Nothing Special   »   [go: up one dir, main page]

コンテンツにスキップ

「テウクロス」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
Addbot (会話 | 投稿記録)
m ボット: 言語間リンク 19 件をウィキデータ上の d:q878184 に転記
編集の要約なし
タグ: モバイル編集 モバイルウェブ編集 改良版モバイル編集
 
(16人の利用者による、間の31版が非表示)
1行目: 1行目:
[[image:WLA lacma Teucer.jpg|thumb|270px|テラモーンの子のテウクロス]]
[[File:WLA lacma Teucer.jpg|thumb|270px|テラモーンの子のテウクロス。{{ill|ウィリアム・ヘイモ・ソーニクロフト|en|Hamo Thornycroft}}の彫刻。[[ロサンゼルス・カウンティ美術館]]所蔵。]]
'''テウクロス'''('''Teukros''', {{lang-el-short|Τεῦκρος}}, {{Lang-en-short|Teucer}})は、[[ギリシア神話]]の人物である。'''テウケル'''、'''テウセル'''とも表記される。主に、
'''テウクロス'''({{lang-grc-short|'''Τεῦκρος'''}}, {{ラテン翻字|el|Teukros}}, {{Lang-la|Teucer}})は、[[ギリシア神話]]の人物である。ラテン語から'''テウケル'''、'''テウセル'''とも表記される。主に、
*[[スカマンドロス]]の子
* [[スカマンドロス]]の子
*[[テラモーン]]の子
* [[テラモーン]]の子
が知られている。以下に説明する。
が知られている。以下に説明する。


== スカマンドロスの子 ==
== スカマンドロスの子 ==
この'''テウクロス'''は、[[トローアス]]の河神[[スカマンドロス]]と[[ニュムペー]]のイーダイアーの子で<ref name=Ap_3_12_1>アポロドーロス、3巻12・1。</ref>、[[カリロエー]]と兄弟<ref>アポロドーロス、3巻12・2</ref>。娘バテイアの父。トローアスの最初の王で、トロイア人はテウクロスにちなんで'''テウクロイ'''ともいわれる。娘のバテイアは[[サモトラケー島]]から渡ってきた[[ダルダノス]]の妻となった<ref name=Ap_3_12_1 />。
この'''テウクロス'''は、[[トローアス]]地方[[河神]][[スカマンドロス]]と[[ニュムペー]]の[[イーダイアー]]の子で<ref name=Ap_3_12_1>アポロドーロス、3巻12・1。</ref>、[[カリロエー]]と兄弟<ref>アポロドーロス、3巻12・2</ref>。娘バテイアの父。トローアス地方の最初の王で、[[トロイア]]人はテウクロスにちなんで'''テウクロイ'''ともいわれる。娘のバテイアは[[サモトラケー島]]から渡ってきた[[ダルダノス]]の妻となった<ref name=Ap_3_12_1 />。


[[ウェルギリウス]]によれば、テウクロスは[[クレー島]]の出身で、トローアスにやって来て最初の王となったといわれ、またトローアスの[[カズ・ダー|イーダー山]]の名はクレー島の[[イディ山|イーダー山]]に由来するという<ref>ウェルギリウス『アエネーイス』3巻104~110。</ref>。[[ストラボン]]によれば、クレー島からトローアスにやって来たテウクロイたちは、[[神託]]で大地の子らに襲われた場所に住めと告げられた。すると彼らはハマクシトスで夜に[[ネズミ]]の大群に襲われたので、このネズミを大地の子と解釈してその地に住み、また山にクレー島の山にちなんでイーダー山と名づけた。しかしストラボンは[[アテーナイ]]人説についても紹介しており、それによるとアテーナイ人はテウクロスが[[アッティカ]]の出身だったと主張し、その根拠にトロイアにはアテーナイの神話的な王と同じ名前の[[エリクトニオス]]王がいたことを挙げたと述べている<ref>ストラボン、13巻1・48。</ref>。
[[ウェルギリウス]]によれば、テウクロスは[[クレーテー島]]の出身で、トローアス地方にやって来て最初の王となったといわれ、またトローアス地方の[[カズ・ダー|イーダー山]]の名はクレーテー島の[[イディ山|イーダー山]]に由来するという<ref>ウェルギリウス『アエネーイス』3巻104行-110行。</ref>。[[地理学者]][[ストラボン]]によれば、クレーテー島からトローアス地方にやって来たテウクロイたちは、[[神託]]で大地の子らに襲われた場所に住めと告げられた。すると彼らは夜にハマクシトスで[[ネズミ]]の大群に襲われたので、このネズミを大地の子と解釈してその地に住み、また山にクレーテー島の山にちなんでイーダー山と名づけた。しかしストラボンは[[アテーナイ]]人とする説についても紹介しており、それによるとアテーナイ人はテウクロスが[[アッティカ]]地方の出身だったと主張し、その根拠にトロイアにはアテーナイの神話的な王と同じ名前の[[エリクトニオス]]王がいたことを挙げたと述べている<ref>ストラボン、13巻1・48。</ref>。


== テラモーンの子 ==
== テラモーンの子 ==
この'''テウクロス'''は、[[サラミース島]]の王[[テラモーン]]とトロイアの王[[ラーオメドーン]]の娘[[ヘーシオネー]]の子で、[[大アイアース]]<ref name=Ap_3_12_7>アポロドーロス、3巻12・7。</ref><ref name=Hy_97>[[ヒュギーヌス]]、97。</ref>、[[トラムベーロス]]と異母兄弟<ref>高津『辞典』p.174a。</ref>。
この'''テウクロス'''は、[[サラミース島]]の王[[テラモーン]]とトロイアの王[[ラーオメドーン]]の娘[[ヘーシオネー]]の子で、[[大アイアース]]<ref name=Ap_3_12_7>アポロドーロス、3巻12・7。</ref><ref name=Hy_97>[[ヒュギーヌス]]、97。</ref>、[[トラムベーロス]]と異母兄弟<ref>高津春繁ギリシア・ローマ神話辞典』p.174a。</ref>。


かつて父テラモーンは[[ヘーラクレース]]のトロイア遠征に参加して活躍し、ヘーラクレースから褒美として捕虜となったトロイアの王女ヘーシオネーを贈られた。テウクロスはこの2人の間に生まれた<ref name=Ap_3_12_7 />。[[ヘレネー]]の求婚者の1人で<ref>アポロドーロス、3巻10・8。</ref>、[[トロイア戦争]]のさいにはサラミース島の武将の1人として大アイアースに従って参加し、一説にはサラミース島の軍勢12隻を率いたといわれる<ref name=Hy_97 />。[[トロイアの木馬|木馬作戦]]にも参加した<ref>スミュルナのクイントゥス、12巻ほか。</ref>。
かつて父テラモーンは[[ヘーラクレース]]のトロイア遠征に参加して活躍し、褒美として捕虜となったトロイアの王女ヘーシオネーを贈られた。テウクロスはこの2人の間に生まれた<ref name=Ap_3_12_7 />。[[ヘレネー]]の求婚者の1人で<ref>アポロドーロス、3巻10・8。</ref>、[[トロイア戦争]]のさいにはサラミース島の武将の1人として大アイアースに従って参加し、一説にはサラミース島の軍勢12隻を率いたといわれる<ref name=Hy_97 />。[[トロイアの木馬|木馬作戦]]にも参加した<ref>スミュルナのクイントゥス、12巻ほか。</ref>。


===トロイア戦争===
=== トロイア戦争 ===
テウクロスは弓術の名手だったが、また近接戦闘でも一流の戦士として高く評価されていた<ref>『イーリアス』13巻。[[イードメネウス]]の言葉。</ref>。テウクロスは常に大アイアースと行動し、特に2日目の戦闘では大アイアースの大きな楯に隠れ、大アイアースが楯をずらすたびに矢を放ち、再び楯に隠れるという戦法をとって大きな戦果をあげた。このときテウクロスはさらに[[ヘクトール]]に矢を放ったが外れ、[[プリアモス]]の[[妾]]の子[[ゴルギュティオーン]]を射倒し、続けて放った矢は[[アポローン]]が逸らせたためにヘクトールの御者[[アルケプトレモス]]を射倒した。しかしこのためにヘクトールに攻撃され、石で撃たれて弓の弦を断たれた<ref>『イーリアス』8巻。</ref>。[[リュキア]]勢が[[ギリシア]]軍の防壁を攻撃したさいは、アテーナイの武将[[メネステウス]]の求めに応じて戦い、[[グラウコス]]の腕を射抜いて退却させた。さらに大アイアースとともに[[ゼウス]]の加護を受けている[[サルペードーン]]と戦った<ref>『イーリアス』12巻。</ref>。防壁を破られて大混戦になったときは槍でイブリオスを、矢でクレイトスを倒し、さらにヘクトールを狙おうとしたが、ゼウスはテウクロスが新しく張ったばかりの弓弦を断ってヘクトールを守った<ref>『イーリアス』12巻。</ref>。
テウクロスは弓術の名手だったが、また近接戦闘でも一流の戦士として高く評価されていた<ref>『イーリアス』13巻。</ref><ref group="注釈">[[クレーテー]]の武将[[イードメネウス]]の言葉。</ref>。テウクロスは常に大アイアースと行動し、特に2日目の戦闘では大アイアースの大きな楯に隠れ、大アイアースが楯をずらすたびに矢を放ち、再び楯に隠れるという戦法をとって大きな戦果をあげた。このときテウクロスはさらに[[ヘクトール]]に矢を放ったが外れ、[[プリアモス]]の[[妾]]の子[[ゴルギュティオーン]]を射倒し、続けて放った矢は[[アポローン]]が逸らせたためにヘクトールの御者[[アルケプトレモス (ギリシア神話)|アルケプトレモス]]を射倒した。しかしこのためにヘクトールに攻撃され、石で撃たれて弓の弦を断たれた<ref>『イーリアス』8巻。</ref>。[[リュキア]]勢が[[ギリシア]]軍の防壁を攻撃したさいは、アテーナイの武将[[メネステウス]]の求めに応じて戦い、[[グラウコス]]の腕を射抜いて退却させた。さらに大アイアースとともに[[ゼウス]]の加護を受けている[[サルペードーン]]と戦った<ref name="#1">『イーリアス』12巻。</ref>。防壁を破られて大混戦になったときは槍で[[ブリオス]]を、矢でクレイトスを倒し、さらにヘクトールを狙おうとしたが、ゼウスはテウクロスが新しく張ったばかりの弓弦を断ってヘクトールを守った<ref name="#1"/>。


[[パトロクロス]]の葬礼競技では[[メーリオネース]]と弓競技を争ったが負けた<ref>『イーリアス』23巻。</ref>。[[アキレウス]]の葬礼競技では[[徒競走]]、弓競技を小アイアースと争い、徒競走では負けたが、弓競技では勝利した。一方、大アイアースと[[オデュッセウス]]はアキレウスの防具をめぐって争ったが、大アイアースは敗北し、怒ってギリシア軍の武将たちを殺そうとした。しかし大アイアースは気が狂って家畜の群れを武将たちと思って殺戮し、正気に戻ったときに自殺した。大アイアースの死を知ったテウクロスは悲しみのあまり自分もあとを追って自殺しようとしたが、周囲に止められた<ref>スミュルナのクイントゥス、4巻、5巻。</ref>。
[[パトロクロス]]の葬礼競技では[[メーリオネース]]と弓競技を争っ負けた<ref>『イーリアス』23巻。</ref>。[[アキレウス]]の葬礼競技では[[徒競走]]、弓競技を小アイアースと争い、徒競走では負けたが、弓競技では勝利した。一方、大アイアースと[[オデュッセウス]]はアキレウスの防具をめぐって争ったが、大アイアースは敗北し、怒ってギリシア軍の武将たちを殺そうとした。しかし大アイアースは気が狂って家畜の群れを武将たちと思って殺戮し、正気に戻ったときに自殺した。大アイアースの死を知ったテウクロスは悲しみのあまり自分もあとを追って自殺しようとしたが、周囲に止められた<ref>スミュルナのクイントゥス、4巻、5巻。</ref>。


===帰還===
=== 帰還 ===
戦後、テウクロスは大アイアースの遺児[[エウリュサケース]]とともに無事にサラミース島に帰国したが、大アイアースの死を止められなかったことを父テラモーンに責められ、サラミース島から追放された<ref>クレタのディクテュス、6巻2。</ref>。このときテウクロスは船で海上から陸のテラモーンに向かって弁明したとされ、アテーナイではこの故事にちなんで留守の間に訴えられた者はペイライエウスの浜辺にあるプレアッティス法廷で船に乗って陸の聴衆に向かって弁明をした<ref>パウサニアス、1巻28・11。</ref>。追放されたテウクロスは[[キュプロス]]に行って、最初に上陸した地にサラミース市を創建し<ref>ストラボン、14巻6・3。他、クレタのディクテュス、6巻4。</ref>、テウクロスはキュプロス王の娘と結婚して支配したとされる<ref>高津『辞典』p.158b。</ref>。また一説によればテウクロスは最初[[シドン|シドーン]]に行き、[[ベーロス]]王([[ディードー]]の父)の助けを借りてキュプロスの王となったともいわれる<ref>ウェルギリウス『アエネーイス』1巻619~622。</ref>。これ以降、テウクロスの子孫はキュプロスを支配したといわれ、後世の[[エウアゴラース]]もテウクロスの子孫とされる<ref>パウサニアス、1巻3・2、2巻29・4。</ref>。また[[アントーニーヌス・リーベラーリス]]にはテウクロスの子孫であるキュプロス王ニーコクレオーンとその娘[[アルシノエー]]が登場している<ref>アントーニーヌス・リーベラーリス、39。</ref>。
戦後、テウクロスは大アイアースの遺児[[エウリュサケース]]とともに無事にサラミース島に帰国したが、大アイアースの死を止められなかったことを父テラモーンに責められ、サラミース島から追放された<ref>クレタのディクテュス、6巻2。</ref>。このときテウクロスは船で海上から陸のテラモーンに向かって弁明したとされ、アテーナイではこの故事にちなんで留守の間に訴えられた者はペイライエウスの浜辺にあるプレアッティス法廷で船に乗って陸の聴衆に向かって弁明をした<ref>パウサニアス、1巻28・11。</ref>。追放されたテウクロスは[[キュプロス]]に行って、最初に上陸した地に[[サラミス (キプロス島)|サラミース]]市を創建し<ref>ストラボン、14巻6・3。</ref><ref>クレタのディクテュス、6巻4。</ref>、キュプロス王の娘と結婚して支配したとされる<ref>高津春繁ギリシア・ローマ神話辞典』p.158b。</ref>。また一説によれば最初[[シドン|シドーン]]に行き、[[ベーロス]]王([[ディードー]]の父)の助けを借りてキュプロスの王となったともいわれる<ref>ウェルギリウス『アエネーイス』1巻619行-622行。</ref>。これ以降、テウクロスの子孫はキュプロスを支配したといわれ、後世の[[エウアゴラス|エウアゴラース]]もテウクロスの子孫と称した<ref>パウサニアス、1巻3・2。</ref><ref>パウサニアース、2巻29・4。</ref>。また[[アントーニーヌス・リーベラーリス]]にはテウクロスの子孫であるキュプロス王ニーコクレオーンとその娘[[アルシノエー]]が登場している<ref>アントーニーヌス・リーベラーリス、39。</ref>。


===テウクロスと悲劇作品===
=== テウクロスと悲劇作品 ===
[[三大悲劇詩人]]の1人[[ソポクレース]]はテウクロスと関係のある[[悲劇]]作品『[[アイアース (悲劇)|アイアース]]』、『テウクロス』、『エウリュサケース』を作ったが、現存するのは『アイアース』のみである。この『アイアース』は大アイアースの自殺が主題となっている。この劇におけるテウクロスは大アイアースの死の運命を[[予言者]][[カルカース]]から聞かされるが、その死を止めることができず、嘆き悲しみ、またテラモーンに厳しく非難されることを考えて、いっそう悲しみを深くする(そこで現存しない作品『テウクロス』はテラモーンへの弁明が主題ではないかと言われる<ref>『ギリシア悲劇全集11 ソポクレース断片』、p.262。</ref>)。しかし[[メネラーオス]]や[[アガメムノーン]]が大アイアースの死後も非難したとき、テウクロスは彼らに手厳しい反論で応じた。そこに大アイアースの敵であったオデュッセウスがやって来て2人の間に入り、アガメムノーンを説得して大アイアースの埋葬の許しを得ると、テウクロスはオデュッセウスの人がらに感銘を受け、友情を結んだ<ref>ソポクレース『アイアース』。</ref>。
[[三大悲劇詩人]]の1人[[ソポクレース]]はテウクロスと関係のある[[悲劇]]作品『[[アイアース (ソポクレス)|アイアース]]』、『テウクロス』、『エウリュサケース』を作ったが、現存するのは『アイアース』のみである。この『アイアース』は大アイアースの自殺が主題となっている。この劇におけるテウクロスは大アイアースの死の運命を[[予言者]][[カルカース]]から聞かされるが、その死を止めることができず、嘆き悲しみ、またテラモーンに厳しく非難されることを考えて、いっそう悲しみを深くする(そこで現存しない作品『テウクロス』はテラモーンへの弁明が主題ではないかと言われている<ref>『ギリシア悲劇全集11 ソポクレース断片』、p.262。</ref>)。しかし[[メネラーオス]]や[[アガメムノーン]]が大アイアースの死後も非難したとき、テウクロスは彼らに手厳しい反論で応じた。そこに大アイアースの競技相手だったオデュッセウスがやって来て2人の間に入り、アガメムノーンを説得して大アイアースの埋葬の許しを得るテウクロスはオデュッセウスの人がらに感銘を受け、友情を結<ref>ソポクレース『アイアース』。</ref>。


== 脚注 ==
=== 備考 ===
[[小惑星]]{{ill|テウクロス (小惑星)|en|2797 Teucer|label=テウクロス}}はこちらのテウクロスにちなんで命名された<ref>{{cite web|url=https://minorplanetcenter.net/db_search/show_object?object_id=2797|title=(2797) Teucer = 1940 YG = 1975 VA1 = 1975 XQ2 = 1978 EQ = 1981 LK|publisher=MPC|accessdate=2021-10-01}}</ref>。
<div class="references-small"><references /></div>


== 参考文献 ==
== 系図 ==
{{トロイアの系図}}
*[[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年)
*[[ウェルギリウス]]『[[アエネーイス]]』[[岡道男]]・高橋宏幸訳、[[京都大学学術出版会]](2001年)
*『ギリシア悲劇II ―[[ソポクレス]]』、[[ちくま文庫]](1986年)
*『ギリシア悲劇全集11 ―ソポクレース断片』、[[岩波書店]](1991年)
*[[スミュルナのコイントス|クイントゥス]]『ギリシア戦記』松田治訳、[[講談社学術文庫]](2000年)
*[[ストラボン]]『ギリシア・ローマ世界地誌』飯尾都人訳、龍渓書舎(1994年)
*『ディクテュスとダーレスのトロイア戦争物語 トロイア叢書1』[[岡三郎]]訳、[[国文社]](2001年)
*[[パウサニアス]]『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
*[[ホメロス]]『[[イリアス]](上・下)』[[松平千秋]]訳、岩波文庫(1992年)
*高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)


== 脚注 ==
===注釈===
{{reflist|group="注釈"}}
===脚注===
{{reflist|2|}}

== 参考文献 ==
{{commonscat|Teucer}}
* [[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年)
* [[ウェルギリウス]]『[[アエネーイス]]』[[岡道男]]・[[高橋宏幸 (古典学者)|高橋宏幸]]訳、[[京都大学学術出版会]](2001年)
* [[ギリシア悲劇]]II [[ソポクレス]]』「[[アイアース (ソポクレス)|アイアス]]」[[風間喜代三]]訳、[[ちくま文庫]](1986年)
* 『ギリシア悲劇全集11 ソポクレース断片』「テウクロス」[[木曽明子]]訳、[[岩波書店]](1991年)
* [[スミュルナのコイントス|クイントゥス]]『ギリシア戦記』[[松田治]]訳、[[講談社学術文庫]](2000年)
* [[ストラボン]]『[[地理誌|ギリシア・ローマ世界地誌]]』飯尾都人訳、龍渓書舎(1994年)
* 『ディクテュスとダーレスのトロイア戦争物語 トロイア叢書1』[[岡三郎]]訳、[[国文社]](2001年)
* [[パウサニアス (地理学者)|パウサニアス]]『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
* [[ヒュギーヌス]]『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、[[講談社学術文庫]](2005年)
* [[ホメロス]]『[[イリアス]](上・下)』[[松平千秋]]訳、岩波文庫(1992年)
* 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)

{{イーリアスの登場人物}}
{{DEFAULTSORT:てうくろす}}
{{DEFAULTSORT:てうくろす}}
[[Category:ギリシア神話の人物]]
[[Category:ギリシア神話の人物]]
[[Category:トロイア王]]
[[Category:イーリアスの登場人物]]
[[Category:イーリアスの登場人物]]
[[Category:サラミス島]]

[[Category:神話・伝説の弓術家]]
[[ca:Teucre]]

2024年6月1日 (土) 17:33時点における最新版

テラモーンの子のテウクロス。ウィリアム・ヘイモ・ソーニクロフト英語版の彫刻。ロサンゼルス・カウンティ美術館所蔵。

テウクロス古希: Τεῦκρος, Teukros, ラテン語: Teucer)は、ギリシア神話の人物である。ラテン語からテウケルテウセルとも表記される。主に、

が知られている。以下に説明する。

スカマンドロスの子

[編集]

このテウクロスは、トローアス地方の河神スカマンドロスニュムペーイーダイアーの子で[1]カリロエーと兄弟[2]。娘バテイアの父。トローアス地方の最初の王で、トロイア人はテウクロスにちなんでテウクロイともいわれる。娘のバテイアはサモトラケー島から渡ってきたダルダノスの妻となった[1]

ウェルギリウスによれば、テウクロスはクレーテー島の出身で、トローアス地方にやって来て最初の王となったといわれ、またトローアス地方のイーダー山の名はクレーテー島のイーダー山に由来するという[3]地理学者ストラボーンによれば、クレーテー島からトローアス地方にやって来たテウクロイたちは、神託で大地の子らに襲われた場所に住めと告げられた。すると彼らは夜にハマクシトスでネズミの大群に襲われたので、このネズミを大地の子と解釈してその地に住み、また山にクレーテー島の山にちなんでイーダー山と名づけた。しかしストラボーンはアテーナイ人とする説についても紹介しており、それによるとアテーナイ人はテウクロスがアッティカ地方の出身だったと主張し、その根拠にトロイアにはアテーナイの神話的な王と同じ名前のエリクトニオス王がいたことを挙げたと述べている[4]

テラモーンの子

[編集]

このテウクロスは、サラミース島の王テラモーンとトロイアの王ラーオメドーンの娘ヘーシオネーの子で、大アイアース[5][6]トラムベーロスと異母兄弟[7]

かつて父テラモーンはヘーラクレースのトロイア遠征に参加して活躍し、褒美として捕虜となったトロイアの王女ヘーシオネーを贈られた。テウクロスはこの2人の間に生まれた[5]ヘレネーの求婚者の1人で[8]トロイア戦争のさいにはサラミース島の武将の1人として大アイアースに従って参加し、一説にはサラミース島の軍勢12隻を率いたといわれる[6]木馬作戦にも参加した[9]

トロイア戦争

[編集]

テウクロスは弓術の名手だったが、また近接戦闘でも一流の戦士として高く評価されていた[10][注釈 1]。テウクロスは常に大アイアースと行動し、特に2日目の戦闘では大アイアースの大きな楯に隠れ、大アイアースが楯をずらすたびに矢を放ち、再び楯に隠れるという戦法をとって大きな戦果をあげた。このときテウクロスはさらにヘクトールに矢を放ったが外れ、プリアモスの子ゴルギュティオーンを射倒し、続けて放った矢はアポローンが逸らせたためにヘクトールの御者アルケプトレモスを射倒した。しかしこのためにヘクトールに攻撃され、石で撃たれて弓の弦を断たれた[11]リュキア勢がギリシア軍の防壁を攻撃したさいは、アテーナイの武将メネステウスの求めに応じて戦い、グラウコスの腕を射抜いて退却させた。さらに大アイアースとともにゼウスの加護を受けているサルペードーンと戦った[12]。防壁を破られて大混戦になったときは槍でイムブリオスを、矢でクレイトスを倒し、さらにヘクトールを狙おうとしたが、ゼウスはテウクロスが新しく張ったばかりの弓弦を断ってヘクトールを守った[12]

パトロクロスの葬礼競技ではメーリオネースと弓競技を争って負けた[13]アキレウスの葬礼競技では徒競走、弓競技を小アイアースと争い、徒競走では負けたが、弓競技では勝利した。一方、大アイアースとオデュッセウスはアキレウスの防具をめぐって争ったが、大アイアースは敗北し、怒ってギリシア軍の武将たちを殺そうとした。しかし大アイアースは気が狂って家畜の群れを武将たちと思って殺戮し、正気に戻ったときに自殺した。大アイアースの死を知ったテウクロスは悲しみのあまり自分もあとを追って自殺しようとしたが、周囲に止められた[14]

帰還

[編集]

戦後、テウクロスは大アイアースの遺児エウリュサケースとともに無事にサラミース島に帰国したが、大アイアースの死を止められなかったことを父テラモーンに責められ、サラミース島から追放された[15]。このときテウクロスは船で海上から陸のテラモーンに向かって弁明したとされ、アテーナイではこの故事にちなんで留守の間に訴えられた者はペイライエウスの浜辺にあるプレアッティス法廷で船に乗って陸の聴衆に向かって弁明をした[16]。追放されたテウクロスはキュプロス島に行って、最初に上陸した土地にサラミース市を創建し[17][18]、キュプロス王の娘と結婚して支配したとされる[19]。また一説によれば最初にシドーンに行き、ベーロス王(ディードーの父)の助けを借りてキュプロス島の王となったともいわれる[20]。これ以降、テウクロスの子孫はキュプロス島を支配したといわれ、後世のエウアゴラースもテウクロスの子孫と称した[21][22]。またアントーニーヌス・リーベラーリスにはテウクロスの子孫であるキュプロス王ニーコクレオーンとその娘アルシノエーが登場している[23]

テウクロスと悲劇作品

[編集]

三大悲劇詩人の1人ソポクレースはテウクロスと関係のある悲劇作品『アイアース』、『テウクロス』、『エウリュサケース』を作ったが、現存するのは『アイアース』のみである。この『アイアース』は大アイアースの自殺が主題となっている。この劇におけるテウクロスは大アイアースの死の運命を予言者カルカースから聞かされるが、その死を止めることができず、嘆き悲しみ、またテラモーンに厳しく非難されることを考えて、いっそう悲しみを深くする(そこで現存しない作品『テウクロス』はテラモーンへの弁明が主題ではないかと言われている[24])。しかしメネラーオスアガメムノーンが大アイアースの死後も非難したとき、テウクロスは彼らに手厳しい反論で応じた。そこに大アイアースの競技相手だったオデュッセウスがやって来て2人の間に入り、アガメムノーンを説得して大アイアースの埋葬の許しを得る。テウクロスはオデュッセウスの人がらに感銘を受け、友情を結ぶ[25]

備考

[編集]

小惑星テウクロス英語版はこちらのテウクロスにちなんで命名された[26]

系図

[編集]
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アトラース
 
プレーイオネー
 
 
スカマンドロス
 
イーダイアー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ゼウス
 
エーレクトラー
 
 
 
テウクロス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イーアシオーン
 
デーメーテール
 
ダルダノス
 
バテイア
 
 
 
 
 
 
 
 
 
シモエイス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
プルートス
 
 
 
イーロス
 
エリクトニオス
 
アステュオケー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
トロース
 
 
 
 
 
 
 
カリロエー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ガニュメーデース
 
 
 
 
 
 
イーロス
 
 
 
 
 
 
 
アッサラコス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ヒエロムネーメー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
カリュベー
 
 
 
 
 
 
ラーオメドーン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ストリューモー
 
 
 
テミステー
 
カピュス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ブーコリオーン
 
 
 
 
 
ヒケターオーン
 
ラムポス
 
クリュティオス
 
ヘーシオネー
 
アステュオケー
 
 
 
 
 
 
 
アンキーセース
 
アプロディーテー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アイセーポス
 
ペーダソス
 
 
 
メラニッポス
 
ドロプス
 
カレートール
 
テウクロス
 
エウリュピュロス
 
ティートーノス
 
エーオース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アリスベー
 
 
プリアモス
 
 
ヘカベー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
メムノーン
 
エーマティオーン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アイサコス
 
ヘクトール
 
 
ヘレノス
 
トローイロス
 
 
 
 
パリス
 
ポリュドーロス
 
カッサンドラー
 
 
クレウーサ
 
アイネイアース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アステュアナクス
 
 
アンドロマケー
 
 
 
デーイポボス
 
ヘレネー
 
メネラーオス
 
 
 
ポリュクセネー
 
アスカニオス
 
 
 
 
 
 


脚注

[編集]

注釈

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ a b アポロドーロス、3巻12・1。
  2. ^ アポロドーロス、3巻12・2
  3. ^ ウェルギリウス『アエネーイス』3巻104行-110行。
  4. ^ ストラボーン、13巻1・48。
  5. ^ a b アポロドーロス、3巻12・7。
  6. ^ a b ヒュギーヌス、97話。
  7. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p.174a。
  8. ^ アポロドーロス、3巻10・8。
  9. ^ スミュルナのクイントゥス、12巻ほか。
  10. ^ 『イーリアス』13巻。
  11. ^ 『イーリアス』8巻。
  12. ^ a b 『イーリアス』12巻。
  13. ^ 『イーリアス』23巻。
  14. ^ スミュルナのクイントゥス、4巻、5巻。
  15. ^ クレタのディクテュス、6巻2。
  16. ^ パウサニアース、1巻28・11。
  17. ^ ストラボーン、14巻6・3。
  18. ^ クレタのディクテュス、6巻4。
  19. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p.158b。
  20. ^ ウェルギリウス『アエネーイス』1巻619行-622行。
  21. ^ パウサニアース、1巻3・2。
  22. ^ パウサニアース、2巻29・4。
  23. ^ アントーニーヌス・リーベラーリス、39話。
  24. ^ 『ギリシア悲劇全集11 ソポクレース断片』、p.262。
  25. ^ ソポクレース『アイアース』。
  26. ^ (2797) Teucer = 1940 YG = 1975 VA1 = 1975 XQ2 = 1978 EQ = 1981 LK”. MPC. 2021年10月1日閲覧。

参考文献

[編集]