運用自動化というと「コスト削減」「効率化」といったイメージが強いが、攻めの経営を支える武器となるものでもある。後編では外資ベンダー3社の運用自動化ツールを紹介する。
2008年ごろから注目を集め始めた運用自動化。ビジネスの要請に応じてIT基盤を迅速・柔軟に整備・変更する必要性が増している今、その重要性がますます高まっている。特に仮想化、クラウドによりシステムが複雑化している今、システムの規模にもよるが、人手だけで作業の効率性・確実性を担保することにはもはや限界がある。「人員削減」「コストが掛かる」「万一の時が不安」といったネガティブな見方も少なくないが、一部ではオープンソースの自動化ツールを積極的に取り入れる動きもあるなど、自動化導入の機運は着実に高まりつつあるようだ。
こうした中、国内外の統合運用管理ツールベンダーも運用自動化製品の開発・提供に注力している。定常作業を自動化する従来からのジョブスケジューラーに加え、仮想環境におけるサーバーリソースの管理・配備、プライベートクラウド環境におけるサービスポータルの運用を支援するものなど、さまざまなツールを用意している。
前編では国内ベンダー4社のツールを紹介した。後編では外資ベンダー3社のツールを通じて、運用自動化のメリットを見直していきたい。
日本ヒューレット・パッカード(以下、日本HP)は、運用管理を自動化するための製品群、「HP Business Service Automation」を2008年1月から提供している。その核となるのが運用手順書を自動化する「HP Operations Orchestration software」だ。2013年7月には、機能強化を施した最新版、「HP Operations Orchestration software version 10.0」をリリースしている。
HP Operations Orchestration softwareは、「複数のツールを使った、複数のステップが求められる作業」を、運用手順書に沿って自動化するRunbook Automation機能を搭載。サーバー、ネットワーク、ストレージの運用自動化を支援する「HP Server Automation」「HP Network Automation」「HP Storage Essentials」など各種運用自動化ツールと組み合わせて提供している。HP Operations Orchestration softwareが、あらかじめ定義した運用手順に沿って各運用自動化ツールをコントロールすることで、仮想サーバーのプロビジョニングやネットワーク機器、ストレージ環境の構成/変更管理などを自動的に行う仕組みだ。
HP Server Automationは、OS、アプリケーション、パッチの配布や、設定条件に応じたCPUリソースの仮想サーバーへの割り当てなど、サーバー運用作業を自動化する。複数の作業ステップが求められる「仮想サーバーのプロビジョニング」の自動化も行える。特徴は、マルチベンダー製品に対応し、物理/仮想サーバー、OS、アプリケーション、ネットワーク、ストレージの依存関係を含めたインベントリ情報を自動的に収集、記録できること。これにより、システムの構成情報を正確に把握できる他、「あるべき構成」を設定しておくと、ユーザーが勝手にサーバーを配備しようとしても自動的に「あるべき構成」に修復。一定のシステム構成を堅持できる。
HP Network Automationは、複数の作業ステップが求められるネットワーク機器の構成/変更管理を自動化するツール。設定変更やOSのバージョンアップなど、各種作業内容を設定しておけば、管理対象機器に対する作業を自動的に行う。一方、HP Storage Essentialsは、ストレージ環境の可視化機能と、ストレージリソースの自動割り当てを実現。ストレージネットワークの構成を可視化し、接続構成トポロジーを自動的にマッピングする他、ストレージネットワークのリソース使用状況も可視化する。ストレージリソースの割り当て手順を設定しておけば、ルールベースのストレージプロビジョニングを自動化できる。
HP Operations Orchestration softwareは、以上の各種運用自動化ツールを統制する機能を持つ。これにより、複数のツールを使った複雑な運用作業を自動化できる。作業フローの設定も、例えば「空き物理メモリの確認」など、あらかじめ用意された各種運用作業部品を選んで、GUIツール上で線でつないでいくだけで一連の作業フローを定義できる。
運用作業部品は5000種類以上を用意(2012年12月の取材時点)。これらを使うことで、例えばHP Server Automationと HP Network Automationを連携させて、「ユーザー部門からの要請を受け、承認フローを経た上で、ネットワークの設定も含めて仮想サーバーをプロビジョニングする」など、人が判断するステップも含めた一連の作業自動化を自社の状況に合わせて柔軟に定義できる。部品はニーズに応じてカスタマイズ、新規開発することも可能だ。
GUIツールで作業手順を設定する「Studio」画面と、作業の実行状況を確認する「Central」画面の2つにメニューを分けている点も特徴の1つだ。「Studio」画面ではアクセス権限を管理できる他、自動化作業フローの信頼性をテスト、評価できるデバッガ機能や、作業フローのバージョン管理機能も持つ。「Central」画面には、作業実行日時を設定できるスケジュール機能や、自動化によるROIなどを算出するレポート機能を搭載している。
マルチベンダー製品に対応しているため、既存の他社製サーバー監視ツールなどと連携することも可能だ。例えば、「サーバーのリソース使用状況を監視し、一定のしきい値に達したらサーバー監視ツールが自動的にアラートを発信。それを受けて管理者が追加メモリ数などを選択すると、HP Operations Orchestration softwareが定義した手順に沿ってサーバー、ストレージ、ネットワークを自動的に再構成する」といったこともできる。
なお、同社製品の場合、自動化とともに、全社共通のポリシーに基づいてIT資産を活用する「運用管理の全体最適化」に着目している点も特徴だ。具体的には“全体最適の作業フローに基づいた自動化”を実現するために、構成管理データベース「HP Universal CMDB」を用意。
これにより、HP Server Automationなどの各種運用自動化ツールや、サーバー、ネットワーク、ストレージといった各システム構成要素の監視ツールをHP Universal CMDBに連携させて自動的に構成情報を登録。HP Operations Orchestration softwareが、HP Universal CMDBによる“今の構成情報と構成要素同士の関係性”の情報と、自社のポリシーに基づいて各種自動化/監視ツールを自動制御することで、“全体最適に寄与する自動化”を図ることも可能としている。
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自動化のためには、運用管理の標準化と、自動化すべき作業、そうでない作業の切り分けが求められる。この点で、自動化の検討はおのずと現状を見直すことにつながる。また各種自動化ツールの持つ機能自体が、標準化の在り方や運用管理のポイントを示唆してくれることも1つのメリットといえるだろう。自動化というと「まだ先のこと」と捉えがちなものだが、自社のインフラ運用の現状と自動化ツールの機能群を見据えてみると、あらためて効率化に向けた気付きが得られるのではないだろうか。
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