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木原直哉さん(以下、木原):ポーカーでの稼ぎ方は大きく分けて2種類。一つは海外のカジノでの、お金をかけたキャッシュゲーム。勝ったり負けたりですが、長期的に見ればスキルがある方が勝つため、主な収入源となります。もう一つは大会での賞金です。参加費を支払い、上位10~15%くらいに入ると賞金が得られる。優勝すると参加費の総額の2割程度がもらえます。この他に企業からのスポンサー料などもありますが、メインはキャッシュゲームと大会での賞金ですね。
木原:遠征費や滞在費はたかが知れています。負担が大きいのは参加費ですね。トーナメントは、一つの大会に出るだけで100万円ほどの参加費がかかる。トーナメントに出続けても、大きいタイトルが獲れないとすぐに1000万円くらいマイナスになります。ですから、最も稼ぎやすいのは海外でのキャッシュゲームです。
木原:2019年はトータルで3カ月くらいを考えています。昨年は下の子が生まれたこともあって、海外にいた期間はトータル1カ月くらいでした。主に、ラスベガスとロサンゼルスです。
木原:ポーカーを覚えて2年目の2008年には、事実上プロとして活動していました。当時は大学生でしたが、学費も生活費もポーカーの収入で払っていましたね。塾講師のアルバイトもしていましたが、その仕事だけだと時間的にもお金的にも大学との両立が難しかった。ポーカーをやるようになって余裕ができ、卒業できたのだと思います。
木原:大学卒業までの最後の2年間はポーカーで学費まで出せるようになっていて、仕事として成り立っていましたから。それがなければ就職活動しようと考えたかもしれませんが、卒業後にあえて違う仕事をやろうという考えにはなりませんでしたね。
木原:いえ、当時はむしろ麻雀、バックギャモンのスキルの方が高かったです。WSOPでタイトルを獲った2012年の時点ですらそうだったと思います。バックギャモンで収入を得ている時期もありましたが、なぜポーカーのプロになったかというと、そちらの方がしっかり稼ぐことができ、仕事になるからですね。ポーカーはバックギャモンよりもフィールドが大きく、動くお金も2桁ほど高いですから。
木原:確信を持ったのは、2008年にカンヌのポーカールームでキャッシュゲームを行った時です。ポーカーは短期的に見れば負けることはあっても、長期的には勝ち越すことが可能だと分かりました。
木原:確かに、短期的な結果は運に左右されます。しかし、運が良い・悪いは1年トータルで見ればほぼ平均化される。ですから、長期的には運は関係なくて、結局は実力が勝っているかどうか。実力があれば勝つし、なかったら負ける、それだけです。
木原:はい。確かに、「運」は人間の努力が及ばないものです。しかし、だからといって自分の努力が及ぶ部分である「実力」を磨くことを怠ったり、投げ出すという感覚は、私には全く分かりません。例えば入試だって、たまたま自分が知っている問題が出るかもしれないし、出ないかもしれない。多少なりとも運は絡みますが、だからといって勉強しないのは違いますよね。
木原:とにかく数をこなすことです。ポーカーでいえば、私は子どもが生まれる前の2014年から2016年ごろは、少なく見積もっても年間3000時間ほどプレーしていました。
木原:1日10時間を週6回続ければ3000時間に到達します。ですから、自分ではそんなに無茶なことをやっているつもりはないですね。
木原:ただ、「上達する」という表現は難しいですよね。うまくなるといっても、どのレベルを目指しているのか。例えば将棋でいうと、仲間内で負けないレベルなのか、奨励会に入るレベルなのか、それともプロ棋士になったり、さらにはプロのタイトルホルダーを目指すのかによって全然違う。もし、プロを目指すくらいうまくなりたいなら、ただ努力するだけでは駄目で、そもそも「適性」がないと難しいですよね。私自身、小学生から将棋をやっていて、2万時間くらいは時間を使ってきました。それでも、そこそこのレベルまでしかうまくなりませんでしたから。
木原:そう思います。プロ野球選手を夢見て子どもの頃から完璧な努力をしたとしても、なれない人の方が圧倒的に多いですよね。
適性を抜きにして努力だけでなんとかなるのは、上位1%程度の世界までだと思います。学力でいうと、東大に合格するくらいの割合ですね。勉強に対する適性がなくても、努力だけで達成可能かどうかのギリギリの難易度だと思います。収入でいえば、日本の上位1%というと年収1500万円を超えるくらいですかね。そこまでなら努力だけでも到達可能なんじゃないでしょうか。これが年収1億となると、努力だけではどうにもならないと思います。
木原:小学生からそろばんをやっていて、小学生・中学生の時に全道大会に出場したのですが、そこでレベルの違いを見せつけられたことが大きいですね。自分が今後どれほど努力しても、この人たちには近づくことさえ許されないと思いました。100メートル走で、人間がチーターに挑むくらい次元が違う。そういう世界があるのだと、子どもながらに理解したんです。同時に、自分が向いていることを見つけて、それに対して努力をすることが大事なんだなと考えるようになりました。
まあでも、それはそれなりに頑張ったからこそ見える世界なんですけどね。そろばんを全くやったことのない人が全国大会を見ても、同じ感想を持つことは無理だと思います。
木原:そうですね。自分に向いているかどうかは、100時間もやれば分かると思います。1日1時間を3カ月近くやれば100時間に到達しますから、それほど難しいことじゃない。だから、まずは何でもやってみればいいと思いますよ。そうやって、自分の適性を見つけていけばいいのではないでしょうか。
木原:そうですね。正直、「ポーカー=ギャンブル」、「ポーカープレイヤー=ギャンブラー」といったイメージには違和感を覚えます。ギャンブルの材料として使われているだけで、ポーカー自体はあくまで楽しい頭脳ゲームです。お金をかけなくても、互いに真剣にやればこんなに楽しい遊びはない。イメージを良くするというよりは、純粋にポーカーの楽しさを知ってほしいと思っています。
また、それとは別にポーカープレイヤーの価値や地位を上げたいとも考えています。将棋だって昔はあまりイメージが良くありませんでしたが、今はプロ棋士といえばかなりステータスの高い職業ですからね。
木原:憧れどころか、30年ほど前は、将棋のプロ棋士が職業としてあまり認知されていませんでしたからね。大きく認識が変わったのは、羽生善治さんが7冠をとり、女優の方と結婚し、CMに出るようになってからじゃないですか。見るからに知的な羽生さんが注目を集めて、「羽生さんのイメージ=将棋のイメージ」になった。そこまでは難しいとしても、ポーカーに対する正しい認識や、プロポーカープレイヤーの職業としての認知度をもう少し高めていきたいです。
木原:そうですね。ですから、こうしたメディアの取材はできるだけお受けしたいと思っています。ただ、ポーカープレイヤーとしてではなく、ギャンブラーとして紹介されるような企画への露出は避けています。例えば、羽生さんを「ゲームオタク」って紹介するのは変じゃないですか。自分の中では、「ギャンブラー」という言葉にそれくらいの違和感があるんです。これからも、ポーカーは知的なゲームであるというイメージを持たせるように、普及していこうと思っています。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 編集:はてな編集部 撮影:森カズシゲ
取材協力:木原直哉
プロポーカープレイヤー。1981年生まれ。北海道出身。東京大学理学部卒。大学在学中からプロとして活動を始め、卒業後は米国を中心に数々のトーナメントに出場。2012年第42回世界ポーカー選手権大会にて、日本人として初めてトーナメントを制する。その後、世界一のポーカーオンラインサイト「ポーカースターズ」と専属契約。現在はポーカー普及のため、精力的に活動中。著書に『東大卒ポーカー王者が教える勝つための確率思考』(中経出版)、『運と実力の間』(飛鳥新社)、『たった一度の人生は好きなことだけやればいい!』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
Twitter:@key_poker
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