漆生産量の異なるウルシ(Toxicodendron vernicifluum)の3クローンの樹皮の組織構造を解剖学的方法で観察したところ,基本的な構造に違いは認められず,すべての供試木の内樹皮に,正常樹脂道とともに傷害樹脂道が形成された。低温走査電子顕微鏡(cryo-SEM)による観察の結果,内樹皮のすべての樹脂道が樹脂で満たされていた。一方,漆生産量が多いクローンの解剖学的特徴として,内樹皮が厚く,内樹皮における単位接線幅当たりの樹脂道数が多く,樹脂道合計断面積が大きいことが明らかになった。また,漆生産量の多いクローンの形成層付近の内樹皮には,漆生産量が少ないクローンに比べて,多くの傷害樹脂道が形成された。したがって,樹脂道の量や断面積などの樹皮の組織構造や漆掻きによる傷害への師部細胞の応答性の違いは,漆生産量が多いクローンを選抜する上での良い指標になるといえる。