5][6]。
果実は液果(下図2n)や袋果(下図2o)であり、ふつう集合果を形成する[1][2][3][4][5][6]。種子はしばしば肉質の種皮や仮種皮で包まれる[1][2][3][6]。胚乳は油質、ときに錯道をもつ[1][2][3][4][5][6](下図2p)。胚は分化しているが小さい[1][2][3][5][6]。
分布・生態
編集人間との関わり
編集モクレン目の植物は精油やアルカロイドなどさまざまな二次代謝産物をもち、それに基いて利用される例がある。ニクズク(ニクズク科)の種子をすりつぶしたものはナツメグ、仮種皮はメースとよばれ、香辛料として広く利用されている[8][9][10](下図3a)。ニクズク属の種子、モクレン属の花芽や樹皮、バンレイシ属の種子などは、生薬に用いられることがある[8][9][11][12][13][14](下図3b)。ガルブリミマ(ヒマンタンドラ科)や Virola(ニクズク科)など幻覚誘発剤に用いられる例もある[10][15][16]。
イランイランノキ(バンレイシ科)の花から得られる精油は、香水の原料などに利用される[17][18](下図3c)。他にも Cymbopetalum penduliflorum[19] や Monodora myristica[15][20]、ギニアペッパーグローブ(X. aethiopica)[21]、モクレン属[22]は香料や香辛料として利用されることがある。
バンレイシ属やポポー、Polyalthia、Rolinia deliciosa(バンレイシ科)など果実が食用とされる例もある[17][11][23][24][25](上図3d)。
モクレン属やユリノキ属(モクレン科)、イランイランノキ、オウソウカ属(Artabotrys)、マストツリー(Monoon longifolium)(バンレイシ科)などは、観賞用に植栽されることがある[26][27][18][24][28](上図3e)。また木材として利用されるものもある[15][24][29][30][31]。
系統と分類
編集モクレン目は分類群として古くから用いられていたが、そこに含まれる植物群(科)には大きな異動があった。古典的な分類体系の1つである新エングラー体系では、現在クスノキ目に分類される科など非常に多くの科を含んでいた(下表)。その後一般的となったクロンキスト体系では現在の範囲に近づいたが、やがて分子系統学的研究が行われるようになり、一部の科がカネラ目やアウストロバイレヤ目、コショウ目に移された(下表1)。
科 | 新エングラー体系[32] | クロンキスト体系[33] | APG体系(APG IV)[34] |
ニクズク科 | モクレン目 | モクレン目 | モクレン目 |
モクレン科 | |||
デゲネリア科 | |||
ヒマンタンドラ科 | |||
エウポマティア科 | |||
バンレイシ科 | |||
カネラ科 | カネラ目 | ||
シキミモドキ科 | |||
ラクトリス科[注 1] | コショウ目 | コショウ目 | |
アウストロバイレヤ科 | モクレン目 | アウストロバイレヤ目 | |
マツブサ科 | シキミ目 | ||
シキミ科[注 2] | |||
トリメニア科 | クスノキ目 | ||
アンボレラ科 | アンボレラ目 | ||
モニミア科 | クスノキ目 | ||
ロウバイ科 | |||
ゴモルテガ科 | |||
クスノキ科 | |||
ハスノハギリ科 | |||
ヤマグルマ科 | ヤマグルマ目 | ヤマグルマ目 | |
フサザクラ科 | マンサク目 | キンポウゲ目 | |
カツラ科 | ユキノシタ目 |
分子系統学的研究からは、モクレン目はクスノキ目の姉妹群であり、さらにこの系統群(モクレン目+クスノキ目)がカネラ目とコショウ目からなる系統群の姉妹群であることが示されている[7][34]。この4目(モクレン目、クスノキ目、カネラ目、コショウ目)からなる系統群は、モクレン類(モクレン群、モクレン目群、magnoliids)とよばれている[7][34]。モクレン類は、現生被子植物の中でアンボレラ目、スイレン目、アウストロバイレヤ目の後に分岐した植物群の1つであると考えられており、センリョウ目の姉妹群であるとされることが多い[7][34]。
2022年現在、モクレン目の中には6科が認識されている[7][34](下表2)。分子系統学的研究からは、この6科の中でニクズク科が最初に分岐したこと、デゲネリア科+ヒマンタンドラ科とエウポマティア科+バンレイシ科がそれぞれ単系統群であることが示されることが多いが、モクレン科の位置についてはやや安定していない[7](下図4)。
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表2. モクレン目の科までの分類体系の1例[7][35]
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脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Myristicaceae R. Br.”. The families of flowering plants: descriptions, illustrations, identification, and information retrieval. 2022年8月12日閲覧。
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外部リンク
編集- Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “モクレン類/モクレン目”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所. 2022年8月16日閲覧。
- Stevens, P. F. (2001 onwards). “MAGNOLIALES”. Angiosperm Phylogeny Website. 2022年8月16日閲覧。