柔道世界大会で快進撃を続けるイラン女子代表のレイラは、突然祖国の協会から棄権するよう迫られる。理由は、決勝で敵国イスラエルの選手と対戦する可能性があるから。馬鹿げた理由でスポーツに政治が介入する愚かしさ。生命の危険さえも顧みず戦い続ける彼女の姿は個人の尊厳の象徴だ。
これも事実が元になってるのかよ..と気が滅入ってしまうような国家権力の横暴を、亡命してまで世界に伝えたかった覚悟がひしひしと伝わる。そして国際競技としてのJUDOへのリスペクトたっぷりの、力強さと躍動感が伝わってくるカメラワークに魅せられた。
協会会長とコーチとの電話の応酬から、イラン国内でイスラエルは「占領政権」と呼ばれていることを知る。パレスチナ人が暮らしていた土地を奪って成立した国家は存在すら認められない、その主張は理解出来るのだけど、存在しない国の選手とは試合が出来ないという論理は子供じみてて唖然とする。
目の前の相手だけではなく、祖国の圧力とも戦わなければならないレイラの孤独をモノクロの映像、会場になったジョージアの無機質的な建築、息つかせない細かいカット割りが増幅する。終わった瞬間に大きな息を吐くような緊迫感があった。