スティーヴンとローレンのキーズ夫妻はアメリカ合衆国にあるすべての国立公園およびすべての州を訪れた。
Steven H. Keys
- スティーヴンとローレンのキーズ夫妻は若くして収入の60%を貯蓄および投資に回し、29歳で早期リタイアした。
- 純資産がおよそ110万ドル(約1億6500万円)の夫妻は、国立公園のすべて、ならびに国内のすべての州を訪れた。
- 彼らのお気に入りはデスバレー国立公園で、ホットスプリングスやゲートウェイアーチは気に入らなかった。
スティーヴン(33歳)とローレン(34歳)のキーズ夫妻は29歳で早期リタイアしてから、すべての州と国立公園を訪問しながらも、同時に資産をさらに増やした。
夫妻はどちらも、フルタイムで働いていたころの年収は9万ドル(約1350万円、1ドル=150円換算:以下同)を下回っていたが、その60%以上を貯蓄に回し、若くして投資を始め、不要な買い物を避けたことで、今では1年の大半を旅行して過ごし、しかもその期間中も資産を増やせるようになった。そのうちの1回、3カ月の旅のときには、パートタイムで働いていただけにもかかわらず、出費を抑え、無料特典を利用しながら、投資で大きな利益を得たことで、2万6000ドル(約390万円)のプラスとなった。
「旅行で貯金を使い果たすことはない。ほとんどの場合で旅行中に貯蓄が増える」と、スティーヴン氏は言う。
アメリカ全土を見てまわった夫妻は、カリフォルニアやアラスカの国立公園が気に入ったが、中西部の国立公園には満足できなかった。
経済的自立の達成
キーズ夫妻は経済的自立・早期退職を達成したFIREコミュニティ、つまり仕事からの収入がなくても経済的に問題のない貯蓄と投資をしている人々の仲間入りを果たした。
両者ともタンパ郊外の高校に通い、フロリダ大学に進学した。ローレン氏は奨学金と補助金に加え、いくつかのアルバイトを通じて学費を支払った。スティーヴン氏は両親からの支援に加えて、授業料をカバーする奨学金を得ていた。つまり、両者とも借金せずに卒業できた。
卒業後の夏、ふたりはフロリダを出てアラスカまで、アメリカ全土を横断するドライブ旅行をした。途中、ニューヨークにも立ち寄った。旅の45日の大半を車中泊で過ごし、食費も切り詰めた。
ふたりはカリフォルニアに寄り道をしてからフロリダに戻った。そこでスティーヴン氏は全額支給の奨学金を得て理系の大学院に進み、ローレン氏は小さな金融会社に就職した。年収はふたりともおよそ4万ドル(約600万円)だった。ふたりは予算を切り詰め、収入の60%を貯蓄に回した。2年後には両者とも仕事で5桁の数字を稼ぐようになり、貯蓄は10万ドル(約1500万円)を超えていた。
フルタイムの仕事に疲れを感じ始めたふたりは結婚し、6カ月の休暇を取ってハワイに旅行した。だが、そこでも質素な暮らしを続けた。ホテルは使わずに、6カ月だけアパートメントを借り、安い車を買って、最後にはそれを購入額よりも高い金額で売り払った。少しではあるが、パートタイムで仕事もした。ほとんど働いていなかったにもかかわらず、パートタイムの仕事、価格を意識した買い物、そして投資を通じて、旅行から帰ってきたときには純資産が1000ドル(約15万円)以上増えていた。
夫妻は最初の家(ゲインズビルにある7万1000ドル[約1065万円]のコンドミニアム)を現金で買い、数年間転職を繰り返した。その結果、両者ともに、年収がおよそ9万ドルに増えていた。2019年の時点で資産が60万ドル(約9000万円)ほどになっていた夫妻は、アメリカ国内にあるすべての国立公園をめぐる7カ月の旅に出ることにした。投資と道中で行なうパートタイムの仕事のおかげで、この旅でも資産が減ることはなかった。
「旅行のときに節約する一番の方法は、最大の支出項目、つまり宿泊費と交通費を抑えることだ」とスティーヴン氏は言う。「どこであろうと、飛行機ではなく車で行けば、特に複数人で旅行する場合は、飛行機代が浮いて、かなりの額が節約できるだろう。加えて、車での旅行なら、車中泊、テント、キャンプ場など、とにかくどこかで寝ることができる」
ローレン氏は2020年にリタイアし、スティーヴン氏は6カ月ほどフルタイムで働いてから、パートタイムの仕事に切り替えた。フロリダ東海岸の海辺のコンドミニアムに引っ越し、低コストのインデックスファンド、不動産、退職金口座を用いて投資を増やしている。スティーヴン氏はフリーランスの家庭教師として働き、ローレン氏はパートタイムでソーシャルメディアの仕事をしている。
おかげで、過去4年間、何度も1カ月から3カ月ほどの旅行を楽しむことができた。去年は3カ月の休暇を取って、オーストラリアへ行った。戻ってきたときには資産が2万6000ドル増えていた。旅行中に現地で使った額は1万8000ドル(約270万円)、アメリカでの支出は3000ドル(約45万円)だった一方で、同じ期間にフリーランスの仕事からの収入がおよそ1万9000ドル(約285万円)、投資のリターンが2万8000ドル(約420万円)あったからだ。夫妻はオーストラリアでFacebookマーケットプレイスを通じて安価な車を買い、それをのちに購入価格よりも高く売った。ホテルではロイヤリティ・プログラムを通じて無料で宿泊し、食事の多くは自分たちで調理した。加えて、無料の博物館やコンサートを優先した。
今の純資産は110万ドル(約1億6500万円)で、カナダ東部へのドライブ旅行の準備を進めている。ふたりは支出を管理していないし、予算も立てていないが、貯金を使い果たさずに満足感を得るために、最大2万6000ドルほどを支出していると見積もっている。
気に入った国立公園、気に入らなかった国立公園
キーズ夫妻は、感動度、充実度、静けさなどといった独自の観点から気に入った国立公園や気に入らなかった国立公園をランク付けしている。
「美しい景観が見られる場所に出向いたのに、人が多すぎて写真も撮れないようでは最悪だ」とローレン氏は言う。「何度かヨセミテ国立公園に行ったことがあるのだが、冗談抜きに国立公園内で45分も渋滞に巻き込まれる場所も存在する」
彼らのお気に入りは、ユーリカバレーの広大な砂丘、バッドウォーター盆地の塩平原、アーティスツ・パレットのカラフルな岩などが見られるデスバレー国立公園だ。人が多いのは難点だが、ヨセミテが第2位で、滝や花崗岩壁がすばらしいという。
第3位はハワイ火山国立公園。夫妻はその近くに6カ月滞在し、公園をしらみつぶしに探索した。ハワイからはもうひとつ、マウイ島最高峰のハレアカラ国立公園も第9位にランクインしている。
リストの上位にはそのほか、イエローストーン、アメリカ領サモア、カールズバッド洞窟群、キャニオンランドなどが含まれる。
すべての国立公園を訪れるのに使った総費用のおよそ41%は、アラスカ、ハワイ、ならびにそのほかのアメリカ領への旅行にかかった費用だった。費用がかさんだにもかかわらず、トップ10のうち4つの国立公園はアメリカ本土の外にある。
夫妻の話では、キャンプするのが最も簡単で、そして最も安上がりなのはアラスカで、彼らはすでに3回訪れている。
「基本的にどこにでも車を止められるので、まったくお金がかからない」とスティーヴン氏は言う。「キャンプしようと、車で寝ようと、誰もじろじろ見たりしないのだ」
最も不満だったのは、ふたりが一番最初に訪れたアーカンソー州のホットスプリングス国立公園で、「国立公園」を名乗る資格がないと感じたそうだ。同じことが、セントルイスのゲートウェイアーチにも言える。ミネソタ州のボエジャーズ国立公園にもがっかりした。高価なボートツアー以外、できるアクティビティがほとんどなかったからだ。テキサス州のグアダルーペ山脈は眺めこそすばらしかったが、そこにたどり着くまでが大変だった。カリフォルニア州のラッセン火山国立公園は静かでよかったが、「沸騰する硫黄のひどいにおい」が耐えられなかった。
最高の州と最低の州
キーズ夫妻が気に入った州のベスト4は、カリフォルニア、アラスカ、ハワイ、そしてユタだった。
「自然の美しさそしてユニークさという点で、カリフォルニアは本当に多様性に富んでいる」とスティーヴン氏は言う。「北カリフォルニアと南カリフォルニアはまったく異なる場所で、どちらでもぜんぜん違う体験が得られる」
ハワイといえば、誰もがオアフ島へ行こうとするが、ビッグアイランドことハワイ島は景観の点でも、静けさという意味でも、「とても過小評価されている」とローレン氏は指摘する。
ふたりの本拠地であるフロリダは、リストの上位に入らなかった。同州にある3つの国立公園はスキューバダイビングやシュノーケリングにはもってこいだが、地上はほかの多くの国立公園に比べて退屈だからだ。
ふたりにとってリストの一番下に来る州は、カンザス、ミズーリ、サウスカロライナ、ニュージャージーだ。カンザス州はトウモロコシ畑ばかりで単調で、セントルイスとカンザスシティは混雑していて、ほかの大都市のような魅力が感じられなかった。
ふたりの考えでは、ノースダコタ、サウスダコタ、アイダホ、モンタナの4州は過小評価されている。この4つの州にはすばらしい国立公園があり、宿泊費も手ごろで、都市は郊外のような落ち着いた雰囲気を醸し出しているからだ。ただし、サウスダコタ州のラシュモア山は予想していたよりも小さく、過大評価されていると感じた。