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クアルコム、Snapdragon X採用Copilot+ PCの処理能力や駆動時間の長さをアピール。「AI PCの出荷台数は年平均120%成長」
2024年7月2日 15:00
クアルコムジャパンは7月1日、日本におけるAI PC戦略について説明した。その中で、調査会社のMM総研による、国内法人向けPC市場におけるAI PCの需要予測も発表されている。
クアルコムジャパンは、Snapdragon X EliteおよびSnapdragon X Plusを、マイクロソフトが提唱する「Copilot+PC」向けに提供している。日本マイクロソフトのSurface Pro 11やSurface Laptop 7に同チップを搭載したAI PCがすでに発売されているほか、デル・テクノロジーズ、レノボジャパン、日本HPがSnapdragonを搭載したAI PCを発表している。
クアルコムは得意のスマホだけでなく、最新のAI PC環境にも対応
クアルコムジャパンの中山泰方副社長は、「クアルコムでは、当社が得意とするスマホだけでなく、自動車やゲーム、XRの領域にもテクノロジーを提供しており、PC向けにも10年前から参入している」と、自社のPC向け事業に関して紹介した。
同社製品を採用したPCの特徴として、バッテリーの駆動時間が2日以上という長さを実現すること、Wi-Fi接続に縛られないLTEや5G接続ができることを挙げ、x86をベースとしたこれまでのラップトップPCと、クアルコムが提供するラップトップPCでは経験が大きく異なると述べた。
また、Snapdragon Xシリーズは「これまでにない画期的なプラットフォーム」になるとした。「最新のAI PC環境を想定して設計したものであり、NPUを内蔵し、最も強力なインテリジェントを持ったPCを実現できる。他社の2倍のパフォーマンスを達成しており、これを通じて、PCに新たな使い方を提供し、これまでにはなかった深い作業を実現できるようになる。PCの世界を大きく変えることになる」と、中山副社長は自信をみせる。
同社によると、Snapdragon X Eliteは、Intel Core Ultra 7に比べて、シングルスレッドでは最大54%も性能が高く、消費電力は65%低いという。また、マルチスレッドのパフォーマンスでは最大で37%高速で、消費電力は54%低いという。
「Office 365アプリケーションの利用においては、バッテリー駆動時間が40%も長い。外出先でTeamsを利用していても、バッテリーの消費を気にすることなく利用ができる」と述べた。
また、ARMベースのアップルのM3チップと比較しても、マルチスレッドでは高い性能差があることを強調した。
同社によれば、Snapdragon X Eliteは、12コアのOryon CPUと、45TOPSの性能を持つNPUを搭載し、GPUは最大で4.6TFLOPSを実現するという。また、Snapdragon X Plusは、10コアのOryon CPUを搭載し、GPUは最大で3.8TFLOPSを達成しているという。「これまでに最も高速で、最もインテリジェンスなWindows PCを実現できた。2つのSnapdragon Xシリーズにより、性能だけでなく、価格面での要望にも対応できるラインアップが可能になる」と位置づけた。
Snapdragon Xシリーズは、Copilot+PCの基準に合致した唯一のチップ
中山副社長はさらに、「Snapdragon Xシリーズ は、現時点では、Copilot+PCの基準に合致した唯一のチップである」と、その優位性をアピールした。クラス最高の45TOPSを実現しており、これは他社と比べて4.5倍高速なNPUとなっている。
また、最新となる複数のプロテクションテクノロジーの採用することによって、エンタープライズグレードのセキュリティを実現し、セキュアなワークロード管理も可能になる。「セキュリティに関する課題が発生した際にもプロアクティブに対応できる機能を搭載している。インテリジェントなセキュリティ機能を持っているPCが実現できる」などと、同氏は語った。
ある調査では、仕事にPCを利用しているユーザーの60%以上が、なんらかの形で生成AIツールをすでに使用しているか、今後6カ月以内に使用すると回答していること、94%のビジネスリーダーが生成AIを使用することで、社員の生産性が向上したと回答しているという。
これらのデータに触れながら、「画像やドキュメントの生成、音声テキストの変換など、生成AIは新たな活用方法を提案してくれる」と述べる中山副社長は、「ユーザー数も驚異的な速度で増加することになる。より安全で、効率的なAI活用を支援することが求められている。AI PCは、そこにも貢献ができる。新しい体験を提供が可能である」とした。
アプリケーションの互換性改善を支援、国内メーカーの採用に向けても提案中
Snapdragon Xシリーズを搭載したAI PCで懸念されているのが、アプリケーションの互換性だ。その点について、中山副社長は、「新たなパートナーとともに、日々、動作を確認し、対応するといった活動を続けている」とした。
アプリケーション開発支援としては、次世代AI PC向けアプリ開発環境を用意し、日本での提供を開始していることを紹介。さらに、PC以外を含めたSnapdragon搭載のパートナー製品を、テックファン向けに紹介するSnapdragon Insidersを、2023年3月から日本でもスタートし、国内だけですでに3万人の会員がいるという。グローバルでは約1600万人の会員が参加している。
また、日本の販売店や流通商社との連携により、日本国内における販売網の構築に取り組んでいることにも言及。ビックカメラやヨドバシカメラ、ヤマダ電機、ケーズデンキ、ダイワボウ情報システム、SB C&S、TD SYNNEXなどを通じて販売展開も進めるという。
日本のPCメーカーのSnapdragon Xシリーズの採用については、「日本のPCメーカーには、日本固有の要求に対応する必要がある。この点では、日本だけでよく使われているアプリケーションに対して、クアルコムとしてどう対応していくのかも重要な要素になる。AIを活用する上で、日本語への対応も重要なポイントだ。日本のPCメーカーにも引き続き提案し、なんらかの形でエンドユーザーに使ってもらえる日本のメーカーのAI PCを実現したい」と述べた。
MM総研の調査「AI PCの出荷台数の年平均成長率は120%」
説明会では、調査会社のMM総研が、国内法人向けPC市場におけるAI PCの需要予測についての発表も行われた。
これによると、2025年度にはAI PCは、国内法人向けPC市場の18%を占めると予測。その後、構成比が拡大し、2028年度には65%と、全体の約3分の2を占め、2030年度には72%に達すると予測した。2023年度から2028年度までのAI PCの出荷台数の年平均成長率は120%を見込んでおり、倍増ペースで伸びることになる。
2025年度には、Windows 10のサポート終了に伴う更新特需が予想され、法人向けPC市場が拡大するが、AI PCの比率はそれほど高くはない。だが、その後は、AIがPCのインターフェースとなることで、買い替えサイクルが変化し、2026年度以降はOSの 更新サイクルには影響されずに、PC市場が安定的に拡大していくと予測している。いわば、AI PCが、国内PC市場の拡大を牽引していくと予測したことになる。
また、同社の調査によると、PC投資を増やす企業ほど、生成AIを積極的に活用しており、PC投資を増やすとした企業のうち、60%が生成AIを積極的に活用。PC投資を「あまり増やさない」、あるいは「増やさない」とした企業では、生成AIを積極的に利用すると回答した企業は10%以下に留まっている。また、IT人材やAI人材を採用できている企業の方が、生成AIの活用が活発であることもわかったという。
MM総研の中村成希氏(取締役研究部長)は、「AI PCの広がりは、まずは大企業のハイブリッドワーカーや、ホワイトカラーからスタートし、徐々に中小企業に広がっていくことになるだろう。そのためには、Copilot+PCのように、すぐに利用できるデバイスが必要である。まずは、情報整理や検索する時間の短縮といった用途、編訳や要約、図解化などの用途が想定される」と述べた。