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Effect of area ratio on the galvanic corrosion of AZX611 magnesium alloy / A6N01 aluminum alloy joint

Journal of Japan Institute of Light Metals

「異材接合部の腐食」特集:研究論文 軽金属 第 71 巻 第 2 号(2021),82–88 DOI: 10.2464/jilm.71.82 AZX611 マグネシウム合金/A6N01 アルミニウム合金接合材の ガルバニック腐食に及ぼす面積比の影響 中津川 勲 *・千野 靖正 Journal of The Japan Institute of Light Metals, Vol. 71, No. 2 (2021), 82-88 © 2021 The Japan Institute of Light Metals Effect of area ratio on the galvanic corrosion of AZX611 magnesium alloy / A6N01 aluminum alloy joint Isao NAKATSUGAWA* and Yasumasa CHINO Galvanic corrosion at the joint of AZX611 magnesium (anode) and A6N01 aluminum (cathode) in 1 mass% NaCl solution with different cathode / anode area ratios was evaluated. The galvanic potential was different depending on the area ratio. The anode galvanic current density increased with increasing the area ratio. Anode and cathode weight loss corrosion rates, and the average of anode current densities, were linearly related to the logarithm of the area ratio with different slopes. Scanning vibration electrode technology (SVET) has exhibited the presence of anodic current spots that increased with the area ratio. Surface profile of the galvanic joint was in good agreement with the SVET results. The obtained effect of cathode / anode area ratio was analyzed by the mixed potential theory. Finally, the compatibility of magnesium / aluminum joint was compared with other dissimilar metal joints. (Received July 9, 2020 Accepted October 22, 2020) Keywords: magnesium alloy; Aluminum alloy; galvanic corrosion; area ratio 1. 緒 言 マグネシウム(Mg)合金は化学的に活性な材料であり,腐 食を被りやすい。しかし大気暴露環境下では炭酸塩を含有す る安定な酸化皮膜が形成され,腐食速度は0.01〜0.02 mm/y程 1) 度に留まる 。更なる耐食性を目指した表面技術の開発も進 んでおり,モバイル製品筐体や自動車部品として広く利用さ れている。単独使用では良好な耐食性を示す Mg 合金である が,他材料と比較して 500 mV 以上低い腐食電位を示すため, 接触により Mg 合金がアノード,異種材料がカソードとなる 2), 3) ガルバニック腐食を生じやすいのが難点である 。 ガルバニック腐食を低減させる対策の 1 つとして,適合性 の良い(compatible)相手材の選択が挙げられる。アルミニウ ム(Al)合金は Mg 合金に次ぐ軽量金属であり,腐食電位差 も鉄鋼等に比べて小さいため,相手材として好ましい。但し, 通常ならば Mg 合金との接触により腐食電位が引き下げら れ,防食されるはずのAl合金は,カソード反応に伴う表面pH の上昇の結果,水素発生を伴って溶解する「カソード腐食」 4) 6) を引き起こす 。一方,Mg 合金は,腐食電位が引き上げら れ,アノード溶解のみならず水素発生反応も加速される 「Negative Difference Effect(NDE)」と 呼 ば れ る 現 象 を 生 じ 7) 10) る 。以上の結果,Mg 合金 /Al 合金ガルバニック腐食にお いては,両合金表面上から水素を発生しつつ腐食が進行する 11) 独特な腐食形態を伴う。著者ら は AZX611 マグネシウム合 金 /6005C(A6N01)アルミニウム合金接合材のガルバニック 腐 食 に 及 ぼ す NaCl 濃 度 の 影 響 を 走 査 振 動 電 極(Scanning Vibration Electrode Technique, SVET)を含む電気化学定手法に より調査した。その結果,AZX611 合金は局部腐食,A6N01 合金は全面腐食形態を伴って溶解すること,および AZX611 合金の不働態−活性腐食の指標となる臨界塩化物濃度がガル バニック挙動に大きく影響することを見出した。 ガルバニック腐食においては,相手材との組み合わせに加 3), 12) 14) え,カソード / アノード面積比が重要となる 。面積比 が大きいほどアノードが集中して腐食されるため,ボルト締 結した塗装部等,防食対策が不完全な場合に問題になる。マ グネシウムのガルバニック腐食における面積比の影響を定量 13) 的に調査した例は多くない。Song ら は 5% 塩水噴霧環境下 での AZ91D マグネシウム合金と,亜鉛,Al380 アルミニウム 合金および 4150 鋼とのガルバニック腐食に及ぼす面積比の 影響(Al380 合金においては 3 倍まで)を調査し,カソード面 積の増大による腐食加速が Al380 合金において低いことを報 14) 告している。Banjade ら は 5 mass% NaCl 溶液中にて直径の 異なる中空の鉄鋼棒に 99.95%Mg 棒を挿入したガルバニック 対(面積比 5.5, 14.4, 26.8)の 10 分間のガルバニック電位・電 国立研究開発法人産業技術総合研究所(〒463-8560 愛知県名古屋市守山区下志段味穴ケ洞 2266-98) National Institute of Advanced Industrial Science and Technology(AIST)(2266-98 Anagahora, Shimo-Shidami, Moriyama-ku, Nagoya-shi, Aichi 463-8560) * 責任著者 E-mail: i.nakatsugawa@aist.go.jp 83 J. JILM 71(2021.2) 流および Mg 棒の溶解速度が面積比とともに増大することを 報告している。 本研究では,AZX611合金/A6N01合金接合材の面積比を0.1 〜9 に変更した場合の 1 mass% NaCl 溶液中におけるガルバ ニック腐食挙動を評価した。得られた結果を従来のガルバ ニック腐食研究と比較することで,本腐食系の特徴を明らか にすることを試みた。 2. 実 験 方 法 市販の AZX611 マグネシウム合金押出材および A6N01 アル ミニウム合金押出材(板厚3 mm,熱処理無し)を接合材料と して用いた。以下,前者をアノード,後者をカソードと表記 する。化学組成を Table 1 に示す。実験には Fig. 1 に示すよう な 2 種類の接合材 A, B を用いた。接合材 A では,試料表面を 1000 番までの SiC 紙で湿式研磨,純水で洗浄,エタノールで 脱脂した後にテフロン製試験ホルダや防食テープ等を用いて 2 試験面積を 1, 3.14, 9 cm に規定した。カソード面積(Sc)/ ア ノード面積(Sa)比を 0.11, 0.32, 1.00, 3.14, 9.00 となるよう相 手材と組み合わせ,5 mm離して相対させた。接合材Bは長さ が 20 mm 共通であり,幅を 4, 7, 10, 13, 16 mm に調整し,合計 幅が 20 mm となるように相手材と隣接させた。Sc/Sa を 0.25, 0.54, 1.00, 1.86, 4.00 とした。隣接する側面には幅 0.1 mm のシ リコン製絶縁材を挟み,背面にはそれぞれ電流取り出し用の コードを接続した。接合材を樹脂に埋め込み,試験面を 1000 番までの SiC 紙で湿式研磨した後に純水で洗浄,エタノール で脱脂した。 試験溶液は特級 NaCl 試薬を純水で溶解し,濃度を 1 mass% Table 1 Alloy composition (mass%). Mg Al Ca Zn Si Mn Cu Fe AZX611 Bal. 5.9 1.0 0.6 0.01 0.2 0.002 0.004 A6N01 0.4 Bal. - 0.02 0.6 0.1 0.2 Cr Ni - 0.003 0.2 0.02 Fig. 1 - に調整した。特級 Mg(OH)2 試薬を用いて pH をおよそ 10 に 1 調整した。溶液の導電率(ρ)は 1.76 S m であった。試験溶 液量を 400 ml(接合材 A 評価用セル)もしくは 800 ml(接合 材 B 評価用セル)とした。 接合材Aのガルバニック電流(Igal)を無抵抗電流計(ZRA) により電気的に短絡された状態で測定した。またその混成電 位であるガルバニック電位(Egal)をエレクトロメータ(いず れも Princeton Applied Research VersaSTAT3 内蔵)により測定 した。Egal の測定では接合材間隙に銀 / 塩化銀(Ag/AgCl)参 照電極を封入したキャピラリを挿入した。試験時間を 24 h と した。計測された Igal から時間平均値(Igal.ave)を算出した。 試験終了後に JIS Z 2371(2015)に基づいて各合金の腐食生 成物を除去した。接合材 A においては,重量減少量より Faraday の法則に基づくアノードおよびカソードの平均腐食 速度(icorr.a, icorr.c)を算出した。AZX611 合金中の Mg は 2 価, A6N01 合金中の Al は 3 価で溶解すると仮定した。ガルバニッ ク腐食挙動を模擬するために,電気化学測定装置を用いてア ノードまたはカソード単体をガルバニック電位付近の電位 (Ep)に保持した場合の電流応答(ip)を測定した。 SVET は 市 販 シ ス テ ム (Princeton Applied Research VersaSCAN)を用いた。接合材Bを試験溶液液面5 mm下に水 平に設置した。先端部 20 μ m を残して絶縁被覆した白金電極 を接合材Bの上部100 μmに配置し,振幅40 μmでSc+S(=400 a mm )の領域を0.5×0.5 mmステップで走査した。測定および 11) キャリブレーションの詳細は前報 を参照されたい。測定は 試験開始3 h後から24 h後まで,3 hごとに実施した。1回の測 定に要する時間は約 75 min であった。測試験終了後に腐食生 成物を除去した後の表面形状を3次元プロファイラ(Keyence VR-5200)で計測した。 すべての測定は室温(24±2°C),大気開放下で行った。溶 液の撹拌等は行っていない。計測は 2 回以上実施し,挙動の 再現性を確認した。以降,電流値を表記する際にはアノード 電流を正,カソード電流を負とした。 2 Schematic diagram of experimental setup. 軽金属 84 3. 結 果 3. 1 ガルバニック電位・電流および腐食速度 接合材Aにおけるガルバニック電位Egal の時間変化をFig. 2 に示す。浸漬初期において,Egal は Sc/Sa が大きいほど貴な値 を示した。しかしながら時間の経過とともにその関係は不明 瞭になり,24 h 後にはいずれも−1.43〜−1.47 V の値で安定 し,面積比との相関は弱くなった。Fig. 3にはガルバニック電 流をアノード面積で除した電流密度 Igal/Sa を示す。Sc/Sa=0.11 にて最も小さく,Sc/Sa の増大とともに増加した。いずれも試 験開始 1−2 h 以内に極大値を示した後に減少する挙動を示し た。Sc/Sa が高いほど短時間で極大値を示し,速やかに減少し た。 Fig. 4 に ア ノ ー ド と カ ソ ー ド の 重 量 減 少 腐 食 速 度 icorr.a, icorr.c,およびガルバニック電流時間平均値をアノード面積 Sa で除した Igal.ave/Sa の面積比依存性をプロットした。Sc/Sa の変 化に伴い icorr.a および icorr.c は単調に変化しており,面積比は カソード,アノードいずれの腐食速度にも影響を及ぼしてい る。いずれのパラメタも面積比の対数との間に直線関係を示 2 しており,相関係数 R は 0.95 以上であった。なお,図中には 示していないが,ガルバニック電流をカソード面積で除した Igal.ave/Sc は勾配が負の直線関係を示した。 3. 2 定電位保持試験 Fig. 2 に示すように 24 h 後のガルバニック電位 Egal は−1.43 〜−1.47 V の範囲にほぼ収まっている。そこで電気化学測定 装置を用いてアノード(AZX611)またはカソード(A6N01) を単独で定電位 Ep=−1.43, −1.45, −1.47 V で保持した際の 電流応答ip を測定した。結果をFig. 5に示す。アノードにおい て ip は 1 h 以内に極大値を示した後に減少しており,Fig. 3 の ガルバニック電流と同様な軌跡を示した。10 h 後の電流値は Ep が高いほど大きい。Ep=−1.47 V での ip は時間とともに減 少し続け,18 h 後には負の値を示した。カソードにおいて ip は試験開始 2−5 h 後に極大値を示した。Ep が高いほど ip は 小さい。但し Ep=−1.47 V →−1.45 V での減少幅がおよそ 2 100 μA cm であるのに比べ,Ep=−1.45 V→−1.43 Vでは300 2 μA cm 程度に達していた。Ep=−1.45 V において,アノー 2 ド・カソード共に |ip|=400〜500 μ A cm を示している。この 値は Fig. 3 の Sc/Sa=1.00 における Igal/Sa にほぼ等しい。 3. 3 SVET Sc/Sa=1.86 の SVET 電流の時間変化を Fig. 6 に示す。赤色部 がアノード域,青色部がカソード域であり,等電流密度線も 付記した。ともに接合部境界において電流密度が高くなって いる。カソードにおいて起伏がゆるやかなのに比べ,アノー 2 ドでは局部的に 2000 μ A cm に達する領域が発生している。 またその位置は時間とともに変化している。試験中の表面を 観察したところ,カソードでは表面全体から水素が発生して いるのに対し,アノードでは糸状腐食が観察され,腐食端か 15) ら優先的に水素が発生していた。Wangら は2.5 mM NaCl溶 液中における Mg-Zn 合金の糸状腐食を SVET で評価し,腐食 端がアノードとなっていることを報告している。24 h 後に は,アノード,カソード共に白色もしくは逆の色を示す領域 Current density, icorr.a , icorr.c , Igal.ave /Sa (μA cm-2) Fig. 2 Time evolution of the galvanic potential of AZX611/ A6N01 joint A with different area ratio in 1 mass% NaCl. Fig. 3 Time evolution of the galvanic current to AZX611 at AZX611/A6N01 joint A with different area ratio in 1 mass% NaCl. 71(2021.2) 1800 icorr.a icorr.c Igal.ave/Sa 1500 1200 900 600 300 0 0.1 1 10 Area ratio, Sc /Sa Fig. 4 Effect of area ratio of AZX611/A6N01 joint A on the corrosion rates of AZX611 and A6N01, and the average galvanic current density to AZX611 in 1 mass% NaCl solution. 85 J. JILM 71(2021.2) Fig. 5 Evolution of current response with time of AZX611 and A6N01 for 24 h potentiostatic polarization at different potentials in 1 mass% NaCl; (a) AZX611, (b) A6N01. が発生しており,ガルバニック腐食に関与する領域が変化し ていることを示唆する。 Fig. 7 に Sc/Sa を 0.25, 1.00, 4.00 に変えた接合材 B の 24 h 後の SVET電流分布を示す。Sc/Sa=0.25でのアノード電流は境界部 付近に集中し,その外側には白色あるいは薄青色の電流がほ とんど検出されない領域が占めている。但し電流密度が2000 2 μ A cm を示す局部領域は依然存在している。カソードの占 める割合が大きい Sc/Sa=4.00 ではアノード全域が赤色を呈し 2 ているが,電流密度が 3000 μ A cm を超える領域は認められ なかった。 3. 4 表面プロファイル 試験終了後の接合体 B の Sc/Sa=0.25, 1.00, 4.00 における表 面プロファイルを Fig. 8 に示す。色調は深さに対応しており, スケールの最小値は接合材の最大侵食深さに相当する。侵食 深さの分布は Fig. 7 の SVET 測定の結果とよく対応している。 Sc/Sa=0.25 においてはカソード / アノード境界部からやや離 れた領域でも局部腐食域が認められる。接合面と垂直に 2 mm 間隔での断面プロファイルを 10 本求め,その平均値を Fig. 9に示した。Sc/Sa=1.00で最も大きなアノード侵食深さが 得られている。Sc/Sa=4.00 の接合材は,その高い面積比に関 わらず Sc/Sa=1.00 より小さい。カソードにおける起伏の差は 0.03〜0.07 mm 程度であり,腐食が比較的均一に進行してい た。 4. 考 察 4. 1 混成電位理論に基づくガルバニック腐食の解析 面積比 Sc/Sa=1 における Egal および Igal の値は,実験的に求 まる AZX611 のアノード電位分極曲線と A6N01 のカソード動 11) 12) 電位分極曲線の交点付近に位置する 。Mansfeld は,腐食 電気化学の基礎理論である混成電位理論に基いて,ガルバ ニック腐食に及ぼす面積比の影響を 3 つのケースに分類して いる。 [Case 1]はアノード上ではアノード反応のみ,カソー ド上ではカソード反応のみを生じ,共にTafel挙動を示す状態 を扱う。 [Case 2]はアノードがその腐食電位よりわずかに分 極している状態を扱う。この場合,アノード上のカソード反 応が無視できず,Igal/Sa≠icorr.a となる。1 mass% NaCl 溶液中の 11) AZX611 の腐食電位はおよそ−1.52 V であり ,Fig. 2 に示す Egal との差が 0.07 V 程度であることから,[Case 2]の条件に 合致する。Mansfeld論文に従うと,ガルバニック電流Igal/Sa や アノード腐食速度 icorr.a は面積比 Sa/Sc との間に以下の関係が成 立する: log Igal/Sa=logicorr.a−log(1+ioc.a・Sa/ioc.c・Sc) (1) または icorr.a/(Igal/Sa)=1+(ioc.a/ioc.c)×(Sa/Sc) (2) ここで ioc.a,ioc.c はアノード,カソード上でのカソード反応の 交換電流密度に相当する。 Fig. 4 の結果を吟味してみよう。(1)式より,Igal/Sa は面積 比を含む項(1+Sa/Sc)の対数の関数であるが,icorr.a にも依存 する。また混成電位理論に従うと icorr.a および icorr.c は各々の標 準電極電位とガルバニック電位との差およびターフェル勾配 12) の関数として与えられる 。Fig. 2に示すように初期のEgal は Sa/Sc に依存するが,時間とともに変化している。さらに,Fig. 4 の各電流密度パラメタは試験時間 24 h での時間積分値であ る。以上のように Sa/Sc は Igal.ave/Sa および icorr.a に複雑に関与す るが,結果として Fig. 4 のような線形関係が Igal.ave/Sa および icorr.a のみならず,カソード腐食の結果として現れる icorr.c(お よび Igal.ave/Sc)についても成立するのは興味深い。 Fig. 4中のIgal.ave/Sa およびicorr.a の結果を(2)式に代入すると Fig. 10に示す結果が得られた。図の直線の勾配よりioc.a/ioc.c は 16) 3 約 0.24 と求められる。世利ら は 0.1 mol dm NaCl 溶液中の 2 A1050 合金の水の還元反応に伴う ioc を 3−4 μA cm と報告し 17) 3 ている。Frankel ら は 99.99%Mg の 0.1 mol dm NaCl 溶液中 2 でのioc を4 μA cm と報告している。これらの数値を代入する と ioc.a/ioc.c=1〜1.3 と計算される。ioc が合金中の成分によって 指数的に変化することを考慮すれば,(2)式より得られる 0.24 という値と良い整合性がみられると言ってよい。マグネ シウム以外で[Case2]に相当するガルバニック腐食を報告し 18) た例は少ないようである 。著者の知る限り,Fig. 10は[Case 2]のガルバニック腐食系で(2)式が成立することを実証し た最初の例と推察される。 ちなみに Mansfeld は ʻcatchment area principleʼ と呼ばれる [Case 3]を詳しく取り上げている。この場合, O (3) icorr.a=iL (1+Sc/Sa) O 12), 19) (3) が成立する 。iL は溶存酸素の限界拡散電流である。 2 2 86 軽金属 71(2021.2) Fig. 6 SVET current map of AZX611/A6N01 joint B with area ratio of 1.86 in 1 mass% NaCl after; (a) 6 h, (b) 12 h, and (c) 24 h. Electrodes are separated by an insulator located at X=13 mm. Blue and red colors denote the positive and negative current, respectively. Fig. 7 SVET current map of AZX611/A6N01 joint B in 1.0 mass% NaCl after 24 h with area ratio of; (a) 0.25, (b) 1.00, and (c) 4.00. Electrodes are separated by an insulator located at X=4, 10, 16 mm, respectively. Blue and red colors denote the positive and negative current, respectively. Fig. 8 Surface profile of AZX611/A6N01 joint B in 1.0 mass% NaCl after 24 h with area ratio of; (a) 0.25, (b) 1.00, and (c) 4.00. Arrows indicate the position of an insulator. 式に従うと,Sc/Sa=1 から Sc/Sa=9 に増加すると icorr.a は 5 倍に 19) 21) 増加する。 (3)式に従う多くの報告例 ,ただしいずれも Mg 以外の金属,が存在する。本腐食系の場合,Fig. 4 におけ -2 る同様の面積比の増大は icorr.a=720 → 1314 μA cm と 2 倍程度 に留まる。これより, [Case 3]のガルバニック腐食系と比較 して,[Case 2]のアルミニウム合金 / マグネシウム合金にお ける面積比の影響は穏やかであることがわかる。一方(3)式 では Sc/Sa ≪ 1 であれば icorr.a に及ぼす面積比の影響はほとんど 現れない。本腐食系の場合,Sc/Sa=1.00 から Sc/Sa=0.11 に変 わると icorr.a は約 1/4 に減少するが,icorr.c は約 2 倍になり,カ ソードが集中的に腐食することに留意する必要がある。 4. 2 Mg 合金 /Al 合金ガルバニック腐食の特徴 一般にガルバニック腐食における面積比の影響はガルバ ニック電流・電位の変化となって現れる。本腐食系の場合, Egal は浸漬初期にその傾向が認められるが,24 h 後には面積 比にあまり依存せず−1.43〜−1.47 V の範囲内に収まってい 87 J. JILM 71(2021.2) カソードでは保持電位 Ep=−1.45 V →−1.43 V の電位変化 -2 が |ip|=315 → 45 μ A cm と大きな電流値の低下をもたらした。 これらの数値から得られる勾配は−24 mV/decade であり, 11) A6N01 のカソード Tafel 勾配(bc)−110 mV/decade と大きく 6) 異なる。Ogle ら はアルミニウムのカソード腐食が発生する ためには過剰の水酸化物イオン(OH )が必要であること,そ のために Ep=−1.4 V vs. Ag/AgCl 以下の電位が必要なことを 指摘している。このことはAl合金のカソード腐食における何 からの閾値電位の存在を示唆する。Sc/Sa の増大は Egal を引き 上げるが,当該電位に近づくことにつながり,カソード溶解 が抑制される。この点, [Case 3]が示すガルバニック挙動と は大きく異なる。カソード反応が溶存酸素の限界拡散電流を 示す状況では,Egal が多少変動しても,カソード反応速度 O2 (iL )は一定である。 Fig. 9 Average depth profiles of AZX611/A6N01 joint B in 1 mass% NaCl after 24 h with different area ratio. Arrow indicates the position of an insulator. Fig. 9 の Sc/Sa=1 においてアノードの平均侵食深さが最大と なっている。本報には示していないが,接合材 B でのガルバ ニック電流 Igal も測定しており,同様に Sc/Sa=1 において最大 値を示した。Sc/Sa>1 であると Egal が上昇し,上記のカソード 溶解が抑制される方向に働く。また,アノードの非分極性ゆ えに Sc/Sa<1 となっても Egal はあまり変化せず,電位の引き下 げによるカソード腐食の加速は小さい。加えて初期のカソー ドサイトの発生によって,Egal が腐食電位付近まで下がるこ とはない。以上のように面積比がアノード,カソードの腐食 挙動に影響を与える様子を定性的に理解できるが,最大値が Sc/Sa=1にて現れる理由は不明である。この現象は,Mansfeld の分類[Case 1]において,接合材 B の配置(Sa+Sc が一定) およびアノードおよびカソードの Tafel 勾配が共に等しい(ba Fig. 10 Relation between the surface area ratio and the weight loss corrosion rate of AZX611 divided by galvanic current to AZX611. る。Fig. 5に示すように,この電位幅にてアノード,カソード 電流が大きく変化した。アノードの大きな電位依存性はマグ 10) ネシウムが非分極性の金属 (Tafel 勾配 ba が極めて小さい) であることから了解される。ただし Fig. 5(a)の Ep=−1.47 V において 10 h 後に ip が負の値を示すのは,腐食電位が−1.52 V であることを考えると奇妙である。Fig. 3 に示すようなア ノード電流が浸漬初期に最大値を示す現象や,Fig. 5(a)のよ うにアノード定電位分極した際に時間とともに極性が反転す 8), 9) る現象は他のMg腐食研究でも報告されている 。これらの 現象はカソードサイトの増加と解釈されている。一因として マグネシウム合金中の Fe 系不純物が表面に露出・溶解した 後に,還元されてマグネシウム表面上に析出し,あらたなカ ソードサイトとして作用すると考えられている。また最大値 の大きさは電位のみならず溶液中の陽・陰イオンの種類に よっても異なり,形成される Mg(OH) 2 皮膜の安定性にも左 9) 右されるようである 。 =|bc|)の時のみに生じる。本腐食系は[Case 1]に該当せず, ba と |bc| は大きく異なる。今後の課題としたい。 Mg 合金と Al 合金とのガルバニック腐食が,炭素鋼との間 で見られるような激しい腐食を引き起こさないのは,両者の 腐食電位が比較的近いことに加え,上述の ioc,a/ioc.c〜1 と,カ ソード特性にあまり差がないためとも解釈できる。Mg 合金 にとってAl合金がcompatibleな材料たる所以の1つであろう。 但し,ガルバニック腐食を構成するカソード反応が水素発生 反応であることに変わりはなく,塩化物濃度や温度によって 大きく加速される可能性に常に注意する必要がある。 5. 結 言 (1)1 mass% NaCl 溶液中に浸漬した AZX611 合金アノード /A6N01 合金カソード接合材のガルバニック電流は浸漬 1〜2 h 以内に最大値を示し,その後は時間とともに減衰した。ア ノードガルバニック電流密度はカソード / アノード面積比と ともに増大した。ガルバニック電位は浸漬初期に面積比に応 じた序列を示すが,時間経過後にはその順序が入れ替わり, 24 h には−1.43〜−1.47 V の範囲に落ち着いた。 (2)アノード,カソードの重量減少腐食速度およびアノー ドガルバニック電流密度の平均値は,面積比の対数との間に 線形な関係を示した。 (3)アノードおよびカソードの電位を 24 h 後のガルバニッ ク電位付近に保持して電流の時間変化を測定したところ,い ずれも大きな電位依存性を示した。 (4)SVET 電流はアノード / カソード境界部で最大値を示 し,境界部から離れるに従い減衰する分布を描いた。カソー 軽金属 88 ド / アノード面積比が大きいほど高電流を示すアノード領域 が増加するが,最大電流密度はあまり変化しなかった。カ ソードでは面積比が小さくなるほど電流密度最大値が増加し た。 (5)試験後のアノード・カソードの表面プロファイルは, SVET の結果とよく一致した。面積比が 1.00 の場合に最も大 きなアノード侵食深さプロファイルが得られた。 (6)面積比のガルバニック電流および腐食速度への影響は Mansfeld の混成電位理論による分類[Case 2]に基づく予測 と一致した。 参 考 文 献 1) 中津川勲:マグネシウム合金の最先端技術と応用展開,編集 河村能人,千野靖正,シーエムシー出版,(2020),169-174. 2) ASTM G82-98, ASTM International, (2014). 3) D. 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